「……!! この魔力反応……誰かが召喚を使っている?」クイーンが感知した魔力反応にソルが眉を顰める。軽く見積もってオーバーSランクに相当する程の大きさと、我が家の末娘が持つレアスキルに似た感覚に。”元”召喚術師であったソルはこの反応に誰よりも早く気が付いた。『召喚魔法……しかもこれだけ大量に』『全く別の場所から二箇所……敵は少なくともガジェット以外に使い手が二人以上か』通信の向こうでシャマルが発動した魔法の多さと種類に驚き、アインが魔力反応の元となった地点をマップに表示する。魔力反応は、丁度ホテルを挟むようにして北東と南西の二箇所から発生していた。それとほぼ同時にガジェットの数が急激に増える。先程と比べれば約四割増しといったところだろうか。「ちっ、マズイな。これ以上敵が増えやがったらいくらなんでも防ぎ切れねぇ」現状に舌打ちをしてから思考を巡らせる。召喚・転送魔法というのは攻撃力が皆無であり攻撃魔法の類と比べると地味な反面、サポートという面ではある意味回復よりも重要なものだ。移動や物資の運搬は勿論のこと、奇襲や撤退といった使い方によっては戦況を一気に塗り替えることが可能だから、召喚術師というのは敵に回すと厄介なことこの上無い。術者の実力が許す限り味方を増やすことが出来る。召喚された者よりも先に術者の方か、召喚の媒介となっているものを叩かないと果てが無いのだ。ギア消失事件の際にヴァレンタインと戦った記憶が嫌という程ソルに警告する。『おいソル!!』如何にして局面を打破しようか、顎に手を当て黙考している時にヴィータの焦ったような声が届く。「どうした?」『さっきのデカイ魔力反応が出てからガジェットの動きが急に良くなりやがった。たぶん、今まで自動だったのが有人操作に切り替わったんだ』『こっちもや。生意気にもこっちの攻撃避けようとしとる』『ただの的の木偶だったのが……鬱陶しい』ソルの問いにヴィータが苦虫を噛み潰したような口調で答え、苛立たしげに声を出すはやてとなのは。このタイミングでガジェットの動きが向上したことに、先程の魔力反応が関係しているのは疑う余地も無い。『ヤベーぞ。アタシらは別に自動だろうが有人だろうがあんま関係無ぇーけど、ティアナ達はこれだけの数のガジェット相手に長時間戦えんのか?』ヴィータの懸念はソルも同じである。敵がどの程度の数のガジェットを用意しているのか知らないが、なのは達が破壊して減らしている一方で召喚魔法を用いて送り込んでくる辺り、明らかに物量作戦で攻めてきていた。最悪、敵は持久戦を狙っているのかもしれない。『仕方無いわ。なのはちゃんとヴィータちゃんが位置的に二つの魔力反応に近いから、すぐに二人は召喚師を叩いて。それで二人の抜けた穴はシグナムとフェイトちゃんに塞いでもらいたいんだけど、構わない?』これでは内部の警備が手薄になるが、召喚師を叩くことは最優先事項だ。反論は誰もしない。シグナムとフェイトは内部の警備からホテル外での迎撃へと急遽変更となり、即出撃した。正直な話、もし内部への侵入を許してしまったらオークション会場に居る客は当然として、ホテルのスタッフや警備に当たっている者達は全て強制転送することが決められている。これはソル達が警備に付くに当たって主催者に呑ませた条件でもある。万が一があった場合の最低限の救済措置だ。「シャマル。ティアナ達のフォローはどうする?」『ヴィータちゃんとなのはちゃんが召喚師を叩くまで持ち堪えてもらうしかないわ』「ちっ、やっぱりそうなっちまうか」再度舌打ちするソル。人手が足りない以上、シャマルの指示に従うのがベターな選択だ。せめてティアナ達へのフォローとしてザフィーラが居てくれれば良かったのだが、今はこの場に居ないので言っても栓の無いことである。