SIDE なのは「ユーノ、見つかったか?」「いや、まだだよ」お兄ちゃんとユーノくんがキョロキョロしながら、扉を開く仕掛けを探しています。今私達が居る場所は、ユーノくんの一族が現在調査中の古代遺跡の最深層部。その大きな扉の前まで辿り着きました。遺跡の中はテレビで見たエジプトのピラミッドみたいな石造りで、でも人が数人並んで歩くくらいの余裕があり狭さを感じさせません。参加させてもらった今回の遺跡調査。ユーノくんは久々ということで張り切り、お兄ちゃんも興味津々、私とフェイトちゃんとアルフさんは面白そうだからと探検気分でくっついて来ました。山の標高はだいたい五千メートルくらいで、山の中腹辺りから気温がぐっと下がります。山頂の遺跡まで行く途中、皆はバリアジャケットのおかげでそんなに寒いと感じないんだけど、お兄ちゃんはジーパン、シャツにジージャンを羽織っただけという軽装備。寒くないのか聞いてみると、「法力で気温調整してるから平気だ」と返ってきました。それを確かめる為に飛んでる最中に後ろからお兄ちゃんにおんぶしてもらうように抱き着いてみると、確かにお兄ちゃんの周囲だけポカポカと暖かいのです。お兄ちゃんの身体もとっても暖かくて気持ち良いんですけど。どうやらお兄ちゃんを包むように小規模な結界が展開されていて、結界の中だけ気温を操作しているとのこと。結界があるおかげで冷えた風が体温を奪うこともありません。「”風”と”火”の属性で気温の調節をしてる」お兄ちゃんのみが使うことの出来る魔法、法力。それは”火”、”水”、”雷”、”風”、”気”という五つの元素からなる魔法の力。その内の”気”を除いた四属性を操り、多種多様な組み合わせによって様々な”事象”を起こすのが俺の使う法力だと以前説明してくれました。法力って凄いです。戦闘に使用する攻撃や防御や補助は勿論、日常生活においてもとっても便利な力です。そのままお兄ちゃんに抱き着いていると文句を言ってきたフェイトちゃんと口論になってから即喧嘩になり、お兄ちゃん達に置いてかれました。移動中に一悶着あってようやく遺跡の入り口に到着。私とフェイトちゃんだけズタボロで疲れ切っていましたが、先に到着してスクライアの人達と話し合っていたお兄ちゃんは無慈悲にも「自業自得だ馬鹿」と休憩はくれず、ユーノくんと二人で遺跡の中に入って行ってしまいました。もう置いてかれるのは嫌だったので慌てて追いかけます。山の火口付近が入り口となっていて、そこからどんどん下に向かって降りていくように進みました。なんだかRPGのダンジョンみたいです。でも、残念なことに最深部以外は既に調査済みで、ゲームに登場する宝を守るモンスターやトラップなど、心躍るものは全く出てきませんでした。疲れてたからいいんだけど。それでも薄暗い遺跡の中というのはなかなか迫力満点で、長い年月を重ねた壁や床は好奇心を刺激する雰囲気があります。魔法の光に照らされて進む中、フェイトちゃんがさりげなく、本当にさりげなくお兄ちゃんの右隣を歩きその手を繋いでいるのを発見して、私もそれに対抗しようとしました。しかし、お兄ちゃんの残された左手にはもしもの時の為に封炎剣が握られていて、くっつくことが出来ませんでした。お兄ちゃんは両利きですがどちらかという左利きで、基本的に左手に封炎剣を持ちます。私も左利きでレイジングハートを左手に、フェイトちゃんは右利きで右手にバルディッシュを持ちます。つまり、お兄ちゃんとフェイトちゃんは利き手じゃない方の手が上手く噛み合うのです。羨ましい。こうなったらせめてフェイトちゃんだけ良い思いをさせるのを阻止する為、遺跡の中で手を繋ぐのは危険なんじゃないのかな? っと尤もらしいことを言って抗議します。「本来なら遺跡の中で手を繋いで歩くなんざご法度なんだが、最深層部までは調査済みだって言うし、そこまでならいいか」「ありがとう、ソル。実は少しだけ怖かったんだ」頬を染め、うっとりした表情のフェイトちゃんが指を絡める力を強くします。(お、おのれ~。ていうか、お兄ちゃんってフェイトちゃんに甘くない!?)歯軋りしながらどんどん下層へと降りていきます。