違法研究施設の一件から二日が経過。結論から言うと、クイントは一命を取り留めた。しかし、まだ意識を取り戻さない。医者の話では少なくとも一週間以上は昏睡状態が続くらしい。当然だ。俺があと少しでも遅れていればクイントは間違い無く死んでいたのだから。助けた俺ですら、あの時クイントが生き残るかどうか不安で仕方が無かった。峠はもう既に越えたので、体力が回復すれば自然と眼を覚ますと言う。深い安堵の溜息を吐く俺に対して、ゲンヤが涙を堪えながら礼の言葉と共に頭を下げてきたが――(……畜生)俺の心は全くと言っていい程晴れなかった。むしろ濁った曇り空のように沈んでいた。ゼスト隊が全滅したこと。クイントに頼まれたのに救えなかったゼストとメガーヌ、何故かその二人の遺体だけ見当たらないこと。最後に、あのいけ好かねぇジェイル・スカリエッティとかいうクソ野郎を取り逃がしたことが、俺を汚泥に漬けるような気分にしていたからだ。「ねぇギン姉、お母さん、いつになったら起きるの?」「お母さんはお仕事で疲れてるだけだから、元気になったらすぐに眼を覚ますわよ」「へ~、じゃあすぐに元気になってね、お母さん!!」スバルとギンガの二人が未だ眼を覚まさないクイントのベッドに噛り付くようにして、今か今かと眼が覚ますのを待ちわびている。まだまだ幼く純粋な子どものスバルは、クイントの現状が本当はどういうものか分かっていないのか、相変わらず無邪気だ。何故なら母親が死ぬ一歩手前だった事実を知らないのだ。対してギンガは少し表情が硬い。スバルと違い、ゲンヤから話を聞いている。姉という立ち位置の所為でスバルより精神的に大人であるのか、時折医者ではなく俺に対して「お母さん……大丈夫ですよね?」と瞳に不安を滲ませて聞いてくる時がある。俺はその度にギンガの頭を撫でながら「大丈夫だ、すぐに眼を覚ます」と俺自身の不安を拭うように、祈るように返した。何時になるのか不明だが、クイントは待っていれば眼を覚ます。だというのに、俺はベルカ自治領から離れようとしなかった。カリムとシャッハに事情を説明した上で、かなり無理を聞いてもらってナカジマ一家と共に泊り込んでいる。ギアになって以来、俺は親しい人間の死を目の当たりにしたことがない。親しい人間など居なかった。作ろうともしなかった。他者を避け、遠ざけて、一定以上の距離を近付かせず、壁を作り、踏み込ませず、訴える心を無視し、感情を押し殺し、精神を磨耗させ、ただひたすら己を戦う為の道具として――兵器として――扱ってきた俺にとってそんなものは不要。いや、邪魔な存在に過ぎない。――本音を言えば、またあの時のように全てを失うのが怖かっただけだが。だからこそ当時の俺は常に独りだった。独りで居ることを自らに課した。守るものも、失うものも、それどころか捨てるものさえ無かった昔の俺は、復讐と贖罪に全てを捧げることが出来たのだ。だが、今の俺はどうしようもなく怖い。大切なものを失うことが。昔の自分に戻ることが。また独りになってしまうことが。殺すのは簡単になのに、どうして守るのはこんなにも難しいのだろう?永遠に出ることのない答えを求めつつ、俺は友が一分一秒でも早く目覚めることを願った。胸に燻り続ける憎悪の炎を抱きながら。背徳の炎と魔法少女 空白期5 Keep Yourself Aliveソルが帰ってこない。彼がたまにフラッと居なくなって無断外泊をするのは何時ものことだが、今回は勝手が違った。ベルカ自治領へ向かったのは知っている。仕事があったからだ。予定では一泊二日で終わる筈だったのだが、何故か一日延び、次の日にはカリムとシャッハから事情説明込みで「ソル様はある事情により当分はお戻りになられないと思われます」と高町家に連絡が入った。