「うわぁ、自然が一杯で綺麗な所ですねぇ」感嘆の声を上げながらシャマルが周囲を見渡す。他の連中も物珍しそうにキョロキョロと景色を眺めている。言葉の通り、古い西欧の建築物のようなものを緑が囲んだ街並みは観光地として美しい外観を誇っていた。以前ミッドチルダの首都クラナガンで見た近代技術で建てられたものは無い。あえて古来から続く伝統の建築技術を使って外観を保っているのだろう。自然も多いし、地球のように化石燃料車が走っていないので空気は澄んでいる。こういう点では魔法技術は純粋に利点がある。現在位置はベルカ自治領。のんびりと景色を楽しみながら聖王教会の本部に向かって歩いている途中だ。「噴水があるじゃん。皆で写真撮ろうよ!!」こっちこっちー、と先行していたアルフが走り出し噴水の前で振り返り大きく手を振る。「あそこにあるのお土産屋さんやろか?」「はやて、後で寄ろうよ」「そやな。折角やから士郎さん達とすずかちゃん達にお土産買って帰ろ」ヴィータに笑い掛けるはやては、もう松葉杖無しで一人で歩いていた。まだ流石に跳んだり跳ねたり走ったりといったことは出来ないが、歩くだけなら何の支障も無い。俺の治療がリハビリを後押ししたのは当然だが、たった三ヶ月で自分の足だけで歩けるようになったのはやはり本人の努力が大きい。泣きべそかきながらも歯を食いしばってリハビリに励んでいたのは決して無駄じゃなかった。ま、泣く程厳しいリハビリやらせてたのは俺なんだけどな。周りの連中が口を揃えて「鬼」と言っていたのが懐かしい。それでも腐らず泣き言一つ言わずに最後までやり通したはやては凄い。口に出すとまた墓穴掘りそうで言わないが、将来マジで良い女になるぞこいつ………腹黒い部分さえ何とかなれば。あちこちをフラつきながら皆で写真撮ったり、土産屋覗いて買い物したり、見たことも無い菓子を売っている屋台があったので衝動買いしたり、気分はすっかり観光地に訪れた旅行客だ。「………ちょっと待て。俺ら当初の目的忘れてるぜ」会計を済ませて軽くなった財布の存在に気付いて声を上げる。「あれ? そういえば僕達何しに此処に来たんだっけ?」ユーノが先程屋台で買ったドーナッツに似た焼き菓子のようなものをモグモグさせながら聞いてきた。他の連中も「何だっけ?」と漏らしながら菓子を堪能している。どいつもこいつも食いしん坊万歳はいい加減にしておけよっ!!「聖王教会に行くんだろうが!! それがいつの間にかなんで観光になってんだよ!? しかも支払いが全部俺ってのはどういうことだ!!!」「仕方が無いだろう。我らヴォルケンリッターは働いているとは言え無償奉仕、つまりただ働きだ。文無しなのは百も承知ではないか」「以前ソルくんはリンディさんから報酬もらってましたよね? それに加えてたまにスクライアでお仕事してるじゃないですか」「ケチケチすんなよー」「何時もスマンな」シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラが口の中をモグモグさせながら言ってくる。「お兄ちゃんって確かスクライアから受けた仕事の報酬の半分はミッドのお金にして、残りは日本円にしてもらってたよね」「でも私達皆日本円にしちゃったし」「僕も」「お前ら地球以外の世界に行く機会あるんだから少しは考えろよ!!」我が家のガキンチョ共は何も考えていないらしい。俺は月に数回、スクライアで発掘調査やその護衛の仕事をもらう時があり、暇な時は率先して手伝わせてもらっている。何も問題が起きなければ基本的に楽で危険も比較的少ない仕事だ。万が一戦闘になっても敵を殲滅すればいい、それだけだからだ。それをなのは達も手伝う時がある。