炬燵。それは日本が生み出した至高の暖房器具であり、冬にそれを利用することは日本の文化であり、屋内での癒し。日本に十年以上定住――というより高町家で居候していたソルにとって、炬燵と言えば冬であり、冬と言えば炬燵であった。勿論それだけではないが、そのくらい気に入っているのは事実だ。炬燵に入って暖まりながらお気に入りの音楽をガンガンかけて、酒を飲み肴を口に放り込む。なかなかの贅沢だ……これから一週間以上先に行われるクリスマスと呼ばれる一大イベントが無ければの話だが、とソルは内心で呻く。「で……頼んどいたもんは?」場所はクラガナンにあるソルの部屋――地球で一人暮らしをしていた時と同様に高級マンションだ――その居間にて。グラスを置き、腕を組むとソルは向かいに座るヴィータに問い掛ける。すると、バリバリと音を立てて煎餅に食らい付いていたヴィータが顔を上げ、不思議そうに首を傾げた。「は?」この一言にソルの眉が不機嫌を表すように歪む。「テメェ……俺がつい数日前に、我が家の連中にクリスマスプレゼントを送るからそれぞれ何が欲しがってるのかを、それとなく聞いておけって頼んだのを忘れたってのか?」かつて彼女持ちだっただけあって、面倒臭ぇと文句を垂れながらもこういうイベントにはちゃんと用意周到に準備している男なのだ、ソルは。「ああ、アレか」煎餅を口の中に放り込み、ポンッと手を打つヴィータ。「アレか、じゃねぇよ。つーか、毎年やってんだろ」「安心しろって、しっかりリサーチしてあっからよ。このヴィータ様に任しとけば臆することはねーからな」自信満々に無い胸を拳で叩くヴィータであったが、彼女の口回りはお菓子のカスが付いていた。その様子は頼り甲斐がある女性ではなく、間違いなく行儀があんまりよろしくないただの子どもにしか映らない。そんなヴィータの顔を見て一瞬だけ本当に大丈夫なんだろうか、とソルは本気で心配してから、まあいつものことか、と思い直し疲れたように溜息を吐く。「……これで外れた試しが無ぇから頼らざるを得ないのが癪だぜ」聖夜のクリスマス。一ヶ月くらい前から大抵の人は誰かの為にプレゼントを買う為にあっちこっちを駆けずり回るクリスマス。年に一回のお祭り騒ぎだということで、親しい仲で集まってドンチャン騒ぎをするクリスマス。ソルにとってのクリスマスというのはこの両方のことを意味していた。ヴィータの報告を聞き終えて、彼は頬杖を着き半眼になって眼の前の見た目少女なのに自分よりも年上のヴィータに問う。「毎年思うんだが、なんで俺がサンタ役なんだ」それは愚痴に聞こえるかもしれないが、ソルが心の底から嫌がってる訳では無いことを熟知しているヴィータは、小馬鹿にしたように鼻で笑うと意地悪い口調で言う。「嫌なら替わってもらえよ、去年みたいに」「やめろ……去年のことは思い出させるな」首を捻り、嫌な過去から眼を逸らすようにソルは視線をあさっての方向へ向ける。「去年は凄かったよなー。面倒臭ぇって文句言ったお前の代わりにはやて達がサンタ役になって」「……その話はするな」脂汗を浮かべて珍しく狼狽しているソルの態度にニヤニヤしながらヴィータは続けた。「はやてを筆頭に、なのはもー、フェイトもー、シャマルもシグナムもアインも、やたらスカートが短いサンタのコスプレして――」「やめろっつってんだろが!!」短気なソルがいとも容易くキレて怒鳴り、ヴィータの襟首を掴んで強引に引き寄せると、彼女もソルの襟首を掴んで感情を爆発させる。「何怒ってんだこのエロ魔人、スケベドラゴン、キングオブナチュラルワイルド女っ垂らし、汗の匂いで女欲情させるような奴が今更純真ぶってんじゃねーよ二百歳越えっ!!!」