桜色に輝く刃が迫る。それを阻む金色の壁は虚しくも貫かれる。しかし、若干軌道を逸らすことには成功した。今この身体を貫かんとしていた刃は、心臓部を掠め、左の肩口までバリアジャケットだけを器用に引き裂くように通り過ぎた。―――かわせた、本当にギリギリだったけど、なんとかかわすことに成功した。「う………そ?」渾身の一撃を避けられると思ってなかったのか、事実を疑うなのはの声。その声を発した喉笛に、金色に輝く鎌の刃を添える。「ハァ、ハァ、ハァ」やけにうるさい呼吸音が自分の口から出ていることに気付く。『フェイトの勝ちだな』頭に響くソルの声。それに反応するように。<………私達の、負けです>なのはのデバイスから、ジュエルシードが一つ吐き出された。背徳の炎と魔法少女 7話 勝負の後は………………か、勝った? 勝ったの? 私の勝ちなの?ソルが私の勝利宣言をした。なのはのデバイスからジュエルシードが出てきて、私に差し出してきた。つまり、私の勝ち。勝った。なのはに勝った。その事実に、全身が歓喜に打ち震える。なのはからバルディッシュを退くと、眼の前に漂うにジュエルシードを握り締めた。『お前ら、そろそろ降りて来い』ソルの声にはっ、となる。戦闘の疲れなんて忘れて、私は一目散にソルが居る橋まで降り立った。「お前の勝ちだ。良かったな………て、フェイト、お前」こちらにゆっくりと歩いてくるソルが私の勝利を祝ってくれる。「………ソル!!」「うお!?」思わず私はソルに飛び付いた。そのまま彼の首の後ろに手を回し、力一杯抱き締める。嬉しくて嬉しくて、この喜びをソルに伝えたくて、自分でも全く意識せずに出た行動だった。「勝った、勝ったよソル!! なのはに勝ったんだ!! 何度もダメかと思ったけど、勝てたよ!!」「分かった、分かったから少し落ち着け」背中をポンポンと叩いてから撫でてくれるソル。「とりあえず落ち着け、な?」両肩を掴まれて、一旦離されてしまう。うう、もうちょっと。「で、勝って良い気分のところ水を差すようで悪いんだが、バリアジャケット破けてるからマントで隠せ」「ふぇ?」有頂天になっている私にはソルが何言ってるのか分からなくて頭に?を浮かべてしまう。そんな私にソルはやれやれと溜息を吐くと、自分の左胸を指差す。………左胸? バリアジャケットが破けてる? マントで隠せ?「………ッ!!!」慌てて背中のマントで全身を包む。なのはの最後の攻撃はバリアジャケットがパージする間も無い程鋭いもので、掠っていた。その所為で、心臓部から肩口にかけて綺麗に破けていて………「み、見た………?」恐る恐る聞くと、「見なかったことにしとく」そんな返答が返ってきた。「☆〇×%$#=~*@-|!?」私は声にならない声を上げた。みみみみみみ見られた! ソルに見られた!! どどどどどどっどうううしよう!? ははっは恥ずかしい!!! こんな状態でさっきは抱き付いていたなんて!!顔が熱い、頭が沸騰する、心臓が爆発するようにドクドク動いてる、恥ずかしくてソルの顔がまともに見れない!!恥ずかしさのあまりソルから視線を逸らすと、そこにはなのはが居た。そのこめかみに、青筋が立っていた。「フェイトちゃん、何さっきからお兄ちゃんといちゃいちゃしてるの? 足りない? 戦い足りない? いいよ、なのははいいよ、このまま第二ラウンド」「………落ち着けなのは、一人称が小学生になる前に戻ってるぜ」追加訂正。こめかみの青筋にプラスして、凄く不機嫌で黒い魔力光みたいなオーラを纏わせてる。このままでは確実に殺される、そう本能が叫んだので無意識に身体が動いた。ソルの背後に回り込んで腰にしがみつく。奇しくも以前と同じようなシチュエーションになってしまった。