やがて最深層部まで到達すると、大きな扉が行く手を阻みました。押しても引いてもウンともスンとも言わない扉。スクライアの人が調査したのは此処までで、扉の先は未知の領域だということです。これは何としても先に進まなければ、と俄然やる気なったお兄ちゃんとユーノくんが何か仕掛けがある筈だと言って、それらしきものを扉の周囲で探し回ってますが、一向に見つかりません。全員で一生懸命探しましたが、壁や床には怪しいスイッチとかありません。色違いの部分とかも無いし、取っ手とかレバーとかも勿論ありません。お兄ちゃんはしきりに扉や壁や床を触ったり叩いたりして、ブツブツと何かの呪文を唱えながら穴が開くのではないかと思う程睨んでます。どうやら法力を使って調べてるみたいです。ユーノくんもお兄ちゃんと同じように動きながら、魔方陣を足元と手の平に展開させて調べてます。そんなことが十分程続いてますが、法力と魔法を使っても全然仕掛けらしいものは見つかりません。「見つからねぇな」お兄ちゃんが法力行使を止め、溜息を吐きました。「面倒臭ぇからぶっ壊すぜ」実にお兄ちゃんらしい結論が出されます。「ちょっと待ってよソル。いきなり壊すだなんて」「ハナっからこうしときゃぁ良かったんだよ」ユーノくんの抗議は一蹴されます。たぶん、お兄ちゃんもいい加減イライラしてきたんでしょう。元々、そんなに気が長い方じゃないし。「そもそも”扉を開く仕掛けがある”っていう前提自体が間違ってる可能性がある」それは不思議な言葉でした。「どういうこと!?」ユーノくんを筆頭として私達がお兄ちゃんに注目します。「まず、遺跡の中に開かずの扉がある。その時点で普通なら扉を開ける為の仕掛けがあると考えるもんだが、それは先入観で思い込んでるだけの話で、実際は何も無いってことだ」お兄ちゃんは扉を握り拳でコンコンと叩きました。「この扉は勿論、壁や床、天井まで解析してみたが、魔法的な仕掛けどころか、物理的な意味での仕掛けも存在して無ぇ。つまりこの”扉”は、先に続く道を塞いでるただの”壁”って可能性がある」扉の形をした”壁”に向き直ると、濃密な魔力が空間を満たし、炎を纏った拳を構えます。「この”壁”の向こうに空けた空間が存在する。恐らくそこがこの遺跡の最奥部だ」「え!? もうやるの!?」「タイラン―――」「うわぁぁぁぁ!! 退避退避っ!!!」慌てたユーノくんの声に反応して皆お兄ちゃんから離れます。「レイブッ!!!」拳が”壁”に叩きつけられると同時に爆音と爆炎が発生し、それが”壁”もろとも爆裂する。辺りに粉塵が舞い、眼を瞑って口を押さえます。「思った通りだな」眼を開けると、巨大な穴の向こうは祭壇のようなものが中央に据えられた部屋になっていました。「………相変わらず無茶するよねキミって」「無理が通れば道理が引っ込むってな」「いや、言いたいことはそうじゃないから」ゲンナリしているユーノくんを尻目にお兄ちゃんがその部屋に入っていくので、私達も続きました。SIDE OUT背徳の炎とその日常 4 ユーノ、里帰りをする 後編SIDE フェイト発掘調査を終え、地上に出る。ソルとユーノは今回の調査で出土した物品を見せてくれと調査団の責任者に詰め寄り、許可をもらうと倉庫に駆け込んだ。二人は色々な角度からそれらを観察しながら、時に二人で話し合い、近くに居たスクライアの人から説明を受けうんうん頷いている。ユーノはこういうことを生業にしてる一族の出だから分かるけど、ソルってこういうものに興味あるんだ。ちょっと意外。「なんだか研究熱心な学者さんみたい」なのはが二人を見ながら呟いた。「ユーノはなんとなく分かるけど、ソルもかい? あはははは、ソルが学者って、あのソルがっ!? 無い無いっ!! あいつ程白衣が似合わない男なんて居やしないよ!!」アルフがお腹を抱えて笑った。白衣姿のソル?想像してみる。銀縁眼鏡を掛けた大人のソルが、白衣を着こなしデスクの上に腰かけ、鋭い瞳で私が提出した研究レポートを吟味してる。『少し気になる点もあるが、なかなか面白ぇレポートだな………上出来だぜ』『ソル先生、じゃあ!?』