SIDE クロノ「近いな」僕が皆から少し遅れてソルが待っている場所まで辿り着くと、彼は猛禽のような眼を鋭く細めて呟いた。彼から発せられる異常に高濃度な魔力の所為ですっかり感覚が麻痺してしまっている。しかし、彼ならプレシアが居る玉座の間まであとどのくらいか把握しているのだろう。「みんな聞いてくれ、此処から先は二手に分かれる。キミ達は駆動炉を封印してくれ」僕は上に続く階段を指差しながら伝えた。「駆動路? そこを潰せばいいのか?」「ああ、そうすれば少なくともこの庭園は完全に停止することが出来る」「なら俺一人で十分だ」彼はそう言うと、飛行魔法を発動させ浮き上がる。「お前らは全員でプレシアに当たれ。なるべく早くケリを着けろ、俺が行く前にな。さもないと取り返しのつかないことをする」「………お兄ちゃん、それってどういうこと?」不穏な気配を感じたなのはがソルに聞く。「………」ソルはなのはの疑問に答えず、俯き、鋭利な眼を更に鋭くするだけだった。―――この男、まさか殺る気かっ!?背筋に怖気が走る。この男と知り合ってそれ程時間が経った訳では無いが、ソルがどういう人物かはある程度把握していたつもりだった。しかし、認識が足りなかった。驚異的な知能や鋭い洞察力、異常な戦闘能力に眼を向けがちになってしまうが、ソルの本質はそこではない。自分にとっての”敵”に対して、何処までも容赦無く冷酷になれるということに今気付いた。あの眼は”狩る側”の眼だ。獲物を殺すことに躊躇など全くしていない。彼は必要とあらば、ミッドチルダ出身の魔導師なら絶対に越えようとしない一線を易々と越えるだろう。まるでそれが当然だという風に。僕にはそんなこととてもじゃないが真似出来ない。真似なんてしたくない。そんな覚悟、無い。だが、彼はそんな覚悟を当たり前のようにしている。修羅道を進むことこそが本望であるとでも言うように。(彼は一体………何者なんだ?)何度も同じことを疑問に思った。結局答えは出なかった。今でも答えは見えない。ただ、僕は彼の”在り方”に戦慄するしかなかった。「ちっ、お前らとっととプレシアの所へ行け………来やがった」僕達を包囲するようにいくつもの転送魔法陣が現れ、そこからさっき嫌という程眼にした傀儡兵が次々姿を現す。「な!? まだ残っていたのか!!」「グダグダ抜かすな!! 此処と駆動路は俺に任せて行け!!」彼の言葉に反応して僕達は駆け出したが、「これは………!?」ユーノが止まり、一歩後ずさった。僕達の進路を遮るように、通常の数倍はある大きな転送魔方陣が現れ、そこから今までとは比較にならない程巨大な傀儡兵が召喚された。高さは優に十メートルは超えている。あまりの巨大さに人型サイズが玩具に見える。その大型傀儡兵が手に持つ剣を真っ直ぐ振り下ろす。全員がそれぞれ左右に移動することによって回避。「ディバインバスターァァァ!!!」なのはの砲撃魔法が傀儡兵の胴体部に直撃するが、「効いてない!?」何事も無かったかのように攻撃を仕掛けてくる。「あの大型はきっと今までのものと比べると魔法に対する耐性が強いんだ」「強いってレベルじゃないとアタシは思うんだけど」ユーノの言葉にアルフが応える。「でも、皆で力を合わせれば………」「うん、一緒にやろう、なのは」なのはとフェイトが並び、それぞれ砲撃の為に魔力をチャージする。だが、大型傀儡兵は僕達には眼もくれず、少し離れた所で戦っているソルに向かって走っていく。「まさかあいつ、最初からソルが狙いか!!」でかいだけあって一歩毎に進む速度が他と比べ物にならない程速い。「ソル!! そっちに大きいのが行ったよ!!」「お兄ちゃん気を付けて!!」「さすがに魔法が効き難いならあいつでも梃子摺るね、フェイト!!」「分かった、ソルの援護を」ユーノ、なのは、アルフ、フェイトが順にそれぞれソルの元へと向かう。それらの声に反応したソルは、自分に向かって進んでくる大型傀儡兵を睨むと、床を踏み砕く程の踏み込みで一瞬の内にその足元まで駆けつけ、「ヴォルカニック―――」手にした燃え盛る剣を庭園の床に突き立て、「ヴァイパーァァァァァァッ!!!」火山から噴出しながら煌々と輝く溶岩となって跳躍した。高さ十数メートルあった傀儡兵の爪先から頭頂部まで、触れた部分を蒸発させながら天に向かって昇るその姿は、まさに巨大な炎の蛇。体積の約六割を失った傀儡兵はそのまま無様に倒れてドロドロに溶ける。「馬鹿かお前ら!! 俺の心配するくらいだったらとっとと先に進めっ!!!」「「「「ご、ごめんなさい!!!」」」」ソルの怒声が響き渡り、なのは達は慌てて引き返してきた。心なしか皆しょげている。「………まあ、彼は心配するだけ無駄みたいだから、先を急ごうか?」全員が怒られたことにショックを隠し切れていなかった。それでも小さく頷くのを確認すると、僕は先頭に立って進んだ。SIDE OUTSIDE プレシア低く重い振動が何度も響く。あの少年。否、あの男の仕業だ。恐らく生体型ロストロギアを保有していると思われる炎の魔導師。人間ではあり得ない多大な魔力量。リンカーコアの限界を遥かに超えた瞬間放出量。私が制御する九つのジュエルシードよりも、非常に安定していながら強力無比な”力”。