<ソル様。いい加減起きてください、もう午後の九時になりますよ!!>レイジングハートの声が覚醒を促し、ぼんやりとだが意識が戻ってくる。(うるせぇ)もう少しだけ寝たい。<ソル様、起きないと後で酷い眼に遭いますよ。具体的には………いえ、これ以上は私から申し上げられません>なんか微妙に気になることを言いかけて途中で止めるなよ。ま、レイジングハートの戯言なんてどうでもいい。あと少しだけ惰眠を貪りたい。<レイジングハートよ。ソル様に眼を覚ましてもらうにはアレしかないのでは?>バルディッシュまで居やがるのか?<いいですね。アレで行きましょう><では、せーので>アレって何? まさか電気ショックとか砲撃とかじゃねぇだろうな。<<せーの、この究極のロリコン野郎!!! あとついでに無自覚女ったらし!!!>>「スクラップにされてぇのかこのクソッタレデバイス共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」俺は文字通り跳ね起きた。部屋に明かりを点し、謂れのない誹謗中傷を吐いた馬鹿なデバイスをしこたま踏み締めた後、机の上にメモ用紙が置いてあったことに気が付いたのでそれに眼を通す。『起きたら翠屋に来るように』メモ用紙にはユーノの字でそれだけしか書かれていなかった。とりあえずシャワーを浴びて着替える。家の中には誰も居らず、俺一人。きっと皆は翠屋で必死こいてケーキを売り捌く作業に従事していたのだろう。時計を確認すると九時を過ぎている。今更行っても閉店しているだろうが、俺一人何もしなかったし来いというメモが残っていた以上行かない訳にもいかない。皆には悪いことをしたな。それにしても一体誰が俺を部屋に運んでくれたんだろうか?「クイーン、知ってるか?」<リインフォース・アインです>「アイン?」ドイツ語で1を意味する言葉だ。あいつ、俺が勝手に一号とでも名乗れって言ったのを真に受けて本当に1って名乗りやがったのか。身支度を整え戸締りをしっかり確認すると家を出る。一応、レイジングハートとバルディッシュも連れて行ってやる。そうしないと後で二機がうるさそうだからだ。白い息を吐きながら夜の帳がすっかり下りた住宅街を抜け、クリスマスで浮かれる繁華街を通り過ぎ翠屋に向かった。店の前に到着すると同時に、俺は眉を顰める。「ん?」店内は真っ暗で中の様子を外から窺うことが出来ない状況だというのに、店の入り口には『本日貸切』と札が垂れ下がっている。どういうことだ?中から人の気配はする。きっとかなりの大人数。その気配はあからさまで、自分達を隠そうとしていない。また何か桃子が変なことでも思いついたのか? 今度は一体何を考えてやがる?考えても仕方が無いのでドアノブを捻り中に入った。カウベルの音が鳴る。後ろ手でドアを閉め店内の電気を点けようとした瞬間、パチッと電灯が点り俺の眼を眩ませる。思わず眼を瞑ると、空気が破裂するような音がほぼ同時に、しかも大量に鼓膜を叩いた。『メリークリスマス!!!』そして次に聞こえたのは二十人近くの男女がクリスマスを祝う声。眼を開いた俺の前には皆が勢揃いしていて、手には今さっき使用したクラッカーがあった。なのは、フェイト、ユーノ、アルフ、士郎、桃子、恭也、美由希の高町家。はやて、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ、そしてリインフォース・アインの八神家。すずか、忍、ファリン、ノエルの月村家。アリサ。更にはクロノ、リンディ、エイミィの管理局組まで。「………」これは、一体?いきなりの事態に呆けているとフラッシュの光。アルフが首から下げたデジカメから放たれたものだ。「さあ、ソルが来たところでクリスマスパーティの始まりだ!!!」士郎がそう口火を切ると、歓声が店内に広がった。背徳の炎と魔法少女A`s 最終話 カーテンコール全員で乾杯を終えた後。