闇の書の”闇”。自動防衛プログラムの暴走部分に、ギアコードが取り込まれた。それはまるで、受精卵が子宮壁に着床するように。ギアコードとは人間でいうDNAであり、ギアを構成している全ての情報が内包されたもの。しかしそれは、人間や動物などの既存生命が持つ遺伝子情報とは比べ物にならない程に苛烈なものを孕んでいた。本能に直結する破壊衝動。生物を兵器として運用する上で邪魔な理性と意思を押し潰し、目標を完膚無く駆逐する為だけに存在するそれは、ギアが兵器であるという紛れも無い事実。そして戦いに適した身体への肉体変化。それらは防衛プログラムを著しく変質させるものである。始まってしまった胎動。最低最悪の運命の歯車が回り始める。―――ドクンッ。管制人格は戦慄した。闇の書に付着し、防衛プログラムに取り込まれた血液が持っていた謎の情報。その情報が、防衛プログラムを侵食し、支配下に置いている。本来ならあり得ないことだ。血液など生物の体液でしかなく、プログラムやデバイスに影響を及ぼすことなど不可能だ。だが、現にその情報は闇の書にとてつもない影響を与えている。しかもより悪い方へ。それは既に、崩壊へのカウントダウンが始まっていることと同義であった。もし闇の書が完成してしまえば、それは塞き止められたダムが崩壊するように破滅を撒き散らすだろう。そうなってしまえば、全てが終わる。自分に出来ることは、ただそれを抑えつけ耐え忍ぶだけ。しかしそれも持って数日。やがて自分の力を超えたそれは暴れ出し、完成を目指してオリジナルの情報と”力”を求めるだろう。一度蒐集した相手は二度も蒐集出来ないというロジックは既に書き換えられている。それに、変質した自動防衛プログラムが求めるのは魔導師の魔力ではなく具体的な情報だ。アレを完成するには”力”を完璧に制御する術と、高度な知識を必要とするらしい。それを取り込んだ時、真の意味で闇の書の”闇”が完成してしまう。今回も、終わってしまう。待っているのは最悪の未来。もう、時間は無い。背徳の炎と魔法少女A`s vol.14 見える心、見えない心「「「「「「「説明になってない」」」」」」」我が家のガキ共とこの場に居ないシャマルを抜いたヴォルケンリッターが綺麗に声を揃えて言った。俺はその返答にやはりなと思いつつも、このまま無理やり強引に納得させようと決めていたので押し切るように言い放つ。「納得するしないはお前らの勝手だ」「納得するも何も、お兄ちゃん説明らしいこと何一つ言ってないよ」なのはに他の面子がそうだそうだと同調する。「大人の姿でいると傷が勝手に治るとか言われても、納得出来ないよ」フェイトが俺の瞼の上に手を乗せ、右眼に心配そうな視線を送ってきた。(どう説明しろってんだよ?)内心で焦りながら俺は悶々としていた。内臓や眼球のような重要な器官を再生させるような技術―――しかも個人レベルの応急処置のような感覚で―――は今の地球の医療では勿論、魔法文明が発達したミッドチルダでも不可能だ。しかも一時間も経っていないという短時間で完治などあり得ない。法力でだって失った内臓を再生させるなんてことは無理だ。こんなことが可能なのは俺がギアだから。肉体を構成するギア細胞が欠損した部分を勝手に修復してしまう。さっきまではその修復速度を上げる為にドラゴンインストールの状態を維持していた訳なのだが。俺の身体が持つ異常性を説明するには、どうしてもギアの説明をする必要がある。だが俺は、数日前のようにギアを例え話として出しても、詳しい説明をする気は無い。―――説明なんて、出来る訳が無い。適当な言い訳をいくら考えても思いつかない。だから俺は、大人気無い態度に出ることにした。醜くて薄汚い保身の為に。「………うぜぇ」乱暴に吐き捨てるとなのはとフェイトの手を振り払う。「あ………」「お兄ちゃん?」明らかに俺の纏う空気が変わったことに誰もが戸惑い、緊張する。そんな面子に冷ややかな視線で一瞥すると、立ち上がり、部屋の外へと歩き出す。「待ってよソルっ!! 話はまだ終わってない」「そうさ、皆にこんな心配掛けてその態度は無いんじゃないのかい?」ユーノとアルフの咎めるような口調に立ち止まるも、俺は振り向かずに口を開いた。