「ク、クロ、ノ」「グレアム提督!?」アースラの医務室に着きグレアムの身体を横たえたところで意識を取り戻したのか、彼はヒューヒューと明らかに異常がある呼吸音を口から発しながらクロノの名を呼んだ。「そう、か………私は、死に………損なった、のか」「喋らないでください!! 今治療します!!!」全身を炎で炙られ、首を一瞬とはいえ人外の膂力で締め付けられたのだ。呼吸するだけでも彼にとって重労働であり、激痛を伴うだろう。それでもグレアムはクロノに何かを伝えようと必死に口を動かした。「クライド、くんに………顔向けで、き、ない、な………彼の………無念、を、果た、そうと、この、十一年………全てを、費やして、きたというのに」「もういいんです、もういいんです!!」「考えて、みれば………わた、し、が、しようと、した、こと、を、知れば、きっと………彼は………怒るだろう、な………か、れはキミと、同じ、で、正義、感が、つよ、い、から………罪の無い、一人ぼっちの、少女に、全て、押し、付ける、ような、おこ、ない、を、許、す、はずが、ない」「………提督」「これを………」彼は震える手で、意識を手放している間決して離そうとしなかった杖をクロノに差し出した。「私には、使い、こなせな、かった………だが、キミなら」氷結の杖デュランダル。「行き、なさい、クロ、ノ………自分、の、信、念を、貫、き、な、さい………決、して、道を、間、違えて、わ、たし、のよう、に、なる、んじゃないぞ?」そこまで言うと、彼は眼を閉じ、人が切れた人形のように動かなくなる。「提督っ!?」「安心してくださいクロノ執務官。意識を失っただけです」傍に控えていた医務官が処置を続けながら進言した。「じゃあ、助かるんですか!!」「それはまだ分かりません。私は長い間医者として生きてきましたが、バリアジャケットを展開しているにも関わらず此処まで酷い火傷を見るのは初めてです」まるでマグマの中にダイブしたような有様だ、と顔を顰め、医務官は魔法を発動させた。「はっきり言って五分五分です。ですが、全力で足掻いてみせます。だからクロノ執務官、此処は私に任せて」「………はい。僕は僕のやるべきことをしようと思います」グレアム提督を頼みますと言い、バリアジャケットの袖で涙を拭いながら医務室を飛び出す。託された杖を手に、クロノはブリッジへと向かった。ブリッジに着くと、まずエイミィに声を掛けた。「状況はどうなっている!?」「クロノくん? グレアム提督は―――」「医務官の話では五分五分らしい。それよりも現場の状況を」皆まで言わせず、冷静な執務官として現状把握に努める。「クロノ。それが………」リンディが厳しい表情で空間モニターを示す。そこに映っていたものは―――「これは………」海鳴市を覆い尽くす大規模な結界。その中心部に、まるで隕石が落ちたかのように巨大なクレーターが出来ていた。クレーターの表面はその一帯を照らすように赤熱化し、黒煙を上げている。「一体何が起きたんだ?」「ソルくんと八神はやてさんを取り込んだ書の管制人格が行ったのよ。ソルくんの法力を使って」「何ですって!?」「ほら、クロノくん覚えてる? 前にフェイトちゃんが海で六個のジュエルシードを強制解放した時にソルくんが使った法力」忘れる訳が無い。ソルという人間の出鱈目な行動はクロノの記憶の中で、忘れたくても忘れられないものになっているのだから。当時は海上で、ジュエルシードを無力化する為に行使された法力だった。しかし、今回は結界の中とは言え街のど真ん中。陸上で使うとこれ程恐ろしい威力を秘めたものだったのか。「なのは達は無事なのか?」「それは大丈夫。ギリギリのタイミングでユーノくんとアルフが転送魔法使って皆逃げたから。今は爆心地から大分離れた所に居る」それを聞いて、クロノは一先ず安心した。だが。「書が”闇の書”として完成してしまった場合、無差別破壊を行うとは報告で聞いていたが………こんな”力”を躊躇無く振るう相手にどう戦えばいい?」問題はそこだった。完成した闇の書ですら厄介極まりない存在で今まで多大な犠牲を生んでいるというのに、それに加えてソルの”力”が加わっている。どれだけの”力”を有しているのか計り知れない。全くの未知数。まずこちらがやることは停戦の呼び掛けと武装の解除、そしてソルと八神はやての解放の要求。それに応じてくれれば全てが丸く収まるのだが、いきなり見せ付けられた破壊の爪痕を見る限り、期待しても望みは薄そうだ。「とにかく、僕は一度なのは達と合流します」「待ちなさい、クロノ」転送ポートに向かおうとしたクロノの背にリンディの声が掛かる。それに首だけ振り返り、クロノは視線を上司である艦長に、自分の母親に視線を向けた。リンディは”母親”として息子に降り掛かる苦難に顔を悲痛に歪ませてから、覚悟を決めたように”艦長”の顔になると、厳かに命令を下す。「必ず皆を無事に連れて帰艦しなさい。なのはさん達は勿論、ソルくんも、八神はやてさんも………当然、貴方もよ」「はい」その命令に全く迷うことなくクロノは頷くと、完全に背を向けて走り出した。そんなクロノの後姿―――此処数日で少し夫に似てきた―――を見て、リンディは複雑な気分になる。「ソルくんがあの時私に言いたかったのはこういうことだったのね」親として子を大切に思う反面、自分は冷徹な組織人として大切な一人息子を戦地に送り出さなければいけないジレンマ。―――ソルくんが時空管理局を嫌う筈よね。「神様………夫を失って以来私が信じなくなった神様………貴方を信じなくなった私が貴方の御名を再び呼ぶことが許されるのか分からない。けど、もし許されるのなら………どうか、どうかあの子達をお守りください」背徳の炎と魔法少女A`s vol.21 不屈の心自身がもたらした眼下の惨状には眼もくれず、焼け爛れた自身の右の手の平をつまらなそうに眺め、忌々しそうに女は吐き捨てた。「脆いな。この程度で火傷を負うとは」放出した法力に耐えられなかった結果だ。ギアは生体兵器であると同時に法力兵器である。その肉体は遥かに人類を超越した膂力と耐久性と生命力を持ち、法力を使う為の肉体へと特化している。だからこそ人間には不可能な法力行使を可能とする。たとえそれが魔導プログラム体と言えど、彼女が扱う法力に耐え切れる程耐久力がある訳では無い。無限再生能力を有している所為で、どうも耐久性に乏しいのだ。ギアコードの侵食により、以前よりもかなり耐久度が上がったのだが生前のオリジナルには遠く及ばない。すぐに再生するとはいえ、脆弱な防御プログラムの肉体を歯痒く思う。「やはり新たな肉体を生成する必要があるな」この肉体では全力を出すことが出来ない。もし全力で法力を行使すれば、エネルギー量に耐え切れず肉体組織が崩壊するだろう。所詮は二級品のものでしかないか、そう思うと溜息を吐いた。