その”ある事情”とやらを聞くと、クイント・ナカジマという名の管理局員が任務中で死ぬ程の大怪我をし、それを助けたソルが今も付きっ切りで彼女の傍に居ると言う。クイント・ナカジマという人物についてはある程度聞いている。数年前にミッドチルダでソルに出来た友人だ。非常に珍しいことに管理局員でありながら、ソルが損得勘定や仕事を抜きにして付き合っている呑み仲間。彼女が女性陣から若干嫉妬の対象になっていたりするのは余談。更に詳しく話を聞き、高町家の全員は揃って顔を顰めた。戦闘機人や生命操作技術といった違法研究。その施設で起きた戦闘機人と管理局の一部隊との戦闘、そして壊滅。その中でたった一人生き残った友人の重傷。どれもこれもソルが帰ってこない理由としては余りある程のものが満載だった。まず違法研究で生体兵器を、戦闘機人を作っていたという時点でもうダメだ。この時点で逆鱗に触れるどころかいきなり引っこ抜いてしまっている。ソルは”生体兵器”というものの存在自体を『人間の穢れた欲望の産物』と考えているのだから。次に、それを実際に兵器として運用したことで部隊が壊滅してしまったこと。聖戦でギアが戦争兵器として悪用されたことと重なってしまうので、確実にこれもアウト。しかし、何よりも一番ヤバイのはソルの友人を傷付けたこと。ガソリンの海に燃え盛る火炎瓶を投げ込むような行為に近い。あっという間に激しく燃え広がって周囲を巻き込んで爆発するに違いない。すぐに支度をすると全員がベルカ自治領へと跳んだ。ソルは元科学者の癖して碌に後先も考えず感情に任せて突っ走り、一人で悩みを抱え込んで苦しむという悪癖持ちだ。放って置ける訳が無い。アインが言うには、ソルが百年以上も”あの男”を追い続けることが出来た最大の理由は復讐という目的が存在していたからだ。勿論、強靭な精神力と自我を持っていたのもあるが、それだけで人間の精神は百五十年以上もの孤独には耐えられない。自分には必ず果たさなければいけないことがある、という使命感が長い年月の間彼の精神を支えていたのである。ただひたすら己を一本の研ぎ澄まされた剣として鍛え上げ、代償として人間らしい感情を磨耗させ、戦う為に生きていた。だが、今のソルは復讐に生きている訳では無い。心の奥底で望んでいながら、自分には決して手に入れることは出来ないと決め付けていた平穏を手に入れ、それに満足している状態だ。そんな状態の彼が、突然過去の古傷を抉られたらどうなる?力量ならば誰にも負けない強大な力の持ち主だが、実は今のソルは精神的にかなり不安定なのだ。十年程度の短い時間では、それの十数倍の時間を血塗れになって生きてきたソルの心を完全に癒し切れていない。ソル本人はそんなこと毛程も気にしていない、というよりは自覚すらしていないが、実際に闇の書事件の時にシャマルが目撃している。まるで折れる寸前まで酷使され続けた鋭い刃のようなソルの姿を。精神的に不安定で、強さとは紙一重の脆さや危うさが表面化してしまったのは、戦いの毎日から平穏な生活に放り込まれた所為ではあるのだが。確かにソルは昔に比べれば遥かに弱くなったかもしれない。憎しみを滾らせ、他者を信じることが出来ないが故に己の力だけを信じ、絶望に打ちひしがれながらも復讐を遂げる為に前に進むことを止めなかった当時の強さを持っていない。だが、それ自体は悪いことではない。むしろ歓迎するべきことだ。復讐鬼としての、贖罪者としての強さなど彼にはもう必要無いのだから。とにかく、今のソルは非常に危険な状態だ。何時、何かの拍子に爆発してもおかしくない。誰かがソルの傍に居なくてはダメだ。放っておけば彼は憎悪に身を焦がしながら自ら定めた敵に牙を剥く。