しかし、この行為は完全に裏目に出た。ぶちっ!! と何かが破裂するように切れる音を確実に鼓膜が捉える。「フェ、フェイトちゃんは、な、なのはを、おこ、怒らせたい? 怒らせたいのかな? かな?」ビクビクしながらソルの肩越しになのはを見ると、引き攣った笑顔で眼が笑ってない少女の姿をした悪鬼がそこに居た。それを見て、私の心は今まで感じたことの無い恐怖に全身を震わせる。恐慌状態に陥った私は、全力でソルにしがみついた。「こ、怖い、怖いよソル、ソル、なんとかしてよ!!」「ちょ、おい、待て、俺か!?」「お兄ちゃんどいてフェイトちゃん攻撃出来ない離れて今すぐに早く早く早く!!!」「待て、こっちに向けたレイジングハートをどうするつもりだ? 落ち着けなのは。フェイトも離れろって」「ヤダこわいよソル!!!」「………あくまでもお兄ちゃんから離れる気は無いみたいだね………」<ソル様、これが俗に言う修羅場というものなのですか? 非常に興味深いです。テンションが漲ってきます!!!>「お前は主を止める気が無いならすっこんでろ!!」「………この泥棒猫ぉぉぉぉぉぉ!!!」次の瞬間、桜色の閃光を放つ爆発が生まれた。「お兄ちゃんのアフォ、お兄ちゃんのアフォ、お兄ちゃんのアフォ、お兄ちゃんのアフォ」なのはの放った砲撃魔法は、ソルが咄嗟に展開した防御魔法―――確か、『フォルトレス』って言ったかな?―――に阻まれて、私もソルも怪我をすることは無かった。その後、なのははソルから一発拳骨をもらってお説教を受け、デバイスを取り上げられた。でも、なのはは完全に拗ねてしまったようでバリアジャケットを解除して浴衣姿になると、さっきから体育座りでぶつぶつと何か呟いている。そんななのはにソルは、『今は関わるな、たまにああなる。迂闊に近寄ると噛み付かれるぞ』と言って気にも留めない。ちょっと可哀想だけどまた砲撃魔法を撃たれるのは嫌だし、今はソルの言う通り放置しよう。とりあえず私もバリアジャケットを解除して黒と赤のワンピースになる。それにしてもやっぱりソルは凄い。なのはの砲撃魔法をあっさり防いじゃうなんて。私にはとても真似出来ない。「なのはとフェイトの勝負が終わったことだし、ユーノとアルフを呼び戻すか」あ、そう言えばすっかり忘れていた。アルフはどうしたんだろう? ソルの使い魔のユーノも居ないし。『ユーノ、アルフ、戻ってこい』ソルが二人に向けて念話を飛ばすと、私達から少し離れた場所に緑色の魔方陣が浮かび上がり、「ア、アルフ!!」緑色のチェーンバインドで雁字搦めにされた狼形態のアルフと、その上に二本足で立ってガッツポーズを取るフェレットが現れた。私は慌ててアルフに駆け寄り、その頭を撫でた。「ごめんねフェイト、負けちまったよ………」「そんなことはいいから!! 怪我とかしてないの!?」「あ、怪我は一切無いよ。バインドで動けないように拘束しただけだし」「そいつの言う通りだから心配は要らないよ、フェイト………っていうか何時までアタシの上に乗ってるんだい!? いい加減降りな!!」何も言わずにヒラリと降りると、ソルの肩の上によじ登るフェレット。アルフを拘束するチェーンバインドが霧散すると、よろよろと力無く立ち上がる。どうやら本当に怪我は無いみたいだ。ほっと一安心しながら、ソルの肩の上で毛繕いしているユーノを見る。(まさかアルフを傷付けないようにしつつ無傷で勝つなんて)「それにしてもよく勝てたな、ユーノ」「何言ってるの? 僕に戦い方を教えたのはキミでしょ? しかも強制的に。このくらい出来なきゃ嘘だよ」ソルとユーノの会話。やっぱりソルが戦い方を教えてるんだ。自分の使い魔だし、当然だよね。