『ああ。約束通り、フェイトには俺が指揮する研究チームに参加してもらう。勿論、俺の補佐という形でだ』ソル先生が私の肩を優しく叩く。『これだけのものが書けるとな。今までお前のことを高く評価していたつもりだったんだが、それじゃあ足りなかったみてぇだ。許せ』『いえ、そんな』『謙遜するな。俺にはお前が必要だ。フェイト』私はソル先生の言葉に感極まって、思わず抱きついてしまう。『おいおい』『ソル先生。私、先生に一生ついていきます』『何馬鹿なこと言ってやがる………ったく、困った教え子だ』呆れたように溜息を吐いてから、ソル先生は強く、それでいて優しく私を抱き締めてくれた。ホワン、ホワン、ホワン、ホワワワワ~ン「「それはそれでっ!!!」」「うああっ!? 急にどうしたんだい!?」アルフが横でびっくりしてたけど気にしない。周りに居た人達もいきなり大声を上げる私となのはに訝しげな視線を向けてきたけど気にしない。白衣姿のソル。ありだよっ!! 普段の粗暴な感じが白衣で抑え込まれてて、鋭い眼つきが眼鏡のおかげで知的になる。このギャップが、良い!!それにソルって凄く頭良いから、意外に研究職とか科学者とか向いてるかも。私のバルディッシュとなのはのレイジングハートの面倒だって見てもらってるし、ソル本人のデバイスだって作ってる。普段の生活でも難しい学術書とか専門書、恭也兄さんから借りてくる大学教授の論文とか愛読してるし。もしかしたらソルの将来ってそっち方面なんじゃないかな?だとすると、近い未来に想像が現実になるのかな?『謙遜するな。俺にはお前が必要だ。フェイト』(←*注意 妄想です)やだ、そんなこと言われたら私、幸せ過ぎて死んじゃうっ!!!「アルフ、なのはとフェイトに何があった?」「ああ、ソル。いつもの発作が始まっただけだから気にしなくていいよ」「ソルは知らないんだっけ? 二人共ソルが居ない時はいつもこんな感じだってこと。最近は特に酷いけど」「発作? 軽くトリップしてるように見えるんだが、本当にいつものことなのか? 眼の焦点もはっきりしてねぇし、意識が混濁してるような気がするぜ。顔も赤いし、時折変な動きするし、医者に行った方が良いんじゃねぇか? なんだったら俺が診察するか?」「いつものことだから」「それに、ソルが医者の真似事なんてしたら悪化するだけだから」「??」まず銀縁の伊達眼鏡用意して、白衣はきっと桃子母さんに言えば用意してくれそう。それで、地下室で作業する時は常にその格好で居てもらって、それからソルの作業を私が手伝うようになって、私が失敗してもソルは怒るどころか私の心配してくれて、私のことを抱き(以下略)。今日の夕飯にもあの飲み物が出た。一昨日、私となのはが飲んでしまい、暴走する切欠となったお酒だ。ソルからは散々怒られてもう二度と口にするなと釘を刺されてたし、二日酔いなんていう苦しい思いをするのは二度とご免なので言われなくても飲まない。………飲まないんだけど。「んく、んく、ふぅ」どうしてソルは普通に飲んでるの?「何だフェイト? これか? ダメだからな」私の視線に気が付いたソルが窘めるような口調で、お酒が入ったコップを置く。「お兄ちゃん、それお酒だよね」「ああ」「子どもは飲んじゃいけないんだよね」「子どもはな」「………」「………」隣に座るなのはの言いたいことは分かる。今のソルは子どもの姿だけど、本当は大人だ。だから、お酒を飲むのは別に変だとは思わないんだけど、なんか納得いかない。………そうだ!!「でもさ、今のソルの身体って子どもだよね?」仏頂面が一瞬揺れる。「桃子母さんも、アクセルさんが来た時言ってたよね? 『今は子どもの身体なんだから飲んじゃダメ』って」ソルは私からバツが悪そうに眼を逸らした。やっぱり本人もその自覚あったんだ。桃子母さんがこの場に居ないのをチャンスと思ってお酒飲んでるんだ。私は立ち上がり、正面に座るソルの顔を両手でホールドして無理やり目線を合わさせる。困ったように苦笑いを浮かべるソル。その眼は「見逃してくれ」と訴えていた。あ、なんか可愛い。