室内に響くのは俺がキーボードを叩く音だけ。カタカタカタカタ、独特の音が鼓膜に伝わり、同時に画面がスクロールされて打ち込んだ文字の羅列が表示される。古代ベルカの遺産、夜天の魔導書の管制デバイスをゼロから作り直す作業。まず初めに行うことは莫大なデータの入力だ。スクライアが発掘してくれた元々の情報を基礎とし、それをはやてに合わせて改めて調整し直し、現在のヴォルケンリッターの細かい分析データを加味した上で導き出された結果を基礎情報として入力していく。やること自体はそれ程難しくないが、いかんせん量が多過ぎる。そろそろ飽きてきたので他の作業に移りたいが、これから先他の作業が追加されることはあってもこの作業が無くなることは無いと思われる。今の作業がどういう内容であろうと、情報を入力するという作業がこの先無い訳じゃ無い。つまり、最初から最後まで俺はひたすらキーボードを叩き続けるのだ。まあ、昔の仕事でも似たようなことしてたから別に文句を言うつもりは皆無だが。既に管制デバイスの制作作業に入って一ヶ月。暇な時にディスプレイを前にしてキーボードを叩くのが日課になりつつある。コンコン。「ん?」不意に部屋のドアが叩かれた。俺は手の動きを止めずに画面の端に表示されている時間を確認すると、深夜午前一時過ぎ。もうこんな時間。ってことはタイムリミットか。「失礼します」返事も待たずに入ってきたのは寝巻き姿のシャマル。その手には湯気を上げるカップが二つ載ったお盆。「もう……私が止めないと本当に朝までやるつもりなんですね。何時ものことですけど」呆れたような、諦めたような、どっちとも取れる溜息をシャマルは吐き、お盆を机の上に置く。「お前が来たら止めるって決めたからな」「全く貴方は……はい! 今日はもうお終いです、続きはまた明日にしてください!!」腰に両手を当ててから少し前傾姿勢になって小さい子どもを優しく叱る保母のような口調。「あー、はいはい、分かってるって」抵抗する気など更々無い俺は言われた通りに作業の手を止め、作業内容を保存し、電源を落とした。実はこのやり取り。制作作業が始まって一週間くらいしてからほぼ毎日繰り返されている。切欠は簡単。俺が自室で毎日夜通し作業しているのがシャマルにバレて、怒られたのだ。『ソルくんは一つのことに集中するとそれだけしか見なくなっちゃいます。時間間隔すら無くなるその凄まじい集中力には素直に感心しますけど、根を詰め過ぎなんです!!』科学者って皆こうなのかしら? と呟かれた。『誰も睡眠時間を削ってまでして作れなんて言ってません。毎日コツコツ少しずつやればいいじゃないですか。せめて私が止めに入ったら作業を止めて寝てください』こうして、毎晩のようにシャマルが俺の部屋に訪れては俺を寝せる、ということが繰り返されることになったのである。カップの中身はハーブティー。コーヒーや茶だと眠れなくなるから、シャマルが気を利かせて淹れてくれるのだ。二人でカップを手にハーブティーを飲む空間は静寂で、俺にとっては一日の終わりを穏やかに告げる時間。会話は無いに等しいが、別にそんなものは必要無いと思っている。基本的に俺は無口で、必要最低限以外はあまり喋らないつもりだ。そんな俺と二人っきりで居ると、誰もがこういう感じに会話が無い状態になるのは必然。だというのに、シャマルは何が嬉しいのかニコニコしながらカップに口を付けてハーブティーを楽しんでいる。時折視線が合うと、優しく微笑むのだ。「楽しいか?」「え?」気が付けば俺は問い掛けていた。「なんか、嬉しそうだから」一瞬、何を言われたのか理解出来ずにキョトンとしていたシャマルだが、意味を理解すると極上の笑みを浮かべる。「ええ。楽しいです」「なんで?」「だって……今こうしている間は、私がソルくんを独り占めしてるみたいじゃないですか」自分で言っておいて、ヤダ私ったら、と頬を染めて小さく首を振った。