食後、ソルは愛娘の一人にして末っ子であるヴィヴィオを呼び寄せた。「お前に渡しておくものがある」「渡しておくもの?」何だろう? と首を小鳥のように可愛らしく傾げる少女をそのままに、ソルはヴィータに目配せする。視線を受けたヴィータはこくりと頷くと、ダイニングから出ていく。「え? 何? 今のやり取り?」疑問を口にするヴィヴィオが父に問うが返答はない。何を企んでいるのか気になって母であるなのはや他の面子の表情を窺うが、皆ニヤニヤと笑っているだけ。「お待ちどー」程なくしてヴィータが綺麗にラッピングされた箱を持ってきてはソルに渡す。と、彼は受け取った箱を今度はヴィヴィオに手渡した。「開けてみろ」「ば、爆発とかしない? 開けた瞬間ドカンッ、って」「しねぇよ! なんでそういう風に思った!?」「だってヴィータさんが持ってきたし……中にフラググレネードが仕掛けられてたり、箱が勝手に動き出して噛み付いてきたり――」「いいから開けろ」頭痛を堪えるように片手で頭を抱えながらソルは先を促す。後ろでヴィータが「アタシを何だと思ってんだゴラァッ!!」と暴れようとしたが、ザフィーラに羽交い絞めにされた後、ソルが懐から取り出したペロペロキャンディーを口の中に突っ込まれて黙る。ヴィヴィオは何故かやたらビクビクしながらゆっくりと、さながら爆弾を解体するような慎重な手つきでリボンを解き包装紙を剥がし、漸く箱を開けた。そして、「うさぎ、のぬいぐるみ……?」箱の中に入っていた物品に眼を丸くする。うさぎのぬいぐるみは突如フヨフヨ浮き始めると、自身を閉じ込めていた狭い箱から抜け出し、驚いているヴィヴィオの肩の上にちょこんと乗っかった。何これ? と疑問符を頭の上に浮かべ視線をぬいぐるみから父に向けると、ソルは優しく微笑んだ。「お前はもう4年生になったし、魔法も基礎がしっかり出来てきたからな、進級祝いってことで専用のデバイスをプレゼントだ。勝手に動くのは半自律型だからで、なかなか面白いだろ?」ぬいぐるみ部分はあくまで外装で本体は中のクリスタルだ、と続ける。「私専用の、デバイス?」未だにうさぎのぬいぐるみが自分のデバイスだという自覚が沸かないのか、暫しポカンとしている彼女であったが、背後からなのはがクスクス笑いながら頭を撫でてあげた。「いいなぁヴィヴィオ、パパからプレゼントだって。羨ましいなぁ~」それを皮切りに、自分を取り囲んでいた誰もが「進級おめでとう」「良かったね」と告げてくる。やがて徐々に『自分専用のデバイス』を事実として認識し、嬉しくなって父の胸に飛び込む。「パパ、ありがとう!!」「礼なら俺だけじゃなく、他の連中にも言ってやれ。そもそもお前にデバイスを持たせることを許可したのはなのはだし、制作は俺だけじゃねぇ。半分はヴィータが作ったようなもんで、半自律型になったのはアインのアイディアで、うさぎの外装とデザインはシャマルだ」「ママ、ヴィータさん、アインさん、シャマルさんありがとう!!」ソルから離れて四人の顔を順に見ながら笑顔でお礼を言う。「私も今のヴィヴィオくらいの年でレイジングハートと出会ったし、ね」「時期的にそろそろ良いんじゃないかと思ってたからなー」「ちょっとした遊び心で半自律型を提案したんだが、気に入ってくれると嬉しい」「半自律型なら外装があった方が良いと思って。本当はソ竜にしようと思ったんだけど本人から猛反対を受けてうさぎのぬいぐるみになったの。大切にしてあげてね」頬を掻きながらちょっと照れ臭そうななのは、ペロペロキャンディーをペロペロしながら手をヒラヒラさせるヴィータ、パチッと可愛らしくウインクするアイン、悪戯っぽく舌をチロッと見せて笑うシャマル。「よし、じゃあ今から起動テストをやってみろ。それと、まだ名前は決まってねぇから後で考えてやってくれ」「えへへ。実はもう名前とか決まってたりして」正式名称は『セイクリッド・ハート』で、愛称は『クリス』とヴィヴィオは嬉しそうに言う。皆は良い名前だと褒めたが、唯一ソルだけがカイの『セイクリッドエッジ』を思い出し渋い顔になる。が、正直どうでもいいので皆放っておいた。