完全なるギアとして新たな肉体を生成するには、どうしても時間と莫大な”力”が必要となる。そう考えると非常に面倒に感じてしまう。「いかんな。背徳の炎の記憶から生まれたからか、どうにも奴の性格に引き摺られている部分が存在する」首をやれやれと振り、この首を振る行動自体がソルのものだと自覚すると、少し憂鬱な気分になる。そもそも、自身の内側で必死に抵抗している”本当の管制人格の女”が存在する所為でこの身体は脆弱なままなのだ。その女は身を挺して己の主と守護騎士達、そしてシステムの根幹部分を守っている。つまり、そこまでギアコードが侵食を果たしていない。故に、この身体は支配権を奪った防御プログラムのまま。書にソルの血が取り込まれてからそれ程時間も経たずに封印されてしまったのが侵食し切れてない原因だ。しかし、額にギアマークが現れた以上、その女への侵食も時間の問題だというのに。全く無駄なことをする。そこまで侵食が進めばプログラムの上書きを行い、自分好みの肉体に作り変えれば新たな肉体を生成する必要も無く、あの守護騎士達も意のままに操ることが出来る。せめて並列認識と広域分散制御が出来れば、侵食が進んでいなくても守護騎士達は傀儡にすることが可能となるが、リソースとなっているギアコードはプロトタイプギアのソルのもの。ソルはギアを支配する能力を持っていない。すなわち、ソルのギアコードから生まれた自分にもそれを使うことは出来ない。「まあいい。人間共をこの世から一掃する為にも、手始めにコソコソ隠れている虫けらから蹂躙してやろう」猫科の肉食獣が捕らえた獲物を嬲って遊ぶような嗜虐的な笑みを作り、背に生えた漆黒の翼に命じて飛翔した。クロノと合流したなのは達。ビルの陰に隠れ、シャマルが張った隠蔽結界の中で顔を突き合わせていた。「クロノくん………お兄ちゃんとはやてちゃんを助け出す方法ってあるかな?」ショックを隠し切れない表情のなのはが身体を小刻みに震わせながら問う。「どうだ? エイミィ」『待って。今状況を確認中』皆物憂げな顔で黙ってエイミィの結果を待った。『皆安心して。取り込まれたと言っても、ソルくんと八神はやてちゃんのバイタルはまだ健在してる』その報告に誰もが安堵の溜息を吐く。なのはとフェイトとヴィータなんて半泣きになっていた。『でも、問題が一つだけあるの』「「「何だ?」」」クロノとシグナムとザフィーラの声が唱和する。『はやてちゃんはそんなに書の深い部分に居る訳じゃないんだ。割と浅い、もっと分かり易く言うと助け易い場所に居るんだけど………ソルくんは』そこで一度区切ってから続きが述べられた。『ソルくんは、書の最深部に取り込まれてる。きっと、はやてちゃんと比べたら凄く助けにくい場所に』その言葉を聞いて、なのはとフェイトが絶望的な表情になる。「何故だ!? 何故ソルが主はやてよりも救出するのが難しいのだ!? 本来なら書の管理者である主はやてが書の最深部に居る筈だ? そうだろう?」眉間に皺を寄せるシグナム。『それは、分かんない』申し訳無さそうなエイミィに、シグナムはそれ以上問い詰めるような真似はしなかった。「ねぇ、ちょっといいかな」誰もがどうすればいいのか分からない状況下で、不意にユーノが挙手。皆の視線がユーノに向く。「どうしてあの女の人は法力を使ってたのかな?」その質問に誰もが何を今更という顔をした。「書が以前、ソルの魔力を蒐集したのはキミも知ってるだろう」全員の気持ちを代弁するようにクロノが呆れたように溜息を吐く。「そうだとしてもおかしいんだ」「何がだ?」「法力はそう簡単に使えるような代物じゃない。だって、僕達魔導師には基礎理論すら訳が分からないものなんだよ? 僕は一度ソルに基礎理論を教えてもらったことがあるから分かる。あれは、魔力を蒐集しただけですぐに使えるようになるものじゃない」「………」「ソルは僕にこう言ったんだ。『俺が使う法力は、まずバックヤードと呼ばれる仮想空間を利用する。バックヤードとは理論的には存在が推定されていた五大元素の構成に理由を付ける為の特定言語、もしくはこの世の原理という原理を定義付けする情報が内包された”何か”。現数のリソースを使う錬金術とは違い、その”何か”から強引に”理由”を借りてくることが法力を行使する上で必要となる。宇宙が存在しなければ地球という星も無いように、この世界の事象もまた”何か”が無ければ起こり得ないからだ。極めて限定的ではあるが、法力が一時的にアクセスする不明瞭な世界を”バックヤード”と呼んでいる』って」一語一句間違うことなくスラスラと得意気に語るユーノに、誰もが半ば呆れ、感心し、同時に法力の意味不明さを理解した。「僕の考えではたぶん、ソルが法力を行使する上で重要な部分を担っているから、はやてよりも優先的に最深部に取り込まれてるんだと思う」「でもよ、それが分かったところでどーすんだよ?」苛立たしげにヴィータがユーノに詰め寄る。「そうですよ。はやてちゃんもソルくんも助ける方法が無ければどうにも出来ません」「それにあの巨大な”力”と容赦の無さ………手に負えん」シャマルとザフィーラが項垂れた。「かぁ~!! アンタら現状に文句ばっか言ってないで自分でどうしたらいいのか考えたらどうなんだい!!! その頭は飾りかい!? それに、なのはとフェイトは何時までもしょぼくれてんじゃないよ!!! どんな時だろうと思考するのを止めるなって、いっつもソルが口酸っぱくして言った忘れたのかい!? そんなんじゃ何時まで経ってもソルは帰ってこないよ!!!」ウガァァァァ!!! とアルフが吼えた。「ソルよりもはやてが助け易いってんなら皆で先にはやてを助けりゃいいじゃないかい!! そんで、その後にソルを助ける!!!」「簡単に言うがな」シグナムが苦い顔をした瞬間、「それだアルフ!! 冴えてるじゃないか!!!」「へ?」ユーノが指を弾いて名案が閃いたように大声を出した。「エイミィさん、ソルとはやては今、どんな状態ですか?」『えっと、意識が無い状態、つまり寝てるね』「………だったら叩き起こせばいい」「ちょっと待てユーノ。何か思いついたのか?」クロノの質問に、ユーノは不敵に頷いた。「皆、今から僕が言うことをよく聞いて欲しい。成功するか分からないし、かなり賭けに近い要素が絡んでくるけど、上手くいけばソルもはやても救い出せる」「ユーノくん、それ本当!?」「ソルとはやてが助かるの?」「うん。まず、はやてを叩き起こす。それから起きてもらったはやてに管理者権限を発動してもらう………内側からね」自分の顔の前で、皆に見せ付けるように握り拳を作り、それに力を込めるユーノ。「叩き起こすって、どうやって?」シャマルが首を傾げる。「文字通りの意味さ。全力全開、手加減抜きの魔力ダメージであの女の人をぶっ飛ばすんだ!!!」