どう返せばいいのか分からず俺は固まってしまい、何とも言えない沈黙が降り立つ。思い出したくもない忌まわしいバレンタインデー以来、俺の内面で著しい変化が訪れている。これまでは眉一つ動かすことなく流せたことに対して変に構えてしまう。シャマルだけじゃない。他の皆だってそうだ。それは何気無い誰かの笑顔だったり、言葉だったり、仕草だったり。原因は間違い無く”フレデリック”だった時に、俺が女性陣に抱いてしまった感情だろう。「さて。私はもう寝ますから、ソルくんもちゃんと寝てくださいね」沈黙を破り、立ち上がって俺の手からカップを奪うとお盆に載せてシャマルは部屋の外に出ようとする。「おやすみなさい」「ああ、おやすみ」最後に挨拶を交わすと、シャマルは何時もの微笑を残して退室した。俺はベッドに潜り込むと眼を瞑り、とっとと意識を手放すことにし、闇に堕ちるのを待った。誰かが夢の中に出てきて変なことにならないように。切にそう願いながら。背徳の炎と魔法少女 爆誕 リインフォース・ツヴァイ!! その二はやてのリンカーコアを一部抽出し、その抽出したリンカーコアをベースに管制人格の基となるコア部分を生み出すのだが、妙な問題にぶつかった。「どういうこった?」銀色の、はやての魔力光を放つそのリンカーコアに、何か混じっている。一粒の砂のように粒子の小さい赤い光。それが何粒も存在した。「お前の魔力だろう? 気にする必要があるのか?」「普通気にするだろうが」肩を竦めて呟くアインに俺は少し乱暴に返す。どうやら俺のギア細胞から生産された魔力が、俺と触れ合うことによってリンカーコアに取り込まれ、そのまま吸収されたり排出されたりせずに残っているらしい。魔導師がリンカーコアに蓄える魔力とギア細胞が生み出す魔力は、確かに同じ魔力ではあるが質が全く異なる。空気中の魔力素を己のリンカーコアに吸収して蓄える魔導師と違い、ギア細胞は魔力そのものを熱エネルギーと同じように無尽蔵に生み出す代物。そもそも発生の仕方が違うのだ。空気中に無秩序に存在する魔力素と比べて、ギア細胞が生産する魔力は”法力を使う”ただそれだけの為に生み出されたエネルギー。はっきり言って純度が違う。リンカーコアに俺の魔力光が残る現象。もしかして、リンカーコアに過剰に摂取した俺の魔力が何らかの要因で結晶化した?いや、リンカーコアには魔力を蓄えるという特性がある。ならば、これは何かの要因によって結晶化したのではなく、リンカーコア自らが結晶化させたと見るべきか?「おい待て、はやてがこういう状態ってことは、他の皆は……」一応調べてみて、全員ドンピシャリ。それぞれのリンカーコアの中に赤い魔力の粒子が混じっていた。どうしても気になったので数日を割いて実験や検査を行った結果、どうやら魔法を使う時にリンカーコアが活性化して粒子を融解し、魔力の足しにしているということが分かる。リンカーコアで吸収し切れない魔力が赤い粒子という形になって備蓄されていることも。更に驚くべきことに、粒子を取り込むとその数%の割合でリンカーコアが若干肥大化しているらしい。例えば、なのはの総魔力量が100とし、5の粒子を取り込み、その分の5%が総魔力量に還元されると仮定して計算すると、総魔力量が100,25になる。これは分かり易いように極端な形にしたが、概ね理解出来たと思われる。しかも、これは普通の状態で魔法を使った場合の話だ。総魔力量に一番多く還元される瞬間は魔力を回復させる時。つまり、ヘトヘトの状態で俺と触れ合っている時だ。この場合、取り込む量も増えれば還元される率も増加する。また、肉体が魔力で構成された魔導プログラム体であるヴォルケンリッター達は、人間であるなのは達とは還元率が比較にならないレベルで高い。だが、これはそこまで旨い話ではなく俺の魔力との相性問題が存在する。相性が良いと効率の良い割合で還元するのに対し、相性が悪いと魔力の回復は出来ても還元率は低いということ。