敵がどうなろうと知ったことではない。問題は、ソルが憎しみを燃料にして戦うこと。もしそうなれば、破壊衝動と闘争本能に身を任せて偽のジャスティスと戦っていた時のように、身も心も”背徳の炎”になってしまう。それだけはダメだ。絶対に見過ごせない。こんな時に彼の傍に居なくて、彼の心を守ることが出来なくて、何が家族だ。もう自分達は何時までもソルに守られているだけの存在ではない。今度は自分達が、ソルをしっかりと支えるのだ。「先輩は無神論者じゃなかったの? こんな所に居るってことは、まさかウチに入信でもするのかな?」軽口と共に乾いた足音を立ててヴェロッサが近付いてくるのを一瞥すると、椅子に腰掛けていたソルは自嘲気味に冷笑した。「本当に神ってもんが存在して人の運命を自分の都合の良いように弄くってんなら、神なんて殺してやる」「とても教会の大聖堂で言うような台詞じゃないね……ウチは古代ベルカの聖王様を信仰してるけど」「逆に、祈れば何でも願いを叶えてくれるってんなら俺は何度でも祈ってやるよ」壮絶な笑みを浮かべるソルの姿は、獲物に飢えた肉食獣にも見えるし、風が吹けばポッキリと折れてしまいそうな枯れ木にも見える。相反する強さと弱さを内包しているという矛盾。訓練で操る炎のように燃え滾る熱のような強さしか知らなかっただけに、ヴェロッサは内心で非常に戸惑う。こりゃあ相当参っているな、と。同時に、犯人は絶対に殺される、とも。そこまで詳しくないが、友人を殺されかけたらしい。冷たい印象を持つ外見に反して情に厚いこの人物がどれ程傷付き、苦しんでいるのかヴェロッサには想像も出来なかった。ただ、それだけではないということは容易に察することが出来た。何かに悩んでいる、ということだけ。それが何かは全く分からないが。他の教会騎士とは少し違う形だが、ヴェロッサ自身はソルと良好な関係を築けていると思っている。その強さは勿論、常にぶっきらぼうな態度で面倒臭そうにしているのに面倒見が意外に良い兄貴分的な部分や、訓練中に細かい気遣いが出来る点、厳しい中にも優しさがある人格は尊敬に値し、男女問わず騎士達の間でソルは絶大な人気を誇り慕われているのが現状。孤児であり同性の親族が存在しないヴェロッサにとってソルはまるで兄的な存在で、当然フレンドシップもある。ついでに、無口でワイルドな感じが異性にモテるという点。それをヴェロッサは純粋に尊敬しているので”先輩”と呼ばせてもらっている間柄だ。だからこそ一人で苦しんでいるソルを放っておけず、此処まで足を運んだという訳なのだが――「クイントさんだっけ、容態はどうなの?」「しばらくすれば意識が回復するらしい」「そう、良かったじゃない」「クイントだけはな」「……」「……」意味深な言い方に会話が途切れてしまった。泣いてる女の子だったらもっと上手く慰められるんだけどなぁ、そんなことを考えながらもヴェロッサはなんとかソルを元気付けようと努める。「そ、それにしても違法研究なんて許せないよね。命に対する冒涜だよ」「……ああ、そうだな……許さねぇ」瞬間、ソルから放たれた怒気と殺気の鋭さにヴェロッサは咄嗟に数歩距離を取ってしまう。「許さねぇ、許さねぇ……!!」ミシ、ミシミシッと彼が掴んでいる椅子の背もたれの一部が悲鳴を上げ、やがて圧力に耐えかねて砕け散った。まさか地雷踏んだ? ヴェロッサが冷や汗を垂らしてどうやって怒りを鎮めてもらおうか頭を高速回転させていると、大聖堂に向かって数人の気配が近付いてくるのを知覚する。レアスキルの副次的な要素によって鋭敏化している自身の気配察知が捉えたものは、まさにヴェロッサにとって救いの神だった。「先輩」「ああン?」