「何時までこんなことしてればいいの!?」大量のチェーンバインドを暴走体の根っこに張り巡らせ、その進行と攻撃を阻害しながら僕が喚いた。「ソルがフェイトの治療を終わらせるまでに決まってるじゃないか!!」僕と同じくアルフもバインドを駆使して暴走体の動きを拘束する。「………もう我慢出来ない、お兄ちゃんのフラストレーションが解消される前に私のフラストレーションが溜まる!! レイジングハート!!」<Shooting modeに移行します>命じられた防戦一方な戦い方に痺れを切らしたなのはが上空へと上昇する。「やめてくれなのは!! 攻撃してもし暴走体を倒してしまったら連帯責任で全員焼き土下座になる!!!」悲鳴を上げて嘆願する。初めてソルと会ったその日の晩のことを思い出す。記憶の中にあるソルが恫喝する。「よくもなのはを魔法に関わらせてくれたな? 普通で居ることが一番幸せだってのに………容赦しねぇぜ」って言ってる真紅の眼が恐怖を煽る。「そもそも焼き土下座って何!?」「それはアタシも思った。一体何なんだい? その焼き土下座って」「そんなこと知らないし、 身を以って知りたくもないよ!! 分かってることは、ソルが罰として言い渡すぐらいなんだから絶対碌なことじゃないってことだけ!!!」「………ディバイィィィン」「人の話聞いてなのはぁぁぁぁぁぁ!!!」「バスターァァァァ!!!」なのはは僕の言葉を聞き流しながら砲撃魔法を発動。桜色の閃光が破壊の意志を乗せて醜悪な樹木に向かって真っ直ぐ伸びる。―――終わった。僕は頭を抱えてこれからの自分の末路を想像して、いっそ殺してくれ、と思った。しかし、―――ガィィィィンッ!!ディバインバスターは暴走体が展開した防御魔法に阻まれ、本体のジュエルシードには届かなかった。それを見て、不謹慎なことだと分かっていながら僕は神に感謝した。ナイスだジュエルシード!! これで焼き土下座は回避された!!!その時、「ガンフレイムッ!!」視界の外から眼の前を横切った巨大な火柱が、僕とアルフが拘束していた根っこどころか、暴走体から伸びてくる全ての根っこを一瞬で焼き払った。……………………………もし焼き土下座になったら、あの根っこと同じ運命を辿るんだろうか?SIDE OUT俺がフェイトの治療を終え、なのは達の所に着いた時、なのはの砲撃が防がれた場面だった。「やっぱなのはは我慢出来ねぇか」封炎剣を地面に突き立てる。「ガンフレイムッ!!」大地から噴出した炎が触れるものを焦がしながら突き進む。接近するにはまず邪魔臭そうな根っこを灰に変える必要がある。とりあえずガンフレイムで俺の進行上に存在する全ての根を消し炭に変える。ガンフレイムによって丸裸になった暴走体にそのままダッシュ。「ソル!!」「後は任せろ」声を掛けてきたユーノに一瞥して、すぐに暴走体に眼を向ける。確かなのはの砲撃を防げるだけの防御力はあるみてぇだが、その程度で俺の攻撃を防ぎ切れるか?俺の接近を警戒したのか、慌てたように根を再生させ、次の瞬間には鞭のようにしならせ振り下ろされる。丸太程度の太さを持つ鞭がパッと見七本迫る。それらの攻撃を速度を緩めないように、慌てず騒がす、最小限の動きで全て回避。後数メートルで俺の間合いに入る、そう思った瞬間、眼の前に防御魔法が展開される。俺は構わず展開された壁に踏み込み、封炎剣を持つ左腕を防御魔法に叩きつけた。「御託は―――」拳を繰り出すと同時に発生した爆炎が、ガラスが割れるような音を立てて防御壁を粉々に粉砕する。邪魔するものが無くなり、俺は続けざまに一歩大きく踏み込み、流れるように動きを繋げながら右ストレートをお見舞いする。「―――要らねぇ」右の拳自体はまだ三メートル程遠くて届かない。しかし、拳から発生する爆炎は十分届いた。一瞬で炎が全身を這い回り、火達磨になる樹木の暴走体。―――だが、これで終わりだと思ったら大間違いだ。突き出した右腕に封炎剣を持つ左腕を添え、逆手に持った封炎剣を両手で持ち直す。そして、己の力を解放すると同時に振り上げる。「消え失せろっ!!!」刹那、一戸建ての家くらいなら丸々呑み込めそうな程の巨大な爆炎が発生し、暴走体を軽々呑み込み、爆発音を轟かせながら爆裂する。