「どうやって勝ったの?」でも、やっぱり自分の使い魔が他人の使い魔に劣るというのは―――たとえそれがソルのであっても―――悔しい。私はユーノに問い詰めた。「え? 簡単だよ。逃げ回る振りしてバインドをばら撒くように設置、設置したバインドに一つでも掛かったらブレイクされる前にバインドを全身に掛ける、後はひたすらバインドを重ね続けながらチェーンバインドで物理的に絞め上げる圧力を強くして、相手が動かなくなるまで圧力を掛け続ける。それだけ」「な、そんなことで!?」私のアルフに勝ったと言うのだろうか!?「そんなことでって言うけどバインドされた時に掛かる圧力って半端無いよ? 僕もこの戦い方をソルから教わった時は何を馬鹿なって思ったけど、はっきり言って凄くえげつないんだよソルが教えてくれたのって。だって、僕はソルに『相手を絞め殺せる圧力じゃないと意味が無い』って言われたんだから」「ッ!?」「関節を拘束して動きを止めるとかならまだマシな方、『首を絞めてそのまま息の根を止めろ』とか『全身の骨が砕けるまで絞めつけろ』とか『いっそ八つ裂きになるくらいに引き千切れ』とか言われたからね。もう本来のバインドの使い方じゃないよコレ。しかも物理的に掛かる力だから非殺傷なんて当然出来っこないし」「さっき怪我してないって言ったのに!?」ユーノの言葉に激昂してしまう。非殺傷が出来ない、つまり簡単に相手を殺してしまうということだ。ソルはユーノになんて恐ろしい戦い方を教えていたの!!「いや、だから怪我はさせてないってば。今のはあくまで極端な言い方をしただけだよ。僕自身殺しなんてご免だしね」僕を責めるんならその前にソルを責めてくれ、とユーノは続けた。「………ソル?」「ま、ユーノは攻撃魔法てんでダメだったし、戦う上での攻撃力の底上げとして教えた戦い方なんだがな。確かに非殺傷なんてもんに頼りがちな奴にとってはえげつねぇもんかもしれねーな」「そんな………」悪びれもせずに言うソルに、少なからずショックを受けてしまう。ぶっきらぼうだけど優しいソルの別の一面、まるで氷のように冷徹な表情を垣間見た気がした。「でもこれってミッドチルダ式魔導師には有効な戦い方だよね。拘束目的のバインドで攻撃してくるなんて普通思いつかないもん」「お前の世界の魔導師ってのがどんなもんか知らねーが、随分と生温い連中だってことだけは分かったぜ」「手厳しい発言だけど、ソルから見たら誰も彼もが甘く見えるんじゃないの?」「違いねぇ」項垂れる私の隣で、談笑するソルとユーノ。なんか私って放置されてる?「そろそろ帰るか」会話に区切りがついたのか、ふいにソルが言う。「そうだね、もうかなり遅いし。僕も眠くなってきたよ」「おいなのは、帰るぞ」「お兄ちゃんのアフォ、お兄ちゃんのアフォ、お兄ちゃんの………ほえ? あ、は~い」さっきからずっと放置されていたなのはが何事も無かったかのように立ち上がり、「えへへへ~♪」とソルの腰にしがみつく。「うわ、お前汗臭ぇ。くっつくなよ」「ひどっ! 酷いよお兄ちゃん!! さっきまで一生懸命戦って、それでも負けちゃった傷心の妹に慰めや労いの言葉をかけるとかじゃなくて汗臭いとか、お兄ちゃんはもっと女心とか乙女心とかを理解する努力をすべきだと思うの」「知ってるか? 男と女じゃ脳みそのつくりって違うんだぜ」「そんな生物学的なことを言ってる訳じゃないのに………ていうか、さっきフェイトちゃんが抱き付いた時に汗臭いなんて一言も言わなかったのに!! 私よりもフェイトちゃんの方がフレグランスな香りでもするってお兄ちゃんは言いたいの!!」「汗の匂い談義なんてするつもりは無ぇ、とにかく離れろ。