(まるで化け物ね)管理局が出てきたことと、少年姿のあの男を初めて見て、これは多過ぎると思うくらいに大量に用意しておいた傀儡兵もほとんど潰されてしまった。忌々しい炎によって。駆動路はもうダメだろう。あの大型ですら一撃で倒されてしまったのだ。こちらにはそれ以上の手駒はもう無い。管理局の連中とあの人形もこちらに向かっている。万事休す?「まだよ、まだ、アリシアの笑顔を見ていない」その為だけに全てを投げ打って違法な研究に没頭してきたのだ。己の身体を顧みずに。今更止まらない。止められない。必ずアルハザードに辿り着き、アリシアと再会する。そう誓ったのだ。―――「大変だな? 蘇生したアリシアの肉体に入っているのは、アリシアとは違う”モノ”かもしれねぇな………そうしたらまた、フェイトみたいに失敗だな」あの男の言葉が脳裏を駆ける。「そんなことない………そんなことは」口では否定していても、心の何処かで否定していない部分がある。事実、アリシアの記憶を持って生まれたフェイトは失敗したのだから。「一体何なの? あの男は?」『プレシア・テスタロッサ、次元震は私が抑えています。駆動炉もやがてソ、彼が封印、いえ、完膚無きまでに徹底的に破壊されるでしょう。貴方を捕らえる為にそちらへは執務官達が向かっています。忘れられし都『アルハザード』は、そこに存在する技術は曖昧なただの伝説です』唐突に管理局の人間の念話が届く。宣言通り次元震が抑え込まれている。これでは旅立てない。『違うわ。アルハザードは確かに存在する。次元の狭間にあるのよ。時間と空間が砕かれた時、道は………そこにある』『貴方はそこに行って一体何をするの? 失った時間と犯した過ちを取り戻すの?』『そうよ。私は取り戻す。アリシアを、こんなはずじゃなかった世界の全てを』問いに答えた時、硬く閉ざしていた筈の扉が爆音と共に吹き飛んだ。SIDE OUTSIDE ユーノ「世界は何時だってこんなはずじゃないことばかりだよ!! 昔から何時だって、誰だってそうなんだ!!! 不幸から逃げるか戦うかは個人の自由だが、他人を巻き込む権利は誰にも無い!!!」なのはとフェイトとクロノの三人が同時に砲撃魔法を叩き込んで扉を破壊すると、クロノが真っ先に飛び込んで叫んだ。僕達もそれに続く。勢揃いした僕達の前に、フェイトが一歩進み出た。「………母さん、貴方に言いたいことがあってきました」「何をしに来たの………」射殺さんばかりの視線でフェイトを睨むプレシア。「私は、アリシアじゃありません。確かに母さんにとって私は人形でしかなかった。けど、私は貴方に生み出されて、貴方に育ててもらった貴方の娘です」「だから何? 今更貴方を娘に思えと?」コクリとその言葉に頷く。「貴方がそれを望むのなら、私は貴方と共にあり続けます。たとえ誰が来ようと、どんな苦難が待とうと、貴方を守ります」一歩、二歩進み出て、「私が貴方の娘だからじゃない。貴方が私の母さんだから」強い意志が込められた声で手を差し伸べる。そんな真摯な態度のフェイトにプレシアは、「下らないわ」憎悪を滾らせながら吐き捨てた。「言ったでしょ? 私の娘はアリシアだけで、私はアリシアだけの母親なの。人形の貴方にはもう用は無いのよ。目障りだから消えなさい」これはあまりにも酷い言い様だと思う。プレシアは生まれてきた命を、自分が勝手に生み出した命を一体何だと思ってるんだ。そんなプレシアの言葉に、フェイトは俯き、悲しげな、今にも泣き出しそうな表情をしつつも、気丈に顔を上げると宣言した。「………それなら、これ以上罪を重ねないように、此処で貴方を止めるのが、私から母さんへしてあげられる親孝行です」デバイスを構えたその瞬間、―――ドッコォォォォォォォォンッ!!!爆発音が玉座の間に響き渡る。「………っ! 上だっ!!」クロノが天井を指差す音の発信源は、罅が入ったと思った刹那、見慣れた炎が破砕音と共に天井を粉々に破壊し、大きな穴が穿たれると同時に赤く光り輝く人物が飛び降りてきた。その人物は丁度僕達とプレシアの間くらいの距離で着地すると、首をゴキゴキ音を立てて回し溜息を吐いた。「やれやれだぜ」「お兄ちゃん!!」「「「「ソル!!」」」」「………来たわね」ソルはつまらなそうにプレシアを一瞥した後、僕達の方に、正確にはフェイトの方に歩み寄った。「言いたことは言えたか?」「………うん」「そうか」それだけでフェイトの全てを察したかのように、プレシアに向き直る。「随分とその人形がお気に召したみたいね」「まあな」皮肉げなプレシアの態度にソルは気にも留めない。「欲しかったら勝手に持って行きなさい。私には必要無いから」「なら、こいつは俺がもらう。今からフェイトは俺のもんだな」プレシアの言葉に絶望的な表情をした瞬間、ソルの言葉で首まで真っ赤にして頭から湯気を上げるフェイト。忙しいなぁ。「その人形の何処が良いんだか、教えてくれるかしら?」「逆に聞くぜ。娘を生き返らせようと奮闘するのは結構だが、自分が死んだら元も子も無いんじゃねぇのか?」「え!?」ソルの言葉にフェイトとプレシアが驚愕の表情をする。「気付いていたの?」「今直接”診て”な。