暴走体は高熱の炎と衝撃に晒され、その身を灰にする間も無く蒸発させる。周囲に高熱の爆風を撒き散らされる。やがて、炎が消え辺りが静かになると、しゅうしゅうと音を上げ黒い煙を昇らせる大地と、半径五メートル・深さ二メートル程のクレーターとその中央に光り輝き浮遊するジュエルシードが残っていた。「ま、こんなもんか」俺は首をゴキゴキ回しながら呟いた。「す、す、すご、凄いよお兄ちゃん!!!」上空から様子を見てたなのはが俺の眼の前に降り立つ。「い、今の何て魔法!? 格闘ゲームの超必殺技みたいで格好良い!! 私のディバインバスターでも通じなかったのに、あんなにあっさり防御魔法貫いちゃうなんて!! と、とにかくお兄ちゃん凄過ぎ!!」興奮しているのか早口で捲くし立てて詰め寄ってくるなのは。そういえば、こいつの眼の前で大技の法力を使う場面なんて見せたこと無かったな。牽制攻撃を教えた時もせいぜいガンフレイムとかバンディットブリンガーとかそんなのばっかだったし。サーベイジファングはそれを放つ瞬間を見せなかったからな。「俺のことより、今はジュエルシードだろ? 早く封印しろ」「あ、うん、そうだね………え? 私が封印するの?」ま、なのはが疑問に思うのは当然だな。今までは勝負に勝った方が手にしてたもんだからな。「事情は後で説明する。とにかく今はジュエルシードの封、っ!?」そこまで言い掛けて、俺は咄嗟になのはを抱えてユーノから教わった全方位防御魔法『サークルプロテクション』を発動させる。次の瞬間、半球状の防御壁に金色の雨が突き刺さる。しかし、強固なバリアは悉く雷撃の雨を弾いて防いでみせる。「な、なに!?」なのはが喚くのを無視し、視線を巡らせ、雨を降らせる人物を見る。「………フェイト?」「フェイトちゃん?」攻撃してきたのは上空から俺達を見下ろすフェイトだった。フェイトは俺達とジュエルシードを挟むようにゆっくりと地面に降り立つと、こちらにデバイスを向けた。俺は何故フェイトが突然攻撃してきたのか分からなかった。「フェイト!! 一体どうしたんだい!?」それはアルフも同様で、フェイトの傍に寄ると横から顔を覗き込むように問い詰める。アルフの質問に答えないフェイト。その表情は何も語らない人形のような無表情だった。「いきなり何しやがる、フェイト?」怒りの感情よりも驚きの方が遥かに上回っていた俺の声。それは自分でも驚くくらい狼狽した声だった。「私は、ジュエルシードを集めなきゃいけない」ようやく聞けたフェイトの声は、やっと絞り出したような掠れた声だった。「その為には邪魔するものは全て潰さなければいけない」「………フェイトちゃん?」腕の中のなのはが、様子のおかしいフェイトを訝しく思っている。それは俺も同じだ。「だから、だからっ!!」此処で無表情だったフェイトの顔に変化が現れる。その端正な顔を悲しみに歪ませ、眼からは涙をポロポロ零し始めた。「ソ、ソルが、わ、私の敵になるのは嫌だけど、ソルと、た、戦うなんて嫌だけど、私は、母さんの為なら何でもするって決めたから、たとえ、あ、相手がソルでも………戦う!!!」まるで血を吐くように嗚咽を漏らし、泣きじゃくりながら宣言するその姿は悲壮感が漂う。デバイスを握る手をぶるぶる震わせていながら、狙いはしっかりと俺に向いていた。「ど、どうしちまったんだいフェイト!? ソルが敵になるなんて、いきなり何言い出すんだい!?」アルフが慌てて俺とフェイトを交互に何度も見ながら言う。「………そうだフェイト。俺が何時、お前の敵になるなんて言った?」俺はゆっくりと、なるべく優しい声音になるように注意しながら声を出した。正直、自分でも震えた声を出しているんじゃないかと思いながら。「お前は何か勘違いしてる。さっき言ったことだろ? あれはお前が思っているような内容じゃねぇ」フェイトの悲しげな表情が、揺れる。なのはを離し、一歩前に出て、右手を差し出した。「俺を信じろ。俺はお前の敵なんかじゃねぇ。敵になんかなりたくもねぇ」そして、もう一歩フェイトに向かって踏み出そうとした時、「ストップだ! 此処での戦闘は危険過ぎる!! 僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。