『私とティーダくんが現場で見た生体ポッド。これね、昔よく見たのよ』「もったいぶった言い方してんじゃねぇ、人造魔導師の素体培養機だろ。俺だって腐る程見てきたぜ」『保護した子……十中八九、人造魔導師の素体として生み出されたんでしょうね』「ちっ、胸糞悪ぃ」転送魔法でDust Strikersに戻ってきたソルが、クイントと通信しながら忌々しそうに吐き捨てる。不機嫌を露にして早足で作戦司令部なる部屋に踏み込み、一瞬自分に向けられたいくつもの視線に構わず思考を巡らせる。頭の中の大多数を占めるのは、忽然と姿を消した子ども達のことだ。またも性懲りも無く現場に首を突っ込もうとしている。この時点でお説教プラス焼き土下座確定なのだが、今回はアグスタの時と事情が違った。(ガキの癖して無茶すんじゃねぇぞ……)三人共心配ではあるが、特に心配なのがエリオだ。エリオは己の出生を気にはしていない。自分と同じ生まれ方をしたフェイト、呪われた運命を背負ってきたアインとヴォルケンリッター、そして”あの男”の思惑によってギアに改造された過去を持つソル。これらの存在が居たからこそ、出生を気にすることも無かった。しかし、己を生み出した技術に関してはソルと同じレベルで忌み嫌っている。無理もない。エリオもソルと同じで、違法研究により実験動物扱いを受けたことがあるからだ。また、ギア計画の詳細を知っていることや、数多のギアと出会ったことにより、違法研究をする人間に対して激しい嫌悪感を持っている点も同様だ。これが必然だったのかは分からない。だが、育ての親の憎悪を子が受け継ぐのは、仕方が無かったことなのだろうか?(本当に、俺に似て欲しくない所ばっかり似てきちまう)敏い子だ。保護した子どものことなどクイントからの情報を聞いていなくとも、なんとなくどういう存在なのか察しているだろう。直に見ずとも話を聞いただけで『そうなのではないか』と思ったソルと同じように。この子は自分達と同じだ、と。誰かの都合によって勝手に生み出された存在なのだ、と。「クソが……」誰にも聞こえないくらいに小さな声でソルは毒つく。ソルがエリオと同じ立場であったなら、間違いなくエリオと同じ行動に出ているだろう。周囲の制止の声など聞く耳持たない。危険など知ったことではない。ただ、胸の内に秘めた憎悪を叩きつける対象が欲しい。故に敵を探し求める。滅茶苦茶に破壊しても構わない、明確な敵が。聖戦時代の忌まわしい過去が、意図せず脳裏に映し出されていく。吐瀉物を撒き散らしたような濁った空の下、すっかり慣れ切ってしまった血と死の臭いが漂うそこは、魔女の釜を引っ繰り返したような有様で。救えなかった、間に合わなかった、そんなことは日常茶飯事。その度に後悔する。……被害を少しでも減らす為に同胞であるギアを殺した。殺して殺して殺して殺して、殺し続けた。憎悪にその身を任せて同胞達を手に掛け、それでも消えるどころかますますその闇を深くしていく憎悪に心を侵蝕されていった。死骸の山の上に独り座る自分が取り残される日々。どんなに憎悪を叩きつけても気分は晴れない。逆にどんどん気分が悪くなっていく。当たり前だ。殺してきた同胞達は『人類の敵』である以前に、自分と同じ『誰かの都合によって生み出された存在』で、殺せば殺す程悲しくなるだけだったから。だが、それでも同胞達を殺さなければならなかった。ギアは兵器で、本能的に人を襲うように命令されていて、駆除しなければいけない存在だった。放置すればどうなるかなど分かり切っていた。それがギア開発者としての責任であり、義務であった。だから、せめてもの慰めとして弔う。人もギアも関係無く、死んだ者達全てを火葬して、灰にする。それがソルにとって精一杯の誠意。いつまでこの地獄は続くのか? いつまでこの地獄を見せ付けられるのか? これが、この世界こそが、自分達の犯した罪だとでも言うのか?聖戦の引き金となったアイツと、全ての元凶である奴を殺す以外にこの地獄を止める方法は無い。そして、自分達ギアが存在し続ける限り、またこのような地獄を生み出すことになる。故に殺せ。ギアを殺せ。アイツを殺せ。奴を殺せ。それが終わるまで死んで楽になろうなど許されない。許されようと考えることすらおこがましい。己という罪が存在し続ける限り、贖い続けろ。やがて、身体に血の臭いがこびり付いて取れなくなっても気にしなくなった。返り血を浴びても服が汚れる程度にしか思わなくなった。同胞を殺しても何の痛痒も覚えなくなった。呼吸をするのと同じように、敵を殺せるようになっていた。嬉しいとか、楽しいとか、辛いとか、苦しいとか、そういう人間らしい感情はとっくの昔に忘れてしまっていて。その身は勿論、心さえも兵器となった一体のギアが淡々と同胞を狩り殺し、また新たな獲物を求めて彷徨い歩く。胸の中に在るのは、『ギアは殺さなければならない』『人間は助けなければならない』という強迫観念に近い使命と”あの男”への憎悪。