リニアレールの一件から数日が経過し、今日も今日とてDust Strikersでは次元世界から寄せられた依頼を賞金稼ぎ達がボチボチこなしていた。研修生達も訓練内容をよりレベルが高く密度の濃いものに移行させ、切磋琢磨する。そんな訓練風景から少し離れた一角の端の方、誰も寄り付かないような場所。そこで人間形態のアルフがスーツ姿のユーノの襟首を掴み、今にも噛み付くような勢いで怒鳴っていた。「どういうことだい!?」「いやぁ、そんなこと僕に言われても……僕だって何がなんだかさっぱりな訳だし」「すっとぼけんじゃないよこの阿呆!! アンタ以外の他に誰が居るってんだい!?」眼の前のアルフから視線を逸らして言い訳染みたことを溜息と共に吐き出すユーノの態度に、アルフは本当に頭に来たのか、こめかみに青筋を立てて更に大きな声を上げる。「どうしてギンガが、アンタに、四日前から異常なまでに懐いてるのか……その理由を言えっつってんだろ!!!」「だーかーらー、知らないっつってんの!! 僕はソルに言われた通り、ギンガが元気出すように慰めただけだって何度言えば分かるんだよ!!!」嫉妬の炎を燃やすアルフと、必死に弁解するユーノ。単なる痴情のもつれだった。説明するまでもないと思われるが一応説明すると、先日の一件でギンガは自分の責任でユーノに大怪我をさせたと思い、引き篭もってしまった。妹のスバルなどがどんなに頑張って慰めても励ましてもダメだったので、事態を看過出来ないと判断したソルがギンガを慰めるようにユーノに命令。快く引き受けたユーノによって元気を取り戻したギンガであるが、あら不思議。まるで恋する乙女のようにユーノに懐いてしまったのだ。「慰めるって、何したんだい?」「……何もしてないってば」「まさか、ナニしたんじゃないだろうね!!」「馬鹿! ナニもしてないってば!」「信用出来ないね」「どうして?」「男は皆、夜になると変身するから……『ドラゴンインストール!!』って」「たとえ冗談でもソルに聞かれたら消し炭じゃ済まない迂闊な発言はやめてくんない!?」慌てるように掴まれている襟首を振り払い、ユーノは少し着崩れてしまったスーツを直す。そんなユーノに背を向け、アルフはぷっくり膨れっ面になりつつも、渋々語る。「いいんだよ、ユーノ。やっちまったんなら仕方無いさ。ユーノも男なんだし、やっちまったのは普段から満足させてない私の落ち度だし」「だからやってないって」いい加減僕怒ってもいいよね? 沸々と怒りがこみ上げくるのを心の奥で感じながらユーノは半眼になった。「アタシは狼素体の使い魔だから本能的に分かるんだよ」「何が?」「一匹の優秀な雄に、複数の雌が集まってくるのは自然の摂理さ。具体例がすぐ傍に居るから、余計にね」ユーノは脳裏に、ソルが『ああン?』とガン飛ばしてくる光景を想像する。「だから、やったならやったでちゃんと言ってくれればアタシだって怒らないから、本当のこと教えて……」アンタ今まで滅茶苦茶怒ってただろ!! という胸中の言葉を必死に飲み込んで、ユーノは無理やりアルフの肩を掴んで振り向かせると、真っ直ぐ視線を合わせて言う。「僕はやってない」真摯な態度で身の潔白を訴える。「本当に?」「本当に」問われたので、ユーノは真剣な表情のまま頷いた。「指一本もギンガに触ってない?」「いや、軽く抱擁とかは、し、しました……や、役得とか別に思ってないです、はい!! これっぽっちも!! 良い匂いがするとか柔らかいなとかギンガって結構着痩せするタイプなんだとか考えてませんよ、勿論!!」何故か敬語で、白状すればする程墓穴掘っていて、次第に剣呑な光がアルフの眼に宿る。それを見てこれはやばい? と焦るユーノ。「……これが一番聞きたかったんだけどさ」「う、うん」急に静かで抑揚の無い声音になったアルフにビビリながら、ユーノは首を傾げた。「ギンガに何て言って慰めたの?」