その権限でこれ以上の戦闘行動の停止を命じる。この場に居る全員、速やかにデバイスを収めるように。詳しい事情を聞かせてもらおうか?」場違いな声を出す闖入者が現れた。背徳の炎と魔法少女 10話 Here comes A Daredevil少し時間を遡り。時空管理局・巡航L級8番艦『アースラ』。第97管理外世界『地球』の軌道上にようやく到着したその時、慌てたようなエイミィの声がブリッジに響き渡る。「艦長!! 今、魔力値オーバーSを観測しました!! しかも、昨日観測されたものと同じ反応です!!」「なんだって!?」クロノが驚愕の声を上げる。「ロストロギアの反応は?」「はい、次元震を発生させる程ではないんですけど、それなりに活性化してたみたいです。でも、やっぱり昨日と同じようにどんどん反応が弱くなってます」昨日と同様。オーバーSを観測すると同時にロストロギア、ジュエルシードの反応が弱まる………か。「エイミィ、現場の様子を見たいから、サーチャーを飛ばしてもらえる?」「了解しました。少し時間が掛かりますけどすぐにモニターに出しますね」エイミィは快く命令を受けるとサーチャーを飛ばした。「艦長」「どうしました? クロノ執務官」「僕に行かせてください」「貴方一人を?」「はい」何を言い出すかと思えば単身で現場に向かうという。正義感が強くて職務に実直であるのはいいことだが、今の段階では軽はずみに許可出来ない。「許可しかねます。知っての通り現場には魔力値AAAランクの魔導師が少なくても二人、その内のどちらかがオーバーSランク魔法を行使しているような場所。状況がよく分からない以上貴方一人を送り込むことなど出来ません」「ですが艦長―――」「サーチャーからの映像、出ます!!」クロノの声を遮ってエイミィがモニターに現場の様子を映し出す。モニターに映し出された光景は、黒くて大きなクレーターを中心に鎮座するジュエルシードと、それを挟んで対峙する二組の魔導師達だった。一方は少年と少女。黒茶の髪に赤いジャンバーを着込んだ少年が、白いバリアジャケットを着込んだ少女を抱き締めている。残る一方は二人共女性。金髪で黒いバリアジャケットの少女と、その隣で尻尾と獣耳を生やした女性がオロオロしている。それぞれ表情までは見えないが、緊迫している雰囲気なのは理解出来た。「こんな………子ども達が?」驚きを隠せない。まさか年端もいかない子ども達が高ランクの魔力値を叩き出したというのだろうか?そのまま様子を見ていると、金髪の黒いバリアジャケットの少女がデバイスを小年達に向ける。「まさか、封印しない状態で戦うつもりか!? 艦長!! 事態は一刻を争います。出撃の許可を!!」どうする? 睨み合った二組は今にも戦闘が始まりそうだ。しかも、片方はデバイスを向けて明らかに敵意を示している。此処でまたジュエルシードが暴走して次元震が発生しようものなら目も当てられない。「クロノ・ハラオウン執務官に命じます。今すぐにこの二組の魔導師達に戦闘停止の通達を。ジュエルシードがすぐ傍で封印されていない状態で存在する以上、なるべく穏便にことを済ませてください」「了解しました!!」「それからエイミィ、この子達の魔力を常に観測していて」「お任せください」「それと音拾える? それにもっとズームにして、顔アップで、表情が分かるように」「はい、了解です………出来ましたよ」命じられると同時に転送ポートへと走り去るクロノを見送りつつ、エイミィに指示を出す。『………そうだフェイト。俺が何時、お前の敵になるなんて言った?』モニターから少年の声が響く。「あれ? この少年は敵対するつもりは無いみたいですよ………って、あ!? 黒い子泣いてる? なんで?」「あら本当」黒い少女は何が悲しいのか、号泣しながら少年達にデバイスを向けている。それに対して少年が抱き締めていた白い少女を離していた。『お前は何か勘違いしてる。さっき言ったことだろ? あれはお前が思っているような内容じゃねぇ』「まさかこの年で修羅場!? そういう展開ですか!? 泥っドロの!!」「そういうことを言うのはやめなさいエイミィ。