初めは些細な過労と栄養失調から始まったんだろうが、それを放置して研究にでも没頭してたのか? 免疫力の低下で病気を併発してからは薬で無理やり症状を抑え込んでいたな? それでも完治させようとしなかった所為で症状は悪化………もう既に末期だろ?」「………貴方、良い医者になれるわよ」「あんな変態の真似事なんざこっちから願い下げだ」ソルが嫌そうな顔をした。ソルにそんな顔をさせる知り合いでも居るのだろうか? それにしても変態って………一体どんな人だったんだろ?「ソ、ソル!! 何とか出来ないの!?」プレシアの容態はかなり悪いらしい。それを聞いたフェイトがソルにすがりつく。「もう無理だ。あそこでああやって立ってる方がおかしい。普通ならもう棺桶の中だ」「そんな………」「内臓もズタボロだな。吐血と喀血は何度した?」「もう、どちらも覚えてないわ」盛大にソルは溜息を吐いた。「この死に損ないが。初めは俺がトドメくれてやろうかと思ってたが………その前に死ぬじゃねぇか」「そんなことは百も承知よ………だから、せめて死ぬ前に………アリシアに会うのよ!!!」九つのジュエルシードが青い光を放ちながら強く輝く。一気に全部暴走させるつもりか!?「アルハザードには全てがある。全てを取り戻せる。私の身体は勿論、アリシアを生き返らせることだって!!」ジュエルシードから放たれる魔力を吸収したプレシアが、強大な雷撃を僕達に向けて発動させる。それはとてつもない魔力と攻撃力を孕んでいるが、「フォルトレス」僕達全員を覆うように展開した緑のバリア、ソルの法力が容易く防ぐ。「あれだけの規模と威力の魔法を難なく防ぐとは、キミはどれだけ規格外なんだ………」言及することを諦めたクロノが呆れたように呟いた。「ぐ、うう、ゴホッ」急にプレシアが苦しみ、咳き込み始めた。「ゴホッゴホッ、がはぁ」咳き込んでいたと思っていたら、膝をついて夥しい血を吐く。庭園の床が血で染まる。「母さん!!」フェイトが顔面蒼白にしてプレシアの元へ走り寄ろうとするが、その腕をソルに掴まれる。「は、離して、ソル、お願い、お願いだから」涙を零して訴えるフェイトに、ソルは目を瞑り、何も言わずに首を振った。プレシアは虚ろな瞳で這い蹲りながらアリシアの遺体が眠るポッドまで近付くと、それを抱き締める。「アリシア、お母さんが一緒よ。ずっと、ずっと………」制御から離れたジュエルシードが、周囲に虚数空間を生み出した。そして発生した虚数空間は、偶然プレシアの足元だった。「母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」ポッドを抱えたプレシアが、虚数空間に落ちていく。その光景をフェイトは、ソルは、僕達は………ただ見ていることしか出来なかった。SIDE OUT背徳の炎と魔法少女 最終話 SOL=BADGUY意外に呆気無かった。それが俺のプレシアの最期に対する感想だった。そもそもプレシアは、ハナッから死ぬつもりだったのかもしれない。死に場所を求めていたのかもしれない。それでも死ねず、アルハザードとかいう御伽噺にすがりついて、叶いもしない望みを叶えようと研究を重ね、日々を繰り返していたのだろう。きっと、狂ってしまったプレシアはそうでもしないと生きていけなかったのだ。現実と向き合えなかった、現実を認める強さを持っていなかった母親の姿。失った過去を求め、現在を見ようとせず、未来を初めから無いものとして見限った狂科学者。哀れな末路としか言いようが無い。だが、(俺もプレシアのことを言えなくなるかもな)―――もし、今の俺にとって大切な誰かが、例えばなのはが、そこまで考えて止めた。こんな仮定の話は胸糞悪くなるだけだ。もう二度としねぇ。俺の足元に座り込んで茫然自失しているフェイトを、その腕を掴んで無理やり立たせる。「ソル………」辛気臭い面してる連中に向けて一言、帰るぜと言おうとして、背後のジュエルシードが一層輝き、更に強い魔力を発し始めた。「何だ!?」庭園全体が振動しているような揺れ。『ヤバイよ皆!!、さっきまで艦長のおかげで落ち着いてた次元震が急に活性化してる!!』「んだとぉ!?」制御から離れた所為で暴走したからか。『このままじゃ次元断層が発生しちゃう!!』ふざけるな。やっと此処まで来て終わったと思って帰ろうとしたら、とんでもないもんが最後の最後に待ち構えてやがった。うっかり感傷に浸ってる場合じゃなかった。プレシアが落ちてからとっととなのはに封印させときゃ良かったんだ。『皆聞こえる? 私は今出来る限り抑えているから、今の内にアースラに戻って!!!』リンディの切羽詰った声。これは相当ヤバイ事態だ。『アースラに戻るのはいいが、次元断層ってのは周囲の世界も巻き込むんだろ? 地球はどうなる?』『………』俺の問いにリンディは答えない。答えられないのか。答え難い内容なのか。帰る場所が、俺にとっての第二の故郷が、消える?俺の家族が、俺の日常が、消える?冗談じゃねぇ。だったら、俺の大切ものを破壊しようとする危険物なんざ今すぐ消し炭に変えてやる。『エイミィ、ジュエルシードを破壊することによって生まれる危険はあるか?』『たぶん無いと思うよ、ってソルくん、違ったソルさんまさか!?』