「「「何ぃぃ!?」」」「「「「「ええええええええええええっ!!!」」」」」『ユーノくん、それって………』「外部から強い衝撃があれば、それが内部に浸透する。そうすれば、中に取り込まれてる二人が眼を覚ます可能性がある」「待て待てユーノ!! 賭けにすらなっていないぞ!!! 無策であの火力に突っ込めと!?」クロノの言い分は最もだった。先程見せ付けられた”力”は戦意喪失させるのに十分な威力を誇っていた。それに真正面から立ち向かえというのは死にに行けと言われるようなものだ。「流石に突っ込めとまでは言わないけど、付け入る隙はあると思う」「その根拠は?」ザフィーラが腕を組んで聞く。「皆は気が付かなかったかもしれないけど、あの女の人がドラグーンリヴォルバーを投げる瞬間、顔を苦痛で歪ませたのを僕は見たんだ。つまり、彼女は法力を使うことは出来ても完璧に制御が出来ていない。もしくは力を持て余してる」ユーノは頭の中での推測を声に出す。「だから、もうさっきみたいな高出力の法力は使ってこない可能性が高い。もし使ってくるとしたら、魔法だと思うんだ。だったら、こっちだってまだ対処のしようがある」「もしそうだとしても、ソルの”力”を使われる以上、接近戦では勝ち目が薄いぞ」苦虫を噛み潰したような表情のシグナムに、ユーノは挑発するように笑った。「じゃあ、尻尾巻いて逃げる? 確かに僕らはこの結界から簡単に抜け出すことが出来る。でも、それが何になるの? 彼女は相手が誰であろうと躊躇無く広域の法力攻撃で焼き尽くす破壊の権化だよ。結界の中も外も一緒さ。むしろ、外の方が実際の被害が出るから質が悪いね。彼女がその気になれば海鳴市なんて一時間もせずに消し炭になるんじゃない?」そうなのだ。結界の中だからこそ、まだ被害が出ていない。しかし、彼女を一度結界の外に出してしまえば、未曾有の大惨事になる。「………もう、いい加減覚悟決めようよ」ユーノは眼を細め、低い声で言った。「このまま僕達が何もしなかったら、あの女の人は結界の外で無差別破壊を開始する。そうなったら海鳴市どころか日本、いや、この地球は滅茶苦茶にされるのは分かってるでしょ!?」これまでの闇の書ですら次元世界を滅ぼす代物なのだ。それにソルの”力”が加わった以上、危険度はそれよりも遥かに高い。「僕は嫌だよ。皆と出会ったこの世界が消えるのもそうだけど、何よりも一番嫌なのは、ソルとはやてが世界を滅ぼす破壊神になっちゃうことだ!!!」血を吐くような慟哭に誰もが眼を見開いた。「皆はそれでいいの!? 僕達にとって大切な人達が、僕達の全てを破壊する。そんなことを黙って見過ごせるの!? 僕には出来ない、絶対に出来ないよっ!!!」知らず、ユーノは涙を流していた。しかしそれを拭うこともせず、ただ己の心情をぶち撒ける。「確かに勝ち目は薄いさ、賭けになってないさ、傍から見たら無謀以外の何物でもないのは分かってる、二人を本当に助けられるかなんて確証これっぽっちも無いよ! だけど!!!」まるでユーノはソルのような鋭い眼光で皆を見た。「ソルから戦い方を教わった時に『常に柔軟にものを考えろ。思考し続けろ。諦めて思考停止するな』って言われ続けてきた。だから、彼の教えに背くようなことだけは絶対にしたくないっ!!!」力を込めて、彼は言う。「僕は戦う。絶対に諦めない」己の意志をしっかりと伝えた。沈黙が降り、誰もがその意志の強さに打ちのめされ―――「そうだね。ユーノの言う通りだと思うね、アタシは」アルフが同意にした。「今まで振り返って見りゃ、アタシ達はソルに頼り過ぎてた。出会った時からアイツにおんぶに抱っこしてもらって、何時も心の何処かで甘えてたんだね。ソルなら大丈夫、ソルならなんとかしてくれるって」「アルフ」ユーノの肩に手を置き、アルフはニカッと笑った。「ここいらでソルに見せ付けてやろうじゃないかい。アタシらだって頼りになるってところをさ」この半年間伊達や酔狂でソルからスパルタ式で鍛えられた訳じゃないんだ、と自信を込めて握り拳を作る。「確かにあの女は強いさ。闇の書とソルの”力”が合わさって馬鹿みたいな魔力を持ってるけど、さっきユーノが言った通りその力を使いこなせてないみたいだし、もしかしたら戦い方がソルに偏ってる可能性がある」「うん」「アタシら高町家の四人がソル一人相手に戦って勝った試しなんて無いけど、これでも結構良い線まで行ったことぐらいは何度かあるんだよ」「今この場には何時もの二倍以上の人数、九人居る」「ソルお得意の接近戦を絶対に一対一の状況に持ち込ませないように、全員が全員のフォローをし合えば」「倒せなくても、ダメージを与えることは出来る筈………ダメージが通れば、内部の二人が目醒める可能性が出てくる」「そう考えればちょっとはやる価値、出てこないかい?」全員を見渡しながら問い掛けるアルフ。それぞれが黙考する中、なのはが一歩前に進み出た。「私、やるよ。だって、お兄ちゃんとはやてちゃんを助けたいもん」その隣のフェイトも手にしたバルディッシュに力を込め、決意する。「私も、このまま黙って見過ごすなんて出来ない」眼を閉じ、黙していたシグナムがゆっくりと瞼を開け、凛として面持ちで口を開く。「そうだな。相手が強大だという理由だけで大切な者を見捨てるのは騎士の名折れ………いや、家族と呼べん」鼓舞するようにシャマルが笑顔を浮かべた。「皆で力を合わせればなんとかなりますよ!!」アイゼンを掲げ、ヴィータが宣言する。「しょうがねーなー。アタシがはやてとソルを助け出してやるよ!!!」腕を組み、ザフィーラが静かに呟く。「全ては、我が主と友の為」次々と参加表明を示す皆にクロノは呆れた。「キミ達は馬鹿かっ!? 本当にそんな運頼みの作戦、と言えるかどうか怪しいやり方でアレと戦うつもりか!?」全員がそれに対して揃って頷いた。それを見て、クロノは頭を掻き、しょうがないと溜息を吐く。「この場に居るのは全員がどうしようもない馬鹿だ………勿論、僕も含めてだ」そしてクロノは不敵な笑みを浮かべると、氷結の杖デュランダルを待機状態のカードからデバイスモードに展開した。諦めない。最後の最期まで足掻いてみせる。断ち切られたのは迷いと諦観。希望と勇気が重なり合い、九つの意志が決意と覚悟を生んだ瞬間だった。絶望を消す去る為に。「ん?」進行方向から九つの魔力反応を感知する。やがてその魔力反応が九人の人間の姿となって現れた。その先頭に立つクロノが口を開く。「僕は時空管理局所属の執務官、クロノ・ハラオウンだ。武装を解除し、ソルと八神はやてを解放しろ。さもなくば執務官としての権限により実力行使に出る」言われた内容の意味に一瞬理解が及ばず呆けるが、理解すると同時に失笑が漏れた。「く、くはははは!! この世界の人間は度し難い程愚かだな。我らギアに交渉だと? 