戦闘機人をどういう存在と捉えるか? という問いがあるとする。ソルなら問いに対してこう答えるだろう。『作った奴を殺す』とやや的外れな回答を。アイン、シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラなら『戦う為に作られた哀れな者達』と。しかし、他の”背徳の炎”のメンバーがもしこの問いを投げ掛けられれば大いに答えに窮する。答えられたとしても精々『ソルが怒るんじゃない?』程度にしか答えられない。何故これ程までに明確な差が出てしまうのか。その理由は簡単だ。”あの男”の思惑によって生体兵器ギアへと改造され、自分達が犯した罪の全てを背負い、贖罪と復讐の為、過去を清算する為に戦うことを余儀無くされたソル。”夜天の魔導書”から”闇の書”へと改悪され、主の私利私欲の為に戦う道具として働かざるを得なかったヴォルケンリッターの五人。(ギアとなったアインには”元”が付くが)この六人に共通するのは、他者の介入によって自分達のあるべき姿を歪められ、兵器としていいように利用された点だ。気が遠くなるような長い時間を渡り歩き、血を血で洗う戦闘に心を磨耗させ、いつしか自分で自分を兵器として運用しながら、それでも戦い続けたのである。故に彼らは憤るのだ。もう自分達のような犠牲者を出さない為に。では他のメンバー、なのは、フェイト、はやて、ユーノ、アルフは?幸いなことに、六人のように兵器として利用された経験も無ければ自覚も無い。そもそも使い魔のアルフを除いて全員がまだ人間だ。フェイトは母親であるプレシアから道具として扱われていたが、本人は自分が頑張れば母親が喜ぶと思っていたので、これも自覚が無いと言っていいだろう。それがこの差だ。実際に経験して苦しんだ者達と、話を聞いただけの者達。だからなのは達は、戦闘機人をどういう存在と捉えるか? という問いに対し上手く答えることが出来ない。もっと正確に言えば、ギアの存在を知っているので答え難いのである。ギア。法力によって生み出された生体兵器。人類が過酷な環境に適応する肉体を得る為、”進化”という更なる高みに昇る為、人類が新たなステップへと進む為の歯車として発案された『”魔法”を用いた人工的生態強化計画――通称”ギア計画”』の産物。その肉体は頑強にして強靭で、膂力は遥かに人類を超越している。法力兵器であるが故に呼吸をするのと同じように法力を行使し、無尽蔵にエネルギーを生産するギア細胞がそれに拍車を掛ける。無限に分裂・増殖・再生を繰り返し続けるギア細胞は肉体に不老不死をもたらす。他のありとあらゆるものを圧倒する戦闘能力、本能的に人を襲うプログラム、そして内に秘めた凶悪な闘争本能と禍々しい破壊衝動。かつて、アインがギアになってから暫くしてソルはこう言った。――『ギアは兵器だ。その心さえもな』十年前の”闇の書事件”。ギアの力を完全解放し、外見から心の在り方まで生体兵器としての本性を曝け出したソルが、その凶暴性を剥き出しにして偽のジャスティスと死闘を繰り広げた光景を目の当たりにしていたからこそ、なのは達はソルの言葉に素直に納得した。ギアこそが、人類が生み出してしまった最凶最悪の生体兵器であり、人間の穢れた欲望の産物であり、魔法文明において最大の禁忌に手を出した結果だ、と。勿論、あくまでこれは事実としてギアは兵器だと認識しているだけであって、ギアであるソルやアイン、シンや『木陰の君』、Dr,パラダイムとその仲間達のことを化け物扱いしている訳では無い。で。そんな生物としても兵器としても激烈過ぎるギアの存在を知っているだけに、戦闘機人がただ単に身体を機械化させた人間にしか見えない訳で。戦闘機人が兵器? え? 人間でしょ? となってしまうのだ。確かにギアも戦闘機人も同じ生体兵器とカテゴライズされるものであるが……そもそも、なのはにとってそんなものは関係無かった。何故なら、彼らは時に普通の人間よりも”人間らしい”ことをよく知っているからである。これまで知り合ったギアは皆、喜怒哀楽の感情があり、他者を思いやり、慈しみ、誰かを愛する心を持っている。