『リンディ、俺はこれからジュエルシードを破壊する。全力でな』『え………』『だから、ガキ共がアースラに着くまで何とか持ち堪えろ。それからアースラは全力で防御態勢に入れ、俺の攻撃の余波が行かないように全力でシールドを張れ』『ちょ、貴方何をする気!?』『なるべく範囲は絞るが、そもそも加減云々出来るか怪しいからな。非殺傷もこればかりは不可能だ』俺はなのは達に向き直る。「聞いた通りだ。お前らはとっととアースラに戻れ」「お兄ちゃん………」なのはが心配するのは当たり前か。世界の存亡に俺一人が残って立ち向かうように見えるからな。「安心しろ。すぐに戻る」言って、なのはの頭を撫でる。「絶対、絶対だよ? 約束だよ?」「俺がお前との約束を破ったことがあったか?」「無い!!」「なら心配要らねぇだろ」俺の返事になのはが満足すると、ユーノに視線を向ける。「ソル、任せていいんだね?」「ああ」「僕はまだキミから法力について何一つ教えてもらってないんだから、こんな場所でヘマなんかしないでね」「言ってろ」こいつも本当に言うようになった。「僕はなのは達のようにキミを全面的に信頼している訳じゃ無いが、キミのその異質な”力”だけは信用している」クロノが俺の前に一歩進み出る。「管理局の人間としては非常に不本意ではあるが、後のことはキミに任せた」俺はそれに口を開かず頷いた。「ソル、アタシはアンタを信じてるよ」アルフが真剣な眼差しを俺に向ける。「お前にはフェイトとガキ共のお守りを任せるぜ」「任せな!! ほら、こっちおいでフェイト」フェイトをアルフに託す。「………ソル」不安を一杯に詰め込んだ紅の瞳が俺を捉える。「お前は生きろ」「え?」不思議そうな表情をするフェイトに構わずそのまま告げる。「お前はまだ始まったばかりだ。こんなとこで足踏みなんかしてんじゃねぇ」一瞬ポカンとした後、何かを決意したかのような凛々しい顔になる。「分かったよ、ソル。皆と一緒に始めた”これから”を………私が決めた道を歩み続ける為に」俺のその強い意志が込められた眼に満足し、親指を立てた。「上出来だぜ」褒められたフェイトが恥ずかしげに、それでいて満足そうな笑顔になる。嗚呼、俺が見たかったものはこれだったんだ。初めて出会ったあの時、『木陰の君』と同じ眼をしていた。その寂しげな眼を何とかしてやりたくて、俺は今まで奮闘してきた。俺も随分、お人好しになったもんだ。これは絶対に高町家の影響だ。だが、フェイトの今の姿を見て、これまでの苦労が全て報われた気がして、悪くないと思う自分が居る。そんな自分を俺は気に入っている。今までの長い人生の中で出会ったお人好し共の気持ちが少しだけ、理解出来た気がする。後は、残った仕事に始末をつけるだけだ。「行け」俺の言葉に全員がアースラに向かって駆け出した。やがてエイミィから、全員無事にアースラに乗艦したと報告が入る。それに一先ず安心すると、俺は封炎剣を持ったまま腕を組み、自身の”力”を更に解放する。足元から火柱が立ち昇る。「終わりにするか」俺の体温が急激に上がり、それに伴い気温が上昇する。(まだだ、まだ足りねぇ)―――もっと”力”を。やがて、俺は溢れんばかりの熱と”力”に満足する。今の俺の体温は約1200℃、既に火山の中に眠るマグマと同じ温度にまで達している。とても生物が耐えられる温度ではない。たとえギアであろうと。そういう兵器として調整された俺以外は。熱に耐え切れず、床が融解する。床に立って居られなくなったので飛行魔法を発動させ、その場に浮く。周囲の気温は約800℃を超えた辺りか? この場に生きていられる生物なんて存在しない。全ての準備が、整う。俺は九個のジュエルシードの真正面に向き直り、浮いたまま地を這うように姿勢を低くする。封炎剣を逆手に持つ左腕は脇腹に、右腕は肘を突き出し顎を挟むように構える。―――行くぜ。その姿勢のまま虚空を滑空し、ジュエルシードの真下を通り過ぎ、ある程度の距離を置いて止まる。「ケリを着けるぜ」その言葉と共に、俺の”奥の手”が発動する。オールガンズブレイジング。それは、この世に存在する全てを焼き尽くす炎だ。SIDE リンディ残りはソルくん、違った、ソルさんのみ。彼が一人玉座の間に残りジュエルシードを破壊すると宣言してから、子ども達全員が無事アースラに乗艦した。彼が大人の姿に変身し、しかもそれが元の姿という報告をクロノから伝えられた時は仰天した。S2Uから送られてきた映像、後からエイミィが飛ばしたサーチャーによる映像。そのどちらもが成人男性を映していた。更に理解し難いことに、彼からはロストロギア反応があるという。そもそもロストロギア反応とは、今の管理局では解析出来ない未知のエネルギー反応のことだ。失われた古代遺物と呼ばれるロストロギアは、皆例外無く、それ単体で未知のエネルギーを発している。それが観測されたということは、彼はロストロギアを所持している可能性がある。しかし、今までの彼からはそんなものは一切観測されなかった。だというのに、『元の姿』に戻った瞬間観測された。つまり彼はロストロギアを所持しているのではなく、彼自体がロストロギア。生体型ロストロギアの可能性が高い。それならば彼の異常なまでの強さ、魔力量に納得することが出来る。