『アインハルトは今度の連休、暇か?』「連休、ですか? 何かご用事でも?」前期試験を目前に控えた週の始め、その放課後にノーヴェからアインハルトに連絡があった。首を傾げて問い返すアインハルトにノーヴェはニンマリ笑いながら応じる。『いやー、毎年のように参加してる合宿みてーのがあってよ。もしよかったらお前も一緒にって思ってさ』「お心遣いは大変ありがたいのですが、すみません。私は練習がありますので」『だからその練習の為に合宿みてーなのに行くんだって。アタシやスバル、ティアナだって行くし。ヴィヴィオ達も一緒だ……つーか、ぶっちゃけ旦那、“背徳の炎”が主導の強化合宿だぜ? 興味無ぇーか?』言葉の後半を聞き、あからさまにアインハルトの顔色が変わった。ノーヴェやヴィヴィオなどと共に過ごすようになってから改めてよく耳にするようになった“背徳の炎”の話の中には、彼らがこれまで行ってきた偉業と言っても差し支えない功績と同時に教導の話があった。非常に厳しい指導の下で戦闘技能を学ぶそれは、その厳しさ故にほとんどの者が耐えられないと言われながら、実際に最後まで耐え切ったものは異常な強さを手に入れるという眉唾としか思えないような話だ。しかしこれは与太話やデマではない。現にソルから『弟子』と唯一認められているティアナなどは“海”の執務官内で最凶と謳われているし、短い期間だが教導を受けたスバルの実力も話を聞く限りとても高いらしい。加えて、現在も聖王教会でなのはとはやてとアギトの下で行われている教導は評判が良い。何より“Dust Strikers”という賞金稼ぎ集団は4年前に“背徳の炎”が引退した今でも「個々人の戦闘能力は悪魔のような強さ」と言われ犯罪者を震え上がらせている。これは賞金稼ぎ達の大半が“背徳の炎”から直接教導されたから、というのが理由らしい。『悪い話じゃねーと思うぞ? まあ、死ぬ程辛い目に、いや、もしかしたら死んだ方がいいと思うくらい過酷なことになるかもしれんが……』言ってて何か嫌なことでも思い出したのか、徐々に顔を青くさせるノーヴェ。不吉な発言に断った方が良いような気がしてくるものの、初めて会った時に模擬戦をしたヴィヴィオの異常なタフネスと無尽蔵なスタミナの秘密を知ることが出来るかもしれないと思ったら、断る理由など無かった。是非参加させて欲しい、とその旨を伝える。『そっか! じゃあ詳しいことはまた後でメールする!!』と言い残し、ノーヴェは意気揚々と通信を切った。背徳の炎と魔法少女ViVid COMBO5 連休をエンジョイしよう!!そして当日。学校の試験も前日に無事終了し、土日と試験休みを合わせた四日間の連休を利用した合宿の始まりだ。アインハルトはまずノーヴェと待ち合わせし、合流後にヴィヴィオ達が待つ彼らの家へ向かう。「あの、ノーヴェさん。今更なんですが、私が参加してよろしかったのでしょうか? お邪魔じゃないでしょうか?」「あ? そんなこと訊いてくるなんてホントに今更だな。まあ大丈夫だって。ちゃんと旦那には許可取ったし、他にコロナとリオも居るし」ヴィヴィオと一緒に仲良くなった友人二人の名前を聞いて安堵するアインハルトであったが、逆に大丈夫だと言い聞かせたノーヴェ自身が不安になってきた。(最早野生児と称しても何ら違和感が無いヴィヴィオはともかく、こいつを含めた他のチビ達は大丈夫なんだろうか……? 途中で音を上げて家に帰りたいとか言い出したらどうしよう?)なんだかんだで女子どもには甘いソルだからその点は大丈夫だろうが、やはり“あのソル”だからこそ最悪の事態を想定しないといけない訳で。常に最悪を想定しろ、現実はその最悪の斜め上をロケットのような勢いでぶっ飛んでいく。そんな話を以前当の本人から聞いたような気がするし。(でも今回責任はアタシが取る訳じゃ無いし、あんまり悪く考えないようにしよ)頭の中から悪い想像を払拭するように首を二度振り、肩に掛けたボストンバッグを担ぎ直し集合場所に向かう足を僅かに速めた。集合場所であるバッドガイ家に到着すると、既に他の面子は揃っていたようで、玄関で迎えてくれたヴィータが「お前ら二人が最後だぞ」と小さく呟いてから家の中に招き入れてくれる。「集まったみたいだね。じゃあ、行くとしますか。