仕事中よ」エイミィが楽しそうな声を出すので注意するが、かくいう私もモニターに釘付けだ。この子達は一体どういう関係なんだろう? 仕事としてよりも個人的に興味が出てきてしまう。少年は一歩踏み出すと、黒い少女に手を差し伸ばす。『俺を信じろ。俺はお前の敵なんかじゃねぇ。敵になんかなりたくもねぇ』少年の真摯な態度に、少女の悲しげな表情が一瞬揺れて、『ストップだ! 此処での戦闘は危険過ぎる!! 僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。その権限でこれ以上の戦闘行動の停止を命じる。この場に居る全員、速やかにデバイスを収めるように。詳しい事情を聞かせてもらおうか?』「………」「………うわ………クロノくん、タイミング絶妙過ぎだよ。これからどうなるのか興味あったのに」エイミィが残念そうに呟いた。正直私もそれに同意見だった。「誰だ?」突如、転移して現れた黒い服―――魔力で構成されているのを見るとバリアジャケットだろう―――の男、いや、少年。年齢は顔立ちから十一か十二、身長はなのはと同じくらいか?「………時空管理局」「執務官だって!?」俺の足元まで来ていたユーノがぽつりと、アルフが驚愕の叫び声を上げる。この場に居る全員の意識が少年に向く。『ユーノ、知ってるのか?』『え? うん。数多の次元世界における司法機関みたいな組織って言えば分かるかな?』少年に注意を向けながら秘匿回線の念話でユーノのに時空管理局とかいう組織について聞く。『司法機関? なんでそんな連中がいきなり出てきて戦闘停止の勧告してくんだ!? 裁判でも始めようってのか!?』『それは、ええと、なんていうか、時空管理局が警察みたいな役目も担ってるからかな』言い淀みながらもしっかりと疑問に答える。『裁判所と警察を足して二で割ったようなもんか?』『そう思ってくれて問題無いと思うよ』『問題無い? 何処がだ? それ組織として偏ってるぜ』警察ってのは国の秩序と安全を維持する為、国民の生命、身体、財産の保護や犯罪の予防、捜査、被疑者の逮捕、交通の取り締まりなどを行う行政機関の一つだ。司法機関ってのは所謂裁判所。その権限は実質的に、立法、行政に対し、個々の具体的争訟を解決する為、公権的な法律判断を行い、法を適用する機関のことだ。少なくとも日本の法律ではそういうことになってる。例えばの話、日本の法律をそっくりそのまま当て嵌めると、時空管理局とやらは行政権と司法権の二大権力を備え持つ組織となる。しかも”数多の次元世界における”っていう言葉から察するに規模はかなりでかそうだ。話に出てこない立法機関がそれぞれの次元世界でどうなってるかまでは分からない。が、国家権限レベルの権力を一つの組織が二つも保有してるってのはどうなんだ?「全員、武器を下ろすんだ」俺の思考を遮る命令が下される。ユーノの言葉を鵜呑みにする訳では無いが、俺なりに想像した”時空管理局”って奴の所為かやたらと尊大に聞こえる。「このまま戦闘行為を続けるようなら、っ!?」「フェイトッ!! 撤退するよ!!!」執務官とやらが言葉を続けようとしたその時、突然アルフがそいつに向かって魔力弾を生成して飛ばす。馬鹿かあいつは!? 時空管理局の実態がどんな組織か知らんが、あんなことすれば「自分達は時空管理局に対して後ろ暗い面がある」と言っているようなもんだ。あいつ何考えてやがる!?魔力弾を上昇することによって執務官が回避した隙を狙って、フェイトがジュエルシードに向かって駆け出した。視界の端ではフェイトにデバイスを向ける執務官。―――全てが瞬きする間も無く早く動く事態の中で、俺はよく知りもしない組織よりもフェイトのことを優先し、その為にある”賭け”に出ることを選択した。俺は即座に封炎剣を明後日の方向に投げ捨て、つま先に”力”を集約、そして”力”を一気に爆発させるように大地を蹴る。空気抵抗が鬱陶しい。鼓膜に届く振動が耳障りだ。人間の身体ならとても耐えられないような負荷が襲い掛かるが、生憎俺の身体はそんなにヤワじゃない。一発の弾丸と化した俺の身体はジュエルシードを手にしようとするフェイトに迫り、眼の前で急停止しようとするが、当然慣性を殺すことが出来ずにそのまま覆い被さるように押し倒す。