オーリスは、自分がこれ程緊張するのはいつ以来かと疑問に思いながらDust Strikersの敷地内に足を踏み入れた。本局主導で設立された賞金稼ぎのギルド組織、Dust Strikers。管理局傘下という位置でありながら、実質的には”背徳の炎”の支配下であり私兵にして私設武装組織だ。ミッドの、首都クラナガンの近辺に、地上部隊に正面から喧嘩を売るようにして建築された人口建造物を見上げる査察隊の表情は、皆一様に不安そうだ。無理もない。此処が高ランク魔導師ばかりを集めた戦闘集団であることには変わりなく――しかもそのほとんどが管理局に属さない荒くれ者――それら全てを率いているのがソル=バッドガイなのだから。ある意味、ヤクザの事務所にガサ入れするより度胸が必要で。彼の者は情け無用の暴君、その存在は容赦を知らない火竜、全てを焼き尽くす紅蓮の炎、故に”背徳の炎”……と畏怖されている。犯罪者には一切の慈悲も与えず斬り捨て、文字通り半殺しにしてきた人物とこれから相対することになることを考えれば、緊張するな、不安になるな、と言うのは不可能である。加えて、オーリスはソルと面と向かって会うのが今日で初めてだ。写真や記録で何度も見たが、映っているその眼のほとんどが戦闘中の為、虫けらを見るような目線しか記憶にない、というのも大きいだろう。実際に会ってどんな人物か確かめたことがないので、粗暴な印象しかないのは追従してくる査察隊も同じだった。交渉材料になりそうなものを見つけるのは構わないが深入りはするな、とは父であるゲイズ中将から厳命である。自動ドアが開いた瞬間、軽く十は超える数の視線がオーリス達に突き刺さる。此処に所属している賞金稼ぎ達だ。ほとんどが若者で構成されており、それらに込められた感情はあからさまな敵意や、胡散臭いものを見るようなもの。査察が歓迎されないことは承知はしていたが、「何しに来たんだこいつら?」「帰れよ」という言葉を小声とはいえはっきり聞こえてしまうと精神的に辛い。「……」玄関ホールの中には”背徳の炎”の面子は誰一人として居ない。つまり、誰も査察など些細なこととして気にしていないのだ。査察を要求した『陸』に対する返答がメールで『好きにしろ』という文面が一行あるのみ。これだけで”背徳の炎”がどれ程地上本部を軽く見ているか理解出来る。(完全に舐められてるわね、私達『陸』は)地上本部の査察、と言えば誰もが萎縮する厳しいものだと噂されているというのにこの態度。彼らの無関心っぷりにはいっそ清々しさすら覚えてしまう。歯噛みしたい気分を堪え、針の筵の如き状態に耐え切れないとばかりに一歩踏み出したオーリスの横を、「「「ただいまー!!」」」少なからずオーリス達にとっては場違いで、賞金稼ぎ達にとってはいつもの者達が通り過ぎていく。それは十歳程度の三人の子ども、プラスして小さな飛竜だ。一人は赤い髪の少年、残る二人がそれぞれ銀髪の少女と桃色の髪の少女。と、子ども達に付き従う白銀の小竜。彼らにおかえりー、と声を掛ける賞金稼ぎ達の態度が自分達に向けるものとは百八十度違うのは当然だとオーリスは一人納得する。この三人の子どもはソル=バッドガイの子どもだ。自分達のトップの子どもに甘い顔をするのは社会的組織として自然の流れだ。と、奥の廊下から管理局の制服に身を包んだ一人の青年がひょっこり姿を現す。「あ、おかえりなさい三人共。さっき食堂でアルフさんがケーキ焼いてたよ」「ただいまグリフィスさん。そしてナイスな情報提供!!」「今日のおやつはアルフ特製のケーキですぅ!!」「やった!! パティシエアルフ最高!!」「キュクキュク!」「その前に手洗いうがいはちゃんとするんだよー。しないとお父さんに全身丸々炎熱除菌されるからねー」グリフィスと呼ばれた青年の言葉を聞いて、喜び勇んで奥へと走り出す子ども達。微笑ましい光景によって場の空気が和むのを肌で感じていると、青年がこちらに向き直る。「お待ちしておりました。私は此処、Dust Strikersの最高責任者をさせていただいている、グリフィス・ロウランと申します。本日はよろしくお願いします」敬礼しながら――管理局式の挨拶をしてくる青年にオーリスはいつもの鉄面皮を被って敬礼し返す。「こちらこそよろしくお願いします。私は地上本部――」「名前なんざどうだっていい」名乗ろうとした瞬間、低い声によって遮られた。「とっとと査察を済ませろ」いつの間にか、視線の先に――青年の背後に、銀縁眼鏡の奥に真紅の瞳を輝かせ、黒スーツの上に白衣をだらしなく引っ掛けた長身の男が立っている。不機嫌そうな口調の低い声。刃物よりも鋭い紅の眼つき。ただそこに居るだけで見るものを圧倒する存在感。「……”背徳の、炎”」後ろから怯えた声が鼓膜を叩く。査察隊の誰かが思わず零してしまったのだろう。もう既にオーリスの眼はグリフィスを捉えてなどいなかった。そうだ。眼前に立っているこの男こそ、悪名高き賞金稼ぎ”背徳の炎”、ソル=バッドガイだ。殺傷設定の魔法を躊躇わず行使するオーバーS、犯罪者を決して許さない紅蓮の魔導師。管理局に所属せず、それでいながら管理局内外問わず多大な影響力を持つ、要注意人物にして危険人物。そして、ジェイル・スカリエッティが最も興味を抱いているらしい男。「フン」つまらないものから視線を外すようにオーリス達査察隊から眼を逸らしソルは踵を返すと、後頭部を黄色いリボンで束ねた長い髪を揺らして歩き出した。「ついてこい、って言ってます」大きな後姿が離れていくのを見据えつつ、グリフィスが苦笑する。「結構人見知りするっていうか、単に無愛想っていうか、まあ、気難しい人なんです。あんまり気にしないでくださいね」そう言ってソルの後を追うグリフィスの存在が無ければ、きっと自分達はソルから発せられる圧力に押し潰されていたかもしれない。数秒、視線が合っただけで冷や汗をぐっしょりかいていたのだ。青年が自分達とソルの間に入る緩衝材になってくれることを感謝しつつ、査察が始まった。マリエルがシャマルに案内されたのは、女子寮内の一番端っこに存在するとある一室の前。「営倉とかに閉じ込めてる訳じゃ無いんですね」「まあね。本人はこれ以上こちらに危害を加える気は無いみたいだし。一応、魔法とかで暴れられないようにはしてるし、この部屋自体に封印処理とか施してるから大丈夫よ、きっと」そんなんで本当に大丈夫なんだろうか? 相手はとんでもないくらいに頭がイッてしまってる科学者が作り出した生体兵器で、なのはさんすら倒してしまう程の力量があるのに、と考えるマリエルを置いてドアノブに手を掛けたシャマルが「シャマルよ、入るわね」と声を掛けて入室。マリエルもそれに続いた。「何の用だ?」心此処にあらず、とばかりにぼんやりとした声の主はこちらのことなど見ようとせず、ベッドに横になった状態でテレビをやはりぼんやりとした様子で眺めている。いや、というよりも、やることがないので適当にテレビを流し、見るともなしに見ている、といった感じか。