「それにしてもソルのあの驚いた顔見た!? いや~、コレクションが増えたよ」アルフがテーブルの上にこれでもかと用意された料理から自分の分を取り分けながら大笑いする。「あ、後で私にもください」シャマルが焼き増しを求めると、周り居た連中全員が見事に口を揃えて私も私もと言い始めた。俺は苦虫を噛み潰したような表情でそれを視界に収めながら皆に問い掛ける。「おい、誰が立案者だ?」「私」「………やっぱりか」挙手した桃子にうんざりしながら士郎が淹れてくれたコーヒーを啜った。店内は半分立食パーティみたいな形式で、普段客用として使っているテーブルには大皿に載った料理が置かれているものと、食事用の何も置かれていないテーブルがある。皆は好きな料理を自分の取り皿に載せ、思い思いの場所で食べている。「お兄ちゃん、はい」「ソル、碌にご飯食べてないでしょ。ちゃんと食べなきゃダメだよ」なのはとフェイトが皿の上にてんこ盛りにされた料理を押し付けてきた。フェイトの言う通り此処数日まともな食事をしていない。丁度腹が減っていたのでありがたく受け取っておく。「いくらアインさんの為だからって無理し過ぎなの。皆心配したんだよ」「もう少し自分のこと大切にしてね」ちょっと怒っているような二人。「悪かった」苦笑して謝り頭を撫でてやると、二人は朗らかな笑みを浮かべて許してくれた。それを見ながら俺は思う。(けじめ、つけるか)そうだ。今まで大切な者達を騙すような形で何も言わず、挙句の果てには多大な心配を掛けた。士郎達だってなのは達から事情は聞いているだろうが、保護者としての立場である俺から何があったのか聞きたい筈だ。全てを話す必要がある。今回の闇の書事件は勿論、俺のことも。なのは達は恐らく闇の書事件に関しては詳しい説明を行っていても、俺に関しては何一つ言っていないだろう。はやて達八神家にもアインについて細かい説明などを謝罪込みでしなければいけない。「少し聞いて欲しい話があるんだが、いいか?」俺は覚悟を決めると、談笑する士郎達と月村家、そしてアリサに全てを話すことにした。「ソルが改造手術で生まれた生体兵器か………」「大人だとは知ってましたけど、まさか私達の何倍も年上だったなんてねぇ」「シグナムさん達の話もさっき聞いたから、ソルが人間じゃないなんて言われても今更だなぁ」「そうですね~」士郎と桃子は暢気なリアクションを返すだけで特に驚いた風ではない。言葉通り本当に今更なんだろう。「ソルくん………どうして私達が誘拐された時にそれを言ってくれなかったのかな?」「アンタ!! 皆が自分の秘密打ち明けたっていうのに一人だけ黙ってたのね!!!」すずかは凍てつくような、アリサは烈火のような怒りをそれぞれ表した。いや、面目無い。「夜の一族を歯牙にもかけない強さの秘密にそんなことが関係していたなんて、驚いたというより納得したわ」「俺も父さんが言う通り今更だと思うがな」忍と恭也がうんうん頷く隣で、ノエルとファリンが「はー」とか「へー」とか感心している。「ねーねー。じゃあソルは仮面ラ○ダーとかブレ○ドとかを足して二で割ったようなものなの?」美由希に特撮やら米映画で俺の人生を例えられると、どうも今まで悩んでいた俺が馬鹿に思えてくるんだが。つまり、俺の悩みなんてこいつらにとっては付き合う上ではどうでもいい問題らしい。肩透かしを食らったというか、こいつらの器の大きさに呆れたというか、とにかく酒を飲まないとやってられない気分になってきた。なんかもう色々と台無しになってしまったようなので自棄酒のようにアルコールを煽ることにする。「まー、リインは生き残ってくれたからそれでええんと私は思うんよ。ソルくんが私らに謝る必要は無い。むしろ礼を言わなアカンし」はやてはどんな形であれアインが生き残ったことが嬉しいらしく、特に責めるようなことは言わなかった。ヴォルケンリッターの四人も同様だ。「となると、ギアになったアインが表沙汰になるとマズイだろうから、彼女は便宜上ソルの使い魔ということにしておくか」「そうね。