二人共炬燵に入ったまま始まる不毛なやり取り。「あいつらが変態なだけだ!!」ちなみに、ソルは抱きつかれた時によくクンクンされる。以前そのことで「お前は犬か」と突っ込んだらフェイトに満面の笑みで「だって私ソルの雌犬だもん」と返されてしまい、過去に戻れるロストロギアが存在しないか本気で探そうと思ったくらいだ。「その変態共に愛されてるテメーも変態だろ、つーか、お前が皆のこと変態にしたんじゃねーか!!」「俺が、いつ、何処で、具体的に何したってんだ!?」「常に眼からエロ光線、溢れ出すフェロモン」「言いがかりも程々にしろよ、色気の『い』の字も理解してねぇちんちくりんのクソガキが」「んだと体力底無し絶倫野郎!!」「なんで知ってんだ!?」戦慄するソルにヴィータは大笑い。「なんでアタシが知ってんのか知りたいか? 知りたいのか? 知りたいよな? 教えてやんねーよバーカ」「潰す……!!」「やんのかゴラァッ!!」罵り合いから取っ組み合いへと移行し、ドッタンバッタンと近所迷惑な音を立てる始末。ロックでヘビーな音楽に打撃音と怒号が加わって室内はとんでもない程騒がしくなっているが、幸か不幸か此処にはそれを咎める者が居ない。三つ子の魂百まで、という言葉をことわざとしてではなく、文字通りの意味で表すかのようにしょうもないことで殴り合いをするソルとヴィータは、たとえ実年齢が三桁に達していても根っこの部分は妙に子どもっぽかった。だから気が合う、とは言ってはいけない。背徳の炎と魔法少女 クリスマス外伝「ということで付き合え」「アンタ、皆にプレゼントする為の買い物くらい自分一人でなんとかしなさいよ」お世辞にも人に物を頼む態度とは思えない傲岸不遜なソル――わざわざこの為だけにミッドチルダから地球にやって来た――に、アリサは怒りを通り越して呆れ果てていた。「どうせ暇だろ」「それはソルくんなりのジョーク? それともクリスマスにプレゼントとかくれるような彼氏が居ない私達に対する嫌味?」そんなアリサの隣では、笑顔でありながら全身からドス黒いオーラを発し、口元をピクピクさせているすずかが居る。「そういう意味で言った訳じゃ無ぇ」「アリサちゃん、すずかちゃん、ごめんね。ソルってホントに気が利くんだか利かないんだか分からないから、許してあげて」更に此処には手を合わせて二人に謝る美由希も一緒だった。アリサとすずか同様、ソルの買い物に付き合わされたのだ。「ガタガタ抜かすな、黙ってついて来い。そして俺に色々と適切なアドバイスをしろ、あいつらが喜ぶような感じのを選ぶ為に」「しょうがないわね、付き合ってわげるわよ。アンタの強引な頼みごとなんて今に始まったことじゃないし」「これ、貸しだからね、ソルくん」「まあソルは”お父さん”だしね」アリサ、すずか、美由希を引き連れて、ソルは巨大なデパート、否、戦場へと踏み込むのであった。クリスマス・イブ当日。相変わらず、例年通り、いつもの面子が翠屋でクリスマスパーティという名の乱痴気騒ぎを起こした後に、二次会と称してソルの部屋に場所を移し(転送魔法で)、またもや此処でも乱痴気騒ぎとなる。いつも通りだった。その後、酔っ払い共と瞼が重くなってきたらしい子ども達を追っ払ってから(やっぱり転送魔法で強制送還)、たった一人で夢の島みたいに散らかって汚い部屋の片付けを終えると、既に時刻は深夜の二時。気が付けばイブが終わり、クリスマスとなっていた。「そろそろ始めるか」独り言を呟くソルの声には精神的疲労が滲み出ていたが、それでもサンタ役を投げ出そうとしない彼は間違いなく”お父さん”の鑑。まあ、去年は投げ出した所為でえらい目に遭ったのでもう諦めているとも言うが、何、気にすることはない。