ジェイル・スカリエッティが製作した戦闘機人。NO,3トーレ。(……それはそうでしょうね)軟禁状態でやることがない以前に、何かをする為の手足が彼女には無いのだ。戦闘によってアインに消し飛ばされたらしい。五体不満足で何をやれと? 誰しもが思うことだろう。そして、今回マリエルがソルに呼ばれた理由が、そんな彼女に普通の日常生活を送れる程度の義手義足を作ってくれという内容で。白状すれば、何故ソルが敵であったトーレに気を遣うのか理解に苦しむ。基本的に”背徳の炎”は一度敵対し、殲滅した犯罪者に対して今後のフォローなど一切行わない。半殺しにして、その後管理局に引き渡して、それでお仕舞いの筈だ。尊敬する人物から直々に頼まれた仕事だから快く引き受けはしたが、やはり釈然としない。何故今回に限って? そもそも何故すぐに管理局に引き渡さない? という疑問を隣に居るシャマルが読み取ったのか、彼女は仕方が無いとばかりに小さく溜息を吐いて口を開いた。「色々と聞きたいことがあるでしょうけど、ごめんなさい。今は何も聞かないで仕事に徹してくれるとありがたいわ」「まあ、別に構いませんけど……」一先ず疑問は頭の隅っこに追いやって、経済ニュースに視線を注ぐトーレの前まで移動し、横になっている彼女と視線を合わせるように中腰になると自己紹介をする。「初めまして、私は本局所属第四技術部主任、マリエル・アテンザです」「トーレだ」意外にも彼女はあっさりと興味をテレビからマリエルへ移し、まともに応対した。何か別のことを考えているような、ぼんやりした印象は相変わらずだったが。「これからあなたの調子を診せてもらうことになるんだけど、良いかしら?」「好きにすればいい。敗北した時点で抵抗する気も無い」「そう。じゃあ服を脱がせるわね。シャマルさん、手伝ってもらえますか?」「ええ、勿論」シャマルとマリエルは二人でトーレの入院着のような服を脱がし、検診を行う。本局の、ナカジマ姉妹をいつも検診している設備が整った場所ではないので、どうしても簡易なものになってしまう。が、シャマルが予め見せてくれた彼女のカルテとデータを見比べながらの検診だったので、割と簡単に診ることが出来た。トーレもトーレで、終始大人しくしていた。何か変な箇所はないか? と聞けば「脇腹に違和感が」と答えてくれるので先の言葉に嘘はないのだろう。「私、此処までポンコツにされた戦闘機人って診るの慣れてないから正直判断が難しいんだけど、どうなの?」「結構、っていうかかなり酷いですね。基礎フレームとかボコボコだし、骨格もあっちこっち歪んでます。命に別状が無いのが不思議なくらいなんですけど……っていうかどんな無茶したらこうなったんですか? 手術しないと元に戻りませんよ」申し訳無さそうな表情で問うシャマルにマリエルが呆れたように答える。「手術すれば元に戻るの?」パッ、と表情を輝かせるシャマルの反応に、横になっているトーレの目が大きく見開くのをマリエルは見逃さなかった。「戻りますけど、以前のような戦闘能力を持たせるのは難しいと思いますよ。リハビリも大変だと思いますし」「あ、それは大丈夫。私達はトーレに戦闘なんてさせる気無いから。健常者と同じような日常生活を送れるようになれば文句は言わないわ」「おい待て、どういうことだ?」割って入るようにして、今まで考え事をしていたかのようにボーッとしていたトーレが、我に返ったのか戸惑った声で訊ねてくる。この態度は明らかにマリエルが此処に呼ばれた理由を聞かされていないことだと判別出来る。「まるで今の会話は私を修理する予定があるように感じるぞ? まさか修理するつもりなのか? 私は敵だぞ? 高町なのはを瀕死に追い込んだ、お前達の憎き敵だぞ? そんなことをする義理など”背徳の炎”にある訳無いだろう?」「瀕死に追い込んだのは事実だけど、なのはちゃん、もう全快して元気に走り回ってるわよ。結果的に見れば、碌に修理も出来てないあなたの方が酷いわ」「何っ!?」戸惑いを通り越して驚愕するトーレの反応は当然だった。自分が殺し掛けた人間が一週間も経たずに全快してると聞けば、普通なら耳を疑う。どんな化け物だと戦慄する。「それにあなたはもう私達と敵対する気なんか無い”ただのトーレ”なんでしょ? 罪を認めて贖うって決めたんでしょ? 違ったかしら? 隙を見つけて逃げ出してスカリエッティの所へ帰ろうと企む”戦闘機人NO,3トーレ”じゃないんなら出来る限りのことをさせてもらう、それが私達”背徳の炎”の総意よ」迷惑だったかしら? と悪戯っぽくウインクしてみせるシャマルに、トーレは震える口調で更に問う。問わざるを得ない。「許すというのか、私を?」「許す訳じゃ無いけど、これから贖罪をしようとしている人間を邪魔する程私達は狭量ではない、とだけ言っておくわ」「……」黙り込んでしまうトーレの頭にシャマルは手を伸ばし、優しく撫でながら言葉を紡ぐ。「犯した罪は消えない。どんなに後悔しても、過去は決して変えられない。罪は、死ぬまで許されないものかもしれない……でも、人は罪を贖うことが出来る。その為に足掻き、生きることは許されてる」心に刻むように、シャマルは続けた。「安易な死は逃げでしかない。だから生きて、過去を清算する為にはどうすればいいのか自分で考えて、一生懸命足掻きなさい。少なくとも私達はこの十年間をあの人と、ソル=バッドガイと共にそうやって生きてきたわ」手を離して立ち上がり、シャマルは背を向けると部屋を後にした。「あ、置いてかないでくださいよ。えっと、その、また近い内に来るから、その時もよろしくね」先に出て行ってしまったシャマルの後を追う形でマリエルも退室。二人が居なくなり、静かになった部屋に一人取り残されたトーレは、「死は逃げ……生きて足掻け、か……全く、容赦が無くて無慈悲な連中だと聞く割には、随分とお人好しではないか」呆然としたように独り言を零す。「殺すのではなく、私に贖罪をさせる為に生かす、か……”背徳の炎”、妙な連中だ」けれど、今初めて、一人の人間として、一個人としての彼らに興味を持てたような気がした。と、そんな時、唐突にドアがノックされる。何か忘れものでもしたのだろうか? 首を傾げて待っていると、やや躊躇うようにして静かにドアが開き、「お前は……!」「久しぶりね、トーレ」トーレにとっての姉であり、同胞でもある戦闘機人、NO,2ドゥーエが『素顔』のまま、エプロン姿で現れた。背徳の炎と魔法少女StrikerS Beat30 知れど、見えずスカリエッティのアジトは――研究所は薄暗い。だが、今はいつもより更に漂う空気すら澱んでる気がして一層重苦しく、気分が滅入ってくる。かと言って此処は彼らにとって家も同然だし、街に出て気晴らししたくても管理局に見つかったら何かと面倒なので外出出来ない。負のスパイラルに陥っているのが現状だ。それもこれも、原因は部屋の隅で体育座りをして落ち込んでいるジェイル・スカリエッティで。