SIDE リンディ「では、方針は次の通りでいいわね」クロノが皆の前で決意を示した後、現状把握の為にお互いが持ち得る情報の交換を終えると、各々の役割分担が決定した。「まず私達管理局組はギル・グレアムの捕縛を最優先とし捜索を行います。それと現段階で闇の書もとい夜天の魔導書への手出しはしません。ヴォルケンリッターの四人となのはさん達はギル・グレアムからの襲撃に備えて、八神はやてさんの護衛と状況説明と協力要請を行ってもらいます」それぞれが頷く。「そして、ソルくんはスクライア一族の情報を待ちつつ闇の書を解析、と。こんな感じかしら?」ヴォルケンリッターはソルくんを信じてこちらに協力してくれているのであって、管理局を信用した訳では無い。先の話で尚更管理局には不信感を抱いていると思うと、これがお互いの妥協点なのだろう。いざとなったらソルくんがこちらに協力の要求をしてくることを考えれば丁度良いのかもしれない。「ああ」私の言葉に腕を組んで同意するソルくんの表情は何時もの仏頂面に戻っている。復讐者。先程、彼はグレアム提督と自分のことをそう言った。考えてみれば、彼は初対面の時点でグレアム提督を目の敵にしていて、その時に『かつての同類』と称した。グレアム提督が復讐者だというのは分かる。なら、ソルくんは?今の姿が仮の姿で、本当は二十歳過ぎの成人男性だというのは知っている。けど、一目見てグレアム提督の本質を見抜く眼力は一体何?彼は眼つきを見れば分かると言ったけど、逆に言えばその人物と『同類』だとする彼はどれだけの闇を心の中に抱えているの?聞いても絶対に答えてくれない。皆も彼の過去には触れようとしない。むしろあえて避けているような節がある。彼も決して自分の内側を曝け出そうとしない。だけど、少しだけ垣間見せたあの表情はとても危ういものを感じた。ギブアンドテイクの関係である私がそう思ったのだから、家族であるなのはさん達や彼を信頼して身を預けたヴォルケンリッターはより一層強くそう感じた筈。皆の中心に居る筈の彼が独りに見えてしまうのは気の所為ではない。でも、それが分かったところで彼が拒絶し続ける限り私達には何も出来ないのだろう。彼をなんとかしてあげられるのは、きっと―――SIDE OUT背徳の炎と魔法少女A`s vol.17 憂いの元科学者「そういえばさっきから少し気になっていたんだが」方針が決まったので、管理局組を抜いた面子はこれからはやての家に向かって仮司令部を出ようとしたところでクロノが声を掛けた。「どうしてシグナムとシャマルはソルの封炎剣とクイーンを持っているんだ?」「フッ、それはだな―――」シグナムが何故か誇らしげに、封炎剣をクロノに見せびらかすように語り始めた。その隣でシャマルも嬉しそうに微笑んでいる。そんな二人を少し羨ましそうに見ているなのはとフェイトが俺の腕にしがみついてきた。ユーノとアルフとヴィータとザフィーラは呆れたように半眼になり、エイミィは苦笑い。俺はシグナムとシャマルに封炎剣とクイーンを渡すことになったことの顛末を反芻した。クロノとリンディが仮司令部に到着する二十分程前。軽い立食パーティが開けそうな広さを有するリビングで、「どうしてこんな風にぶっ壊れるまで戦ってたんだよ!!!」俺はソファに座り、テーブルの上に乱雑に置かれた、と言うよりバラバラに分解されたデバイスの部品を指し示しながら怒鳴っていた。部品はどれもこれも所々ヒビが入っていたり破損していたりして、激しい戦闘が行われたというのを物語っている。幸い、AIの本体であるデバイスコアは小さなヒビが入っている程度で済んでいるので、完全に破損した訳では無いようだ。テーブルを挟んだ俺の向かいでは、なのはとフェイトとシグナムとシャマルがフローリングで正座して項垂れていた。「………だって、お兄ちゃんが前に改造してくれたから」「全力で振り回しても大丈夫かなって………」「あれは一部の砲撃魔法を使う時にデバイスと術者本人に掛かる負荷を軽減させる為の機構を組み込んだだけであって、最初から最後まで全力全開で暴れ回る仕様にする為の改造を施した訳じゃ無ぇ!! 