そして、ままならない現状といつまで経っても目的を遂げられない自分自身に対する苛立ち。――どいつもこいつもうぜぇ……目障りだ。いつしか心の中で思うことはそれだけになっていた。殺すべきギアのことを差すのか、それとも守るべき人間のことを差すのか、どちらが『うざくて』『目障り』なのか今でも分からない。もしくは、視界に映る全てのモノがそうだったのかもしれない。ただ口癖のように繰り返していた。クリフに聖騎士団への入団を勧められ、カイと出会い、封炎剣をクリフから譲り受けて団を脱退するまでは。そんな聖戦時代をソルがどんな思いで過ごしてきたかを子ども達は知っている。ソルが直接語った、アインが教えたこともある。聖戦がいかに愚かで惨たらしい歴史だったのかを人間側の視点からではカイから、ギア側の視点からではDr,パラダイムから、傍観者という立場からではスレイヤーとイズナから、聞いているのだ。人類の戦争の歴史、という過去から学んで欲しいことがたくさんあった。同じ過ちを繰り返して欲しくないと願いを込めて。教科書に羅列された文章を読むことよりも、戦争体験者が実際の出来事を直接語った方が、より強く伝えたいことを伝えられる筈だから。その甲斐あってか、子ども達はこちらの話を真面目に聞いてくれた……こちらの予想を遥かに上回る程、真剣に。年に反して子ども達の理解力が高かった、とも言う。子ども達はソル達が思っている以上に純粋で、素直だったのだ。それを悪いとは言わない、言わないが、もし間違いがあるとするならば子ども達に聞かせるにしては少しばかり時期尚早で、内容が致命的なまでに重かった。聖戦は、次元世界の間で数百年続いた古代ベルカ戦争と比べれば小さな出来事かもしれない。歴史としてはたった百年程度の時間で、一つの世界の中で勃発した戦争でしかない。確かに規模は小さく時間も短いかもしれないが、決定的に違うのは人類同士の戦争ではないこと。殺し合っていたのは人類と人類が自ら生み出した兵器である点が大きく異なる。――『人類は戦闘種族として、ギアなどより遥かに優れている。あるいはそれ故に、我らを創造したのかもしれぬな。 戦闘衝動を解放し、かつ、互いを滅ぼさぬ為に。だとすれば皮肉なことだ……なぁ、”背徳の炎”よ?』人の業の深さを嘲笑する生前のジャスティスの言葉を、ソルは子ども達にそのまま伝えた。俺達と同じ轍を踏むな、という意味を込めて。しかしこの言葉は、ギアという『人類の敵』が現れたからこそ人間同士で戦争しなくなった、ということを示し、裏を返せばギアが存在しなければ人類はいつまでも同族同士で殺し合いを続けていた愚かな生き物、ということになる。実際、どの世界でもどんな時代でも、人の歴史は戦争の歴史であることを意味していた。(今更後悔して、何になる……)子ども達に話すようなことではなかったのかもしれない。だが、それでも知っておいて欲しかった、学んで欲しかった、間違えて欲しくなかったのだ。一歩道を踏み外せば俺と同じ末路を辿る破目になるから、という理由を免罪符にして。……馬鹿馬鹿しい。「ソル」不意に優しい声で名前を呼ばれ、我に返ると心配げな表情をしているアインがこちらを覗き込んでいた。「……ああ、大丈夫だ」すっかり読まれている、ウチの女共は相変わらず侮れない。いつも誰か傍に居て絶妙なタイミングで気を遣ってくれることに心の中で感謝して、思考を切り替える。どうも自分は子育てに向いていなければ指揮官といった上の立場も向いていない。そう自嘲して気を引き締めると、空間モニターに向き直った。背徳の炎と魔法少女StrikerS Beat22 Encounter An Enemy Force闇を雷光が引き裂き、薄暗い地下水路が眩く照らされ、同時に敵のガジェットを爆発させた。「……」今しがた破壊したガジェットの残骸に冷たい視線を向けてから、エリオは周囲を警戒し、近くに敵の気配がしないのを確認すると走り出す。ツヴァイとキャロがそれに続き、最後にフリードが三人を追う。地下に潜ってから三人は終始無言。一言も言葉を交わさず、黙々と遭遇するガジェットを破壊し、もう一つあると予想されるレリックを探している。勿論、これは自分達の意思でやっていることであり、父の言いつけを破っているという自覚もあった。後で怒られるのは目に見えているし、危険なことをして心配させているという負い目はあるが、退くに退けない理由が胸の中に燻った炎となって捌け口を求めていたのも事実だ。切欠は、先程保護した少女。まだ幼い、五歳程度の女の子。ボロ布一枚というみすぼらしい格好で、鎖で繋がったレリックケースを手にマンホールの下から現れた謎の子ども。その少女からエリオが感じ取ったのは、自分達と同種の匂い。確証は無いが、なんとなく理解出来た。この子は僕達と同じだ、と。奇しくもソルと全く同じ考えと結論に至っていた。当然と言えば当然だ。引き取られて以来、エリオはソルを含めた家族から様々な英才教育を受けて今日に至る。