この相性の良し悪しは粒子の備蓄量にも影響し、比例する。最後に、一定時間以上の供給がなされないと粒子は生成されないようだ。散々調べた結果的、特に害がある訳では無かったので胸を撫で下ろしたが、なんだか知らない方が良かったような気がするな。『それは良いことを聞いた』という顔をされてしまったから。誰に、とまでは言わない。数ヶ月の時が流れた。地下室で相変わらず俺は作業に勤しんでいると、なのはとフェイトが期待するような眼差しで近寄ってくる。どうやら構って欲しいらしい。作業を一旦止めて身体ごと振り返ると、待ってましたと言わんばかり表情を輝かせて正面を二人で陣取るように座り、手を伸ばして俺の手を握った。「にゃはは」「……ソル」この世の幸せを満喫しているかのような二人は、それぞれ俺の手を自分の頭の上に乗せたり頬に当てたりして遊んでいる。定期的に構ってやらないとこいつらは強行手段に出る。だから、時折こういう風にして好きにさせることが当たり前になっていた。闇の書事件でリンディ達と契約した時に遭ったことは嫌だからな。我ながら甘いと思うが。「何時も思うんだが、お前らって人懐っこい動物みてぇだよな」俺が冗談交じりにそう言うと、「にゃあにゃあ」「くぅんくぅん」動物の鳴き真似をし始めた。「それじゃ本当にペットじゃねぇか」「勿論お兄ちゃんが飼い主さんでしょ?」「ご、ご主人様……もっと、もっと甘えていい?」文字通り飼い主に甘えたがる甘えん坊の子猫と子犬へと変貌したなのはとフェイトがくっついてくる。そんな時、はやてが入室してきて、俺は思わず、「あ、子狸だ」口走っていた。「……そう言うソルくんはドラゴンやないか!! ていうかずっこいで二人共!!」ポンポコ、違った、プンスカ怒ったはやてが俺の背中に回り込み、頭をポカポカ叩き始める。その日、赤い竜が背中に子猫と子犬と子狸を乗せて空中散歩をしている夢を見た。数ヶ月の時が流れた。作業が一段落したので俺は立ち上がって伸びをし、凝り固まった肩の筋肉を解すように両肩を回す。「疲労を抜く為に軽く運動でもするか?」シグナムがとても”良い笑顔”をしながら木刀を二本手にして声を掛けてくる。「軽く?」「軽くだ」怪しい。甚だ疑問だ。その邪悪な笑みを引っ込めろ。絶対に滅茶苦茶汗をかくに違いない。「主はやて、アイン、ソルをしばらくの間お借りします」「「いってらっしゃい」」一緒に作業をしていた二人は、顔をこっちに向けることすらせず実にあっさりと俺を疲労困憊にする選択肢を選びやがった。「さあ道場に行くぞ。時間は有限だ」嬉々として口元を歪めるシグナムは俺の腕を取ると歩き出す。「朝、模擬戦したよな?」「何を言う? 今朝は魔法あり、そしてこれは魔法無し、同じ模擬戦でも全く別物だ」「……さっき飯食ったよな?」「それが何だ?」「……」「私にとってお前との模擬戦は当然訓練としての意味を持っているが、それ以上に趣味であり……私にとって何よりも至福の時間だ」額に手を当て、どうしてこいつはこうなんだろうと胸中で嘆く。一分も経たずに道場に辿り着くと、中央で投げ渡された木刀を構えてシグナムと対峙する。「何だかんだ言って戦闘に対しては切り替えが早いな……フフッ、これだ。これが堪らない。これだからソルとの模擬戦はやめられない」急に何か言い始めた。「お前の真紅の眼が私しか映していない、ただそれだけの事実で私の魂は燃え上がってくる」俺は武者震いしているシグナムを油断無く睨む。やがてシグナムの震えが止まり、周囲の空気が固まり、空間そのものが世界から切り離され、此処だけ時間が止まっているような錯覚を覚える程に場が緊張を孕む。口では面倒だとか言いながら、俺は俺でシグナムと模擬戦するのが自分で思っているより結構好きらしい。そうじゃなかったら付き合わない。人のこと、とやかく言えなくなっちまったな。