結局ジュエルシード絡みの所為で、旅行らしいことをしたと言えば温泉に入って乱痴気騒ぎがあっただけ、といった感じの旅行から数日。フェイトに負けたことがよっぽど悔しかったのか、帰ってきてからより一層訓練に精を出すようになったなのはは、俺の早朝稽古にも顔を出すようになった。しかしそれは日常生活に悪い意味で影響を及ぼし、少し雰囲気をピリピリさせている。クラスメートに向かって「私の背後に立たないで」とか言い放つ始末。お前は凄腕のスナイパー………さすがに殴りかからないだけまだマシな方か。アリサやすずかに変な意味で「………なのは大丈夫?」と心配される。しかもなのは本人じゃなく、俺に言ってるくるとか、半分近く危険人物扱いされている。さすがにこれはマズイと思い、せめて魔法が関連しない物事の時には何時も通りにしてろと釘を打っておく。俺の言葉になのはは素直に頷くと、「お兄ちゃんがこれから毎日お風呂一緒に入ってくれれば普段に戻れると思うよ」とか抜かした。―――演技だったのか?だとしたら癪に触るので却下し、恭也と美由希に頼んでもっと厳しく稽古つけてやってくれと頼んでおいた。背徳の炎と魔法少女 8話 青い石の本来の”力”?放課後、臨海公園の近くにあるCD屋『Dレコード』の店長からメールを受けた。また新譜CD前日入荷の知らせだった。一度帰宅し着替えて財布片手にCD屋に向かう。なのはがついてきたがったが、ジュエルシードの捜索もあるので諦めさせた。というのは建前で、本音を言えばジュエルシード云々以前になのはと店長を会わせたくない。あの店長、口を開けばF言葉やスラングしか喋らない。前に一度なのはを連れて行った時は眠っていたから良かったものの(今思えばなんで連れてったのか不明だ)、もし起きていたら―――想像したくもない。それさえ無ければ音楽に造詣の深い、気さくな女なんだが。だからなるべくあの店にはなのはを近付けたくない。買ったCD片手に家に帰る。「あ、お帰りなさいソル」「ああ、今帰った」美由希がオタマ片手に出迎えてくれる。「ん? なんで姉貴がそんなもん持ってんだ? 新しい暗器か?」俺はビリヤードのキューで暗殺を行うアサシンと隻腕の日本人女侍を思い出した。それと似たようなものだろうか?「ひどっ!! 違うよ、ちょっと暇だったから料理の練習してたんだよ!!」「ああ、分かった。何時ものポイズンクッキングか、毒殺用の毒を調合する」「全っ然違うよ!! ていうか、さっきの暗器よりも酷くなってるんだけど!!」「人間の食物を毒物に変えるのはある種の才能だと思うが、せっかく作ってもは使わないで捨てるだけなんだからあんまり食い物を粗末にするな」「だから毒じゃないってば!!!………ううぅ、恭ちゃんソルがイジメル~」半泣きになりながら奥に引っ込んだ美由希を放置して自室に向かう。時刻はそろそろ夕飯時。この時間帯だとまだ士郎と桃子は店に居るだろうがすぐに戻ってくる筈だ。恭也と美由希が家に居て、なのははユーノと外でジュエルシードの捜索か。CDを包む透明なビニールを丁寧に剥がし、ゴミ箱へ。ケースを開け、ディスクを取り出す。俺はウキウキしながらディスクをプレイヤーにセットして、再生ボタンを押そうとしたその時、「っ!?」ジュエルシードの発動する気配を知覚する。そして、『ソル! ジュエルシードが発動した!! この前のフェイトとアルフっていう使い魔も一緒だ。これより戦闘に入るよ!!!』頭に響いたユーノからの一方的な念話。「………クソが」気分はまさに眼の前で餌を取り上げられた飢えた獣。俺は恭也と美由希に一声掛けると、家を飛び出した。現場に到着すると、既に緑色の結界で街が覆われていた。ユーノの封時結界だな。結界内に飛び込んで手短なビルの屋上に降り立つ。魔力反応の探ると、激しくぶつかり合うのが二つ。なのはとフェイト、ユーノとアルフだろう。