組み込みが終わった時に説明しただろうがっ!!!」バンッ、とテーブルを叩くとその衝撃で部品が一瞬だけ宙に舞う。「そもそもお前らは高が模擬戦でヒートアップし過ぎなんだよ。いきなりトップギアで戦い始めたから度肝抜かれたぜ。静止の声すら聞こえてなかったみてぇだったし」「「だって」」「だってじゃないっ!! 何度も言わせるな。お前らはまだ子どもで、その身体は成長期だ。身体の成長に支障が出るから限界を超える魔力の放出は成人するまで控えろって言っただろ? 俺が普段お前らの肉体に負担が掛からないように訓練メニュー作ってやってるってのに、当の本人達がそれじゃあ意味無ぇだろ」周囲ではユーノとアルフの他に、ヴィータとザフィーラが俺に怒られている四人を哀れみの眼で遠巻きに見ていた。「ソル」「んだよ?」不意に、シグナムとシャマルが恐る恐る口を開く。「もうその辺にしてやって欲しい。二人が無茶をしたのは、遠からず私とシャマルにも責任がある」「そうよ。だから―――」「許してやれと? ついさっきまでその二人と殺し合い染みた戦闘をしていたお前らの言葉なんざ聞く耳持たん」「「う」」俺はシグナムのデバイス、レヴァンティンを手に取った。カートリッジの無茶な連続使用、俺のレアスキルによって魔力総量が増えたシグナムの全力魔力解放、同じく全力魔力解放したフェイトとの激しい近接戦闘、やっぱり同様に全力魔力解放したなのはのディバインバスターに真正面から斬り込んだことにより、インテリジェントよりも丈夫なアームドだというのに全体に痛々しいヒビが入っている。連結刃のワイヤーがだらしなく刀身からはみ出て、鞘なんて半ばからポッキリ折れてる。急激に上昇した魔力の内圧と、強烈な外圧である攻撃に耐えられなかった所為だ。なのはのレイジングハートとフェイトのバルディッシュも似たようなもの。AIの最重要部分であるデバイスコアが壊れてないだけで、大破とさして変わらない。<ソル様。まだ決着がついてません><次こそ我が主に勝利をもたらしてみせます><だからもっと強くしてください。ソル様の封炎剣並みに強度を上げてくれると嬉しいです><ついでに早く直してくれると助かります>「人の話聞いてねぇだろ………このクタバリ損ないのポンコツデバイスがっ!!!」レイジングハートとバルディッシュのデバイスコアを引っ掴むと、ゴミ箱の中に叩き込んだ。<<Noooooooooooo!!!>>そこで少しは反省してろ。俺は大きく溜息を吐くと、頭痛を堪えるように額に手を当てる。ひょんなことから始まった高町家VS八神家戦争は、第一戦目でいきなり死合となった。開始二秒で魔力を全開にするなのはとフェイト、それに応じるシグナムとシャマル。「ペース配分? 何それおいしいの?」って感じの全力特攻を敢行し、魔法は非殺傷になっているが殺し合いも同然の鬼気迫る戦闘が繰り広げられ、十分も経たずに先に根を上げたのは術者達ではなくデバイスの方。持ち主の魔力と相手の攻撃がデバイスの耐久力を上回り、ジャンク行きの数歩手前で俺がストップを掛けた。当然、模擬戦は全面中止。レイジングハートとバルディッシュ、レヴァンティンはズタボロ。シャマルのクラールヴィントだけは直接攻撃をしたり防いだりしない補助系だったので破損は免れた形となったのだが、内側はどうなっているのか分からない。見えない部分で魔力による金属疲労があるかもしれん。メンテナンスはした方が良いだろう。「いいか!? デバイスってのは魔導師の補助をすると同時に、術者本人が軽々しく限界を超えないように抑制してる安全弁でもあるんだよ!! お前らはそれを初めから存在してないかのように限界突破しやがって。だいたいお前らは(以下略)」くどくどくどくど、如何にデバイスが術者の身体に悪影響無く安全に運用される為に制作されているか、オーダーメイドのデバイスを一つ制作するのにどれだけの苦労と時間とコストが掛かるのかを説いていると、「ソルくん、そろそろクロノくんと艦長が着くからお説教もそのくらいにしなよ」エイミィがおもむろに近付いてきたので、俺は舌打ちをして打ち切ることにした。