汗がベトベトして気持ちワリぃんだよ」ギャーギャー言い合いながらじゃれつくなのはと、口では酷いことを言いながらあまり気にかけていないような態度のソル。む、何アレ。なのはがソルに抱き付いてる姿を見ると、何故かイヤな気分になってくる。この気持ちが何なのかよく分からないけど、こんな気持ちになるのはイヤだ。私はなのはに後ろから近付くと、両肩を掴んでソルから引き剥がす。「にゃ、何するのフェイトちゃん!?」「ソルが嫌がってるから、その原因を排除しただけ」「なっ!? お兄ちゃんは別に嫌がってなんかないよ!! これは私とお兄ちゃんの兄妹のスキンシップなの、何時ものことだから放っておいてよ」何時も? 何時もソルに抱き付いてるっていうの、なのはは!? なんて羨ましい!!「そ、そんなの、ずるいよなのは!!」「ずるくないよ~、当たり前のことだよ~」「くっ!!」私となのはがお互いの額を擦り付け合うくらいに接近して睨み合う。そこへ、横からアルフの声が聞こえる。「お二人さん、そのソルなんだけどね」「「何!?」」「もう帰ったよ」「「ええ!?」」何時の間にか人間形態になっていたアルフの言葉に慌ててソルの姿を探す。「ほらあそこ」言われて指差された方向を見ると、ソルの背中がかなり小さくなって視界から消えようとしている。「お兄ちゃん待って!!」なのはがソルの後姿目掛けて駆け出した。私もすぐにその後に続く。やがて追いついたなのはは、ソルの右腕にしがみつく。またあんなにくっついて!! こうなったら私も!!私はなのはとは逆に左腕にしがみついた。「あ! お兄ちゃんから離れて!!」「なのはこそソルから離れたら!?」また二人で言い合いを始めると、「………二人共黙れ」底冷えするソルの声で口を噤んだ。背骨が氷になってしまったかのような悪寒。『………な、なのは、もしかしなくてもソルって怒ると怖い?』『怖いなんてもんじゃないよ!! 鬼だよ鬼!!』「念話もやめろ。黙ってられないなら離れろ」「「ごめんなさい」」不機嫌になったとはいえ、ソルから離れるのは私もなのはも嫌だったのですぐに謝り、ビクビクしながら旅館に着くまで言われた通りに黙って大人しくしていた。SIDE OUT湯船に浸かりながら、私は横に居るフェイトちゃんを横目で盗み見する。すると、同じように私を横目で盗み見するフェイトちゃんが。「「ふんっ」」そして同時にお互い眼を逸らす。あれからどうなったかと言うと。まず旅館に着いて、お兄ちゃんに「二人とも風呂入れ」と言われたので頷いた。それはフェイトちゃんも同様。この旅館の温泉は二十四時間入浴可能なので、深夜に利用することも可能。そこがこの旅館の特殊なところだったりする。『俺もお前らの所為で入ることになっちまったし』ボソッと呟いたその言葉を聞いて、頭の中で電球が明かりをつける。『それなら私がお兄ちゃんの背中流してあげる!! 一緒に入ろ!!』これはチャンス。最近全然一緒に入ってくれなくなったお風呂にお兄ちゃんと入る良い口実となる。『ソ、ソルと一緒にお風呂だなんて、ず、ずるい………わ、私も』その時、顔を真っ赤にしたフェイトちゃんがおずおずといった感じで手を上げ進み出てくる。くっ、予想はしていたけど、まさか羞恥心を抑え付けて挙手までするなんて、相手は只者じゃない。『無理しなくていいよフェイトちゃん』『べ、別に無理なんてしてないよ、なのはじゃ信用ならないから』『………それどういう意味?』『その、ソルに変なことしそうで』『しないよそんなこと!!』人聞きが悪いったらありゃしない。しかし、『じゃ、俺が男湯に居る間にフェイトは女湯でなのはを見張っててくれ』冗談なのか本気なのかいまいち分からない口調でお兄ちゃんはそう言うと、男湯の暖簾を潜ってしまった。