その”力”の輝きはまさに太陽だった。真っ暗な夜が一瞬にして昼間のように明るくなる。爆裂する炎、吹き荒れる熱風、鼓膜を叩く轟音、歯向かうものは容赦しない暴君の如き魔力の奔流。その何者にも決して屈さない強さを秘めた後姿に、私は魅せられていた。背徳の炎と魔法少女 4話 再会 前編週末。なのはがすずかの家にお呼ばれされた。恭也もすずかの姉――忍と付き合っているから、今日は二人揃って月村邸に赴くようだ。だから―――「お兄ちゃん準備出来た?」「あ?」何故俺まですずかの家に行かなけりゃならん?俺は新聞から顔を上げる。「準備って何の?」「すずかちゃん家行く準備」「してる訳無ぇだろ」「なんでー!?」頭を抱えるなのは。「今日はすずかちゃん家行くって昨日言ったでしょ!!」「言ってたな」「覚えてるならどうして準備もしないで新聞読んでるの!?」「俺もか? お前が行くって話じゃねぇのか?」俺の言葉にがっくりする。そして急に元気になって「お兄ちゃんも一緒に決まってるでしょ!!」とプンスカ怒り始めた。全く忙しい奴だ。「いってらっしゃい」「お兄ちゃん人の話聞いてないでしょ!?」「ああ」「そこは否定しようよ!!」いや、するところじゃねーだろ。「むうぅぅぅ」低く唸り始めると、ついになのはは実力行使に出た。ソファーに座ってる俺の背後に回り込み、縛っている後ろ髪を思いっきり引っ張り始めたのだ。「ってぇなコラ!? 何しやがる!!」「お兄ちゃんが一緒に行ってくれるまで、引っ張るのを、止めない!!!」「この野郎、調子に乗りやがって!!」髪を引っ張る手を振り解くと、ソファーを降りてなのはに組み付き、そのままコブラツイストを掛ける。「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、ギブ!! ギブだよお兄ちゃん!!」「聞こえねぇ」「お、鬼………」やがてぐったりするなのは。「ソル、何時までなのはで遊んでんだ!! バスに遅れるから早く来い!!」『ソル、早く行こうよ』恭也とユーノから催促の声。クソが、人の話を聞かねぇのはテメーらの方だ。俺は死体のように動かなくなったなのはを引き摺りながら家を出た。「恭也様、ソル様、なのは様、今日はお越しいた………何があったのですか?」忍の専属のメイド―――ノエルは、今の俺の姿を見て唖然とした。今の俺はピクリとも動かないなのはを背負い、頭の上にユーノを乗せるという何処からどう見てもアホ丸出しの格好だったからだ。「うるさい馬鹿を黙らせただけだ。気にするな」「はぁ」釈然としないノエル。その隣で恭也が頭痛を堪えるように額に手を押し当てていたが、気にしないことにした。月村邸の門を潜る。何度も来たことはあるが、相変わらず無駄にでかくて立派な家だ。金ってのはあるところにはあるんだな。アリサの家もだが。ノエルに付き従い庭に案内される。そこでは既にすずかとアリサと忍がお茶を楽しんでいた。「あ、やっと来た………って、なんでなのはは気を失ってんのよ!?」「はしゃぎ過ぎて失神した。しばらくしたら起きるだろ」アリサが喚くのでテキトーなことを言って茶を濁す。「なのはちゃん、大丈夫なの? なんか白目剥いてるように見えて少し怖いんだけど」「気にしたら負けだ」すずかにテキトーに応えてなのはを椅子に座らせる。あ、本当に白目剥いてやがる。ちょっと気味が悪いので瞼を閉じてやる。「あっはははは、どうせなのはちゃんがソルくんに悪戯でもしたんでしょ。でも、女の子が相手なんだから少しくらい加減してあげようね」「善処はしてるぜ。ノエル、茶」忍をテキトーにいなすとノエルに命じる。