「フェ、フェイト・テスタロッサ・高町です。ソルとなのはとは遠縁になります。事情により二人の家で暮らすことになりました。よ、よろしくお願いします」自分と同年齢の子ども達―――しかも三十人以上―――から一斉に視線を浴びる経験など無いのだろう。恥ずかしそうにしながらも一生懸命自己紹介をして、最後にペコリとお辞儀をした。パチパチパチ、と拍手喝采。「ユーノ・スクライアです。ソルとは遠い親戚です。フェイトと同様、事情により高町家に居候させていただいてます。よろしくお願いします」こちらは特に気負いもせず普通に自己紹介をしてお辞儀をするが、やっぱり何処か動きが硬い。多少は緊張してるんだろう。フェイトと同じだけの拍手喝采。しかしまあ。桃子はどうやって一度に二人来た転校生を一つのクラスに編入させたんだ?どちらか片方は俺となのはのクラスにすることは出来るかもしれないが、二人はさすがに無理だろ。普通ならもう一人は別にクラスになってる筈なのに。―――「私に任せなさい!!!」桃子のあの時の自信満々の笑顔を思い出す。一体どういう人脈を………いや、考えない方が良いんだろうか?「じゃあ二人の席は~、ソルくんと高町さんが近い方が何かと心強いでしょ? あの二人の近くで良い?」「は、はい!! ………出来ればソルの隣が」「あ、僕も」即答だなお前ら。「じゃあテスタロッサさんはソルくんの隣ね? スクライアくんもいい? 彼背が高いから一番後ろの席なんだけど、黒板見える?」「はい!! 大丈夫です!!!」「いざとなったらソルに聞きますから」先公の言葉にフェイトとユーノは元気に返事をした。『く、フェイトちゃん、抜け駆けは禁止だって言ったのに………』少し離れた所からドス黒い魔力を感じたが、とりあえず気付かない振りをした。「ということで、今日から新しいお友達が皆に出来ました。仲良くするのよ!! あ、ソルくん、机と椅子用意するの面倒だったから二人の分はまだ無いの、空き教室からテキトーに持ってきちゃって。それと、二人のフォローよろしくね」いや、転校生が来るって分かった時点で用意しとけよ。なんだよ面倒って。仕事しろよ。俺は渋々立ち上がり、教室を出た。二人が転入してきたのは、ジュエルシードの一件から丁度一週間経った日だ。背徳の炎とその日常 1 これからの生活フェイトとアルフを連れて帰った時の高町家の反応は、俺への生暖かい視線だった。『ソルが、新しい家族として女の子を連れて来るなんて、優しい子に育ってくれて桃子さん感激!!!』『初めて会った時のソルとは思えない行動だな。いやぁ、嬉しいよ』『わー、わー、ソルが女の子連れて来たー。しかも可愛い!! この面食い!!』『ようやく人並みの優しさというもの持ち得たようだな』こいつらの眼から見て、普段の俺はどんな人間なのかよく分かったような分からないような………なんか微妙な空気の中、俺は若干の居心地の悪さを感じつつ事情を説明し、フェイトとアルフとついでにユーノをウチに置いてもらえないか頼んだ。よく分からんが俺の態度に感動したらしい高町家の面々は、二つ返事で了承した。いや、その気持ちは非常に嬉しいし助かるしありがたいんだが、渋る気配も見せないってどんだけお人好しなんだ?子どもってのは育てるのに金が掛かる。衣食住は勿論、養育費だって必要になる。もし俺のとなのはが通う私立聖祥大学付属小学校に編入させる場合、小学校と言えど私立は私立。馬鹿みたいに金が掛かる筈だ。それに部屋の問題だってある。我が家には既に空き部屋が無い。ユーノとアルフは変身しちまえば場所はあまり取らないし、本人達もペット扱いされることを享受しているようだが、家族として扱う以上最低限個人のプライベートの部屋は用意してやりたい。いっそ俺だけでも道場で寝起きしようと思ったのでそれを言うと、なのはとフェイトに猛反対された。そんなことをするぐらいなら、自分達も一緒に寝る、と。それでは本末転倒だ。せめて金だけでもと思い、この世界に来る前の賞金稼ぎ時代に路銀が尽きた時の非常用として常に持ち歩いていた宝石や貴金属を持ち出した。宝石や貴金属を居候し始めた時に渡さなかったのは、この家のいざって時の為に取っておきたかったからだ。士郎と桃子はこんな高価な物もらえる訳が無いと反対してきたが、俺は頑として譲らなかった。こいつらには俺にしてくれたように家族として扱って欲しい。だがその為には先立つものが必要―――つまり金だ―――になる。これからの皆の分を含めると、高町家の経済状況じゃ厳しい筈だ。だから受け取れと、無理やり士郎に握らせた。俺の言葉を聞いて、素直に受け取る士郎ではあるが、『俺もボディガード時代はかなり稼いでいたんだぞ。これは一応担保として受け取っておくが、いずれソルに返すぞ』そう宣言した。士郎なら何時か絶対に返してきそうである。ちなみに、ボディーガード時代から今まで貯めていた額を聞いて度肝を抜かれた。俺のしようとしたことは士郎にとって本当に大したことなかったらしい。軽くへこんだ。お前、現役時代頑張り過ぎじゃねぇのか?なるほど、金に余裕が無ければ俺を引き取ろうと思わない筈だ。士郎と桃子には今回の件で、でかい借りが出来てしまった。金の問題は解決したので今度は部屋の問題となる。