「食事中」そのままずっとソルの顔を眺めていたかったけど、絶対零度に近いなのはの底冷えする声が聞こえたので、渋々手を放す。胸中で舌打ちしながら座り直し、口を開く。「とりあえずこれは没収ね?」酒瓶とコップをソルから取り上げると、ガーンって感じて落ち込むその姿にユーノとアルフがソルの隣で笑いを堪えていた。名残惜しそうなソルの視線をどうにか振り切り、食事を再開した。「明日になったら帰るぜ。荷物まとめておけ」夕飯の後。ソルの部屋で皆集まってだらだら過ごしている時、唐突にテンションが非常に低い声でソルが宣言した。お酒を取り上げられたことがまだ尾を引いてるらしい。この世の全てがどうでもよさそうな口調はやる気とか覇気とか一切感じられないものだった。しかし、そんな声にビクリと反応したのが一人居た。ユーノだった。「帰るって、地球に?」「たりめぇだろうが」それ以外に何処があるんだといった風に、ソルは不貞腐れながら封炎剣を乾いた布で磨く。「それともユーノはこっちに残るか?」封炎剣の鍔の部分をガコッと展開させて、大小様々なギミックを一つ一つ丁寧に磨きながら、明日の天気を聞くように問い掛けるソル。「………僕は………」ユーノが苦悩するように俯いた。元々ユーノはスクライア一族として生きてきた。でも、ジュエルシードの一件から高町家に居候するようになって今に至る。彼にとってはどちらも大切な場所だというのは手に取るように分かる。私だって今の居場所は凄く大切だし、ソルに吹っ飛ばされて今は存在しない時の庭園にだって思い入れがある。どちらか選べと言われて、急に答えが出せる訳が無い。何故ならどちらも大切だからだ。「ま、今すぐ答えを出せなんて言わねぇよ。帰るっつっても明日の夕方くらいだ。それまでじっくり考えろ」悩むユーノを察してか、ソルが優しい声を出し、話はこれでお終いといった感じで封炎剣を磨く作業に集中する。やがて磨き終わってピカピカになった封炎剣に満足すると、それを布で包んでからバッグの上に放り投げた。ボスッと音を立ててその重さでバッグをぺしゃんこにする封炎剣って、ソルから受ける扱いが微妙だ。整備する時はとっても丁寧なのにそれ以外は酷く粗雑だから。なのはの話によるとレイジングハートはたまにゴミ箱に入れられるって言ってたけど、バルディッシュは大丈夫だよね?それから皆で寝るまで雑談していたけど、ユーノはずっと黙っていた。SIDE OUTSIDE ユーノソルの部屋から出ると、僕は自分の部屋には戻らず、バリアジャケットを展開し飛行魔法を発動させて遺跡の方へと向かった。気温が低いけど、バリアジャケットのおかげで気にならない。視線の先の山は、星光に照らされて夜だというのに白く光っているように見える。綺麗だ、純粋にそう思った。満点の星空を眺めながら、遺跡へと辿り着く。今日の僕達の作業によって、この遺跡は調査が終了した。スクライア一族にとってはこの世界に留まる理由が無くなった。結果的には当たりで、かなりの収益が見込めるらしい。明日には撤収作業が始まるだろう。僕は適当な岩を見つけると、その上に座り込んだ。「どうすればいいのかな」独り言がぽつりと漏れる。このままソル達と一緒に高町家に帰るか、それともスクライア一族に残るか。本当ならスクライア一族に残るのが当然なんだろう。僕は高町家に居候しているだけの身で、おまけに学費を払ってもらって学校に通わせてもらってる。世話になりっぱなしだ。でも、と思ってしまう。あの家は、僕にとって帰るのが当たり前の場所になっていた。ソルが、なのはが、フェイトが、アルフが、皆が居て、一緒に暮らしてきた場所。大切な帰る場所。だけど、そんなことを言えばスクライア一族だって同じだ。僕が物心ついた頃からこれまでずっと育ってきた場所。育ての親であり、兄弟姉妹であり、一族の皆が僕の家族なんだ。どちらか選べなんて言われたって、どっちも選べないよ。「ソルめ………意地悪なことさらっと言ってくれちゃって」「お前が考え過ぎなだけだ」「え!?」背後から声がしたので慌てて立ち上がり振り返ると、呆れたような表情のソルが酒瓶とコップ二つを手にして歩いてきた。ソルは僕の隣まで来ると胡坐をかき、僕に座るように促す。