「それじゃあ早速……セイクリッド・ハート、セーットアーップ!!」背徳の炎と魔法少女ViVid COMBO2 王と王の邂逅――というやり取りがあったのが二日前。昨晩“覇王”を自称する頭がオメデタイ少女を叩きのめし、その日の内に少女をノーヴェに半ば強制する形で押しつけたソルは、現在お供にヴィータとアギトを連れて(単なる暇潰し)ティアナとスバルがルームシェアしている部屋に訪れている。「ふん」ソルは自身の両サイドに座るヴィータとアギトがお茶請けの煎餅をバリバリ噛み砕く音を不快に思いながら、相変わらず他人から見たら不機嫌にしか映らない仏頂面で面白くないと言わんばかりに鼻を鳴らす。「ヴィータ、アギト、今の話を聞いてどう思う?」正面に座り緊張で身を縮ませている自称“覇王”の少女を顎でしゃくって両隣に促す。促された二人は見た目はちんちくりんの子どもだが、共に古代ベルカの遺産である“夜天の魔導書”と“融合騎”。何か気になる点でもないかと思って意見を聞こうと思ったのだ。しかし、返ってきた答えは期待を容易く裏切るもので。「いや、別に。覇王とか言われても、だから? って感じだし……」「旦那。なんかアタシらに期待してたみたいだけど、アタシらが昔の記憶ほとんど喪失してんの忘れてない?」散々お茶請けを食い荒らした後に満足そうな顔で茶を啜りながら言う二人に、ソルは「じゃあ何しに来た!?」と突っ込みたかったが「暇潰し」と返ってくるだけなので必死に自制する。そもそもこの二人に何か期待するのが間違っていた。「で、結局テメェはどうしたいんだ?」鋭い眼光を放つ真紅の瞳が、アインハルトの虹彩異色を冷たく見据える。怯えたように右眼の紺と左眼の青を揺らせる少女が出来たことと言えば、ソルの眼を拒むようにただ俯いて黙っていることだけだ。「はっきり言って聖王とか覇王とか冥王とか、古代ベルカの王とかどうでもいいだよ。そんなもんは俺にとっちゃ過去の遺物だ」「お前だって今の時代の人間にとっちゃ過去の遺物みてーなもんだろが。その手の文献に本名で載ってる癖に」ゴキンッ!!余計な茶々を入れて話の腰を折るヴィータの横っ面にソルの遠慮の無い肘が入って黙らされる。「今のは姉御が悪い」アギトが呆れたように批評した。ついでに言えば、ソルに加えてアギトもヴィータも『過去の遺物』なので、こいつらが人のことをとやかく言うのは何か間違ってる気がしないでもない。僅かに顔を上げ蚊の鳴くような小さな声で「文献? 本名?」と呟いたアインハルトを睨むソルの眼が、すぅっと細くなり放たれる圧力が増す。深入りすると殺すぞ? という意味だ。「テメェが覇王の血と記憶を受け継いでる? ヴィヴィオが聖王オリヴィエのクローン? たとえそれらが全て紛れもない事実だとして、だから何なんだ?」アインハルトの血筋や記憶に関して、ソルは本当に心の底からどうでもいいと思っている。所詮は見ず知らずの赤の他人。自分達の与り知らぬ場所で勝手に“覇王”と名乗っていればいいし、夜な夜な通り魔染みた喧嘩もやりたいだけやればいいと考える。だが、そんな下らないことにヴィヴィオを巻き込もうとしているのであれば話は別だ。手出ししようというのならば絶対に容赦しない。確かにヴィヴィオは聖王オリヴィエのクローンだ。忌まわしい技術と狂った科学者によって生み落とされた人造魔導師。この世界に生を受けてから間もなくしてソルの保護にあった為、幸い戦争兵器として悪用されることはなかったが、彼女が持つ遺伝子の価値を狙っている輩が存在しないという訳では無い。かつてソルは己に誓った。この娘を、あえて自分達の子どもとして育てよう、と。たくさんの愛情を注いで幸せにしてあげよう、と。決して自分の生まれに負けないように、むしろ自身を誇れるような強くて逞しい子になって欲しいと願いを込めて。このように考えているのは何もヴィヴィオのみに対してだけではない。自分も含めた多種多様の“訳あり”を眼にし、長い年月を生きてきたソルにとって、彼女のような“訳あり”の子どもに対する接し方は当然の成り行きと言えた。