『家族が増えたんだから、いっそのこと増築しちゃわない?』桃子の鶴の一声で全てが決定した。それに便乗して、俺は自室とは別にデバイスやヘッドギアを弄くれるような部屋が欲しいと進言した。俺が年に一度、成長する自身の身体に合わせてヘッドギアを弄くってるのは周知の事実であり、その時になると俺は士郎から材料やら道具やらをその度に調達してもらってる。それはいい加減迷惑だろうし、なのはやフェイトのデバイスの面倒をこれから見ることになるだろうし、俺専用のデバイスも作らなければならない。常にいちいち戦闘に備えてヘッドギアを携帯したり、戦闘の度にヘッドギアを装着して転移法術を使って封炎剣を召喚するのは面倒臭ぇ。バリアジャケットと待機状態のデバイスが便利過ぎるというのが一因なんだが。その為に報酬としてデバイスの作り方を教えてもらったのだから、せっかく活かさなければ宝の持ち腐れだ。作業はうるさいこともするだろうから、母屋から少し離れた場所に、地下室みたいな感じで作って欲しい。そう伝えると、恭也が『それならお前の魔法で掘ったらどうだ?』と冗談交じりに言われた。こいつ天才だ。それならわざわざ金を使う必要が無い。場所を取るという面では迷惑を掛けるが、金銭面では内装面以外ほとんど世話にならない。いや、いっそ増築にも金をなるべく使わないように俺が設計して組み立てればいい。掛かるのは材料費と実際に増築作業に移った時のみ。俺が久々に珍しく自発的にやる気を漲らせると、恭也が泡を食っていた。『え? 本気か?』こうして、高町家の増築&デバイスとかその他諸々を弄くる地下室計画が俺主体となって発動した。建築と設計の本を図書館で片っ端から借りてきて勉強する俺の横で、士郎は俺の時と同じように異世界出身の三人の戸籍を昔の伝手で作り、桃子は着々と小学校編入の準備を進めていた。増築が完了するまで間。ユーノとアルフはそれぞれ寝る時は、動物の姿で俺の部屋で就寝。ユーノはケージの中で、アルフは床にクッションを敷いて。で、フェイトはというと、なのはと一緒だったりする。………つまり、俺の部屋の俺のベッドで三人川の字になって寝ることになった。なんで俺の部屋で五人も寝てるんだ?発端はなのはだ。フェイトとアルフを連れ帰ったその日の夜、何時ものように『お兄ちゃん一緒に寝よう』と言ってきやがったことにフェイトが憤慨して『ずるい、ずるいよなのは!! 抜け駆けだよ!!!』とそのまま言い争いになった。お前ら『お兄ちゃん同盟』とかいうの結んだから喧嘩しないんじゃないのか!? 溜息を吐いて眼の前で今にもキャットファイトを始めそうな二人をどうしたもんかと悩んでいると、桃子が後ろから気配無く現れて『ソルを真ん中に皆で寝ればいいじゃない』と、これは面白いものを見せてもらったという顔をしてのたまった。桃子の言葉になのはとフェイトは大きく頷き、桃子を天才だと称えた。絶対に桃子は面白がってやがる。周りの面子も全く止めようとしない。ユーノもアルフも士郎もニヤニヤしてるだけだし、美由希なんてカメラ持ってきやがった。何を撮る気だお前は!? 恭也は視線すら合わせてくれないから論外だ。そんなこんなで高町家は今までの二倍近い騒がしさを誇りながら、日々を過ごしていった。SIDE ユーノ最初は戸惑うことが多かった学校生活も段々慣れてきた。そもそも僕はスクライアの方で集団生活とは何たるかを物心ついた頃から実践していた。その点ではフェイトよりは早くクラスに馴染めた。別にフェイトがクラスに馴染めてない訳じゃなくて、あくまで僕の方が早く馴染んだってだけの話。困ったことや分からないことがあればソルやなのはに頼れば良かったし、僕は事前にソルから日本語を教えてもらってたので授業でも特に困るようなことはなかった。日本語や勉強に関してはフェイトはかなり苦労してたみたいだけど、隣の席に居るソルが上手くフォローしてたし、そのおかげで本人も幸せそうだったから特に学校で問題は起きなかった。クラスの中での僕は、クラスメートから見るとソルの弟らしい。家の中でも皆が僕を居候としてではなく、家族の一員として、ソルの弟として扱ってくれる。それが僕にとっては誇らしかったりする。前々からソルには認めてもらいたい、弟として見て欲しいと思っていただけに、周りの態度が純粋に嬉しい。まあ、まだソルからはっきりと認めてもらったり、弟として扱ってもらった訳じゃ無いけど。でも何時か、必ずソルに認めてもらうんだ。アリサやすずかと改めて知り合って友達になった。他にも友達は出来た。しかし、此処で少し問題が発生した。僕達の出身地や今までどんな暮らしをしていたか、という話になった時、どう答えればいいのか全く考えてなかったからだ。答えに窮した僕とフェイトはソルに全部丸投げした。すると、ソルはとんでもない嘘をしれっと吐くのだった。「そういえばフェイトとユーノって何処出身なの?」「「え?」」それはお昼時間に、アリサが箸で弁当を突きながら僕たちに聞いてきた時だった。「自己紹介ではソルとなのはの遠縁だって言ってたけど」「あ、それ気になるかも。確かソルくんってなのはちゃんのお父さんの従姉妹の方の遠い親戚なんだよね? じゃあフェイトちゃんとユーノくんはどういう感じ?」『ソル!? どど、どうしよう!? 