彼らは自分達と何ら変わらない”人間”だ。なのはは一度として彼らを恐ろしいと思ったことも、危険な兵器だと思ったことも無い。これは戦闘機人にも同じことが言えた。ギンガもスバルも、なのはにとっては年相応の女の子でしかない。本当に恐ろしいのは、彼らを生み出したヒトの欲望。本当に危険なのは、彼らを兵器として運用しようとするヒトの心。そう考えるなのはだからこそ、ソルが毛嫌いするものには容赦が無かった。背徳の炎と魔法少女StrikerS Beat14 Confrontation PATH A「ライドインパルスッ!!」紫のエネルギー光を瞬かせながら自身に突っ込んでくる戦闘機人。左手で防御魔法を展開し、突進と共に繰り出されたブレードの一撃から身を守る。桜色の防壁と、手首から伸びた羽のような形をした紫色の刃――インパルスブレードが衝突し、激しく火花を散らす。「ちぃっ!」堅牢な防御を前にして正面から打ち破るのは不可能と判断し、舌打ちして後方に下がり、睨む付けてくる戦闘機人。そして、またもや肉眼では視認出来ない程の高速を用いて突撃をかましてくる。今度は一瞬で後ろに回り込まれた。死角から首を斬り落とすように。無理やり身体を捻るように反時計回りで振り向きながら、レイジングハートで首の後ろを庇う。槍の石突でなんとか凶刃を防ぐことに成功するが、安心するのはまだ早い。返す刀で放り込まれたもう片方の腕、それに付随している刃が今一度なのはの首を狙って振るわれる。やはり死角からだった。流石にこれを防御するのは無理だ。咄嗟に身体を”く”の字に折って頭を下げ、回避。すぐさまフラッシュムーブを発動させてその場から離脱する。(……速い)内心で純粋にトーレの速度を称賛しながら牽制の意味を込めてアクセルシューターをばら撒く。思った通り、トーレは先程から自慢するように見せびらかしている速度を持って魔弾の嵐を避けつつ、両手のインパルスブレードで桜色の誘導弾を弾き、打ち落とす。「バスターッ!!」「この程度!!」アクセルシューターに気を取られた隙を狙ってディバインバスターを叩き込んでやったが、まるで初めから分かっていたような動きで極太の砲撃は交わされた。ジェイル・スカリエッティが制作したらしい戦闘機人、No,3 トーレ。高速機動による近接戦闘を得意とするタイプ。ちょっと面倒臭いな、となのはは思いつつ距離を置いたまま仕切り直し、相手を観察した。トーレもなのはと同じく仕切り直しをするつもりなのか、動かない。空中で静止し、二人は睨み合う。トーレの顔は怒りで染まり、視線は忌々しいものを見るかのようであり、口元は怒りで歪んでいる。殺意や敵意を向けられているのは当たり前だが、それらを上回る怒りがなのはを若干戸惑わせた。トーレにとってなのはは敵だ。だが、攻撃と共にぶつけられるこの感情は激しい怒り以外の何物でもない。この狂おしいまでの怒りは一体?何故これ程までに激怒しているのか? と疑問が浮かぶ。なのははトーレに見覚えが無い。つまり、これが初対面だ。直接的に恨みを買うようなことした記憶は皆無であるが、こちらは賞金稼ぎであちらは犯罪者の仲間、何処かで恨まれるようなことがあったかもしれない。自分達はあちらこちらの次元世界で犯罪者を叩きのめしている悪名高い賞金稼ぎだ。捕らえた犯罪者の仲間が復讐しようとしてきたことなら吐いて捨てる程あったので――当然、そんな輩は一人残らず返り討ちにしてやったが――そいつらと同じだろうか。思い当たる節があるとすれば、リニアレールの一件か。トーレと同じ戦闘機人で仲間の可能性があるチンクとかいう少女の腕をユーノがへし折ったくらいだが、こちらは少女の腕一本を代償にユーノが大怪我をした上、レリックまで奪われ任務失敗。むしろこっちの方が怒りを抱いていたくらいだ。他にあるとしたら”背徳の炎”がジェイル・スカリエッティを目の敵にして執拗に追い掛け回しているくらいだろう。……前者でも後者でも、あるいは両方だろうが構わない。それがどうしたと言うのだ?