ロストロギアであるならばあり得ない訳では無い。『か、艦長!! ソルさんの体温が急上昇し始めました!! 嘘、何これ!? 二百、二百五十、まだ上がります!! 人間だったらもう生きていられません!!!』『何ですって!?』エイミィから信じられない報告が伝わる。『どういうことなの!?』『わ、分かりません! 体温に伴い周囲の気温も上昇中、今100℃を突破しました。尚も上昇しています!!!』一番信じられないのは観測しているエイミィ自身なのだろう。慌てたように報告してくる。『エイミィ、艦内にある全ての観測機器を用いて彼の身体を調べなさい!! このままではサーチャーが気温上昇で破壊されてしまうわ!! その前に何としてでも調べて!!!』『りょ、了解っ!!!』あり得ない。人体は数度でも体温が上昇すると生命活動に支障を来たす。なのに、映像越しの彼は自身の体温が三桁を上回る状態だというのに腕を組んで平然としている。気温だって既にバリアジャケットを展開した魔導師でも耐えられる温度じゃない。そもそも今の玉座の間は生物が生きていられる環境じゃない。『かかか、か、艦長!! とととととんでもないことが分かりました!!!』『どうしたの!?』『い、今、彼のり、リンカーコアをスキャナに掛けてみたんですけど、明らかに普通じゃあり得ないことが分かって』『落ち着きなさいエイミィ、彼のリンカーコアがどうしたの!?』『と、とにかくこれを見てください!!』完全に驚き過ぎてテンパっているエイミィがリンカーコアのスキャナ映像を送ってくる。『な、何なのこれは………』その映像はエイミィの言葉通り、普通の魔導師では絶対にあり得ないことだった。リンカーコアとは普通、魔力資質を持つ者の心臓部の近くに存在するビー玉サイズの大きさの球体である。それは大気中の魔力を体内に取り込んで蓄積することと体内の魔力を外部に放出するのに必要な器官だ。大きさには個人差がり、その大きさが個人の魔力量にも繋がる。リンカーコアは魔導師の心臓と言っても過言ではない重要な器官。心臓であるからこそ、一人の人間に一つの器官となっている。普通の魔導師である場合、スキャナに映る映像は測定されている側の心臓部にその人物の魔力光を放つ球体が映っているのが普通だ。だが、彼の場合、彼の全身を映すようにくっきりと赤い人型のシルエットが光り輝いていた。爪先から髪の毛一本一本まで余すところ無く。まるで、”全身の細胞一つ一つ”がリンカーコアとしての役目を果たしているとでも言うように、赤く光輝き、活性化している。『いくらなんでも………嘘、でしょ?』スキャナの映像とサーチャーの映像を見比べる。どちらも彼は全身から赤い魔力光を放ち、魔力もロストロギア反応も計測不能な数値を叩き出し、それでも尚上昇させる。突然彼を映していた映像が砂嵐に変わる。『サーチャーが気温の上昇と発生する魔力量に耐え切れずに破壊されました!! 現時点で体温は1200℃を突破、気温も800℃を超えました!!』信じられない。訳が分からない。異常だ異常だと思ってはいたが、これはいくらなんでも出鱈目過ぎる。これが彼のロストロギアとしての”力”なの!?『高エネルギー反応、来ます!!!』映像から眼を離し、視線を庭園に向ける。それは眩い太陽の光だった。一瞬で眼を灼かれたにも関わらず、私の眼ははっきりと捉えていた。地上から立ち昇る光が天を貫き、庭園を覆い尽くし、呑み込み、まるで浄化するように消していく。それはあまりにも現実離れし過ぎた光景だった。神の光が世界を跡形も無く無に還す、まるで世界の終局をこの眼で見ているようだ。最早麻痺してしまって感知すら出来ない強大な魔力が熱量に変換され、それが光となり全ての存在を否定している。その輝きはこの世の何よりも美しく、神々しく、ただ恐ろしかった。私は呆然と立ち竦みながら背筋を震わせる。「………ソル………」かつて彼らが名前の話をしていた時を思い出す。ソルとは、地球の古い言葉で『太陽』『太陽神』を表し、他にも『擬人化された太陽』という意味もある。彼は、現世に蘇った太陽神の化身なのだろうか。あの”力”の前では人間など無力だ。取るに足らない存在だろう。それとも、あれこそが『法力』の本来の”力”なのだろうか?だとするならば、ミッドチルダ式の魔法よりも遥かに優れた力であることには納得出来るが、あまりにも異質な存在だ。最早人間の範疇からかけ離れた位置に存在する”力”。その気になれば世界をひっくり返せる”力”だ。彼は、何時何処であんなものを手にしたというの?破壊力ならアースラに装備された艦砲撃に届く、いや、純粋なエネルギー量なら完全に上回っている。しかも彼は、『範囲を絞る』とまで言っていた。全力ですらないのかもしれない。今ので既に街を二つも三つも消し飛ばす威力であるというのに。「一体………何者なの?」何度も疑問に思ったこと。だが決して答えは出ない。彼を知れば知る程、謎が深まる。ソル=バッドガイ。なのはさんの兄。姿は子どもでも本当は大人。私達魔導師の常識を一撃で粉々にする『法力使い』。恐らく生体型ロストロギアの宿主。やがて光が収まり、辺りが一気に暗くなった気がする。