いそいそとクローゼットの中から赤い服と帽子、黒いブーツを取り出して着替え、一分もしない内にサンタに扮するソル。付け髭は流石に鬱陶しいので付けない。というか、そこまでサンタに徹する気は皆無。一度洗面所で自分の姿を確認する。「ま、こんなもんだろ」鏡の中には、凄く眼つきが悪くて若々しいワイルドなサンタさんが居た。ちょっとどころかとんでもない程、色んな意味で違和感バリバリだったが気にしないのである。プレゼントが入った白い大きな袋を肩に担ぎ、部屋を出る。まずは隣の部屋、なのはの部屋からだ。合鍵を使って玄関の鍵を開け、泥棒のように気配を殺して抜き足差し足で侵入。流石に二次会が終わって一時間も経ってれば寝てるよな? と声に出さずに寝室へと向かう。だが、ゆっくりドアを開けた瞬間に自分の認識が甘かったのを思い知る。「……待ってたよ」初っ端からいきなりボスが居た。しかもラスボスだ。もしかしたら超凶悪なチート能力を持った裏ボスかもしれない。待ち構えていたのだ。なのはが。ベッドの上で。横になった状態で。当たり前のことだがソルという固有名詞を持つサンタさんを。「サンタさぁん、私欲しいものがあるの」蟲惑的な視線、上気した頬、期待に潤んだ瞳、妖艶な笑み、甘えるような声、白いYシャツのみという寝巻き姿。更に物欲しそうに指を咥えている仕草。それらが見事にマッチしてとてもエロティックななのは。即座にドアを閉めようとしたら、ドアノブにバインドが仕掛けられていて動かせなくなっていた。空間に固定されたドアはビクともしない。ソルの人外パワーで無理に閉めようとすればドアが閉まる前にドアノブがポッキリ逝ってしまう。大魔王からは逃げられないとでも言うのか!?(逃げられねぇなら倒すまでだ)立ち上がったなのはが熱い吐息を零しつつソルの身体を抱き締める。服越しになのはの柔らかさを感じ、臭覚が女の匂いを捉える。「サンタさん、ちょうだい、私にホワイトクリスマ――」ゴキンッ!!なのはの言葉が最後まで紡がれることはなかった。ソルの頭突きによって黙らされて、夢の中へと突入したからだ。意識を失って倒れそうになるなのはを支え、そのままベッドに優しく横にすると風邪を引かないように掛け布団を掛けてやる。「よし」『よし』じゃねーだろ、と突っ込む人物は居ない。「悪ぃな。サンタってのは独り占め出来るもんじゃねぇ、良い子にプレゼントを配る存在だ。そのまま良い子で寝てろ……メリークリスマス」寝てない子=悪い子。良い子=寝てる子。じゃあ悪い子は強制的に良い子にしてやろう、という無茶苦茶な理論である。サンタクロースの起源となった教父聖ニコラオスがこのことを知ったら鼻血を吹いて昏倒するかもしれない。二つ並んでいる枕の傍にリボンと包装紙で綺麗にラッピングされたプレゼントを置き、部屋を後にした。「メリー(バンディット)クリスマス(リヴォルバー)!!」言ってることとやってることが正反対のような気がしないでもない。「メリー(ライオット)クリスマス(スタンプ)!!」メリークリスマス改め、サンタ襲来だった。なのはに続いて次々とボス達を撃破――もといプレゼントを置いてくることに成功する。世界がいくら広いとはいえ、サンタ役のお父さんがプレゼントを渡す相手を容赦無く気絶させるなど自分達以外に存在しないだろう……我ながら何なんだ自分達は、とソルは頭を抱えたくなるのを必死に堪えた。とりあえず全てのボスを叩き潰した、じゃなかった、プレゼントを枕元に置いてきた。だって、サンタさんをダークサイドに引きずり込もうと罠を張る連中が悪いだろ?奴らはサンタさんのプレゼントが目的ではなく、サンタさんを××××するのが目的なのだから。