皆荷物持って庭に出て」リビングに集まった者達の人数を指折り数えてからユーノが全員にしっかり聞こえる声量で言う。各々がそれに了解し、言われた通り荷物を抱え、靴を履き庭へと出た。改めて一同揃ったのを眼にし、ノーヴェは思わず呟く。「いつも思うけど多いな」“背徳の炎”の一家だけでも16人。それにプラスしてヴィヴィオの友人であるコロナ、リオ、アインハルトの3人と、仕事に無理やり都合をつけて休みをもぎ取ったティアナ、スバル、ノーヴェの3人。ティアナの話によればクロノも家族で参加したかったとのことだが、生憎休みが上手い具合に取れなかったので今回は来れないと言っていた。他のナンバーズなどもクロノと似たり寄ったりの事情で来れないので、社会人が集まるのって難しいなと内心で苦笑する。「はいはーい、全員注目!」両腕を頭上に掲げて視線を集めるのはアルフ。雑談していたそれぞれが口を閉じ、何事かと聞く態勢になった。「知ってる人も居れば知らない人も居るので、改めてアタシから説明させてもらうね。でもその前にまず、忙しい日々の中で貴重な連休を使ってこの合宿に参加してくれてありがとう。これから皆が向かうのは無人世界カルナージっていう世界で、何をするかと言うとそこで旅行を兼ねた強化合宿を実施するよ」知らない人、というのはコロナ、リオ、アインハルトの3人。ついでに今まで3年間の間家出していたエリオも含まれる。この4人は今回が初参加で、色々と聞いておかなければならないことがあった……まあ、エリオは聞いても聞かなくてもあまり大差ないが。「基本的に向こうでの食料は現地調達になるから。でも宿泊先では調理器具と調味料は用意してくれるからその点は心配しないで。それに食料の確保さえ出来れば料理スキルが無くても生で食べてもいいし。あ、でもお腹壊したらすぐに言うように。で、もし料理が出来ないけどまともなご飯が食べたい場合は、宿泊先の人達に頼めば“調理だけ”はしてくれるからそっちを利用するのもあり。有料だけど」此処でチビ達の頭の上に「?」と疑問符が浮かぶ。その表情は今何を言われたかちょっと分かってない感じだ。しかしエリオの顔色が全く変わってない辺り、これは育った環境の差なのだろう。「ちなみに食料を調達する時、魔法の使用は一切禁止、それ以外は何をしてもオーケー。例えばの話、もし食料が見つからない場合は持ってる人から略奪、っていうのもありだから」「略奪しにきた相手を返り討ちにして逆に奪うのは?」「問題無いよ。食料を餌にして誘き寄せたところを罠に嵌めて、っていうのも当然あり。戦闘も魔法さえ使わなければ当然オーケー」「なるほど……魔法さえ使わなければ何してもいいんだ」質問を飛ばすエリオにアルフが軽快に返答すると、彼は不穏なことを言いつつ満足するように唇をニヤリと歪めた。イケメンがとてつもなく悪い顔をしている。あれは絶対に何か企んでる顔だと思い、とりあえず要注意人物として警戒しておこうとノーヴェは決める。「次。トレーニングは、その時の状況次第になるから詳しいことは言えない」これに関してスバルが非難めいた声を上げた。「何ですかそれー!? 去年みたいにぶっ倒れるまで走らされた後に模擬戦とか勘弁して欲しいんですけどー!! 明らかなオーバーワーク!!」「じゃあ今年のテメェはサンドバッグになるまで一通り殴ってからサンドバッグだ」「あ、先生それいいですね。スバルってこの中じゃ割りと人間寄りの耐久力だから新しい魔法の実験台とか適任ですし」ドが付くSっ気たっぷりのソルがとんでもないことを平然と言えば、師匠の名案ならぬ凶案にティアナが同意を示す。「結局嬲り殺しじゃないですか!? ヤダー!!!」「嫌なら死ぬ気で抵抗しろ」「何その根性無しな発言。アンタはその気になればもっと出来る娘だと思ってたんだけど」つまらないものでも見るかのような冷たいソルの視線と、失望したと言わんばかりにティアナが溜息を吐く。息がぴったりの師弟コンビの攻撃はこれで終わった、と思ってたら此処で追い討ちを掛けてトドメを差す人物が居た。「安心しろスバル。先のような軟弱なことを二度と言えないように根性を一から鍛え直してやる(確定)」「じゃあスバルだけ特別メニューな(意味深)」「あ、私も手伝う(全力)」シグナムとヴィータ、そしてなのはである。