「ちっ、言い足りんが時間が足りん。続きはまた今度だ」その言葉にほっとする四人を視界に収めつつ、デバイスの部品をかき集める。「とりあえず修理が終わるまで没収だからな。なのはとフェイトはそれまでなるべく魔法を使用しないこと。訓練も無しだ………ったく、余計な手間掛けさせやがって」「「………は~い」」しょんぼりしながらも素直に従うなのはとフェイト。「ちょっと待てソル。今の口ぶり、お前はデバイスの修理が出来るのか?」疑問に思ったらしいシグナムが口を挟んでくる。「まあな。レイジングハートとバルディッシュの面倒見てんのは俺だし、封炎剣とクイーンを制作したのも俺だ。ついでだからお前らのも診てやるよ」厳密に言えば封炎剣を制作したのは俺じゃない。俺が制作したのは封炎剣の材料となった対ギア兵器”アウトレイジ”。聖騎士団を脱退する時にかっぱらってから数年間はそのまま使ってたけど、結局は俺好みに改造したんだよな。そこまで説明するのは面倒なので言わないが。「修理してくれるのはありがたいが」「わ、私のクラールヴィントは壊れてないわ!! それに、クラールヴィントが無いと困っちゃう!!」「我らは主の護衛をせねばならん。手元に頼れる武器が無いというのは………」シグナムとシャマルが文句を言ってくる。グレアムの件が完全に片付いたとは言えないので、こいつらの言い分も分かる。クラールヴィントは自宅周囲の警戒及び侵入者を防ぐ結界維持などもしてるらしい。「………仕方無ぇ。クラールヴィント、お前の中にあるベルカ式魔法の術式データを全てクイーンに送信しろ」俺はやれやれと首を振り、先程シャマルから取り上げたクラールヴィントに命令する。<了解。データ送信開始………送信中………送信完了>命令に従ったクラールヴィントがクイーンにデータを送り、<データ受信中………受信完了………ベルカ式魔法のインストールを開始>クイーンが受け取った術式を組み込み、シャマルが使うベルカ式魔法をクイーンで使えるように準備が行われる。「え? ちょっとソルくん、何をしてるの?」<インストール完了>戸惑うシャマルをよそに、クイーンの準備が整う。「よし、封炎剣を出せ」<了解>虚空から現れた封炎剣を手に取ると、バリアジャケットと同じ魔力で構成された布で刀身を綺麗に巻く。布で包んだ封炎剣をシグナムに渡し、首から下げていたクイーンをシャマルに放り投げる。シグナムは呆然と封炎剣を受け取り、シャマルは「はわわっ」と慌てながらクイーンをキャッチした。「しばらく貸してやる。これで文句無ぇだろ」「「………」」時間が止まったかのように動きを止める面々。俺は首を回してゴキゴキ鳴らすと、ゴミ箱から二つの馬鹿デバイスコアを回収し、テーブルの上に載ったレヴァンティンとその鞘とクラールヴィント、馬鹿デバイスの部品を全て転移法術で地下室に送った。「い、いいのか?」やがて凍っていた時間が溶けたのか、シグナムが聞いてくる。「封炎剣はデバイスじゃねぇから今まで通りの魔法を使うことは出来んが、武器としてならそのまま使えるし、魔力を込める媒介としてなら優秀だぜ。クイーンはクラールヴィントから受け取ったベルカ式魔法をインストールしたから今まで通り使える筈だ。元々クラールヴィント同様、補助専門のデバイスだしな」「いや、私が言いたいのはそうではなく」「こ、此処までしてくれるなんて、いくらなんでも―――」「迷惑か?」「「迷惑だなんてとんでもない!!」」「ならいいじゃねぇか、俺が勝手にやってるんだ。一々気にしてんじゃねぇ」「「………」」シグナムとシャマルはそれぞれ自分の手にある俺の物をしばらくの間黙って見つめた後、「ありがとう」と頭を下げた。その隣でなのはとフェイトが再起動する。「何考えてるのお兄ちゃん!?」「封炎剣もクイーンも大切なものなんでしょ? そんな簡単にシグナムとシャマルに渡しちゃって………」二人は、どうしてそこまで俺が肩入れするのか理解出来ないと不満気に頬を膨らませた。