知識や技術、魔法と法力、戦闘技能、そして信念。そんな彼がソルと同じ行動を取るなど誰もが予想出来ることで。――気に入らない。次元世界において、子どもが違法研究の被害に晒されることが珍しいことではないと理解していても、こみ上げてくる吐き気を催す嫌悪感とマグマのような怒りが収まる訳でも無い。プロジェクトFという違法研究の結果によって生まれたエリオにとって、それを許容するなど天地が引っ繰り返っても不可能だ。何処の誰だか知らないが、必ず消し炭にしてやる。腹の底から湧き上がってくる殺意がエリオの四肢を前へと進ませ、行く手を阻むガジェットを鉄屑へと変えていく。歩を進める彼の脳裏にソルの姿がチラついた。己の過去と罪を包み隠さず話してくれた時の、無表情でいながら酷く悲しそうに細められた真紅の瞳。語られた過去の中の父はエリオが毛嫌いする違法研究者で、落胆したのと同時に裏切られた気分を味わったが、エリオと同じ生みの親の都合によって作られた存在であると知り、落胆はすぐに同族意識へと成り代わる。次に感じたのは、壮絶な人生を歩んできたことに対する哀れみ。当時の話を淡々と語るソルの眼は、見ているこちらの身が竦む程冷たい光を放っていて、余程思い出したくないことなのだと容易に察しが付く。父様は後悔してるんですか? とツヴァイが恐る恐る聞いてみると、ああ、とソルは疲れたように頷いて見せた。数え切れない程たくさん死なせてしまったと、それっきり黙り込んだ父の姿は、普段の姿とは比べ物にならない程弱々しい。そして、その姿を見て初めて気付く。父は、自分を助けてくれた紅蓮の魔導師は、ソル=バッドガイは、無敵の超人でもなければ正義の味方でもなく、ましてや誰もが称賛するヒーローでもない。ただ、犯した罪を悔い改め、贖う一人の人間だった。これまで自分が勝手にイメージしていた『ソル=バッドガイ像』が完膚無きまでに破壊された瞬間であったが、だからこそエリオは本当の意味でソルのことを好きになる。自分と同じような犠牲者を出したくない、という理由で戦うソルの後姿に、改めて憧憬を抱く。父のような男になりたい。過去から、犯した罪から、自分自身から眼を逸らさず、一人でも多くの人を救おうと前を向いて歩く父のように。そう考えるエリオが、違法研究への憤りを抱いたまま何もせずに帰るなど出来なかった。せめて敵に繋がる手掛かりの一つでも手土産に持って帰らなければ気が済まない。(何処だ? 何処に居る? 早く出て来い……叩き潰してやる!!)眼をギラつかせてレリックを探すというよりも最早敵を探しているエリオ。そんな目的を履き違えた彼の背中に、二人の少女の視線が心配するように注がれていることなど気付かないまま。狭い通路を抜けると、だだっ広い空間に出た。高い天井とそれを支えるいくつもの柱が並び立っている。廃棄区画の地下にも関わらず、何故か柱の根元に照明らしきものがぼんやりと輝いているので、これまでの通路と比べたらかなり明るい。「あったー!!」油断無く周囲を警戒しながら三人でレリックを探していると、キャロが大きな声を上げてから黒い箱を頭上に掲げた。(なんだ、あっさり終わっちゃったな)拍子抜けしたとばかりに溜息を吐いて構えていたストラーダを肩に担ぎ、エリオがキャロとツヴァイに近寄ろうとして、遠くから何か硬いものを叩くような音が響く。ガンッ、ガンッ、ガンッ、とリズミカルに。かなりの速度でその音がこちらに近付いてくると理解し、自然と唇が吊り上がっていく。敵だ。待ちに待った敵がやっとお出ましなんだ。これで思う存分、戦える。すぐさまエリオはツヴァイと二人でキャロを挟むような陣形を取り、敵襲に備える。神経を尖らせた三人からやや離れた場所にある柱の上の方で、一際大きな音と共に、魔力反応が。来る。そう悟ったエリオが叫ぶ。「ツヴァイ!!」「フォルトレス!!」声に応じたツヴァイが三人を覆うように緑色の円形状のバリアを発生させて守りに入り、その守りに四発の黒い魔力弾が衝突したのは次の瞬間だった。ギィィィィンという甲高い音と、魔力の鬩ぎ合いによる閃光が生まれる。そして、弾けるような音に合わせて魔力弾が掻き消えた。鉄壁の防御法術に軍配が上がったのだ。「エリオ」「分かってる」まさに阿吽の呼吸。すぐさまツヴァイはフォルトレスディフェンスを解除し、エリオが襲撃者に向かって踏み込む。敵の姿が見えない、でも気配と敵意は感じる。故に、エリオは培った経験と己の勘を頼りに槍を振るうをこと決意し、迅雷の如き瞬速で敵が居るであろう上空の真下に位置取ると、屈む。その場で跳躍する為に、敵を斬り伏せる為に全身の筋力を最大限強化して、槍を下段から振り上げ、跳ぶ。「ヴェイパースラストッ!!」聖騎士団闘法奥義の一つ、ソルがヴォルカニックヴァイパーを編み出す為に参考にした剣技。雷の力を宿したその斬撃が確かに敵を捉えた。手応えあり! このまま決める!!「疾っ」振り上げた槍を流れるような動きで水平斬りへと繋げ、敵を横方向へ吹き飛ばす。