3人の紡いだ不吉な言葉にスバルは血涙を流しながら震え声で「あ゛り゛がと゛う゛ござい゛ま゛す゛」と言った。なんだか見ているこっちまで泣きたくなってくる。弱気なことを迂闊に吐き出せばこうなる、という典型的な例だ。それにしてもティアナとスバルの対比が凄い。あの“事変”から今日までの4年間で二人がどのように過ごしてきたかの差が明確に出ている。ティアナはソル達が“Dust Strikers”を抜けた後も貪欲に強さを求めて彼らの下へ暇があれば通っていた結果、おかしいレベルに達している。逆にスバルはティアナのように通うことはなかった。特別救助隊という役職が忙しいのは分かるが、ティアナだって最前線で戦う執務官である。忙しかった、は言い訳にならない。単に地獄を見るのが嫌だったとかそういうのではなく、純粋に「強くなりたい」という気持ちの差が実力の差になっていると考えた。まあ、噂によるとソルがティアナのことを気に入っていて、事変後に“執務官に向けての修行”と称して彼女を連れて次元世界中の犯罪組織を潰して回る、という二人旅を一ヶ月間程度実施して、その時に戦い方のイロハだけではなく“いかにターゲットの情報を仕入れ、執拗に追いかけ、確実に仕留めるか”という術を徹底的に叩き込まれたから、彼女には骨の髄まで“ソル節”がある、とかなんとか。で、そもそもこの強化合宿、実はティアナと比べてへたれているスバルの為に計画されたというのが当初の目的だったらしい。メキメキ強くなっていくティアナがある日久しぶりに会ったスバルと模擬戦をしてみたら……というのが全ての始まり。あとはお察しください(つまりスバルはティアナと何か争えば大抵負ける、しかもボコボコにされるのが常)。「それでは転移しまーす。皆さん、目を閉じてくださーい」朗らかな声音でシャマルが全員に促すので、大人しく従っておく。「これからご案内する次元世界は、無人世界カルナージ。首都クラナガンから臨行次元船で約4時間となっております。クラナガンとの時差は7時間程度。一年中温暖な気候で、自然も豊か。想像してみてください、大自然の恵みである山の幸、海の幸を……お腹が空いてきたでしょう? それでは目を開けてください。閉じていた目を開けばあら不思議、そこはもう既にミッドチルダではなく異世界です」バスガイドやエレベーターガールみたいな案内口調のシャマルの言う通り、瞼を開けばそこは、ミッドチルダに存在するソル達の家ではない。視界の奥には新緑に溢れた森、足元は暖かな風に揺れる草原、美しい山々が広がっている。ミッドチルダからカルナージまで、住宅街の中にある一軒家の庭から無人世界まで一瞬で転移してきたのだ。「嘘? いつの間に……?」アインハルトが戦慄しつつ小さく震えている。彼女の驚きはある意味仕方が無いことだ。ノーヴェにですら、転移を行ったのが実際に誰だったのか、どのタイミングで行われたのか把握し切れていない。それ程までに緻密で無駄が無く、そもそも転移の気配や発動時の魔力すら感じさせなかったのだから。目を開けて周囲の風景を見なければ――目を閉じた状態であればまだミッドチルダに居ると思っていただろう。こんな芸当が出来るのはノーヴェが知る限り“背徳の炎”の連中だけ。しかしこの超高度な魔法技術ですら、彼らの力の一端でしかない。つくづく規格外な人達だ。「あのロッジが宿泊先だよ!!」ヴィヴィオが元気な声である方向を指し示している。つられるようにしてコロナ達が彼女の指の先を視線で追う。その先には二階建て、三階建ての建築物が並んでいた。宿であるロッジと、オーナーであるアルピーノ一家の母屋である。「まず先に荷物を置くぞ」皆にソルが指示するや否や、彼の肩の上に乗っていたフリードが――「キュックルー、キュクキュク……グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」いきなり飛び立ったと思ったら、轟音のような咆哮を上げつつ光に包まれてあっという間に巨大な飛竜へと姿を変え、そのまま山の方へ飛んで行ってしまい、その姿を消した。「……あれはアルザスの飛竜?」またしてもアインハルトが驚いている。