まるで夜にでもなってしまったかのように。『………か、艦長、ジュエルシードの消失を確認及び魔力とロストロギア反応の消失、次元震も今ので沈静されました。もう、次元断層の危険はありません』エイミィがおずおずと、おっかなびっくり進言してくる。『ええ、そうみたいね………』庭園はもう存在していなかった。何一つ残って無い。全て光と共に消え失せた。『終わったぜ』「っ!?」突然通信に割り込んでくる”子ども”の声。『これよりアースラに帰艦する。俺がそっち行って着替てる間に、ブリッジにこの事件の関係者を集めておけ。報酬の話をする』そう告げると、一方的に念話は切られた。「………最初から最後まで、本当に訳が分からないわ」私は帰艦する準備をし、今までで一番深い溜息を吐くのだった。SIDE OUT「ちっ」アフターリスクの頭痛に耐えながら飛行魔法を発動させてアースラに向かう。さすがにこれだけ長時間解放した経験は稀だ。おまけに最後の奥の手の一つまで使ったんだ。さすがに昔の身体よりは負担の軽減がされているが、それでも負担は少なからず存在する。なんせ今日は大盤振る舞いだった。「もう懲り懲りだぜ」俺は溜息を吐くと、道を急いだ。これでやっと帰れるんだからな。SIDE なのはアースラに戻ってきたお兄ちゃんの姿はもう既に”何時もの”お兄ちゃんでした。ちょっと残念です。でも、お兄ちゃんと一緒に暮らす以上、チャンスは何時でもありますし、このまま成長していけばあの姿になるのです。私は大人の姿のお兄ちゃんに抱き締められる自分を想像して、思わずニヤけてしまいます。「なのは、フェイト、涎垂れてるよ」「「はっ!!」」ユーノくんの声で我を取り戻し、私は慌てて口元を拭っていると、フェイトちゃんも私と同じように口元を拭っていました。眼が合います。同時にお互い苦笑い。どうやら同じことを考えていたようです。「重症だね」「二人共、妄想に浸るのは良いけど周りの眼を少しは気にしな」ユーノくんとアルフさんは何時もお兄ちゃんがそうするように、「やれやれ」と溜息を吐きます。しかも何故か動きがシンクロしてます。うう、今更になって恥ずかしくなってきました。「揃ってるな」その時、ダボダボの服では話が出来ないと言って部屋に着替えに行ったお兄ちゃんがブリッジに姿を現します。「契約通り、こちらの要求するものは全て用意してもらうぜ」「………言ってみなさい」リンディさんが観念したように肩を竦めます。「まず一つ目、俺にデバイスの作り方を教えること。これは既に支払ってもらったからもういい」「あれで納得してなかったら僕はキミをミッドに連れて行くしか選択の余地が無かったんだが、納得してもらえたなら良かった」クロノくんが安心したように胸を撫で下ろします。「二つ目、日本円にして現金五百万円を用意すること。これは後日、この紙に書いてある銀行の口座に振り込んでおけ」そう言って、一枚のメモ用紙をエイミィさんに手渡します。受け取ったエイミィさんが苦笑いします。「やっぱり本気だったんだ、あれ?」「ったりめーだ。すぐに金の用意が出来ないようであれば月々分割でも構わねぇ。とにかく金を寄越せ、こっちは無償でやってたんじゃねぇんだよ」「何とかしてみるわ」疲れたようにリンディさんが項垂れます。「最後に」「まだあるのか!?」クロノくんが驚きますが、お兄ちゃんは平然と答えます。「契約内容を思い出せ。『報酬は必ずこちらの要求した通りに用意する』ことになってるだろ?」「それはそうだが………金銭面でも技術面でも、もうキミが満足するようなものをこちらは用意出来ないぞ」「安心しろ。それらの類はもう要らねぇ」お兄ちゃんはゆっくりとフェイトちゃんとアルフさんの後ろに回り込み、二人の肩に手を置きました。「最後の要求は、フェイトとアルフの二人の身柄を俺に渡してもらうこと。以上で報酬の話は終わりだ」「「「「「「「………………………」」」」」」」その言葉に、その場に居た誰もが黙り込みました。いち早く反応したのは当の本人の一人であるフェイトちゃんでした。「え? ソ、ソ、ソル? それは、どういう」「プレシアが言ってたろ? 欲しければ勝手に持って行けって。だから、お言葉に甘えてお前は俺が持って帰る」「も、持って、持って、かかか、帰る!? 私は、ソソソルに、おおおお持ち帰り、されちゃうの!?」「ま、そうなる」「――――ッッッ!!!!!!!」「フェイトォォォォ!?」ボンッ!! と頭から何か致命的な音を立てて、フェイトちゃんは全身を真っ赤にさせて気絶してしまいました。それを慌てたアルフさんが抱き止めます。「ソル!! もっとオブラートに包む表現とかないのかい!? フェイトには刺激が強過ぎるよ!!!」「知るか」意識が無いのに表情が蕩けているフェイトちゃんを抱えた状態でアルフさんが抗議しますが、お兄ちゃんは聞く耳持たず。今の台詞を無意識で言ってるなら、お兄ちゃんって………『相当の女ったらしだね。ソルって昔からあんな感じなの?』ユーノくんの念話が届きます。それには同意します。もっと子どもの頃に、今思い出すだけでもかなり恥ずかしいことを言われたのをよく覚えてます。当時はそんなことなかったけど、改めてあの時の台詞を今言われたら、きっとフェイトちゃんの二の舞です。