「俺が何時、お前らに心配してくれと頼んだ?」これから俺は、大切な家族に最低なことを吐く。「何時も俺を心配させてるお前らが俺の心配だと? 俺に甘ったれてるだけのガキが笑わせるな」こんな暴言が言いたい訳じゃない。「半人前の癖に生意気なこと言う暇があるんだったら、俺が認めるだけの実力でも身に付けたらどうだ?」ただ俺は、自分のことを知られるのが怖いだけなんだ。「お前らは俺が居ないとダメなのか? 俺が居なくなったら死ぬのか? だったらこの先、生きていけねぇな」誰か俺を、止めてくれ。「何時までも俺がお前らの傍に居ると思ったら大間違いだ」本当はずっと傍で見守っていたい。(………クソが)自分自身に胸中で毒を吐きながら、俺は逃げるように仮司令部を後にした。SIDE フェイト普段はとても大きく見えるソルの後姿が、私には何時もよりずっと小さく見えた。それと、あの態度に対する小さな違和感。怒ってる感じでも、苛々してる感じでもない。あれはまるで―――「何だあのソルの態度は? 人が心配しているというのに、一体何様だ?」腕を組み、シグナムが不機嫌な声で文句を言う。「オメーらはあんなこと言われて何とも思わねーのかよ」ヴィータも頬を膨らませながら苛立たしげにしている。「………」ザフィーラは何も言わず眼を瞑り、何か考えごとをしているようだ。「さっきのお兄ちゃん、なんか変だった」「うん。ソル、普通じゃなかった」私はなのはの言葉に頷いた。「そうだね。ソルって普段から無口でぶっきらぼうだけど、口を開くと意外に理路整然とものを言うタイプの人間だから、さっきの物言いは彼らしくないね」「なんかあいつ、何かに八つ当たりしてる感じじゃなかった?」一緒に暮らしてる皆はちゃんと気が付いていたようで、私は少し嬉しくなる。「そうなのか?」訝しげな表情のシグナムに高町家はうんうんと首肯した。「お兄ちゃんが怒るともっと怖いし」「そういう時って大抵私達が悪いことしたか、心配させた時だから」「彼、結構見てないようで僕達のことちゃんと見てるんだよ」「アタシらの保護者って何時も言ってるからね」私達の態度に、シグナムは「お前達がそう言うならば、そうなのだろうな」と納得したみたい。「でもよー、だったら尚更だろ? なんであんな態度取ったのか分かんねーよ」頭の後ろで手を組んだヴィータが唇を尖らせる。そう言われてみれば………どうしてだろう?何時もなら、これこれこういうことだからこうなる、っていう風に順序良く物事について教えてくれるソルが、碌な説明もせずに部屋を出て行ってしまった。「………考えられることがあるとしたら一つ。法力だと思う」ユーノが顎に手を当て、難しい顔をした。やっぱりそうなのかな?「何だ、その法力というのは?」あ、そういえばシグナム達は知らないんだっけ。「法力っていうのは、僕らが使うミッドチルダ式魔法でもなければ、キミ達が使うベルカ式魔法でもない、ソルだけが使うことの出来る魔法のことだよ」「ユーノくん、シグナムさん達に教えちゃっていいの?」「名前だけならいいんじゃない? どうせ僕が知ってる法力のことを全部教えたって何も出来っこないし」しれっと言うと、ユーノはシグナム達に説明し始めた。「正直僕もよく分かってないからところどころ省いて簡単に説明すると、ソルは本来魔導師じゃなくて法力使い。今言ったように、法力ってのはミッド式でもなければベルカ式でもない全く未知の魔法のこと。僕は一度基礎理論を教えてもらったことがあるけど、何を言ってるのかチンプンカンプン。ただ一つ言えることは、僕達が使う魔法とは根本的に違う理論で構成されているということ」首を横に振りながら肩を竦める。「そして、さっきの大人の姿をしていた状態がソルの本当の姿。普段は”力”を封印してるらしいよ? だから子どもなんだって」「何ィィィっ!?」弾かれたようにヴィータが反応した。「どうしたヴィータ?」横目で問い掛けるシグナムには答えず、「ズリーぞあの野郎………アタシだって」とかぶつぶつ言ってるのが聞こえる。「で、さっきのクイーン、ソルのデバイスが言ってた内容。