それが一番ね」「じゃ、そういうことにしておくね」クロノとリンディとエイミィで三人、料理をパクパク食いながらこっちに確認を取ってくるので頷いておく。「………」何故かアインが―――桃子の服を借りたらしい格好で―――ジーッとこっちを見てきた。「何だよ?」「私がお前の使い魔?」「文句があるならあの三人に言え」「無い!! 無いに決まっている!!」「?」ブンブンと首を振ると長い髪が左右に揺られ、さらさらと流れる。「私が………ソルの、使い魔………」一人ブツブツと呟くアイン。俺は訳が分からなかった。「どうしたんだ? あいつ」なのは達魔法関係者組に聞いてみるが、「知らないの」「知らないよ」「知らんで」「知らん」「知りません」なのはとフェイトとはやてとシグナムとシャマルは不機嫌そうに答え、その様子にユーノとアルフは必死に腹を抱えて笑いを堪えていて、ヴィータは聞いていないのか眼の前の料理と格闘中、ザフィーラは溜息を吐くだけだった。「ちょっとソル、本当のこと話しなさいよ」詰め寄ってきたアリサに抵抗する気も浮かばず、かといって自分の口から話すのも億劫だったので、「アイン、後は頼んだ」俺の記憶を持つ女に全てを丸投げすることにした。「フッ、しょうがない男だ。何か気に入らない部分があれば補足や訂正を頼む」アインは髪をかき上げながら呆れたようにやれやれと溜息を吐く割に少し楽しそうな表情で喋り始めるのだった。特に俺の過去の恥ずかしい話が語れることはなく、ギャラリーをある程度満足させて話に一段落着くとケーキが投入された。翠屋の桃子お手製ケーキを初めて口にした連中は、誰もが表情を輝かせて美味い美味いと褒め称えながらケーキを食べる。やがて食い意地を張った一部の者以外ケーキを食べ終わり、優雅にお茶をしている時にエイミィが唐突に口を開く。「それにしてもあの時のソルくんは格好良かったよねぇ~」「ああン?」思い当たる節が無いので聞き返す。あの時って、ジャスティスとの戦闘中だろうか?「ホラ、ジャスティスと戦ってる最中にソルくんが言ってた言葉だよ!!」戦闘中に言った言葉?はっきり言ってあの時は無我夢中だから自分でも何言ったのかよく覚えてない。「俺、何て言った?」周りの面子を見渡す。すると、「お、お兄ちゃん、あれはいくらなんでも恥ずかし過ぎるの」顔を真っ赤にするなのは。「ソルは前に私と”約束”したよね!? ずっと傍に居てくれるって!!」その隣のフェイトが必死になって慌てたように聞いてくるので、俺はどうしてそんなに慌てているのだろうと考えを巡らせながらとりあえず頷くと、「良かったぁ」と安堵の吐息を吐いた瞬間に顔をトマトのように赤く染めた。「『十年早ぇ』って言葉にあんな意味が込められとるとは流石に思わなかったで」先の二人同様、はやても顔が赤い。「ま、まさか、あ、あのような形で想いを伝えられるとは思ってもみなかったぞ」シグナムも頬を染めてジッとこちらを見つめてくる。「ソルくん大胆ですっ」両手で自分の赤く染まった頬を挟んだシャマルがいやんいやんと首を振った。…………………………………………………非常に嫌な予感がする。ついでに言えばこれから起こるであろう”何か”に対して悪寒もする。エイミィがおもむろに懐からボイスレコーダーみたいなものを取り出して、ニヤニヤと邪悪な笑みをその顔に張り付かせながら言った。「覚えてないなら思い出させてあげる。丁度戦闘中の会話データでその部分を上手く吸い出したのが此処にあるから………あ、安心して。それ以外は全部抹消したよ。戦闘データで残ってるのはこれだけだから」そしてスイッチが押されると、俺が戦闘中に言ったらしい音声が再生される。『愛する女と交わした約束を破る程、俺は落ちぶれてねぇ!!!』………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………腹がキリキリと痛くなるような沈黙が店内を満たし、異様な空気になってしまった。