次の瞬間、「がっ!!」背中に小さくて硬い、尖った石を投げつけられたような鋭い痛みが走る。が、気にせずフェイトを抱えるように地面に転がり、あえて俺が上、フェイトが下になるようにする。そういえばこれが初めて食らった魔法の攻撃だな、とどうでもいいことが脳裏を過ぎった。「お兄ちゃん!?」「ソル!?」「な、何をしているんだキミは!?」鼓膜を叩くなのはの驚き混じりの悲鳴。ユーノと執務官の狼狽した声。どうやら三人は誰も俺がフェイトを庇うと思っていなかったらしい。俺に庇われたフェイトですら信じられないという表情をしている。好都合だ。これですぐに動けるのは俺を除いて一人だけ。「大丈夫かい!? フェイト!!」(ナイスだアルフ!!)やはり唯一、俺の行動を予見していたらしいアルフの確信めいた叫び声が近付いてくる。―――温泉旅行でアルフと交わした口約束。たとえ口約束だろうと俺は破る気は無いし、アルフも俺を信じてくれた。だからこそ”賭け”は成功した。俺はアルフにしか聞こえないようにした秘匿回線の念話を早口で送る。『俺のこと蹴り飛ばしてとっととフェイト連れて逃げろ』『ソル!?』『フェイトはともかく、薄々お前は気付いてんだろ? お前達のバックに居る奴は”まとも”じゃない、でもフェイトはやらされていることに疑問を持たない、だからお前は不審に思っていても主に従うしかない、それがたとえ時空管理局とかいう組織に目をつけられる内容だろうと』そうでないとアルフの行動に辻褄が合わない。ユーノが言う司法機関と警察を混ぜたような組織の人間にいきなり攻撃なんか仕掛けない。アルフの性格なら心の何処かで後ろめたいものが無い限りそんな行動に出る訳が無い。そして、自分を虐待する人物を必死になって庇うフェイトの態度。あれは既に妄信に近い。『でもアンタ達は!?』『最悪逃走幇助になるがそれは俺だけだ。だが、なのはとユーノの二人はある程度の事情聴取は避けられねぇ、だから今までのことを含めフェイトが虐待を受けてることも話すつもりだ。お前らはほとぼり冷めるまで出てくんな!!』『分かった、本当に恩に着るよ、ソル!!』「ぐはっ!!」脇腹をサッカーボールを蹴る要領で蹴られ、俺の身体は数メートル飛び地面に転がる。これで見事にフェイトの上からどかされた。「フェイト、逃げるよ」「あ、え?」「早く!!」アルフは呆けたフェイトを引きずり起こすと飛び去っていく。「ま、待て!! 逃がさないぞ!!」数秒の混乱から立ち直った執務官が二人を追おうとするが、『アルフ!!』『分かってるよ!!』あらかじめ用意していたのか、俺の声に応える形で転移魔法を展開させると二人の姿が消える。「………くそ、逃げられたか」それに悔しそうな声を出す執務官に、俺は内心してやったりと笑った。「お兄ちゃん大丈夫!? 怪我してない!? 痛いところとかは!?」なのはが半泣きになって駆け寄って来ると、俺の上体を無理やり起こしペタペタと身体中を触りまくる。「とりあえず怪我は無い。大丈夫だ」「ホント? ホントにホント!?」「ああ」必要以上に心配するなのはの頭の上に手を乗せ、安心させるように撫でる。「バカァァッ!! いきなり撃たれて蹴られたから心配したんだよ!!!」両手に握り拳を作りポカポカと俺の胸を叩きながらしがみついてくる。「大丈夫だから泣くなって。魔法は非殺傷だし、蹴られただけだろうが」「いや、人に心配させたんだから少しは反省しようよ。そもそもあの魔力弾、かなりの威力が込められてたと思うんだけど? だから僕もなのはも心配してるんだよ?」「………ユーノ」なのは同様に傍にまで駆け寄って来るとユーノが文句を垂れた。それなりに痛かったが、俺自身は大したこと無いと思っている。昔はもっと酷い怪我なんてしょっちゅうだったし、何より非殺傷なんていう攻撃など相手に致命傷を与えられない時点で、攻撃としての意味を半分失っている。そんなもの俺にとっては脅威にならないんだが。ま、それでもフェイトに当たらなかったのは僥倖か。「そうだよお兄ちゃん!! ユーノくんの言う通り心配したんだからね!!」「ソル? こういう時になんて言えばいいのか聡いキミなら分かるよね?」