「なら俺が――」『アナタ、心配なのは分かるけど頭を冷やして』『自分の立場を忘れるな、ソル』「……っ」シャマルとアインの諭すような声がソルの言葉を最後まで言わせない。そして、彼は自分の今の立場をよく理解しているからこそ二人に反論出来なかった。もう聖戦時代の聖騎士団に所属していた頃のような、命令無視を繰り返して単騎で遊撃だけしていればそれでいい、そんな自分勝手な行動が許されるような立場ではない。現在の彼は、組織の中で人の上に立っていて、チームの一員なのだ。いくら救済措置が用意してあると言っても、内部警備担当の者が全員居なくなっても構わない訳では無い。故に、ソルに残された手段はティアナ達の上司として、チームの一員として、教導官としてこれまで自分達が厳しく大切に鍛え上げてきた三人の実力を信じ、無事であることを祈ること。それでも碌に手助けすることの出来ない自分に対し、歯痒さを噛み締める。「……分かった。だが、もし本当にヤバくなった場合、俺はあいつらを助けに行くぜ……誰にも文句は言わせねぇ」確かに今の立場をよく理解しているし、自覚もしている。しかし、そんなものに縛られて何も出来ないのはクソ食らえだ、と。自らの決意を表明するかのような宣言に、意見する者は誰一人として居なかった。周囲に発生させた大量の魔力弾が、己のトリガーヴォイスと共に敵の群れへと殺到する。「クロスファイア、シューット!!」オレンジ色をした魔弾が十数発、それぞれがガジェットを粉砕し、その機能を停止させた。ティアナはそれを横目で一瞬だけ確認すると、すぐさま他の敵をロックオン。魔弾を撃ち、破壊しては次の標的へとロックオン。何度も何度もそれを繰り返す。もう自分が一体どれだけの数のガジェットを破壊したのか数えるのも止め、ただひたすらクロスミラージュを構えて照準を合わせ、引き金を引く。「はぁ、はぁ、はぁ」酸素を求めて喘ぐ口。呼吸が荒い、はっきり言ってくたびれた。残りの魔力と体力が心配になってきたので、このままのペース配分でいいのかと不安になってくる。それでも――「スバル、ギンガさん!! もう一回お願い!!」「「了解!!」」二人が応え、ウイングロードで空間を縦横無尽に駆け回りながら自分に合わせようとしているのを視界の先で確かめながら、ティアナは焦りを感じていた。この場に居るのは自分とスバルとギンガの三人のみ。増え続ける敵、援軍は期待出来ない状況、少しずつ溜まっていく疲労、徐々に減っていく魔力と体力。敵の召喚師による遠隔転送。送り込まれてくるガジェットの出し惜しみなどする気が無いのか、何処からともなく沸いてくる。おまけに先程よりも確実に動きが良い。恐らく今まで自動操作だったのが有人操作に切り替わったらしいのだが、もうティアナにとってそんなことはどうでもいいのだ。(今度こそ、今度こそ与えられた任務を遂行してみせる……!!)疲労困憊の彼女を支えるのはそんな思いである。Dust Strikersに出向して以来、自分達だけでまともに任務を完遂することがなかった事実。皆よりも凡人で、実力の低い自分。そして、ソルが自分達に向ける過剰なまでの気遣い。分かっている。分かっているのだ。自分はまだ子どもで、実戦経験も浅く、才能も無ければ特筆すべきレアスキルも無い。ソル達にとっては心配の種で、足手纏いにしかなっていない。だからこそ、せめて与えられた仕事くらいはきっちりこなしたいのである。クロスミラージュを敵に向け、撃つ。発射された魔弾はガジェットが展開したAMFを貫き、その青い装甲に突き刺さる。内部に食い込んだ魔弾が上手く駆動系を破壊したのか、ガジェットはそのまま物言わぬガラクタとなって沈んだ。「でぇぇぇああああああああああああああああああああ!!」ツーハンズモードで二挺に構えたクロスミラージュの引き金を引く、引きまくる。