口の中がカラカラに乾く。酒の酔いが一気に消し飛ぶ。別に室内は暑くないのに汗が噴き出る、と思ったらそれは全部冷や汗だった。「いいなぁ~。私もこんな風に告白されたいなぁ~」からかうような口調でクロノに流し眼を送り、沈黙を破るエイミィ。「………」視線を送られたクロノはエイミィから視線を逸らして頭を抱え始めた。「そうね。戦闘中にこんな情熱的な台詞言えるなんて流石だわ」これは面白そうだと便乗するリンディ。そして恥ずかしそうにしている女性が六人。「それにしてもソルは一体誰のことを言っているのかしら?」此処で躊躇無く爆弾を投下する桃子が恨めしい。桃子の言葉によって空気が凍りついたかのように固まり、言いようの無い威圧感が頬を染めていた女性陣から噴き出してきた。「それは勿論、五年以上もお兄ちゃんと一緒に暮らしてる可愛い妹だと思うなぁ。一杯お話するって”約束”したんだから」「そんなことないよ。半年前に出来た愛しい妹のことだよ。ずっと一緒に居てくれるって”約束”したもん」「二人共甘いで~。つい最近知り合った下半身が不自由な薄幸少女のことや。お互いのことをもっとよく知り合おうって”約束”したんやからな」「それは違います主はやて。互いの気持ちが燃え上がるような戦いを演じたかつての敵のことでしょう。もう一度勝負するという”約束”を交わしました」「何を言ってるのシグナム。落ち込んでいた時に彼の心を優しく癒したお姉さんのことよ。だって一緒にクリスマスパーティするって”約束”したんですから」それぞれの間で視線が交錯し火花が飛び散り、殺気が乱れ飛ぶ。「「「「「………」」」」」やがて―――「私だよ!! お兄ちゃんは私の全てを受け入れるって言ってくれたんだから!!!」「なのはは一緒に居た時間が長いだけでしょ!! それに私だって一緒に居てくれるって前に言われたよ!!!」「元々ソルくんは私の為に管理局に協力するようになったんやろ!? しかも私の命の為に一切躊躇せずに腕切断までして!! どう考えても私やろ!!!」「主達はまだ子どもです。とても百を超えた年齢のソルと釣り合うとは思えません。此処は同じ大人であり、同じ騎士であり、同じ炎使いの私が―――」「ソルくんみたいなワイルドな男性には癒し系の女性が合うと思うのよ。私以上に彼を癒せる女がこの場に居るのかしら?」今にも取っ組み合いが始まりそうな言い争いが勃発した。「はっはっはっは、男冥利に尽きるじゃないか? たくさんの女性が自分を取り合うなんて」士郎にバンバン背中を叩かれる。こいつ、実は相当酔ってる。俺と一緒になってワインやら日本酒やらを瓶で五本近く空けているからだ。「なんか前に似たような光景を見たことあるなー」「私も~」美由希と忍が他人事のように感想を述べる。「あらあら、モテモテね」「モテモテね~」「モテモテですね~」桃子、リンディ、エイミィはほくそ笑みながら遠巻きに見ているだけ。元はといえばお前らが原因だろうが!!「う~む。今のソルの状況が他人事とは思えないが、関わらない方が良いと経験が訴える。何故だ?」恭也が自分の顎に手を当てながら何やら考え込んでいた。「ソルくんの思わせぶりって最低だね」「女の敵よ」すずかとアリサの言葉の剣がザクザクと俺の心に突き刺さる。どうして此処まで言われなきゃならん。『ユーノ!! なんとかしてくれ!!』『お繋ぎになった念話は大変申し訳ありませんが閉店となりました。恐れ入りますが、また後日改めてお繋ぎください』『何が閉店だおい!! ふざけてんのかテメェは!!!』『営業時間は午前九時から午後の八時までとなっております。プツッ、ツー、ツー、ツー』優雅に茶を啜っているユーノに助けを求めるが念話を一方的に切られただけだった。「いやぁ、修羅場って面白いんだねー。昼ドラに嵌る気持ちが分かるなー」アルフはデジカメを手に興味津々といった感じで五人の様子を撮影している。