SIDE アリサ後頭部が、背中が硬い感触を訴える所為で眼が覚める。その感触でコンクリートの上に仰向けで寝かされていると気付く。(なんで………アタシ)意識がはっきりしない。「お、やっと目覚めたみたいだな」周囲にはアタシを取り囲む見知らぬ男達が居た。全員、拳銃やマシンガンといった物騒なものを手に持っている。ニヤニヤと下卑た笑いが聞こえてくる。(そうだ………後ろからハンカチみたいなので口を塞がれて………)誘拐、された?知らない場所。廃ビルの中のような場所。今居る場所は薄暗くて此処が何処なのか分からない。(………すずかは!?)私の親友の一人が傍に居ない。きっと一緒に誘拐された筈なのに。「こいつターゲットじゃないですよね? どうすんですか?」「さっき好きにしていいって言われたの忘れたのか? バニングス家の一人娘だろ? 使い道はあるさ」「まさに金のなる木ってやつですか!?」「そういうこと!!」ゲラゲラと下品に哄笑する男達。その様は人の皮を被った金の亡者だった。気持ち悪い。汚い視線。欲望に塗れた眼。この男達は私が目的で誘拐したというの?「す、すずかは、すずかはどうしたのよ!?」自分でも声が震えているとはっきり分かる。私はこの男達を恐怖している。それでも親友の安否が気になって眼の前の男に問い詰めた。「あ? 何言っちゃてんのこいつ? お前はついでなんだよ」「ついで?」「そ。俺達の目的は初めっからすずかちゅわんな訳よ。お前はその場に一緒に居たからそのついでに攫ってきたってことで、OK?」最初っからすずかの誘拐が目的だった? 私じゃなくて?どうして?こんな言い方嫌だけど、確かに月村家だって日本屈指の資産家だけど、世界を股に掛けるバニングス家の方が財力は上だ。金目当てなら私の方が幾分か狙い眼だと思うのに。もしかして身代金目的じゃない?すずかが目的?「すずかをどうしようってのよ!?」「んなこと俺らが知るかってんだよ」「ギャハハハハ!! 違いねぇ!! 俺達は化け物に依頼されたことこなしただけだぜ!!!」「化け物が何考えてんのかなんて人間の俺らが知る訳ねーだろ!?」「化け物同士でヨロシクやってんじゃねぇのか!?」「それにしても羽振りがいいぜ、化け物ってのは。大金で雇ってくれた上に、こんな棚ボタまでくれるっつーんだからよ!!」「化け物様々だな!!!」醜悪に顔を歪めて大声を上げて嗤う男達。こいつらの態度に吐き気に似たものを覚えながら、何度も口にされた「化け物」という単語が気になった。「化け物って………何よ?」私は疑問をぶつけた。「は? 何だこいつ知らないのか? お前のお友達のすずかちゅわんは吸血鬼っつー化け物さ。文字通り人の血を吸って生きる怪物なんだよ」何を言ってるのこいつら? すずかが、吸血鬼?「さすが化け物。親しい人間すら騙す、その生き方には感服するね」「全くです」「誘拐してる俺らって人のこと言えなくね?」「あいつら人じゃねーぞ?」「こりゃ一本取られた!!」またもや嗤い出す男達に不快感が募る。すずかが化け物? 吸血鬼? そんなこと信じられない。でも、もし本当だとしてもすずかが私の親友であることに変わりなくて、こいつらがすずかを馬鹿にしてるってことだけは理解出来た。「まあ、そういう訳だから、俺らの化け物な雇い主さんが用件済ませるまで大人しくしててくれる? 暴れるようだったら回すからさ。さすがに傷物にしちまったら後々交渉が面倒になるし」舐めるような視線が私の全身に絡み付く。(………悔しい!!!)怖くて足が竦んで一切抵抗出来ないことが。親友を助けることの出来ない自分の無力さが。私に誰にも負けない”力”があれば、こんな奴らやっつけて、すずかを助けに行けるのに!!!(誰か、助けて………)漫画とかアニメだったらこんな時、颯爽とヒーローが現れて助けてくれるのに………(そんなの………居る訳無い、か)全てを諦めかけていたその時、「ガンフレイム!!!」闇を斬り裂いて現れた炎が周囲を眩い光で照らした。SIDE OUT背徳の炎とその日常 2 夜の一族って爺の親戚か何かか? 後編SIDE 恭也ソルが立てた作戦はシンプルだった。「俺が正面で派手に暴れて陽動する。お前は背後から奴らを強襲しろ」ドスの効いた低い声。ソルが不機嫌だったり、本気で怒っている時に出す声だ。普段は滅多に聞くことの無い類のものだ。冷静で居るように振舞っているが、その実、犯人の姿を魔法で改めて確認して我慢の限界に来ているのかもしれない。敵の配置は既にソルの魔法で知れている。廃ビルの三階にアリサちゃんと、銃器で武装した普通の人間が十人。最上階の六階にすずかちゃんと、自動人形四体と夜の一族が三人。「先にアリサを助け出す。手始めに俺が―――」細かい打ち合わせに入る。もう日が沈みかけている。辺りは薄暗く、建物の中は更に薄暗いだろう。そんな時にソルの炎の魔法が現れれば、誰もが視線をそちらに向ける。