「ちょぉぉぉぉぉぉっと待てぇぇぇぇぇぇぇい!!! フェイトとアルフは今回の事件の重要参考人だぞ!!! その身柄をそうホイホイと渡せる訳無いだろう!?」時間の止まっていたクロノくんが復活し、お兄ちゃんに詰め寄って喚き散らします。「ああ、やっぱりこうなった」ユーノくんがポリポリと頭を掻きながらクロノくんを哀れむような眼で見ます。「契約を履行しろ」「無茶を言うな!! だいたいどうやって報告書を作成しろと言うんだ!!!」「でっち上げろ」「報告書に嘘を書けと!?」「出来ねぇなら捏造しろ」「同じじゃないかっ!!!」頭を抱えるクロノくん。「出来ねぇとは言わせねぇぞ? 契約内容には『俺達に関する情報の一切は報告しない、また、俺たちに関して詮索しないこと』ってのがある。”俺達”にはフェイトとアルフも当然入るんだぜ。少なくとも現時点で俺となのはとユーノの三人に関しては報告していない筈だ」ニヤニヤと不敵に笑いながらお兄ちゃんはリンディさん達を見つめます。「………最初からそのつもりだったのね。自分の身体のことも、なのはさんとユーノくんのことも、フェイトさん達のことも、全部承知の上でそういう条件を出してきたのね」「さあな」苦々しい眼でリンディがお兄ちゃんを見つめます。「確かに契約通り、貴方達三人に関してはどうとでもなるけど、フェイトさんとアルフさんは………」「そこを何としてでも何とかしろ。俺達が一時帰宅するその時まではまだ正式な報告書を作成していないのは分かってんだぜ」「っ!! 何故それを!? ………まさか、端末を使ってデータベースを漁っていたのは隠れ蓑で、本当は僕達の内部情報を探っていたのか!!!」「理解が早くて助かる」クロノくんが驚愕の表情で絶句します。「今の段階なら報告書をどうとでも弄れる。俺達三人は勿論、フェイトとアルフの二人も”最初から居なかった”もしくは”死亡した”ことにすることが出来る。事件は最初から最後までプレシア・テスタロッサのみがジュエルシードを求めていたってことにも、ジュエルシード回収の途中で二人が死んだことにも出来る筈だ」「………デバイスの戦闘データも報告しなければならないのよ」「それこそどうとでもなるだろ。今の地球の映像技術ですら合成やらCGやらがあって、現実では決してあり得ないような映像を生み出せるんだ。まかさお前らにその技術が無いとは思えねぇが? 映像なんて、いくらでも加工出来るだろうが」ついにはリンディさんまで黙ってしまいました。「出来るだろ、エイミィ? デバイスの戦闘データの改竄と報告書の捏造程度」お兄ちゃんが確認するように問うと、エイミィさんは素晴らしいサムズアップを見せてくれました。「任せて!! 一回やってみたかったんだ!! そういうスパイっぽいこと!!!」「「エイミィィィィィ!?」」ハラオウン親子はついに部下にまで裏切られました。そんなエイミィさんにお兄ちゃんは「上出来だぜ」とサムズアップで返します。「後は真実を知るアースラに居る全員が、今回の件の真相を忘れればいい」お兄ちゃんは一歩進み出て、ブリッジに居る全ての人に聞こえるように宣言します。「契約の最後にある『後でごちゃごちゃ文句を言わないこと』に納得出来ない奴が居れば前に出ろ………模擬戦ルームで、俺と”お話”しようぜ?」アースラの中に、お兄ちゃんと”お話”しようと思う勇者は存在しませんでした。お兄ちゃんのおかげで問題無く地球に帰れることが分かったので、早速ユーノくんに転送魔法の準備をさせたお兄ちゃん。荷物を片付けて、さて帰ろうという時になって、見送りであるリンディさんが呆れたように呟きました。「地球のことわざだったかしら。名は体を表す、とはよく言ったものね」「どういうことですか?」私はその言葉が気になって聞き返します。「文字通りの意味よ。以前なのはさん達が名前の話をしていたのは覚えているでしょう?」「はい」「その時、彼の名前がどういう意味だったか覚えてる?」忘れる訳がありません。「ソルが『太陽』、『太陽神』って意味で、バッドガイが『悪い奴』って意味ですよね?」「そう。そして彼はまさにその意味通りの存在だった」「意味通りの存在?」リンディさんの言いたいことがイマイチ分かりません。そんな私に、リンディさんは優しく微笑みます。「簡単よ。彼は、なのはさんやフェイトさん達にとってはまさに『太陽』。優しい日差しでその身体を包み込み、貴方達を力強い光で導いていく」でもね、と続けます。「彼は私達にとっては『悪い奴』よ。強制的に無理難題をふっかけてきて、自分の都合通りにことを運び、気に入らないことがあると傍若無人な態度を取る」全く困ったものだと溜息を吐きます。でも………「だからこそ、私のお兄ちゃんは『ソル=バッドガイ』なんです」私はお兄ちゃんの在り方を否定する気はありません。リンディさんの言う存在こそが、私の大好きなお兄ちゃんの姿だからです。リンディさんが呆気に取られたように固まったかと思ったら、「アハハハハハハッ!! そうね、その通りね。今更になって初めて、なのはさん達が彼を慕う理由が分かった気がするわ!!!」急に大きな声で笑い出しました。私、変なこと言ったかな?