やめろよ!! つーかこいつら止めろよ!!!『ヴィータ!!』『うるせー。アタシは今眼の前のギガ美味いケーキを攻略するのに忙しいんだ』我関せずで取り付く島もない。『ザフィーラ!!』『その、何だ………お前には世話を掛ける』『どういう意味だ!?』『我らが主と仲間をよろしく頼む』『それでいいのか守護獣!!』『お前が相手なら俺も安心だ』腕を組んでうんうん頷くな!! 安心だ、とか言っておいてお前、顔に『俺には関係無い』って書いてあるじゃねぇか!! 俺から視線を逸らしてんじゃねぇぇぇぇ!!!頭を抱えて周囲に居る連中の薄情な態度に嘆いていると、捨てる神あれば拾う神あり。そんな俺を庇う神が降臨した。アインだ。「そこまでにしておけ。皆少しは落ち着いたらどうだ? ソルが困っているだろう」その言葉に冷静さを多少は取り戻したのか渋々と言い争いをやめる五人。凄ぇ。たった一言で黙らせやがった。俺は事態を収拾させようとしているアインを尊敬し始めて―――「だいたいあの時のソルは発言は無効だ。皆もあの後聞いただろう。ソルが『私の全責任を負う』、私に『全てを委ねろ』と言ったのを………つまりはそういうことだ、フフフ」勝ち誇ったように含み笑いを浮かべる顔を見て思考が停止した。………………………は?この状況で、今そういうことを言うか?「この十日間、ソルは私の為に全てを費やしてくれたぞ。文字通り、”全て”をな」技術と経験と知識だ、と言ったところで納得してもらえる雰囲気じゃなくなっている。アインは蟲惑的な笑みと艶やかな視線で俺にしな垂れかかってくると、手を俺の心臓の位置に添えた。「そもそも私の身体はソルに隅から隅まで弄繰り回されている。ソルが私のことで知らないことなど存在しない」どうやら神は神でも、死が付く神だったらしい。「この首輪。私のギア細胞抑制装置なのだが、ソルの心情が吐露しているようなデザインに思えないだろうか?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!五人の女性から放たれるプレッシャーによってまるで大地震が発生したかのような地鳴りのような音が幻聴として聞き取れてしまう。「お兄ちゃん、ちょっとアインさんのことについて詳しく”お話”しようか?」「どういうことか聞きたいなぁ………ソル」「………言い逃れはさせへんでぇ」「説明してもらおうか、ソル?」「うふふふ」このままでは殺される。直感的にそう思った。「………ま、待て、落ち着け、とりあえず話し合お―――」「「「「「御託は、要らない!!!」」」」」世界はこんな筈じゃないことばっかりだ!!!で、結局闇の書事件がどういう顛末になったかというと。書の暴走と偽ジャスティスの誕生、そして俺との激しい戦闘は無かったことにされた。ギアに関する情報も完璧に抹消され、アースラクルーには口止めがされた。もし誰かに話せば「紅蓮の炎に灰も残さず焼き尽くされる」という文句が生まれ、誰もが忘れようと必死になったらしい。無限書庫にて闇の書と夜天の魔導書についてスクライア一族が調べていたことが管理局内で知れ渡っていたことを利用し、俺が闇の書を解析し夜天の魔導書を復元した際に出てきた闇の書の闇をアルカンシェルで消し飛ばしたということになった。事件は未然に防がれたということになる。書の主であるはやては実質無罪。その同情を誘う生い立ちとグレアムの陰謀によって供物にされそうになったという点が功を奏し、罪に問われることは無いらしい。魔導師襲撃の実行犯であったシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラの四名はリンディ達と共に被害者の所へ事情説明込みの謝罪をしに行ったのがプラスに働いた。前回の闇の書事件の被害者であるハラオウン家が納得しているというのも後押しとなり、保護観察扱いと管理局任務への従事として罪を償うことになった。