俺個人としてはあまり良い顔しないのだが、ユーノが今まで仕事としてやっていた以上あまり強くダメとは言えなかった。別に管理局みたいに戦場に放り込む訳でもないし、常に傍に俺が居る状態だし、訓練のおかげでこいつらの実力もそん所そこらの連中より高いので許してやっている形だ。「アタシら別に地球から出ないしね~」「ああ。基本的に翠屋と高町家を往復する日々だからな、他の世界の通貨など所持している訳が無い」翠屋の看板娘であるアルフとアインは何を今更といった雰囲気で半眼になりながらモグモグしている。要するに俺以外の連中はミッドの通貨持ってないと、そういうことか。「寄り道してねぇで行くぞ」一人足早にその場を離れる。これ以上此処に留まると今までの労働が一瞬でパーだ。「えー、あそこのお土産屋さんはー?」「帰りや、ヴィータ」なんで俺が財布に………あ、保護者だからか。ちょっとくらいなら全然構わねぇけど、こいつら馬鹿みてぇに食うからなぁ、人数も多いし。またスクライアから仕事もらわなきゃいけねぇな。後ろに手間の掛かる子ども達(一部大人だが)を連れて聖王教会の本部に向かって歩き出し、「そういや何処にあんだ?」振り返って疑問を口にすると、皆揃って首を振る。「………」「………」「………」「………」「………」「………」「………」「………」「………」「………」「………」微妙に気まずい空気の沈黙が流れた。「おいシャマル、カリム・グラシアって奴がお前の所に来た時何か聞いてねぇのか?」「えへ♪ 覚えてないです☆」可愛く微笑んで誤魔化すシャマル。「ヴィータは?」「この菓子もう一個買ってくれたら思い出せそうな気がする」「もう二度と思い出すな」なんて食い意地が張った奴だ。そして質が悪い。「シグナム」「忘れた、というか聞いていなかった」シグナムは清々しいくらいに気持ち良い返事をしながら腰に手を当て胸を張った。威張ることじゃねぇから。「………そうだったな」深い溜息を吐いて、俺はどうしたもんかなと思考する。すると、アインがやれやれといった感じで前に進み出た。「仕方があるまい。そこら辺を歩いている者から適当に聞こう………む、丁度良い所にいかにも聖王教会に所属してそうなシスターを複数発見。行って来る」おあつらえ向きに黒い修道服に身を包んだ少女五人が視界を横切ろうとしていた。「この土地で聖王教会に所属してないシスターって居ねぇだろ」シュタッと小走りになってシスター達に向かうアインの背中に突っ込んだが無視される。「すいません、お尋ねしたことがあるんですけど」翠屋で見せる営業スマイルを浮かべて少女達に声を掛ける。この場はアインに任せて様子を見よう。「観光の方ですか? 何の御用でしょうか?」リーダー格らしい少女が真正面からアインに向き合い、他の四人の少女達は興味深そうに視線を注いでいる。アインを見て「うわ凄い美人」とか「……綺麗」とか言ってるのが聞こえた。「家族と一緒に結婚式場の下見に来たんです」何か目的と全然違うこと言い始めたぞあいつ!!!「結婚ですか!? それはおめでとうございます!!」「殿方はどのような男性ですか?」「貴女のようなお綺麗な方でしたら、さぞ格好良い男性がお相手なんでしょうね」キャーキャー黄色い悲鳴を上げて喜び興奮するシスター五人。女が恋愛話好きなのは何処の世界でも一緒か。「格好良いと言うよりはワイルドな印象が強いですね」「ほうほう」「精悍な顔立ちで、長い黒茶の髪を後ろで結わえていて、真紅の瞳は常に獲物を狙う猛禽のように鋭く光らせています」「それでそれで!?」「長身痩躯でありながら肉体は全身余す所無く見事に鍛え抜かれ、魔導師としても非常に優秀で総合ランクオーバーS」「素敵素敵!! 眼に浮かびます!!」