カイにこのことを知られたらどんな小言を言われるか分かったもんじゃねぇ。絶対に『私では、不服だったのか!!』とか言われそうだ。深呼吸をするように溜息を吐いた後、俺はシグナムに向かって踏み込んだ。数ヶ月の時が流れた。「ソル。私はこの子が生まれてくるその日が待ち遠しい」赤ん坊程度なら楽々入れられることが出来る生体ポッドのようなガラスの筒、その中央に浮遊にしている蒼銀の光球体から眼を離さず、アインがポツリと呟いた。「あの時、お前の同胞になったことに後悔は無い。しかし、主のデバイスとして心残りが全く無かったと言えば嘘になる」俺は口を挟まず、黙って話を聞く。「この子は、私が望んでも叶えられなかったことを、私がしなければならなかった役目を、私以上にやってくれる筈だ」言葉には少しの羨望、それを大きく上回る期待と信頼が込められていた。「自分でも不思議な気分だ。この子は私にとって分身でもあり、娘でもある。そのような存在にかつての私の全てを託せると思うと、何故か心が安らぐ」ゆっくりと首を動かし顔だけを横に居た俺に向け、少し恥ずかしそうに頬を染める。「変だと笑わないか?」俺は首を振った。「託された子がどう思うかなんざ知らねぇが、親が子に何かを託したいと思うのは変なのか?」逆に問い返すと、アインは少し驚いたように眼を開いた後、嬉しそうに瞳を細め、そのままじっと俺の顔を注視してくる。「……」「んだよ?」若干戸惑っていると、アインは眼を閉じ、クスクスと笑い始めた。「何、気にするな。あの時、お前に全てを委ねて良かったと再認識していたところだ」数ヶ月の時が流れ、ついに完成した。名前はアインの後継機だから『ツヴァイ』、という何の捻りも無い安直な名前に決定したのは制作初期段階。ネーミングセンスで揉めるのは面倒なので名前に関して俺は完全に丸投げしたのであった。蒼銀の光球体が一際強く光り輝いた後、そこには――「……幼女?」何処からどう見ても生後三年くらいしか経ってない、紛れも無い幼女が居た。赤ん坊と言っても差支えが無いかもしれん。誰だこんな設定にしたの?外見に関して一切手を加えなかった、というか加えさせてもらえなかったので、俺じゃないことだけは確かであり、アインかはやてのどちらかが犯人だ。アイン譲りの銀髪、快晴を連想させる蒼い瞳、はやてのバリアジャケットと色違いの白を基調とした服装。幼女、ツヴァイは自分を取り囲み視線を注ぐ連中を物珍しそうに見返すと、アインにピタッと視線を固定する。そのままトテトテとアインに近付くと、彼女も応えるように中腰になり、問い掛けた。「名前を言ってご覧」「はい、母様!! 初めまして、ツヴァイはリインフォース・ツヴァイですぅ!! 今後ともよろしくですぅ!!」「ああ、初めまして。私はアイン、リインフォース・アインだ」親子の抱擁とでも呼べばいいのか、ヒューマンドラマのワンシーンのようにいきなり抱き合うアインとツヴァイ。何だこの三文芝居みたいな光景は?すっかり事態から置いてけぼりを食らった俺達は、ただひたすら馬鹿みたいに呆然としていた。やがて、ツヴァイがアインから離れるとはやてに向き直り、「挨拶が遅れてごめんなさい。マスターはやてちゃん、これからツヴァイをよろしくお願いしますですよ!!」ペコッと頭を下げる。「えっと、私は八神はやて、ツヴァイのマスターや。よろしゅうな、ツヴァイ」「はいですぅ!!」やたらとテンションが高いツヴァイに戸惑いながらもはやては挨拶を返していたので、犯人ははやてじゃない。それからツヴァイは皆に一人ずつ順番に自己紹介をし、挨拶を交わしていく。そして最後にツヴァイは俺の前に立つと、何が嬉しいのかニコニコニコニコ、向日葵みたいな笑顔でこう言いやがった。「初めまして父様!! ツヴァイを生んでくれてありがとうございます!!!」「……色々と語弊がある自己紹介だな、オイ」アインを母様って呼ぶ時点でオチは読めてたんだけど、当たって欲しくなかった予想が見事に的中してくれる。