とにかくあいつの魔法は目立つからな。そこを俺が叩く。俺はビルの裏側に回り、壁面にへばり付き、三階の窓枠まで登り、中をこっそり覗き込んだ。………居た!! 座り込んだアリサちゃんを囲むように犯人達が立っている。一旦覗き込むのを止め、窓枠に片手でぶら下がり、腕時計で時刻を確認する。ソルの陽動が始まるまであと、一分三十秒。俺は深呼吸をし、精神を落ち着かせる。気持ち的には今すぐにでも飛び込みたいが、相手は銃を持っている。俺やソルならどうとでも対処出来るが、アリサちゃんが人質に取られている以上、迂闊な行動は慎むべきだ。犯人達は油断している。誘拐の手際の良さ。確かにプロの犯罪集団並みの腕前だ。此処を特定するまでかなり時間が掛かったのは事実だし、港と高速道路の入り口が近くに存在するこの廃ビルは隠れ蓑にする上で絶好の立地条件だった。今まで何度もこういう犯罪に手を染めてきたのだろう。明らかな”慣れ”が感じられた。だが、そこに隙がある。犯人達は知らない。事件発生から一時間足らずで自分達の場所を特定してしまう忍のハッキング技術とソルの魔法を。もう一度、大きくゆっくりと深呼吸をする。他にも仲間が居る可能性を捨て切れないので、周囲の気配を探る。腕時計を確認する。残り三十秒。ソルは周囲に魔法の影響が及ばないように結界を張るとか言っていたが、それはもう大丈夫なんだろうか?俺は魔法に詳しくないが、聞いた話によるとソルの使う魔法はなのは達の魔法とは全く別物らしい。門外漢であるし、説明されてもイマイチ理解出来なかったが、そういうことらしい。(よく分からんが、頼りにしてるぞ、ソル)ソルは俺が今居る場所とは正反対の窓から、犯人の真正面から空を飛んで突っ込むらしい。実に無茶苦茶だが、同時にとてもあいつらしいと思った。作戦までの残り時間が十秒を切った。9、8、7、6、5、4、3、2、1、「ガンフレイム!!!」その声と共に、俺は音も無く窓から侵入する。犯人達は眼の前に輝く炎に眼を奪われて動けないでいた。状況を理解出来ていないのだろうし、眼が薄暗い状態に慣れている時にソルの炎を見たんだ。何が起こったのか認識出来ないだろう。俺だって同じ立場だったら咄嗟に動けないし、火の気が無いのにいきなり眼の前が火炎放射されれば思考が固まる。隙だらけだ!!!「ぐ」「がぁ」「う」「っ」アリサちゃんの背後を陣取っていた四人を手早く昏倒させる。殺さない程度に手加減したが、かなり本気で叩いたので数時間は眼を覚まさないはずだ。「なんだてめ―――」メキィッ!!俺の存在に気が付いた残りの六人が振り向いた瞬間、その内一人の背中にソルの喧嘩キックの踵がめり込んだ。骨に罅が入るような音が聞こえたが、容赦無いなソルは。蹴り飛ばされて地面を転がる犯人に眼もくれず、炎を纏う剣で傍に居た二人を横一文字に薙ぎ払い、火達磨になった二人が壁に叩きつけられる。残り三人。今更になって銃を構えようとした犯人達の手に飛針を投擲する。寸分違わず突き刺さった飛針のおかげで銃を取り落としたところを、俺とソルがそれぞれ一人ずつ飛び蹴りを顔面にかましてやる。「な、な、なんなんだお前ら!?」残り一人。あっていう間に仲間が全員倒され、銃を取り落とした最後の一人が手を押さえながら、恐怖を浮かべて聞いてくる。「あの世で考えな」冷酷な眼をしたソルが呟き、犯人の顔にソルの拳が吸い込まれるように叩きつけられた。SIDE OUTSIDE すずか今、微かに聞こえた遠くからの声。「………ソル………くん?」普通の人だったらとても小さ過ぎて聞き取ることの出来ない声。普通ではない私ですらよく聴き取ることが出来なかったけど、知っている声だった気がする。まさか、彼が此処に来てるの?もしそうだとしたら、どうして?「どうしましたかな? すずかお嬢様?」「………」見知らぬ男が三人―――でも同族だとはっきり分かる―――が私の様子を窺ってきた。後ろに並ぶ四体の女性型自動人形もガラスのような眼でこちらを見る。「………なんでもない、です」誤魔化した。「党首の妹であろうお方が嘘はとは………いけませんな~」「聴き取り辛かったが、確かに声が聞こえたな。子どもの声が」その言葉に私はビクッと全身を震わせた。「ソル………と言いましたね? 御神の剣士ですか?」「し、知りません」「やれやれ………困ったものです」私は頑なに首を振る。ソルくんがこんな所に来る訳が無い。「おい、お前達は下へ行って確認してこい。侵入者であれば殺してきて構わん」四体の自動人形がその命令に従い階下へ向かう。「やめて!!!」思わず叫んでから、しまったと気付く。「どうしました? 知らないんですよね? だったら別に構わないじゃないですか」眼の前の男が心から不思議そうな顔をする。「………」私を取り囲む三人の男がそれぞれ嫌らしい笑みを浮かべる。「こちらの予想より随分と早い気がするが、どうやら御神の剣士が来たようだな」「ご党首の恋人とかいう人間ですか?」