「……」訪れる沈黙。アルフは急かさない。ただ静かに、ユーノの瞳を冷たい視線で覗き込んで、答えが帰ってくるのを待っている。やがて、十数秒という時間が流れてから、意を決したユーノが申し訳無さそうな口調で、まるで本当に謝罪するように言葉を紡いだ。「僕は泣いてる女の子を慰めた経験なんて碌に無いから、正直どうすればいいのか分かんなかったんだけど」「けど?」「なのは達にどうすればいいのか相談したら、自分達はこういう風に異性から慰めてもらったよ、ってアドバイスくれて」「……」「その通りにしたら、ギンガがあんな風になってました……だから、本当に僕には訳が分からないんだああああああああっ!?」言葉尻で突然悶絶し始め、ユーノは舗装されたコンクリートの上を無様にのた打ち回った。アルフがユーノのまだ治りきっていない腹の傷をつねったからだ。「ア・ホ・か!! なのは達が落ち込んでる時に慰めた異性なんてソルしか居ないでしょうが!! あの無自覚女ったらししか居ないでしょうが!! 本人は慰めたり励ましたりしてるつもりでも、言葉が少なくて乱暴なもの言いの所為で、聞いてる相手にとっては愛の告白にしか聞こえないことを真顔で言い切る男じゃないかい!!!」ガアアアアアアアアッ、とアルフが獣の咆哮を上げるがユーノはそんなものを耳に入れている余裕が無い。激痛でそれどころではない。痛いだけであって、それ以外に何か問題がある訳でも無いが、痛いもんは痛いのである。「聞いてんのかゴラァッ!!」のた打ち回ることすら許されないらしい。再び襟首を掴まれて無理やり引き寄せられる。「……僕は、別にそんなつもりで言ったんじゃない……世界はこんな筈じゃなかったことばっかりだ……」額に脂汗をかきながら、蚊の鳴くような声でユーノは青息吐息状態で訴える。しかし――「そんなつもりで言ったんじゃない? 世界はこんな筈じゃなかったことばっかりだ? そんな台詞はソルのおかげで聞き飽きてんだよこっちはぁぁぁぁぁっ!!!」「アッーーーーーーーーーーー!!」許す気など更々無いアルフの容赦無い牙が、ユーノの首筋に突き立てられる。その日。雲一つ無い青い空に、ウインクしながらサムズアップするユーノの笑顔を幻視する者がDust StrikerSに多発した。背徳の炎と魔法少女StrikerS Beat9 そうだ、海鳴に行こう『アーアー、マイクテス、マイクテス。本日は晴天なり、本日は晴天なり~』スピーカー越しに間延びしたはやての声が施設内に響き渡る。『業務連絡します。管理局から出向中のティアナ・ランスター、スバル・ナカジマ、ギンガ・ナカジマはオフィスに集合してください』自分達が呼び出されたことに、なんで? と疑問符を浮かべながらスバルとティアナはオフィスに向かって歩き出す。「何だろうね? ティアは分かる?」「さあ? でも、どっちにしろ訓練か仕事の話でしょ」スバルの疑問に肩を竦めて答えながらやれやれと溜息を吐く。『繰り返します。管理局から出向中のティアナ・ランスター、スバル・ナカジマ、ギンガ・ナカジマは三十秒以内にオフィスに集合してください。さもないと焼き土下座の刑に処すで』二人は「焼き」の部分を耳にした瞬間にダッシュする。「わ、私達何かした!?」「知らないわよ、やってないわよ、心当たりなんてこれっぽっちも無いわよ!!!」あるとすれば先日の任務失敗の件だが、あれは既にソルから不問とされているので違う筈だ。「じゃあなんで焼き土下座が待ってるの!?」「私が知りたいわよ!!!」血相変えて廊下を疾走しつつ喚き散らすティアナとスバル。『っていうのは冗談で』しかし、まるでタイミングを計ったかのように聞こえた声の所為で走り出して五秒もしない内にズザザザザッー、と二人揃って床にヘッドスライディングをかます破目に。『なるべく早く来てなー……業務連絡終了します』プツッ、と館内放送が切れる。