何て答えればいいの?』『フォローよろしく!!』『しゃあねぇな』慌ててフェイトが念話を繋ぎ、僕もそれに便乗する。と、やれやれと首を振りながらソルが口を開いた。「まずフェイトは親父の従兄弟の親戚の親の配偶者の従姉妹の娘でイタリア出身だ。だがイタリア語は喋れん。生まれてすぐ日本で育ってな、つい数日前に偶然会うまで海鳴市に住んでいたことすら知らなかった。で、紆余曲折あって大人の事情で家で引き取ることになった」「………随分遠い親戚ね。ていうか大人の事情って何なのよ?」「それは他人が聞いていいことじゃねぇ」「あ、フェイト………ごめん。私今ちょっと無神経だった」「………ううん、アリサ、気にしないで」案の定食いついてきたアリサに聞いてはいけないような内容を匂わせて、大人しく引き下がらせるソル。『覚えとけ。頭が良い奴は悪い奴よりも扱い易い時がある』僕とフェイトはソルのその発言に少し引いた。「ユーノくんはどうなの?」「ユーノも似たようなもんだ。こいつは俺の親戚の息子が不倫して生まれた隠し子の母親の叔父の配偶者の甥っ子でエジプト出身だ。こいつは俺が偶然橋の下で死に掛けてたのを見つけて、そのまま拾ってきた。エジプト出身だが日本語しか喋れねぇし遺跡とか好きな癖して詳しくねぇ」『ちょ、フェイトと比べるとかなり酷い内容なんですけどこのペテン師!! 僕が浮浪者みたいじゃないか!!』『だったら俺に言わせるんじゃなかったな』既にアリサとすずかが哀れみと同情の眼で僕を見ていた。「………アンタ達って、その年でハードな人生送ってるのね」「ホームレスの人って怖いイメージあったけど、考えてみれば路上生活って凄く辛いよね。私、自分の家が裕福だからって偏見の眼で見てたよ」表情を暗くさせるアリサと泣きそうになるすずか。『ちょっと!! なんか変な方向に話が行っちゃったんだけど!! ていうか撤回してよ、なんで僕が何時の間にか元路上生活者になってるの!?』文句を言っても無視される。フェイトもおろおろしていた。「ま、こいつらには人に言えないような辛い過去があるから、なるべく聞いてやるな」「「うん」」『うわぁ、お兄ちゃんこのまま話終わらせるつもりだよ』『キミは………』『ソル………』『グダグダ抜かすな、予め答えを用意してなかったお前らが悪い。それに、嘘も方便って言葉があんだよ』それにしても内容が酷くて色々と台無しなんだけど………これから先を突っ込まれないように、っていうソルなりの配慮なんだろうけど………そのまま微妙に沈んだ空気は、アリサが「もうこの話はお仕舞い、もっと楽しい話しましょう!!」と切り出すまで続いた。回想終了。僕とフェイトはそれ以来、ソルに嘘を吐かせると効果的だが色々と酷いことになるという意識の下、彼にはあまり口を開かせないように努力するようにした。だって何時の間にかクラスの皆がやたらと優しくなってるから。今更あれはソルの嘘だったんですごめんなさいと言えず、僕とフェイトは苦笑いするしかなかった。まあ、こんな感じで学校生活は順調だった。それから家の増築の件はどうなったのかと言うと、これが結構難航していた。ソルがそっちの方面の勉強を独学でしつつ、一人で一生懸命机の上で図面やら設計図やらと睨めっこしながら、白い無地の紙に定規とかを使って線とか引いてたりするんだけど………『増築するだけじゃ物足りないから、リフォームもしちゃいましょう』桃子さんのこの一言でソルの苦労が増大した。『あ、じゃあ私、屋根裏部屋欲しい!!』美由希さんから始まり、『母屋と道場を繋ぐ渡り廊下があると便利だな。雨の日とか』恭也さんが続き、『ソル、シャワールームとサウナを道場につけれないか?』士郎さんも注文をつけるようになり、『これだけの人数じゃ朝急いでる時に洗面所が狭いわね。お風呂も人数が人数なだけに時間が掛かっちゃうし………ソル、何とかならないかしら?』言いだしっぺの桃子さんも当然のように注文をつけた。他にも屋上が欲しいとかカラオケルームを作れとか部屋にベランダが欲しいとか一階と二階を吹き抜けにしろとか、etc,etc...いくら彼がハイスペックだからって無茶言い過ぎでしょ高町家の皆さん………ていうか、建て直した方が早いんじゃないんですか? もうこれ増築とかリフォームの域を飛び越してるよ。次々に降りかかる無理難題に文句一つ言わず、『出来るだけ考慮してみる』と注文を受ける度に修正するソル。それでいいのかキミは!? まさか出来るとか言うんじゃないだろうな?聞いてみると、「さすがに吹き抜けは構造上無理だし、俺も家を建てた経験なんて皆無だから専門家のアドバイスは受けるつもりだ。丁度この話を聞きつけた忍の知り合いにそっち関連の専門家が居るらしいから、そいつと相談しながらな。ま、注文には現実的に無理なもんがあるのは確かだが、可能なものも少なからず存在する」事も無げに返事が来る。「金に糸目はつけるなとまで言われたからな、あいつらの注文に応えつつ好きにやらせてもらうぜ」「………なんか企んでない?」「さあな」むしろソルは楽しそうに机に向かうのであった。SIDE OUTSIDE なのは今日は放課後に携帯ショップに行きました。フェイトちゃんとユーノくんの携帯電話を買う為です。