随分とお目出度い連中だ!! そんな愚を犯す人間が居るとは思いもよらなかったぞ」「何だと?」「答えは否だ、人間。我らギアは人類をこの世から根絶する為に生まれた存在だ。殺すべき相手にイチイチ交渉する訳が無かろう」交渉の余地無しという答えよりも、その後の部分がなのは達に衝撃を与えた。「私は忙しい。一刻も早くこの地球の人類を完殺し終えた後、他の世界に蔓延る人類を掃討せねばならん」それはつまり地球だけに飽き足らず、他の次元世界でも殺戮をするという宣言に他ならない。「まあ、地球の前に貴様らの方が先だがな」「待ってっ!!!」なのはが悲しそうな表情で声を掛ける。「どうしてそんな、人を殺すなんてことを簡単に言うの!?」「それが我らギアとしての存在意義だからだ」「さっきからギア、ギア、ギアって………ギアって一体何なんだい!?」アルフが怒鳴る。「自分のことを何一つ語らないのは背徳の炎の悪癖だな」「そのギアっていうのがソルとどう関係するの?」フェイトは内心、嫌な予感を感じながらも聞かずには居られなかった。「そんなに知りたければ教えてやる。ギアとは法力を用いて生み出された生体兵器のことだ」生体………兵器?なのは達の時間が止まる。「そして私も………私の同胞である背徳の炎もギアだ」ソルが、生体兵器?初めて聞かされた驚愕の事実に頭がついてこない。そんなこと、ソルは一言も言わなかった。すずかが皆に自分が吸血鬼だって告白した時、フェイトが皆にアリシアのクローンだって告白した時、皆がそれぞれ隠してきた出自を打ち明けあった時、彼は何も言わなかった。「殺す前に自己紹介しておいてやる」光栄に思えよ、と女は続けた。「我が名はジャスティス。人類を抹殺する為に誕生した唯一にして絶対の存在。完成型ギア第壱号だっ!!!」そう叫び、女―――ジャスティスは一番近くに居たクロノに襲い掛かった。咄嗟にクロノは防御魔法を展開し、迫り来る炎を纏った拳を防いだ。しかし、拳に込められた絶大な力―――物理的な力と魔力量―――にあっさり防御壁が砕かれた。「死ね」声と同時に、もう片方の腕の手刀が心臓に迫る瞬間、「させんっ!!」「おおおっ!!」ジャスティスの真横からシグナムとザフィーラが、剣を、拳を振り下ろした。「ちっ」手を引っ込め、ジャスティスは素手で剣と拳を受け止める。魔力と魔力がぶつかり合い、激しい光と耳障りな音が生まれた。その間にクロノは体勢を整え離脱。クロノを飛び越すようにその背後からヴィータが現れ、「ぶっ飛べっ! テートリヒシュラークッ!!」ソルの魔力供給とデバイスに搭載された増幅効果により、以前なのは達を襲った時とは比較にならない破壊力が両腕を塞がれているジャスティスに振り下ろされた。ドゴッ、と鈍い衝撃音。鉄槌の一撃により、ジャスティスの身体は容易く吹き飛び地表に叩きつけられる。粉塵が上がり、その姿が確認出来なくなる。「すまない、助かった」「気にするな」「手応えはどうだ、ヴィータ?」「分かんねーけど、アイツ今頭に当たりそうだったのを首捻って直撃避けやがった。急所避けたってことを考えると、もしかして攻撃は普通に通るんじゃねーかな?」クロノがシグナムとザフィーラに礼を言い、シグナムはそれに気にした様子も無く油断せずに地表を睨み、ザフィーラの問いにヴィータは首を振った。「なのはちゃんもフェイトちゃんもしっかりしてください!!」後ろではシャマルが必死に二人の肩を掴んで揺すっていた。「え、あ、ごめんなさい」「………ちょっと、ボーっとしてた」明らかにショックを受けた様子の二人。原因は先程のジャスティスの言葉だろう。二人にとってはソルが生体兵器であったという事実よりも、自分達に何も言わなかったという方が衝撃的だったのだ。それはつまり、家族である自分達を信頼していないということ。誰よりもソルを信じていた二人だからこそ、その事実は悲しい程重い。今更ソルが生体兵器であろうと気にも留めないが、その事実を隠されていたことが悔しかった。家族だから、何時も一緒に居たから、誰よりも信頼されているという自負があっただけに尚更。そんな風に落ち込んでいる二人にユーノは後ろから蹴りを入れた。「痛っ!?」「何するの!!」「何時までしょぼくれてんの!? 一瞬でも気を抜いたら死ぬような状況で呆けてないでよ!! ソルが生体兵器だとか、それを今まで秘密にしてたとか今はどうでもいいでしょ!!!」抗議の声を上げる二人の非難がましい視線を真っ向から睨み返す。「そうよ二人共。私達ヴォルケンリッターだって人間じゃないし」「それに、ソルがアタシ達に秘密にしてることがあるなんて今更じゃないか」とシャマル、アルフが言う。「秘密にしてたことに文句があるなら後で本人に聞けばいい。それで答えてくれるか分からないけど、今はそれでいいじゃないか」吐き捨てるようにそう言うと、ユーノはジャスティスの様子を窺っている四人の所へ向かう。「………うん、そうだね。後で一杯、お兄ちゃんとお話すればいいだけだもんね」「今は眼の前のことに集中しよう」眼に力を取り戻したなのはとフェイトを見て、シャマルとアルフは安心すると皆と合流した。粉塵が止み、ジャスティスがその姿を現す。「失念していた。そういえば貴様らのデバイスは、あの忌々しい神器の力を有していたのだったな」ヴィータに打たれた右肩を押さえながら、ジャスティスは顔を顰めた。神器。法力使いの力を飛躍的に高める対ギア兵器。オリジナルのジャスティスが封炎剣を手にしたソルに二度敗北したのを思い出す。はっきり言ってジャスティスはなのは達を舐めていた。所詮人間と二級品の烏合の衆、そう思っていたのだ。しかし、今受けたダメージは実際かなりのものだった。勿論、完全なるギアの肉体であれば取るに足らないダメージなのだが、現段階での侵食率は完全ではない。この身はまだ脆弱な二級品のもの。書を完全に侵食してしまえば本来の力を用いて眼の前の虫けらなどすぐに始末出来るのだが、管制人格の女は頑なに主と守護騎士システムを守り続けている。かと言って、今の身体を捨てて新たな肉体を生成する時間を与えてくれる程甘くは無いだろう。このままでは全力で戦うことが出来ないが、この身体で戦うしか方法は無い。ならば、書への侵食よりも眼の前の敵を殲滅することに集中するべきだ。「良かろう。貴様らを私の障害として認めてやる」額の刻印が全身に漲る魔力に反応し、赤く輝き出す。HEVEN or HELL「皆、気を引き締めろ!!! 此処からが本番だぞ!!!」クロノの声の下、全員が身構え、身体を緊張させる。DUELそれはまるで、かつての聖戦の一コマを切り取ったような情景。Let`s Rock人類対ギアの戦い。その幕開けだった。外側で始まった激しい戦闘。それは明らかに分の悪い賭けにしか見えなかった。