滅多に見ることが出来ないアルザスの飛竜を眼にした――しかもソルのペットと思っていた子犬サイズの竜が、実は全長15メートルを越す巨大な体躯を誇っていた、となれば驚くのも当然だろう。「ご、ごめんなさい。私が使役してる竜なんだけど、こういう自然が多い所に来ると勝手に野性に帰っちゃうの。ご飯の時間になれば戻ってくるんだけど」申し訳無さそうにキャロがアインハルトに近付き謝罪していた。「キャロさんはアルザス出身の竜召喚師なんです」補足するようにコロナが付け足す。それらを尻目にエリオだけが一人何故か気まずそうな顔でフリードが飛び去った方向を見ていた。何かあったのだろうか? 一同がロッジに到着すると、建物の中から3人の人物が姿を現す。「「「いらっしゃいませ、ホテル『アルピーノ』へようこそ」」」一人は壮年の男性。長身であると同時に、服越しでも全身の筋肉が見事に鍛え上げられているのが分かる。かつては管理局地上本部で首都防衛隊の隊長を勤めた歴戦の勇士、ゼスト・グランガイツその人だ。その隣に佇むのは妙齢な美人。紫色の長い髪が特徴的で柔和な笑みを浮かべている。彼女もゼスト同様、かつては地上本部で平和の為に戦っていたエース級の魔導師。メガーヌ・アルピーノ。そして最後となるのは、メガーヌの実娘にしてゼストを義父として慕う少女。年齢はエリオ達と同じ。母譲りの紫の髪を母と同じように伸ばしている。ルーテシア・アルピーノだ。ノーヴェなどのナンバーズにとっては縁が深い人達。「久しいな、バッドガイ」「四日間、こんだけ人数居て大変だと思うが、世話になる」ゼストが一歩前に出てソルと握手を交わす。「来て早々で悪いけれど、皆部屋に荷物を置く前に部屋割りを決めましょう? もう決まってるならいいけど、一応クジあるから使う?」「男と女がちゃんと別々になってんなら、あとはなんだっていい」何処からともなく割り箸で作ったようなクジを取り出すメガーヌにソルがしれっと返事し、なのは達から盛大に文句を言われていたがいつものことなので気にしてはいけない。と、そんなやり取りをなんとなく見ていた所為か、ノーヴェはルーテシアとアインハルト達がそれぞれヴィヴィオに紹介されているシーンを見逃してしまった。「この4人の中で一人だけチビッコが居るけど4人共同い年」「なんですと!? 1.5センチも伸びたのに!! この裏切り者!!!」辛うじて確認出来たのは、ルーテシアの意地悪い発言に怒髪天となっているキャロだった。どうやらアインハルト達に対してルーテシアがツヴァイとエリオとキャロとの4人で同い年だと説明しているようだ。だがしかし、ルーテシアは年相応で、キャロは初等科と見間違えてもおかしくない、対してエリオとツヴァイが既に二十歳前に見えてしまうのはいいんだろうか?その後、ガリューの登場でアインハルト達がびっくりしたり、部屋割りで揉めたり揉めなかったり、なんやかんやあって荷物を部屋に置くまでが終了し、現在は動き易いトレーニングウェアに着替えてロッジの出入り口に集まった。これからまず行うのは食料の調達。初参加となるチビ達が心配であるものの、いざとなれば手を貸してやろうと意気込むノーヴェに構わず話が進んでいく。説明として話されたのは至ってシンプル。先程言っていたように、魔法無しで、この無人世界カルナージの豊かな大自然から食料を調達する。行動範囲などは一切制限されておらず何処に行ってもいいし、何をしてもいい。ナイフや釣竿などの道具使用は可。ルール無用なので他の人から食料を奪うも当然可能。奪って逃げてもよし、叩き潰してからゆっくり奪うのもよし、二名が争っている瞬間を第三者が漁夫の利するのもよし、本当になんでもありだ。「今回初参加するヴィヴィオの友達は個人でじゃなくチームを組ませることにしよう。いくらなんでも初参加でこれは厳しい」人型の形態でタンクトップにジャージのズボンという格好をしたザフィーラの提案に誰もが頷く。それからフェイトがノーヴェとヴィヴィオの顔を覗き込みながら言う。「じゃあノーヴェとヴィヴィオの2人で3人の面倒見てくれる?」「最初からそのつもりです」「皆に色々教えちゃうよ!」待ってましたとばかりに二人は返答する。「心の準備が出来た者から出発してええで。