「………何もあの時発動しなくてもいいだろうが」ぶつぶつと未練がましく独り言を吐きながら、飛行魔法で街を見下ろせる高度まで昇る。そこから全員の動きを観察する。「ふむ」まず、ユーノVSアルフ(人間形態)前回と同じ轍は踏まんと言わんばかりにアルフが遠距離から射撃魔法で攻撃しまくるが、ユーノは涼しい顔で防御している。恐らくユーノの周囲には大量のトラップが仕掛けられているのだろう。聞こえはしないが、ユーノがアルフを挑発しているような仕草をするのが見える。それに対してアルフは地団駄踏みながらも決して近寄ろうとはしない。待ちのユーノと攻め込みたいけど攻め込まないアルフ。完全な膠着状態だった。そして、なのはVSフェイトこちらは打って変わって高速戦闘の真っ只中。桜色と金色の光が激しくぶつかり合い、離れ、お互いが持ち得る中で最も信頼する射撃・砲撃魔法を湯水のように使うペース配分なんて一切考えていない潰し合い。やはり前回と同様に、なのはが距離を取るように逃げ、それをフェイトが追いかける図式なのは変わりがないが、決定的に違う点が一つ。それは、なのはが唐突に自ら距離を詰め、積極的に接近戦を挑んでいること。それを可能としているのが、対フェイト用に編み出された高速移動魔法『フラッシュムーブ』。持ち前の機動力と短距離限定の超高速移動魔法『ブリッツアクション』で接近戦を得意とするフェイトに、なのははどうしても速度の面で勝ち目が無い。自分よりも速度の上回る相手との対戦経験が絶対的に足りないのも要因の一つだ。ある程度の牽制の仕方と対処法といったものは教えたが、前回見せてしまった以上、それに対する何らかの攻略法は考えてくる筈だ。どうすればいいか悩んでいるなのはに対して、レイジングハートは自信を持って進言した。<逆転の発想です。速さが足りない!!! ………のであれば、速くなればいいんです!!!>その一言からブリッツアクションに対抗してフラッシュムーブを修得することとなった。しかし、「それでも互角か」前回見た限りではギリギリフェイトの勝ちだったので、今回はフラッシュムーブを修得したなのは優勢と踏んでいたんだが、そうはいかないようだ。基本的なフェイトの戦闘スタイルは変わっていないが、今回は無理に近寄ろうとせず、遠距離からフォトンランサーをばら撒きつつ早々になのはの牽制攻撃であるディバンシューターを潰し、時に足を止めサンダースマッシャーを威嚇するように放つ。そんなフェイトに負けじとディバインバスターを撃つなのはだが避けられて接近されそうになる。だったらこっちもといった感じでフラッシュムーブ、接近戦に突入。お互いが高速移動魔法を連続使用しながら数合打ち合い、鍔迫り合いの後離れる。また牽制攻撃を放ち、それを潰し、砲撃魔法を打ち合い、片方が接近、それに応えるようにもう片方も接近、高速の接近戦の後間合いが離れる。これの繰り返しとなっていた。主導権を握った方が一気に押し切る、そんな互角の勝負だが、果たしてこのままのペースで戦い続けて主導権を握る前に力尽きないのだろうか。今回は攻撃魔法も移動魔法も、二人共休む時間が惜しいとばかりに使用している。俺が此処に辿り着いてから五分も経過していないのに、二人共肩で息をしているのが分かる。さっさとケリを着けないと、泥沼化するな。「そういやぁ、発動したジュエルシードはどっちが封印したんだ?」ふと疑問に思う。ユーノの言葉では、これから戦闘に入るとしか聞いていない。まさかこの状況で誰かに聞く訳にもいかん。いくらなんでもそこまで空気読めないことはしない。ま、なのはかフェイトのどっちかなんだろうなと楽観しながら適当なビルに降り立つと、視界の端に小さな青い光が見えた。「………おい、マジかよあいつら」俺が今居るビルの屋上のすぐ真下。そこには少しずつ輝きを増す青い石があった。今まで気が付かなかった俺も間抜けだが、誰も封印してねぇってのはどういうことだ!!