二人共念話があるからいいって遠慮したんですけど、『念話出来ない人間とどうやって連絡取るつもりだ?』とお兄ちゃんに諭されて買うことになりました。ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんは習い事で一緒に来れませんでした。お母さんの知り合いが責任者をしているお店に着くと、早速カタログを二人に見せます。ユーノくんはうわぁ、と感嘆の声を上げて機種の多さに驚き、ペラペラとページを捲りながら吟味します。フェイトちゃんはカタログなんて見向きもせず、「ソルはどんなのを使ってるの?」と聞いています。「俺のはこれだ」お兄ちゃんがポケットから携帯を取り出してフェイトちゃんに渡します。それはお兄ちゃんの炎をイメージしたような真っ赤なデザインで、他のスマートな携帯と比べるとゴツゴツした無骨な印象がある物でした。これを選んだ時、『他の携帯より頑丈で壊れにくい』っていう売りだったのでそれを理由にお兄ちゃんは買いました。機能なんて二の次。電話とメールさえ出来ればそれでいいみたいです。「これ、ちょっと借りていい?」「あ? 好きにしろ」「うん、ありがとう」そのままフェイトちゃんは店員さんに駆け寄り、恥ずかしそうに「こ、こ、これと色違いの黒は無いですか?」って聞いてます。店員さんは微笑むと、「ちょっと待っててくださいね」と奥に引っ込みました。きっと在庫の確認をしに行ったのでしょう。やっぱりフェイトちゃんはお兄ちゃんとお揃いを狙っていました。相変わらず抜け目が無いです。かく言う私の携帯もお兄ちゃんと同じ機種なんですが。色違いの白で。「決めた、僕これにするよ。すいませ~ん」ユーノくんもどういうのにするか決まったらしく、カタログ片手に店員さんと話しています。「お待たせしました。こちらの黒でよろしいですか?」ピッカピカの新品の黒い携帯―――お兄ちゃんと私と同機種―――を持ってきた店員さんがフェイトちゃんに声を掛けます。「は、はい!! 是非それでお願いします!!!」待ってる間そわそわしていたフェイトちゃんが店員さんの言葉に眼を輝かせて返事をし、書類手続きに入ります。お母さんが事前に責任者さんと話をつけていたので、手続き自体は子どもだけでもすんなり終わりました。大事そうに携帯を抱えてニコニコ顔のフェイトちゃんと、物珍しそうに携帯をパカパカ開け閉めしているユーノくんが近寄ってきます。二人共手続きが終わったようです。「よし、番号、交換しようぜ」まだ使い方がよく分かっていない二人がお兄ちゃんのレクチャーの下、基本的な使い方を教わってから番号の交換をします。「えへへ、ソルとお揃い………」お店を出る間際、フェイトちゃんがぼそっと幸せそうに呟いたのが聞こえました。「ね~、お兄ちゃんもう寝ようよ~」「そうだよソル、明日早いんだし」「………寝たかったら勝手に寝ろ。ユーノとアルフはもう寝てんだろ?」「「お兄ちゃんが(ソルが)一緒じゃなきゃヤダ」」「………」時刻は夜、午後十時前。場所は家の居間。お兄ちゃんは寝巻き姿でちゃぶ台にかじり付き、設計図と睨めっこしている最中です。「あのな、俺は仕事中だ、分かるか?」「「うん」」「とりあえず仮とはいえこの設計図を今週末までに忍の知り合いに渡す必要がある、これも分かるか?」「「うんうん」」「じゃ、先に寝ろ」「「それはヤダ」」「………分かってねぇじゃねぇか」溜息を吐いて呆れるお兄ちゃん。「専門家に話してから細かい手直しやらなんやらあって時間無ぇってのに」「でもお兄ちゃん、根詰め過ぎるのは良くないよ」「そうだよ、ソルがその所為で身体壊したら元も子もないよ?」私とフェイトちゃんがお兄ちゃんの肩を揺さぶりながら言います。「そもそも私、お兄ちゃんと一緒じゃないと寝むれないんだからね!!」「私だって、ソルが一緒に寝てくれないともうダメなんだから」「………お前ら、今の言葉絶対に外で口にするなよ? 色々と厄介なことになる」「「え?」」「分かってねぇならもういい………」お兄ちゃんはもう一度深く溜息を吐くと、設計図とか定規とかシャーペンを片付け始めました。「寝るよ、寝ればいいんだろ。続きはまた明日にすりゃいいんだろ」不貞腐れたように立ち上がり、居間を後にします。「お、今日はもうお終いか?」「妹二人がうるせぇからな」晩酌していたお父さんが声を掛けてきます。「ふふ、ソルが設計とか出来ちゃうからつい無理言っちゃったけど、なのはの言う通り根を詰め過ぎるのは良くないわ。別にそんなに急ぐ必要無いからゆっくりやって」「ああ、サウナとか半分冗談だったのに本気で考えてくれたからな」「言っとくが吹き抜けは絶対に無理だからな、あと屋根裏部屋と屋上………おやすみ」「「おやすみなさい」」お母さんが微笑み、お父さんは上機嫌でいる様子にお兄ちゃんは呆れながら二階に上がりました。「あ、お兄ちゃん待って。お父さんお母さん、おやすみなさい」「士郎父さん、桃子母さん、おやすみさない」「「二人共おやすみ~」」挨拶をすると駆け足で二階に上がります。部屋(お兄ちゃんの)に入ると、クッションの上で仲良く丸くなって寝ているアルフさんとユーノくんが居て、お兄ちゃんは既にベッドで寝息を立てていました。相変わらずだけど寝るの早っ!!!