制限時間は日没まで……ということで、私は先に行くでー」はやてはこれからジョギングでも行くような軽い口調でそう言うと、籠(農作業をする人がよく使っている竹を編んで作ったもの、『背負い篭』のこと)を背負い砂埃を舞い上げ物凄いスピードで走り去っていく。高速道路で走る乗用車並みだ。あれで魔法を使っていない純粋な身体能力だというのだから、とっくの昔に人間辞めてる。「俺も行くかな」「僕も行きます」「アタシも行くぜー!!」トップバッターのはやてに続き、次々と籠を背負った者から猛ダッシュ。蜘蛛の子を散らすようにそれぞれが好き勝手な方向へ。きっと彼らが帰ってくる頃には籠の中にたくさんの食料をこれでもかと積んでくるに違いない。そしてロッジの前に残されたのは、ヴィヴィオとノーヴェ、今回初参加となるコロナ、リオ、アインハルトの5人だった。「いきなり食料は現地調達なんて言われて、何をすればいいのか分かりません」不安げな表情で訴えてくるコロナ。リオとアインハルトも同じなのか、どうしたらいいのか分からない、といった体だ。それはそうだろう。普通だったらこんなことさせないし、させるとしてもインストラクター役を誰かが勤めて最初から教える必要がある。サバイバル経験など無いに等しいチビッコ達の不安は当然だった。魔法の使用禁止も不安に拍車を掛けているのだろう。しかし安心して欲しい。この場にはヴィヴィオという強力無比な助っ人が居るし、何度か合宿に参加しているノーヴェも居る。これだけで食糧事情など勝ったも同然で、特にそんな心配する必要など無い。「そんな泣きそうな顔すんなって。結構なんとかなるからもんだから」チビッコ達の頭の上に手を載せポンポン叩いてからヴィヴィオに向き直る。「まず何処で何を採るかだな。川の魚とか森の中の果物、山菜が妥当だと思うが」「ちょっと豪華にするなら鳥とか鹿、ウサギだね。ただ、あんまり良いの採るとヴィータさん、アルフさん辺りに襲われやすくなるのがネックだなぁ」後半の内容にノーヴェは顔を顰めた。去年、色々と苦労して鹿を仕留めたので今日の夕飯は鹿の焼肉だヤッホーと思ったら、横から突然アルフが跳び膝蹴りをかましてきたのを思い出す。結果は勿論、そのまま戦闘となり敗北、鹿肉を奪われた。――『ヒャハハハハ!! 恨むなら食料を奪われる己を恨みな脆弱者がぁ!! 肉ウマー!!!』「あの人達、自分の分はしっかり確保しておく癖に強奪しにくるからな」「他人の食い物は自分のものの3倍美味しく感じる、っていう食いしん坊万歳だから」はた迷惑な食い意地の張り方には困ったものだ。「それに引き換え男性陣はまだマシだよな。向こうが持ってない食材こっちが持ってるとトレードしてくれる」「男性陣はエリオお兄ちゃんを除いて皆燃費良いし、そこまで食い意地張ってないし」こう考えると、食い意地張ってるヴィータとアルフは前科があるので要注意。エリオもかなり怪しい。他の男性陣は安心出来るが、残りの女性陣は未知数である。小耳に挟んだ話によると、女性陣の間でかなり泥臭い奪い合いがあるらしいが、幸い今までにそのような場面にぶつかってはいない。「とりあえず移動しながら考えるか。サバイバルに必要な道具一式はアタシとヴィヴィオが持ってくから、コロナ、リオ、アインハルトの3人は食料入れる籠持ってくれ」「日没まであと7時間くらい、明るい内に採れるだけ採るからそのつもりで。もし誰かと遭遇したらとにかくマッハで逃げよう。じゃあ、レッツゴー!!」拳を握りに高く掲げたヴィヴィオに従い、行軍が始まる。「あ、ラッキー、キノコの群生地発見!! コロナ、リオ、これから私が指示する種類のキノコだけ拾って」山の中へ踏み込み、碌に整備されていない藪の中を突き進み、道なき道を歩いて1時間経過。薄暗い森の中で、早くも、そして運良く誰にも発見されておらず手付かずとなっていたキノコの群生地を発見し、ヴィヴィオはすぐ傍に居た友人2人に指示を飛ばす。よく見渡せば少し離れた場所に山菜も発見した。これ幸いとノーヴェがアインハルトを伴って採取に向かう。指示に従って特定のキノコのみを拾っては籠に入れていたコロナとリオだったが、途中でリオが指示されていない種類のキノコを指差しながら訊いてみる。