先の廃棄区画での戦闘。高町なのはを撃破したトーレの活躍に、ウーノと手を取り合って狂喜乱舞、はしゃぎ回っていたと思ったら、いつの間にかトーレがリインフォース・アインによってスクラップ同然にされてしまった。しかも戦闘中に彼の作品や理念などを全否定され、その上でトーレ以上の性能を見せ付けられ、完膚無きまでに敗北を喫して、今まで生きてきた中で一番へこんでいるのである。何より、ジュエルシードの暴走を次元震ごと消滅させた膨大な未知のエネルギー反応が戦闘機人事件当時のソルと全く同じものであることと、軌道衛星が辛うじて映像として捉えた黒い砲撃との二つが、死にたくなる程の恐怖を生み出していた。ジャミングによって途中まで映し出されたデータで分かったリインフォース・アインが持ち得る能力は、トーレに匹敵する高速機動と、高町なのはを圧倒する射撃・砲撃能力と空間殲滅力、ソル=バッドガイに比肩する程の近接格闘能力に加え、炎熱・電気・氷結の魔力変換資質だ。所謂、器用万能と呼ばれるような超一流の魔導師。あまりにも火力と地力が違い過ぎてナンバーズでは話にならない。最早『こんなのどう勝てばいいんだよ』状態は、しょうがないと言えばしょうがないので、ウェンディみたいに陰でこっそり「ドクターってメンタル弱いッス」とか言ってはいけない。今のアインに挑むことは既にジャスティスに挑むことと同義語になりつつあり、はっきり言って人類には無理難題だ。聖戦時代の聖騎士団だって尻込みする不条理だろう。志願兵や一般隊員は勿論のこと、小隊長・大隊長クラスでも一目散に逃げることを考える。「奴を倒して聖戦を終わりにする」と言って後退せず喜び勇んでジャスティスに戦いを挑むのは、己の力量を弁えない蛮勇が過ぎる馬鹿か、たった一人でギアの軍勢を屠る実績と能力を併せ持った団長クラスの実力者のみだ。……まあ、たとえ百年掛けてもそれでは勝てないが。何度もフォローするような形になるが、スカリエッティ側が――つーか彼が落ち込むのは仕方が無いことなので、豆腐メンタルとか言ってはいけない、絶対に言ってはいけない。「リインフォース・アインからはドラゴンインストール使用時のソル=バッドガイと全く同じ、未知なるエネルギー反応が検出されています。これはつまり、彼らの公的なプロフィールに記載されている使い魔と主という主従関係が偽りであることを意味し、同時に同じ兵器という同類関係を表しているのでしょうね」「……」ウーノが話を振ってみるが、スカリエッティは無反応だ。此処数日、ずっとこんな感じである。心が病んでしまった精神患者のようで見るに耐えない。彼の世話を任されているウーノとしては、一刻も早く元気になって欲しいものだが、相変わらずスカリエッティは真っ白に燃え尽きたかのように動かない。その時だ。外部通信を知らせる電子音が響く。誰だ!? こんな、ドクターが白痴同然な状態に連絡を入れてくる非常識な者は!? 実験動物にしてからホルマリン漬けにしてやろうか!! という内心を押し殺しつつ通信回線を開くと、表示された空間ディスプレイに思いもよらない人物が映っていた。『ほ、本当に大丈夫なのかドゥーエ? ”背徳の炎”に気取られでもしたら、一巻の終わりだぞ?』『だーかーらー、この部屋には監視カメラなんて仕掛けられてないし、そこまでガッチガチに番をしてる人も居ないの。トーレが部屋から出れないように魔法的な処理はしてるだろうけど、それだけよ。それに録画した動画を私の部屋から送信するだけにするから大丈夫だって何度も言ってるでしょ? っていうか、もう録画始まってるわよ』『なんだと!? それを先に言え!!』泡を食ったように慌てふためくトーレ――当然手足は無いので、ベッドに横になっているのだろう――と、映っていないので声しか聞こえないドゥーエだ。『ハイ、スマイル!!』『待て、ちょっと待て! ビデオレターなんて送ったことがないから何を言えばいいのかさっぱり分からないぞ!!』『何を言えばいいのか分からない!? 私だってビデオレターなんて送ったことないから知らないわよ!! っていうか送るような相手すら存在しないわ……とにかく何か挨拶っぽいの言えばいいんじゃない?』『挨拶っぽいものとは何だ!? 無責任だぞ!』『無責任じゃないわよ。それを考えるのはトーレでしょうが』『お前が勝手にやり始めたことだろう!!』『ラボに残したドクターと姉妹達が心配だって泣き言漏らしたのは何処の誰?』『泣き言など――』『あら? ベソかいてなかったかしら? あのクソアマに負けてキィィィ悔しい、って』『誰の真似だそれは!?』やいのやいのと騒ぎ出す向こう側。暫くの間、不毛なやり取りが繰り広げられていたが、言い争いの中で突如ドゥーエが「ああ! もう時間無いわよ!! 早く何か気の利いたこと言って終わりにしなさい!!」と告げて、どうやら纏めに入るらしい。『……その、私は”背徳の炎”に敗北し捕まりはしたが、とりあえず元気だ。心配しないで欲しい。よく噂になっていた非人道的な拷問も今のところ受けていない。此処の連中の対応も見る限り普通、いや、むしろ捕虜にしてはかなりの厚待遇だと思う。私の修理の話も出ているくらいだしな』『ソル様が戦闘機人に、というか生体兵器という存在そのものに同族意識をお持ちになってることを感謝すべきね。残り三十秒』『急かすな! ……それから、私はもう皆の所へ戻ることはないと思うが、此処から逃げ出せたとしても戻るつもりはない。今でも管理局のことは好きになれないし、ドクターが間違っているとは思わないが、私は私なりに生きていこうと決めた……今まではドクターの戦闘機人として戦うことしか頭になかったが、こういう風に考えられるようになったのは高町なのはと、リインフォース・アインの二人と戦った所為だな』これまで一度として見たことが無い、柔らかな微笑を浮かべると、彼女はこう言った。『ドクター、私をこの世界に生み出してくれて、本当にありがとうございます。碌に役に立つことも出来ず、与えられた命令も遂行出来ぬまま、あなたの傍から消える親不孝者をお許しください。まだ、これから先どう生きていけばいいのか分かりませんが、頑張ります。それと、残していく姉妹達のことをどうかよろしくお願いします』それを最後に、空間ディスプレイはブラックアウトして沈黙する。目頭が熱くなるのを感じて、ウーノは思わず顔を覆い、胸の奥から込み上げてくる何かを必死に堪えた。戦闘機人として生まれ、戦闘機人として戦った妹のトーレは、もう自分達の所へ帰ってこない。己の存在意義を賭けて戦い、敗北したにも関わらずそれでも尚自分達を気遣い、こうして危険を冒してまでメッセージを送ってきた彼女は、ウーノにとって間違いなく自慢の妹だ。ふと気が付けば、「……っ!!」いつの間にか部屋には姉妹達全員が集まっていて、口々に「トーレ姉……」「トーレ姉様っ!!」とか言って泣いているので、かなり驚いた。