私はすかさずベッドに潜り込んでお兄ちゃんにしがみつきます。フェイトちゃんも私と同じように潜り込んでしがみつきます。「おやすみ、フェイトちゃん」「おやすみ、なのは」私は眼を瞑り、お兄ちゃんの温もりを感じながら睡魔に身を任せます。帰ってきた元の生活。私の日常。新しい家族。これからも続いていくって信じてる幸せな日々。―――そうだよね? お兄ちゃん。意識が遠のくのを自覚しながら、最後に挨拶をします。(おやすみ、お兄ちゃん)SIDE OUTSIDE アルフ「いらっしゃいませー、って何だいソルじゃないか!! 打ち合わせはもう終わりかい?」翠屋に入店してきたのは、増築の件で専門家と話をしに今朝出掛けたソルだった。「まあな。思ったよりも手直しの必要な部分が少なくてな、ブレンド」「はいよ、ブレンド入りま~す」ソルはカウンターに腰掛けると、背負っていたバッグを降ろし、中から何枚もの設計図を引っ張り出してそれを眺め始めた。「どうだい? どんな感じになりそうだい?」アタシはお冷をソルの前に置きながら聞く。「ん」手渡されたのは何枚もの設計図。「………これ見てもよく分かんないんだけど」「分からねぇなら楽しみにしてろ」そう言って、ソルはお冷を啜り始めた。アタシが翠屋の仕事を手伝わせてもらうようになったのは、高町家に居候させてもらえることになってからすぐだ。フェイトやユーノみたいに学校へ行く訳じゃ無いアタシは、ソルとその家族に少しでも恩を返したくて桃子さんと士郎さんの手伝いをするようになった。勿論喫茶店の仕事だけじゃない。家事だって率先して手伝うようにしてる。始めの方は慣れない家事と接客で戸惑ったり失敗をやらかしたりしたけど、桃子さんと士郎さんの懇切丁寧な指導の下、今じゃすっかり両方とも慣れたよ。桃子さんにはアタシ専用のウェイトレスの制服まで作ってもらっちまったし。確かこれ、メイド服とかいうんだっけ? まあ、可愛らしいから何でもいいけど。これを初めて着て見せた時の皆の反応は少し恥ずかしかったな。服を作ってくれた桃子さん、フェイトとなのはと美由希さんは口を揃えて可愛いって言ってくれるし、ユーノも顔を赤くしながら褒めてくれてたしね。士郎さんは売り上げが上がるって微笑んでた。恭也さんも似合うって言ってくれた。で、ソルはというと。呆れたように「なんでメイド服でウェイトレスやるんだ? ウチは何時からメイド喫茶になったんだお袋。ま、似合ってるからいいか」と相変わらずの仏頂面でソルなりの賛辞をくれた。純粋に驚いたね。こいつが人を褒めるようなことを言うとは思ってなかったからね。驚いてたのはアタシだけじゃなくて、その場に居た全員が眼を丸くしていたね。アタシは思わず喜んじまったよ。だってソルが褒めてくれるなんて高町家始まって以来数回しかないっていうくらい珍しい出来事らしいからね。よりにもよってフェイトとなのはの眼の前で。その後の二人の視線が怖かった。羨望と嫉妬の眼差しを向けてくる二人が桃子さんに自分の分も作ってくれとせがんでさ。完成して袖を通した暁には絶対にソルに褒めてもらうんだって意気込んで。閑話休題。家に居る間は炊事に洗濯と掃除、店ではウェイトレスをするのが今のアタシの生活さ。正直アタシは自分が魔法とか戦いとかと全然関係の無い生活をするとは思ってなかったから、今の生活はとっても新鮮で楽しいよ。身体と魔法の鍛錬は欠かしてないけどさ。フェイトは何時も笑顔で幸せそうだし。ソルには本当に感謝してもし切れないよ。こいつが色々と頑張ってくれたから今のフェイトとアタシが居るんだからさ。もしソルが居なかったらアタシら今頃とっくに死んでるか、管理局に捕まって臭い飯食わされてるところだよ。何よりソルはフェイトの心の拠り所になってくれた。フェイトはその所為でちょっと、ていうかかなりソルに依存することになっちまったけど、ソルならフェイトを大切にしてくれるから安心して任せられる。ジュエルシードの一件の後だって、こうしてアタシ達の為に一生懸命になって勉強しながら設計図見てるし。フェイトも言ってたけど、ソルに会えて本当に良かったよ。「ブレンドコーヒー、お待たせしました~」「ん………そういや、あいつらどうした?」早速受け取ったコーヒーを啜りながらソルが聞いてくる。「皆でアリサん家行くって言ってたよ。ソルがもし店に顔出したら連絡くれとも言ってたね」「………面倒臭ぇな」口ではそんなことを言いながら携帯電話を取り出してメールを打ち始める。こいつは普段面倒臭そうにしているけど、何かと気が利くし面倒見が良い。皆の魔法の訓練とか模擬戦とか文句言いつつ付き合ってるし、学校の勉強なんて自分から率先して教えてるくらいだ。私も日本語教えてもらってるし。まあ、本当はフェイト達よりも年上の大人だもんね。当たり前か。メールを打ち終えて送信。携帯はそのままポケットに仕舞わずカウンターの上に置いて、再びコーヒーを啜る。「俺に構ってていいのか? 他にやることあるんじゃねぇのか?」「いや、実は今暇でね。お客さんそんなに居ないし、もうやることやっちまったし、あともう少し経てば忙しくなるんだけど、それまでね」「そうか」傍を離れようとしないアタシを訝しんだけど、理由を告げるとあっさり納得する。ガタガタガタ!!