トーレがなのはに向ける怒りが何か、そんなものはこの際どうでもいいと思考を打ち切り、再び突撃態勢に移行しようとしているトーレに意識を集中し、レイジングハートを握り両の手に力を込めた。ふう、と小さく息を吐き、五感を研ぎ澄ませ……なのはは自身に問い掛ける。私は何だ? と。続いて答える。高町なのはは、ソル=バッドガイの妹だ。では、私は兄の何だ?兄を守る盾であり、兄に仇なす敵を粉砕する矛だ。ならば、敵のことをごちゃごちゃ考える必要など無い。するべきことは一つだけ。それだけを考えていればいい。ただそれだけの為に自分は存在していると言っても過言ではないのだから。(敵を……突き穿つ!!!)次の瞬間、音も無くトーレの姿が掻き消える。「疾っ!!!」同時にアクセルフィンを全開にし、前方に高速で突き進みながらなのはが槍を振るう。交錯する桜色の魔力光と、紫色のエネルギー光。コンマ何秒にも満たない時間の中で甲高い音が響き、レイジングハートに確かな手応えを残し、なのはの真横を高速で何かが通り過ぎて行く。お互いが背を向けたまま、やや距離を保った状態で空中に静止して――「……なっ、何だと!?」背後で、トーレが信じられないものでも見たという戦慄の表情を浮かべ、震えていた。トーレの両手首から伸びている刃――インパルスブレード、その右手側のものにヒビが入っている。今の一瞬の交錯で、レイジングハートの先端から発生している魔力刃によって傷付けられたものだ。そんな彼女に余裕を持って振り返りながら、なのはは悠然と言う。「ごめんね……速い人の相手、慣れてるんだ」閃光と謳われる程の速度を武器とするフェイトとの模擬戦なら、十年間で何万回と行った。魔法無しの訓練でも、『神速』と呼ばれる奥義を用いて常軌を逸した戦闘速度を可能とする御神の剣士――実兄の恭也、父の士郎、姉の美由希――に散々相手をしてもらった。「だから、速いだけじゃ私に勝てないよ」この程度が出来なくて、何が”背徳の炎”だろうか。この程度が出来なくて、どうやって兄の傍に居ると言うのか。「悪いけど、これでお終い」なのはの言葉の後、トーレの右手首――ヒビが入ったインパルスブレードから桜色のリングバインドが発生し、右手首に絡み付き、トーレをその空間に縫い付けた。先の一撃で仕込んだものである。更に驚愕して眼を見開くトーレにレイジングハートの穂先を向け、なのはは無慈悲に周囲の魔力を収束させ、それに己の魔力をも上乗せさせた。空間に溶け込んでいる魔力素が桜色の粒子となり、眼に見える魔力光となって槍の先端に集まっていく。凝縮していく尋常ではない魔力量。相対するだけで絶望感を植え付けるのに十分なそれは、否が応でも『破滅』の二文字を脳裏に浮かび上がらせるだろう。「く、くそ!!」右手首を拘束し空間に縛り付けるバインドから抜け出そうともがくトーレであったが、逃がしてやる気など更々無い。やがて魔力のチャージが終わり、なのははゆっくりと笑みを作る。「た、高町……高町なのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」殺意と敵意で濁り切った視線でこちらを射抜かんばかりに睨み、憎悪と怒りでその貌を歪ませるトーレ。彼女の怨嗟を上げる声が鼓膜を叩いたが、聞く耳など持たない。「御託は、要らない」私は悪魔だから、と。兄の為ならば私は悪魔になれるから……兄の敵である貴様はそこで無様に泣け、叫べ、そして――「スターライト……ブレイカァァァァァァァァァッ!!!」圧倒的なまでの破壊力を秘めた星の光が、トーレの視界を埋め尽くしたのは次の瞬間であった。後書き更新が大変遅れてしまってすいません。それでも待っていてくれた方々や、いつも感想をくれる方々には感謝しています。本当にありがとうございます。見苦しいですが言い訳しますと、リアルが年末に向けて忙しいので、執筆時間があんまり取れません。働きたくないよー。あ、そういえば十二月になると今の会社に勤めて一年経つことになります。思えば早かった。なるべく早い内にPATH Bをうpしたいと思ってますが、どうなることやら。その次はクリスマスねたを挟みたいと思ってます。ではまた次回!!