コップが一つ渡される。「どうして此処に? ていうか、そのお酒ってフェイトに取り上げられた奴じゃないか」「なのはとフェイトが寝た瞬間にこっそりな」不敵な笑みを浮かべるソルが自分のコップと僕が持つコップにお酒を注ぐ。そして、カンッと乾いた音を立ててコップとコップがぶつかった。「乾杯」「か、乾杯」言って、ゴクゴクとソルがお酒を飲むので、僕もそれに倣う。口の中に酸っぱさと炭酸に似た刺激が広がり、それを飲み下すと腹の底に炎が宿ったように熱くなる。それからしばらくの間、ソルは黙って夜景を見ていた。僕もソルが喋らないので黙る。風の音と、時折ソルが鳴らす喉やお酒がコップに注がれる音以外に音は無く、静寂が世界を支配する。「お前はいつも物事を深く難しく考え過ぎなんだよ」唐突にソルが切り出した。「別にこれから一生を選んだ方で生活しろだなんて言ってねぇ。選ばなかった方と今生の別れになる訳でも無ぇ。会いたくなったら今回みたいに休み使って会いに行けばいい」お酒をコップに注ぎ、「誰もお前に強制しねぇ。お前の人生で、お前の生き方なんだ。自分で考えて、自分で決めろ。ただ、難しく考え過ぎて『こうじゃなきゃいけない』みてぇな固定概念は捨てろ」一気に飲み干し、溜息を吐く。「いつも俺が口を酸っぱくして言ったろ? 思考を柔らかくしろって。あれは戦闘中に限った話じゃねぇぞ」コップと酒瓶を置き、おもむろにソルは立ち上がる。「お前が悩むのも分かる。迷ってるなんて百も承知。高町家に対する想いと、スクライアに対する想いも一応理解してるつもりだ」僕に背を向けると、彼の数メートル先の空間が円の形に歪み、その部分だけ景色が変わる。その先はソル達に宛がわれた部屋の前だった。転移・転送魔法じゃない。法力、転移法術だ。「お前の好きにしろ。周りの意見とか、選ばなかった方への負い目とか気にしてたら何も出来ねぇし、始まらねぇ」「………ソル」「ただ、これだけは覚えておけ」彼は首だけ振り返る。「俺は何時でもユーノの味方だ。今回のお前が下した決定には逆らわないし、全面的にバックアップするつもりだ。それだけは忘れんじゃねぇ」言うと、ソルは”ゲート”を潜ってその姿を消した。残されたのは僕と、彼が置いていった空となった酒瓶とコップ。「相変わらずキミは………言いたいことだけ言うと、人の話聞かないで何処か行っちゃうんだよね」でも、それが凄くソルらしい。ソルはソルなりに僕のことを気遣って、後押しをしにわざわざ来てくれたんだ。ただ単にお酒が飲みたかっただけかもしれないけど。「ありがとう、ソル………決めたよ、僕」立ち上がり、手にしたコップに残っていたお酒を一気に飲み干した。宣言通り、ソル達は夕方には地球へ帰ることになった。「世話になったな」「フォフォフォ、気にするでない。何時でも遊びに来なさい」「いずれな」ソルは族長に挨拶し終えると、僕に向き直った。「で、結局どうする?」「うん、こっちに残ることにするよ」「そうか」迷い無く答えた僕に、ソルは眼を閉じ満足そうに頷いた。「でも、夏休みが終わる前にはちゃんと戻るから」「は?」僕の言葉にソルがポカンとする。これは貴重だ。ソルのこんな呆けた顔を見れるなんて、近い内に何か良いことが起きるに違いない。「だって折角学費払ってもらってるのに学校行かないなんて勿体無いじゃない?」「お前、こっちに残るって………」「それにソルだって言ったでしょ? 思考を柔らかくしろ、会いたくなったら今回みたいに休み使って会いに行けばいいって。つまり、そういうことだから」数秒固まっていたソルだけど、合点がいったのか、ニヤッと不敵に笑った。「好きにしろ」「うん、好きにする」阿吽の呼吸のようなやり取りの後、僕とソルは声を押し殺して笑った。「ソルくん、キミに渡しておくもんがあるのを忘れておったわい」「ああン?」族長が地球のノートパソコンのようなものをソルに手渡した。「これは?」「通信機だよ。ちょっと旧式だけど」「ユーノの言う通り、通信機じゃ。多少古い物になるがこれをキミに渡しておこうと思っての。当然我々の連絡先は登録してある。