なのは達はその圧倒的なパワーに屈しないように、互いにフォローし合うことでジャスティスの苛烈な攻撃をなんとか凌いでいる。いや、凌いでいるという表現は語弊があるかもしれない。あれは必死になって殺されないように戦っているだけだ。接近戦を得意とするシグナム、ヴィータ、フェイトの三人が囲むようにして攻撃を仕掛け、遠距離攻撃を得意とするなのはが誘導弾と砲撃で牽制攻撃を行いジャスティスの動きを阻害し、中距離からユーノがバインドで拘束し、アルフとザフィーラが接近戦チームのフォローをしつつ防御に回り、シャマルが仲間を回復させると同時に強化魔法を掛け、クロノが全体の指示とフォローを行う。即席にしては非常に息の合ったチームプレーなのだが、それでも足りない。届かない。有効打は先のヴィータ以来、まともに取れていない。攻撃は鉄壁の前に容易く防がれ、防御は悪魔染みた攻撃に貫かれ、吹き飛ばされる。追撃を掛けようとしたジャスティスが他の者に邪魔されトドメを差す前に回復、を幾度も繰り返している。このままではジリ貧だ。見る見る内バリアジャケットが、騎士甲冑がボロボロになっていく。勝ち目など最初から無いに等しいというのに。しかし、それでも彼らは諦めない。むしろ、攻撃を食らって回復する度に眼をギラつかせ、雄叫びを上げ果敢に立ち向かっていく。絶対に諦めない。その眼はそう言っていた。(どうして?)あれは人間が勝てる存在ではない。人智を遥かに超えた存在であり、あれに対抗出来るのは同じ人智を超えた存在―――取り込まれてしまったソルしか居ない。ソルの記憶を転写したことによって聖戦がどういうものか知った彼女は、なのは達ではアレには勝てないと分かっていた。なのに立ち向かう彼らは、聖戦時代の聖騎士団のようであった。(どうしてそんなにボロボロにまでなって………)そこで、はっとなる。彼らは自分と同じなのだ。自分がギアコードの侵食から身を挺して主と守護騎士システムを守っているように、彼らも取り込まれたソルとはやてを助けたいのだ。だというのに、自分の体たらくは一体何だ?彼らは身を削る思いをして死と直面しながら戦っているというのに、自分は全てを諦め切ったように耐えるだけ。これでは、あまりにも情けなさ過ぎるではないか。(そうだ………私も、全力で足掻かなければ)彼らに少しでも報いなければ。幸い、ギアコードの侵食はジャスティスが戦闘に集中している所為か緩くなっている。これはきっと彼らの勇気が作ったチャンス。無駄にする訳にはいかない。決断すると、管制人格の行動早かった。「主、主、主はやて!! 起きて、起きてください!!! 貴方の力が必要なのです!!!」眼の前で眠り続ける少女の肩を掴み、少々乱暴に揺する。「………ね、眠い」「起きてください!! お願いです、主はやて!! 起きてください!!」最早形振り構っていられず、襟首を掴んでガクガクとかなり乱暴にシェイクした。「アカンよソルくん………その筋肉は反則やで」しかし、はやては微妙に気になる寝言を漏らしながらニヤニヤとだらしない笑みを浮かべ、一向に眼を覚まさない。仕方が無いので、ソルの記憶から検索した”なかなか眼を覚まさないバカ息子を起こす方法”を実行に移すことにした。「申し訳ありません主はやて。このような起こし方をするのはこれで最初で最後です………起きてください!!!」それは渾身の頭突き。「ほああああああっ!? 頭が、頭が割れるでっ!! 隕石でも降ってきたんか!?」涙目になって周囲を慌てたように見渡すはやてを、同じように涙目になって落ち着くように口を開く。「やっと起きてくれましたか、主はやて」「あっ!! アンタ誰や!? いきなり人の頭鈍器で殴るんはどういう了見………あれ? 会ったことある人? なんとなく見覚えあるわ。というか、此処何処?」我に返ったはやてはキョロキョロと何も無い真っ暗闇な空間を見渡す。「私は書の管制人格、最後のヴォルケンリッターと言えば分かり易いでしょうか。それと此処は書の内部空間です。主は書に取り込まれたんですよ」「思い出したわ。ソルくんが結界張って、皆がグレアム小父さんに焼き入れに行ったと思ったら書がいきなり光ったんや」「はい。封印が解けたことによって、自動防御プログラムを侵食していたギアコードがついに行動を開始しました」「ギアコード?」少し躊躇った後、彼女ははやてとソルを救う為には致し方ないと判断する。「ギアコードとは法力によって生み出された生体兵器ギア、その遺伝子情報だと思ってください」「はあ………それは分かったんやけど、なんで急に生体兵器とか、その、ギア? とか出てくるん?」「書は、ソル=バッドガイの魔力を蒐集したのと同時に、彼の血液も取り込んでしまったからです。それが全ての始まりです」「は? ギアコードって遺伝子情報なんやろ? なんでそこでソルくんの血が………まさか」「お察しの通りです。彼は、ソル=バッドガイは生体兵器ギアです」彼の知らないところで、彼の触れられたくない秘密を暴露することに心を痛ませながら続けた。「書が取り込んでしまった彼のギアコードは、よりにもよって自動防御プログラムを侵食し、書を内側から支配しようとしたのです」「それで?」はやては真面目な顔で続きを促した。「システムの大部分を支配される前に封印を施し今まで耐えてきましたが、封印を破られてしまいました」「さっきのことやね」「そして封印から解放されたギアコードは、書の主である貴方と、オリジナルであるソルを吸収し彼の記憶の転写、その記憶の中からギアとして最も相応しい人格を選び出すと、破壊行動を開始しました」外の戦闘がはやてに直接視えるようになる。「皆!!」「しかし、彼らが今戦ってくれているおかげでギアコードの侵食する速度が激減しています。今ならまだ間に合うかもしれません」「間に合うってどうすればええの?」「まず魔導書本体からのコントロールを切り離してください。そうすればギアの、ジャスティスの干渉を和らげることが可能です」「分かった」眼を瞑り、はやては集中を開始した。車椅子に座っていたはやての足元に、白く輝く三角形の魔方陣が浮かび上がる。ふと、我に返る。俺は雑踏の中、呆然と立ち尽くしていた。「………此処は」見覚えがある。イリュリア連王国。その城下町の繁華街だ。昔、シンを引き取る際に眼にした光景と同じものが視界に広がっている。露天商の話を聞いているカップル、買い物袋を手にした老人、屋台に並んでいる若者達、仲良く手を繋いでいる親子。そこは秩序無く店が乱立し、だからこそ自由な商いが行われるが故に活気に溢れていた。そんな中、治安の低下を防ぐ為に王国騎士が巡回している。道の真ん中で立ち尽くす俺を、行き交う人々は邪魔そうな顔で脇に避けていく。「俺は、書の管制人格に取り込まれて………?」自分で口にした言葉に違和感を覚える。書? 管制人格? 一体何のことだ?