「い、いや、あの、先輩の家族が来たみたいだよ」射殺すような視線を向けられへっぴり腰になりながらも、ソルにそう進言するのであった。「すまないが、しばらく此処は私達だけにしてくれ」シグナムが横目でヴェロッサを見ながら口を開くと、彼は疲れたように肩を竦めて踵を返す。最後に、皆に向かって後は頼みますと言わんばかりに小さく会釈をしてから大聖堂を後にした。ヴェロッサが居なくなり、何時もの面子だけが大聖堂に残る。静かで荘厳な雰囲気を醸し出す神聖な建築物の中は、一人の人間によってピリピリとした空気へと変わり、やがて呼吸をするのもままならない程の緊張感で満ちた。「何の用だ?」不機嫌極まりない声がソルの口から紡がれる。皆を代表してアインが一歩前に進み出ると、両手に腰を当て呆れたような口調で告げた。「何時まで経っても帰ってこないお前に業を煮やして迎えに来た」「余計なお世話だ」取り付く島も無いように吐き捨てると、ソルは興味が失せたのか皆から視線を逸らす。まるで子どものような態度を取るソルに対して、アインはやれやれと首を振る。これではツヴァイが駄々をこねた時の方がまだマシだ、と。「そんなにクイント・ナカジマのことが気に掛かるのか?」「……」ソルは無言。「先程シスターから話を聞いたが、もう命の危険は脱したらしいではないか。何故そこまでこだわり続ける?」「……」「彼女以外の人間を救うことが出来なかったのを悔やんでいるのか?」「……」「戦闘機人か?」「……」「それとも、戦闘機人を作ったという違法研究そのものが気に食わないのか?」ピクッと此処でソルが一瞬だけ反応を示した。それを見てアインは、やはりかと小さく溜息を吐く。恐らく今問い詰めた内容全てが気に掛かって仕方が無いのだろう。特に最後はソルの過去の汚点と重なっている。許し難いのは間違い無い。この男は自分で思っている以上に物事に対する自責の念が強い。それはもう、人一倍に。そもそもギア計画はソル一人によって発足したものではない。ソルに加えてアリア、そしてチーフリーダーである”あの男”、この三人を中心にして推し進められた極秘プロジェクトだ。確かに生命操作技術に手を染めていたのは事実。違法も違法、倫理的に見て「命を冒涜している」と罵られても文句は言えない。しかし、その過程で”あの男”の身勝手な行為によりソルがギアに改造されてしまい、後に聖戦が勃発してしまったのはソルの所為ではない。だというのに、あれは自分の所為だと思い込んでいる節が今でもある。それに重ねているのだ。今回の一件を、過去の自分達が犯した過ちに。クイントが死に掛けたのも、ゼスト隊が壊滅したのも、戦闘機人のことも。責任感が強いのは結構だが、一人で勝手に抱え込んで苦しむ姿を見せ付けられるこっちとしては堪ったものではない。「全くお前は……何時まで過去に縛られているつもりだ?」――人にはあれだけ偉そうに言っておいて。放って置けばこの男はクイントが眼を覚ますまで此処に厄介になり続け、眼を覚ましたら覚ましたで今度は違法研究狩りに出向くのだ。憎しみを糧に、かつての修羅道へと堕ちる姿が容易に浮かぶ。アインは大股歩きでおもむろにソルに近寄り、無言のまま座っている彼の襟首を無造作に引き寄せ強制的に立たせると、「フンッ!!」「がっ!?」いきなり頭突きをかます。流石のソルは想像してもいなかった暴挙に晒され碌に反応出来ずに居た。更に仰け反ったソルの懐へ鋭く踏み込みボディーブロー。「ぐふ」「はああああああああっ!!!」そして、無防備に身体を”く”の字に曲げたところに渾身の右ストレートが決まった。