ま、自分でも過剰と言えるくらいに肩入れしているのは自覚している。昔の俺だったら絶対にあり得ない。我ながら恩着せがましいことをしていると思っている。これが同情なのか、似たような境遇に対する共感や仲間意識なのか、ただのお節介なのか、それとも全く別の何かなのか俺自身判断出来ない。考えても仕方が無い。俺も高町家の人間だ、ということで納得しておこう。………いや。俺はきっとヴォルケンリッターとはやてを過去の自分に重ねて見ているのかもしれない。そしてグレアムも。あの時、プロトタイプギアのサンプルとして実験動物と同じ扱いを受けた『フレデリック』をはやてに。ギアとして生まれ変わった『ソル』をヴォルケンリッターに。復讐鬼であった『背徳の炎』をグレアムに。だからこそなんとかしてやりたいという想いがあると同時に、グレアムのことが気に食わない。同じ復讐者の癖に何を勝手なことを、と我ながら思うが、かつての自分の姿を見せられること程の屈辱は無い。(嗚呼、そうか)今更になって気が付く。PT事件の発端以来、どうして俺はこんなに感情的になるのかようやく分かった。なのはに魔法の”力”を与えたユーノに何故あそこまで激怒したのか。ジュエルシードをばら撒いてしまったことを嘆くユーノを、どうしてすぐに信頼するようになったのか。どうしてあそこまでフェイトを救いたいと思ったのか。プレシアに殺意を抱く程怒りを感じた本当の理由。答えは簡単だ。全部、良い意味でも悪い意味でも、昔の自分に重ねていたんだ。プレシアとグレアムは、昔の自分を見せ付けられてるようで自己嫌悪が沸いてきたから。なのは達には昔の俺みたいになって欲しくなかったから。ひたすら贖罪を求めて戦い続ける日々。自分の傍には誰も居ない、孤独。そんな十字架を背負わせたくなかった。―――というだけの”自己満足”でしかない。もっともな理由に理屈を付けて自分の中で正当化しているだけ。人間を辞めて百年以上経ってるっていうのに、俺は実に”人間らしい理由”で動く自分勝手なエゴイストだというのを改めて自覚した。とても皮肉で滑稽だ。「お兄ちゃん?」「ソル?」ぼんやりと意識を思考に埋没させてしまっていた。そんな様子の俺の顔を不安そうに覗き込んでくるなのはとフェイト。俺は自分でも驚く程自然な動きで眼の前の二人を抱き締める。「え……」「あぅ」戸惑う二人の頭をそれぞれ撫でながら、出来るだけ優しい声を出すように努めた。「問題無ぇ。気にするな」まるで、自分に言い聞かせるように。少し頬を染めながら小さくコクリと頷いた二人の愛娘が、俺にとってどうしようもない程大切なのだと実感する。伝わってくる二つの体温は、ささくれ立った心を癒してくれるような温もり。胸の内に燻っている”本当の自分”を曝け出すことの出来ない臆病な心に後ろめたいものを感じながら、俺は自分を誤魔化すように二人の柔らかな髪に手櫛を通し、これからについて頭を切り替えることにした。「馬鹿かキミ達はっ!? 何故こんな時に模擬戦でデバイスを壊してるんだ!!」話を聞き終えたクロノは予想通り爆発した。もっと言ってやって欲しい。「特にシグナム!! キミはヴォルケンリッターのリーダーだろう。護衛はどうするんだ!?」「その為にソルが封炎剣を貸してくれたぞ」「確かそれって法力使い専用の武器じゃなかったか? キミは法力使えないだろうっ!」「試してみないと分からないが、ソルの話では私の魔力変換資質が炎熱であるおかげで、法力が使えなくても剣に魔力を通せば今までと大して変わらんらしい。シュランゲフォルムとボーゲンフォルムが使えなくなったと思えばいい」「………ていうかキミ、なんでそんなに嬉しそうなんだ?」「そ、そんなことはないぞっ!! べべべ別に、ソルの、騎士の魂である剣を一時とはいえ貸してもらえることを喜んでいる訳では無い!! 断じて!!!」口元を緩めながら必死になって本音をだだ漏れさせているシグナム。どうりでさっきから大事そうに抱えてる訳だ。「ソル。この四人のデバイスが直るのは何時だ?」