「人間にしては出来るようだが、所詮人間だ。自動人形四体相手にどれだけ持つか見ものだな」「生かして捕まえることが出来れば良い交渉材料になりますね」「生かして捕らえられればの話だがな。死んでしまえば元も子もない」この人達はお姉ちゃんの党首の座を奪うのが目的みたい。だから妹の私を誘拐して、人質として脅して交渉するつもりなんだろう。どうして、こんなことになったんだろう?お姉ちゃんが党首だから?私が人間じゃないから?私は、普通に暮らしたいだけなのに。普通に学校に行って、友達と、アリサちゃんとなのはちゃんフェイトちゃんとソルくんとユーノくんとお話して、放課後に皆で一緒に遊んで、家に帰ればお姉ちゃんとノエルとファリンが暖かく迎えてくれて。そんな何処にでもある生活が欲しいだけなのに。でも、私の身体は普通じゃない。吸血鬼。血を吸う化け物。人とは、皆とは違う存在。私が吸血鬼だから、アリサちゃんを巻き込んでしまった。私が吸血鬼じゃなければ、こんなことにはならなかった。(やっぱり私は………皆の友達でいちゃダメなのかな? 一緒に居られないのかな?)視界が霞む。涙が零れた。皆のこと大好きなのに、一緒に居たいのに、私は皆と違うから不可能で。もし同じだったら、皆と一緒に居ていいのかどうかなんて悩む必要無いのに。ずっと一緒に居られるのに。どうして私は、皆と同じじゃないんだろう?―――ドッコオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!その時、階下から爆発音が響き、ビル全体を揺らした。SIDE OUTSIDE アリサ「兄貴、お前はこのままアリサを連れて退け。後から来る忍達と合流しろ」まだ床の上でメラメラと燃える炎に照らされながら、ソルが恭也さんに命令してる。な、なんで、こいつが此処に居るの?「お前はどうするんだ?」「俺はこのまますずかを助けに行く」私達を助けに来てくれたの?「だったら俺も―――」「アリサ一人を此処に残してか?」恭也さんの言葉をソルが遮った。「伏兵が居るとも限らねぇ。お前は安全を確保しつつアリサ連れてとっとと退け」「お前がいくら強くても残る相手は今のと比べると遥かに厄介だぞ!?」「上等だ。それに、アリサなんて荷物抱えてたら勝てるもんも勝てなくなる」恭也さんは数秒の間考えるように眼を瞑り、「………分かった」頷いた。「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」ようやく出た声は掠れていた。「ア、アンタ………」何かを聞こうとして、聞きたいことがあり過ぎて何を聞こうか分からなくなってしまった。だって、突然視界が炎に包まれて、何時の間にか恭也さんが私の後ろに居た男達を倒しちゃってて、ソルも男達をあっという間に倒しちゃうし。訳分かんないわ。それに何なの!? その手に持つ剣!? なんで炎が柄から噴出してるの!? 持ってるアンタは熱くないの!?額に装着している赤い額当て? ヘッドギアかしら? そんなもの付けてるところなんて今まで一回も見たこと無いわよ!!ていうか、一人で行くって何考えてるのよ!? 恭也さんもどうしてそれを納得しちゃうの!?混乱していて口をパクパクさせてる私を見て、ソルはぶっきらぼうに言った。「安心しろ。すずかも助ける。俺の日常を欠けさせやしねぇ」アタシに背を向けると、ソルは走り出した。「ま、待ちなさい!!」「そのじゃじゃ馬のお守りは任せたぜ」「ソル!! 無理はするなよ!! ヤバイと感じたらすぐに逃げろ!!!」恭也さんの言葉に応えるように走りながら右手を上げて階段を登って行った。「恭也さん!! どうしてあいつ一人で行かせちゃったのよ!? 相手は犯罪者なのよ!! なんであいつが一人ですずかを助けに行かなきゃいけないのよ!?」私は恭也さんを責め立てたけど、恭也さんは困ったような笑みを浮かべた。「………アリサちゃんの言いたいことはよく分かる。でも、情けないことに俺の実力はソルに遠く及ばない」「え!?」ソルが喧嘩強くて、自宅でそういう訓練してるって話は何度も聞いたことがあるけど、恭也さんよりも強いなんて話聞いたこと………あるわ。なのはが前に胸を反らして自慢してたっけ? お兄ちゃんは恭也お兄ちゃんよりも強いって。「でも、だからって………」あいつは私と同じ年の子どもで、下手したら死んじゃうかもしれないのに。「大丈夫。ソルならきっとすずかちゃんを無事に連れ戻してくれる筈だ」恭也さんが私をお姫様抱っこする。ちょっと恥ずかしい。「此処は完全に安全とは言えない。何時までもモタモタしてたら逆にソルの足手纏いになる。さあ、逃げよう」そのまま走り出した。ビルから出ると、既に日は落ちていた。「ソルのこと、心配じゃないんですか?」アタシは率直な疑問を口にした。「当然心配だよ」「だったら!!」