追撃の一太刀が綺麗に決まり、不可視の敵は轟音を立てて柱にめり込んだ。「トドメだ」宣言し、やや前傾姿勢にした体勢のまま、背後にある見えない壁を蹴るイメージを以って前方に”飛び”、肉迫する。だが――「っ!?」別方向から感知した魔力反応。敵に突き刺そうとしていた槍を防御に回す。ストラーダの柄に紫色の魔力弾が衝突して爆ぜたのは、身体を魔力反応がした方角に無理やり向けて防御姿勢を取った時だ。威力はそれなりで、突進のベクトル変えられてしまう程。思わぬ角度からの攻撃により弾き飛ばされてしまう。それでも空中でなんとか体勢を整え猫のように身を丸めてくるくる回りながら器用に着地。着地と同時にバシャッと水飛沫が舞う。魔力弾を撃ってきた新たな敵に睨みを利かせる間も無く、顔を上げたそこへ四発の火炎弾が迫っていた。「スタンエッジ!!」腕を交差する動作から開く動作をほぼ一瞬で行い、それによって薙ぎ払われたストラーダの穂先から雷刃が発射される。雷刃は四発の火炎弾の内一発とぶつかり、空間を爆裂させると共に残った三発を誘爆することに成功。すぐ近くで熱と衝撃が暴れ狂うが、既に予測済みだったエリオは自慢のスピードで後方に退がっていたので問題無い。「エリオくん、大丈夫?」「エリオ、怪我してないですか?」敵を警戒しながらも素早い動きでエリオの傍まで駆け寄ってくるキャロとツヴァイに「平気」と短く返し、ストラーダを構える。「ガリュー、怪我してる」「テメー。よくもガリューを……」視線の先には、今までステレス機能を使っていた為姿を視認出来なかった黒い異形。その傍で異形の傷の具合を確かめている少女。そして、こちらを睨み殺さんばかりの勢いで敵意を放つ全長三十cmくらいの、羽と尻尾を生やした少女だ。(どんな組み合わせだ……?)眉根を寄せるエリオ。ガリューと呼ばれた黒い異形は、昆虫が進化し続けた結果人間と同じ身長と二足歩行になったかのような姿。鎧のような甲殻、背中から生えている虫らしい翅、長く伸びた黒い尾、手足からは骨そのものが鉤爪になっているかのような武装が揃っており、人間の額に位置する部分には小さな楕円の赤い宝玉のようなもの――恐らく何かの器官だろう――の下には二対で四つの赤い眼がある。虫が人間を目指して進化を遂げたらこうなるだろう、と言われれば納得するくらいに、虫人間って感じがする。あとついでに、首に巻いている紫色のマフラーは一体何なのか言葉が通じれば問い詰めたい。そんな虫人間の傷を癒そうと魔法を施しているのは、長い紫色の髪が特徴の、自分達と同じくらいの年齢の少女。上から下まで黒いドレスのようなバリアジャケットを身に纏っていた。いや、ソックスと胸元のリボンと髪留めは白い。声には感情が希薄な印象があり、立ち居振る舞いも何処か人形めいていて、その真紅の眼も感情らしい感情を映しておらず、無感情を貫いているようにも見える。しかし、彼女からこちらに放たれる敵意はあからさま過ぎるので、戦闘中は感情を押し殺すタイプなのだろうと勝手に結論付けた。最後がその二人(?)の近くを旋回するように飛び回る小人……妖精の類か何かだろうか? さっきからこちらに向かって何か叫んだり文句を言っている気もするが、エリオ達は誰一人として聞いていない。リボンで結んだ赤い髪と、背中に生やした一対の蝙蝠みたいな赤い翼、やたら細い赤い尻尾、怒りを滲ませた紫の瞳。顔立ちや口調、外見や骨格や仕草なんかは子どものそれなので、まだ幼いのか、それともそういう種族なのか判別出来ない。この者達が敵なのだろうか?黒い異形と、自分達と同じくらいの年齢の少女と、手の平に乗る人形サイズの女の子。てっきり戦闘機人を相手にすると思っていただけに、戸惑ってしまう。彼女達と戦うのか? そんな疑問が生まれてきてしまった。戸惑いを吹き飛ばすように頭を二度振って、戦意を刻むようにストラーダを握り締める手に力を込める。――戦うんだ……たとえ誰が相手でも。眼の前に居るのは敵だ。父が、自分が忌み嫌う生命操作技術に手を染める違法研究者ジェイル・スカリエッティがレリックを確保する為に送り込んできた尖兵に違いない。敵に容赦するな、情けをかけるなど以ての外。事情を聞くなりなんなりしたいのならば、敵を完全に無力化させてこちらに服従せねばならない状況を作り出せばいい。戦う相手の姿形、事情などによって戦意が鈍ってしまうようならば、それは致命的な隙を生み、相手にとって格好の付け入る弱点になり得る。もしそれで取り返しのつかないことになってしまってからでは遅い。だったら初めから戦場に立つな。と、ソルが言いそうなことを思い浮かべてエリオは気持ちを引き締めた。(そうだよ……父さんだって十年前の闇の書事件で、初対面のシグナムさんと母さんにいきなり襲われて、どうして自分を襲ってきたのか事情を聞く為に『とりあえず返り討ちにした』って話だもんね)育ての親達の昔話を思い出し、エリオは決意を新たにしつつ意識を眼の前の敵に集中する。