戦闘の余波で大気中のマナ、魔力濃度がどんどん濃くなればなるほど強い光を放つようになってきた。恐らくどちらかが見つけたジュエルシードを封印しようとしたところに、もう片方が来たので封印しないでそのまま勝負ってことになったんだろう。「せめて仮封印くらいしとけってんだ!!」文句を言いつつジュエルシードの前に降り立つ。―――刹那「ぐおっ!?」地面に着地した瞬間、身体にかかる突風めいた衝撃波。それを放ったのは当然ジュエルシード。俺は為す術無く吹き飛ばされて数十メートルは地面と平行に飛び、結界内の既存のビルに突っ込んだ。窓ガラスをぶち破り、デスクや椅子が所狭しと並ぶオフィスを突き抜け、壁を貫通してビルの反対側に転がり出たところでようやく止まった。ダメージは大したこと無いが、俺は驚きでしばらく動けなかった。既存生物を取り込んでも無いのにこれだけの”力”があれにあるとは思いもよらなかった。大気中のマナの濃度だけで発動したのだ。こちらの既知の情報には無かっただけにショックも大きい。もしかしたら、『既存生物を取り込んでその生物の”願い”を叶える”力”を与える』という前提すら何らかの副産物で、俺達の認識自体が間違っていたんじゃねぇのか?「とにかく、ごちゃごちゃ考えんのは後だ」立ち上がり、突き抜けたビルの穴を潜り、急いでジュエルシードに向かう。と、眼の前にはこちらに吹き飛ばされてくるなのはの後ろ姿。「おっと」なるべく優しく受け止める。「きゃ! ってお兄ちゃん!?」後ろから抱き締める形なので、なのはが首だけをこちらに向ける。「怪我してねーか?」「お兄ちゃんのおかげでなんとも………あっ!」急に驚いたような声。「どうした?」「私は大丈夫なんだけど、レイジングハートが………」どうやらなのはには幸い怪我は無いらしい。だが、レイジングハートのデバイスコアとフレーム全体に罅が入っていた。システムダウンの一歩手前で、弱々しく点滅している。「何があった?」「なんかジュエルシードの様子が今まで感じたことが無い変な感じになって、フェイトちゃんとのは勝負は一旦お預けにして二人同時に封印しようとしたんだけど、デバイスでガッチリ噛み合った瞬間衝撃波みたいなのが………」「待て。同時に、しかもデバイスでガッチリ噛み合ったって、んな無茶したのか?」「う、うん」怖かったのか、少しなのはの身体が震えている。「馬鹿だろお前ら。アレに二方向から同じ力をぶつけたら反発起こして吹っ飛ばされるのは当たり前だろ」「ご、ごめんなさい」「お前に怪我が無ければ今はそれで構わねぇ」それよりも問題はジュエルシード。先程よりも眩い光を放ちながら強い反応と共に、周囲の空間が歪曲するような感覚がする。あの感覚は、昔イノと戦った時に時空転移した感覚とそっくりだ。もし、あの時と同じものだとすると俺の想像以上にジュエルシードって奴は厄介かもしれねぇ。「なのは、怪我は!?」そんな俺の考えに割り込むようにユーノの声が飛んでくる。「遅ぇぞユーノ、なのははとりあえず無事だ。だがレイジングハートはお釈迦寸前、ジュエルシードは調子に乗ってますます強い”力”を放出中、おまけに周囲の空間を歪曲までさせてやがる。何か良い手はあるか?」ジュエルシードから眼を逸らさずに告げるが、良い返事が返ってこない。それはつまり、ユーノですらこんな現象を眼の前にしたことが無いのだろう。俺だって十回も経験したこと無ぇ。こんなの何度も経験したことあんのはアクセルとイノくらいだ。デバイスで封印するのが一番なのだろうが、頼みのレイジングハートは故障。フェイトのバルディッシュも同じだろう。やはり非殺傷の純粋魔力ダメージで力ずくに―――「何やってるんだいフェイト!? やめな!!」アルフの悲痛な叫び声が鼓膜を叩く。無謀にもフェイトは、デバイス無しの素手でジュエルシードを掴みそのまま封印しようとしていた。「あのバカ何考えてやがんだ!!」