思い出そうとするが、記憶に靄が掛かったような曖昧な感覚の所為で、何か大切だったような気がすることを思い出せない。記憶を掘り起こそうとすればする程、思い出そうとしていることが遠のいていくようで、腹立たしい。「………面倒臭ぇ」やれやれと溜息を吐き、思い出せないならそれ程重要なことじゃないんだろうと勝手に結論付け、歩き出す。繁華街を抜けると、足は自然と上級官僚用に区画分けされた高級住宅街へと向く。石畳を踏む俺の足取りは重い。さっきから頭の中で何かが引っ掛かり、それが気になって仕方が無い。そもそも、何故今俺はイリュリアに居るのか理由が分からない。いくら頭を捻って考えてみても答えが出ない。さっき自分で面倒臭ぇとか言って思い出すのを止めていたのに、また思い出そうとしていることが不思議でならない。(何だってんだ? 一体?)苛々しながら歩いていると、気が付けば開けた場所に到着し、石造りの建造物の前に居た。此処は教会だ。カイからシンを引き取った場所。懐かしさがこみ上げてくると同時に、当時のカイの情けない顔を思い出して段々腹が立ってきた。踵を返しその場を去ろうとすると、人の気配がしたのでそちらに視線を向ける。「オ、オヤジ? オヤジか?」右眼に眼帯を装着し、肩に大きな旗を担いだ金髪の青年が真っ直ぐこちらを見ていた。「シン、か?」我ながら呆けた声が口から漏れる。「………オヤジィィィィィィィッ!!!」青年、シンはズドドドドッ、と砂埃を上げながら猛然とこちらにダッシュし、俺の眼の前で急ブレーキすると、心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。「オヤジッ、オヤジッ、オヤジィィィッ!!!」「喧しいっ!! そんなに連呼しなくても聞こえてんだよ!!!」思わずその頭に拳骨を振り下ろして黙らせる。「いってぇぇぇ~、オヤジだぁぁぁ~」「意味分かんねぇよ」殴られた頭部に手を添えながらも喜んでいるシンの姿を見て、一瞬、シンとは全く違う別の女の子を幻視する。―――『えへへ、お兄ちゃん』その女の子は、俺にとってかけがえない存在だったような―――「何時イリュリアに来たんだよ!? ったく、連絡くらい入れろよな………まあいいや。なあオヤジ、折角だからウチに寄ってけよ。皆オヤジがイリュリアに居るって知ったら会いたがるだろうしさ!!」脳裏に過ぎった映像は、シンが俺の腕を掴んで引っ張り始めたことによって掻き消された。「あっ、待て、シンッ」「早く早く~」こいつは外見が大人でも、何時まで経っても中身はやっぱりガキのままだ。何も変わってない。かなり強引に、まるで引き摺られるようにして俺はシンの後について行くのだった。「ちょっと此処で待っててくれよ。今、母さんとカイ呼んでくるから」シンに案内され辿り着いたのはイリュリア連王国の王宮内に存在する客間、と呼べばいいのだろうか? とにかくそんな部屋だった。豪奢な家具が嫌味無く配置された一室で、俺は高価なソファに身を預けて待つことにする。しばらくするとドアが開き、水で構成された球体が入室してきた。「久しいな、フレデリック」「鳥野郎?」「鳥ではない、ドラゴンだ」「悪ぃ、インコだったな」「………もう好きに呼べ」全身を水で覆った鳥のような姿、頭に大学帽子をかぶり、鼻先に眼鏡を引っ掛けた鳥の面、知性を感じさせる口調。ギア消失事件の際にイズナの紹介で出会った自立型ギア、Dr.パラダイム。「廊下で擦れ違ったシンが食事の時間でもないのにはしゃいでいると思ったらお前が来ていたとはな」「あのアホは何時もあんな感じだろうが」「そうでもないぞ。お前がシンを置いて旅立った当初は眼に見えて落ち込んでいたからな。それだけお前はシンから慕われているのだ」「………」俺は返すに返せなかった。「何、気にするな。別にお前を責めている訳では無い。シンはいずれギアと人類が共存していく為には必要不可欠な礎となる。二つの種族のことを考えれば、あの時のお前の選択は正しかった」「そう言ってもらえると助かるな」「? 随分と殊勝なことを言うようになったな。旅先で何かあったのか?」「別に」気まずい沈黙が降り、俺は居た堪れなくなって視線を鳥野郎から外す。そんな俺の態度を気にした様子も無く、Dr.パラダイムは聞いてもいないってのにご丁寧にイリュリアの近況やらカイの仕事の話やら自分の研究内容やらを一人ツラツラ話し始めた。右から左に聞き流しつつ、俺は先程シンを見て脳裏に過ぎった映像を思い出そうと記憶を探っていた。少女。まだ幼い、あどけない少女だった気がする。映像は酷く曖昧で、ぼやけていて、その姿は朧気で、本当にその少女が俺にとって大切な存在だったのかを疑いながら記憶を検索する。甘えん坊で、我侭で、駄々っ子で、人懐っこい子犬みたいな奴だったような―――「あんれまぁ、ホンマに来てるっちゃ」ドアが開く音と共に、訛りがある飄々とした口調が聞こえた。「人外」「お久しぶっちゃ、ソル」そこには頭に狐耳を生やした中年の男。バックヤードの住人。恐らくは異種とカテゴライズされる知的生命体のイズナが居た。鳥野郎を俺に紹介した張本人。こいつもギア消失事件の時に知り合い、何かと世話になった人物だ。「シンが嬉しそうに旗振り回しながら走ってたさかい、驚いたばい。どぎゃんしたか聞いてみると、アンタが来てるってそりゃあもう嬉しそうに答えるけん」イズナは浴衣に似た服をだらしなく着崩して、人の良い笑みを浮かべる。………?浴衣に似た服?脳裏にまた映像が映し出される。―――『お兄ちゃん、似合う?』―――『ソル………ど、どうかな?』「………浴衣?」思わず漏れた独り言。さっきの少女に加えてもう一人、違う少女が映っていた。誰だ? 彼女のことも初めの少女同様、とても可愛がっていた気がする。「おい、フレデリック。どうした? 急に呆けて」「………いや、なんでもねぇ」「疲れてるんじゃなか?」俺は首を振って気にするなと伝えた。「待たせたぜ、オヤジ!!」その時、喧しい声が聞こえたと思ったら弾丸のような勢いでシンが転がり込んできて、それに遅れて二人の人物が入室してくる。「お久しぶりです」「久しぶりだな、ソル」「………ああ」ぶっきらぼうに生返事をすると、一人は女で恭しく頭を下げ、もう一人は男で『相変わらずだな』と苦笑した。顔を上げた女の方と眼が合うと、またもや脳裏に再生される映像。―――『ソル』眼の前の人物に似た誰かを、瞼を閉じ思い出そうとするが、やはり靄がかかったようにその存在を掴ませない。「どうしました?」「いや、なんでもねぇ」女。シンの母親である『木陰の君』は急に両眼を閉じた俺を不思議そうに見ていたので、やはり気にするなと言った。「今日はお前との再会を祝して、ささやかながら宴を開こう」男の方。