その一挙手一投足を見逃さない為に。戦いの為に研ぎ澄まされていく心は、さながら一本の槍のようだ。敵を突き、貫き、穿ち、破壊するその意志は戦意という鋼によって構成されているからだ。……それにしても、だ。彼女達が自分達の敵だというのは理解出来るが、イマイチよく分からない組み合わせなのは変わらない。一体どういう関係なのだろうか?彼女達三人(?)が仲間だというのは分かる。キャロが抱えているレリックを狙っているというのも理解はしている。だが、虫人間と少女と妖精という組み合わせはなかなか無いパターンだと思う。「あの子、私と同じ召喚術師だよ。隣に居る虫っぽいのは、あの子の召喚虫だと思うの」胸中で浮かんだエリオの疑問に答えるように、キャロが口を開く。なるほど、そういうことか、と疑問の一つが氷解する。召喚術師と召喚獣の関係なら、ウチで言うキャロとフリード&ヴォルテールだ。「へー。じゃあ、あのちんまいのは?」「誰がちんまいって!?」エリオがもう一つ気になっていた疑問を問い掛けると、その声に耳聡く反応するちんまいの。「……あのちんまいのは、たぶん、ツヴァイと一緒ですぅ」返事をしたのはややトーンが低い探るような口調のツヴァイである。「ちんまいのって言うな!!」「ツヴァイと一緒?」「ってことは融合騎? ツヴァイ以外に融合型デバイスがまだ現存していたのか!? あのちんまいのが!?」ちんまいのの文句を完璧に無視しつつ首を傾げるキャロとは違い、エリオは驚愕に眼を見開いて改めてちんまいのに視線を注ぐ。融合型デバイスは古代ベルカの遺産であり、古代ベルカの遺産のそのほとんどが長い歴史に埋もれて失われているか聖王教会が保管しているかのどちらかで、お目に掛かれる機会なんてそうそう無い。しかも融合型デバイスなんて代物になると文献に載っている程度というレベルの話で、実物なんて見れっこない。もう存在していないのだから。ツヴァイも融合型デバイスであり古代ベルカの遺産と言えばそうなのだが、残念ながら彼女はあくまで『二世』であってオリジナルではない。また、オリジナルの『夜天の魔導書』であったアインも十年前にギアとして生まれ変わったことにより、融合型デバイスではなくなっている。今までツヴァイ以外の融合型デバイスを目にしたことが無かっただけに、エリオとしては驚きを隠せないでいた。「これだ、っていう確証は無いけどなんとなく感じるです……あのちんまいの、ツヴァイと一緒なんだなって」自信が無さそうではあるが、心の中では確信を抱いているようだ。「でもでも、ツヴァイと同じ融合騎なら、どうしてあんなに小さいの?」「うるせーーーっ!!!」「僕もそれはさっきから気になってる」戦闘中だというのにキャロが割りとどうでもいい話題を振ると、意外にもエリオが食い付く。「ツヴァイも気になってますけど、小さいとなんかメリットでもあるのかな?」「食事量が少なくて済むから食費が浮く、とか?」「エリオくんらしい意見だなぁ……私が考えるに場所取らないとか、燃費が良いのかもしれないよ」「ツヴァイとしてはその程度じゃメリットとは思えないですねー。食事量で家計に迷惑掛けたこと無いし、生まれた時から人間と同じサイズ設定だったから身体の大きさとか燃費とかなんて気にしたこと無かったし」ちなみに、ソル一家のエンゲル係数は滅茶苦茶高い。というより、金を使う理由の大半は食事関係である。馬鹿みたい食う大喰らいが何人も居るし、どいつもこいつも食いしん坊万歳なので小腹が減るとすぐに食事の用意をしたり外に食いに行ったりするからだ。だが、馬鹿みたいに金を稼いでいるので、家長であるソルは皆の底無しな食欲に呆れつつも容認している。漲る食欲を持っていたアホ息子と二人で旅していた経験が、エンゲル係数の高さに文句を言わない理由だろう、きっと……あんま調子乗ってるとたまにキレて『食い過ぎだボケ』と皆仲良く焼き土下座をさせられるが。「……テメーら、少しはアタシの話を聞けってんだよ!! それと、ちんまいのって呼ぶんじゃねー!!」そんな風にコソコソと言いたい放題話し合ってると、さっきから喚いていたらしいちんまい融合騎が無視されていることにキレたのか、それとも散々「ちんまいの」と言われたことに傷ついたのか、涙眼になりつつ自身の周囲に火炎弾をいくつも生成すると、こちらに向かって発射してきた。「凍れ」真っ直ぐ飛んでくる火炎弾の群れにツヴァイは手を差し伸べて言葉、否、トリガーヴォイスを紡いだ。と、地下水路の床から剣山のように発生した大量の氷柱が壁となり火炎弾を難無く防ぐ。「あっ」ジュッ、という音を残して霧散した炎に、ちんまいのが呆然となる。「温い、実に温いです。父様やシグナムが操る炎と比べたら、まるで子どもの火遊び。その程度じゃ魚も焼けやしませんよ」前髪をかき上げつつそう言うツヴァイの眼は、普段の穏和で悪戯っ子のようなものではなく、氷点下の世界を連想させる程に冷え切っていた。