人であろう人でとなかろうと、全ての生命は己の生まれを否定することは出来ない。しかし、たとえ穢れた欲望の犠牲となって生まれた命だとしても、生き方くらいは自分の意思で自由に選べることが許されるべきだ。その意思を、カビ臭くて下らない大昔のしがらみが邪魔立てするというのなら、全力で露払いしてやろう。――という風に、気合を入れていたのは昨日までの話。なんだが馬鹿馬鹿しくなってきて、ソルは盛大に溜息を吐くと視線をアインハルトから外し、愛弟子であるティアナに向かって「コーヒーお代わりくれ」と告げて空になったマグカップを放り投げた。昨晩も感じたことだが、やはり眼の前の少女は文字通りの意味でただの子どもだ。ツテというツテ、コネというコネを使って昨晩の内に戸籍から始まるありとあらゆる個人情報を調べ上げたが、背後関係に後ろ暗いものは存在しないし、血筋も覇王の子孫というのは間違いない。記憶を継承しているというのには少々驚いたが、よくよく考えればヴィヴィオもオリジナルの記憶をたまに思い出すことがあると聞いた。恐らく古代ベルカに生きていた連中は、後世に遺伝子以外のものを残したかったらしい。厄介な連中だ。(過保護だな、俺も)随分と長い間現場から離れてしまったからか、久しぶりに赤の他人から禁句を聞いてしまったからか、昨晩はついカッとなってしまった。冷静になって観察してみれば、最初に危惧していたヴィヴィオを害する存在とは程遠い。まあ、過剰反応してしまって悪いと思うが、相手にも責任の一端はあるので絶対に謝らない。と、意外に子どもなソルだった。「お待たせしました」「おう」二杯目のコーヒーを持ってきてくれたティアナからマグカップを受け取り、一口啜る。インスタントの安っぽい香りと酸味が口の中と鼻腔をくすぐったが、インスタントコーヒーは人間だった頃の科学者時代に常飲(徹夜用)していたので文句を言うつもりはない。コーヒーは不味かろうが美味かろうが眠気を飛ばしてくれるので文句を言わずに飲む、と昔から考えているのが理由だ。マグカップに口をつけながら、正面に座る少女を今一度観察するように眺める。「……」俺に喧嘩を吹っかける時点で頭が悪いことは確定しているが、悪い奴ではなさそうだ、というのが最終的にソルが出した結論だった。結局、その真意を確認することは出来なかったが、どうせ大した内容ではないだろう。気に留めるまでもない。さて、ではこの問題をどうやって片付ければいいのだろうか?この段階になってくると生来の面倒臭がりな性格が恨めしい。はっきり言ってこの少女は無害というか、気にするのも無駄なだけの矮小な、言ってみれば路傍の石も同然だ。転んで腹を立てて蹴り飛ばしても、それはその時限りの話でいつまでも蹴り続ける程暇な人間ではないつもりだ。ならばとっととこの場を去るべきだと思うのだが、どうもスバルとノーヴェの二人はそう思ってはいないらしい。アインハルトの左隣に座るスバルを見れば、彼女はソル達が来てから終始手を胸の前で組み合わせて瞼を閉じ何かに祈っている。スバルの反対側の席に座るノーヴェは、まるで捨て犬を拾ってきて両親に飼いたいと懇願する子どものような眼でソルを見てくる。唯一ティアナだけが『私は執務官なので』と言わんばかりの鉄面皮で一切の感情を巧みに隠している。(……釣れるか分からんが、やってみるかな)一つ思案してから残っていたコーヒーを一気飲みし、空になったマグカップをテーブルに置くと立ち上がった。「もう此処には用が無ぇ、帰る」バッと顔を上げるアインハルト、驚いたように眼を見開くスバル、信じられないといった顔をするノーヴェ、怪訝な表情になるティアナ。「旦那、アインハルトのことは――」「知るか。このガキ、マジでただのガキじゃねぇか。犯罪組織の一員でもなきゃ違法研究者でもねぇ。だったら時間の無駄だ無駄。先祖の記憶がどうとかほざく阿呆に付き合ってられる程暇じゃねぇんだよ」ノーヴェが食いついてきたことに内心ほくそ笑む。「ティアナ、スバル、ノーヴェ、このガキはお前らの好きにしろ。だが、責任は必ず取れ」いくつもの視線が背中に注がれるのを自覚しながら玄関に向かい、ドアの前で一旦止まってから最後に釘を刺しておく。