成人男性、しかもかなり筋肉質で大柄と言っても過言ではないソルの身体は面白い冗談のように易々と吹っ飛び、周囲の長椅子を巻き込んで耳を塞ぎたくなる破砕音を響かせながら祭壇に突っ込み、最後にガシャンッという致命的なまでに嫌な音を立ててようやく止まった。「あーあ、アタシら当分タダ働きだな」「仕方があるまい。管理局での無償奉仕と同じだと思えばこれくらい安いものだ」「いや、ヤバくない? あの壊れた祭壇、結構値が張りそうだよ」何処かすっきりしたような表情でニヤリと笑うヴィータにザフィーラが苦笑しながら応え、その隣でユーノが若干顔を青くしていた。「ちょっとやり過ぎのような気が……」「あの分からず屋にはこのくらいが丁度良い」「いいぞいいぞぉー!! もっとやれぇぇぇ!!」シャマルが自身の頬に手を当て心配そうな表情をする横で、シグナムが機嫌悪そうに腕を組み、アルフがシャドーボクシングしながら囃し立てる。「皆大好き肉体言語ですぅ!!」「ツヴァイ、その言い方は語弊があるから止めとき」何故か無茶苦茶楽しそうにはしゃぐツヴァイを、こめかみから一筋の汗を垂らすはやてが優しく諭す。「でもお兄ちゃんかなり頭硬いから……」「うん、ソルってなかなか自分の意見曲げないもんね」このくらいは当然だ、と言わんばかりになのはとフェイトは頷いた。それぞれが好き勝手言う中、カランッと音を立てて何かの破片が落ちると同時にソルが瓦礫から這い出てくる。「一体何のつもりだ? 喧嘩売ってんのか」突然理不尽な暴力をぶつけられ怒り心頭のソルに、アインはあからさまに鼻で笑うと挑発的に口元を歪めて言い放つ。「だとしたらどうする?」「……買ってやる、覚悟しやがれ!!」瓦礫を踏み越えて真っ直ぐにアインに向かって突っ込むと、ソルは顔面に向かって容赦無い拳を振るう。だが、突然横から伸びてきた黒い蛇のようなものによって手首を絡め取られ、拳の威力を殺されてしまった。「っ!」黒い蛇のようなものがアインの腰部分から生えている尻尾――ギアの力を解放した時に翼と共に顕現するもの――だと気付いた頃には時既に遅し。手首に絡みついた尻尾に投げられ視界が回り、大聖堂の床に背中から叩き付けられる。腹に響く破壊音。大地を揺るがす振動がビリビリと建物全体を伝わり、その威力を物語った。人類を遥かに超越した膂力を以って行使された投げは、床に大きなクレーターを生み、ソルをそこに沈めたのである。床にめり込み痛みで顔を顰めるソルを見下ろしながら、アインは悲哀が篭った声を出す。「ソル……私達は、お前が思っている程弱くない」「ああ?」訳が分からず問い返すと、彼女はソルの襟首を引っ掴んで鼻と鼻が擦れ合う程の距離まで顔を近付け、叫んだ。「何故お前は何時も一人で抱え込む!? 何故私達に頼ろうとしない!? 人には散々俺に任せろみたいなことを言っておいて……そんなに、そんなに私達はお前にとって頼りない存在か!?」アインの豹変にソルは頭がついていかず眼を白黒させる。「お前が友人を傷付けられて悔しいという気持ちは分かる、違法研究に心痛めているのも分かっている、そういうものを目の当たりにする度にお前の心が荒んでいくのもよく分かっている」何時の間にか、ソルは皆に囲まれていた。「苦しいなら苦しいと言え、愚痴りたければ愚痴ればいい、悲しいのなら泣けばいい、一人で立っているのが辛いなら誰かに支えてもらえ……苦しむのも辛い思いをするのも嫌な目に遭うのも自分一人で構わないと思うな」「……」「私達は家族だろう? お互いに足りないものを補って、様々な感情を分け合って、遠慮なんてせずに迷惑を掛け合いながら支え合って生きるのではないか?」それはかつてソルが恭也となのはに言った言葉に似ていた。「今回の一件でお前が誰よりも悔やんでいるのは痛い程分かっている。