右眼の眼球を再生したってのと、ドラゴンインストールを解除して大人から子どもに戻ったことから分かるのは、ソルは大人の姿を維持することで怪我を治癒していたってことかな」「しかし、そんなことが本当に可能なのか? いくら大人の姿が子どもより優れているとは言え、潰れた眼球を修復するなどあり得ん」「でも事実だしなぁ」「それは………そうだな」うーん、と皆で唸ってしまう。そんな時、今まで黙っていたザフィーラが独り言のように呟いた。「ソルが自分から話さない以上、我らが考えても仕方が無いと思うぞ。それよりも今はもっと優先すべきことがある筈だろう?」「………そうだよ!! あいつが使う魔法のことはこの際どうでもいいじゃんかよ!! はやてをなんとかしてくれるって約束だろ!!!」「む、ザフィーラの言う通りだな」すっかり忘れていた。今はソルのことをあれこれ考えるよりも先に、闇の書もとい夜天の魔導書をなんとかして、はやてを病気から救うのが先だ。「それはそうなんだけど、肝心要のソルが………」「「「「「あ」」」」」」ユーノの冷静な突っ込みに、私達の中心であるソルが機嫌を損ねて何処かへ行ってしまったことを思い出す。「どうすんだよ!?」「落ち着けヴィータ」「はぁ」騒ぐヴィータを宥めるシグナム。その隣で疲れたように溜息を吐くザフィーラ。私はそんな光景を視界に入れつつ、さっきのソルの態度のことを考える。あの時のソルは今まで見たことが無い程弱々しく感じた。それでも虚勢を張ろうと無理に強い口調を使っていたように思えてしまう。乱暴な物言いはソルの心の奥を隠しているように。冷たい背中はとても寂しそうで。まるで、何かに怯えてるみたい。それ程までに、ソルは自分の身体や法力について知られたくないことがあるのだろうか。もしそれを知ってしまったら、ソルが何も言わずに何処か遠くへ行ってしまうような、そんなどうしようもない不安に駆られる。(嫌だ、嫌だよ!!!)慌ててその恐ろしい想像を消す。しかし、不安を完全に拭うことは出来なかった。SIDE OUTあれから一人になりたくて当ても無く夜の帳がすっかり落ちた街中をフラフラと歩き、知人友人に見つかるのを恐れて普段はあまり行かない場所へと足を向ける。そして気が付けば公園のベンチに座り、自己嫌悪しながら溜息を吐いていた。あいつらが俺のことを慕っているんだから、純粋に心配するのは当たり前だ。俺が逆の立場だったら意味も無く暴れ回る自信がある。それだけ大切な存在なんだというのが嫌という程思い知らされた。だというのに俺のさっきの態度は一体何なんだ? 悪いことをして叱られた子どもが自分の非を認めてないような、妙に腹立つ態度だ。「無様だな」自嘲して唇を歪めると、「ええ、本当にね」おっとりとした口調の声がすぐ傍で聞こえた。声がした方に眼を向ける。「こんばんわ」そこにはクスクスと面白そうなものを見つけたと言わんばかりに微笑むシャマルが居た。「隣、いいかしら?」「………好きにしろ」我ながら覇気の無い声が出る。「こんなところで何してやがる?」「それはこっちの台詞よ。今頃シグナム達と情報交換とか、これからについて綿密な打ち合わせとかしてると思ったら、こんな人っ子一人居ない公園で元気無く項垂れてて。しかも私の接近に全く気が付かないし。今の貴方、初めて会った時と比べたらちっとも怖くないわよ」「………」シャマルは意識してないんだろうが、その言葉は今の俺の状態を非難しているようで、結構辛辣に聞こえないこともない。「むしろ凄く弱くて、今にも消えてしまいそうな程儚く見える」否定は………出来ないな。「なんて言うか、寂しそう。一人になりたいのに独りになりたくないって感じかしら?」「訳分かんねぇよ」「ええ。私も自分で言ってて意味分かってないわ」ニコッと笑みを浮かべるとシャマルは声に出して笑った。それから不意に、シャマルは真面目な表情になると、重々しげに口を開く。「右眼のこと?」「っ!?」驚きで眼が大きく見開かれたのを自覚する。「私はヴォルケンリッターの参謀よ。仲間の状況や得た情報を常に把握して、それを念頭に置いて指示を出すのが主な仕事」「………補助がメインの後衛だと思ってたぜ」「それも間違ってないわ。後ろで補助をしつつ参謀としての役割を果たす、が一番正しい言い方ね」そう言って指を一本立てて、「どう?」