何処から沸いてきたんだこいつら? と思ってる間にクアットロがウーノの袖で鼻をチーンとしようとしていたので眼鏡のブリッジに拳を捻じ込む。冷たい床の上でクアットロがのた打ち回るすぐ傍に、立ち上がったスカリエッティが居た。「ドクターが、立った?」数日間生きてるのか死んでるのかよく分からん廃人同然の精神状態だったスカリエッティが、その顔に生気を取り戻した、生き生きとした表情でいつものを爬虫類染みた笑みを浮かべ口を大きく広げて哄笑する。「……トーレは負けたとはいえ、己の進むべき道を見つけることが出来たかもしれないのだね。戦うことしか知らない彼女が敗北を機に死を選ぶのではないかと不安だったが、そうではないのなら良しとしよう!!」急に元気になった彼に皆は唖然。テンションのアップダウンが激し過ぎて、実は躁鬱病じゃないのかと疑ってしまう。ただ、彼は彼なりに娘のことを愛していたというのが判明して、少し嬉しい。「そうさ。彼らが私のことをどう言おうが、私は私の私による私の為の考えに基づいて進むだけ。彼らは彼ら、私は私だ。他人の言うことなど知ったことではない」「……ドクターらしい台詞、なんか凄い久しぶりに聞いた気がするッス。さっきまで物言わぬ捨てられない粗大ゴミだったのに……元気になったのは良いッスけど、これはこれで若干鬱陶しいような……まあ、それでこそドクターッスからね」ポツリと呟く、その割には結構毒を吐くウェンディに異論を唱える者は誰一人として居なかった。「では、査察は以上で終了ですね」特筆するようなことも、指摘されるような問題も無く、淡々と事務的に行われた査察が無事終わったことに、グリフィスは内心で安堵の溜息を吐きながらオーリスに確認を取るように言う。「ええ。ですが一つだけお訊ねしたいことがあります。よろしいでしょうか?」疑問系でありながら拒否は認めない強い口調に、それが今回の目的だろうと邪推しながら隣に居るソルに、どうしますか? と視線で相談を持ちかけると、俺に任せろとばかりに彼は一歩前に出た。「何だ?」銀縁眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ、査察隊を睥睨する眼を不機嫌そうに細めるソルの威圧感は慣れているグリフィスですら後ずさりたくなる程の圧力があり、事実、睨まれた査察隊の数名が小さい悲鳴を漏らして尻餅をつく。しかし、レジアス中将の秘書官を務めるオーリス・ゲイズはその程度で屈する訳にはいかない。鉄面皮を剥がされないように平静を装いながら問い詰める。「先日の戦闘による廃棄区画の消滅。こちらに所属するリインフォース・アインが戦線に加わったことによって引き起こされましたが、そのことについてどうお考えでしょうか?」「質問の意味が分からん」まともに応答する気など更々無いソルの態度にグリフィスは胸の内で ああ、やっぱり、と嘆息。それはオーリスも同じだったのか顔色一つ変えずに問答は続く。「ジュエルシードが暴走し次元震が発生して、それからすぐに未知のエネルギー反応が検出された後に事態は収束しました。残念ながら戦闘データはその前の段階で途切れてしまったので何が起こったのか分かりません。ですが、リインフォース・アインが何かした、というのは間違いありません」「で?」「つまり、貴方達”背徳の炎”はロストロギアを不法所持しているのではないか、という疑いがあります」「ほう」邪悪に唇を吊り上げ凶悪な笑みを見せるソルの反応にグリフィスは気が気ではない。段々、胃が痛くなってきた。「詳しい話をお聞かせ願えませんか?」「その程度の些事にか? 断る」「さ、些事……?」あからさまに嘲笑染みた口調による一蹴。ソルの態度に今すぐこの場で卒倒したい気分になるグリフィス。さしものオーリスも鉄面皮を揺らす。そんな彼らを捨て置いて、ソルはやれやれとうんざりしたように溜息を吐く。「未知のエネルギー反応? 知ったこっちゃねぇな。ロストロギアの不法所持? もしそうだったら何だってんだ? 言ったろ、テメェら管理局に付き合ってられる程暇じゃねぇんだよ。グリフィス、査察が終わったんなら俺は戻るぜ」信用してない人物にはとことん冷たく会話する気が無い、と言うか眼中に無い彼は踵を返し歩き出す。「今のは、問題発言ですよ!?」表情を厳しくさせたオーリスがその背に大声をぶつける。足は止まりはしたが、振り向きもせず声が返ってきた。「それがどうした? 俺達を排除したいのか? 言うことを聞かない巨大な力は危険だから排除する、と。そうやって民衆を扇動して質量兵器もまんまと排除し、魔法至上主義の世界を作り上げたのか。管理局の創始者ってのはご立派だな」皮肉に彼女の頬が引き攣る。そこでソルは肩越しに振り返った。「時空管理局。テメェら管理局は何を管理するんだ? 何を管理したいんだ? 目論見通り次元世界に住む人間から質量兵器を奪い取り、魔導以外のエネルギー利用を許さず、魔導師の大半を組織の管理下に置くことには成功したが、自分達が推奨した魔導という個人の才能に偏った力に頼った所為で、慢性的人材不足という問題を何年掛かっても解決出来ない未熟な組織。その癖、他人が自分達の知らないものを使っていると聞けば『とりあえず』ロストロギアと喚いてどいつもこいつも眼の色を変えて管理下に置きたがる。ハッ、ご苦労なこったな、身の程を知れ」言いたいことだけ言って、今度こそ歩み去っていく。多分に偏見も混じっている内容――というかソルはあえて誇張するような表現を嫌味ったらしく使っているのがグリフィスには理解出来た――ではあったが、こうして並び立てられると否定する要素が無いなと納得せざるを得ない。管理局員として耳に痛い話でも右から左に聞き流す訳にはいかない。未知のエネルギー反応について、アインは『心当たりはある』と言っていた。当然、ソルを含めた他の面子も『心当たり』が何か知っているのだろう。そして”背徳の炎”はそれを管理局に知られたくない、ということだ。そういう背景を知っているだけにグリフィスとしてはソルがさり気無く論点をずらして査察隊を煙に巻こうとしているのがヒシヒシと感じられる。どんなことがあってもアインを守る、というソルの意志が垣間見えた。同じ男として、ある意味尊敬すべき姿勢だった。そこまで必死になるなら逆に興味が沸いてくるが、下手な勘繰りが過ぎれば火達磨になるのは火を見るよりも明らかなので、自ら好んで危険に首を突っ込む気は無い。(これが僕達とソルさん達の適切な距離、なんだよな)必要以上に近付かせない、近付かない、踏み込ませないし、踏み込まない。これさえ守れば問題は何一つとして存在しない、ビジネスの上で成立した関係。理解はしているし納得もしているが、寂しいと感じてしまうのはまだ僕が子どもだからかな? そんな風に疑問を抱く彼は、誰にも気付かれないように小さく溜息を吐いた。査察隊を突っ撥ねてから嫌な気持ちを切り替えると、真っ直ぐ足を向けた先は食堂である。