この点に関してはクロノとリンディが偉い頑張ってくれたらしい。素直に感謝してもバチは当たらないだろう。通り魔やっておいて随分甘い処置だと思うが、納得出来ない内容ではないので特に何も言わなかった。保護観察の担当はリンディの友人のレティ・ロウランとかいう女。こいつはヴォルケンリッターを管理局の戦力として組み込みたいようだったが、シグナム達本人は管理局にその後所属する気は無いと言う。「罪は償う。償いが終わるまで管理局の者としてこの”力”を振るおう。しかし、その後まで管理局の為に従事する義理は無い」別に管理局員として働くのは悪くないのではないか、と問い掛けるとシグナムは首を振って逆に問い返してきた。「なら何故お前は管理局に入ろうとしない?」「決まってんだろ。管理局が”組織”として正しいことをしようとしてるのは分かる。けどな、俺”個人”は管理局の色々な部分が気に入らねぇんだよ」即答すると、シグナムは嬉しそうに微笑んだ。「気に入らない、か。実にお前らしい、そして我らもお前と一緒だ。我らに命を下せるのは主はやてだけだ。主以外の人間から命令されるのは我らも気に入らない。それだけだ」俺達高町家はヴォルケンリッターが自首する切っ掛けとなった外部協力者ということになり―――ついでにアインは初めから俺の使い魔という扱いで―――後日管理局に表彰されることになったが辞退する。その際に管理局入りを強く薦められて鬱陶しいだけだ。ま、それでも管理外世界で高ランク魔導師が存在するのは良い顔されないので、俺達はハラオウン家が持ってる賞金稼ぎの伝手ということになる。少し面倒なことにこれからクロノとリンディからヘルプを要求された時は協力することになってしまったが、あいつらは苦い顔をして「誰が頼るもんか」と言い張っていた。依頼が来ないことを切に願う。ちなみに俺はクロノ達から魔導師としてではなく、デバイスマイスターとして強く局入りを薦められた。一応、闇の書がギアコードに侵食されていなければ修復は可能かもしれなかったと解析結果を伝えてしまった所為だ。が、やはり断った。理由は簡単、面倒臭ぇから。それと皆のデバイスの中身は既に半分近くが神器となっているので、門外不出のものとなっている。同じようなものは俺しか作れないし構造解析や機構理解も法力使いでなければ分からないようになっているので心配することは無いが、念の為シグナム達には俺以外の人間にデバイスを見せないように言っておいた。グレアムとその使い魔達はかなり厳しく処罰されることになるらしい。数年前からはやてと手紙のやり取りをしていたことでかなり早い段階で闇の書の存在を知り得ながら隠蔽していた事実、非人道的なはやてへの態度、そして一番の決め手となった猫姉妹の会話データと殺傷設定での俺への魔法攻撃(俺はその時の負傷で義眼義手ということになっている。戦闘シーンはエイミィが巧妙に編集したおかげでドラゴンインストール姿は映されてない)。他にも違法行為やらなんやら小さな余罪も含めて有罪扱いとなる。更に、「十一年前の闇の書事件も実はグレアムが画策したことではないか」という疑いの声が他の闇の諸事件被害者達の間で示唆され、本人達は必死にその事実を否認しているがグレアムに対する印象が最悪となったのが大きい。エイミィが悲しそうに俯きながら終身刑は確定かも、と言っていた。協力してくれたスクライア一族の半分はほくほく顔で戻り、残った半分は管理局で無限書庫に勤務するつもりらしい。理由を聞くと、「労働条件さえしっかり整えてもらえれば此処は最高の宝の山だ」とのこと。今回の事件を機に、俺は自分を全て曝け出し、そして受け入れてもらった。確かな絆が俺とあいつらの間には存在する。その事実を知ることが出来ただけでも十分価値があると思う。俺の中に存在していた”壁”のようなものは跡形も無く粉砕された。だから、皆が今までよりも近く感じる。皆が俺にとってより大切な存在へとなったような気がする。