「お、お兄ちゃん!?」「ユーノ!! なのはが動かねぇように見張ってろ!!!」俺はなのはの戸惑う声を無視しユーノに命令すると、返事も待たずにフェイトに向かって駆け出した。ジュエルシードは自身を掴むフェイトに対して抵抗するように”力”を放出する。荒れ狂う魔力の奔流がフェイトに襲い掛かり、グローブが弾け飛び、バリアジャケットに所々切れ込みを入れる。「く、うぅっ」猛烈な苦痛と疲労に顔を歪め、額に脂汗を浮かべながら、それでもジュエルシードを離そうとしない。あれでは無理だ。封印なんて出来っこねぇ。そもそもアレはデバイスを使って封印するのが前提なんだろ? しかもなのはとの激しい戦闘の後、碌に魔力と体力が残ってない状態で暴走したジュエルシードを封印するなんて土台無理な話だ。「………ああっ!!」やはりあの状態で封印するのは無理だったようで、ジュエルシードが一際強い衝撃波を放った瞬間吹き飛ばされる。「フェイト!!」そんなフェイトを何とか受け止めるアルフ。「アルフ!! フェイト連れてこっち来い!!」俺は立ち止まり叫ぶ。アルフは俺の言葉に頷くと、ジュエルシードを大きく迂回して俺の傍までやってくる。「二人共なのはとユーノの所まで退がれ」「アンタはどうするつもりだい!?」焦った表情のアルフ。「俺はアレを無力化する」「なっ!? 無理だよ!! あんなもんどうするってんだよ!!!」「無理でも何でもやるしか無ぇだろうが!!!」「っ!」俺の怒鳴り声にアルフが吃驚したように黙る。「ソ、ソル………」アルフの腕の中で、フェイトが弱々しく俺の名を呼んだ。その姿は酷い傷だらけだった。ジュエルシードを直接掴んだ手の平は焼け爛れ、ズタズタに引き裂かれたバリアジャケットから覗く白い肌は裂傷まみれ。よくこれで気絶していない、いや、いっそのこと気絶した方が幸せなレベルの怪我だ。俺は出来るだけフェイトの頭を優しく撫でてやると、ジュエルシードに向き直った。「安心しろ。俺がお前らを守ってやる」背中越しに声を掛ける。その言葉を信用してくれたのか、アルフがフェイトを抱えてなのはとユーノの所まで退がるのが気配で分かった。額にヘッドギアを装着し、左手に封炎剣を召喚する。封炎剣を逆手に持ち、柄を握って左の拳に魔力を込める。術式を構築、展開、構成された術式に必要な魔力量を計算、結果に基づいた魔力を術式に流す。要領はすずかの家で猫の暴走体にぶち込んだのと一緒だ。非殺傷による純粋魔力ダメージで力ずくに無効化してやる。本当なら”三発”ぶち込んで跡形も残らず消し去ってやりたいが、もしそれが”トリガー”となって予測不能の事態に陥ったら眼も当てられないので、今は”一発”だけで我慢する。ジュエルシードに向かって踏み込み、ダッシュで一気に駆け寄り間合いを詰める。封炎剣を握ったままの左ストレートをジュエルシードに叩きつけると同時に、完成した法力を放出する。「タイランレイィィィィブ!!!」俺に殴られたジュエルシードは同時に発生した炎の渦に呑み込まれ、放っていた”力”を一瞬で無効化され、炎の渦が爆裂する轟音と共にただの石ころのようにアスファルトに転がった。辺りが静まり返ると発生していた空間歪曲の感覚も消え失せる。「やれやれだぜ」とりあえず危機的状況が回避されたことを確認すると、俺は溜息を吐いた。ユーノから教わった回復魔法と俺の治癒法術を組み合わせた法力で、フェイトの傷を癒す。「す、凄い。傷があっという間に治ってく………」「フェイトちゃん、良かった」「フェイト、良かった、本当に良かったよ!!」徐々に傷が消えていく様子にユーノが驚愕の表情を浮かべ、なのはが安堵の溜息を吐き、アルフが泣き始めた。「うそ………何処も痛くないし、傷だって痕すら残ってない………」当の本人のフェイトはアルフに抱きつかれながら、自身の身体を観察し、その結果に呆然としていた。「立てるか?」