スバルは今しがた自分が破壊したオートスフィアの残骸には目もくれず、周囲を警戒する。自身を狙っているオートスフィアが無いことを確認するとカートリッジを補充し、油断無くローラーを進ませティアナとの合流ポイントへと向かう。『スバル、そっちは?』ティアナからの念話。『こっちは全部終わった。今そっちに向かってる途中』『まだ時間は余裕あるから、焦らずね』『了解』念話を一度切り、言われた通り焦らずそれでいて迅速に移動する。勿論、周囲への警戒は怠らない。今回の陸戦Bランク昇格試験は落ちる訳にはいかないのだ。スバルには大きな目標と夢がある。こんな所で躓いてなど居られない。弱くて、情けなくて、誰かに助けてもらってばかりの自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入った。魔導師になって、魔法とシューティングアーツを学んで、人助けの仕事に就いた。四年前のあの時。ただ泣くことしか出来なかった自分を助けてくれた、星空のように眩しくて、強くて優しいあの人のようになりたいが為に。此処で落第してしまえば次のチャンスは半年後。(そんなの、嫌だ)自分とコンビを組んでいるティアナがどれだけ魔導師ランクのアップと昇進に一生懸命か、どんな夢を追っているのか知っている。それを、自分の知り合いの思惑の所為で少しでも躓かせてしまうのは、耐えられない。(ごめんなさい、ソルさん。やっぱり私、なのはさんみたいになりたいんです)親しい人達の中で、スバルの管理局入りを唯一反対したのはソルだった。お前みたいな甘ったれたガキが魔導師なんてヤクザな商売出来ると思ってんのか、寝言は寝て言え、最悪死ぬんだぞ、と厳しいことを何度も言われた。だが諦めなかった。頑としてソルの言葉に耳を貸さなかった。自分の憧れの人物であるなのはの義兄だから喜んでくれると思っていたのに、そんな思いもあってスバルは言われれば言われる程、反対されればされる程意固地になって、絶対に魔導師になるんだと心に誓う。意外に面倒見が良く優しい年の離れたお兄さん的な立ち位置のソルに好意を抱いているし尊敬もしている。自分のことを心配してくれているのは嬉しいが、それとこれとは別問題だ。自分の将来くらい自分で決めたい。何を言われようと進路を変える気は無い。何時しかスバルの中では、立派な魔導師となって一人前だと認めさせてやる、という目標も生まれてきていた。なのはのようになって、ソルを認めさせる。この二つの大きな目標を達成させる為にも、こんな所でモタモタしているつもりは無い。だから彼女は全力で駆ける。同じ釜の飯を食ったティアナと共に、それぞれの夢へと一直線に。背徳の炎と魔法少女 StrikerS Beat2 Dust Strikers「ふーん、やるもんだねー」「この技術と思い切りの良さでCランクってのは、なかなか居ないと思うよ」ジャーキーを咥えながら呟くアルフに、ユーノが自身の顎を撫でながら応える。幻術と射撃を駆使して上手く立ち回るミッドチルダ式のティアナ。持ち前のパワーとスピードで近接格闘を得意とする近代ベルカ式のスバル。二人共やや突撃思考ではあるが、バランスが取れていてなかなかに良いコンビだ。ウチで言ったらソルとなのはがタッグを組んだみたいだな、そんな風に思考しながらユーノは眼を細め、採点を担当するなのははこの二人を見て自分と同じことを考えているのではないか、と思う。試験前の言葉が功を奏したのか、二人共隙が無く、緊張感を切らさない。よっぽど警戒されているらしい。「しっかしなんにも起きないねー。アタシゃてっきりソルがなんかやらかすのかと思ってたんだけど、こうも問題無く試験が進むと面白味が無い」「事前になのは達がチェックしたおかげで変なことは起きないってば。問題が無いのは良いことさ。むしろ、あったら困るのは僕達だし」何せ試験官側が不正を行おうとしていたのだ。信用問題に関わるし、今後の仕事にも差し支える可能性が出てくる。組織に属さないフリーの集団というのは信用第一なのだ。いくらお得意様が居るとはいえ、これまで積み上げてきたものに泥を塗るようなことはしなくていい。