捕まったら他の良い子達にプレゼントを配れないではないか。だから先手必勝である。「ふぅ」次からは漸くまともだと思えば、自然と安堵の溜息が零れてしまうもんだ。聖夜を性夜と勘違いしているアホが身内には六人も居るのかと思うと泣けてくる。ゲンナリしている気分を切り替えるように首を振り、次のプレゼントを渡す相手のことを考えた。(しかしゲームのソフトが欲しいとは、思った以上にガキらしいじゃねぇか)今度は子ども達だ。そのプレゼントの中身を思い出し、微笑ましくて苦笑が漏れる。妙に大人びている面もあれば子どもらしい面も併せ持つ息子と娘二人。明日の朝になって、三人が枕元に置いてあるプレゼントを見て喜ぶ姿を想像し、暖かくて優しい気持ちになってきた。「こっからが本番だな」気合を入れ直すと、ソルは『ジングルベル』を鼻歌で唄いながら子ども達の部屋へと足を向ける。その後姿がやけに機嫌が良さそうに見えるのは、きっと気のせいではない。十二月二十五日。クリスマスの朝。眼を覚ましたアリサは、昨晩のクリスマスパーティで飲み過ぎた所為で二日酔いという最悪の朝を迎えていた。まだ覚醒し切っていない頭がズキズキと痛む。気分も悪いし、少しだけ吐き気もする。とっとと薬を飲んでこの気持ち悪さから解放されたい。それでも無理やり意識をしっかりさせようとして二度三度首をゆっくり横に振り、枕元に置いてあったそれに気付く。丁寧にクリスマスラッピングされた箱。そしてその箱にくっ付いているメッセージカードの存在に。『世話になった サンタより』たった一言、ぶっきらぼうにそう書いてあった。書いた本人の仏頂面を簡単に思い浮かべられるくらいに。二日酔いによる不快感と気持ち悪さなど一瞬で何処かへと消し飛ぶくらいに、気持ちが弾んできた。「ホント、気が利くのか利かないのか分からない男ね、アイツ」この様子では、きっとすずかと美由希にも似たようなことをしたのだろう。皆がプレゼントに何が欲しいか下調べをしておいたヴィータにも特別に何か送っている筈。そういう男だ、アイツは。大雑把で面倒臭がりの癖して実はかなりマメな性格なのだ。クスリと笑みを浮かべ、アリサはウキウキ気分でサンタさんからのプレゼントに手を伸ばす。――さてさて、アイツはアタシに一体どんなプレゼントをしてくれたのかしら?後書き去年やりたかったけど結局出来なかったクリスマスねた。去年のこの時期は丁度A`s編の終盤を書いてた気がします。今回のお話の時期はSTSより一年前のクリスマス、という設定。ソル達がミッドに移住した後です。全員が一つ屋根の下で暮らしているのではなく、マンションで部屋を一号室から九号室くらいまで借りて暮らしてます。理由は移住当初すぐに良い物件が見つからなかった為。でもいずれは郊外に大きな一軒家をドカンとおっ建てて皆で暮らそうと思っています。本編も更新したかったんですけど、どうしても時間が足らなかったので、せめてこっちの外伝だけでも、と思って……べ、別に雷狼竜とか角竜とか轟竜とか狩ってた訳じゃないんだからね!! まだランク3だもん、40時間くらいしかやってないもん!! 全身装備揃えたくてしつこくマラソンとかしてないよ? 本当ですよ!?メリークリスマス、という言葉は元々「I wish you a Merry Christmas」の略らしく意味は「楽しいクリスマスをあなたにお祈りします」とかになるんだとか。まあ、日本人にはどうでもいいですよね。私達は馬鹿騒ぎ出来れば良いっていうお祭り大好きな人種ですからwwwちなみに私のクリスマスは仕事のおかげでベリー・苦しみますです。休みなんてありません。OH FUCK!! リア充爆発しろ。ではまた次回!!!