「管制デバイス」それは唐突にはやてが言い出したことから始まった。「ソル、なんかはやてが言ってるよ」俺と向き合ってスクライアの発掘資料を一緒に整理していたユーノが、空間ディスプレイから眼を逸らさずに呟く。「知らん」「うん……あ、そうだ、此処の資料なんだけど」「何か気になる点でもあったか? こっちに回せ」「なぁソルくんにユーノくん、そのリアクションはあんまりやないの?」ぶつぶつ文句を言いながらはやてが近寄ってくるのを視界の端に収めつつ、俺はコーヒーカップを片手にキーボードを叩いた。「管制デバイスが何だ?」「そろそろ必要やと思って」「で?」「作ってください」「……面倒臭ぇな」深い溜息を吐いてからカップに口をつけようとすると、不満気な表情をしたはやての手が伸び、俺の手を掴んでそのまま自分の口にカップを持っていって勝手に飲み始めた。「……ニガい」「ブラックだからな、って半分近く飲みやがったのか……ちっ、おいシャマル、おかわりの用意頼む」「はいはーい♪」余った分を飲み干すと、小走りで駆け寄ってきたシャマルにカップを手渡す。「まあ、頑張れ」「それはつまり、自分で作れと仰るのでしょうか?」何故敬語?「そうしてくれると非常に助かるんだが」デバイスを一から作るって時間とコストと手間が掛かる。しかもはやてが欲しがってるのはただのデバイスじゃない。古代ベルカの遺産とも言えるユニゾンデバイス。どれだけの苦労を強いられることになるのか分かったものではない。ストレージやアームドといった魔導器、武器としての特性が色濃いものならいくらでも作ってやっても構わないが、管制デバイスともなるとそうはいかない。インテリジェント? あれはAIを育てる以外だったらやってやる。「そもそも今のお前に必要か? デバイスならシュベルトクロイツで十分だろ」「あれは極端に言えばただの魔力の媒介やないかい」「馬鹿。あの杖で人を殴れば簡単に昏倒させられるぞ。現に教導の時に教会騎士を何人か気絶させてるだろ」「それもうデバイスやなくてただの鈍器やで」「十分だろ?」しれっと言う俺に対してはやては頭を抱えると、他の皆に向かって嘆く。「誰か、誰かこの人にデバイスが何たるもんか教えてあげて!! 頭良い癖してデバイスと殴打武器の区別がついてないんよ!!」失礼だな。ま、俺も悪ノリが過ぎたか。「冗談だ……面倒だと思ってるのはマジだが」「後半も冗談だったらとっても嬉しかったんやけどなぁ」疲れたような口調のはやてを仕方が無いと思いながら作業を保存して一旦止めると、ちゃぶ台から身体ごとはやてに向き直った。「管制デバイスっつっても、要はギアになる前のアインみてぇなのを作れってことだろ?」「うんうん」話を真面目に聞く態度になった俺を見て嬉しそうな顔になるはやて。「俺よりもアインに頼んだ方が良いんじゃねぇか? なあ?」自分の話題が出てきたことによって俺の背後まで近寄ってきていたアインに話を振る。今はギアとなりデバイスの機能を全て失ったアインだが、その知識と経験が消え去った訳では無い。だったら俺なんかよりもよっぽど頼りになると思う。アインは俺の隣に正座すると厳かに口を開いた。「つまり主は、新しい家族をご所望しておられるのでしょうか?」「ん~、言い換えてみればそうやね」「……分かりました」やけに真剣な口調と表情で頷くアインは俺に向き直ると、頬を若干染めながら三つ指をついて頭を下げた。「不束者ですが今晩からよろ――」下げられた頭に向かって無言で拳を振り下ろし、最後まで言わせない。「ぐふ」顔面を畳に密着させたことによってくぐもった呻き声が聞こえたが無視。そのまま後頭部に手を添えて体重を掛けながら無理やり押さえ付ける。ジタバタと暴れるアイン。「家族っつってもその方法で作る家族じゃねぇからな。お前分かっててわざとやってるだろ? ああ?」「痛い痛い痛い、跡がつく、顔に畳の跡が」「もし仮にその方法で新しい家族が出来たとして、はやてのデバイスとしての役目を果たせる訳が無ぇだろが。馬鹿も休み休み言え」「コーヒーのおかわり出来ましたよ~」シャマルが頼んでおいたコーヒーを持ってきてくれたので手を離して受け取る。解放されたアインはボサボサの髪を整えながら、顔に畳の跡をつけ瞳を潤ませて「いけず……でもそこが良い」と意味不明なことを言っていたが気にしない。「管制デバイスって一言で口にしても、その制作作業はとっても大変ですよ?」お盆を抱えたまま俺の隣にペタンと女の子座りをして、シャマルが人差し指を立てる。「それはよう分かっとる。私一人じゃソルくんに手伝ってもらなわデバイス一つ作れんのも。