「最後に父様に挨拶したのにはちゃんとした理由があるんです。真打ちはやっぱり最後じゃないとダメかなってツヴァイはツヴァイなりに考えたんですぅ!! 母様から始まって父様で終わる、我ながら綺麗に決まったと思うんですけど、どうですか?」「とりあえずその『父様』ってのをやめろ」「だが断るですぅっ!! 父様はツヴァイにとって父様ですぅ!!」笑顔で拒否すると、「父様父様~♪」と機嫌良く口ずさみながら俺の足に纏わり付いた。いや、確かに制作者を生みの親と呼ぶのなら父親かもしれねぇけど……「オイ、そこで必死に笑いを堪えてる馬鹿女」「だ、誰のことだ?」「すっとぼけんじゃねぇ、この阿呆!!」怒鳴ってアインの襟首に手を伸ばして引き寄せる。「どういうことだコイツは!?」「可愛いだろう? 私達の娘だ」ええい、調子に乗りやがって!! 娘ってことに関しては認めてやらんでもないがな、なんか腹立つんだよその余裕綽々の顔がよぉっ!!「なんでこんな幼女なんだよ!?」「む、赤ん坊の方が良かったか?」「違うわアホ!! 見た目も中身もガキじゃ使い物にならねぇだろうが!!!」「馬鹿を言うな。お前が一から作り直し、十ヶ月もの時間を掛け、調整に調整を重ねた上で誕生したのだぞ? 性能なら申し分無い筈だ」「っ……だからってこの外見年齢は――」「安心しろ。精神年齢が上がれば、つまりツヴァイが成長すれば自ずと大人になっていく」「それ、つまり育てる手間が増えたんだろうが!!!」「父様、DVはダメですぅ!! 母様と父様が仲良しじゃないとツヴァイは、嫌、嫌ですっ!! う、うぅ、うう、うわああああああああん!!」今まで俺の足にコアラの赤ん坊のようにくっついていたツヴァイが急に大声を出して泣き始める。涙やら鼻水やら涎やら、顔から出てくる透明な液体が畳を濡らす。「泣きてぇのは俺の方だ!!」「泣くか? 私の胸で?」「元はと言えばテメェが原因だろうが……!!!」「どう゛ざま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」「泣くなツヴァイ。私と父様は仲良しだ。父様が異常な程照れ屋なだけだ。この程度のじゃれ合い、何時ものことだ」「喧しい!!」その後、本格的に暴れようとする俺を危険と判断したのかアイン以外の全員が必死になって止めに入り、この時はなんとか事態を収拾させることに成功する。一晩掛けて頭を冷やすと、俺はいつの間にか無意識に思考放棄を行ったのか、もうどうにでもなってしまえ、といった感じの心境になっていた。ツヴァイが起動してから一ヶ月が経過した。「父様父様!!」「んだよ?」「肩車して欲しいですぅ!!!」「ちっ、面倒臭ぇな」とか何とか言って肩車してやってる甘い自分を自分で殴り飛ばしてやりたい。どうやらツヴァイは高い場所が好きで、一番のお気に入りは俺の頭の上らしい。現在進行形で今も、キャー、高いですぅ!! とか言いながら興奮して俺の髪をグイグイ引っ張りやがる。馬鹿と煙は高い所が好きだと言うが……無邪気に喜ぶツヴァイの姿がかつての馬鹿息子と重なって、俺は深い溜息を吐いた。――『なあ、オヤジ! このトカゲって食えたっけ?』――『うぉぉぉぉぉ! スゲぇぇぇぇぇぇ!』――『オォォォォヤァァァァジィィィィ!!』あいつも常に喧しくて、鬱陶しかったなぁ。おまけに馬鹿でアホだったし。でも、何よりも大切な馬鹿息子だった。アインはもしかしてこれを見越してたのか?「父様」「ああン?」「父様ってツンデレなんですか? 皆がそう言ってるのです」「……振り落とすぞお前」口ではぶつぶつ文句を言いながら、俺は再び”親父”になることを許容しているのであった。オマケサーチャーでスパイしている映像を眼にして、各々が反応を示す。「ツヴァイに、ツヴァイにお兄ちゃん盗られたぁぁぁぁぁ」敗北感に打ちひしがれ、テーブルに顔を突っ伏すなのは。