しかし、頬を真っ赤にして怒りを露にするなのはと、俺を諭すようなユーノは俺の意見なんて聞き入れてくれそうに無い。とっとと白旗揚げた方が良さそうだ。「………悪かった、心配掛けてすまなかった」大したことじゃねぇのにな、と言えるような状況じゃない。此処は素直に謝っておく。「はい、良く出来ました!!」「うん、素直に謝れるのは美徳だよ」にゃははと柔らかな笑みを浮かべるなのはと、腕を組んでうんうん頷くユーノ。………なんかこいつらに子ども扱いされると、とてつもない敗北感が圧し掛かる。―――……………………………………………………年が二桁もいってない小学生に説教される実年齢二百歳越えの俺って………………………あ……………………………死にたくなってきた。「キミ、大丈夫か?」執務官―――クロノ、とか名乗ったか?―――はフェイトが取り損ねたジュエルシードを封印し終え、俺達の前に近付いて来る。「っ!!」「やめろなのは」クロノにデバイスを向けようとするなのはの手首を掴んで諌める。「でも、お兄ちゃん怪我するところだったんだよ!!」「あれは俺が勝手に射線上に入っただけだ。それはお前も分かり切ってるだろ? こいつは悪くない」「………分かった」まだ少し納得いかなそうな表情だが、とりあえず矛を収めてくれたなのはの頭を改めて撫でると、俺は立ち上がった。「改めて自己紹介しよう。僕は時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。先程は本当にすまなかった。キミがあんな行動を取るとは思っていなかったんだ」名乗りと同時に謝罪するクロノ。あんな行動、とはフェイトを攻撃から庇ったことか。ま、あれにはジュエルシードを渡さないという意味も多少は込められているんだが、傍から見れば敵対する相手を庇ったように見えただろう。「ソル=バッドガイだ」「………ソル=バッドガイの妹、高町なのはです」「ユーノ・スクライアです」俺達はそれぞれの名を名乗る―――なのはだけはそっぽを向いていたが。その中でクロノはユーノの性に反応した。「スクライア? ということはジュエルシードを発掘して、その後行方不明になったというのはキミか?」「はい。もしかして一族から話が通ってますか?」「ああ。これからキミ達にはアースラに来てもらって事情聴取に協力して欲しいんだが、構わないかな?」クロノの視線が俺に向く。どうやら三人のリーダー格は俺だと判断したようだ。ユーノの口ぶりに疑心が無いことから、時空管理局はそれなりに信用ある組織らしい。「………好きにしろ」俺は数秒黙考した後、その提案を了承した。気が付けば、夕陽が地平線に沈みかけていた。あの後。俺達四人の前に空間モニターらしき映像が現れ、若い女―――推定二十台から三十台―――が映し出される。まずクロノがそいつに結果報告をしてから、女は自分が時空管理局の提督でアースラとかいう戦艦の艦長だとかなんとかのたまった。それから事情聴取に協力することに対する礼を述べ、部下か何かに転移魔法の指示を出すと、俺達の足元に魔方陣が浮かび上がり魔法が発動した。一瞬視界が光で埋め尽くされ、次の瞬間には映画やSFドラマでしか見たこと無いようなブリッジに居た。オペレーターだろうか? この艦のクルーらしき人間達がこちらを無遠慮に見つめてくる。そいつらはどいつもこいつも十代後半から二十台中盤くらいの層だ。若い連中ばかり居るのが少し気になった。「うわぁ~フィクションの世界に迷い込んだみたい~」なのはが物珍しさにキョロキョロと首を巡らしながら呟く。「お前、今の自分の姿後で鏡でよく見てみろ」「にゃ?」分かってないのか頭に?を浮かべるなのは。俺はそんななのはに頭痛を感じながら執務官に向き直る。「で? 取調室は?」「いや、キミ達は艦長室に案内するよう言われている。バリアジャケットを解除したらついてきてくれ。キミも元の姿に戻っていいんじゃないのか?」「あ、そうですね」ユーノが応えると緑色の光に包まれ、フェレットから人型へ、民族衣装を着込んだ少年の姿となる。「は? あ、え、ええええええええええ!?」そんなユーノの変貌を目撃し、なのはが素っ頓狂な声を出す。「そういやなのはは知らなかったな」「あれ? そうだっけ? 