うんざりしながらこちらに視線を向けたクロノが問い掛けてきた。「あ~、クラールヴィントは壊れた訳じゃねぇからメンテナンスしてから細かいチェックするだけだから時間は掛からん。レイジングハートとバルディッシュは予備の部品があるからそれを組み換えるだけなんだが、本人達がそれで満足するとは思えねぇ。レヴァンティンは完全に部品作りから始まるから………」俺は顔を上げ虚空を睨みながらどれだけ時間が掛かるか計算していると、四人が期待するような眼差しで見てきた。「何だよ?」「お前には主はやてのこともあるし、夜天の魔導書のことも任せてしまっていて、その上レヴァンティンの修理もしてもらい、封炎剣まで貸してもらって、その、厚かましいというのは重々承知しているんだが、私のレヴァンティンをだな………」少し申し訳なさそうにしながら、歯切れが微妙に悪いシグナム。「お兄ちゃんレイジングハート強くして!!」「バルディッシュも!!」凄く自分の気持ちに正直ななのはとフェイト。その素直さに尊敬の念すら覚える。「クラールヴィントもお願いします」なのはとフェイトに便乗するシャマル。こいつって結構ちゃっかりした性格なのな。「………こいつらの要望とデバイス本人の要望を加味した上で俺が納得出来る安全性を有したものを仕上げる場合………二、三日丸々徹夜すればなんとかなるだろ」部品の材料とデータは揃ってるからな。地下室には素材ブロックも十分にある。部品は必要な分だけその都度練成・加工すればいい。もうこの際だからレヴァンティンは封炎剣の改造用に作り置きしていたものを流用しよう。いっそのこと神器の機能である”法力を増幅する”という特性を魔法に置き換えて全てのデバイスに採用しよう。んで、その代わりにデバイスと術者に少なからず負担を掛けるらしいカートリッジシステムを除去しちまおう。あんなシステム、道具と術者の寿命を縮めるだけだ。クラールヴィントはクイーンを制作した時のノウハウを活かそう。術式がミッド式とベルカ式で違うが、法力使いの俺にとってはそれ程気になるレベルじゃない。データの吸出しと解析の仕方はミッド式にしたものと同じやり方で十分の筈だ。レイジングハートとバルディッシュはあいつらの無茶な要望に安全性をどれだけ割り込ませるかが課題。「三日か………主への侵食は持ちそうか?」「俺のレアスキルがある限り時間稼ぎは出来ると思うが、この後はやての家に行って供給する。念には念を入れて一日に一回は供給するとして、書の解析と並行して作業することになることを考慮すると………今週末まで掛かるかもしれん。だが、書への介入はスクライアからもっと重要な情報が来るまで下手な手出しはしたくねぇ」「そうか。一応、時間には余裕があるんだな?」「楽観視出来ねぇが若干な。それでも急ぐつもりだ」「なーなー」「あ?」クロノと話し合っている時に、ヴィータが俺のジャケットを後ろから引っ張ってきた。首を捻って視線で「何か用か?」と問う。「シグナム達が終わったらでいいからよ、今度アタシのアイゼンも診てくれよ」「………終わったらな」俺は深々と溜息を吐くと、皆を率いて仮司令部を後にした。SIDE はやて「はやてー、ただいまー」ヴィータの元気な声が玄関の方から響いてくる。「主はやて、ただいま戻りました」「ごめんなさいはやてちゃん、遅くなっちゃいましたぁ」「ワン」それから順にシグナム、シャマル、ザフィーラの声。「邪魔するぜ」「はやてちゃんお邪魔しまーす」「お邪魔するね、はやて」「おおっ!! 良い匂いがするっ!!」「アルフ、開口一番でそれは行儀悪いよ。お邪魔しまーす」続いてソル達の声が聞こえてきた。ん? 一人だけ聞いたことの無い女性の声やったけど、誰?たくさんの足音と共に皆がリビングに顔を出した。「皆おかえりや。それと、ソルくん達はいらっしゃい」さっきソルくんから変な内容のメールが送られてきた時はホンマびっくりしたわ。『高町家と八神家の戦争が終わったら皆でお前ん家に邪魔する』なんて内容が来たら誰だって驚くのはしゃあないと思う。