『あ、ウソ!? 待ってお兄ちゃん!!』慌てて男湯の暖簾を潜って追いかけようとしても、―――バチッ!『きゃ!?』入り口に結界が張ってあって入れなくなってる。………何時の間にこんなものを?さすがに結界を破って侵入すれば怒られるのは眼に見えているので諦める。せっかくのチャンスだったのに!私は渋々と女湯の暖簾を潜ることになった。回想終了。フェイトちゃんが余計な口出ししなければ今頃はお兄ちゃんの背中を流す自分が居たのに。そんな感じで私は今少し不機嫌で、フェイトちゃんとはさっきから無言で、牽制するようにチラチラ様子を窺う。それは相手も同じようで。二人しか居ない浴場は会話が無い為静まり返っている。ちなみにアルフさんは露天風呂の方に行ってしまって此処には居ない。まさかフェイトちゃんと二人っきりになるとは思ってなかったし。何を話したらいいのか分からないし。私は溜息を吐くと、早くお風呂から出てお兄ちゃんの顔でも見ようと思いながら湯船から出た。それを待っていたようにフェイトちゃんも。お風呂から出て着替えると、暖簾を潜って男湯の結界がまだ張ってあるか確認する。………無い。ということはもう此処にはお兄ちゃんは居ない。ならきっと休憩所の方だ。急ぎ足でそちらに向かうと、フェイトちゃんが後ろからついてくる。「なんで私の後についてくるのかな?」立ち止まり振り向いて聞く。「なのはは何処に向かってるの?」「休憩所だけど」「じゃあ私もそこに行く」「どうして?」「休憩するから」手に持ったコーヒー牛乳の瓶を見せる。それならこちらも文句は言えない。私は歩き出した。休憩所に着くと、丁度お兄ちゃんが自販機を操作していて、ガコンッと音がする。「お前らもう出たのか。もっとゆっくりしてりゃいいのに」「もう十分だよ。それよりユーノくんは?」「あいつならもう部屋に戻った」「ソルは結構早く上がるんだね」「ま、男は女より早いからな」牛乳瓶を手にソファに座るお兄ちゃん。私はその隣座ってお兄ちゃんにもたれると、それを見たフェイトちゃんが慌てたように私の反対側に座ってお兄ちゃんにくっつきます。むうぅ。一言文句を言いたいけど、騒ぐとまたお兄ちゃんを怒らせるので今は我慢。それよりもあることを思いつく。「お兄ちゃん、私も飲みたいな~」お兄ちゃんの手に持つ牛乳瓶が半分くらい無くなってから言った。「ああ? 買ってやろうか?」「一人じゃ一本飲み切れないから、お兄ちゃんのちょっとちょうだい」「しゃあねぇな」嫌な顔一つせず差し出された牛乳瓶を受け取る。(計画通り)早速飲む牛乳は、さっき戦闘していたこともあり、風呂上りということもり、もう一つのこともあり、とても美味しく感じる。「ソ、ソル、なのはにあげちゃったらソルの分無くなっちゃうでしょ? 私の分あげるよ、はい」な、なん………ですって!?反対側には顔をトマトみたいに真っ赤にさせたフェイトちゃんが、半分程飲みかけのコーヒー牛乳をお兄ちゃんに渡しているところで。まさか、フェイトちゃんはこうなることを見越していたというの!?「あ、ワリィな」何の躊躇も無くそれを受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らして飲むお兄ちゃん。それを見て頭から湯気を上げるフェイトちゃん。こっちも負けていられない。「お、お兄ちゃん、私はもう十分だからコレ返すね。だからフェイトちゃんに返してあげて」「ん? ああ、そうだな」お兄ちゃんはコーヒー牛乳をフェイトちゃんに返して、私から牛乳を受け取る。フェイトちゃんは首筋まで真っ赤にさせて返してもらったコーヒー牛乳を受け取ると、蚊の鳴くような声で「…いただきます」と言った。