十歳程度の子どもがするようなものではない、獲物を視界に捉えた狩人の眼。敵を敵として認識した戦士の眼だ。嘲るのでもなく、勝ち誇る訳でも無く、ただ事実を事実として口にしている淡々とした口調。ブランクがあるとはいえツヴァイも”背徳の炎”の一員であったことを容易に理解させる威圧感に、ちんまいのと紫髪の少女は一瞬気圧され、そんな二人を守るようにガリューが前に出て構えた。「あの黒いのは僕が引き受けるよ」「じゃあ私は同じ召喚術師のよしみで紫の子で」「それじゃあツヴァイも同じ融合騎のよしみであのちんまいのを」ストラーダを構え直すエリオが一歩前に進み出て、フリードを従えたキャロがレリックケースを抱えたまま呟き、ツヴァイがパキポキと指の関節を鳴らしながら鼻を鳴らす。プレッシャーに圧されるかのように、ジリ、と後ずさる敵。三人共、獲物を前にした肉食獣の如き獰猛な笑みを浮かべている。まさしく、この親にしてこの子あり、だ。冷徹にして残忍と称される賞金稼ぎ、”背徳の炎”のリーダー、ソル=バッドガイの子ども達として相応しい。「……さあ、戦闘開始だっ!!!」聞く者によっては、歓喜の雄叫びを上げる獣の咆哮にも聞こえるエリオの合図と共に、戦いの幕が上がる。敵の少女が、どういう存在か知らぬまま。地下に潜り、エリオ達を追うティアナ達三人の表情は何処か焦りが窺えた。いや、実際に焦っていた。何故ならソルから直々に『ウチのクソガキ共を連れて帰ってこい、レリックなんざどうでもいい、最優先だ。どんな手段を使ってでも、いや、むしろ力ずくで構わん、俺の前に引き摺ってこい。いいなっ!?』と命令されているからだ。付け加えれば『もし連れて帰ってこなかったら……そん時は覚悟しとけよ? マジで灰にし……いや、なんでもねぇ』という脅しも頂戴している。子ども達三人の安全も心配だが、何よりも自分達の命がこのままでは危ない。焦りもすれば、地下水路を進む足も速くなるというものであった。「それにしても」「何? ギン姉?」「分かってはいたけど、凄まじいなって思って」「ああ、コレですね」狭い通路のあちこちに散らばっているガジェットの残骸。それらを踏み越えながら、ティアナはギンガが何を言いたいのか察して納得し、一つ吐息を零す。粉々に粉砕されバラバラになった残骸のほとんどが、高熱で融かされたものもあれば、真っ黒に炭化しているものもあるし、鋭い刃物で切り裂かれたような断面を残しているものもある。全て子ども達が此処で戦闘したという証だ。原形を留めている残骸を探すのが難しいという時点で、破壊力にどれだけ重きを置いた戦い方なのか想像出来た。というよりも、まるで激しい感情を叩きつけた痕のようにも見えてしまう。「……エリオ」不安げなティアナの声。――『僕は、プロジェクトFATEによって生み出された特殊クローンです』かつてエリオがティアナに語った言葉が脳裏に過ぎる。あの時はあまり気にしてる様子ではなかった。だが、今はどうだろうか?人造魔導師。保護した少女は、人造魔導師計画に類するものによって生み出されたのではないか、という話だ。自分達より年下の、まだ子どもと言っても差し支えない年齢なのに、自分達を遥かに凌駕する戦闘能力を持つエリオ。そんな彼は、今どんな気持ちで戦場に立っているのだろうか?ティアナには想像すら出来なかった。(今のエリオの心境を理解出来るのは、似たような生まれをした人達だけなんだろうな、きっと)チラリと、両隣を走るナカジマ姉妹を見てから、頭の中でソルの顔を思い浮かべる。戦闘機人として生まれたスバルとギンガ。人造魔導師として疑いがあり、未だにその出生が明かされていないソル。このことに気付くと……何だろう、なんだか悔しくなってきた。自分には理解出来ないことを理解している人達に嫉妬を抱いている訳では無い。エリオのことを理解してあげられないことが、悔しいのだ。(あ、そっか。アタシ――)もっとエリオのことが、知りたい。彼と色々な話をしたい。エリオだけじゃない。ツヴァイやキャロは勿論、ソルやなのは達のことも今まで以上に知りたい。彼らともっと仲良くなりたい。上司と部下の関係とか、仕事の仲間とかそういうものを抜きにして。いつ以来だろう。こんなにも自分から積極的に誰かと親しくなりたいと思うのは。凄く久しぶりなことかもしれないし、もしかしたら初めてかもしれない。(その為にも、早くエリオ達を連れ戻さなきゃ)気合を入れ直し、先を急ぐ。スバルとギンガのローラーブーツが路面を走行する音と、ティアナが自分の足で走る足音以外、音がしない地下水路。だが、突然三人のデバイスコアが同時に瞬く。付近にて動体反応を感知した。ガジェットか?このまま進めば視界の先にある十字路で動体反応とぶつかることになるらしい。どうやらこちらからでは死角となっている右手の角の向こう側からやって来るようだ。「こんな場所でもたついていられない。出会い頭に大きいのかまして一気に潰すわよ。