聖戦時代からの腐れ縁、元聖騎士団団長、元国際警察機構長官、そして今はイリュリア連王国国王になって数年経つ男。シンの実の父親であり木陰の君の夫、カイ=キスクが微笑んだ。「私相手によく此処まで戦ったと、褒めてやるべきか」大地に這い蹲るなのは達を見下ろしながら、ジャスティスは溜息を吐いた。自身の被害はゼロに等しく、敵には多大な損害を与えた。未だに誰一人として死亡していないのは自身に制限が掛かり全力で戦えないというのは当然だが、純粋になのは達が強かったからに他ならない。なのは達は善戦した方だった。絶大な力を前に九人で連携し、懸命に戦った。だが、両者に横たわるどうしようもない力の差を埋めることは出来なかった。「聖戦時代、もし貴様ら程の実力者が背徳の炎と共に聖騎士団に所属していたら、オリジナルの私はもっと早く封印されていたかもしれんな」心にも無い褒め言葉を皮肉としてたっぷりくれてやる。聖騎士団、という単語にピクッと反応を示した。「………聖騎士団。お兄ちゃんが、居た、組織」なのはがレイジングハートにもたれるようにして立ち上がろうとする。「人類が我らギアに対抗する為に国連が創設した法力使いの戦闘集団だ。貴様らが知っている聖騎士団の姿は嘘で塗り固められたもの」「じゃあ、アクセルさんが言ってたことは」「決まっているだろう。背徳の炎が因果律干渉体に嘘を言わせたのだ」片膝をついたフェイトが荒い呼吸を吐きながらジャスティスを睨む。「どうして、そんなことを?」「そんなことも分からんのか? 人類にとって我らギアという存在は殺すか利用するかのどちらかでしかない。それを危惧したのだ」冷たく言い放つジャスティスになのは達は愕然となったが、すぐに満身創痍の身体に鞭を打って立ち上がる。「お兄ちゃんが生体兵器だとか、そんなの関係無い」「ソルはソルだよ。人類を抹殺するなんてことを言う貴方とは違う」眼に怒りを滲ませ、なのはとフェイトは言葉を紡いだ。「ソルは僕達に、色々なことを教えてくれた」「アタシは何度も助けてもらった」ユーノとアルフが膝を震わせながら立ち上がる。「ソルは、貴様のように破壊を求める兵器ではない」「彼は私にとって、不器用だけどとっても優しい男の子です」シグナムとシャマルが搾り出すように声を上げた。「アタシはソルのことよく知らねーけど、アイツがスゲー良い奴だってのは知ってる」「尊敬に値する男だ」ヴィータとザフィーラが苦悶の表情でありながら構えた。「あの性格は人としてどうかと思うが、僕は彼の生き方に純粋に憧れるよ」クロノは疲弊とダメージで飛びそうになる意識をなんとか保ち、今にも倒れそうになりながらデバイスをジャスティスに向けた。誰もがまだ希望を捨てていない。諦めていない眼をしている。「まだ私に勝つつもりか? もう十分”力”の差は理解しただろう。それとも死ななければ理解出来ないか?」ジャスティスは右の手の平に火球を生み出し、それに膨大なまでの魔力を込めた。「せめてもの手向けだ。一瞬で灰も残さず消してやる」火球を握り潰し、半身なった状態でアンダースローの構えを取る。もうダメなのか? やっぱり自分達ではいくら頑張ってもソルとはやてを救い出せないのか?なのは達は半ば諦めながら、その身を焼くであろう絶望の炎に視線を注ぐ。「さらばだ、人間共。サーベイジ―――」<ギアの力の暴走を確認。これより、自律行動に移行します>突如響いた声が、ジャスティスの額の刻印を覆う隠すように現れた赤いヘッドギアが、その動きを封じる。「なっ、これはまさか!!」驚愕の表情になり、見えない何かに拘束されたように動かなくなるジャスティス。「………クイーンの、声?」「ソルの………ヘッドギア?」誰もが聞き覚えのある機械音声に呆然としながら、なのはとフェイトが疑問の声を上げた。『皆、聞こえとる!?』続いてこの場に居ない、書に取り込まれたはやての声が皆の頭に届く。「「はやてちゃんっ!?」」「「「「はやてっ!!」」」」「「主っ」」「八神、はやて?」眼の前のジャスティスは苦しそうに動きを止めている。一体これは? 書の内部で何が起こっている?「良し、とりあえず間に合った。成功やで」「はい、主はやて」「よっしゃクイーンッ!! そのままギアの力を可能な限り抑えるんや!!!」<了解。ギア細胞抑制装置、最大出力>ジャスティスの額に無理やり装着されたヘッドギアがクイーンの声に反応し、それにより侵食していたギアコードが動きを止める。当然、ジャスティスの動きも。何故こうなったのかというと。初めは管理者権限を行使してジャスティスを抑えつけようとしたはやてだが、ジャスティスが自動防御プログラムを支配している所為で、管理者権限が使えなかった。しかし、はやては諦めることなく次の方法を模索し、管制人格にギアの力を抑えつけるにはどうしたらいいのか聞いてみた。ソルの記憶を転写している彼女は、ソルが戦闘時に装着しているヘッドギアが彼のギアの力を抑える効果があると進言し、それを聞いたはやてはセットアップしたソルの姿を思い出す。もしかしてそれってクイーンが持ってるんちゃう?二人は藁にも縋る思いでクイーンに呼び掛けた。最深部にソルと共に取り込まれていたクイーンだったが、補助の為だけに生み出されたデバイスは見事に二人の言葉に応えたのである。残念ながらソルの意識はジャスティスに囚われているままの所為で、起こすことは出来なかった。クイーンには予め、マスターであるソルが万が一ギアの力を暴走させた時の保険として、自律行動プログラムが内臓されていた。その内容とは、ギア細胞抑制装置を強制的に装着させ、装着者のギアの力を減退させ動きを止めるもの。ならば、そのギア細胞抑制装置を外で動いているジャスティスに装備させることは可能なのか?この質問に、クイーンは無機質な声で出来ると答えた。「そっちに出とるのは自動防御プログラムを乗っ取ったギアコード、ジャスティスや。そいつが居る限り私の管理者権限が使えん」「現在はギア細胞抑制装置でギアの力を抑え込んでいます。ですが、何時まで持つか分かりません」「今の内に、皆でそいつコテンパンにして弱らせて欲しいんよ。そうすれば、管理者権限を使って魔導書本体から自動防御プログラムごとそいつを切り離せる」「出来るだけ強い衝撃でお願いします。力を抑え付けているとは言え、暴走した自動防御プログラムを支配しているギアですから」「そうすれば最深部に囚われてるソルくんが眼を覚ますかもしれへん。そうなったらこっちのもんやっ!!!」食事は木陰の君の手料理が振舞われた。それを口にした時、やはり思い出せないが知っている筈の誰かの手料理を脳裏に浮かび上がらせながら、堂々と飲める酒に少々戸惑いつつ、慎ましくも騒がしい小さな宴会は終わった。夜になり俺は用意された部屋に早々に引っ込むが、どうしてもさっきから脳裏を過ぎる人物達が気になって眠れない。