「ヴィヴィオ、これは食べられない? なんだか大丈夫そうだけど、やっぱり毒あるの?」見た目は傘の部分が赤銅色をした舞茸のようなキノコだ。「それ? 天ぷらにするとすっごく美味しいけど」「え!? 食べられるの? じゃあこれも持ってこうよ」美味しいのに何故採らないのか分からない、とばかりにコロナが反応を示す。けれど、返ってきたのはこんな言葉。「毒あるよ。致死毒じゃないから死なないけど、死ぬんじゃないかってくらいに苦しくてのた打ち回る。去年ヴィータさんが『食ったら美味いかもしれないじゃないか』って言って食べて悶絶してた。私も好奇心に負けて食べたら美味しかったけど10分くらいのた打ち回って、結局パパに解毒剤精製してもらう破目になった」「「……」」伸ばしかけていた手を無言で引っ込めるコロナとリオの代わりに、少し離れた場所でアインハルトと一緒に山菜を摘んでいたノーヴェが口を挟む。「お前らの言いたいことは分かる! なんで毒キノコって分かってて食うのかとか、ヴィータさん頭おかしいとか、ヴィヴィオも好奇心に負けんなバカとか去年皆に散々言われてたし!」アインハルトも思わず山菜を摘む手を止め、呆然とヴィヴィオを見つめる。「いやー、やっぱり毒キノコは致死毒じゃないからって食べちゃダメだね。いくら美味しくてもその後地獄味わうし。『く、毒とはぁっ!?』って」「当たり前だ! あの後旦那にしこたま怒られただろうが!!」「ノーヴェさんに同意します。毒キノコを興味本位で食べたら誰でも怒りますよ」「あたしもそう思う」「ヴィヴィオ、無茶しちゃダメだよ」そんなこんなで山菜とキノコを手に入れたヴィヴィオ達は、次の食料を求めて更に奥地へと踏み込んでいく。キノコや山菜はもう十分採れたから、今度は肉や魚を手に入れようということになって水辺に向かう。「川とか湖などの水辺は、そこに住む魚などの水棲生物は当然としてその他の動物達が集まってくるから、狩りの時は絶対に押さえておかなきゃいけないポイントなんだよ」「まーその分、他の面子と顔を合わせ易くなるからこっちが獲物にされちまう可能性もあるがな」ナイフで木の棒を削って即席の銛を作ったヴィヴィオが自慢げに話し、ノーヴェが周囲を警戒するようにキョロキョロしながら補足した。5人が目指しているのは森の中に存在する川。水深は子どもでも足が着く程度の深さで川幅は大きく流れも穏やか、魚以外にもエビやカニなどの甲殻類が生息しているので食料調達場所としてはかなり優秀だ。また休憩するのももってこいの場所でもある。整備されていない山道、獣道、藪の中、森の中を数時間ずっと歩き回っていたので、皆顔には出していないが疲労もそれなりに抱えていた。「到着したら少し休憩しよう。なんか捕まえて小腹を満たすのもいいな。釣りやったことあるやつ居るか?」「私あるよ! 結構得意! でも釣りより銛投げた方が速くて正確!! あとは素潜りの手掴み!!」「ヴィヴィオには聞いてねーって」改めて聞くまでもないが相変わらず野生児並の能力である。サバイバルに特化した英才教育の賜物だ。きっと彼女は石器時代レベルの生活を強いられても平気な顔して生き延びるだろう。やはり現代っ子である3人(と言うか都会育ちの女の子)は共に釣り未経験。当然、銛で魚を獲るなんてやったことないし、素潜りの手掴みもない。「難しくないからちょっとやってみるか。それで釣れれば飯ゲットだ」持ってきたサバイバル道具一式から釣竿を1本取り出し、まず手本を見せながら釣りのやり方を一から教えていく。釣り餌は当然、川岸の岩を引っ繰り返した時によく見る虫(水生昆虫の類で、通称川虫とされるらしいがノーヴェは詳しく知らない)。最初は女の子だけあって虫がダメらしく気持ち悪がっていた。自分も初めてソル達に釣りを教えてもらった時はそうだったなと懐かしく思いつつ、心を鬼にして涙眼になっている3人に自分の分は自分でやらせた。おっかなびっくりしながら釣り餌の虫と格闘している3人を尻目に、ヴィヴィオはトレーニングウェアを脱ぎ捨て水着姿になると(服の下に着ていたらしい)、何の躊躇もなくザブザブ川に入り、銛を水中に向かって投げる。川の底に銛が突き刺さったのを確認してから持ち上げると、銛に身体を貫かれた川魚がビチビチしていた。「獲ったどー!!」