「うおっ!?」その時、カウンターの上に置いといた所為か、かなり大きな音を立ててソルの携帯が震えた。それにビビるソル。こいつでも驚くんだね。貴重な瞬間を眼にしたよ。「着信? アリサから?」携帯を開いて発信者を確認して受話ボタンを押す。「何の『今すぐアタシの家に来なさい、いいわね? 皆待ってるんだから、絶対よ!!』用だ………」ソルが返事をする前に一方的に切られる。「………新手の………何だ?」「皆アンタが好きなんだろ。すぐに行っておやりよ」「ちっ」カップの中身を飲み干し、設計図を片付けてバッグに仕舞い、立ち上がる。「後で請求するように親父に言っとけ」「まいどあり~」アタシはソルの肩を軽く叩いて送り出す。「行ってくる」「いってらっしゃい、ソル」アタシに背を向けながら片手を上げて、ソルは店を後にした。その後ろ姿を見ながら、(アンタを信じ続けて良かったよ。だから、これからもアタシはアンタを信じ続けるよ)そう誓うのであった。SIDE OUTSIDE フェイトふいに眼が覚めると、もうすっかり見慣れた天井が視界に入る。そのまま首を傾けると、スヤスヤと安らかに眠るソルの横顔が映る。寝ても覚めても彼が傍に居てくれる。私の隣に彼が居る。私の居場所になってくれる。人形だった私を、母さんから必要とされてなかった私を、一人の人間として、家族として扱ってくれる。「ソル………」手を伸ばし、ソルの身体にしがみつく。なるべく密着するように。彼に触れていると心が安らぐ。暖かい。安心する。トクン、トクン、と伝わってくる心音が優しいリズムを刻む。嗚呼、私は今、とても幸せだ。ずっとこうしていたい。でも、幸せ過ぎて怖くなる。もし、ソルと離れ離れになったら、私はどうなっちゃうんだろう。彼の傍に居ることが当たり前になった今の私は、きっと母さんよりも依存してる。考えること、頭に浮かぶこと、どれを取っても一番最初に来るのはソルだ。それはきっとなのはも同じだろうけど。だから怖い。ソルが強引に私とアルフの身柄を管理局から引き取ったけど、私は自分が犯した罪から、母さんが犯した罪から逃げたようなものだ。あの時はソルと一緒に暮らせることに頭が一杯でそんなこと考えもしなかったけど、今更になって冷静に事件のことを見つめ直せるようになって、怖くなってしまった。でも、厄介なことは、ソルが私の傍に居てくれる限り、私はソルの傍に居続けようとすることだ。仮に管理局が私のことを捕まえに来たら、きっと私は全力で抵抗するだろうし、最悪ソルに泣きつくだろう。それ程までに、彼から離れるのが嫌だ。ソルは優しい。優し過ぎる。どうしてもその優しさに甘えたくなってしまう。出会ってから、ずっと私を守ろうと力を尽くしてくれて、私を何度も励ましてくれて、私の存在を認め、全てを受け入れてくれた。(………私って結構、我侭だったんだ)その我侭すらソルは許してくれる。そしてますます彼から離れられなくなる。ならばせめて、私はソルの為に生きよう。そう、心に誓った。毎朝、朝食を摂る前にする日課がある。それは、身体を鍛えること。元々ソルが週六で行ってる訓練に、私達は付き合うようになった。勿論、強くなりたいというのがあったけど、(特にユーノはソルを目標としてるみたいだし)ソルと一緒に訓練したかったというのが本音だったりする。月水金を体捌きや基礎体力や身体作りに当て、火木土を魔法を使った模擬戦や勉強に費やす。ちなみに日曜日は何もしない日ってソルは決めてる。毎日五時前に起きて手早く着替える。今日は月曜日だから魔法は使わない。デバイス無し。当然バリアジャケットも無し。私は黒いジャージ、なのはは白、ユーノは緑、アルフはオレンジ、そしてソルは赤、という感じに皆それぞれ着替えてから軽く準備運動を済ませると、道場へ向かう。それから士郎父さんの指導の下、基礎体力を付ける為に街をランニングしたり、身体の柔軟性を上げる訓練をしたり、基礎的なことばかりだけど色々なことをする。それがだいたい一時間。それが終わると道場の中に入って本格的な戦い方の訓練になる。アルフとユーノは特に武器を使わないから、基本的に素手での戦い方を美由希姉さんから教わっている。私はなのはと一緒に士郎父さんから武器を使った戦い方を教わってる。そして、ソルと恭也兄さんは―――「疾っ!!」「フン」とても魔法無しで戦ってるとは思えない動きで模擬戦をしてる。恭也兄さんが高速でソルの周りを動きながら攻撃する。ソルはそれに対して防御、回避、迎撃を繰り返す。一見、防戦一方に見えるソルの戦い方だけど、一瞬でも恭也兄さんに隙あらば怒涛の勢いで攻め立てる爆発力がある。(二人共………凄い)ソルが凄く強いのは知ってたけど、恭也兄さんもこんなに強いとは知らなかった。たぶん、私が魔法ありで戦っても恭也兄さんに接近戦では勝てない。というか、恭也兄さんが使う『神速』ってきっと私のブリッツアクションより性能が良い。速度は同じでも、あそこまで小回り良く自分の思う通りに動けない。そんな恭也兄さんに何食わぬ顔で対処してるソルもソルなんだけど。「オラッ」「ぐぁっ!」ソルが振り下ろした木刀を恭也兄さんが交差させた二本の木刀で受けて防ぐけど、受け流すことが出来ずに弾き飛ばされてしまう。