「でも」自信に満ちた声が私の言葉を遮った。それは恭也さんがソルのことを心の底から信頼している証だった。「あいつは、誰よりも”強い”。ただ単純な戦う上での強さだけじゃない。なんていうか、心がとても強いんだ」「心?」少し難しかったかな? と恭也さんは走る速度を全く緩めず笑った。「それにあいつにはとっておきがある。アリサちゃんだって見ただろ? あの炎」あの時。私の真っ暗闇に染まった心を掻き消すように現れた紅蓮の炎。それはまさに闇を食い尽くす太陽の光だった。「そういえばあれ、一体何なんですか!?」「ソルの魔法」「は!? 魔法!?」素っ頓狂な声を上げてしまう。魔法って、えええ!? 嘘でしょ!! そんなアニメみたいな!?「俺の弟はね………実は魔法使いなんだよ」秘密だよ? と、恭也さんは少し自慢げに微笑んだ。次の瞬間、ビルの方角から爆発音が聞こえた。SIDE OUTSIDE すずか「一体何があった!?」男達が狼狽している。私も泣くのを止めて驚いている。階下で爆弾でも爆発させたかのような巨大な爆発音。同時に、まるで地震が一瞬だけ起きたかのような激しい揺れ。揺れが収まると、ピタッと時間が止まったように静かになる。不気味に静寂が辺りを包み込む。嵐の前の静けさというのはこういうものを言うのだろうか。もう日が沈んでビルの中は真っ暗だけど、私には昼と大して変わらないように”見える”。吸血鬼は本来、夜に活動する生き物。その血を受け継いだ夜の一族は夜目が効く。このフロアには私と男達以外居ない。(けど)確証は無いけど予感めいたものがある。こっちに近付いてくる”何か”が居る。それが一体何か分からないけど、さっきの爆発音と揺れはそれの仕業だ。眼を閉じ、耳を澄まして音を探る。やがて。コツ、コツ、コツ、と足音が聞こえて、眼を開いて音がした方、私が居る場所から一番離れた所にある階段の方を見る。それは―――(ソル、くん)さっき聞こえた声は気の所為などではなかった。赤いシャツ、黒いジーパン、黒茶の長い髪、真紅の眼、平均よりも高い身長。それは間違い無く私のお友達のソルくんの姿だった。でも、左手に逆手に持っている無骨な剣と、額に当ててる赤いヘッドギア? のようなものが何時もの彼と決定的な違いだった。はっきり言って普段の彼の雰囲気と比べて異質だった。普段の彼が見た目は怖いけど本当は優しいお父さんだとしたら、今の彼は獲物を狙う狩人だった。何時もは眼つきが悪いだけなのに、今は鋭く研ぎ澄まされた刃物のようにギラギラ輝いている。少し、怖いと思った。闇の中、ポケットに手を突っ込むような不良っぽい、それでいてしっかりとした足取りでこちらに歩いてくる。「き、貴様!! 何者だ!?」男の一人が私の後ろから前に進み出て大声を張り上げた。「下に居た奴らはどうした!?」「寝てる」眼つきは相変わらず怖いのに、口調だけは面倒臭そうにソルくんが答えた。「所詮人間か。肝心な時に役に立たん」下等種族が、と男の一人が吐き捨てる。「少年、自動人形はどうした?」もう一人の男がソルくんを警戒するように聞く。「あのガラクタか? 階段で偶々鉢合わせしたから、階段諸共四体纏めて消し飛ばした」「何だとっ!?」男達に動揺が走る。私だって同じだ。自動人形は元々夜の一族を護衛する為に失われた技術で作られたって前にお姉ちゃんが言ってた。夜の一族を守るくらいだから当然、普通の人と比べ物にならないくらい強い。身体能力なんて夜の一族と同等かそれ以上ものも存在するって。なのに、ソルくんは今何て言った? 階段諸共四体纏めて消し飛ばした?ソルくんが?さっきの爆発音と揺れってその時の?一体どうやって?「き、貴様のような下等種族のガキがあの自動人形を四体も倒したというのか!?」「ふざけるな!!」「何を馬鹿なことを」ソルくんは唐突に立ち止まる。「御託ばっかでうるせぇな、焼くぞ」「「「っ!!」」」手にした剣の柄から炎が噴き出し、ソルくんが男達に向かって猛然と突進した。その速度は人間とは思えない、夜の一族に迫るものだった。三人の男は驚きながらも回避に移る。一人は右に、二人は左に。次の瞬間、私の眼の前で炎を纏った剣が振り下ろされ破砕音が鼓膜を叩く。思わず眼を瞑る。恐る恐る眼を開けると、半径一メートル程の穴が開いていて、下の階が見えていた。その破壊力に生唾を飲んでしまう。「よし、すずか確保」私を包むように緑色の半球状のバリアのようなものが現れる。「え? な、何これ? ソ、ソルくん?」「アリサはとっくに助けた。次はお前の番だ。そこでじっとしてろ、すぐ終いにする」混乱する私に背を向け、完全に警戒態勢に入った三人の男に向き直る。「貴様、今の動きとその破壊力、人間とは思えん。まさか同族か!?」「勝手に俺をてめぇらノミの仲間にしてんじゃねぇ」「なっ!! 我々がノミだと!?」「違うのか? 人間に噛み付いて血を吸うんだろ? やってることは同じじゃねぇか」挑発的な態度に男達が激昂する。