「……」「……」無言で立ち上がり、服を払ってからゆっくりと歩き出す。こめかみに青筋を立てながら「はやてさん、何時か必ずボコす」と心に誓って。オフィスに入室すると、待ち構えていたのは館内放送で呼び出した張本人であるはやて、その隣に佇むアイン、二人よりも早く到着していたらしいギンガ、そして何故か白衣と銀縁眼鏡を装着し――マッドサイエンティストモードと言われている――こちらに背を向けてデスクで何やら作業をしているソルが居た。「揃ったことやし始めるで。アイン」「これを」はやてに促されたアインが手にしていたA4サイズの紙を一枚ずつ、ギンガとスバルとティアナの三人にそれぞれに配る。受け取った紙は仕事に関する資料のようだ。「派遣任務、ですか?」「しかも異世界に……」「そうや。本局から聖王教会を経由して私らにお鉢が回ってきたんよ」スバルとティアナが首を傾げるのを見てはやてが頷く。「管理外の異世界でロストロギアの発見報告があったが、本局の遺失物管理部の捜査課も機動課も人手不足とのことでな、本局の方から聖王教会に回ってきた依頼なので私達が余計な手出しをする必要など皆無だが、生憎と騎士団もすぐに動かせる隊が無いらしい。レリックの可能性も捨て切れない為、回りに回って”何でも屋”である私達が請け負うことになった」やれやれと疲れたように溜息を吐くアイン。「派遣先は何処ですか?」「第97管理外世界、現地惑星名称”地球”だ」ギンガの問いにこれまで沈黙を守っていたソルが、振り向きもせずにぼそっと答えた。「その星の東洋に浮かぶ小せぇ島国、日本って国に存在する呪われた大地”海鳴市”」「「勝手に呪われた大地にするな!!」」綺麗に声をハモらせてアインとはやてがツッコミを入れる横で、ギンガとスバルとティアナの三人はソルに此処まで言わせるその”海鳴市”は一体どれ程恐ろしい土地なのかと想像し、戦慄している。「どう考えても呪われてんだろ、あの街。十年前にロストロギアの所為で二回も世界が滅びそうになって、今回もまたロストロギアだぁ? これが呪われてないなら何だってんだ?」椅子を百八十度回転させてこちらに向き直ったソルに上手く切り返されて黙り込んでしまう二人。「……ってあれ? 地球って確かお父さんのご先祖様の故郷だったわよね、スバル」「うん。そう言えば……」ナカジマ姉妹がそのことに気付くと「人の先祖の故郷を勝手に呪われた大地にしないでください!!」と猛抗議。「っていうか、ソルさん達の故郷でもあるじゃないですか!!」「どうして自分の故郷をそんな酷い言い方するんですか!?」「事実だからだ。十年前のPT事件と闇の書事件で俺達は死に掛けた。実際、下手すりゃ周囲の世界を巻き込んで次元断層を起こして滅亡してもおかしくなかった。特に闇の書事件はやばかった……本気で死ぬかと思ったぜ」重苦しい口調で語られたデンジャラスな発言に、オフィスの時間が止まる。周囲で書類仕事をしながら耳を傾けていたシャーリーやグリフィス、アルトやルキノも思わず手を止め顔を青くしている。ソル達の詳しい出自などに関する情報は特殊な事情により詳細は知られていないが、漠然となら伝わっている。だが、それ程までの修羅場だとは思っていなかったらしい。ちなみに、書類上ではソル達がPT事件に関わっていない筈なのにポロッと真実が垣間見えていることに誰も気付かない。「……え? だって、ソルさんって十年前の時点で既にオーバーSランク、っていう話を聞いたんですけど?」ティアナがわなわな震えながら聞いてみる。「ああ、ランク試験は受けてねぇがな。俺だけじゃねぇぞ、なのはやフェイト、シグナムやヴィータだって当時はAAAからニアSランクだ」「それでも死に掛けたんですか?」「死に掛けた。正確には殺され掛けたがな……だから呪われてんだよ、地球は」クツクツと喉を僅かに動かし邪悪に笑うソルの反応に、ナカジマ姉妹とティアナは凍りつく。