「良いなぁ」羨ましそうに映し出される光景に視線を注ぐフェイト。「まさかソルくんがあんなに子煩悩やとは思っとらんかった……」本当に意外だったのか、頭を抱えて悩むはやて。「ツヴァイが生まれて以来、ソルが私との模擬戦に付き合ってくれる回数がめっきり減ってしまった」はぁ、と少しつまらなそうに溜息を吐くシグナム。「夜に彼の部屋へ行く口実が無くなっちゃった」寂しそうに俯くシャマル。「すまんな。ツヴァイはまだまだ精神が幼い所為で、どうしても心の拠り所としてソルが必要なのだ」アインは肩を竦めて謝罪した後、ソルに肩車をされて無邪気に笑うツヴァイの姿を微笑ましそうに眺めている。「アインさんは良いよねー。親子三人で川の字になって寝たり、親子三人で出掛けたりしてるんだから」唇をアヒルのように尖らせながらなのはが僻み、その言葉に誰もが同意を示すと、皆は羨望と嫉妬が混じった眼でアインを睨む。しかし、そんなものに全く怯む様子を見せないアインは、不敵に笑うとこう言った。「ツヴァイがどうしてもと駄々をこねるので、仕方無くな」満更でもなさそうな態度が微妙に勝ち誇っているように見える。「それにしてもソルくん、ちゃんと父親してるわよね~」「面倒見が良いとは知っていたが、こっちの方面でも此処までとは思ってもいなかった」「ソルはああ見えても子育て経験は何度もある。いい加減もう慣れたんだろう」シャマルとシグナムが感心する横で、アインが補足するように付け加えた。「ていうか、なんで私の呼ばれ方が『はやてちゃん』でアインが『母様』なんや。納得いかんわ」ぼそっ、と紡がれたはやての言葉に、誰もが顔を見合わせてから口を揃えて自信無さ気に言う。「「「「「年齢?」」」」」「……どうせ私は子どもや……年が三桁超えとるソルくんとアインの二人と比べること自体が間違っとるんよ……」弱々しく負け惜しみを吐くその後姿には哀愁が漂っていた。実は、制作する時の役割分担でソルがデバイス面のシステム関連を全て、アインが管制人格の根幹部分とその他諸々のシステムに加えてソルのサポートを、はやては自身のリンカーコア一部提供と外見設定と後は二人の雑用、という役割分担をしたことが起因している。作業の割合を見ると、ソルが五割、アインが四割、はやてが残りの一割とサンプルを提供しただけ、ということになる。研究者気質のソルは放っておくとシャマルが止めに入るまで勝手に作業を進めるし、アインは家事と翠屋と聖王教会の仕事が無い暇な時間は全て作業に費やしていた。二人と違ってまだまだ遊びたい盛りのはやてが友人達の誘いを無碍にすると言えば、否である。誘われても一瞬で断るソルとは大違いだ。で、ツヴァイにとって”親”とは、自分を作る時にどれだけ時間と労力を注いでくれたか、ということに重きを置いてるので、自然とソルを父親に、アインを母親として見ることになる。懐き具合もそれに関係していたりするのであった。後書き実はこの作品難産だったのです。色々と。オチ読めてた人はたくさん居るんじゃないかな、と思ってます。そろそろSTSに繋がる話を少しずつ書こうかな~、そんなことを考えながら全然関係無い話のネタを思いついている作者を許して。考えてみればサーヴァントのギガントなんてミサイル搭載してるから普通に質量兵器じゃん!! 見掛けもまんま機械兵、ミッドに連れて行けないwww鬼械神はいくらなんでも反則だと思うんだ。確かにソルは強力な魔法使いで科学者だけど、専門は機械工学じゃなくて素粒子物理学と武器作りだから(関係無い)それでも簡単な蓄音機を作ってCDを聞きながら旅をしていた男ですが(石渡さん曰く、簡単な機械なら自作してしまうらしい)……マジで作ってしまいそうだが、戦争や犯罪に悪用されるのを恐れてやっぱ作らないでしょう。良かったなツヴァイ、手がギン姉みたいにドリルにならなくて!!ではまた次回!!