って感じに年相応の女性の笑みを再び浮かべる仕草は、とても魔導プログラム体とは思えない生き生きとした”人間”だった。「誰にだって知られたくないことってあるわ」「ああ」「それが自分の大切な人なら尚更知られたくないってことも」「………そうだな」「私もね、私達も、あるの。はやてちゃんに知られたくない私」俺は黙って続きを促した。「何時の頃なのか、どんな主に仕えていたのか、具体的にどういう過去だったのか忘れてしまったけど………私達ヴォルケンリッターが主の私利私欲の為に使われたことなんて一度や二度じゃないわ」憂いを秘めたその瞳が悲しげに揺れる。「戦争の道具として使われたことがあったのもなんとなく覚えてる。私達の過去は、はやてちゃんには絶対に知られたくないような血塗られたものでしかない」「そうか」「もし知られてしまったら、はやてちゃんに見放されてしまいそうで凄く怖いもの」「………ああ」「だから漠然とだけど分かるのよ。形は違うけど、私達がはやてちゃんに知られたくないことがあるのと同じように、貴方にも家族に知られたくないことがあるって」言外に「貴方を問い詰めるようなことはしない」ということなのだろう。そうしてくれると助かる。そして会話が途切れた。沈黙の中、シャマルから視線を外すと冬の空を見上げる。比較的都心に近い海鳴市は街明かりの所為で星があまり見えない。それでも冬という季節のおかげで、オリオン座などははっきり確認出来た。そんな俺に倣ってか、シャマルも視線を星に向けた。「もうすぐクリスマスですね」穏やかな口調で沈黙を破ったシャマルに俺は同意する。「ああ。我が家にとっちゃ毎年恒例の地獄の一日になる」「地獄の一日? お店でもやってるんですか?」「翠屋って喫茶店を知ってるなら想像つく筈だ」「あ! 知ってます!! ご近所さんがそこのシュークリームお裾分けしてくれたことがあったんです。もうヴィータちゃんなんて凄く気に入っちゃって。今度皆で行ってみようかって話したことありますよ。もしかしてクリスマスケーキも販売してるんですか?」急にテンションを上げるシャマル。女性というのは大抵甘いもの好きと言われるが、こいつも例外じゃないらしい。つーか、魔導プログラム体も食事とかするのか? ということは人間が必要な生理現象は一通り揃えているのだろうか?「ケーキが欲しかったらなるべく早く店行って予約しろ。そろそろ予約締め切るって話だ」「えー。ソルくんが取り置きしてくれるんじゃないんですか?」「作ってるのは俺じゃねぇ。んなこと勝手に出来るか」呆れたようにシャマルを睨むと、「身内贔屓でなんとかしてくれてもいいじゃないですかぁ」と子どもっぽく頬を膨らませる顔があった。それを見て思わず吹き出しそうになる。「な、なんですか急に笑い出して!!」「笑ってねぇよ」「笑ってるじゃないですか。口がニヤついてます」ううぅ~もう知りません、とそっぽを向いてしまうシャマルのそんな態度に、急に懐かしさがこみ上げてきた。―――「もう、フレデリックなんて知らない」シャマルがあいつにダブって見えてしまった俺は、その少し不機嫌そうな横顔を呆けたように見つめてしまう。「………私の顔に何かついてますか?」それに気付いたのかジト眼で睨まれてしまう。「………」もしかしたらこいつ。わざわざ俺のことを慰めに来たんじゃないのか?もうすぐ夕餉の時間だってのにこいつが此処に居る理由がイマイチ分からない。偶然にしては他の目的も無さそうだ。まさか散歩してたら俺を見かけたという訳でも無いだろう。だとしたら余計なお節介だが、(ありがとよ)万感の想いを込めて「なんでもねぇよ」と言って、俺はぶっきらぼうに顔を背けるのだった。SIDE シャマルどうやら少し元気が出てきたみたい。自己嫌悪に陥ってたようなさっきの表情よりも、今の仏頂面の方が全然良い。折角、はやてちゃんの病気に光明が差してきたんですもの。その中心であるこの少年が俯いているのは放っておけないわ。(それにしても………ソルくんってギャップが凄く激しいのね)戦闘中は真夏の太陽よりもギラついてるのに、こうして手を伸ばせば届く距離で会話していると人付き合いが不器用な少年でしかない。