皆がリンディさんの様子を訝しげな眼で見ますが、そんなこと気にした様子も無く笑い続けます。笑い過ぎて零れた涙を拭いながら、リンディさんは言いました。「彼は自分の生き方に正直で、自分にとても素直な人間なのね。自分に決して嘘をつかないその生き様はとても眩しくて、だからどうしようもなく惹き寄せられるんだわ」何だか一人で納得していますが、お兄ちゃんが魅力的な人だということは分かってもらえたようです。「お前ら、お喋りはもう終いにしろ。転送準備が整った」お兄ちゃんが手招きして私を呼びました。私はお兄ちゃんの傍に、皆の所へ駆け寄ります。「さようなら。貴方達を管理局に勧誘しようとすると怖いお兄さんに睨まれるから出来ないけど、機会があったらまた会いましょう」「二度と会わないことを願うぜ」リンディさんの別れの言葉をお兄ちゃんは溜息と同時に切り捨てました。「相変わらず手厳しいわ」でも、リンディさんは気分を害したどころから、むしろ上機嫌な笑みを浮かべました。「あ、あの、短い間でしたけど、お世話になりました!!」私はペコッと頭を下げます。「リンディさん、ソルが今まで大変失礼しました」ユーノくんも隣で頭を下げています。「………ユーノ、テメー」「アルフ、私達も一応頭下げておこう。母さんの所為で迷惑かけたし、ソルのおかげとはいえ私達のこと黙っててくれるみたいだし」「フェイトがそう言うなら頭下げとこっか。どうもご迷惑かけました」「ご迷惑をおかけします。それから、ありがとうございます」フェイトちゃんとアルフさんも頭を下げました。唯一、お兄ちゃんだけが頭を下げません。でも、それがお兄ちゃんらしいです。皆で揃って顔を上げると、リンディさんの隣にクロノくんとエイミィさんが立っていました。二人も見送りに来てくれたようです。クロノくんは複雑そうな表情ですが、エイミィさんがこれ以上無い笑顔です。「ソル。キミのおかげで事件は無事解決出来た訳だが、僕はキミを認めた訳じゃ無いからな」「報告書とデータの捏造は任せといて、こういうの得意だから♪」そんな対照的な二人。いよいよ魔方陣が光り輝き、発動しました。もう本当にお別れです。「「「「「「「さようなら」」」」」」」お兄ちゃん以外の声が見事にハモり、「じゃあな」一拍遅れて、お兄ちゃんの言葉が聞こえました。SIDE OUTSIDE フェイト眼を開けると、そこは海が見える公園。なのはと最後に決闘した場所であり、―――ソルと初めて会った場所。そうだ。私にとっては、此処から全てが始まったんだ。「帰るぞ」ソルが言って、歩き出す。「あ、待ってお兄ちゃん」なのはがソルの腕にしがみつく。私は駆け出すと、なのはに対抗するように反対側のソルの腕にしがみついた。「………ったく、お前ら」呆れたように溜息を吐きつつ、決して私達を振り解こうとしない。「くくく、ソル、アンタってやっぱり人気者だね」「アハハハハハ、まあ、キミが女の子にしがみつかれる姿は絵になってるよ」私達三人の後ろでアルフとユーノがお腹を抱えて笑いを堪えている。「ちっ」からかわれたことに舌打ちをすると、二人をギロリと睨んでから早足で歩き始めた。私となのはは、決して放すまいとより力を込めてしがみつく。笑い終わったアルフとユーノがついてくる。「ねぇ、ソル」「ああン?」私達の”これから”はまだ始まったばかり。「ずっと、一緒に居られるの?」「ああ」それがどんな道がまだ分からないけど、「フェイトちゃんは私の妹になるのかな」「そこらへんは勝手に決めろ。俺は知らねぇぞ」ソルと、皆と一緒なら、絶対に後悔しない道にしたい。「僕はどうなるの?」「アタシは?」でもきっと大丈夫。「お前らはペットだ」「「酷っ」」だってソルが隣に居てくれるんだもん。「ん? どうした?」私はソルの顔をじっと見る。「ううん、なんでもない」ソルに出会えて本当に良かった。「?」「な、フェイトちゃんがお兄ちゃんと見つめ合ってる!! 抜け駆けは禁止って言った筈だよ!!!」眩しくて、強くて、暖かくて、優しくて、ソルはまるで―――「ソル」「なんだ?」「大好き」―――私にとって、たった一つの太陽みたい。後書きここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。これにて『背徳の炎と魔法少女』の無印編は完結となります。物語はまだまだ続く予定ですので、もし期待してくれているのであれば、待っていてください。次は外伝や日常編を交えつつ、第二期のA`sに続きたいと思います。今回、無印編を書くにあたってのはコンセプトは『在り方』『生きる道、生き方』となっております。しつこいくらいに作中に出てきた言葉ばっかりですwwwヒロインとしてのスポットライトもほとんどがフェイトに当たるようになったのはコンセプトの所為です。なんか色々と書こうと思ってたんですけど、今この時点で全部吹っ飛びました。アホか俺は。こんな話が読みたいって方居たらネタ提供よろしくwwwとりあえず、インディジョーンズ話は考えてます。タイムトラベラーも考えてます。いくつか日常編を挟んでから出来上がり次第うPしたいと思っています。では、長々と語るのはこの辺までにしておきましょう。また次回お会いしましょう!!!