3、2、1で」「はい」「了解」左手に装着したリボルバーナックルを唸らせてギンガが言うと、ティアナとスバルは頷きそれぞれカートリッジをロード。「3」速度を上げるスバルとギンガは十字路までの距離を猛スピードで縮めながら拳を振りかぶり、ティアナは自身の周囲に魔力弾を大量に生成し、タイミングを計る。「2」二人のリボルバーナックルからキィィィィンッという高音が発せられた。高まる魔力がナックルスピナーを高速回転させ、破壊力を底上げしているのだ。「1」右手の角から敵らしき三つの影が見えた瞬間、ティアナはその内の一つ向かってクロスミラージュの引き金を引き、ギンガは跳躍し、スバルはそのまま走り、残り二つの影にそれぞれ襲い掛かった。完璧なタイミングでの奇襲。ガジェットであれば間違いなく瞬殺しているだろう。しかし――「この程度の奇襲など予測済みだ、タイプゼロファースト!!」ギンガが攻撃しようとしていた影は、そう叫びながらギンガに向かって両手に持っていた六本のナイフを投擲。「!? 戦闘機人チンク!!」驚愕もほんの一瞬だけ、次の瞬間には怒りに塗れた声で敵の名を口にし、振り上げた拳を突き出し防御魔法を展開。展開された障壁で飛来するナイフを防ぐと共に、ナイフが爆発する前に障壁を足場にして蹴り、大きく飛び退る。刹那、障壁に刺さっていたナイフの柄に黄色いテンプレートが浮かび上がり爆発した。スバルが振り抜いた拳を右足の裏――正確にはローラーブーツのようなデバイスのタイヤ部分――で受け止めているスバルと瓜二つの赤髪金瞳の少女。「わ、私!?」「覚えとけ旧式、アタシはノーヴェってんだ!!!」「えっ? キャアアアアアッ!!」足の力は腕の約三倍。いくらスバルが馬鹿力を持っていても、似たようなコンセプトで作られた”姉妹機”の蹴りに対して拳による真っ向勝負では分が悪かった。パワー負けして弾き飛ばされ地下水路の路面に背中を強か打ちつけそうになるが、なんとか受身には成功する。「ラッキー!! ”背徳の炎”の内の誰かかと思いきやタイプゼロファーストとセカンド、ついでにオマケのオレンジ頭。初戦闘で死ななくて済んだっス!!」喜色満面でそんなことを言いながら、手にした巨大な盾でティアナの魔弾の群れを全て余裕で防いで見せる赤髪の少女は、桜色の瞳を片方だけ瞑って悪戯っ子っぽくウインクした。「こんな時に、戦闘機人……!!」眉を顰めたティアナが忌々しそうに呟く。ギンガとチンクが、スバルとノーヴェが、ティアナとウェンディが地下水路の十字路で互いに睨み合う。最初に沈黙を破り口火を切ったのはチンクであった。「……ユーノ・スクライアはどうした?」「何ですって?」いきなりの問いに訝しんで聞き返すギンガ。「ユーノ・スクライアはどうしたと聞いているんだ。どうせお前達のお守りで近くに居るんだろう? 出すならさっさと出せ。あの時の決着をつけてやる」「チ、チンク姉? わざわざ厄介な奴呼ぶように言わなくてもいいじゃないっスか?」血迷ったかのような姉の言動にウェンディが戸惑う。あの時――リニアレールでの一件でユーノがギンガを庇って大怪我したことを思い出し、ギンガは全身から怒りを漲らせて拳を構えた。「ユーノさんなら此処には居ないわ。居たとしても、貴方になんかあの人は指一本も触れさせない」ガシュッガシュッ、とカートリッジを二発ロードしていつでも突撃出来るようにする。「そうか、つまらん」怒り心頭のギンガとは対照的に、チンクはやけに醒めた感じで眼を細め、妹達に指示を飛ばす。「当初の予定通り、ルーテシアお嬢様のフォローに回るぞ」「こいつらは?」自分と同じ顔をしたスバルを睨んだままノーヴェが問う。「捨て置け」「でも、オレンジ頭はともかくタイプゼロっスよね? 捕獲しなくていいんスか?」ウェンディの疑問にチンクは肩を竦めて冷笑した。「タイプゼロとはいえ、既にドクターの興味の範囲外の存在だ。生かして捕らえたところでメリットなど乏しい……”背徳の炎”の内の誰かであれば、ドラゴンインストールを解析する為に連れ帰ってもよかったが」「チンク姉、それって死ぬ程難しいと思う。つーか普通に返り討ちにあって死ぬ、殺される」苦虫を噛み潰したような顔で思わず口を挟むノーヴェ。そんな三人の戦闘機人のやり取りに、気になることがあったのかスバルが首を傾げる。「ドラゴン、インストール?」「あれ? 知らないっスか? ソルが本気になると使うやつっスよ。全身の細胞がリンカーコアとしての役目を果たすっていう反則級の力を発揮するアレ。騎士ヴィータも使えたことから、”背徳の炎”は全員がソルの力をインストールされてるっていうのがドクターの見解で……あれ? もしかして本当に知らない?」何のことを言われているのかさっぱり分かっていないティアナ達のリアクションに、もしかしてアタシって余計なこと言ったっスかねぇ? と頭の上に疑問符を浮かべるウェンディにノーヴェが「知るかよ、つーかなんでアタシらが知ってることをこいつらが知らねーんだよ」とお手上げのポーズを返す。