「ふ、ふ、ふざけるな!! 我ら夜の一族が虫ケラと同じ扱いだと!?」「貴様が誰であろうと知ったことか!!! 殺す!! 殺してやるぞ、小僧!!!」「死ね!!!」三人の内の一人が爪を振りかざしてソルくんに襲い掛かる。「フン」ソルくんは低い姿勢で攻撃を掻い潜り踏み込むと、剣を持ってない方の手で男の腹にボディブローを叩き込んだ。骨が何本も同時に砕けるような音がして、男の身体がボールのように吹き飛び、投げ捨てられたゴミのように転がった。ピクピクと痙攣して、動かなくなる。「こんなもんか、夜の一族ってのは? 大したこと無ぇな」期待外れだ、とつまらなそうに溜息を吐き、倒れた男に近付き背中に足を乗せ、そのまま体重を掛ける。硬い物が砕ける音が数秒続き、その音が柔らかい物が潰れる音に変わるとようやく足をどける。「いい、い、一体何者だ!?」「てめぇで考えろ」素早い踏み込みでソルくんは自分を問う男に接近すると、炎の剣を振り下ろす。男は反応出来ずに肩口から脇腹にかけて斬り裂かれた。「ぐぁぁぁぁ!!」血は出ない。その代わり傷口が真っ黒に炭化していた。その男の首を掴み、「やる気無ぇのか?」爆発音と共に男の身体が一瞬で火達磨になり、粗雑に投げ捨てられる。「てめぇで最後だ」「ひぃぃっ!!」男が悲鳴を上げた。「な、何なんだその”力”は!? 人間とは思えんぞ!!!」震えながら後ずさる。夜の一族の男ですら、ソルくんの異常な強さに怯えている。「ま、待て、お互い人を超えた者同士、話せば分かる筈だ!! さっき言った下等種族というのは撤回する!! だから許してくれ!!! 頼む!!!」構わず歩いて近付くソルくん。「く、来るな、助けてくれ!!」命乞いを無視して、ソルくんは踏み込んだ。「御託は―――」炎を纏った右拳、右ボディーブローが男の腹にめり込み、身体が浮き上がる。「要らねぇっ!!!」剣を持ったままの左拳、左ストレートが叩きつけられ巨大な炎が発生し、男の身体は竜巻に呑み込まれた木の葉のように吹き飛ばされる。男の身体は火達磨になって飛び、床に何度もバウンドしてから壁に激突し、ピクリとも動かなくなる。苛立たしげにソルくんは剣を床に投げるように突き刺して呟いた。「退屈させやがる」私は今見た光景が信じられなかった。夜の一族三人をあっさり倒してしまった。しかもほとんど一撃で。まるで相手にもならないとでも言うように。ソルくんが私に振り返り、ゆっくりと近付いてくる。呆然として私は動けない。ヘッドギアを外しポケットに仕舞う。「忍達がもうすぐ此処に来る」私を包んでいた緑のバリアが消え失せる。手を伸ばせば届く距離になって、ソルくんは片膝をついて私と視線を合わせた。その眼は、先程までの怖かった鋭い眼ではなく、何時もの優しい面倒臭がり屋のソルくんの眼だった。「安心しろ。すぐに家に帰れる」そう言って撫でられると、私はソルくんの手の暖かさに安堵して意識を失った。SIDE OUTガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。月村邸に釘をかなづちで打ち据える音が鳴り響く。「面倒臭ぇ」「つべこべ言うな。手伝ってやるだけありがたいと思え」ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。「帰っていいか?」「ダメに決まってるだろ」ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。「クソが」「お前が悪いんだろうが!!!」いい加減頭に来たらしい恭也が咆哮した。現在俺と恭也の二人は、先程法力を使って炭化させた部屋の床部分を修繕、もとい応急処置を施してたりする。ちなみに、すずかを助け出してから二時間は経っている。すずかは俺が助けた時点で気絶して、アリサはすずかの無事な姿を確認した途端に緊張の糸が切れたのか気絶した。今は二人仲良く月村邸のベッドの中だ。主犯格の三人の夜の一族は、辛うじて生かしておいたので月村家お達しの病院に搬送された。後でどう処分されるのかなんて興味は無いが、出来ればあの時灰にしてやりたかった。四体の自動人形は俺が欠片も残さず消し炭にした。十人の人間は結構有名な誘拐犯グループだったようで、何故かバニングス家が引き取っていった。今回の誘拐事件は表沙汰にならず、内々に処理されるらしい。ま、警察が出てきて事情聴取やらなんやら要求されても鬱陶しいだけだから別にそれで構わない。事件が無事解決し、さて帰ろうと思っていたら忍に捕まり、床を直せと言われて今に至る。さすがにやり過ぎたという負い目があったので、渋々従うことにした。「お前の魔法でなんとか出来ないのか?」「んなこと出来たら死人が蘇るな」一度加熱処理されたタンパク質をいくら冷やしても元に戻らないのと理屈は一緒だ。