銃声が鳴り響き、マズルフラッシュが視界を明滅させるが、それでもティアナの正確無比な射撃は狙いを違えることなくガジェットを撃ち抜いた。そんなティアナに負けまいと、スバルとギンガも高速で動き回り、ガジェットの触手のようなアームや熱線を掻い潜り己の間合いにし、リボルバーナックルを叩きつける。三人の奮戦は続く。一見、難無くガジェットを退けているように見えるが、小賢しいことにまたもや召喚魔法陣が顕れていた。畜生、またか!! 思わずそう口汚く罵ってしまいそうになって、出現したものに度肝を抜かれてしまう。スバルとギンガもまた新たに召喚されたものを見て、顔を引きつらせている。召喚によって現れたのは、青い装甲を持つガジェットではない。それは――「む、虫!?」悲鳴染みたスバルの声の通り、それは虫だった。自然界の中でなら何処にでも居そうな、普通の虫。しかし、サイズが通常の虫とは桁外れにデカイ。今までミッドチルダで暮らしてきた三人とって、人と同等かそれ以上の体躯を誇る虫など見たことがある訳無い。見たことがあるとしたら創作物の中だけの話。人や家畜を捕食してしまいそうな大きさであれば尚更だ。しかも大きいだけあって普段なら絶対に眼にしないような細部まで見ることが出来てしまうと、生理的嫌悪感が湧き上がってきて戦意が一気に萎えかけてしまった。見た目が害虫と呼ばれるような類の種に似ているのがそれに拍車を掛けた。耳障りな羽音を立てる羽虫のようなタイプ。ギチギチと動く度に関節部の音を鳴らす甲虫タイプ。ムカデのように長い体躯と多足を持つタイプ。他にも多種多様なものが居たが、自ら好んでよく観察をしたいとは思わない。「……スバル、ギンガさん!! 呆けてる場合じゃありません、来ます!!」我に返ったティアナは唇を強く噛み締め、二人に声を掛けた。まるで己を鼓舞するように。「なのはさんとヴィータさんが召喚師を叩くまで持ち堪えれば良いんです、それまでの辛抱です!!」叫び、銃口を虫と機械兵器の混成部隊に向ける。(負けてらんないのよ、アンタ達に……アタシは、立ち止まる訳にはいかないんだから!!)そう、負けてなどいられないのだ。誘蛾灯に群がる蛾のように群がってくるガジェットを破壊しながら、なのはは指定された地点に向かう。自分が受け持っていた場所は現在フェイトが穴埋めをしてくれている筈だ。ガジェットの排除はフェイトに任せ先を急ぐ。やがて、召喚師が居るであろうと思われる付近に到着した。(あそこに敵が……早く潰さないと)レイジングハートの穂先を眼下の森林に向け、魔力をチャージし始める。大火力魔法を広範囲に数発放り込んでから敵を炙り出し、出てきたところを叩くつもりだ。魔力のチャージがある程度終わり、なのははトリガーヴォイスを唱えようと口を開いた瞬間、<マスター!!>長年連れ添った相棒が切羽詰ったように注意を喚起する声を放つ。それに従ってディバインバスターを強制キャンセルしてから無音詠唱で高速移動魔法フラッシュムーブを発動させその場から離脱する。今まで居た空間に、眼下の森から飛び出た紫色の閃光が通り過ぎたのを確認して、なのはは思わず舌打ちした。「召喚師の、仲間?」<かなり速いですね>閃光はなのはが見上げるような形になるとそこで止まり、その姿を現す。身体のラインをくっきり見せるようなデザインの青いボディスーツに包まれていた女性。男性のように短く切り揃えられた紺色の髪。金色の瞳。手首と足首、それと大腿部から伸びた紫色の羽と表現すべき魔力刃。「……戦闘機人。召喚師のガーディアンか何かかな? どっちにしろ――」以前、リニアレールでユーノと会敵した連中と同じボディスーツを眼にして、なのはは人知れず呟いていた。一方、ヴィータは自分の抜けた穴を後から来るであろうシグナムに任せ、なのはと同様に召喚師を叩く為に持ち場を離れた。