「それもそうさね」つまらなそうに溜息を吐くアルフにユーノは苦笑しつつ、最終関門を難無く突破した受験者二名に優しい視線を注ぐのであった。SIDE ティアナアタシとスバルは無事に試験を終え、ソファに座り合否発表を今か今かと待っている。「ティア、私達大丈夫だよね? 受かってるよね?」「さっきからしつこいわよ。問題無いって何度も言ってんのが分かんない?」「ご、ごめん」試験終了からこっち、スバルはそわそわと落ち着きが無い。アタシは外面ではスバルの落ち着かない態度に苛立っているように振舞っているが、心境は彼女と同じだ。自己採点ではバッチリだ。ルール違反をした訳でも、制限時間をオーバーした訳でも、何かミスをした訳でも、試験中にトラブルが発生した訳でも無い。アタシが試験官だったら文句無しの満点で合格とするだろう。しかし、不安はある。良い意味でも悪い意味でも有名な”背徳の炎”、そのリーダーであるソル=バッドガイがスバルとは旧知の仲であり、彼女の管理局入りを反対している人物として裏で動いていたという事実。不合格にされていても不思議ではない。(……冗談じゃないわよ)もし不合格にされていたら猛抗議してやる。何故自分までもがスバルのとばっちりを受けなくてはならない。というか、いくらスバルが管理局に就職したからって試験の邪魔までしようなんて人としてどうかと思う。そう考えると段々腹が立ってきた。年中頭の中お花畑のスバルだって、スバルなりに一生懸命に夢を目指しているのは嫌という程知っていた。その頑張りを認めもせずに頭ごなしに押さえ付けようとしているソル=バッドガイは、きっとろくでもない男なのだ。そうだ、きっとそうに違いない。そうでなかったら普通”背徳”なんて二つ名付けられる訳が無い。「お待たせ」「「……ッ!!」」声と共に試験官が姿を現したことに、アタシとスバルは驚いて肩をビクつかせる。どうやら自分でも想像以上に緊張していたらしい。先程空間モニターに映っていた青年と犬耳の女性、ユーノ・スクライアとアルフ・高町が続き――(この人がなのはさんね)スバルの憧れの人物が入室してくる。踵の高いヒールを履き、黒いスーツを見事に着こなし紙媒体の書類を持って歩いてくる様は、容姿の美しさとスタイルの良さも相まっていかにも”出来る女”といった感じがした。それでいて纏っている柔らかい雰囲気が温かみを感じさせる。そして最後に金髪紅眼のスタイル抜群でスーツ姿の女性――確かフェイト・テスタロッサ・高町だった筈だ――が入ってきて、ドアを閉めた。”背徳の炎”のメンバーが眼の前に四人。スバル経由で写真なり映像なりを見て知ってはいたが、なんと言うか、こんな風に相対すると考えてすらいなかっただけに、必要以上に身構えてしまうというか、変な所に力が入ってしまう。「久しぶりだね、スバル」「お、おお、お久しぶりです!!」なのはさんの第一声にスバルが緊張しているのか感動しているのかよく分からない口調で返事した。そんな様子に眼の前の四人は微笑ましそうに優しい視線を注いでいる。「まあ、再会を喜ぶのは後でにして。ゴホン」一瞬だけ和んだ空気に硬さを取り戻すかのようになのはさんは咳払いを一つして、私用から公用へと切り替えた。「本日の受験の採点を担当させていただいた、高町なのはです」「補佐のフェイト・テスタロッサ・高町です」二人が恭しく頭を下げてきたので、アタシとスバルも慌てて頭を下げる。「いきなりですが結果から言わせて貰います」ゴクッ、と生唾を飲み込む音が隣から聞こえてきた。「合格です。特に問題も無く、文句の付けようも無いのでBランクへと昇格になりました。おめでとうございます」明日の天気は晴れです、洗濯物がよく乾きますね、ってくらいに軽い口調で言われた言葉を理解するまできっかり三秒は掛かった。そして――「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」アタシとスバルは驚愕のあまり絶叫する。「え? 何?」「えっと、どうしたの?」アタシ達が驚いていることに驚いているのか、なのはさんとフェイトさんはキョトンとしている。その隣ではユーノさんとアルフさんが腹を抱えながらバシバシッとテーブルを叩いていた。