しーん、と静まり返ってしまうオフィス。まさかそんな恐ろしい場所に派遣されて仕事をすると思っていなかったティアナは、冷や汗を垂らして拳を強く握り締めた。隣に並んでいるナカジマ姉妹の表情も硬い。「あ」その時、はやてが何かに気付いたのか声を上げる。それに対して「ヒィッ!?」と面白いくらいにビビるティアナ達。「アイン、大変や。これ、ドSモード入っとるやないか」「あ、そういえば白衣と眼鏡を装着したままでしたね、うっかりしてました。デバイスルームから直接引っ張ってきたのが原因で脱がせるのを忘れてしまいました」「つーことで眼鏡を外すで!!」「白衣も脱げ!!」二人はソルに飛び掛ると、眼鏡を無理やり毟り取り、白衣を引っ手繰るように脱がす。「……何なんですか?」最早事態についていけない三人を代表するようにギンガが問うと、アインが奪った白衣を丁寧に畳みながら答える。「ソルはONとOFFの切り替えが激しい男でな。プライベートではただの無口なオッサンだが、仕事中は必殺仕事人になるのは知ってるな?」「確かに”必殺”ですよね」皮肉が込められた同意の声をティアナが上げた。「戦闘中以外に白衣姿で仕事をしている時もスイッチがONになっていて、基本的にどちらもSだ」「つまり、戦闘中と白衣姿の時のソルくんはサディスティックな国からやってきたドSなんや」説明になっているのかなっていないのかイマイチ分からない内容に、三人は「……はあ」と釈然としない面持ちである。「下らねぇこと言ってないで話を進めろよ」「アンタが必要無いのに、十年前の話でこの子達怖がらせるからいけないんやろが」「このドSめ、あの状態で悦ぶのは私かフェイトだけだぞ……玩具のように弄ぶのなら私にしろ」うんざりしたように溜息を吐くソルに食って掛かるはやてと、何故か頬を染めるアイン。「……ダメだこの人達、色々な意味で早く何とかしないと……特にアインさん、ついでにフェイトさん」そんな光景をどんよりした眼で眺めつつ、深い深い溜息を呆れながら吐くティアナに、その場に居たほとんどの者が同意するように首を縦に振った。「話が逸れたけど、要するにパッと地球に行ってパッとロストロギアを封印する。超簡単や。分かった?」まるで買い物を頼むような口調でのたまうはやてに、ティアナ達はもうどうにでもしてくれ、と言わんばかりにやや投げ槍な感じで首肯する。「だが、此処で一つ問題が発生した」「え~? まだ何かあるんですか?」もう騙されないぞ、と言わんばかりに猜疑心が込められた視線でソルを睨むスバルに対し、彼は疲れたように肩を竦めた。「繰り返すが目的地が地球の海鳴市、つまり俺達の故郷だってのは承知の上だろうが、面倒臭ぇことに俺達も行くことになった」頭の上に疑問符を浮かべる三人。それに構わずソルは続けた。「原因はウチのペットのフェレットだ」「ペット? あー、ユーノさんですね」イチイチ反応するのは止めようと思いながらもツッコミを入れざるを得ないティアナ。「ユーノが仕事中に怪我したことをメールで伝えたらな、『とりあえず全員が無事な姿を一度生で見せろ、近い内に帰って来い』と実家の連中が喚く訳だ」その”実家の連中”というのがどんな人達か知らないが、当然と言えば当然な言い分ではあると誰もが納得する。戦闘を生業とする魔導師は、当たり前だが常に危険と隣り合わせだ。絶対に大丈夫だという保障も無い、場合によっては何時死ぬか分からない危険な仕事。そんな職業に就いた者を家族が心配するのは当たり前だ。事実、ナカジマ姉妹は両親から、ティアナは実兄から過剰なまでに心配されていると感じているし、教官達のソル達からもやや過保護ではないかと思える程に厳しく教導されている自負はある。「とまあ、そういう理由もあって今回は最初から最後まで私ら全員が三人に随伴することになるんよ。