「それと、これから先、もしヴィヴィオが泣くようなことがあったら」首を巡らし肩越しに彼女達を睨みながら告げる。「今度はマジで潰す……連帯責任でティアナ達も、な」こんなもんかな、と内心で自身の言動を評価しながらソルは部屋を出ていった。静まり返った室内の沈黙を破ったのは、耳の穴に小指を突っ込んでほじっていたヴィータである。「首の皮一枚繋がったみてーだな。良かったじゃん……あ、ティッシュ忘れた」「はいティッシュ」「おうサンキュ」仕方が無いなとアギトがポケットから取り出したポケットティッシュをありがたく受け取って小指を拭う。そして使用済みのティッシュを丸めると、火の法力を発動させて手の平の上で焼き尽くす。紅蓮の炎に包まれて一瞬で蒸発するティッシュ。「……っ!」突如発生した炎を見て身体を強張らせるアインハルトのリアクションに、ヴィータは意地の悪い笑みを張り付かせると手の中の炎を握り潰し、からかう口調で言う。「火が怖いか? 昨日のソルを思い出すんだろ? ま、無理はねーわな。あいつが現役時代に処分した犯罪者の大半が炎にトラウマ持つって聞くし」炎を見ると、自分の肉が焼け焦げる痛みと臭い、斬り落とされた手足を眼の前で炭にされた瞬間をフラッシュバックするかららしい。少女からの返答はない。「アインハルトっつったか。お前さんはこれに懲りたらアタシらの前でクローンとかそういうワードは使わねーこった。そういうのにあいつは、つーかウチの家族は人一倍敏感だからな」まったくだ、と言わんばかりにアギトが同意を示す。「皆旦那に似て短気だし」「そーそー」「血の気多いし」「ソーソー」「すぐ手が出るし」「さっき肘食らったもんなアタシ」「いや、あれはどう考えても姉御が悪いでしょ」「クッ!」「何が『クッ!』だよ!? いつも旦那の神経逆撫でするような言動してるから痛い目に遭ってるんじゃん!! いい加減学習しろ!!」「学習って、何を?」「ダメだこの人!? 鶏より物忘れ酷い!!」即席の漫才が披露されたことによって場の空気が徐々に弛緩してくる。スバルとノーヴェが安堵の溜息を漏らし、肩の荷が下りたとばかりにティアナが苦笑。話題の渦中にあったアインハルトは過度の緊張から解放されて、テーブルに突っ伏した。「先生がアインハルトを『ただのガキ』と評したということは、今後の行動に制限は無いも同然ね。“覇王”として聖王オリヴィエのクローンに近付くことは許されないけど、アインハルト・ストラトスという一人の女の子としてヴィヴィオの友達にならなれるんじゃない?」「そう考えるとほとんどお咎めなしなんだよね」「よく分からねぇけど、旦那の機嫌が悪くなくて良かった」ティアナの言葉にスバルとノーヴェが頷いた。皆、それなりに気を張っていただけあって、あの“背徳の炎”にしては甘いと言わざるを得ない温情ある措置に満足しているようだ。「で? これからどうすんだ? 通り魔兼ストリートファイターは続けんのか?」何かとてつもなく悪いことを企んでそうな顔でヴィータがアインハルトに問う。問われたアインハルトは顔を上げると疲れたように首を振った。「いえ。強さが何か知りたくて、覇王流が最強であることを証明したくて実力ある方々に野試合を申し込んでいましたが、もう終わりにします」「賢明だな。もし続けるっつってたら、そこの執務官殿がお前を暗くて狭い所に連行しなきゃいけなかった」ヴィータがケタケタ笑うのを尻目に、アインハルトが何度も瞬きをしながらティアナを見る。対するティアナは悪びれもせず「物分りがいい子で良かったわ」とのたまう。油断も隙も無い執務官であった。「それにしても“覇王”ねぇ~。アタシらは全っ然ピンとこねーんだけど、ヴィヴィオはどういう反応すんだろ?」腕を組んで考え込むアギトにヴィータがどうでもよさそうに応じる。「知らね。こればっかりは実際に会わせてみるしかねーんじゃねーの? 人見知りする性格じゃないけど、如何せんソルが子育てするとネジ一本外れるからな」「でーすーよーねー」シンに始まり、なのはとフェイトとはやて、ツヴァイ、エリオ、キャロ。