ヴィータとユーノとザフィーラにヴィヴィオを頼んでおいたので、もし居るとしたら食堂だろうと思ってのことだ。しかし、踏み込んで食堂内を見渡しても小さな金髪頭は見当たらない。代わりに見つけたのはテーブルに噛り付くようにして勉強している赤髪と銀髪と桃髪の悪ガキ三人で。「キュクー」三人の傍に居たフリードがいち早くソルの出現に気付きパタパタと羽ばたいて飛んでくる。銀縁眼鏡を外して白衣のポケットに押し込むと、胸に飛び込んできた小竜を受け入れ抱き留めた。「ヴィヴィオ知らねぇか?」テーブルまで歩み寄って訊ねると、構ってもらえると期待したのか慌てたように勉強道具を片付けて、満面の笑みで答える。「「「知らない。でも一緒に探す」」」異口同音。息ピッタリの見事なハモり。こいつら何処かの合唱団に入れてみようか、良い経験になるかもしれないと考えを巡らせつつ、「そうか」と返して回れ右して食堂を出る。その後ろをカルガモの雛のようについてくる子ども達。微笑ましくて思わず漏れてしまう苦笑。探すとはいえ、闇雲に探しても簡単には見つけられるとは思わない。何せヴィータが居る。あいつは悪戯大好きな困った奴なので、もしかしたら何か企んでいる可能性が高い。かくれんぼ、と称して姿を消し、ソルがヴィヴィオを心配して探し出すのを陰から覗き込みつつほくそ笑む、というようなことを仕出かしたとしても不思議じゃない。一度立ち止まり、どうしたものかと黙考しながら首を回し、鈍い音を立てる。首の中で鳴るゴキリゴキリという音を聞きながら”バックヤードの力”を使い、オルガンを発動させて周囲に存在する魂の位置を確認した。普通に探すよりもこちらの方が遥かに早い。さて何処行きやがった? 脳内に映るマップ上に点在するいくつもの魂。その中でヴィヴィオに該当するものを探す。と、程なくして見つけたが、意外な場所にあって若干首を傾げた。(俺の部屋?)しかも、ヴィータもユーノもザフィーラも一緒である。四人揃って何やってんだ? と思いつつ、足早に寮の自室へと向かう。子ども達を引き連れて寮に赴き自室に入ってみると、穏やかな寝息が四つ聞こえてくるではないか。抜き足差し足忍び足でキングサイズのベッドまで近寄って様子を確認してみれば、子犬形態のザフィーラとフェレット形態のユーノ、ヴィヴィオとヴィータが並んで寝ている。どうやら遊び疲れて、そのまま眠ってしまったのだろう。「風邪引くぞ、馬鹿が」四人に掛け布団をかけて退室。ドアを閉めて子ども達に向き直り、これからどうするか問うとエリオが笑顔で「模擬戦!!」と答えるので本当にそれでいいのかキャロとツヴァイの顔色を窺ってみるが、どうやら反対意見は無いようだ。「お前らそんなに俺と模擬戦したいのか? ……しゃあねぇな」承諾を得て、わーい!! と喜ぶ三人。すっかり趣味が模擬戦になっている子ども達と共に、その場を後にした。日がとっぷり暮れて、夜の帳が降りてくる。場所は女子寮、なのはの自室。外から光が差し込まなくなったので電灯を点け、本を読む上で支障が無いようにした空間。今眼の前では、瞼を閉じ集中力を極限まで高めたシグナムが無言のまま虚空に手を翳し、法力を発動させようとしていた。「水よ」トリガーヴォイスに合わせて空気中の水分が集束し、握り拳大の水の玉が生成される。「前より全然上手いじゃん。じゃ、そこから形態変化。水を氷に変えてみよう」「う、うむ」アルフに促されたシグナムが自信無さそうに頷き、続いて新たな法力を行使するが、「あっ」制御が甘かったのか、水の玉は氷となる前に星の引力に従い、バシャッと床を濡らす結果になってしまった。「むぅ……分かっていたことだが火属性と違って水属性は重い。火の十数倍は扱い難いな。特に水を凝固させるとなると……液体から気体にするのは割と簡単なんだが」「まあ、システム面の扱い易さでそうだし、質量が無いに等しくて上昇する性質のある火と比べても、密度が高まればその分加重されてく水じゃ引力への抵抗も考慮すると重く感じるのは仕方無いよ。相性の問題も加味するとシグナムがより一層強く『重くて難い』って感じるのは当たり前だけど、随分上手くなったもんだね? つい数ヶ月前までは火以外の属性って発動すらしなかったのに」感心しながら法力を発動させ、アルフは床を濡らした水に行使する。と、ビデオが逆再生されるようにして水が引力に逆らって浮かび上がり、集束して手元で再び水の玉を形成する。そこから更に水の熱を奪い分子結合させ――つまり凝固させて氷の玉にしてみせる。火属性と最も相性が良く『加熱』を得意とするシグナムにとって、水属性を行使することと『冷却』――熱を奪うことは難易度がかなり高い。第一段階の『空気中の水分を集めて液状にする』ことが可能になっただけでも上出来だとアルフは思う。「実は暇な時、こっそり練習してた。未だに火以外は拙いが、もう発動しないことはないぞ」賞賛の声を受け、照れたように自身の頬をポリポリかくシグナム。その隣でははやてが教科書片手に、先のシグナムと似たような形で法力を行使しようとするが、上手くいかないらしい。火属性を得意とするシグナムとは逆に、はやては水属性を得意とする。そして『加熱』がお手の物なシグナムとはこれまた逆に『冷却』が上手い。なので、はやてが水属性を行使することはそれ程困難ではないのだが、その逆属性である火は彼女にとって不得手となっていて。「うきゃ!?」彼女の手の平の上でバンッ、という音と同時に小さな爆発が生まれた。本人は火の玉を顕すつもりだったのだが、酸素の化合が上手くいき過ぎて爆発という失敗に終わった。火は四属性の中で最も扱いが簡単だからこそ、顕現された事象に術者の実力がモロに出る。つまり、この結果が意味しているのは、はやてが出力過多気味な使い手である、ということ。水属性を扱う時なら誤魔化せていた点が、いざ他の属性でやってみると力が入り過ぎて暴発し易いことを示している。「ううぅ、また失敗したぁ。水なら簡単に形態変化まで扱えるのに……私って火属性の才能無いんやろか」「こればっかりは練習するしかないねぇ。属性に応じた加減の仕方を覚えるしかないし。でも、属性の才能あり無しで悩むのはナンセンスだよ。戦闘で一つの属性しか使ってない奴なんてゴロゴロ居るじゃん、ソルとかエリオとかカイとかシンとか。一能突出もありだと思うけど? むしろアインやお姉様みたいに全属性使ってる方が珍しい」「それ戦闘に限った話やろ。戦闘以外ならソルくんもカイさんも全属性普通に使えるやん」「主はやて、どうか気を落とさないでください。どうして失敗するのかは分かっているのですから、後はいかにしてリラックスしつつ力を抜くかです」シグナムに励まされ「せやな」と気持ちを立て直したはやてが再挑戦するのを視界の端に収めつつ、法力で人差し指の先にプラズマ球を生成したフェイトがなのはに話しかける。「四属性の扱い難さってさ、はっきり言って当てにならないよね」「そうだね。