初めて会った時ってこの姿じゃなかったっけ?」「いや、ハナっからフェレットだったぜ」そうだったかな~、と首を傾げるユーノ。そんなユーノになのはは震えながら指を差す。「ユユユユユーノくんっ!? フェレットから人間に進化!? なんで!? ていうか驚かないお兄ちゃんはこのこと知ってたの!?」「まーな」「何時から!?」「僕となのはが初めて会った日から、かな?」「厳密に言えば倒れてるフェレットの姿を見た夕方からだ」「うそぉぉ!?」「それで、その晩にはご家族に自己紹介させられたんだよ。ソルが無理やり」「まだ根に持ってたのか」「さあ?」驚愕の事実にパクパクと金魚の如く口を開閉させていたなのはだが、次第に自分だけが知らなかったことに両手を振り回してプンスカ怒り始めた。「み、みんなして私を仲間外れにしてたんだね!!」そんな言葉に俺とユーノは顔を見合わせる。「別に俺達は」「そんなつもりなかったんだけど」「なぁ」「ねぇ」「息合ってるところが余計に腹立たしいよ!!! お兄ちゃんのアフォ!!! ユーノくんの、えと、その、お兄ちゃんのマスコットキャラ!!!」「ぐえっ!?」暴れるなのはがユーノの首を絞め始めたので、後ろからそれを解く。そしたら今度は俺の背中に回り込んで後ろ髪を引っ張るので、「はいはい分かった分かった、おんぶな」とテキトーな言葉を並べて屈んでやると、「騙されない、騙されないもん!!」とか言いつつしっかり乗っかってきて大人しくなる。「………キミ達の間で何やら見解の相違があったことは分かったが、今は艦長を待たせてるんだ。ついてきてもらっていいか?」呆れた表情のクロノがそんなことを言い出すまで、しばらくの間俺達はじゃれあっていた。案内された部屋はSFちっくな艦内とは打って変わって畳部屋。しかし、純和風かと思ったらそうでもない。畳みに毛氈、見渡せば盆栽が飾ってある隣で、何を勘違いしたのかししおどしが置いてある。日本文化の触れ方を間違った外国人の部屋に来たみたいだ。「わざわざご足労、ありがとうございます。私が艦長のリンディ・ハラオウンです」抹茶に羊羹を用意して待っていたのは、先程の映像に映っていたのと同じ人物。「私はこのアースラの通信主任兼執務官補佐をしているエイミィ・リミエッタです。よろしくね!!」その隣にテンションが高い十代中盤の娘。「ソル=バッドガイだ」「ソル=バッドガイの妹、高町なのはです。よろしくお願いします」「話は一族の方から聞いてると思いますが、改めましてユーノ・スクライアです」名乗り、俺は勝手に胡坐をかく。俺を挟んでなのはとユーノが座り、クロノがリンディの隣に座る。俺の正面はリンディ、なのははエイミィ、ユーノはクロノ、といった具合に向き合うと話し合いという事情聴取が始まった。まず手始めに、海鳴市にジュエルシードがばら撒かれた経緯をユーノが話す。「なるほど、スクライア一族から聞いてはいたけど、そんなことが………」「………それで、僕が回収しようと」「立派だわ」「だけど、同時に無謀でもある」「それはソルに散々言われましたよ」ユーノはクロノの言い草に落ち込むことも怒りを覚えたような表情も浮かべず、単なる事実として受け入れて聞いていた。それからは時空管理局という組織について、ロストロギアというものについての説明があった。ロストロギアとは進化し過ぎた文明の危険な遺産。使用法によっては世界どころか次元空間さえ滅ぼしかねない危険な技術である、とか。そういった危険物の封印と保管をするのが管理局の仕事の一つでもある、とか。ジュエルシードはそんなロストロギアの一つで『次元干渉型のエネルギー結晶体』で、複数発動させることで次元空間に影響を及ぼす『次元震』とか呼ばれるもんを引き起し、最悪の場合、幾つもの並行世界を壊滅させるほどの災害『次元断層』の切欠になる、と。そこまで聞いて俺は待ったを掛けた。「おいユーノ」「何?」「ジュエルシードは”願い”を叶える石だとか、取り込んだ生物の願いを叶える為に”力”を与える石って言ってなかったか?」ついでに言えば、強い願いに呼応してより強い”力”を発揮する、とかもあった。それまでの俺の認識は、”既存生物の肉体に変化を及ぼす程度”。