どいつもこいつも独特の感性を持っていて常識に囚われない――というか時に常識を投げ捨てる――言動をする。末っ子にあたるヴィヴィオも例外ではない。『ただの人間には興味がありません』や『好きな異性のタイプは鋼の筋肉の持ち主』といった発言で分かる通りぶっ飛び具合は最たるもの。自分の周囲に居る人間の半分以上が人外魔境だし、その中でも男性陣(ソルやザフィーラ、細身だが脱いだら凄いユーノやカイ、シンなど)は皆が皆鍛えているのでマッチョだから普通の一般人に興味を持てないのかもしれないが、交友関係には普通の女の子であるコロナやリオが居るので、何処まで本気か分からない。引き取られて以来ソルの後ろをカルガモの雛のようにチョコチョコついてきていた女の子は、今ではすっかり最凶パパと組み手するくらいに逞しく成長していた……逞し過ぎるくらいにマジカルでフィジカルな魔法少女になってしまって、なんかもう既に色々な意味で手に負えない。「暇潰しっつー名目で此処まで面白半分に首突っ込んだ以上、ご対面までは一応立ち会うとすっか」「毒を食らわば皿まで、か。変な化学反応起こして爆発しなきゃいいけど」その後、ヴィヴィオに『放課後って暇? 最近格闘技やってる子と知り合ったからちょっと組み手やってみない?』というメールをノーヴェが(じゃんけんで負けた)送ってみると、すぐに『やるやる!!』と返信されたので、ノーヴェが所属する救助隊が訓練に使ったりするアラル港埠頭の廃棄倉庫区画に集まることになった。で、実際にアインハルトとヴィヴィオを対面させる為に現場へ赴いて。「なんでお前らまで揃ってんだ!? どっから沸いて出た!!」廃棄倉庫区画ということで周囲には自分達以外誰も存在しない為、ノーヴェが周りを気にしない大声で眼の前に集まっている馴染みの人物達に問い詰める。そこに居たのはヴィヴィオだけではなくその友達のコロナとリオ、加えて教会組のセイン、セッテ、ディード、オットー、そして最後に何故かナカジマ家の面子であるチンクとウェンディとディエチまでが居た。コロナとリオはヴィヴィオの友達だから放課後に行動を共にするのはまあ別にいいとして、何故今日のことを碌に知りもしない教会組の四人とナカジマ家の三人が此処に居るのか理解出来ない。「いや~、だってほら、なんか今回の発端ってヴィヴィオと皆でキャッチボールしてたアタシらの所為みたいじゃん。だったら見届けるべきかなと」「先程ソル様からメールでご命令を頂いたのです。陛下に何かあったらぶっ殺してやるから何かある前に殺せ、と」「陛下に万一があってはいけませんし」「まあ、命令っていうか完全にただの脅しだったけど、陛下の護衛としては当然、異論を挟む余地は無いかと」教会組の言い分は裏でソルが糸を引いていたらしい。放課後に校門前でヴィヴィオ達を待ち伏せしていたとのこと。「姉は昨晩ソル殿に自称“覇王”の通り魔について情報交換した関係で、『アインハルト・ストラトス』なる人物がその後どうなったのか報告という形でメールをもらったが、それからタイミング良くウェンディからメールでこのことを知ったんだ」「散歩してたら皆のこと見掛けたっス。後はメールを一斉送信して、でも集まれたのはチンク姉とディエチだけっスね」「ウェンディからメールがあって、今日はたまたま仕事が早く上がれたから」ナカジマ家サイドは偶然来ることになったらしいが、この際もうどうでもよかった。ウィルスに感染したかの如く情報が勝手に伝達されている。もうこの件に関しては、身内の間では知らない人間の方が少ないと思った方がきっと良いに違いない。セインとウェンディに知られた時点で情報が拡散されるのは確定した未来なのだから。頭を抱えダンダンッと地団駄を踏むノーヴェにヴィヴィオが「まあまあ」と声を掛ける。「よく分かんないけど皆が一緒でも別にいいでしょ? ドンパチやるんだったら大勢でド派手にいきたいしさ」「あのなヴィヴィオ、言っておくがこれから戦争する訳じゃ無いからな。