「え? あ、うん」俺の声に反応して、抱きつくアルフから離れてもらい、自分の足でしっかりと立ち上がるフェイト。それを確認すると俺は、「少し痛むぞ」「え?」―――パンッ!フェイトの白い頬に平手打ちした。「ア、アンタァ!! フェイトに何すんだい!!」「お前はすっこんでろ!!!」突然の俺の行為に激昂するアルフを黙らせる。「あ、え………ソル?」自分が俺に叩かれたと理解はしていても、何故叩かれたのか理由が分からないといった風のフェイトは、何がなんだか分からないという表情で俺の顔を見た。「お前、俺が言ったこと覚えてるか?」「ソルが、言ったこと………?」混乱する頭で思い出そうとしているが、なかなか思い出せないようだ。ま、この様子を見る限りまず無理だよな。「忘れてるみてーだからもう一度言ってやる。あの時俺は『怪我の無いようにしてくれ』って言った筈だ」「え………でもそれって………」ようやく温泉旅行のときに言った言葉ということを思い出してくれたようだが、どうやら意味を履き違えていたらしい。「なのはだけだと思ったのか? んな訳無ぇだろ。当然お前もその中に入ってんだよ」「わ、私も………」「そうだ。だから、あんま心配かけてんじゃねぇ。どれだけ心配したと思ってやがんだ」じわじわと、フェイトの瞳に涙が溜まる。フェイトをそっと抱き締める。激しい戦闘をこなして、ジュエルシードを集めようとしている少女。本人の戦い方とは裏腹に、身体はとても華奢だ。「約束しろ。もう二度とさっきみたいな無茶はしない、怪我なんかしないって。傷だらけのお前を見るなんて俺は真っ平ご免だ」「あ、く、うぅ」嗚咽を必死に堪えようとしているフェイトに、耳元で言ってやる。「無理すんな。お前は今、泣いていい」その言葉を皮切りに、「うあぁぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、ソル、ソルぅ!!」俺の名を呼びながらしがみつき、懺悔するように泣いた。しばらくは感情に任せて泣いていたフェイトも落ち着きを取り戻してきた。「十分泣いたか?」「ぐす、うん、もう平気」目尻にはまだ涙が見えたので、拭ってやる。すると、照れくさそうに微笑みかけてくる。やっぱり女は泣き顔よりも笑顔だな、とそこまで思って、何処ぞの空賊のリーダーと同じことを考えてるような気がして少し自己嫌悪した。「ほら、今回は無茶して大怪我して俺に多大な心配をさせたフェイトだが、その根性を賞してこれはくれてやる」俺は自分を誤魔化すようにさっき回収した青い石をフェイトに押し付けた。「えええ!? いいの!?」「要らねーなら返せ」「………あ、ありがたく貰っておくね」なんだかんだ言って結局はちゃっかりしているフェイト。「お前らも別に構わねーだろ?」なのはとユーノにも一応聞いておく。「うん、今回だけは怪我してでも封印しようとしたフェイトちゃんに免じて譲ってあげる」「ま、此処で反対してもソルのことだから強引に話進めちゃうんでしょ? だったら反対しても意味無いし」「サンキューな、なのは。ユーノはよく分かってるじゃねーか」「キミって本当にいい性格してるよね」「だろ?」俺がそう言うと、皆が一斉に笑い出した。「じゃあ、私達はもう帰るね」名残惜しそうにフェイトが飛行魔法を発動させ、フワリと身体を浮かび上がる。「ソル、今日は心配掛けてごめんね。それから、本当にありがとう」「それについてはアタシからも礼を言わせてもらうよ、ソル、ありがとさん。アンタにゃ借りを作りっぱなしだね」「気にすんな。こっちが勝手にやってることだ。見返り欲しくてやってる訳じゃ無ぇ」「アンタらしいねぇ~」フェイトとアルフは俺から視線を外し、なのはとユーノに向ける。「なのは、次は正々堂々勝負して、私が勝つから。覚悟しておいて」「むむ、今度こそ勝つのは私だよ。フェイトちゃんこそ首を洗って待ってるんだね!!」