「強い殿方には憧れますよね!!」「ええ。普段はぶっきらぼうで無愛想なんですが、時折見せる子どもっぽい態度や父親のような優しさが魅力的な、自慢の彼です」「「「「「キャァァァァァ!!!」」」」」姦しいどころか公害レベルに達するような騒音を生み出しながら盛り上がるアインとシスター五人を見て俺は頭を抱えた。どうでもいいから話を進めろよ。しかし遠巻きに見ている感じ、話が進む気配は皆無。「………ヴィータ、アイゼンであいつの頭かち割ってくれ。他の連中が話に混ざろうかどうか悩んでる今の内に」「お菓子」「こいつ足元見やがって………そんなに気に入ったのか? わぁーったよ、持ってけ泥棒」「了解!!!」コインを投げると上手にキャッチ、すぐさまアイゼンを展開するとアインに飛び掛るヴィータ。もう馬鹿ばっかりだ。背徳の炎と魔法少女 聖王教会編 その二振り下ろされたその拳は扉を叩き壊す勢いがあったが、拳の持ち主はそんなことになど気にも留めず叩き続けながら叫んだ。「騎士カリム!!」哀れな扉に悲鳴を上げさせながら、シャッハは部屋の中に居るであろう人物に声を掛ける。だが、部屋の主はすっかり拗ねてしまったのか無反応。数日前から自分は役立たずだと思い込んで部屋に引き篭もり、それでも扉を叩けばリアクションを返したというのに、昨日からはすっかり反応しなくなってしまった。いい加減頭に来ていたシャッハは愛用の双剣(何処からどう見てもトンファーにしか見えない)型デバイス『ヴィンデルシャフト』を展開し騎士甲冑を纏い全身に気合を込める。「はああああっ!!」部屋と廊下を繋ぐ扉は理不尽な暴力の前に完膚なきまでに粉々に打ち砕かれ、瓦礫と化した。元扉だったものを踏み越えて部屋に入り首を巡らせると、目的の人物はベッドにうつ伏せになった状態で枕に顔を埋めてメソメソ泣いていた。「ううぅ~、どうせ私はグラシア家に相応しくないんですぅ」鬱病患者が醸し出し特有の負のオーラを撒き散らしながら枕を濡らしている。見ているだけでこっちまで鬱になりそうだ。「騎士カリム」「放っておいてと言ったではありませんかシャッハ。どうせ私は役立たずですよ~」不貞腐れたように寝返りを打ち、ショッハの方を見ようともしない。「では、この近くに夜天の魔導書の主と四人のヴォルケンリッターが来ていると言ってもですか?」「…………はい?」呆れたように溜息を吐きながらシャッハが言った言葉を理解出来ずに聞き返すカリム。視線をシャッハに向け、「もう一度言ってください」と伝える。「ですから、夜天の魔導書の主と四人のヴォルケンリッターが来ているんですよ」「此処に?」「はい」「このベルカ自治領に?」「そうです」「………本当ですか?」立ち上がり、夢遊病患者のような足取りでシャッハに近寄り、彼女の両肩を掴む。「本当です。教会騎士団の者が何人も目撃しています。主とヴォルケンリッターに加えて何人もの付き添いが居るようですが―――」「どうしてそれを早く言わないんですか!!!」シャッハの言葉を遮るようにしてカリムはガオーッ!! と咆哮を上げ、いきなり窓に向かって走り出しアクションスターばりのタックルを決め、硝子が割れる音と共に窓をぶち破って飛び降りた。「此処三階ですよカリムッ!?」「ぐえぇぇっ!?」清楚で普段から落ち着いた雰囲気の持ち主である彼女からは考えられない行動に驚く間も無く聞こえたヴェロッサの悲鳴。どうやらカリムの着地地点を運悪く歩いていたらしい。破壊された窓に近寄って下を見下ろす。轢き殺されたカエルのようにペシャンコになって倒れているヴェロッサと、それに眼もくれずに長いスカートをはためかせ粉塵を上げながら走り去るカリムの姿が見えた。「あんなにアクティブな人だったかしら………?」