あくまでも格闘技やってる女の子と知り合ったからヴィヴィオに紹介しようと思っただけなんだ」一抹の不安を相手に抱かせるヴィヴィオの発言に段々胃が痛くなってきたノーヴェは、諭すように努めて優しい口調で言う。「でも、その子って最近噂の“覇王”って名乗る通り魔なんでしょ? なんで通り魔を私に紹介するの? 私に成敗させる為?」「いや、昨日の夜に旦那が成敗したからそれ以上はマジで勘弁してあげて。つーか、本人が来る前に詳しい事情を説明するからちゃんと聞いてくれ」彼女だけは一旦帰宅してから集まることになったので、現在此処にアインハルトは居ない。だから今の内に、ヴィヴィオは勿論、他の面子にもアインハルトのことを理解してもらう為に詳細を伝えることにする。話を聞いてほとんどの者が『ソルに挑んだこと』と『クローン発言』に対し「なんて無謀な……」や「頭おかしいぞ」と口々に呟いていたが、最終的には「死ななくて良かったね」という感じの意見に纏まった。コロナもリオも、ヴィヴィオを通して“背徳の炎”の活躍をある程度は知っているので、他の者と意見が異なるようなことはない。だが先祖の記憶云々に関しての反応はそれぞれ違う。セインやウェンディなどは単純に面白がり、コロナやリオ、ディエチなどは時代を超えた聖王と覇王の出会いにロマンを感じ、セッテ、ディード、オットーなどは「陛下の身の安全が最優先」と言い護衛としてのスタンスを崩さない。他はアインハルト個人に興味を示したようだ。「あいつにはきっと、自分の想いと拳を受け止めてくれる奴が必要なんだよ。旦那みてぇな意味不明な強さを持つ人じゃなくて、自分と似たような存在っつーか、等身大の自分に近い存在っつーか、上手く言えねぇけど、とにかく無理を承知で頼む。あいつと話をしてやってくれ」この通り、と手と手を合わせてくるノーヴェ。ヴィヴィオは数秒の間、キョトンとした表情で何度かパチパチと瞬きをしていたが、やがていつもの朗らかな笑みを見せると力強く頷く。「そんな風にお願いしてこなくても大丈夫だよ。聖王がどうとか覇王がどうとかイマイチその辺りは理解し切れてないけど、友達が増えるのは大歓迎だからさ」「……ヴィヴィオ」今のノーヴェの眼には、ヴィヴィオから後光が差しているように見えた。なんて良い子なんだ、と。とてもじゃないがあのソルの元で育ったとは思えないくらいに。感動して思わず咽び泣きそうになったその時、「アインハルト・ストラトス、参りました」背後から件の人物が現れたのであった。「初めまして、高町ヴィヴィオです。ストライクアーツの型とかは特に無くて、えっと、我流です。よろしくお願いします!!」「……初めまして。古流ベルカ覇王流、アインハルト・ストラトスです」二人が正面から向き合い握手を交わすのを少し離れた場所から眺めつつ、セインが小声で皆に疑問を投げる。「ヴィヴィオのって我流だっけ? 旦那直伝ジェノサイド喧嘩殺法じゃなかったっけ?」「旦那の格闘スタイル自体が我流っスから、我流でいいんじゃないっスか?」「扱う魔法からして普通にミッドとベルカのハイブリッドではないのですか?」まず最初に反応したウェンディが疑問を疑問で返し、次にセッテが更に問い返す。「それは建前のお話では?」「この際なんでもいいような気がするけど……」続くディードの言葉にオットーが首を傾げてうーんと唸る。そんな中、ヴィータがドヤ顔で高々と宣言――「何勝手なこと言ってんだテメーら。ヴィヴィオのスタイルは世紀末無情苦悶拳っつって、相手を地獄の苦しみに叩き込んだ上で屈服させる刺激的絶命――」「姉御、テキトーな嘘言って場を混乱させないの」「……」――しようとしてアギトに釘を刺されて黙り込む。その表情は『ボケ殺しすんじゃねー』と不満一杯だった。せめてちゃんとボケた後にしっかり突っ込んで欲しかったらしい。横でチンクが一人だけ「……な、何だ嘘か」とヴィータの悪ふざけに引っ掛かりそうになっていたのは秘密だ。ぶっちゃけた話、ヴィヴィオのファイトスタイルは魔法無しの格闘オンリーだった場合、戦い方はソルに一番近い。この中で最も的を射る表現をしているのはセインだ(ジェノサイド喧嘩殺法というネーミングセンスは聞かなかったことにして)。