せやけど――」「分ぁーたよ、皆まで言うな。考えておいてやる」「ホンマ?」喜色を浮かべるはやてに俺は苦笑する。実は、はやては俺達の中で一番魔力の制御が出来ていない。あくまでそれは『俺達の中』でという見方をすればの話であり、一般の魔導師から見たらそれなりに出来る方だろう。訓練も散々やってるし。魔法触れたのが順番的に一番最後だったってのもあるが、持ち前の魔力の高さ故にどうしても制御が甘くなるのだ。そんなことを言えばなのはとフェイトも制御が甘い部分をデバイスで誤魔化している感があるのは否めない。子ども達の中で群を抜いて魔力の制御が出来ているのはユーノ。デバイス無しで緻密な構成を編み、魔力の無駄なく、そつなく、魔法を行使するという点で言えばこいつは天才だ。魔力量は一番低いし攻撃魔法とデバイスの適正は無いに等しいがな。どいつもこいつも一長一短がある訳だ。で、普段から俺は皆に『足りないもんがあるなら何かで補え、もしくは他から持ってこい』という教えをしているので、はやてが自分の魔力制御に不満があって努力したり、デバイスに制御の補助をさせる、という考えを持つことに否定するつもりは更々無い。「闇の書事件の時に調べたデータもあるし、元管制人格のアインも居るし、何とかなんだろ……完成するのは何時になるか分からんが」最低でも数ヶ月以上は軽く掛かるので、あまり期待しないで欲しい。下手すると年単位の時間が必要かもしれん。「ま、気長に待ってろ……来年か再来年辺りになれば出来上がるかもな」かなり無責任なことを言うと、俺はシャマルが淹れてくれたコーヒーを啜った。「お風呂上がったよー!!」そんな時、地下室のドアが開いて寝巻き姿でタオル片手にヴィータが飛び込んでくる。「ヴィータちゃん、髪はしっかり乾かさなきゃダメでしょ」母親のように小言を垂れるシャマル。「へへーん、こんなの時間が経てば勝手に乾くからいいって」ヴィータに続いてなのは、フェイト、シグナムが入ってきた。どうやら女性陣の風呂の前半が終わったらしい。「おし、この話はまた今度だ。お前らも風呂入ってとっとと寝ろ」手を叩いて促すと、はやてとシャマルとアインが立ち上がり部屋を出て行く。「出来る限りのことはするさかい、よろしく頼むわ」去り際にはやてが両手を合わせてにっこり笑った。「お兄ちゃん、何の話?」入れ替わるようにしてなのはとフェイトとシグナムが近寄り、畳に座る。「管制デバイスがそろそろ欲しいんだとよ」「ほう、主が?」ヴィータがアイス食いながらテレビに噛り付いている光景を見つつ、俺はシグナムに頷いた。「ソルが作るの?」「俺だけじゃねぇが、そうなるだろうな。一応、アインとはやてには手伝わせるつもりだ」金糸のような長い髪に櫛を通しながら聞いてくるフェイトに肩を竦めて見せる。「お兄ちゃんには悪いんだけど、私、今一瞬でごっついロボットみたいなデバイス想像しちゃった」「ロボット?」クスクス笑うなのはの言葉を復唱しながら、何故かサーヴァントのギガントを思い出す。ちょっと想像してみる。二階建ての一軒家に匹敵する巨体を誇る機械兵の上に仁王立ちするはやて。『やったれギガント!! 究極光学兵器”エスティメント・ワン”や!!!』<Yes,Boss>砲口から放たれた閃光が街を焦土に変える。そこまで想像して、なんか非常に不安になってくる。「……やっぱやめとくか?」「どんなデバイスを作ろうとしてたのさ、キミは」真剣に悩む俺に対して、今まで黙って成り行きを見守っていたユーノが半眼で見つめてくるのであった。背徳の炎と魔法少女 爆誕 リインフォース・ツヴァイ!! その一後日。はやて専用の管制デバイス、もとい管制人格を制作することが本格的に決定し『新しい家族計画』という嫌な響きがある名前の計画を発足することになる。そして現在はその会議の真っ最中。「「可愛くない!!」」口を揃えて文句を言うアインとはやてに対してやっぱりなと思いつつ、二人の手からテーブルの上に放り捨てられたスケッチを見下ろす。折角俺が直々に外見デザインをイラストレートしてやったのに。「上手く描けたと思うんだが」「いや、この絵確かに滅茶苦茶うめーしカッコいーけどよ、もうデバイスじゃねーだろ。何だよ全長八メートル超えって。何処の特撮戦隊の最終兵器だよ。完全に合体ロボじゃねーか」俺が記憶を頼りに必死になって描いたサーヴァント、ギガントの絵を眺めながらヴィータが突っ込んできた。「融合型デバイスだけに合体ロボか……上手いなお前。ギガントも合体ロボみてぇに変形するんだぜ。