…………は!! しまった!!!しかし時既に遅し。顔を真っ赤に染めながらも、幸せそうな表情でコーヒー牛乳を飲むフェイトちゃんの姿に、何故か負けた気分になる。策士策に溺れる、っていう程のものじゃないけど、ささやかな幸せを独り占めしようとしたら、ライバルにもその幸せを分ける結果になってしまった。SIDE OUT牛乳を飲み終わると、なのはが髪を梳いてと喚くので手櫛ではあるがやってやる。すると、フェイトが羨ましそうにしていたのでなのはの後にやってやった。そして、二人は満足したのか、それとも戦闘の疲れが今になって吹き出したのか、俺にしがみつくように寝ちまった。「人気者だね、ソル」浴衣姿のアルフがアハハと笑いながら現れる。「うるせぇ」アルフは自販機で牛乳を買うと、俺の真正面に立ってニヤニヤしながら飲み始めて、あっという間に瓶を空にした。「私のご主人様が世話になったね」飲み終わった瓶を捨てると、フェイトを抱きかかえた。フェイトはぐっすりと眠っている。「アンタのおかげだよ」「ああン?」唐突なアルフの言葉。口調も神妙なものだった。「フェイトがこんなに幸せそうに寝てるところって私見たこと無いんだよ、情けない話だけどね。でも、アンタと知り合ってからのフェイトは以前と比べると別人みたいに明るくなった」「………」「だから、これまでのことを含めてアンタには感謝してる」「………俺はそこまで大したことをした覚えは無ぇ」「ま、アンタはそう思ってても礼は素直に受け取るもんだよ」「そうだな」休憩所の出口に向かってアルフは歩き出す。だが、ピタッと足が止まる。「勝手な話だけど、アンタに頼みがある」「頼み?」こちらに背を向けているのでアルフの表情は見えない。「もし………もし何かヤバイことになったら、フェイトのことを頼めないかい?」「は? どういう意味だ、そりゃ」「今は何も言わずに頷いてくれるだけでいいんだ」「だから言ってる意味が分かんねぇって」「頼むよ」「………」その声があまりにも真剣で、切実なものだったので黙ってしまった。アルフは肩を震わせていた。こいつの胸中が今どういうものなのか推し量ることは出来なかった。だが、―――似てるな。シンを俺に託した時のカイの声と。断腸の思いで搾り出した言葉なのだと分かる。だから、「分かった。その頼み、引き受けてやる」気が付けば勝手に口が動いていた。「本当かい!?」「ああ」「………恩に着るよ」そのまま振り向きもせずにアルフはフェイトを抱えて休憩所を後にした。残された俺は、「やれやれだぜ」と溜息を吐き、隣で蕩けた顔で眠る妹分を抱えて部屋へと歩き出した。お詫びを込めた後書きなんか感想板に、「クロスしてない他の作品のものを出すのはあまりよくないんじゃないか」という書き込みがありまして、やっぱり調子に乗り過ぎたかな? と反省しました。また、そういった意見に対して反論してくれたりフォローしてくれたりする方達に感謝を述べさせていただきます。ありがとうございます。私自身、型月作品が凄く好きだという理由で書いてしまったのですが、やっぱりこういうのは好きだからこそしっかりしようと思い、今後自重しようと思います。でも槍形態、「Lancer mode」だけはこのままで行きます。ゲイボルクをこれからは出さないように(なのはが使わないように)します。でも、書いてしまった以上今更削除する気は更々無いので、これからは出さないけど以前に書いたものに関しては一切加筆修正するつもりはありませんのであしからず。作品をより良いものにする為に皆さんの意見を参考にしつつ鋭意努力はしていますので、それでご容赦願います。ではまた次回!!!