休暇も兼ねて皆で帰郷やな」「お前達はあくまで仕事で、私達は休暇で、という形になってしまうので不公平だとは思うが。すまないな」帰郷♪ 帰郷♪ 休暇♪ 休暇♪ と完全にバカンス気分で小躍りし始めるはやてとアインを横眼で一瞥してから、ギンガが口を開く。「それで、問題っていうのは?」「俺達全員が居なくなったらどうなるんだ、此処?」「静かになるんじゃないんですか? あと医務室に担ぎ込まれる人が居なくなるくらい?」「よしスバル、後で俺と模擬戦な。医務室に担ぎ込んでやるよ」「スイマセン、冗談です」すぐさま額を床に擦り付けるくらいに土下座するスバルは放置して、ソルの言いたいことが何なのか理解しギンガのみならず他の面子も納得した。Dust Strikersの最高責任者はグリフィスであり、運営しているのは管理局から出向している事務員達であるが、実質的に支配しているのはソルが率いる”背徳の炎”なのだ。トップが全員居なくなったらそれは組織としてはどうなんだ? という問題が浮上してくる。最低でも一人や二人は留守を預かる者が居ないとダメだろう。しかし、実家からの要求は全員が無事の姿を見せること。実家からの要求など突っぱねてソル一人が残る、という案が一番初めに提示されたのだが、ソル一人が残るくらいなら私も残る、と主張する者が続出。本末転倒な結果になってしまったので、じゃあザフィーラを残そうかという話になるもソルがこれを断固拒否。ユーノは絶対に行くことが決定しているし、ユーノが行くならアルフも行くことになる。じゃあ誰が残るんだよ、居ないわそんなん、という話になってしまい、結局全員が行くことになるので誰が留守を預かるんだ、という風に此処で話がインフィニティループするのであった。「クロノ呼ぶか」「流石にそれは迷惑だと思うぞ。理由が理由だしな」コンソールパネルを叩いて今にも何処かへ連絡しようとしているソルをアインが冷静に止めた。「二回に分けたらどうですか?」「それだとメンバーに偏りが出来るから却下や」「……でしょうね」最初から却下されることが分かっていたのか、ティアナは苦笑いだ。「もうこの際、此処なんて気にしないで全員で行ったらどうですか?」不毛な会話が延々続くことに見ていて痺れが切れたのか、グリフィスが話に割り込んでくる。「一週間も居なくなられたら流石に困りますが、一日二日でしたらなんとかな――」「その言葉を待っていたんやグリフィスくん!!」「へ?」本当に心の底から待っていたとばかりに突然大きな声を上げるはやての反応の意味を理解し、グリフィスの顔が「しまった!! 嵌められた!?」と凍り付いた。「流石グリフィス。ソルが認める優秀な事務員なだけはあるな」「ちょっと待ってくだ――」「留守は任せたぜ、グリフィス……俺達全員の書類仕事も全部な、ついでに俺達が居ない間に何か起きたら全部お前が責任取れよ、いいな? 此処の最高責任者」ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるアインとソルの言葉に、グリフィスは「迂闊だったぁぁぁぁぁぁっ!!」と頭を抱えながら絶叫してオフィスを出て行ってしまう。「げ、外道だ……」シャーリーが何気無く呟いた一言に、オフィスに居た誰もが再び頷くのであった。転送ポートに向かうヘリの中、俺は欠伸を噛み殺しながら膝の上に鎮座している子犬形態ザフィーラの頭を撫でる。「面倒臭ぇな。なんで正規のルート使って移動しなきゃなんねぇんだよ。時間も金も掛かるってのに」「文句を垂れるな。何時もの面子ならいざ知らず、今日はギンガ達が居る。何時ものように違法スレスレで管理局員が次元跳躍してみろ? 後々問題になるぞ」「おい、お前ら。管理局今すぐ辞めろ」「「「理不尽です!!」」」俺は助手席から少し体を動かして背後にいる三人に声を掛けたが、非難するような視線と悲鳴染みた答えが返ってくるばかりだった。