しかも四形態まで」「融合って言うより最早これはパ○ルダーオン!! って感じだけどね」ヴィータの言葉に感心する俺に対して、ユーノが呆れながら乾いた笑い声を上げる。「ちっ、仕方無ぇ。他のはどうだ?」ギガント以外にもちゃんと描いておいた俺のサーヴァント達のラフ画を皆に見せた。しかし、俺の力作を見て誰もが微妙な顔をして首を横に振る。揃いも揃って『何がしたいんだこいつは?』って視線を向けられてしまう。「一緒に戦場を駆け抜けた仲間なんだから思い入れがあるのは分かるんだけど……」と困った顔のユーノ。「……流石にこれは」「無いよ、お兄ちゃん」フェイトとなのはが遠い眼になる。「はっきり言って酷い」アルフなんてすっかり呆れてる。「アタシ個人としてはかなりそそるもんがあるんだけどよ、なんか違うだろ」くっ……ヴィータならこの良さを分かってくれると思ったんだが。惜しかった。「ソルはこういうのが好きなのか?」「本当に意外だけど、ソルくんがプラモデルとか作ってたら似合うかも」純粋に疑問に思っているらしいシグナムと、微笑ましそうに笑みを浮かべるシャマル。「馬鹿と天才は紙一重と言うが……」何やらとても失礼なことを口走っているザフィーラ。「貴様……ふざけているのか?」今にもぶちギレそうなアイン。「そう怒るな。半分冗談のつもりだ」「もう半分は?」「昔を思い出して懐かしくなった。それだけ」「……」しれっと吐いた俺の言葉にアインは頭を抱えて絶句した。「……こんなんと、こんなんとユニゾン出来てたまるかい!!! ソルくんは私をゾ○ドにしたいんかっ!!!」そして、ブルブルと全身を小刻みに震わせていたはやてがついに我慢し切れなくなったのかキレた。こめかみに青筋を立て、ウガァァァァァッと咆哮するとシュベルトクロイツを顕現し渾身の力を込めてぶん殴ってきた。「クイーン」<フォルトレス>己のデバイスに命令を送り緑のバリアで怒りの一撃を難無く防ぐ。激しい衝突音と同時に、魔力と魔力の鬩ぎ合いにより火花のような光が飛び散り視界が一瞬明滅する。はやてはあからさまに「ちっ」と舌打ちして座り直す。「……こいつら結構強ぇのになぁ」コーヒーを啜りながらぼやく。「昔のアンタの使い魔達なんだから言われなくても強いのは分かるよ。でも問題はそこじゃない。とりあえずロボから離れな」『ダメだこいつ、早く何とかしないと』みたいな眼をされてアルフに諭されたので渋々スケッチブックを仕舞うことにした。「外見をデザインする作業からソルを外そう。このままではドリルやらパイルバンカーやらサイコガンを腕に着けられかねん……というか、”外見をデザイン”とか言うからソルが奇行に走るのだ」アインの言葉に俺以外の全員が一斉に同意する。すっかり蚊帳の外となった俺は内心で、ま、こうなるよな、これでGOサインが出たら逆に皆のセンスを疑う、と当たり前のことだと認識しつつ、かつてスクライアの人間を使って集めた夜天の魔導書のデータを空間ディスプレイに表示しておく。「やっぱりアインの後を継ぐ形になるんやから、モデルはアインが良いと私は思うんやけど……ソルくんには任せられんし」「主……とても、とても嬉しく思います。私の後継機を、碌に主を守ることが出来なかった私に似せて頂けるなんて……ソルには任せられないですし」「うん、一緒に頑張ろか。私らの新しい大切な家族になるんやから……絶対にソルくん好みのロボットにはさせへんで」「はい、貴方に与えられた祝福の風の名において……あんな無骨でアバンギャルドなフォルムの機械兵にはさせません」少し感動するような会話してると思ったら、俺限定で棘が飛んでくる。いいけど別に。ちょっと懐かしくなってスケッチブックに描いてみたら、予想以上に絵が上手く描けたので調子に乗って全部描いただけだから。ラフ画だけど。こうして外見はアインがモデル、ということが決定してその日は終わった。後書きなんでGG2のストーリー本編ではギガントが使えないんだあああああああああ!?ということで、勝手にギガントたんを脳内補完してます。ご容赦を……見逃してください!!ま、ギガントと契約するくらいなら使い捨てクィーンを死ぬ度に召喚させますがなwwwクィーンは死なん、何度でも蘇るさ!!!前回の感想で”魔術師オーフェン 無謀編”のネタを知っている人が居て吹いたwwww今回のソルはかなりはっちゃけてます。今まで続いてきた苦悩やら苦労の反動とでも思ってください。GG2のソルのサーヴァントがどんな外見から知りたい人は、例によって例の如くニコニコ動画で『サーヴァント紹介』と検索してみてください。