「アンタら、ソルが絡んでるからって落ちると思ってたのかい!? 気持ちは分からんでもないけど、今のリアクションは無い!! アハハハハッ!!」「く、くく……笑っちゃダメだよアルフ……誰だって彼が絡めば、悪い想像するよ……くく」傍から見れば呼吸困難に陥っているように見えるアルフさんとユーノさんの態度に合点がいったのか、「ああ、なるほど」という顔をするなのはさんとフェイトさん。「大丈夫、安心して。お兄ちゃんがなんと言おうと二人の合格は覆らないから」「二人共、魔力値も能力もBランクとしては申し分無いよ」採点担当とその補佐が太鼓判まで押してくれる。受かった?アタシ達がBランクに昇格?まだ実感が沸いてこない。正直ダメだと半ば諦めていたのに。「やったよティア!! 受かったよ!! Bランクになれたよ!!」「ちょっ、離れなさいよこのバカ!!」横から抱きついてきたスバルを慌てて引き剥がす。でも、スバルの喜びようを目の当たりにしたおかげで少しだけ実感が沸いた。(受かったんだ、アタシ……)胸の内から歓喜がこみ上げてくる。超難関だと思っていただけに、一度訪れた歓喜の波はビッグウェーブとなって心の中を荒れ狂う。やった、やったと心の中でガッツポーズを取る。と、呼吸困難から復活したユーノさんがおもむろに口を開く。「結果はこんな感じなんだけど、キミは何か文句ある? ソル」同時に、アタシ達と試験官達の間を挟むようにして空間モニターが現れ、そこには不機嫌そうな表情を貼り付けた一人の男性が映し出された。(……ソル=バッドガイ)鋭い真紅の瞳。何を考えているのか分からない仏頂面。あの時から何一つ変わらない、兄さんの命の恩人でありながら兄さんのことなど「知るか」と言い切った人物。「……ソルさん」何処か怯えた声を出すスバル。『……ちっ……しゃあねぇな』ソル=バッドガイはあからさまに舌打ちを一つしてから深々と溜息を吐き、胡乱げな眼つきでアタシ達を一瞥すると、もう一度疲れたように溜息を吐いた。なんかその態度に、明らかに面倒臭そうなものを見るような眼に腹が立つ。『酒の席での話しとはいえ、約束は約束だ……』酒の席? 約束? 一体何のことを言っているのだろうか?『お前ら、覚悟は出来てんだろうな?』鋭い眼を細め、更に鋭くなった視線がアタシ達に向けられる。映像越しだというのに肌で感じる威圧感は凄まじい。問われた言葉の意味を理解出来なかったのもあって、アタシとスバルはただ呆けた。「ソルはね、キミ達に魔導師として生きる覚悟があるのかって聞いてるんだよ」そんな私達を見るに見かねてユーノさんがこっそり教えてくれる。魔導師として生きる覚悟?何を今更。覚悟が無かったら管理局なんて入っていない。アタシは必ず執務官になって、ランスターの魔法が通用することを証明しなければいけないのだ。魔導師として生きる覚悟なんて、とっくの昔から出来ている。だから、今の問いは愚問以外の何物でもない。「出来てます」挑むように、睨むように真紅の瞳を見返した。すると、隣でスバルも真剣な声で「出来てます」と答える。数秒の沈黙が訪れ、睨み合う。やがて、ソル=バッドガイはニヒルな感じに唇を吊り上げ不敵な笑みを浮かべた。『上等だ……後悔するなよ』そう言い残すと、通信が切れる。ソル=バッドガイの姿が見えなくなると同時にアタシとスバルは揃って溜息を吐き、全身の筋肉を弛緩させた。(つ、疲れた……何なのよ、一体?)いきなり通信が繋がって、一言二言喋ったら消えてしまったのだ。正直何がしたかったのか理解に苦しむ。「で、今後のことなんだけど」ユーノさんの声を耳にして我に返り、慌てて居住まいを正す。横でだれているスバルの背中をつねって背筋を伸ばさせる。「痛い!!」と小さく悲鳴を上げたが気にしない。「スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士は、一週間後に賞金稼ぎギルド組織”Dust Straikers”の研修生として出向ってことになってるから、そのつもりでよろしく」「へ?」「は?」間抜けな声が自分の口と隣から漏れる。「細かい話は追って連絡するから、今日はもうこれで解散でいいよ。