俺が使う法力は物質に刺激を与えて様々な変化を促すことは出来ても、灰や炭を元にすることなど出来ない。出来るとしたら、炭を錬金術でダイヤモンドに変換するくらいか。しかし、錬金術の時点で法力というカテゴリーから外れる。法力と錬金術は似て非なる技術だ。法力も、なのは達の魔法も便利ではあるが、万能ではない。結果に至るまでの過程と面倒な手段をすっ飛ばしているに過ぎない。あくまで技術。出来ることには限界が存在する。それが”魔法”だ。「お疲れ様、どう? 進んでる?」忍が入室して来る。「見りゃ分かんだろ。炭化した部分を剥ぎ取り終わって、今やっと木の板叩きつけてるとこだ」「二人は?」「まだ寝てるわ。外傷は無かったから、きっと精神的に疲れただけだと思う」恭也の質問に忍が安心しろと言う風に答える。それに恭也は安堵の溜息を吐いた。「ところでソルくん。聞きたいことがあるんだけど、いい?」「後にしろ。面倒臭ぇ」釘にかなづちを振り下ろす。「それ、もうやんなくていいから」「………そういうことは早く言え」俺はかなづちを放り捨てて、忍に向き直った。「ソルくんは………何者なの?」やっぱりそういう質問か。ま、今更冷静になって考えてみればこうなるか。確かに自分達より遥かに”力”がある奴がすぐ傍に居るんだからな。こいつら夜の一族にとって俺はあまりにイレギュラーな存在だろう。「さっき見せてもらった魔法、私を格下呼ばわりしたこと、夜の一族を圧倒する戦闘能力、千年単位で生きてるっていう吸血鬼と喧嘩仲間だったていう話。どれもこれも異常だよ」「普通はそうだろうな」「教えて、貴方は一体何者なの?」「………」さて、どうする?此処で「お前らと似たようなものだ」と答えるのは簡単だが、俺は自分が生体兵器『ギア』であると言うつもりは更々無い。変な仲間意識を持たれても別に困る訳じゃ無いが、なんかな。それは少し違う気がする。段々どう答えようか考えることすら面倒になってきた。もう、これでいい。「俺の名はソル=バッドガイ。高町家の次男で、なのは達の兄だ。ついでに、魔法使いでもある………それだけだ」「それは知ってるよ。私が聞きたいのは―――」「忍、もうよせ」恭也が俺に問い詰めようと迫る忍の肩を掴んで動きを止める。「でも、恭也」「お前が夜の一族であることを秘密にしておきたいように、ソルにだって誰にも言えないような秘密がある」「………」忍は俯いて恭也の話を聞いている。「確かにソルは非常識だし、人の話は碌に聞かないし、特に俺の言うことなんて全く聞かないし、何時もぶっきらぼうな態度と口調でおまけに面倒臭がりで無愛想で生意気だ」喧嘩売ってんのかこいつ?「とんでもない魔法は使えるし、夜の一族なんて比べ物にならないくらい強い。だが、ソルはソルだ。俺の大切な家族だ」家族、という言葉に忍ははっと顔を上げる。「ソルと何年も一緒に暮らしてるが、俺は未だにソルのことを知らない。だが、俺は別にそれで良いと思う。話したくないことを無理に話させることは無い」「………」「ソルが俺を兄貴と呼んでくれるように、俺もソルを弟だと思ってる。俺はそれでいい。俺だけじゃない、きっと高町家に住む全員がそう思ってる筈だ」だから、と忍の両肩を掴んで真正面から見つめた。「俺の弟をあまり困らせないでくれ」恭也は真摯な眼で訴えた。「………うん。分かった」忍がその言葉にゆっくりと頷いた。とりあえず難を逃れたか。俺は内心で恭也に感謝しておいた。忍が恭也から離れ俺の真正面に立ち、頭を下げた。「ごめんね、ソルくん。私、ついさっきまで貴方のことを自分に向けられたら嫌な眼で見てた」「………そうか」「私、馬鹿だよね。自分だって化け物扱いされるのが嫌なのに、ソルくんのこと化け物扱いしてた。すずかのこと、助けてもらった癖に」「もういい」「許してくれる?」少し顔を上げて上目遣いに見つめてくる。俺は溜息を吐いた。「許すも許さないも無ぇ。生き物が自分より”力”がある奴に恐怖を覚えんのは当たり前だろうが。んなこといちいち気にしてんじゃねぇ」「ありがとう」「ちっ」舌打ちして、俺は歩き出す。「お、おいソル。何処行くつもりだ?」「帰る。もう此処に用は無ぇ」その時、ガチャッとドアが開いた。「ソルくん………」「………ソル」ドアの向こうには、またもや面倒なことになりそうなアリサとすずかが居た。SIDE 恭也「どういうことか説明しなさいよ」どういうこと、とは一体何を指しているのだろうか? ソルの魔法のことか、魔法使いであることを今まで黙っていたことか。アリサちゃんがズンズンと足を踏み鳴らしてソルの前に仁王立ちすると、腰に手を当てて問い詰めた。「ちっ、面倒臭ぇ。兄貴」心底面倒そうに溜息を吐くと、俺を呼んだ。「何だ?」あの眼は面倒事を他人に押し付ける時にする眼だ。最近ではよくユーノに向けられる視線の類だ。「後は任せた」「………面倒臭いと思ったことを片っ端から人に押し付けるのは、お前の悪い癖だぞ」するりとアリサちゃんの横を抜けるとそのまま通り過ぎようとする。