疑問を浮かべるシャッハに答える者は居なかった。今までグラシア家の跡継ぎとして立派であろうとして懸命に、そつ無く仕事をこなしてきたが今回のような挫折は初めてだった。聖王教会に反感を抱いている一部の管理局員から何らかの妨害を受けて無償奉仕しているヴォルケンリッターとなかなか接触することが出来なかった。その者達は恐らく、教会側にヴォルケンリッターを取られたくなかったのだろう。ようやく接触して話を聞いてもらえたと思ったら今度は無視されるという始末。これにより、まだ十代中盤である彼女はこれまで心の奥底で自覚せずに沈殿させていたストレス―――周囲から向けられる期待と自分が位置する立場の重さと自身に対する不安―――が爆発。今まで失敗らしい失敗をした経験が無いのにもそれに拍車を掛けた。しかし彼女の性格上それを外部に吐き出すことが出来ず、結局は内部に抱えたまま部屋に引き篭もって腐るという選択をした。(なんて情けない)もし聖王様が見られたらどれ程お嘆きになるだろう、と心の中で自分を叱咤する。人生山もあれば谷もある。何処の世界の言葉か忘れたが、まさにその通りだと思う。人間生きてく上で壁にぶつかったり失敗したり挫折したりするのは当たり前のことだ。生まれて初めて直面した苦難に何時までもウジウジしているのは教会を預かるグラシア家の者として、聖王に仕える騎士として情けないことこの上ない。「そこの二人!! 夜天の主とヴォルケンリッターは何処にいるか知っていますか!?」爆走しながら視界の先に映った二人の教会騎士に問い詰める。「え? あ、む、向こうの方で見―――」「ご苦労様です!!」必死の形相で走ってくるカリムに―――こんな姿一度も見たこと無いので―――かなり面食らいながらも自分が今来た方に指を差すと、カリムは最後まで聞かず疾風の勢いそのままにその場を通り過ぎた。「おい………今のグラシア様だよな?」「た、たぶん?」教会騎士は隣に居た同僚に問い掛けると、聞かれた方は自信無さ気に答える。「部屋に引き篭もってたって噂が立ってたが、ありゃ嘘か?」「あれだけ元気なら嘘じゃね?」「だよなぁ………でもなんか何時もと違わね?」「俺もそう思う」二人の教会騎士は首を傾げながらカリムが消えた方角を見つめ続けていた。「ちっ」周囲からチラチラと向けられる視線に舌打ちする。道を聞いてから奥に踏み込んで十数分。聖王教会の総本山、教会本部が近い為か、そこかしこで修道服に身を包んだ連中を眼にする。ほとんどが教会騎士団に所属してる奴らか、それに準ずる者達なんだろう。立ち居振る舞いがなんとなく一般人と違っていたり、あからさまに物珍しいものを見る視線を感じたりする。はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラを見ている時点で教会側にはとっくに面が割れてるってことだ。当然かもしれんが。やはりお目当ては夜天の主とヴォルケンリッターの五人か。敵意や害意を感じないので、好奇心に負けて視線を寄越してるようだ。それを分かっているのは俺以外の他の連中も当然で、皆居心地悪そうに歩いている。はっきり言って此処まで注目されると虫の居所が非常に悪い。特に俺は目立つのが嫌いだ。大っ嫌いだ。思わずセットアップして封炎剣を地面に突き立ててサーベイジファング発動させて周囲を更地にするくらいに。「なぁ、全員丸焼きにしてやろうか」「此処でうんと答えると本当にやりそうだからダメ。お願いだから我慢してね」冗談のつもりで言ったのに真面目な顔をしたユーノに諭されるようにお願いされてしまった。どうも俺は安全装置が外れた火炎放射器と思われている節がある。「ん? 何だあれは?」