「ヴィヴィオさん、凄い」「ノーヴェ師匠、あたしもヴィヴィオと同じのがやりたいです」「出来ればわたしも釣りより銛を使った方が……」「あっちはあっち、こっちはこっち。今は釣り針に餌をつけることに集中な。おいヴィヴィオ! これ見よがしにやるな、3人を釣りに集中させろ!!」「また獲ったどー!!」「だから少し静かにしてろっての!!」「あ、来た、よ、よいっしょ!!」数十分後、始めた頃は戸惑っていたものの、最初の1匹目が釣れるとコツを掴んだのかすっかり釣りを覚えていた。今もコロナが4匹目を鮮やかに釣り上げたところである。「と、獲ったどー!!」恥ずかしそうにしながら獲った魚を掲げて叫ぶコロナ。「恥ずかしいなら言わなくていいんだぞ、それ」「……ノーヴェさん、釣りって楽しいです。教えてくれてありがとうございます」「どういたしまして」どうやら釣りは彼女の性に合っていたらしい。釣り餌の川虫を手にして半泣きなっていた最初の姿は見る影もなく、釣り針から魚を外す動作も淀みない。釣りを教えたノーヴェとしても、コロナが楽しそうにしてくれるのは喜ばしいことである。しかし現在釣りをしているのはコロナのみ。他の2人は、視界の端で「獲ったどー!!」を何度も繰り返すヴィヴィオに触発されたのか「やってみたい」と言うので、じゃあやってみるだけやってみなさいと送り出したら聞こえてくるのは「獲ったどー!!」の声。水中の魚に向かって銛を投げる、やってることは一言で纏めればこれで終了するが、木の枝で作った銛に魚が2匹も3匹も貫かれている光景を見ると、高度な魔法と機械文明の中で生まれ育った者にとってはやけに原始的な姿に映る。獲った魚を串に刺し、焚き火で焼きながら様子を窺っていたら、やがて疲れたのかヴィヴィオが喜色満面のリオとアインハルトを伴って岸に上がった。「よし、そろそろ魚焼けたから休憩しよう」最初の方に獲れた魚の焼き具合が丁度良くなったの焚き火に集まるようにノーヴェが促し、チビッコ達が集まってくる。皆で火を囲み、一人ひとりに焼き上がった魚を串に刺さったまま渡す。「いっただきまーっす!」大きく口を開け、真っ先にかぶりつくのはやはりヴィヴィオだ。他のチビッコ3人がそれに倣うように見よう見真似で魚に食いつく。「今は塩しか持って来てないからシンプルな味付けだけど、どうだ? 自分で獲った魚は?」「美味しいです」「うん。家で食べるのと全然違う」素直に感想を述べるコロナとリオだったが、アインハルトは沈黙したまま自分が噛り付いた焼き魚をじっと見ていた。「どうしたアインハルト? ちゃんと焼けてなかったか?」「は? あ、いえ、しっかり中まで焼けてて美味しいです。ただ……」「ただ、何だよ? 随分深刻そうな面して」マズイと言われたどうしようと思っていたノーヴェは内心で安堵してから自分の魚に食いつきながら続きを促す。「ただ私は、今までいかに自分が無知だったのか思い知っていたんです」「「「「?」」」」彼女を除いた全員が頭の上に疑問符を浮かべる中、告白は続く。「私は今日此処に来るまで、ひたすら覇王流を磨くしか知りませんでした。だから当然、食べられる草やキノコの見分け方、魚の獲り方すら知りません」「いや、ミッドチルダで普通に生きてればサバイバル技術なんて必要無いだろ」「サバイバル技術が直接的な強さに結び付いてる訳でも無いから、そんな風に自分が無知だなんて思わなくても」一応フォローを入れてみるが小さな覇王はゆっくり首を振る。「視野が狭かったんですよ。覇王流は私の存在理由で、私にはそれしかないと思っていた、いえ、それしかないと思い込んでいたんです……それ以外のものには全く眼を向けてこなかった」終いには俯いてしまった少女の様子からあることを察したノーヴェは、下手な慰めはかえって逆効果になると感じ、自分の頭をポリポリかきながら問い質す。「もしかして旦那に言われたこと、気にしてんのか?」「……」「なるほどね」沈黙を肯定と受け取り溜息を吐きつつ、ソルの言葉を思い出していた。――『はっきり言って聖王とか覇王とか冥王とか、古代ベルカの王とかどうでもいいだよ。そんなもんは俺にとっちゃ過去の遺物だ』――『テメェが覇王の血と記憶を受け継いでる? ヴィヴィオが聖王オリヴィエのクローン? たとえそれらが全て紛れもない事実だとして、だから何なんだ?』