火が一番簡単で雷が一番難しいって教えられたけど、かなり個人差あるし」教科書から眼を離さずなのはが応じた。法力の四属性の扱い易さを順番で表せば、火→風→水→雷の順だが、これはあくまで一般論である。教科書に記載されている術式の難易度も順番通りなのだが、いざやってみると属性によっては「私こっちの方が簡単なんだけど」とか「あれ? こっちよりこっちの方が難しいよ?」ということが多々あった。事実、フェイトは最も難しい雷属性をそれなりに使いこなせるが他の属性がそうでもないし、はやてのようなタイプも居る。該当するのはこの中でシグナムだけだろう。なのはなんて得意不得意の属性すら無いどころか、どの属性も同じ難易度に思える。この場で唯一の例外はアルフだ。四人の教師役を担う彼女は既に師のDr,パラダイムから免許皆伝をもらっていて、四属性を扱う上では法力使いとして上の上に位置していた。最初の頃は皆と同様に難儀していたが、元々主のサポートが仕事の使い魔の性質上、魔力や術式の細かい制御に優れていた為、コツを掴むとトントン拍子に上達していったのだ。「とまあ、今日はこのくらいで終わりにしようか。もう夕飯の時間だし」言い終わるタイミングに合わせたかのようにアルフの腹の虫が鳴き、お開きとなる。五人はなのはの部屋を後にすると、女子寮を出て食堂へ向かう。その途中、シグナムがなのはに質問をぶつけた。「突然勉強会をしようと言い出した理由は、やはり戦闘機人に敗北したからか?」「うん。これから先魔法が使えなくなったからって何も出来なくなるのは嫌だし、法力が上達して損することなんて無いから」「確かにな」なのはの返答にシグナムは鷹揚に頷く。「せやけど、虚数空間の中じゃ法力も魔法と同じで無効化されるんやろ? 虚数の世界に実数から成るものは干渉出来んとかなんとかそんな理由で。んで、それを防ぐ為に必要なのが、法力の上位互換”バックヤードの力”やったか……先は長いなぁ」「12法階を超えての最適化、位相変化による虚数への干渉、その為のインターフェイス構築と調律……同時処理するコマンドが一気に増えるね。私達、今のままじゃ暫定ダイアトニック内での調律ですらまともに出来るのか怪しいよ……」横からはやてが口を挟み、続いてフェイトが山積みな課題を口にして表情を暗くさせた。次元世界で誰もが認知している魔法――科学の延長線上に存在するそれと違い、法力は御伽噺に出てくるような『本当の意味での魔法の力』だ。事象を顕現するその力は、術者の思い通りに物理法則を捻じ曲げ、森羅万象をも意のままに操り、更には存在し得ないものすら具現化することが可能な、限りなく万能に近い力。それ故に修得が困難であり、制御も難しい。たとえ修得出来たとしても、最終的に魔法と同程度の結果しか生み出せない場合も多いので、そこまで重要視するべきものではない筈なのだが、なのはが言う通り上達しておいて損は無いのも事実。「努力を惜しまず諦めなけりゃいずれ必ずものに出来るから、焦らずじっくりやるんだね。手ならいつでも貸すからさ」軽快な励ましを送りつつ、アルフは四人には見られないように眉根を寄せた。そう。この四人は、今言った通り、いずれ必ず法力をものにする。自分にはそれが分かる。確証は無いが、なんとなく感じるのだ。遠くない未来、近い将来――個人の努力が実を結んだ結果か、進化の過程か、ギア化によるものか、サーヴァント化によるものかは不明だが。既にサーヴァント化してしまったザフィーラを除く自分達は皆、緩やかに進化している。特になのははトーレ戦で死に掛けたのが功を奏したのか、他より頭一つ分抜きん出ているし、以前よりも法力行使が上手くなっている。”あの男”、GEAR MAKERが残した最後の思惑。ソルのギア細胞が持つ『鍵』と意味。それによってもたらされるであろう結末を、アルフはソルのマスターゴーストに到達した者として見届ける義務があった。そもそも進化とは何か?厳しい生活環境下に置かれた生物が、環境に適応する為に世代を重ねて変化していくことだ。例えば、突然変異によって寒さや病気に強い抵抗力がある遺伝子を持った個体が誕生し、生き残ったその個体から次の世代に遺伝していくことで進化が成されていく。しかし、科学文明が発達した人類には進化する要因が無い。法力が理論化されたあの時点で、既に人類の進化は当の昔に終わっていた。何故なら、進化とは自然界の厳しい生存競争の中でのみ促されるものであり、医療技術が発達し食料が豊富にある人類の生活環境では進化する必要が無いからだ。故に、始まりの三人が提唱した進化とは、法力を用いて外因的に進化を促し、遺伝子を操作し、己の都合の良いように突然変異を起こさせること。それも、本来ならば長大な年月と多くの世代を重ねることによって成される進化を、たった一つの世代で終了させるという代物。後に人類が地球を飛び出し、生物が生きるのに厳しい環境である宇宙へと進出しても容易く適応出来るように……それこそがギア計画が目指していた本来の目的だ。結果として生まれたのがギア細胞。既存生物に移植することによって宿主の遺伝子を組み替え、あらゆる環境に適応する戦闘能力と生命力を有する肉体へと変異を促す、進化への『鍵』。此処までが、法力講座の最中に雑談としてDr,パラダイムから聞かされた話。だが、これから先の未来についてどうすればいいのかなど、アルフには分からない。ソルのマスターゴーストに到達してから暫くして、法力の師であり天才法術家でもあるDr,パラダイムに相談を持ち掛けたことを思い出す。『……なるほど。フレデリックの細胞が、真の”進化を促す鍵”になると……』彼が鼻先に引っ掛けた眼鏡を押し上げる所作を終えるのを待って、問う。『Dr,パラダイムは、どう思う?』『結論から言おう、あり得ないことではない。アルフ、お前も知っていることで今更かと思うが、かつて神の摂理に逆らい進化を手中に収めようとした三人の科学者が居た』繰り返し何度も聞いた話だったので、無言で頷くだけに留めた。『では何故、科学者達が進化を目指したか分かるか?』『法力を、手に入れたから』この答えも分かり切ってはいたが答えないと話が進まない。自分の顔が苦虫を噛み潰したような表情に歪んでいるのを自覚しながら溜息と共に吐き出す。『正解だ。法力とは、ヒトにとって知恵の樹に生っていた禁断の果実であり、サルをヒトに進化させる大きな役目を果たした火でもあった、私はそう思うよ』『前者の宗教的な観点はいいとしても、後者の進化生物学的な観点は酷い言い草だね。ま、どっちにしろ間違っちゃいないよ。人類は叡智を手にしたが、今日までの進化の過程と結果が正しいものかは誰にも判断出来ないってやつでしょ?』講義で耳にタコが出来るまで聞いたような気がするので、応答する態度は若干呆れ気味だ。『うむ。私の言いたいことを先取りするとは、やるな。流石は、私の生徒で一、二を争うだけのことはあった』『アンタの生徒何年やったと思ってんだい。