「待ちなさいよ!!」しかし、アリサちゃんはソルの逃亡を許さず、シャツの端を掴んだ。「恭也さんからアンタのこと、すずか本人からすずかのこと聞いたわ。アンタは魔法使いで、すずかは吸血鬼なんですってね」「今日の事件のことは忘れろ。悪い夢でも見たと思ってな。そうすりゃ、また明日から何時もの日常が始まる」「ふざけんじゃないわよ!!!」突然大声で叫び、怒りの形相でソルを睨む。「アンタって何時もそう、何時も面倒臭がって話そうとしない、何時もはぐらかして、隠そうとして、なんにも教えてくれない、どうしてよ!?」ソルの正面に回り込む。「初めて会った時から今までずっとそうだった。アンタ、自分と他人の間に壁作ってる。一定以上の距離に近付かせない、踏み込ませない。だから近付いてこない、踏み込んでこない。クラスメートは勿論、アタシもすずかも」それがソルの人との付き合い方、所謂処世術だ。「でも、なのはだけは違う。なのはだけはアンタの壁の内側に居る。なのはだけじゃない。恭也さんも美由希さんも士郎さんも桃子さんも………今までは家族だからって納得してた。だけど、最近になって納得出来なくなった。フェイトとユーノとアルフ、あの三人はアタシとすずかが入れなかった壁の内側に居る。どういうことよ!?」今挙げられた名前は、ソルが家族と認めた人物。ソルにとって、恐らく最も優先すべき存在。「なんでいきなり出てきた人間がそこに入ってるのよ!? 親戚だとか嘘まで吐いて!!!」今まで溜め込んできたソルに対する不満をぶち撒ける。「調べたのか?」「調べるまでもないじゃない、あんな嘘、聞かれたくないことがあるから吐いた嘘だって分かるわよ!! そのくらい空気読めるわよ!!」嘘、か。ソルのことだからきっとその場で思いついたテキトーなことを言ったんだろう。アリサちゃんの性格を考慮して意識を誘導させるような内容の。「どうしてアタシ達は壁の中に入れないの!? 三人はあっさり入れたのに。魔法が関わってるからって言うの!?」「お前が知る必要は無ぇ」「またそうやってはぐらかす!!」なんとなくだが、俺はソルの気持ちが分かる。ソルが父さんの怪我を治した時、あいつはなのはに魔法の才能があると言った。だが、同時に魔法を教えるつもりは無いとも言った。普通が良い、普通が一番だ。あの時のソルはそんな言葉を口にした。普通じゃないものに関わることによって、普通ではなくなってしまう。ソルはなのはがそうなることを何よりも恐れていたと俺は思う。だから、ユーノによってなのはが魔法に眼覚めた時、烈火の如く怒ったのだ。その点から考えると、今回の件でアリサちゃんは普通の世界から”普通じゃない世界”を垣間見てしまった。だが、忍やすずかちゃんのよう生まれる前からその世界に生きることを宿命づけられた訳でも、なのはのように”力”を手にした訳でも無い。まだ、戻れる。取り返しが利く。ソルの態度はつまりそういうことだ。しかし、そんな態度が何時までも通用するアリサちゃんだとは思わない。「何がいけないのよ………私はアンタが魔法使いだろうと、すずかが吸血鬼だろうと関係無いわよ。ソルはソルで、すずかはすずかじゃない。私の大切な友達じゃない………」アリサちゃんはソルのシャツに顔を埋めると、啜り泣き始めた。「友達のことを知ろうとすることはいけないことなの? 私はアンタのことが知りたいのよ………それとも、アンタにとってアタシは友達じゃないの? だったらアタシは、アンタにとって何なのよ?」泣きながら、それでも答えを聞くまでは決して離すまいとソルの身体にしがみつく。「私もソルくんのこと、もっと知りたいし………ソルくんにも私のこと、知ってもらいたいな。そうしたら、私達はもっと仲良くなれるよね?」すずかちゃんが傍に立ち、逃がさないと言わんばかりにソルの手を握る。ソルが苦虫を噛み潰したような顔で、助けを求めるように俺を見る。俺は何も言わずに首を振った。遅かれ早かれ、いつかはこうなっていたのかもしれない。ソルとなのは達の魔法のこと、忍とすずかちゃんの一族のこと、それをお互いに打ち明ける時期が早く来ただけ。「ちっ」舌打ち一つして、ソルは「二、三日待て」とだけ二人に伝えた。SIDE OUT家に帰り、俺は法力を使って二人を助けたことに少し後悔していた。今思えば、法力を二人の前で使わなくても純粋な身体能力だけで何とかなったかもしれない。が、法力の使用が二人を助け出す上で最善の手であったのは確かだし、俺も頭に来ていたのでそこまで気が回らなかった。突入寸前まで廃ビルの様子をサーチャーで探った時に聞こえた人間十人の会話。アリサを取り囲みながらすずかのことを嘲笑していた光景。せめてあれさえ無ければ。突入の一発目だけ法力を使って、その後は全て素手で片付ければ「ガソリンを撒いた」とか誤魔化せたかもしれない。―――言い訳以外の何物でもねぇな。