そして、つい今しがた自身を阻むように現れ空中に佇む人物を前にして、アイゼンを油断無く構え眼を細める。「誰だ、テメー?」「……」問われた人物は答えない。身長はソルと同じくらいでかなりの高身長だ。ロングコートを羽織っているが、服越しの肉の盛り上がり方からしてガタイもソルと同程度に鍛え込まれた筋肉をしているのが分かった。フードを深く被っていて顔は確認出来ないが、体格からして十中八九男性だと思われる。ただ、右手に握られている槍型のデバイスだけが、何も語らず顔も見せない人物の意思を映し、警告と敵意を刃先に乗せていた。曰く、「これ以上先に進もうというのであれば、容赦はしない」と。つまり、召喚師の仲間である可能性が高い。「どけ」ゆっくりとした口調で、静かな殺意が滲んだ声をヴィータが紡ぐ。が、フードの男は無言で首を横に振るだけ。「……そうかよ」この態度から眼の前の人物が召喚師の仲間で間違いないとヴィータは確信し、フードの男を強制的に排除することに決め、アイゼンを持つ手に力を込める。(やれやれ、また一つ仕事が増えやがった)胸中でうんざりと溜息を吐きつつも、ヴィータは気を抜かない。敵は潰す。そして、邪魔立てする者も同様に、誰であろうと潰すのみ。ヴィータの仕事はいつだってそうだった。HEVEN or HELL自分を見上げてくる敵、高町なのはを見下ろしつつトーレはやや緊張しながら身構える。高町なのは。”背徳の炎”の一人。ソル=バッドガイの義妹にして、他のメンバーと比べて最も義兄に似通った思考の持ち主であり、敵に対して最も容赦が無いことで有名だ。まあ、”背徳の炎”が敵に容赦無いのは周知の事実なのだが、高町なのははその中でも一際容赦が無いと言われていた。それ故に奴は”白い悪魔”という畏怖が込められた名を轟かせている。数秒間、お互いを観察するように睨み合っていると、なのはが無造作にレイジングハートの穂先をこちらに向け、「邪魔、どいて」<ディバインバスター>警告も無しに、感情など一切篭っていない声と共にいきなり撃ってきた。反射的に己のISを発動させ射線から逃れた瞬間、桜色の奔流が暴力的な魔力の塊となって今まで居たその空間を貫く。とんでもない程の破壊力が込められていた集束砲は、遥か上空に漂っていた白い雲の塊を容易く抉るだけに留まらず、雲そのものを欠片も残さず消し飛ばす。桜色の光が通り過ぎた空間はあまりの威力に光を屈折させているのか、その向こう側は歪んでいるように見える。思わず生唾を飲み込む。あれが直撃していたらどうなっていたのか?かと言って先に手を出したのはトーレの方、しかも不意打ちのような形でだ。今の攻撃に対して文句は言えないし、これは訓練や模擬戦ではなく実戦。トーレとなのはの間柄が敵同士なので、むしろこれは必然と言えた。「選んで」ポツリとなのはが呟く。やはり感情が篭っていない声で。「道を空けるか、クタバルか」こちらを見ているなのはの眼は、敵意も殺意も映していない。ただ純粋に『邪魔なものを排除する』という作業をこなす機械のような、淡々とした意思だけ。どちらを選んだとしても、恐らくなのはは気にしないのだろう。トーレが素直に道を空ければそれで良いし、邪魔するのであれば排除する、本当にどちらでもいいからこそ聞いてくるのだ。そんななのはの態度に対して、トーレは耐え難い屈辱と怒りが沸々と湧き上がってくるのを実感し、唇をきつく噛み締める。(そうか、高町なのは……貴様にとって私は、ガジェットと同じでしかないということか!!)なのははトーレを戦闘機人と認識していながら、トーレのことなど眼中には無く、一切の興味も持っていない。単に邪魔で、意思の疎通が可能であるが故に二択を迫った。敵と認識されるのなら大いに結構。しかし、あんな鉄屑と同じ扱いをされるのは流石に腹が立つ。――いい気になるなよ、”背徳の炎”が!!これまでトーレはソルのことを一方的に敵視していた。