こんくらいヴィータだって分かるっての……で、本題は?』余計なことを喋らせようと思えば教え魔な師はいくらでも喋ってくれるが、今は勘弁願いたいので先を促す。『進化とは自然が織り成す試行錯誤の結果。しかし、これは確率論的に極めて低過ぎる。確率的には正しかったとしても、外部からの介入、つまりインテリジェント・デザインによって進化が成されたのではないかと考えたのが”あの男”、GEAR MAKERだ』『それ、昔ソルからちょっとだけ聞いたよ。生物の進化は、DNAの書き換えはヒトには知覚出来ない存在の仕業かもしれないっていうのを、人間だった頃に三人で話したことがあるって。確かGEAR MAKERが立てた仮説で、A種からB種っていう過程を経てC種に進化するっていう”正しい進化”に導こうとしてんのを仮に”神”とすると、B種っつー過程の可能性を消すもしくはA種からC種へ直接進化するようにしてミッシングリンクを発生させてしまう第三者が”啓示”、だったっけ?』『そうだ。そして、”バックヤード”のコードにアクセスし我らギアと人類の可能性を消し去るつもりだったのが”慈悲無き啓示”という名の敵だった』法力が技術として確立されてから数年と経たない内に、百数十年以上先の未来の危機を予見するとは、一体どんな化け物だったんだ”あの男”は?『……現世で起こる全ての事象がバックヤードにおいて決定された結果に他ならない。逆に言えば、事象とはバックヤード内で生み出された無限とも言える可能性の数々が淘汰の過程を経て発現を促された結果でしかない。その可能性の消失による既存生物の滅亡、過程であるB種が、人類とギアがミッシングリンクとして消える……それを防ぐ為に生み出されたのが、ソルって訳かい』『だが、アルフの話を聞く限り、それだけではないらしいな。もしかしたらGEAR MAKERはヒトには知覚出来ない”神”という曖昧模糊とした存在を見限り、己の手で人類を正しい進化に導く”新たなる神”を創造したかったのかもしれん』予想だにしていなかった単語を耳にして知らず素っ頓狂な声を出していた。『”神”の、創造!?』『”神”の創造だ』一気に話が胡散臭く感じるのは、自分を含めた身内の連中が自他共に認める無神論者の集団だからだろうか?『……創造って、どうやって』『禁断の果実を食したアダムとイブが何故神の怒りを買い、エデンの園を追放されたか知っているか?』『なんで最初の聖書の話に戻って……ハイハイ意味があるんですね、答えますって。えーと、知恵の樹の実を食ったから神と同等の知力を手に入れたからじゃなかったっけ?』さっさと結論を言って欲しいものだが、師は弟子に考えさせたり意見を言わせたりするのが好きな為、たまに脈絡も無く話が飛ぶ。まあ、話の上では最終的に繋がるのだが、イチイチ回りくどい。『しかし、それだけではない。知恵の樹の実と同じもう一つの禁断の果実、生命の樹の実をヒトが食べて不老不死となり神に等しい存在になることを恐れたからだ』『不老不死……さっき、知恵の樹の実を法力に当てはめて例えたよね? 不老不死も同じように当てはめると……』此処まで来るとどういう結論が出てくるのか分かってくる。『不老不死はギアの生命力だと言える。人類は手にした叡智で、生命の樹の実を自ら作ることに成功した。我らギアの肉体を構成するギア細胞がそれだ』『原罪を負って手にした叡智で生み出されたものが、生命に進化を促す歯車の役目を果たす。人の罪から生まれたギアは、神になることを目指した”人間の穢れた欲望の産物”、ね』ついに聖書の話がギアの由来に繋がり、偶然にもソルの持論に繋がった。そういえば、と思い出す。闇の書事件で誕生した偽のジャスティスも、ソルに対して『神を気取った貴様ら人間が、ギアを生み出したのだろうが!!!』とかいう内容で糾弾していたような気がする。『ヒトが神に等しい存在になろうとした時点で、それは神への反逆だ』反逆。その所為でアダムとイブは楽園から追放、天使達も謀叛起こして堕天した、というのが聖書などによくある話。まさか聖書に載ってるようなことが例え話に出てくるとは想定外であったが。『バックヤード深部に存在してたっつー人工的隔離空間”キューブ”って、ソルのギアのコード形態に酷似してたんだっけ? バックヤードを掌握すれば現世を己の思うがままに改変出来るってこと考えると――』『惑星の自転すら自在に操る力は、その世界に住む者達にとって神と崇められてもおかしくあるまい。これこそまさに神の領域を侵す所業。サルがヒトから進化する為に手にした火という道具にしては、いささか光が強過ぎる』どんどん話のスケールが大きくなってきた。だが、こればっかりは認めるしかない。事実、ソルのマスターゴストはバックヤードに繋がっている。つまり、その気になれば”ゲート”を開いて中に入れるかもしれないのだ。『なるほど、Dr,パラダイムの言いたいことは理解に苦しむけど理解した。つまりこういうことだろ? GEAR MAKERが創造した”神”は、罪から生まれたからこそ存在自体が罪であると同時に神への反逆でもある。その存在意義は”啓示”を打ち滅ぼし人類を正しい進化へと導く”新たなる神”……小難しい言葉並び立てたけど、簡単に短く纏めると、ソルはサルを進化させる火っつー道具って言いたい訳ね。火があればヒトは知恵を使うようになって勝手に進歩するし、外敵の猛獣も火で追っ払うことが出来る』『ああ。故に、”背徳の炎”だ』本当に此処までのことを見越して与えられた名かどうかは知らない。この場だけに限定された、単なるこじつけかもしれない。というか、個人的にそうであって欲しい。人類の進化と言えば聞こえは良いが、このままでは自分達が原始人扱いだ。せめて弥生時代くらいにして欲しい。お米くらい食べたいものである。確かに自分達は旧石器時代の生活水準でも十分やっていける自信はあるが、いや、問題はそこじゃない。『……宗教と理論が此処まで重なってくると、薄気味悪いもんを通り越して笑えてくるんだけど』『冗談で済めば笑って終わる与太話だが、生憎、辻褄は合うぞ。GEAR MAKERが最初からフレデリックを人類の進化の導き手たる”神”にするつもりだったのか、結果的にそうなったのかまでは知らん。確かめようが無いしな』否定する要素なら探せばいくらでもあると思うが、師が言うと妙に説得力があるから怖い。『当の創造主様は自分で作った”神様”にぶっ殺されたからね』それにしても神、か。竜を神聖視して崇め奉る文化や部族は数あれど、親友をモノホンの神にしようと改造実験を行った科学者は、この世だろうがあの世だろうが次元世界中の歴史を引っ繰り返してもGEAR MAKERで最初で最後だろう。狂ってる。『”神”云々は戯言と捨て置いても、確実に分かっていることが一つある。フレデリックの寵愛を受けているお前達が奴の下に居続ける限り進化をし続ける、ということだな……よろしい、久方ぶりに興味をそそる事象だ。