少し子どもっぽいところもあるし、性格がちょっとヴィータちゃんに似てるかも。しかも、何処と無く他人を拒絶しているような態度を取る癖に寂しそうにしていて、気が付くと遠くへ行ってしまうような危なっかしさ。はやてちゃんのことを抜きにしても放っておけない、と思わせるような母性本能をくすぐるところがある。だからだろうか。私自身よく理由も分からずその手を握り、立ち上がらせる。「さあ、皆の所に戻りましょう」ソルくんは少し戸惑うように黙考した後、何も言わずに頷いてくれた。そのまま私達は手を繋いだまま公園を後にする。街の中はもうすぐやって来るクリスマスの飾り付け一色で、街路樹に施された電飾などが華やかに輝いていた。サンタの変装をした店員が一生懸命ビラを配ってる横を通り過ぎる。「私クリスマスって初めてなんです。私達ってはやてちゃんに会う前はこういうことに無縁だったから、ずっと前から楽しみにしてたんですよ」「クリスマスってのはこんなお祭り騒ぎをする為の行事じゃねぇ」「え? そうなんですか?」「キリスト教が崇めるイエス・キリストの降誕祭。神が人間として生まれてきたことを祝うことが本質で、本来は教会で居もしねぇ神に祈りを捧げる行事だ」呆れたように溜息を吐くソルくんは、疲れたようにクリスマス前の賑わう街を眺めた。「詳しいですね」「詳しいも何も、調べりゃこの程度すぐに分かる。ちなみに、日本は仏教徒が多いが、日本人自体は大抵無神論者だ」「ならどうして他の国の宗教行事に皆ワクワクしてるんですか?」「日本人はお祭り騒ぎが好きだ。口実見つけて馬鹿騒ぎしてぇだけなんだよ。後は経済効果を期待してる面もある」バレンタインも似たようなもんだな、とソルくんは苦笑いを浮かべデパートを指差す。そこには『クリスマス前の特別セール実施中』というノボリがあちこちに掲げられていた。「サンタさんが子ども達にプレゼントを配るというアレは?」「四世紀頃のキリスト教の教父聖ニコラオスの伝説が起源だ。それ以上詳しく知りたけりゃ図書館行くなりネットで調べるなりしろ」乱暴なのか丁寧なのかよく分からない感じで説明をしてくれるソルくん。それ以来ぷっつりと会話が途切れてしまったけど、私はとても良いことを思いついたので提案した。「ねぇソルくん」「んだよ」「今度のクリスマス、皆で一緒にパーティしません?」「はあ?」何をいきなり言い出すんだ、という顔をされる。「クリスマスパーティですよ。はやてちゃんと私達と貴方達で、皆で一緒にパーティするんです。楽しそうでしょう?」「んな暢気なこと言ってる場合じゃねぇだろうが、俺達は」ギロっと睨まれるけど私は全く怯むことなく言い返す。「だから、それまでにはやてちゃんの病気をなんとかしましょう。そして、クリスマスを同時にはやてちゃんの快復祝いにする、良い考えだと思いませんか?」私は自分の今の気持ちを込めるように、繋いだ手をより強く握る。本当は分かってる。はやてちゃんの病気を治す手段は闇の書を、夜天の魔導書自体をどうにかしないといけない。それは並大抵のことじゃない。どれだけの負担と苦労と時間が掛かるか分かったものじゃない。だけど、私達ヴォルケンリッターは主を救うと言ってくれたこの少年を信じることにした。だったら、最後までこの少年を信じ、懸けてみようと思う。「………簡単に言ってくれるぜ」ソルくんは難しそうな表情をした後、「だが、最善は尽くす。お前らにも協力してもらうからな」決意を秘めた眼で不敵に笑うのであった。後書きPV50万超えありがとうございます!!!毎回多くのコメントも多謝!!!皆さんの声援が力になってます。そして物語はいよいよ佳境へと突っ走っていきます。これからもテンションマキシマムで頑張りたいです!!!一番多かったシグナム筋肉好きについて。「筋肉は筋肉でもソルみたいに研ぎ澄まされた筋肉を認めているのであって、 私はそこまで筋肉が好きな訳ではありません。 無意味についた筋肉は見るに耐えません。というか、誰だ私を筋肉フェチだと言う者は? ヴィータかっ!?」筋肉の違いが分かる女、シグナムより追記ちょっと修正しました。宗教関連の台詞部分を。あと、感想返しも感想版に追加しました。