体勢を崩した恭也兄さんに、獲物を襲う肉食獣のようなダッシュで猛然と迫るソル。身体を回転させるようにして上手く勢いを殺し、体勢を整えて迎撃に入った恭也兄さんをソルが襲う。「てぇぇぇやぁぁぁっ!!」「おおおぅっ!!」連続的に激しく衝突する木刀が高い音を立て、道場に響き渡る。相手の攻撃を自身の攻撃で防ぎ、そのまま斬り伏せようと振るう。まさに攻撃は最大の防御と言わんばかりの白熱した戦い。手数と速度、そして長年培った技術で圧倒しようとする恭也兄さん。パワーのみならず、蹴りや拳を組み込んだ型の無い戦い方で押し切ろうとするソル。何合もの打ち合いの末、恭也兄さんが大きくバックステップした後にバク転を何度もしながら距離を取り、間が開く。「ちっ」舌打ちし、それを追撃せずに睨み据えるソル。「………」「………」沈黙が二人の間を包み込み、「かかって来いよ」ソルは左手に木刀を持ったまま中指を立てて恭也兄さんを挑発する。「行くぞ………ソルッ!!」恭也兄さんがそれに応じるように駆け出した。「ふ」自分に迫る恭也兄さんの姿を鼻で笑うような吐息を漏らしながら、ソルはまるで楽しそうに、見ているこっちが思わずゾクリとする野生的で獰猛な眼になる。「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」二人は再び激しくぶつかり合った。私がそんな二人の姿に魅入っていると、「あの二人が気になるかい?」士郎父さんがふいに声を掛けてきた。「あ………ごめんなさい。集中してなくて」「いや、別に構わないさ。それにそろそろ時間だから、もう今日は早めに終わりにしよう」他の皆に声を掛けて、ソルと恭也兄さんの模擬戦が終わり次第今日の早朝訓練は終わりだと士郎父さんは言った。「じゃあ、皆。ソルと恭也をよく観察すること」その言葉に皆は思い思いに身体をほぐしなら二人を見る。「それにしても、二人は本当に魔法使ってないのかい? あんな動き普通出来ないよ? むしろ魔法使ったって出来るか怪しいし」アルフが指差しながら呆れていた。「………それには同意するよ」ユーノが二人から眼を逸らさず、武者震いしながらコクリと頷く。その時、丁度恭也兄さんがソルの攻撃を跳躍して交わし、空中で半回転、道場の屋上に”着地”するとそのまま屋上を蹴って真下に居るソルに攻撃を仕掛ける。それに対し、ソルは逆手に持った木刀の切っ先を床に突き立てて屈むと、恭也兄さんに向かって木刀の柄でアッパーを繰り出すように跳んだ。「落ちろっ!!!」ソルの声と同時に木刀の刃が激突し、「うわぁ!?」重力を味方につけ全体重を載せて攻撃した恭也兄さんが弾き飛ばされ、反作用で”浮く”。更にソルは空中で身体を回転させ、回し蹴りを放った。「ぐ…がはっ!!」脇腹に蹴りを食らった恭也兄さんが、ダンッ!! と床に叩き付けられる。そのすぐ傍にソルが降り立った。「そこまで!!!」士郎父さんが勝敗は決したと模擬戦の終わりを告げた。「く、くそう………また負けた。行けると思ったのに………」受けたダメージが大きいのか、なかなか床から起き上がらない恭也兄さん。「泣き言は聞かねぇぜ」そんな恭也兄さんにソルは親指を立てると下に向けた。こうして、今日の早朝訓練は終わりとなった。『ソル、これは………どういうこと?』学校での授業中。私は隣の席のソルに分からない部分を聞いていた。『あ? これはだな―――』周りに迷惑が掛からないように念話を使う。家でも勉強を教えてもらってるから最近は分からない部分が減ってきたけど、それでも読めない字とか不安なことがあるとすぐにソルに聞いてしまう。そんな私に、ソルは嫌な表情一つせずに教えてくれる。『………うん、分かった、ありがとう』学校でも、家でも私はソルに頼りっぱなしだ。魔法、戦闘訓練、勉強、家事、翠屋での手伝い。私は彼からたくさんもらってるのに、彼に何もしてあげられない。それがとてももどかしい。そのことにソルは、『兄貴が妹の面倒見るのは当然だろうが。お前が気にすることじゃねぇ』って何時もの仏頂面で言ってた。確かにそうかもしれないけど、私はソルに何かしてあげたい。今は無理かもしれないけど、何時か必ずソルの為に、ソルから必要とされる人間になるんだ。それがソルへの恩返しになるし、私の存在意義だと思うから。SIDE OUT特に可も無く不可も無く、とりわけ問題らしい問題も起きず、ゆっくりと時間が流れ、俺達の日常は過ぎていく。そして、「やっと完成したか」俺は感慨深く独り言を呟いた。予定していたよりも随分時間が掛かってしまった。何度も修正入れたり、電気の配線とか水道管とかなかなか上手くいかなくてやり直ししたりした所為で、予定よりも大幅に遅れてしまった。眼の前には、”改造”が完了した母屋。桃子の要望通り、特に洗面所や風呂場を重点的にリフォーム? 改装? 文字通り改造か? なんでもいいか。それらを色々と施したので一部分がやたらと出っ張っている。母屋からは二つの渡り廊下が伸び、一つは恭也の要望に応えた形で作った道場に続く渡り廊下、残りは今回を機に増築した小屋へと繋がっている。小屋は新しい高町家の一員達の私室がそれぞれ一つずつ。一つの部屋につき四畳半と手狭ではあるかもしれないが、それなりの出来栄えだ。