まあアレだ。親が狩りをしている姿を見て子も獲物の仕留め方を覚えるようになる肉食獣と理屈は一緒である。参考動画なる戦闘データの閲覧はヴィヴィオにとって趣味の一環だし、実際に訓練も一緒にしている。当然と言えば当然の帰結だ。「魔法無しで格闘のみ、五分間の一本勝負でいいか?」「え? 魔法無し? しかもケリが着くまでじゃないの?」ルールの確認を行うノーヴェに対し、シュッシュッとシャドーするヴィヴィオがやる気満々に闘気を纏わせ訴える。「怪我させんのヤダし」「えー、だったらせめて時間制限無しにしてケリ着けさせて。それに怪我怖がってたら殴り合いなんて出来ないよ? ウチの家族なんて模擬戦の度に皆血塗れになって――」「お前が怪我したらアタシら全員が連帯責任で旦那に焼き土下座させられるんだよ!!」不満気に文句を言ったら、泣きながら勘弁してくれと喚かれてしまう。しかしそんなノーヴェにヴィータが無慈悲に追い討ちを掛ける。「もしヴィヴィオが怪我したらアタシとソルがお前ら全員の左腕サイコガンに改造してやるからな」「焼き土下座の方が遥かにマシだったぁぁぁぁぁぁ!?」――この人達マジでやりそうだからタチが悪い……!!顔を滅茶苦茶引き攣らせる戦闘機人達とティアナ。彼女達を見てご愁傷様ですと合掌するアギト、コロナ、リオの三人。今のやり取りの意味はよく分からいが、とんでもないことになるであろうと理解しつつどうしようもないので呆然としているアインハルト。こうして今まさに時を越えて聖王と覇王、二人の王の戦いが火蓋を切ろうとしていた。結局、仕方が無いのでノーヴェ達は左腕をサイコガンに改造されることを覚悟で、泣く泣くヴィヴィオの言い分を認めた。当の本人は「大丈夫だよ。怪我なんてしないし、もしものことがあっても絶対に庇うから」と言ってこちらを安心させようとするが、その程度で不安が拭える訳が無い。だってヴィータが小声で口ずさんでいるのだ。「コ~○~ラ~♪」と。胃が痛くなってきた。万が一があれば本当に宇宙海賊にされてしまうが、ガチンコ勝負については妥協してくれないので他に選択肢が無かったのである。どうしてこの子はこんなに勝ち負けにこだわるのかと思うのも一瞬。すぐさま、育った環境、親、という答えが出てきてくれた。――なんだこの、上からは脅されて下からはせっつかれる中間管理職みたいな立場。ストレスでハゲそうだ。誰か助けてくれ!!「セイクリッド・ハート、セットアップ」ヴィヴィオがうさぎのぬいぐるみを引っ掴み頭上に掲げた。彼女特有の虹色に輝く魔力光が周囲を眩く染め、光に包まれた肉体に変化が現れる。年相応の少女の身体から、二十歳前の大人の女性の身体へと。これは身体強化魔法の一種で、外見の通り体格が大人と同等になる。それにより手足のリーチが長くなり、体力、筋力、耐久力などの基礎的な部分も底上げされる。ただ見た目の変化が激しいので当初は単なる変身魔法と勘違いする者が多かった。濃紺のボディスーツの上に白いジャケットを羽織る、というデザインのバリアジャケットが構築されて準備が整う。「武装形態」アインハルトも同様に戦闘態勢に入る。髪と同じ色の碧銀の魔力光が放たれ、足元にベルカ式の象徴とも言える三角形の魔法陣が展開。これまたヴィヴィオと同じ変身魔法か身体強化か分からないが、体格が大人の女性のそれへと変貌した。全体的に白を基調としたバリアジャケットは、歴史書や回顧録に登場する本物の“覇王”の姿に酷似している。たまたま似たデザインなのか、もしくは自分が覇王であることをアピールしているのか、どちらか分からないが彼女から直接話を聞いたスバル、ノーヴェ、ティアナ、ヴィータ、アギトの五人は後者のように感じる。見物人達が固唾を呑んで見守る中、ヴィヴィオが首を回しつつゴキリ、ゴキリ、と音を鳴らす。戦闘前にソルがやっている仕草を小さい頃から真似していたらすっかり癖になってしまったらしく、彼女は模擬戦前に必ずこれを行う。「じゃあ、やりましょうか」ファイティングポーズを取り不敵に笑うヴィヴィオ。応じるようにしてアインハルトも真剣な表情で構えた。