「何よそれ、どういうことよ? ドラゴンインストール? 全身の細胞がリンカーコアとしての役目を果たす? ソルさんが?」信じられない、というティアナの震えた声が地下水路に静かに響く。「そんなこと、あり得る訳が――」無い、と言い切ろうとしてギンガは自ら口を閉ざす。リンカーコアは一人の魔導師につき一つしか持ち得ない。これは次元世界中での常識だ。だが、もしこの常識を覆すことが出来れば?ソルは自分達戦闘機人と同じ生体兵器だ。これは間違いない。しかし、”背徳の炎”の面子は誰一人として彼の出生に関しては何も教えてくれなかった。そして、今のウェンディが語った『”背徳の炎”は全員がソルの力をインストールされてる』というのが本当であるのなら、誰も教えてくれなかったことに納得がいく。違法研究に類する人工的処置によって、後天的に細胞や肉体組織にリンカーコアと同じ役目を果たすことが可能となれば、そんな技術、たとえ違法だろうと実在するのであれば次元世界中に広まって――そこまで考えて、気付く。(……だからソルさんは教えてくれなかった、教える訳にはいかなかったんだ!!)自分でも意識しないまま、ギンガは口を右手で覆い、一歩後ずさっていた。「その反応……ドラゴンインストールについては本当に何も知らなかったようだな」心から意外そうにしているチンクに対し、ますます眼つきを険しくさせるティアナ達。「アンタ達に、あの人達の何が分かるって言うの?」苛立ちに震えるような低い声でティアナがチンクに銃口を向ける。自分達が知らないソル達を敵が知っていることに少なからずショックを受けていた。これでも他の者達よりは彼らのことを理解しているという自負があっただけに。「我々も”背徳の炎”について多くを知っている訳では無い」肩を竦めてそう言うチンクの態度は、酷く機械的で感情というものが窺えない。押し隠しているだけなのだろうが、先程ユーノのことを問い詰めた時の方が余程感情的で人間らしかった。そのことに若干の違和感を覚えつつ、黙って話を聞く。「強いて言えば、ソル=バッドガイが究極の人造魔導師にして生体兵器であり、奴こそがドクターの目指す人工生命体の理想像であるということだけだな」チンクがそう言い終えた瞬間、――轟!!攻撃的な魔力の波動と共に雷鳴が地下水路を迸る。敵を眼の前にしていながら、その場に居た全員が全く同時のタイミングで同じ方向に首を巡らした。それ程までに知覚した反応は苛烈なものであったからだ。「「「エリオッ!?」」」慣れ親しんだ魔力の持ち主の身を案じるスバル、ギンガ、ティアナ。「F計画の少年か!!」「ルーお嬢様!?」「ちっ」魔力反応から誰の仕業か一発で悟るチンク、ルーテシア一行を心配するウェンディ、面倒臭いことになったと舌打ちするノーヴェ。ティアナ達としては今すぐにでもエリオ達と合流し、三人を連れ帰りたい。チンク達としては眼の前の三人を無視してルーテシアのフォローに向かわなければならない。再び互いを睨み合う。そして考えることは同じだった。こいつらを叩かない限り、先には進めない、と。――だったら、力ずくで押し通る!!「邪魔だ、タイプゼロファースト!!」「邪魔は貴方達の方よ!!」投擲する為にナイフを構えたチンクに、そうはさせんとばかりにギンガが突撃する。HEAVEN or HELL「引っ込んでろよ旧式!!」「それはこっちの台詞!!」ノーヴェとスバルが真正面から相手に向かって突っ込みハイキックを繰り出す。ローラーブーツ同士が空中で激突し、衝撃が生まれ火花が発生し視界が明滅する。DUEL「雑魚に構ってる余裕は無いっスから、尻尾巻いて逃げてくれるとありがたいんスけどね~」「あんま人のこと舐めてると後悔するわよ、戦闘機人」先端が砲門となっている巨大な盾『ライディングボード』をティアナに向けて桜色のエネルギーを集束させるノーヴェに対し、ティアナは躊躇無くクロスミラージュの引き金を引く。Let`s Rock薄暗い地下水路にて、二つの戦いが始まる。後書き最近、ニコニコ動画で格ゲーの相殺ムービーを見て「おおうスゲー!!」と興奮しております。コンボムービーは腐る程見てきたけど、相殺ムービー自体あまり見たことがなかったので。カプコンから出たFateの格ゲーで原作再現してるやつとか、世紀末スポーツアクげふんげふん、北斗のやつとか凄い好きなんですが、やはりギルティ好きの私としてはギルティの相殺ムービーばかり見てしまう。水樹奈々さんの曲に合わせてソルとカイが相殺合戦、しかも開幕再現なんてしてくれるとテンションゲージが振り切れる!!見たことない人は、是非一度ニコニコ動画で『相殺ムービー』と検索してみましょう。面白いし、ギルティってこんなに相殺できるんだ、と思えます。あ、ちなみにこの作品のエリオのライトニングジャベリンは、オリジナルと違って壁バウンドではなく壁貼り付きダウンです。ではまた次回!!