一つ頷いて、道場へと足を向ける。入り口から入ってすぐの所にシャワールームがあり、その更に奥にサウナ室がある。あまり広く作ることは出来なかったが、士郎に実際に見てもらって満足されたから、こちらにも不満は無い。美由希が言ってた吹き抜けやら屋根裏部屋やら屋上は構造上不可能。カラオケルームとベランダは必要性を感じないので除外した。俺は最後に、母屋から少し離れた所にある地下階段へ進んだ。地上から約四メートル程降り続けると、地下室の入り口が見えてくる。”KEEP OUT”と書かれたプレートがぶら下がった扉。ドアノブを捻って押し開ける。そこは十畳くらいのスペースを持った空間だった。部屋の隅に流し台と蛇口、天井には電灯と換気扇、それ以外にはまだ何も無い。これだけの広さを確保するだけで精一杯だったのだから、機材や道具は二の次だった。此処でデバイスの制作、メンテナンス、改造、ヘッドギアなどの改良を行うことになる。久々に俺の科学者魂に火が点いたぜ。材料はそこら辺に不法投棄されてる廃棄物とかを拾ってくればいい(海鳴市ってそういうところしっかりしてるから見つかるかどうか怪しいが)。車とかあれば最高だな。バラバラにして使える部分だけ抜き取ればいい。後は必要に応じて加工するだけだ。封炎剣を手に入れる前は転がってる物で適当な武器を作ってギアと戦ってたんだ。それと大して変わらん。最悪の場合は忍から分けてもらえる。あいつに科学者みたいな一面があるのは知っていたが、自宅で機械を弄くれるような知識と腕を持ってるということは少し前まで知らなかった。勿体無い。今回の件を聞いて面白がってたからな、それなりに工面してくれるかもしれん。ま、魔導具や魔道具の制作に必要なんだとは言い辛いので、かなりぼかすような言い方で頼む必要があるが、そこら辺は恭也に任せよう。就寝時間になって、「おかしいだろ………これ」俺はこの場に居る全員に聞こえるように呟いた。「何が?」フェレット形態のユーノが疑問を口にする。「どうしたんだい、ソル?」狼形態のアルフも頭に?を浮かべる。「どうしたの、お兄ちゃん?」「ソル、何がおかしいの?」寝巻き姿で隣に寝っ転がっているなのはとフェイトが不思議そうにしている。俺は額に手を当てて、頭痛に似た何かを堪えながらおかしいと感じていることを口にする。「………なんでお前ら、自分の部屋があんのに俺の部屋で寝てんだよ」フェイトとアルフとユーノの為に始まった増築の件。完成するまでは俺の部屋でなのはを含む全員が寝ていたが、それも昨日で終わりだと思っていた。しかし、実際は今まで通り。なのはとフェイトが俺のベッドに潜り込んできて、ユーノとアルフはクッションを持ってきて二人で丸まって寝ている。「だってこの部屋、落ち着くし」「なんか安心するんだよ」ユーノとアルフが答えた後に「「ね~」」とか息を合わせて言ってやがる。「私はソルが一緒に寝てくれないとダメだし………」「お兄ちゃんと寝ないと寝た気がしない」妹二人は自分の部屋に戻る気配を見せない。「そんな細かいこと気にしてたってキリ無いよ? キミらしくない」これ細かいのか?「そうだよ、何時もアンタ自分で言ってるじゃないか。『御託は要らない』って」それとこれとは別問題だろ。「御託は、要らな~い」なのはが言いながら俺に覆いかぶさるように押し倒してくる。「あっ!! なのはずるい!! 私も!!!」フェイトがそれに便乗して圧し掛かってくる。抵抗する気すら失せた俺は、二人分の体重を掛けられてあっさり倒された。どいつもこいつも自分の部屋があるというのに、寝る時は俺の部屋らしい。(俺の苦労を返せ)とりあえず、内心で誰ともなしに文句を吐いた。ソル=バッドガイ家族の為なら”えんやこら”状態の皆のお父さん兼兄貴。皆に勉強を教えてるのは、なのは達をアホの子その二その三にしない為。休日は翠屋を手伝う。ウェイターの仕事はアルフのおかげで減ってきた。厨房、皿洗い、掃除などなど。CD代を稼ぐ為に黙々と仕事をこなす。せっかく頑張って部屋用意したのに………科学者魂に火が点いた。妹達の兄離れの為に地下室に引き篭もろうと画策してる。でも絶対に無駄に終わる。高町なのは我らの魔王様、ソル限定ブラコン。ソルさえ傍に居てくれれば、後は野となれ山となれな考えだったりする。休日は翠屋を手伝う。メイド服で。最近の口癖『フェイトちゃんばっかりズルイ!!!』ソル依存度=末期フェイト・テスタロッサ・高町新しい生活にようやく慣れて、現在幸せの真っ只中。小さな不安を抱えつつも、ソルの為に生きると誓う。休日は翠屋を手伝う。メイド服で。最近の口癖『ずるい、ずるいよなのは!!』ソル依存度=もう既に手遅れユーノ・スクライア自他共に認めるソルの弟。でもやっぱりソル本人に認めて欲しい。恭也を秘かにライバル視してる。休日は翠屋を手伝う。基本的に皿洗いとか掃除。最近アルフと仲が良い。アルフ・高町『喫茶翠屋』の看板娘。メイド服でウェイトレスをする。仕事中、桃子の気分によって耳と尻尾は隠したり隠さなかったりとまちまち。その所為で近所では「最近の翠屋はコスプレ喫茶になったのか」と囁かれたりする。ファンも客の中に出てきたので、それなりに売り上げに貢献してる。自宅では家事に専念する。最近ユーノと仲が良い。