「はい、畏まりました」「なんでお前は家主より偉そうなんだ」粛々と従うノエルと突っ込む恭也。俺は肩を竦めて椅子に勝手に座ろうとして、子猫がそこを占領していることに気付く。首根っこ掴んですずかに渡して、改めて座る。座るついでに頭の上に乗っていたユーノをアリサに放り投げる。「もてなす気が無いなら帰ったっていいんだぜ?」「それはやめろ。お前が此処で帰ったら後でなのはに文句を言われるのは俺なんだ」「分かってんなら黙ってろ」俺は忍に目配せし「早くこいつを部屋に持って帰れ」という意思を伝えた。忍は俺の視線に「OK」とウインクで応えて、憮然とする恭也の腕に組み付くとそのまま引っ張っていった。「恭也さんと忍さんって本当に仲良いわよね」「うん、お姉ちゃん、恭也さんと付き合うようになってから本当に幸せそうだよ」「恭也は尻に敷かれてるがな」女って生き物は恋愛話が好きなのはどいつもこいつも一緒らしい。俺はテキトーに話を合わせる。「お待たせしました」そこへ、ティーカップセットを持ったノエルとその妹―――ファリンがお盆にケーキを大量に載せてやって来る。そろそろなのはを起こしてやるか。なのはの頭を引っ叩いて起こす。起きたなのはが周りを見渡してから「ワープしてる!!」とかアホなことを抜かしたのでもう一回引っ叩いた。『ソル!! 助けて!!』『俺の方が助けて欲しい』あれからしばらくして。三人娘の姦しい会話に付いていけなくなった俺は、少し離れた場所にある木の下で寝っ転がっていた。すると、何処からともなくわらわらと月村家の猫共が大量に沸いてきて、俺にじゃれついてきやがった。鬱陶しいので一匹一匹引き剥がすのだが、何度引き剥がそうとも諦めずにしがみついてくる。どの猫も俺を枕かマタタビだと勘違いしてやがる。あまりに執拗な猫共のじゃれつき攻撃。すずかの猫である以上邪険にする訳にもいかず、もう引き剥がす作業すら面倒に感じて好きなようにさせている。ちなみに、ユーノは数匹の猫に遊んでもらえると勘違いされたのか、さっきから追い掛け回されている。「この駄猫(ダビョウ)共が」ぽつりと呟くと―――唐突に、ジュエルシードが発動したのを感知した。『ユーノ、なのは』『うん、僕も感じた』『今の、ジュエルシード………』二人も気付いたらしい。かなり近い。恐らく月村邸の敷地内、しかも邸内ではなく森の方(敷地内に森があるとかどんだけ金持ってんだ)。『ユーノ、猫から逃げるふりしてジュエルシードに向かえ、なのははその後を追え、俺は最後に行く』『分かった』『うん』短い応えが返ってくると、ユーノは一目散に逃げるように走り去り(実際逃げていたが)、なのはは「あ、ユーノくん待って」と見事な棒読みでそれを追う。「ったくあいつら、何処行くつもりだ?」俺は立ち上がってそれっぽいことを口にすると、身体に纏わり付く猫共を引き剥がす。「俺もユーノ探しに行くわ」「え? ちょっと」「すぐに戻る」追い掛けられては困るので、それなりに速度を出してその場を後にした。ユーノが封時結界を発動させたのか、緑色のドーム状の結界が展開されていた。俺は躊躇せずにその中に入る。空中にはジュエルシードの暴走体となった猫(恐らくすずかの)が居た。「なお~~~~~~~~~~」気が抜けるくらい平和な鳴き声だった。『………危険は無さそうだな』『たぶん、あの子の”大きくなりたい”っていう願いが正しく反映されたんじゃないかな?』『とりあえず、封印しちゃっていいよね?』『ああ、頼む』なのはが飛んで猫に近づき、封印しようとしたその時、高速で飛来する魔力を感知。『退がれなのは!!』『え?』頭に疑問符を浮かべるなのはのすぐ横を、金の閃光が通り過ぎ、猫に着弾する。