ザフィーラが前方に視線を向けて疑問を口にする。「何って、人だろ。こっちに向かって全力疾走して来るな」俺が言葉にした通り、何か鬼気迫る勢いで走っている一人の少女がこっちに近付いて来る。年の頃は十代中頃、遠目から見ても分かる綺麗な長い金髪を振り乱し、修道服に似た黒い服装に身を包んでいる。長いスカートを穿いて走っているというのに全く危な気も無い。それでいてまるでアスリートみたいな走り方だった。「あれも聖王教会のシスターか?」とザフィーラ。「俺が知るかよ」そんなやり取りを交わしていると、少女はズザザザザーッと砂埃を上げながら急ブレーキを掛け、俺達の前で停止した。「ハァハァ、あ、あああ、あの!!」激しい運動をした所為か、額から玉のような汗を垂らし、顔を紅潮させて肩で息しながら慌てたように俺達に何かを伝えようとする少女。「あれ? こいつ聖王教会のカレー・グラタンとかいう奴じゃねー?」「「あ」」「違います!! カリム・グラシアです!! そんな美味しそうな名前ではありません!! 以前自己紹介したのに覚えてもらえなかったのですか!?」ヴィータが謎の料理を唱えると今更思い出したようにシャマルとシグナムが声を漏らし、少女―――カリム・グラシアが間違いを訂正した。カレーのグラタン? いや、グラタンのカレー? 少し美味そうだと思ったのは内緒だ。「こいつが?」「はい」「ああ、間違い無い」「お前ら二人共ヴィータが言うまで忘れてただろ」「「う」」こめかみに汗を浮かべるシグナムとシャマルを捨て置き、俺はカリム・グラシアと向き合った。「改めまして、私は聖王教会の教会騎士団に所属するカリム・グラシアと申します………あの、失礼ですがあなた方はどちら様でしょうか?」まず名乗ってからペコッと一つお辞儀し、ヴォルケンリッターの傍に居る俺と後ろに居るなのは達を見比べながらおずおずと聞いてくる。「ソル=バッドガイ、こいつらの保護者みてぇなもんだ」「え? ………ソル=バッドガイって、あの?」「お前が言うあのってのが何か知らねぇが、俺の名前はソル=バッドガイだ」「本物!?」突然仰天したように大声を出された。「こ、こうして直接お会い出来るなんて光栄です!! ソル=バッドガイと言えば古代ベルカの遺産である夜天の魔導書を、その主と守護騎士ヴォルケンリッターを卑劣漢ギル・グレアムの陰謀から救い出し、今回の闇の書事件を未然に防ぎ、それだけに留まらず永遠に続くと管理局の誰もが諦めていた天災に終止符を打ったとても偉大なお方と聞いております!! 是非握手してください!!!」異様な程美化された事実を口早に言うと、彼女は勝手に俺の両手を取ってぶんぶん上下に振り出す。面食らった俺は開いた口が塞がらない。感動しているのか瞳を潤ませて尊敬の眼差しを俺に向けるカリムの暴走は止まらない。「管理局嫌いと聞いていましたので、夜天の主と騎士達に会えたとしても貴方には会えないと半ば諦めていたのですが、わざわざこんな辺鄙な場所に皆様と共にご足労頂けるなんて、しかも握手までしてもらえるだなんて………私あまりの感動に泣いてしまいそうです」「え………いや………」「魔導師として素晴らしい実力をお持ちの上、人としての器がとても大きく、事件解決後も夜天の主と騎士達の為に尽力したと聞き及んでおります!!」「………そう、だったか?」褒められれば褒められる程自信が無くなってきたので背後を振り返ると、皆揃ってうんうん頷いていた。俺そんな大それたこと何かしたか?「誰から聞いた? その話」そこまで美談に思えるような内容にした覚えは無ぇぞ。