(木陰の君も、こんな気分だったのか?)世界が色を変える。俺はもう過去に囚われない。本当の意味で『FREE』になれた。皆と一緒に前を向いて生きていこう。もう迷うことも無ければ怯えることも無い。何故なら俺は、もう独りじゃないんだから。こうして平穏な日々は戻ってきた。戻ってきたのだが………(どうしてこうなった?)俺は内心頭を抱えていた。クリスマス”事件”の後。アインが何処で暮らすかという話になり、俺の部屋で寝起きすると発言したことを皮切りに女性陣の間で激しいデッドヒートが繰り広げられ、俺の意思や意見など一切構わず、議論は数時間に及び羨ましいだのズルイだのじゃあ私もとか言い合いに続き、不純異性交遊がどうたらとかいう倫理観的な大人の観点と抜け駆けが云々という牽制の果て、結局アインは八神家で暮らすことになる。しかもアインは翠屋でウェイトレスとして働くことを希望し、士郎は快くそれを受け入れた。「可愛い女性店員は何人居ても困らない!! 眼の保養になるからね、実に素晴らしい!! ソルは良い仕事をしたよ!!!」「貴方………少し厨房裏で”お話”しましょうか」「桃子!? 違う!! 今の言葉のあやだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」朝の訓練に八神家が加わった。なのはとフェイトは今までにも増して甘えるようになってきた。俺の生い立ちを聞いてどうたらとかいう理由だが………はやては一生懸命リハビリ中。その頑張る姿に少し感動してリハビリを手伝うことにする。はやての口元がニヤリと歪んでいたような気がしたが気の所為だろう。シャマルは非常にさり気無くスキンシップを積極的に取ってくるような気がする。本当にさり気無く、いつの間にか肩に手が置かれていたりとか、手を繋いでいたりとか。シグナムには顔を付き合わせる度に模擬戦を申し込まれ、コテンパンしてやるともう一歩も動けないから家まで送ってくれとか言い始めるようになってきやがった。毎回肩を貸して送り届ける俺もつくづく甘い。アインは仕事が無い時は何時も俺の傍に居るのが当たり前になっていた。朝は訓練するから一緒だし、学校から帰ってくると既に家に居る。身体のこともあるので傍に俺が居ると安心するだろうから別に気にしないが。問題は此処から。八神家の面子が高町家に入り浸るようになった。更に、今まで誰にも出入りを禁じていた地下室にアインだけ入ったことがあるのはズルイという話になり、全面開放されることになってしまった。そして、思っていた通り地下室は皆の溜り場になるのだった。小型の冷蔵庫が設置された。シグナムが何処から持ってきたのか畳を敷き詰めやがった。ヴィータがテレビとゲーム機を置くようになった。コタツやら座布団やらが部屋の片隅を占めている。昼寝用の毛布も常備された。鍵も特にしてないので、皆暇があったら地下室に潜って寝転がったりして時間を潰すという不毛なことに時間を使うようになった。今俺の眼の前では自分の部屋でやれと言いたくなる光景が広がっている。なのは、フェイト、はやて、ユーノ、アルフ、ヴィータはゲームに夢中。シグナムは正座して新聞を読んでいる。シャマルは毛布を引っ被ってぐぅぐぅ寝ている。アインはパソコンで何やら調べもの。「返せよ………俺の、俺だけの城」地下室はすっかり占拠されていた。こいつらを此処から追い出すことよりも、街を死都に変えたギアの群れを殲滅する方が遥かに簡単に思えるから酷い。「その、スマンな、色々と」子犬形態でもぐもぐとジャーキーを頬張りながら謝るザフィーラだけが俺にとって唯一の癒しだった。オマケ「お兄ちゃん同盟を改め、淑女同盟の結成を此処に宣言します」なのはが力強く声を上げると、まばらな拍手が起きる。「盟主高町、質問が」「発言を許します、シグナムさん」「ありがとうございます。淑女同盟とは具体的にどのような団体なのでしょうか?」「盟主なのは、その質問には私がお答えします」シグナムに対してフェイトが立ち上がる。