それと取扱説明書はこれじゃ、ユーノから聞いたぞ? 魔導師として戦闘能力が高いだけではなく、数日でミッド語をマスターする知力を持ち、デバイスマイスターでもあると。妹達のデバイスの面倒を見ながら自分のデバイスを制作中らしいな?」「ああ、まあな。だが、いいのか? ただでもらって?」少し戸惑うような表情をするソルに、僕と族長は苦笑した。「もらっておきなよ。キミなら何の支障も無く使いこなせる筈だからさ」「そうじゃ。それに、困った時はお互い様という言葉があるじゃろう? もしキミが困っている時は連絡してくれて構わんし、逆に我々がキミを頼りたいと思った時は連絡する。勿論、普通の会話に使うのもアリじゃ」「そういうことならありがたく受け取っておく」通信機を受け取ると、大切そうにバッグの中に仕舞った。「じゃ、そろそろ行くぜ」僕達からソルが離れる。「バイバイユーノくん、夏休みが終わる前にはちゃんと帰ってくるんだよ!!」「また今度ね、ユーノ」「ソルを一緒にからかう仲間が居なくなると寂しくなるけど、ほんのちょっとの間だしね。待ってるよ」なのは、フェイト、アルフが僕に再会を約束する別れの言葉を投げ掛ける。それに僕は頷いた。「またな、ユーノ」「うん、高町家の皆とアリサとすずかには上手いこと言っといて。帰る頃には連絡入れるからっ!!」僕は円陣を組んだ四人に手を振った。「ソルッ!! 次に会う時はキミをあっと驚かせてみせるからねっ!!」「何のことだか知らねぇが面白ぇ、やってみろっ!!」その言葉が終わると、四人は地球へと転移した。「行ったか」「はい」族の言葉に頷くと、僕は駆け出した。「ユーノ!? 急にどうした!?」突然走り出した僕に驚いて、疑問の声が投げ掛けられる。「さっきソルに言ったことを実行出来るようにする為に訓練するんです!!」「訓練、それは一体何のじゃ!?」「勿論、戦闘訓練ですっ!!!」これ以上無い程に力の限り声を出すと、僕はもう振り返らなかった。まずは身体を暖めてから、柔軟運動をしよう。それから、さっきレイジングハートとバルディッシュからコピーしてもらった、ソルとアクセルさんの戦闘データを一度よく見直そう。僕は法力は使えないけど、アクセルさんの戦い方は参考になる筈だ。魔法を使った訓練はその後だ。「待ってて、ソル。僕は必ずキミと肩を並べてみせるから」それは何時になるか分からない、達成できるかどうかも怪しい目標。だけど僕は足を止めない。どんなに遠かろうとそこを目指して走り続けてやる。全身にやる気を漲らせると、僕は大地を全力で蹴った。オマケ「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろうっ!!!」「………ソ、ソル、背中流してあげる………」(………しまった。いつもユーノと一緒に風呂入ってるからこいつらのこと気にせずに済んだってのに。まさかユーノが居ねぇと兄離れにこんな弊害が発生するとは思ってなかったぜ………)後書き書いてる間は、なんか他の日常編より長いんじゃないかと思ってたんですけど、容量的には同じくらいで驚きました。今回は、前中後を通してユーノ成長日記になってます。前編はちょっと違う気もしますがwwwそして、後編は初のソル視点無し。これからどんどんソル視点が減っていくんじゃないかと思われます。A`s入るとキャラ増えるしwwwこの作品の中で、ソルを除いて一番贔屓しているのはユーノくんです。登場したばっかりの頃扱いが酷かったのは前置きなんです。次がフェイトでその次がなのはとなっています。たぶんA`s入ると上の順位が変動します。シグナムが上位に食い込んでくると思うのでwwwソルの白衣姿はGG2公式設定資料集に載ってますので、興味がある方は見てみるのもいいかも。まだ人間だった頃で、あの形容しがたいボサボサなヘアースタイルではなく普通の短い髪型で、瞳が青く、『あの男』とアリアと三人で会話しているシーンがあります。次回はついに、なのフェイデート!!!なのは単体フェイト単体で二話書くか、セットで一話にするか、ギャグにするか、砂糖を吐くほど甘くするか悩んでます。誰か意見プリーズwww