この二人、なかなか良いライバル関係になってきたんじゃねーか? なのはの言葉が少し悪役っぽいところが気になるが。「アンタの相手ってしたくないんだよねぇ、アタシ。ちょっとでいいからソルみたいな戦い方出来ないのかい?」「ふ、僕にソルの真似事をしろなんて愚の極みだね。そんなことしたら秒殺される自信があるよ」「何の自慢にもなってないこと威張るんじゃないよ」と呆れるアルフ。「僕の呪縛結界に入ったら最後、全てを拘束してくれる」何か格好良いこと言ってるような気がするが、フェレット姿じゃ格好つかねーし、誰も聞いてないぞユーノ。「それじゃあ、次のジュエルシードが見つかるまでお別れだね」フェイトが再び俺に眼を向ける。「ああ、またな」「うん、またね、ソル」別れの言葉の後、金色の魔力光を放って高速で飛んでいくフェイトと、それを必死に追いかけるアルフ。その姿を見えなくなるまで見送ると、「俺達も帰るぜ、ユーノ、結界を解除しろ」「了~解」現実世界へと戻った。「お兄ちゃん」「何だ?」帰りの道中、人通りの少なくなった住宅街に入った時、なのはがぽつりと俺を呼ぶ。「もし、もし私が今日のフェイトちゃんみたいに怪我したら、お兄ちゃんはどうする?」それは期待と不安と、フェイトに対する対抗意識と若干の嫉妬が込められた言葉だった。だから俺は、本心を包み隠さず伝えることにした。「決まってんだろ」「決まってるって?」「まず、お前に怪我させた奴を灰にする。もしお前が勝手に無茶して怪我しただけなら一日中説教してやる」「ほんと? 心配してくれるの?」「ああ、俺は何時だってお前の心配してるんだぜ?」なのはの頭に手を置いて、そのまま撫でる。「う~ん、じゃあそれを証明して欲しいな~」「証明って、何して欲しいんだ?」「それは自分で考えなきゃダメだよ」「ちっ」俺は舌打ちして、しばしの間黙考する。そして、「分かったよ、ほら」なのはに背を向けて屈んだ。「えっと?」いまいち分かっていないなのはの声。仕方が無いので説明してやる。「今日の戦闘で疲れただろ? 家までおんぶしてやる」「あ、そういうこと!! じゃ、お言葉に甘えて~♪」喜び勇んで俺の背中に飛び乗るなのは。しっかりなのはを背負うと歩き出す。「相変わらず軽いな、お前」「お兄ちゃんが力持ちなだけだよ」「そうかもな」しばらくの間沈黙が続くが、急になのはが言った。「ねぇ、お兄ちゃん」「あん?」「呼んでみただけ♪」「何だそりゃ」俺はなのはを背負い直すと、家族が待つ家へとゆっくり歩を進めた。「艦長、エイミィから報告があるそうです」「何かしら?」「え~とですね、第97管理外世界『地球』にてロストロギア反応と同時に小規模の次元震が観測されました」「………第97管理外世界、確かスクライア一族からその世界に捜索願が出ていなかった? ジュエルシードと呼ばれるロストロギアとそれを発掘した一族の少年の捜索願」「ん~、クロノくんは覚えてる?」「エィミィ、そのくらいちゃんと覚えておくものだろ。艦長の仰る通り、二件の捜索願が出ています」「もしかしてビンゴかな?」「恐らく」「その可能性は高いわね」「あ、それともう一つ報告することがあります」「何?」「次元震が観測される前に約AAAランクの魔力値を二つ、次元震発生後にはなんとオーバーSランクの魔力値を一つ観測したんですよ!!」「AAAが二つに、オーバーSが一つだって!?」「しかもこのオーバーSランクの魔力を観測した瞬間、次元震とロストロギア反応が同時に消失、それっきり音沙汰無いんです。艦長~、これってどういうことだと思います?」「あくまで観測結果だけで判断するなら、そのオーバーSがロストロギアを無効化させて次元震を止めたってことでしょうね?」「艦長、これは由々しき事態です」「ええ、航路の途中でこんなものを観測していたのに放置してしまっては時空管理局の名折れだわ。本艦はこれより航路を変更、第97管理外世界『地球』へと航行します」