死んでしまった者達の為にも、これから先の未来の為にも犯人達を捕まえたい、そうだろう?」「……ああ」「だからと言って独りでやろうとするな、憎しみで目的を遂げようとするな……お前はもう昔のお前とは別人だ。復讐と贖罪の為に”あの男”を追っていた”背徳の炎”ではない」襟首から手が離され、アインと距離が少し離れる。「お前は私達がよく知る”ソル=バッドガイ”だ。もう独りじゃない、決して独りにはさせない、私達がずっと傍に居る……だから、誰かを憎むのはもうやめろ」―――『もう自分を責めるような生き方はしないで』脳裏に過ぎったのは最後に交わした三つの約束の一つ。俺は、無意識の内にかつての俺に戻ろうとしていたのか?約束を破ろうとしてまで?……なんて情けない。(嗚呼、そうだ)闇の書事件の時にこれでもかという程思い知ったではないか。心の底から信頼出来る、命に代えても守ってみせる大切な存在が俺には居るということに。確かな絆が存在するということに。もう俺は、独りじゃないということに。あの時気付かされたじゃないか。だからこそもう過去には囚われないと、迷うことも怯えることもせず、皆と一緒に前を向いて生きていこうと決めた筈。だというのに俺は――(これじゃあどっちが保護者か分かんねぇな)そうだ。俺はもっと周りの連中を頼ってもいいんだ。何処かで俺は必要以上に気負っていた。俺が支えなければ、俺がなんとかしなければ、ずっとそういう風に考えていたのは間違いで。言われた通り――昔俺が言った通り――家族だからこそ遠慮とかする必要なんて無いのに。巻き込みたくないから、迷惑掛けたくないから、俺のこの考え方自体がこいつらにとっては苦痛でしかないということに今まで気が付かないとは……俺の気が付かないところで、こいつらは必死に俺を支えようとしてくれていた。そんな大切なことに気が付かなかったという事実が不甲斐無くて、本当に申し訳無くて、どうしようもない程嬉しくて。(分かった、今更になってようやく分かったぜ)溢れんばかりの想いに突き動かされ、俺は立ち上がる。「悪かった……それと、ありがとう」皆を見渡すと誰もが安心したように微笑んでくれた。「これからどうするつもりだ?」「分かり切ったことを聞くんじゃねぇよ、シグナム」視線だけは騎士として鋭くさせながら問われた質問にソルは何時もの不敵な笑みを浮かべる。「フッ、そうだったな。ならば我らも微力ながらお前の力添えをしよう」「そー言うだろうと思った。ま、いいぜ、アタシもソルのこと手伝う」「勿論私もです、足手纏いには絶対になりません!!」「文句は言わせんぞ」瞳を閉じて厳か宣言するシグナムにヴィータが賛同し、シャマルが気合を込めて握り拳を作り、ザフィーラが有無を言わせぬ口調でソルに告げた。「その気持ちは嬉しいが、お前ら管理局の仕事は――」「もうしばらくすれば無償奉仕の期間を終える。それなら構わんだろう?」「それによ、管理局辞めた後にオメーの手伝いやってれば良いパフォーマンスになるだろ。アタシらは今こんなことしてますって」「……一理あるな」ヴィータの言葉にソルは顎に手を当て考え、一つ頷く。元犯罪者である以上、管理局を辞めた後は周囲に悪いことをしていないというアピールが必要だ。その点で言えば、賞金稼ぎはなかなか良いのかもしれない。「分かった。頼りにしてるぜ」ソルの言葉に四人は力強く首肯する。「ならば私はすぐに頭に血が昇ってやり過ぎるお前のストッパー役を担おう」アインがソルの肩に手を置く。「ああ、頼む」「ねーねー僕達もいいでしょ?」ユーノの言葉に振り返ると、期待を膨らませた熱い眼差しを向けてくる三人娘とツヴァイが居た。「お前らはダメ――」「差別だぁぁぁぁ!!」「お兄ちゃん!!」