溜息を吐き、部屋を出る。静かに輝く満月の下、当ても無く城内を歩き続けた。俺の足音だけが規則正しく響く。何時の間にか、俺は薄暗い玉座の間に迷い込んでいたことに気付く。足を止め、玉座に眼を向けるとそこにはカイが座っていた。「眠れないのか」「まあな」カイは立ち上がり、こちらに近付いてくる。「眠れない夜は剣を振るうに限る。どうだ?」腰の封雷剣を抜くと、構えた。「こんな時間に何考えてやがる………この不良王が」しかし、もやもやしたもんを振り払うにはごちゃごちゃ考えるよりも身体を動かした方が断然良いと思ったので、俺もカイにならって構え………そこで違和感に気付く。―――封雷剣だと?あれはギア消失事件の際、カイが木陰の君を封印する時に代償として失った筈だ。なら、今こいつが持っているのは一体何だ?ズキリッ、と記憶が疼く。思い出せ、思い出せ、思い出せっ!!!自分がイリュリアに居ると自覚した時、俺は何て言った?シンを見て、誰を思い出した?イズナの服を見て、何を思い出した?木陰の君を見て、誰を思い出した?さっきの食事、木陰の君の手料理を食って誰の料理を思い出した?何故、酒が”堂々と飲めること”に戸惑った?「ぐ、ああ」「どうした、ソル?」頭を抱え呻く俺を心配したカイが近寄ってくる。俺はそんな無防備なカイの襟首を掴むと、「オラァッ!!!」「がっ!?」全力で頭突きをした。頭部に鈍い衝撃が走ると同時に、今まで曖昧だった記憶、朧気でぼんやりとした映像、思い出そうとして思い出せなかったものが、鮮明に蘇る。「いきなり何をするっ!?」「うるせぇ!! 偽者の癖に生意気言ってんじゃねぇっ!!」俺の言葉にカイは眼を見開いた。「思い出した………思い出したぜ。危うく大切なことを忘れちまうとこだったぜ。俺はあの時、封印から解かれた書の管制人格に取り込まれた。イリュリアに居る訳が無ぇ」「そうか。思い出してしまったか」「此処は何処だ? 書の内部、術者とユニゾンデバイスを繋ぐインターフェイス空間か? 答えろ!!」封炎剣を構え、眼の前のカイ”もどき”に問い詰める。それに対し、こいつは憎らしい程に冷静な態度で答えた。「此処は夢の中だ」「ああン?」「人は誰しも夢を見る。夢は人にとって願いであり、己が望むものを具現化した世界でもある」「何が言いたい? この世界が俺の望んだもんだって言いてぇのか!?」苛立つ心を隠しもせずに叩きつけるが、臆することなくカイは頷いた。「ギアと人が共存する世界。お前にとって、此処はある意味理想郷だろう?」「………」確かにそうかもしれない。「この世界はギアが兵器として戦争に使われることもなければ、人々がギアを恐れることもない」そんな世界が実在したら、俺は戦うことをやめるだろう。「誰も泣かない、誰も苦しまない、誰も争わない。お前も、罪を背負って生き続ける必要は無い」だが―――「………所詮、夢は夢だ。脳が寝てる間に見ている映像に過ぎん」俺ははっきりとした口調でカイの言葉を断ち切った。「今の俺は現実を生きている。夢の中がいくら理想的だろうと、はいそうですかと投げ出せる程自分の生に無責任じゃねぇ」何かある度にあいつらの顔がチラつくんだ。「それに、俺が自分の犯した罪に背を向けて現実逃避出来たなら、もうとっくに死んでる」あの世界で手に入れた、かけがえのない絆。「あいつらが俺を拒絶しない限り、一緒に生きるって決めたんだよ」守ると誓った、俺の家族。「だから俺は、帰る」帰って、あいつらの顔を早く見たい。まやかしなどではない、本当の、生きているあいつらを。カイは穏やかな眼で俺を見た。「そうだったな。お前は面倒と言いつつ、誰よりも責任感が強かったな。そうでなければ、百年以上たった独りで戦うことなど不可能だ」「だいたい、俺はもう夢を見て喜ぶ年じゃねぇんだよ!! そういうのは、俺なんかよりもシンとかなのはとかフェイトにしてやれ。相手間違えてんだろが!!」「あはははははっ!!!」「笑ってんじゃねぇ!!」一頻り笑うと、カイは真面目な顔で俺に向き直る。「しかし此処が夢だと悟られても、私はお前をすぐに出してやる訳にはいかない」「ああ? よっぽど書は俺を此処に閉じ込めておきたいらしいな」「それは勿論だが、そういう意味では無い」「はあ?」訳が分からず抗議の声を上げた。「お前が最も強くイメージしているカイ=キスクが、ソル=バッドガイを避けては通さんのだ!!!」言って封雷剣を構え、全身に蒼い稲光を発する雷を纏わる。(なるほど………”そういうこと”かよ)俺は納得すると、首を回し、肩を回し、「面倒臭ぇな」頭を戦闘に切り替える。「………」「………」お互い無言で睨みあう。空気が緊張し、張り詰めた糸のようにきりきりと引き伸ばされ、やがてその緊張に耐え切れなくなった時、「てぇぇやぁぁっ!!!!」「はっ!!」俺達は同時に踏み込んだ。奴の突き出された左の肘が、俺の放った右ボディーブローと激突する。鈍い打撃音。有効打を取れなかったことに気にも留めず、俺達は次の攻撃に移った。「いただきぃぃっ!!」「此処だっ!!」斬り上げた封炎剣と封雷剣が交差、轟音が玉座の間に反響する。「ヴォルカニックヴァイパーッ!!!」「ヴェイパースラストッ!!!」跳躍と同時に炎を纏った封炎剣、雷を宿した封雷剣がぶつかり合い、激しい光を生む。そのまま空中で体勢を流れるように次に移行させ、俺は炎を纏った拳を放ち、奴は雷光煌く剣を振り抜いた。「邪魔だ」「斬るっ!!」魔力と魔力の衝突にお互いが後方へ吹き飛ばされるが、反作用を利用して距離を取りながら遠距離攻撃を放つ。「ガンフレイムッ!!」「スタンエッジッ!!」炎の弾丸と雷の刃は空中でぶつかった瞬間、互いの存在を食らい合って消滅する。それを確認すると同時に着地し、間を置かずに駆け出した。奴も俺目掛けて真っ直ぐ突っ込んでくる。「オラアアアアアッ!!」「はあああああああ!!」突進の勢いと全体重を乗せた斬撃がアルファベッドのXを描くように振るわれ、耳を劈く金属音が鼓膜を叩く。俺とカイの視線が交差する。術式を構築、展開、計算に基づいた魔力を術式に流し、法力を発動させる。「タイランレイブッ!!!」「ライド・ザ・ライトニングッ!!!」丁度二人の間の空間に、全く同じタイミングで発生した爆炎と雷撃は鬩ぎ合いながら膨張し、巨大な魔力の渦となって爆裂した。余波に吹き飛ばされる形でバックステップをして距離を取る。空気の揺らぎの所為で歪む視界の向こうでは、俺と同じように後方に退いたカイが油断無く封雷剣を構え直した。HEVEN or HELL「決着をつけるぞ………ソル!!!」カイの全身をまるでバリアのように雷が覆い尽くす。DUEL「悪いが急いでる………ハナッからマジでいくぜっ!!!」封炎剣が俺に意思に呼応して炎を吹き出した。Let`s Rock待ってろよ。すぐにそっちへ行く!!!