「……アインハルト・ストラトス、参ります」言い終わるや否や、開始の合図を待たずしてヴィヴィオが踏み込み、全速力で突進した。オマケの人物設定高町ヴィヴィオ天真爛漫、明朗快活、常に笑顔を絶やさず、優しく素直で思いやりに溢れ、誰とでも分け隔てなく接する性格で、皆のアイドルもしくは天使。知り合ってすぐに誰とでも仲良くなれる特技がある。しかし、育った環境が良かったのか悪かったのか、やたらパワフルで好戦的。趣味は読書と筋トレ、戦闘データの閲覧。組み手や模擬戦が大好き。おまけに耳年増。いけないと分かっていながらパパがママ達に性的な意味で襲われている瞬間や、ユーノとアルフがイチャイチャしているのをついつい見てしまう(覗き上等!!)。そして極めつけは異性の好み。絶対に筋肉がないとダメ。とにかくマッチョが好き。その上で強いと尚のこと良い。自分の周囲の『大人の男性』がことごとく肉体美の持ち主だった為、『大人の男性はこういうもの』という考えが根底に刷り込まれているのが原因。学校の男子に告白されても、風呂上りのソルの写真(こっそり盗撮した)を見せて出直して来いと言って振る。たぶんそれをクリア出来たとしても、今度は私より強くないとダメだとかパパが認めてくれるくらい強くないとダメとか、かぐや姫でも言わない無理難題を吐く。全てを台無しにするファクター。良い子なんだけど何かが致命的に間違っている少女。将来が非常に心配である。戦い方はソル寄りだがパワー型ではなくスピード型。反撃を許さない怒涛のラッシュで押し切る。しかし、押し切れない相手には滅法弱い。模擬戦に付き合ってくれる人が多いので経験自体は豊富の筈だが、家庭内ではまだまだ未熟者扱い。練習する場所や模擬戦相手はあっちこっちに点在するので、暇な時はそれらを渡り歩いては殴り合っている。家庭内での立ち位置は末っ子で、ソルを含めた皆から溺愛されているが甘やかされてる訳では無い。交友関係は広く、学校では人気者でいつの間にかクラスや皆の中心に居る。コロナとリオが特に仲良し。戦闘機人達からも敬愛されたり遊んでもらったり一緒に訓練したりする毎日。困った時などに、家族以外で助けてくれたり相談に乗ってくれる人達は多く、環境に恵まれている。法力は勉強中の為、残念ながら戦闘に使えるレベルのものは修得していない。週に一回、通信越しにDr,パラダイムから特別授業を受けている。座右の銘は“私より強い人にいつか勝つ”。某格闘ゲームの主人公みたいなことを真面目に言ってるがその為の努力は惜しまない頑張り屋さん。けれど、実はこれ、半分以上は強過ぎるソルに対するささやかな当て付け。セイクリッド・ハート進級祝いにもらったヴィヴィオの専用デバイス。系列的にはアクセルに贈られたメグと同様に、クイーンの姉妹機。持ち主の成長に合わせてアップグレードされるようになっており、ヴィヴィオが成長すれば成長した分だけ進化する。現段階でその力は未知数。今後に期待。半自律型なのに喋れないのは仕様。しかし、外見がうさぎのぬいぐるみなのでよく動き、ジェスチャーで意思疎通を図る。そしてそれで何故かちゃんと伝わる不思議。後書き駆け足かもしれませんけど、なんとか4月中に第二話を投稿出来ましたよ。シグナムはヤンデレではなく純粋に自分の欲求と気持ちに正直なだけです。まあ、そのベクトルが取り返しのつかないレベルで狂ってますが。その代わり日常生活では一番まともで、ソルとの模擬戦、殺し愛が絡まなければ普通の乙女なお姉さん。そのギャップの激しさもあり、周囲から実は二重人格なんじゃないかと疑われてます。ソルの麻婆好きは、番外編であの中華屋に行った所為。どうやらあの腹黒神父とは声だけではなく料理の好みも一致していたらしい。余談ですが、中華屋の店員の声がなのはと同じ声でびっくりしてました。聖王教会は、十数年前からいつもあんな感じです。前回のでカリムのネジがついに外れてしまったようですが、仔細ありません。お次はヴィヴィオとアインハルトのガチンコバトルです。魔法無しなのでそんなに派手じゃありませんが、その代わり泥臭くなる予定。ではまた次回!!