定期的にデータを纏めてレポートにして上げておけ、私が独自に研究してみよう。あ、勿論このことはフレデリックには内密にな』『……今、戯言ってはっきり言い切ったね』これまでの会話は全部言葉遊びだと聞かされたようで脱力してしまう。真面目に聞いて損した気分だ。というか間違ってないかもしれないが寵愛という表現はやめて欲しい、最低でも家族愛とかにしろ、ペットかアタシらは? つーかレポートって何? と文句言っても無駄なんだろうなこの鳥野郎、インコ!! と内心で愚痴る。面と向かって罵ると強制的に万有引力を体感させられるので心の中で留めておく。免許皆伝をもらったとはいえ、未だに法力使いとしては向こうの方が圧倒的に上だ。『全く、アイツ”神”って柄じゃないだろうに。もう話が突拍子無さ過ぎて頭おかしくなりそう』『だが、存在するかどうかも分からない、そもそも知覚すら出来ない神とフレデリックのどちらを取るかと問われれば、私は迷わず信頼に足る戦友を取るがな』マジなのか冗談で言ってるのか分からないDr,パラダイムの口調に、アルフは二の句を継げることが出来なかった。「アルフ? どうしたの? 急にボーっとしちゃって」我に返れば、いつの間にか立ち止まっていた自分の顔を正面から不思議そうに覗き込んでいるフェイトが眼の前に居るではないか。どうやら思い出す作業に没頭していたらしい。「ううん。なんでもないよ、フェイト」飛びっきりの笑顔で誤魔化して、アルフは「あー腹減った」とわざとらしく言いながら足の動きを再開させる。いけないいけない、とかぶりを振る。ユーノの負傷やなのはの敗北以来、師との密談がどうも脳裏を過ぎる頻度が多い。密談自体は二年近く前の話なのに。深く考えず気軽に成り行きを見守っていればいいのだが、師に感化されたのか、すっかり小難しく考えてしまう。アタシこんなインテリなキャラじゃない! と口を大にして叫び頭空っぽにして暴れ回りたいが、インコ師匠に叩き込まれた数々の知識がそんな理由無き蛮行を許しはしない。(あれもこれも全部ソルの所為、ということにしておいて……後でどうやって喧嘩売るか考えとこ)責任転嫁も甚だしいことを考えながら歩いていると、「ママー!!」こちらに向かって元気に走ってくる小っこくて可愛らしい影を発見。いの一番に反応したのは、やはりママと呼ばれたなのはで、彼女もヴィヴィオに駆け寄りその小さな身体を抱き締める。繰り広げられる微笑ましい光景に、アタシもユーノの子どもそろそろ孕もうかな、でも身重になったら今までみたいに気軽に遊びに行けないし、などと考えていたら、ヴィヴィオがその年にしてはとんでもないことを言い始めた。「チューって何?」「「「「「っ!!??」」」」」愕然とする一同のリアクションに首を傾げながら尚もヴィヴィオの言葉は続く。「今日ね、お昼寝する前にね、ヴィータお姉ちゃんと、ユーノさんと、ザッフィーとテレビ見てたの!!」たどたどしい言葉で一生懸命説明してくれる彼女の話を要約すると、テレビでラブロマンス映画の再放送がやってたので四人で見ていたらしい。んで、キスシーンがあったのでこれは何かとヴィータに訊ねたところ、「うっせー黙って見てろ、つーかそういう質問はアタシ以外の女に質問しろ、お前にはママがいんだろママがー!! って、ヴィータお姉ちゃんが言ってた」とのこと。ちなみにユーノとザフィーラはキスシーンになる前段階で狸寝入り、そのまま本当に眠ってしまったので「男ってこういう時マジ使えねぇ」とヴィータは後に語る。いや、返答に窮するなら最初っからそんな映画見てんじゃねーっての、こっちに飛び火してるじゃない、と誰もが内心で突っ込んだが、ヴィヴィオの「ねーねー、チューってなーにー? なんでするのー?」攻撃は止まない。そして、普段は肉食系女の子で猥談とか普通にするのに、こういうこと――無垢なる存在からの純粋な質問――には全く慣れていないのか、それとも自分の汚れっぷりが浮き彫りになるのを恥ずかしがってるのか「あわ、あわわわ、あわあわ」と顔を赤くしてガクブル震えているなのは。彼女の様子を見て、フェイトもシグナムもはやてもアルフも揃ってこう思った。ダメだこいつ。仕方が無い、現状を打破するにはこれしかないとアルフは一歩進み出て、ダメなのはの肩に手を置き、救いの女神を見つけたダメなのはの視線を「全て承った」という感じに頷いて受け流し、屈んでヴィヴィオと目線を合わせた。ポク、ポク、ポク、チーン。「……パパはママ達のことが大好きで、ママ達もパパのことが大好き……だからチューチューでフガフガ……うん、わかった! アルフさんありがとう! 言われたとおりパパにかくにんしてみるね!!」現れた時と同じ元気いっぱいな様子で走り去っていくヴィヴィオ。その後姿を見送るアルフの背後で、なのはとフェイトとシグナムとはやてが死地に向かう戦友に敬礼をしていた。「アルフさんの焼き土下座フラグが、今高らかに立った」「無茶すること、ないのに……」「お前が家族であることを誇りに思う」「その潔さ、まさに勇者や。逝ってよし」まるで神風特攻隊を見送る人々のようだ。我関せずと言わんばかりの、ある意味予想通りの態度にアルフは唇を楽しそうに吊り上げて、酷薄に言い放つ。「何言ってんだい。アンタらも道連れだよ、道連れ。だってアタシら運命共同体じゃん? 仲良く一緒に寵愛とやらを受けて、コンガリ焼かれようじゃないの」自分は関係無いと主張しギャーギャー文句を言ってくる四人を尻目に、これで暫くは頭空っぽにして溜まった鬱憤を晴らせるぞとほくそ笑むアルフであった。後書きギア計画の核心部分については、PS2版ギルティギアイグゼクス(無印)の闇慈のストーリーモードを見てください。変態露出野郎でグーグル検索していただければ詳しいことが分かります(11/12/01現在)またアルフの長台詞にある、神とか、啓示とか、A種がB種がC種が云々は、GG2設定資料集に掲載されている”あの男”のショートストーリーの内容です。詳しい説明は省きますが、このショートストーリー内で交わされた三人の会話が後のギア計画と、フレデリックをギアに改造した理由に大きく関わってきます。フレデリック本人としては何気ない一言だったかもしれないが…………ちなみにイラスト付きです。ギア計画が発足される前なのでフレデリックの瞳の色が青く、研究者らしい白衣姿、でもやっぱりどう見てもチンピラです本当にありがとうございます。アリアが可愛い。そして”あの男”は相変わらず顔が拝めません。一昔前のエロゲー主人公のように、前髪が長くて鼻より上が見えない仕様。なんなんだコイツ。アニメのペルソナ4が楽し過ぎて毎週楽しみです。追記誤字修正、一部後書き修正(闇慈の検索云々部分)ソル、カイなどの一部キャラが『戦闘中は一つの属性しか使わない』と描写した部分に補足が足りなかった箇所があったので、はやての台詞を追加。