就寝前に、なのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人に、アリサとすずかの誘拐事件を話した。夜の一族云々は省いた。それをこいつらに伝えるのは俺じゃない。皆一様に驚いていた。自分達が知らない間にそんな事件が起きていたことに、誘拐犯から助ける為に二人の眼の前で俺が法力を使ってしまったことに。その後四人に怒られた。何故その時に自分達にも手伝うように言わなかったのか、恭也が居たとはいえ危険だ、と。一応、犯罪者相手の賞金稼ぎを生業として生きていた経験があったので問題は特に無かったと反論はしておいた。四人共、納得いったようないかないような顔をしたが大人しく引き下がってくれた。それから、俺達全員の魔法関連のことをアリサとすずかに教えるかどうか聞く。考えるような仕草をしてから、全員が揃って了承した。決まりだった。後日。まず、俺が法力使いであること、なのはとフェイトとユーノが魔導師であること、アルフがフェイトの使い魔であることをざっと言い、その後に細かい説明を加える。その後にどうしてなのはを除いた全員が高町家に居候することになったのか説明した。アリサとすずかは五人全員が魔法を使えることに驚いていたが、割とすぐに納得した。次に、すずかが自分の一族のことを打ち明けた。吸血鬼という話を聞いて今度は俺を除く高町家勢が驚愕していたが、別にそんなことは関係無いから今まで通り友達でいよう、とすずかの手を握るなのはに誰もが賛同した。その時に、フェイトが自分はアリシアのクローンであることを告げて、俺がフェイトに以前言った”在り方”を自慢げに語っていた。すずかがそれに感動し、泣き始めた。こうして、俺達は秘密を共有し、以前よりも親密になった。だが。俺は自分が生体兵器『ギア』であることを言わなかった。元の姿のことも言わなかったし、それを後でなのは達に言及されることも無かった。実年齢が二百を越えることも言わなかった。他の皆は全員自分の全てを曝け出したっていうのに。(卑怯者だな、俺は)自嘲する。そもそも、元の姿以外は誰にも言っていないし、知らない。もし言ったとしても、あいつらなら気にしないだろう。―――”今”の状態の俺であれば。今のこの身体はギア細胞制御装置が無くても人間の姿を維持出来る便利な身体だ。何故、俺の身体がこの世界に来たことによって若返り、俺にとって都合の良い条件を揃えているのかは不明だ。しかし、俺のギアとしての”力”は存在を主張している。だから、この世界に来てから一度も確認していなくても、分かる。完全に解放すれば当然”あの姿”になる、と。それを見ても尚、なのは達は今まで通り俺に接してくれるだろうか?答えは否だ。もし”あの姿”を晒せば、俺は此処に居られなくなる。それは俺にとって恐怖でしかなかった。それ程までに、俺は今の生活が気に入っていた。化け物呼ばわりされるのは慣れている筈だった。今更になって、俺はあの夫婦の苦悩を本当の意味で理解したのだった。アリサは俺が壁を作っていると言った。それは正解だが、アリサは一つ勘違いしている。壁の内側には、誰も居ない。(誰にも越えられない壁があるんだよ。俺とお前達の間には)後書き魔法に関しての暴露話、しかしなんか最後がちょっと鬱っぽくなりました。前回のジョジョネタが不評過ぎるwwwwジョセフじゃなくて承太郎の台詞持ってきたんですけどね(言ってる意味一緒ですけど)性格も似てたし ←見苦しい言い訳私の脳内では、ソルは面倒なことに対して、”やらなければいけないこと”はなんだかんだ言いつつやりますが、”やらなくていいこと”には全力で逃げるんじゃないかと思ってます。ついでに、他人に押し付けられるのなら全力で押し付けるんじゃないかと。なんかダメな学生みたいだな………今回のソルは、何時ものお父さん&お兄ちゃんモードから修羅モードになってます。当然敵には容赦無し。非殺傷設定ですが、”中途半端”に非殺傷ですので死なないけど怪我はするし一生ものの障害が身体に残ります。そこら辺の力加減は絶妙です。本人としては皆殺しにしたかった筈です。初代だといきなり賞金首の首掻っ斬るような人ですから。でも戦闘描写があっさりし過ぎてるorz 脳内設定&公式設定=一撃必殺(ゲーム仕様は除外)=数行で終わる。ぶっちゃけ他のキャラの方が戦闘シーン書き易い………以下、予告的な何か?次回はGG世界のタイムスリッパーの話を書こうかな~と思ってるんですけど、実際どうなんでしょうね?以前感想版であった、今のソルの姿と環境を見て「うはw」と笑われるシーン書いてみたいなと思って。皆さんの意見をお待ちしてます。次々回はユーノが里帰りするのを皆と旅行気分でついていく話でも書こうと思ってます。その次にリクエストにあった、なのフェイ二人のデート話。↑が書き終わったらいよいよA`s編に突入しようかと思います。