「ソル!!」「なんでや!?」「納得のいく理由を要求するですぅ!!!」あっという間に五人に囲まれると、服や髪をグイグイ引っ張られたり、痛くない程度にポカポカ殴られる。「どうしてだい!! アタシらじゃ不服だってのかい!!」アルフまでもが主であるフェイトを含めた者達がソルに必要とされてないと勘違いして怒鳴った。「そうじゃねぇ!! お前らまだ学生だろうが!! せめて高校卒業するまで許せる訳無ぇだろ、こんなヤクザな商売!!」「アンタだって”今は”学生じゃないか!!」「俺はいいんだ!!」「なんで!?」「一度は大学出てるんだよ!!!」現在身分が学生である四人の動きがピタッと止まり、ツヴァイはこのままでは論破されると察してとっととアインの後ろに退避し、アルフもそそくさとソルから離れた。そういえば忘れがちだが、ソルは元々優秀な科学者であり、学歴に関してならば誰にも負けない立派な過去がある。実はこういうことに関して、ソルは桃子や士郎以上に口うるさかったりするのだ。「じゃ、じゃあ、高校はちゃんと行くから、学校に通いながらお手伝いするのは、ダメ?」なのはが交渉に入り、上目遣いでソルを見上げた。「お願い、ソルのお手伝いしたいんだ」「ちゃんと両立させたるから」フェイトとはやても懇願する。それに対してソルは苦虫を噛み潰したような顔をしてどうしたもんかと悩んでいると、アインが横から口出しした。「ならば条件を付けたらどうだ?」「条件? 例えば?」「中学を卒業するまでにお前に実力を認めさせることが出来れば手伝わせてやればいい。逆に認めさせることが出来なければ高校を卒業するまで手伝わせない、といった感じだ」「妙案だな。それに付け加えて必ず高校は卒業する、学業と両立出来なくなったらすぐに止めさせる、この二つも出来るってんなら考えといてやる。どうだ? 出来そうか?」四人に問い掛けると、誰もが揃ってコクコク頷いた。「良し、ならいいぜ」ソルは満足気に口元を歪めると、クイーンに命令した。「リンディとクロノにメッセージを送れ。ゲンヤにはクイントが眼を覚ましてからで構わん」<内容はどのように?>クイーンの問い掛けに、ソルは眼を獲物を定めた猛禽類のようにギラつかせて静かに口にする。「『俺達に、お前らの仕事を手伝わせろ』だ」それは、次元世界に”背徳の炎”の再来を予告する言葉であった。後書きこの作品の全体を通して私が一番書きたかったのは、ソルの『人間臭さ』です。無印前、無印編、A`s編、そして今回の空白期。彼が苦しみ悩みながらも周りに支えてもらって一緒に歩いていく姿を描いてみたいと。ソルがどれだけ強くて不老不死であっても彼は一人の人間でしかなく、普通の人と同じように凹んだり、途中で躓いたりするのは当然。パッと見、完璧超人にしか見えないようでいて意外に子どもっぽく、我侭で強引で性格に難があり、欠点を挙げればキリがないのがソルです。でも、だからこそ彼は”人間”で、必死に足掻く姿は非常に人間らしいと思えます。ちなみにタイトルの「Keep Yourself Alive」はご存知ソルのテーマBGM。元ネタはQUEENの曲、「Keep Yourself Alive」邦題:「炎のロックンロール」から来ています。これから執筆する予定の空白期のお話『ヴォルケンズ管理局離反編』『エリオ編』『キャロ編』『三人娘進路相談=ソルVSなのは&フェイト&はやて編』『ティーダ編』(たぶん生存?)こんなもんかな? ネタが沸いたら追加します。以下、全然関係ない私事をなのはのPSPのゲーム何処にも売ってねぇぇぇぇぇぇ!!!何処行っても売り切れってどういうことだぁぁぁぁ!!!ま、買ってもゲームやる時間なんて無いがな!!畜生!!!