それの何が楽しいのか、頭の上に乗っているフリードが「キュクキュク」とうるさい。「……第97管理外世界、文化レベルB、魔法文化無し、次元移動手段無し、って魔法文化無いの?」気を取り直したティアナにスバルとギンガが話に食い付く。「無いよ。ウチのお父さんも魔力ゼロだし」「私達姉妹は母親似なの」それは痛い程知ってる、と思いつつもあえて口にはしない。初めて訪れる地球という異世界に興味津々な三人。そういえば、俺達がナカジマ家に遊びに行くことはあっても、ナカジマ家の連中が地球に来たことは無かったことを思い出す。まあ、ナカジマ家を翠屋に連れて来てしまったら店が傾く気がしたので、ケーキを持っていく程度に抑えていたのであるが。そのすぐ傍では、我が家のガキんちょ共三人が翠屋の甘味や桃子の手料理に思いを馳せている。「桃子さんのシュークリーム、久しぶりですぅ」「キャラメルミルク、早く飲みたいなぁ」「今晩はどんなおかずだろう?」ツヴァイ、キャロ、エリオの三人は何時もと変わらず食いしん坊万歳であった。眼がとても輝いている。年相応で実に結構だ。「アリサちゃん達元気かなー」「アリサちゃんとすずかちゃんは相変わらず楽しいキャンパスライフ送っとるんやない? それより恭也さんと忍さんもドイツから海鳴に帰ってくるって聞いたんやけど、ホンマ?」「なんかね、恭也さんがソルに聞きたいことがあるとかなんとかで、もう待ってるらしいよ」「恭也お兄ちゃんはお兄ちゃんと戦いたいだけじゃないの?」「「あり得る」」なのは、はやて、フェイトの会話の後半部分で嫌なことを聞いてしまった。その所為で凄く帰りたくなくなってきた。「最後に帰ったのって何時だったかしら?」「Dust Strikers設立前だから春だ。日本で言う春休みの時期だったと記憶している」「主はやて達が高校を卒業したのに合わせてミッドに移住したが、何だかんだ言って我々はそれなりの頻度で帰っているな」シャマル、アイン、シグナムが帰郷頻度について語り合っている。考えてみれば、俺達は日本の大型休暇に合わせて毎回帰っているので、今回もゴールデンウィークのようなものと思えば変ではない、か。「ZZZ」やけにヴィータが静かだと思ったら鼻提灯を膨らませて寝ていた。寝ていながらにも関わらず時折「へへっ」と笑っているのが気持ち悪い。また変な夢でも見ているのだろうか?「……」そして何故か狼形態で隅に丸まっているアルフ。他の誰とも会話をしようとしないのだが、機嫌が悪いのだろうか?「帰りたくないよ~」と、そんな時、俺の肩の上で丸まっているフェレットが呻いた。「どうした、ユーノ?」「絶対なんか言われるよ~」「何を今更」ハッ、と鼻で笑う。「説教の一つや二つ、覚悟しておけ」「畜生、必ずキミも巻き込んでやる」「ふざけんな、焼くぞ」ユーノと軽口を叩き合っていると、隣から恨みがましい視線を感じたので向き直る。「んだよ? 前見て操縦しろ」このヘリを操縦しているヴァイスだ。「……ソルの旦那」「ああン?」「俺も、休み欲しいっす」「グリフィスに有給申請しろ。受理されるかは知らんがな」「無理でしょ、あんな状態じゃ」Dust Strikersを出発する前のグリフィスは鬼気迫る勢いで書類仕事をこなしていた。「なら諦めろ」「旦那って鬼ですよね」「それでも諦め切れないってんならありもしないワンチャンスに縋り付け。もしかしたら奇跡が起きるかもな」「旦那って性格悪いですよね」そんなこんなで転送ポートに到着した。後書き誤字脱字などがあったら、既に投稿済みの話でも構いませんので報告お願いします。モチベーション下がったりとかしないので、安心してください。最近、私の脳内でシャマルが凄い。これから先の展開上、めっさメインヒロインになる、かもしれない。中の人的な意味で。ちなみに作者は某アーパー吸血鬼が大好きです。