――『知るか。このガキ、マジでただのガキじゃねぇか。犯罪組織の一員でもなきゃ違法研究者でもねぇ。だったら時間の無駄だ無駄。先祖の記憶がどうとかほざく阿呆に付き合ってられる程暇じゃねぇんだよ』「ねぇノーヴェ。パパはアインハルトさんにどんなこと言ったの?」「アインハルトにとって、存在意義を揺るがすようなこと」「む、何それ! どうせパパのことだからアインハルトさんの覇王に関することについて『下らねぇ』とか『興味無ぇんだよ』とか言ったんでしょ!!」「なんでそんな正確に分かんの? ヴィヴィオ、お前はエスパーか?」「だって私のパパだもん!!」プップクプーと頬を膨らませるヴィヴィオの察しの良さに若干驚くと同時に、彼女は彼女なりに新しく出来た友人の気持ちを理解しようと必死になっていることに気付き、なんだか嬉しくなってくる。(本当に良い子に育った。旦那達が過保護になるのも分かる気がするよ)「もうこうなったら!」やおらヴィヴィオが立ち上がり、左手を腰に当て、焼き魚が刺さっている串を右手で頭上に掲げて叫び出す。「明日の模擬戦、皆でパパのことコテンパンにしちゃいましょう! 私達が相手なら舐めてかかってくるだろうから十分付け入る隙があるだろうし、ガツンと一発ぶち込んでやろう!!」「「「えええええええ!?」」」「……!?」狂っているとしか思えない発言にノーヴェとコロナとリオが死を宣告されたかのような絶望的な表情になり、アインハルトが弾かれたように顔を上げてヴィヴィオを見る。「大丈夫。どうせパパ、私達相手だとリミッター付けるから。それにエリオお兄ちゃん引き込めれば余裕っしょ。いっそのこと、二十歳未満の人全員対パパって構図に持っていってボコればいいし」「返り討ちにされて全員揃って焼き土下座する未来しか幻視出来ないぞそれ」どう考えてもただのとばっちりにしか思えず冷静に突っ込みを入れるノーヴェだが、その言葉など耳に入っていないのか、ヴィヴィオはアインハルトの手を取ってやや強引に立たせると、彼女を真正面から見つめつつ力強く告げた。「私はアインハルトさんが何に対してどれだけ苦しんでいるのか、それは分かりません。けど、胸の内でもやもやしてるのを吹っ飛ばすには、誰かをぶん殴ってスカッとするのが一番です」喧嘩好きの不良みたいな暴論を吐く彼女にアインハルトは眼を白黒させている。が、彼女はそんな戸惑いなど構わず続けた。「だから、ぶっ飛ばしましょう。“背徳の炎”を」「……はい」ちなみに。腹ごしらえを終えてそのまま川で少し遊ぶことになり、その際ノーヴェはアインハルトにちょっとしたお遊びのつもりで『水斬り』という水の中で出来る打撃のチェックを教えてあげたのだが……(これやってればわざわざ釣りする必要無かったんじゃ……)拳圧によって川の水が割れ、魚がトビウオのように水面から顔を出し、哀れにも川岸に打ち上げられた魚がピチピチしている。今更言うに言えず、ヴィヴィオからの突っ込みもないので、一人気まずい思いを胸に抱えて黙っていることにした。後書き更新が遅れてしまいました。すいません。とりあえずギルティ新作のロケテ行ってきましたよ。初日に、しかも先頭の方に並べたのでオープニングイベントにも参加出来ました。アレって確か30人と少しが参加出来たのかな?石渡さんが登場して色々と喋ってました。「今回のロケテの規模は正気の沙汰じゃないwww」「ぶっちゃけロケテのキャラ7人は出来上がった順です(使用可能キャラはどういう基準で選ばれたのかという質問に対して)」とかなんとかwww短い時間のオープニングイベントでしたが、凄く楽しめましたね。ちなみに私、1回目はシングルプレイを、2回目以降(勿論最初から並び直します)は対戦プレイをやらせてもらいました。お土産の団扇もソル用とカイ用で2つもらいました。あんまり此処に書きまくるとネタバレになるので控えるつもりですが、戦闘前や覚醒必殺技時に出てくるアニメーションが格好良いのなんのって!!ついにドラインGG2仕様キター!! でも若干デザインがGG2設定資料集と違う!?ということで、期待で胸をドキドキさせつつ稼働日を待っています。ではまた次回!!