クロノとエイミィが提出するつもりの報告書には何度も眼を通してチェックしたし、強調した点と言えばはやてが悲劇のヒロインであるということと、守護騎士達は主の命を救う為に仕方無く犯罪に手を染めたが途中で間違いに気付き自首したってことと、全ての元凶はグレアム達であいつらは偽善者の皮をかぶった極悪人だったってことくらいだ。「闇の書事件の報告書を本局で読ませて頂きましたが、それだけでは満足することが出来なかったので事件の担当者から直接お話を聞かせて頂きました」「事件の担当者って、クロノか?」「いえ、ハラオウン提督です」あの女狐、一体何を考えてやがる? 確かに俺にとって不都合な情報は全く漏れてないけど、美談にすれば八神家の面子に向けられる白い眼とか減るからいいけど、いくら何でも限度があるだろ!!これはあれか、無茶な要求を今まで通させてきた俺に対するハラオウン親子からの遠回しな嫌がらせなのか? じゃあこの前のクロノも実はグル? カリムが俺達と接触したがってたのを本当は知ってた?「立ち話もなんですから腰を落ち着けられる場へご案内致します。さあ、教会本部はこちらです。最高級のお茶の用意をさせますので皆様の武勇伝をお聞かせください」上機嫌で歩き出したカリムに追従しながら俺は口を開く。「言っとくが俺達は教会に所属するつもりは無いぜ」「はい、ソル様が組織というものを毛嫌いしているのは存じ上げております」あれ?てっきり俺達を教会に入れようって魂胆だと思ってたので釘を刺しておこうとしたのに。すっかり毒気を抜かれた気分だ。「じゃあ何だ? 何故ヴォルケンリッターに接触してきたんだ?」「私は皆様にお仕事を依頼したいのです」「仕事の依頼だと?」「はい。身内の恥を晒すようで心苦しいのですが、最近の教会騎士は一人一人の騎士の質が落ちているのです。実力があっても騎士として高潔な精神を持っていなかったり、またはその逆に高潔な精神に実力が伴わなかったり」振り返り、後ろ向きに歩きながらカリムは少し表情を曇らせ溜息を吐いた。「教会騎士団を預かるグラシア家の者として現状に頭を悩ませていた時でした。闇の書事件を耳にしたのは」訥々と語り出されることの発端。「古代ベルカ式の使い手、最後の夜天の王と守護騎士ヴォルケンリッター。そして管理外世界で暮らすオーバーSランクの賞金稼ぎとその仲間達、つまり皆様のことです」「………」「私はこの話を聞いた時、先代からの助言を受けあることを思いついたのです」「一体何を?」カリムは今までの苦労が実ったと言わんばかりに極上の笑みを浮かべると、心の底から嬉しそうにこう言った。「皆様には教会騎士団専属の戦技教導官になって頂きたいのです」後書きいつも読んでいただいてありがとうございます。毎回たくさんの感想も残してくださって本当にありがとうございます。此処最近は就職活動がついに実って内定をもらうことができまして、入社手続きやらなんやらでてんてこまいの日々を過ごしていました。それでもなんとか感想返しは出来なくても、作品は上げようと思って頑張ってました。執筆すること自体が楽しくストレス解消になりますし、何より楽しみにして待っていてもらえると思うとやる気と元気が湧き出てきましたから。中途採用枠なので12月の頭からいきなり出社することになりましたので、今までのような更新速度を維持できないと思います。ご容赦ください。それでも週一ペースで更新いけたらな、と愚考しています。これからもよろしくお願いします。ちゃんと感想は一つ残らず読ませてもらってますからね!!!どうでもいいけどソルは現金派です。聖戦以降、キャッシュカードやクレジットカードはただのゴミと化しましたからね、そもそもそういうシステムを支える技術が失われた世界を生きてきましたので。だから現金派。貴金属持ち歩いてたこともあったので物々交換でもいいのかもしれません。