「同盟とは文字通りの意味です。同盟メンバーの裏切り行為(抜け駆け)を許さず、ただ純粋に、無垢なる愛情を持ってソルと接することを目的とした同盟のことです」*実際は抜け駆けの応酬です「純粋無垢、ですか」シャマルが反芻した。「はい、邪な感情でソルに近付こうとする輩からソルを守る存在でもあります」*同盟メンバーが一番邪な感情を抱いてます「せやなぁ。ソルくんは優しいからなぁ。ソルくんの態度に勘違いする女も多いやろ」*それはお前ら全員のことだ「つまり、私達はそれぞれソルに対して公平に接し、その上でソルに近寄ろうとする悪い虫を潰せばいいのでしょうか?」「その通りです」同盟の在り方を理解したシグナムになのはは満足そうに頷いた。「しかし盟主なのは。同盟の在り方は理解しましたが、問題が多々あります」アインは挙手と共に立ち上がる。皆はアインに注目し、視線で続きを促す。「今回の闇の書事件において二人から六人へとメンバーが新規参入しています」「「「「「………」」」」」「その原因はほぼ100%の確立でソルの態度の所為です。この際だからはっきりと言いますが、ソルはまともな恋愛経験が皆無に等しく、二百歳以上の癖に女心というものを全く理解していません。我らに対するあのような発言はまだるっこしい言い方を嫌う性格を如実に示しています」「「「「「………」」」」」「下心が一切無いというのは女性の立場からすれば非常に安心出来ますが、逆に言えば期待も出来ません」「「「「「………」」」」」「だというのにあの男が態度を改めなければこのままメンバーがどんどん増えていくだけだと思われるのですが、皆様方はどう思われますか」沈黙がメンバー全員を包み込む。しばらくして、なのはが癇癪を起こしたかのように喚く。「だってお兄ちゃんってば思わせぶりな態度と台詞であっちこっちでフラグ立ててるんだよ!? しかも質が悪いことに無意識に!! フェイトちゃんの時もそうだったし、今回だってそうだし、どうすればいいのかなんて私が知りたいよ!!!」「優しくて頼り甲斐があるのがソルの良いところなのに………それがネックになってるなんて」「そうやった。ソルくんは無自覚一級フラグ建築士なんや。何事にも一生懸命なところが良いんやけど」「普段の面倒臭そうな態度とは裏腹に、あいつは面倒見がいいし真面目ですから。それがソルの魅力です………しかし」「彼ってなんだか危なっかしいから後ろで支えてあげたくなるのよねぇ~」深い深い溜息が吐かれる。「とりあえず皆で四六時中ソルを監視して、何処かでフラグを立てそうになったら即叩き折ろう。これ以上増やす訳にはいかない」アインの言葉に誰もが渋々と頷くのであった。そもそもソルが女性陣に対して女としては見ているが恋愛対象として見てないというツッコミは厳禁である。こうして女性陣の苦労とソルの女難の日々は続く。後書きついに完結しましたA`s編。思えば長かった。皆さんの声援に後押しされて此処まで書き上げることが出来ました!!!本当にありがとうございます!!コンセプトは「過去の呪縛とこれからを生きる未来」。ソルの、ヴォルケンリッター五人の、ついでにその他を含めたキャラクターが過去に囚われずこれからの未来を生きようとする様を描けていたら、と思っています。リインフォースが真のヒロイン的な扱いになったのはコンセプトの所為です。ソルとリインフォースが歩んできた人生を鑑みると納得していただけるかと。これから先は当分の間はA`s後日談、ほのぼのな話が続く予定です。ツヴァイ誕生秘話とか聖王教会云々も後日談で。なのは達は全員管理局へは入局しません。最終学歴中卒とかソルが許しませんので、シグナム達の無償奉仕が終わったら皆で賞金稼ぎとか始めることになると思います。もしくは、クロノ達の依頼を受ける形で嘱託ならぬ派遣として管理局の仕事をほんの少し手伝う程度ならあり得るかも。ではまた次回!!!!