そのことについて文句言ったら皆がソルくんのこと睨んでた。せやけどソルくんは「事実だろうが」とだけ言うと不貞腐れたようにそっぽ向いた。「それにしても皆が知り合いだったなんて全然気が付かなかったわぁ」「それについては後で纏めて説明する」「そやね。じゃあ、皆でご飯にしよ。事前に連絡してくれたおかげでちゃんとソルくん達の分も用意出来たし、遠慮せんでええよ」「はやての料理はギガうまだぞ!!」そして、何時もの倍近い騒がしさで夕飯が始まった。皆でご飯を食べ終わってから、なのはちゃんとフェイトちゃんが淹れてくれたお茶が全員に行き渡ると、ソルくんが真面目な、鋭い眼つきで口を開いた。「さて、そろそろ俺達が此処に来た本当の目的を話すぜ」ソルくんが真剣な表情になるので、それが皆に伝播して空気が緊張を孕む。「何から話せばいいのか迷うが、まずは俺達のことから話そう」ソルくん、なのはちゃん、フェイトちゃん、ユーノくんは皆魔法使い、魔導師であること。そして今日初めて出会ったアルフさんはフェイトちゃんの使い魔で、ウチで例えるとザフィーラにあたるとか。なのはちゃんを除いた四人は紆余曲折を経て高町家に居候することになったこと。ソルくんだけ五年前くらいからで、他の三人は半年前くらいから。話が長くなるのでこの部分はまた今度って言われた。「こっからが本題なんだが」今月の頭に、すずかちゃんとソルくんに初めて会った日に、ウチの四人が高町家の五人に喧嘩売ったらしい。ソルくんにはシグナムとシャマルが。なのはちゃんとフェイトちゃんとユーノくんとアルフさんの四人には、ヴィータとザフィーラが。闇の書を完成させようとして、ソルくん達の魔力を狙って襲ったという。「なんでそんなことしたんっ!? 私が何時闇の書の完成を望むって言うた!?」私は語り手であるソルくんではなく、我が家の家族に非難するように問い詰める。四人共怒られるのが分かってたのか、素直に頭を下げた。「主との誓いを破る真似をして、申し訳ありません」「ゴメンな、はやて」「ごめんなさい」「申し訳ありません」テーブルに頭がつく程謝る四人。「私より先に皆に謝るのが先やろ」「それは別にいい。返り討ちにしたから」「そう言ってくれると………は?」「はい。完膚無きまでに敗北しました。ソルに」「結局アタシらボコられて帰ってきただけだしな」少し悔しそうに呻くシグナムと唇をアヒるみたいに尖らせるヴィータ。「それにしてもどうして私に内緒で闇の書を完成させようとしたん? あれ程人様に迷惑掛かるからダメやって言ったのに」「それは闇の書がお前の病に関係してるからだ」「へ?」此処からはマジでヘビィな話だから覚悟して聞けって言われた。それに頷くと、ソルくんは重い口調で続きを語る。私が物心ついた頃から足が不自由なのは闇の書の所為。まだ幼い私のリンカーコア(魔力溜めるタンクだと思え言われた)から魔力を食い続けてたみたいだけど、子どもの未成熟なリンカーコアでは魔力が圧倒的に足りないので、足りない魔力を補う形で肉体機能が低下したとのこと。それが下半身が不自由な理由。六月に私が九歳の誕生日を迎えた時、つまり闇の書の主として私が第一の覚醒してシグナム達が書から出てきた時に、四人の肉体維持を行う為に私の魔力を更に消費することになり、麻痺が進行しどんどん上に登ってきた。蒐集を一定期間してなかったので書から私への侵食が始まり、麻痺に拍車が掛かった。このままでは内蔵機能の麻痺に至る可能性がある、いや、確実になるとのこと。「そうなった場合、お前は死ぬ」ソルくんがそう断言した瞬間、「お兄ちゃんっ!!!」「「「ソルッ!!!」」」「ソル貴様ぁぁぁ!!!」「テメェッ!!!」「ソルくんっ!!!」ザフィーラを除いた全員が手に持っていた湯飲みをソルくんに向かって投擲した。中身が入ったまま。「熱っ、イテッ!! やめろ!! 悪かった、悪かったよ。もっとオブラートに包んで逝去するって言えば―――」「何処がオブラートやっ!!!」私は思わずツッコミを入れた。中身入った湯飲みを投げるという形で。