「きゃっ!?」「なおぉぉぉ!!」なのはの小さな悲鳴と猫の絶叫。今見た光は記憶にあるものだ。俺は閃光が飛んできた方向を確認する。そこには―――以前助けたことのある少女が、なんとなく『木陰の君』を思わせる少女が、居た。フェイト視点偶然、近くにジュエルシードが発動した気配を感じたのでそちらに向かう。やがて緑色の封時結界が眼に映る。「誰かが発動させたのかな?」私は少し不安になった。初めてジュエルシードの暴走体と戦ったあの夜。迂闊な攻撃を仕掛けた所為で逆に手痛い反撃を食らい、死に掛けたのだ。絶対に油断しないように攻撃魔法の準備をする。今度は全力で暴走体を殲滅する。あの時はソルが助けてくれたけど、今回もそうとは限らない。「………ソル」炎を操る少年を思い出す。私と同い年くらいなのに、私なんかよりもずっと力強い後姿。あの日以来、気が付けばずっとソルのことばかり考えていた。そのことについてアルフに何度もからかわれた。「………いけない、真面目にやらなきゃ」頭を振って、気持ちを戦闘に切り替える。気を抜けばやられるのはこちらの方。しっかりしなければ。封時結界の中に入る。視界に入ったのは暴走体と思われる巨大化した猫。ファンシーで可愛らしいけど見掛けで判断出来ない。「フォトンランサー、ファイア」私は躊躇無く攻撃するが、「あっ!!」攻撃魔法を撃った瞬間、暴走体の猫に近寄ろうとする白い服の女の子が居た。危ない、あのままじゃ当たる!!非殺傷にはしてあるけど、今のはかなり本気で撃った。当たったら怪我をする可能性だってある。「きゃっ!?」「なおぉぉぉ!!」けれど、幸い白い服の子には当たらず、暴走体にだけ命中する。ほっと胸を撫で下ろして近付いた。「あなた誰!? いきなり攻撃するなんて、何考えてるの!?」白い服の子―――たぶん私と同じミッドチルダ式魔導師―――の怒りは当然だ。私だっていきなり攻撃されたら怒る。でも私はそれを無視して、墜落して動かなくなった暴走体に眼を向ける。うん、これなら近寄っても大丈夫そう。私が暴走体に更に近寄ろうとすると、「いきなり攻撃してきて、弁明もしないで無視、上等だよ!!」<lancer mode>そう言って白い服の子は私の前に立ちはだかると、デバイスを槍に変形させて襲い掛かってきた。「バルディッシュ」<Yes sir,Scythe Form>私もそれに応戦する。―――ガキィィッッ!!お互いに振りかぶったデバイスの先端がぶつかり合い、金色と桜色の魔力光が弾ける。競り合っていたのは一瞬、私も白い服の子も距離を取る。「力ずくでも話を聞かせてもらうんだから!!」「答えても………たぶん、意味は無い」相手を睨みながら構える。白い服の子も槍型のデバイスの矛先をこちらに向ける。「なおぉぉぉぉぉ」その時、暴走体の猫が意識を取り戻したのか鳴き声を上げる。それに気を取られる白い服の子。―――チャンスッ!<Blitz Action>短距離限定の超高速移動魔法を発動させ一瞬で白い服の子の頭上まで移動すると、バルディッシュを振り下ろした。「ごめんね」謝っても意味なんて無いのに、謝罪の言葉を吐く。これで終わる、筈だった。―――ギィィィィンッ!!甲高い金属音。眼の前では、肉厚で無骨な剣がバルディッシュを防いでいる。その剣に、それを手に私の攻撃を防いだ人物に、見覚えがある。強い意志と力を宿す真紅の眼、額に巻いている赤いヘッドギア、長い黒茶の髪を後ろに縛る髪型。あの後姿を見て以来、ずっと考えていた炎の少年。「ソ、ソル」「久しぶりだな、フェイト」ソル=バッドガイが、そこに居た。後編に続く