ソルの仲間達である他のメンバーも同様に。生体兵器としてスカリエッティの理想像を体現しているソル。そんな彼に仕えているかのようななのは達。まるで自分達と表裏一体にして背中合わせであるかの如く。目指すべき目標であり、到達しなければいけない領域であり、何よりも倒さなければならない敵、”背徳の炎”。トーレは心の何処かで、ソル達は自分達と似ていると感じていた。だからこそ、スカリエッティを目の敵にしているソル達こそが自分達の”戦うべき敵”であり、向こうもこちらと同じように自分達のことを”戦うべき敵”として見ていると思っていたのだ。実に勝手ながら。それがどうだ? 蓋を開けてみれば、眼の前の高町なのははトーレのことを敵と認識してはいても、雑魚にしか見ていない。邪魔? どいて、だと? 道を空けるか、クタバルか選べだと?これ程の屈辱が他にあるだろうか。「高町なのは……貴様に教えてやる。私はDr,ジェイル・スカリエッティによって生み出された戦闘機人、No,3 トーレ」怒りに震える声でトーレは宣言する。それでもなのはは顔色一つ変えない。ふーん、だから? と言わんばかりに無関心。その態度がトーレの怒りを更に燃え上がらせてしまう。「貴様の、敵だ!!」そして、己のISを発動させた。DUEL「”鉄槌の騎士”ヴィータだ」ヴィータの名乗りにゼストは無言で槍を構えるようにして応える。ゼストの心境としては複雑だった。”背徳の炎”を相手に事を荒立てても、こちら側に益は無い。むしろ不利になるであろう。何より心情的に言えばゼストはソル達と同じで、スカリエッティ達とは最低限のやり取りのみでそれ以外に関しては互いに不可侵である。此処で無理してヴィータと戦闘する必要は無い。一目散にトンヅラすればいい。だが、ルーテシアが召喚虫でガジェットを操っている以上、彼女を守らなければいけない。それに加えて、今の自分達は捕まる訳にはいかないのである。最早自分は死んだ人間で、未練を残して彷徨う亡霊にして過去の遺物だ。死んだ筈の自分が生きていて、裏で広域次元犯罪者であるスカリエッティと繋がっていたという事実が公になってはマズイというのもあるが――(……レジアス)今此処には居ない親友に想いを馳せる。お前は何を思って、スカリエッティと手を組んだ?親友の正義の為ならば殉ずる覚悟は出来ていた。しかし、当時のレジアスの正義には疑問を抱かざるを得なかった。彼の真意を、問い質したい。目深く被ったフードの下、ゼストは悲哀を一瞬だけ表情に貼り付け、それからすぐにいつもの鉄面皮を纏う。「今は退け……ベルカの騎士よ」初めてゼストが声を発したことにヴィータは若干感心しつつ、唇を吊り上げ笑った。「そいつぁ出来ねーご相談って奴だ。アタシらが敵の排除に手間取るとウチの大将がブチ切れて、此処ら一帯を焼け野原にしかねないからな」「……ソル=バッドガイ、”背徳の炎”か」十年前のあの時、一度だけ邂逅を果たした少年の姿を思い出し、ゼストの胸の内に懐かしさが込み上げてくる。獲物に狙いを定めた肉食獣のように鋭い真紅の眼差し、紅蓮の炎、血のように赤い魔力光、圧倒的な強さと魔力、それら全てを内包した炎の少年の姿。あの少年が成長して、今、自分達の前に立ち塞がっている。自分達が当時とは逆の立場に居ることに皮肉めいた運命を感じ、ゼストは思わず苦笑を漏らす。しかし、どんなに昔を懐かしんでも時間は巻き戻せない、もうあの頃には戻れない。――死んだ部下達は帰ってこない。一度瞼を閉じ、やがてゆっくりと眼を見開き、ゼストは口を開く。「行くぞ」低く、落ち着いた、それでいて覚悟を決めた声だった。Let`s Rock背徳の炎と魔法少女StrikerS Beat14 Confrontationto be continued...PATH A & PATH B