―――なのはが俺に内緒で何かしようとしているなんて、あいつも成長した。俺無しでどれだけ出来るのか見てみたい。危険と知りつつ、なのはをユーノに任せた。万が一の時は身を挺して守ることを誓って。それからしばらくして、繁華街で子ども二人を取り込んだ時、初めて街レベルでの被害が出た。街に被害が出て、”局地災害レベル”と認識を改めた。―――もし、なのはとユーノの二人がどうしようもないと感じた時。その時だけは助けてやる。だが、まだこの時点での俺はジュエルシードが海鳴市から消えてくれればそれでいい、としか思っていなかった。だから、なのはとフェイトのジュエルシードを巡る決闘に口出しする気は無かった。怪我の無いようにやってくれ、と。―――ジュエルシードの所有権云々の話は俺にとってどうでもいい。そして、昨日のジュエルシードの暴走。ジュエルシードから発された空間歪曲の感覚。俺の今までの認識をひっくり返す”因果律干渉”(本当のところは次元震だったようだが)。この時になって、ようやくジュエルシードが俺の予想を遥かに上回る危険物だということを思い知らされた。しかし実際は”因果律干渉”どころか、世界を破滅させるとかいう大規模な災害の切欠になるだとか言われる始末。「こいつらの話を聞いてみると、下手したら世界が滅ぶらしいな?」「………僕も、次元断層の引き金になるものだとは、そこまでのものだとは認識してなかった、ていうのは言い訳だよね………ごめん」「ちっ」俺は舌打ちをする。ユーノに対してじゃない、自分に対してだ。別に時空管理局の連中の話を鵜呑みする訳じゃないが、こいつらの科学技術レベルと嘘を吐いてるとは思えない態度は、言ってることを納得せざる得ない気分にする。何よりユーノが今まで見た顔の中で、一番深刻そうな表情だ。正直、信じたくない話である。しかし、規模がでか過ぎていまいちピンと来ない、なんてことは無い。たった一個のジュエルシード、その全威力の何万分の一の発動で小規模次元震を発生させることが出来るらしい。俺はやはり甘かった。それが腹立たしい。忌々しい。まさか世界が滅ぶとまでは考えもしなかった。何がどうでもいいだ、笑わせる。そんな大変なことだと知らずに、フェイトに三個も渡しちまった。一個目は知らなかった。碌に知ろうともしなかった。二個目はなのはとの間に放り投げた。それをフェイトがなのはより早く反応しただけ。だが、三個目は完璧に俺の過失だ。怪我から回復したあいつを見て、あの笑顔を見て―――確証は無かったがジュエルシードが因果律干渉体だと疑いながら―――俺はあいつに何かしてやりたい一心で、ついさっきまでのことを忘れて、敢闘賞的な感じで渡してしまった。それが間違いと気付くのは、ジュエルシードについて改めて考えた次の日の昼前。遅過ぎるし本当に間抜けだ。それにあいつが虐待を受けている事実を知るまで、俺はフェイトの全てを無条件で信じていた。フェイトの後ろに居る奴がジュエルシードを欲しがっていること。それが碌でもないと分かっていながら、あいつの知り合いならと楽観視していた。つまり、妄信していたのは俺の方だった訳だ。―――俺の中であいつは、何時の間にこんなにも大きくなっていたんだ? 愛娘だと思っていたのは、なのはだけだった筈だ。 守りたいと思っていたのは、高町家とその周囲に居る人間だけだった筈だ。逃走幇助したさっきのことも、実は軽はずみだったんじゃないのか? 本当なら間違ってんじゃないのか? あのままフェイト達が捕縛されるのを黙って見てれば良かったんじゃないのか? 悩むのは俺らしくない。そんなことはさっきなのはに啖呵切られて百も承知だし、自分でもよく分かってる。だが………「………クソが」誰にも聞こえないように小さな声で、俺は自分に毒を吐いた。後書きお騒がせしました。ご迷惑をお掛けしました。自分なりに改めてよく考えて、書き直したものを吟味した上で改訂版をお送りします。続投を希望してくれた方、応援してくれた方、適切なアドバイスをくれた方、指摘してくれた方、大変励みになりました。ありがとうございます。ブレイブルーとギルティのサントラを交互に聞きながら、これからも投稿していきたいと思います。ではまた次回。