お疲れ様」しかし、ユーノさんは事態についていけずに固まっているアタシ達から視線を外すと、もう用は無いと言わんばかりに立ち上がって歩き出す。「一週間後にアンタらの覚悟の程を見せてもらおうじゃないの」ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべてアルフさんがユーノさんに倣って立ち上がる。「じゃあ、次に会うのは一週間後だね。今日は試験合格おめでとう、ゆっくり休んでね」「ランクアップおめでとう。次に会えるのを楽しみにしてるから」なのはさん、フェイトさんも先の二人に続いて退室しようとして――「待ってくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!! 賞金稼ぎとか、ギルド組織とか、そのダストストライカーズの研修生とか、急にそんなこと言われても正直訳分かんないですけどぉぉぉぉっ!!!」突然スバルが腹の底から大声を出し、アタシの気持ちを代弁してくれた。賞金稼ぎギルド組織”Dust Strikers”。近年、”背徳の炎”に影響されてあちこちの次元世界で増えてきた賞金稼ぎを統括する為に、管理局(本局主導)傘下で運営・設立されることとなった組織。一箇所に寄せ集められたあらゆる仕事の依頼を、同じく集められた賞金稼ぎ達がこなしていく。簡単な図式にするとこのような組織運営を行うらしい。何故そんな組織にアタシとスバルが研修生として赴かなければいけないのか質問すると、ユーノさんは「これはもう決定事項だから、文句を言うなら僕達じゃなくて自分の保護者に言ってね」と前置きしてから話してくれた。スバルの場合は彼女の母親が、アタシの場合は兄さんがソル=バッドガイに「面倒を見てくれ」と頼み込んでいたという。そして彼は組織発足までにアタシ達がBランクになったら構わない、という条件でその話を呑んだ。これで先程のソル=バッドガイの態度に納得がいった。”酒の席での話”、”約束”とはこういう意味だったのか。それにしても、と思う。何故、というか何時の間にソル=バッドガイと兄さんは一緒に酒を飲み、頼みごとをする間柄になったのだろう?スバルの家族であれば分かる。十年近く前から家族ぐるみで付き合いがあるのだ。彼女の母親――クイントさんが娘を友人に託す、というのは理解出来る。スバル本人も話を聞いて「お母さんならあり得るかも」と納得顔だ。だがそのスバルですら、ナカジマ夫妻を介した兄さんとソル=バッドガイの繋がりを知らなかった。そして、当然のようにスバルは兄さんと面識が無い。アタシとスバルだけが蚊帳の外で、当の本人達をそっちのけで全てが決められていたのである。……なんか、釈然としない。何故兄さんは何年も黙っていたのだろう? 一言くらい言ってくれても良かったのに。隠し事をされていたという事実に、小さくないショックを受けた。でも、無理も無いのかもしれない。当時のアタシは、ソル=バッドガイを、ひいては”背徳の炎”を敵視していた。いや、敵視というよりはその存在を認めたくなかっただけだが。兄さんを認めてくれなかった存在を誰が認めるものか、そんな風に意固地になっていたのだ。だから兄さんはアタシに何も伝えなかった、むしろ伝えることが出来なかった?このことをギンガさんは全て承知の上だったのだろうか? それともスバルと同様に何も知らされていなかった? しかし、スバルから聞かされた話を思い出す限り、明らかにソル=バッドガイに関して詳しそうだった。なのに初めて会った時、兄さんの話には特にこれといったリアクションはしなかった。いや、もしかしたら兄さんに口裏を合わせるように言われていたのかもしれない。(結局は、本人に直接聞いてみるしかないのよね)胸の中でわだかまっているモヤモヤを振り払うように頭を振り、一週間後に出向することになった組織へと思考を向ける。”Dust Strikers”。犯罪者と括られる”社会的なゴミ”を”潰す者達”、という非常に物騒な意味が込められた組織名。基本的には荒事を業務内容とする武装隊とそう変わらないが、管理局との大きな違いは出動をかけられていなくても勝手に動けるという点。登録された賞金稼ぎ達は魔導師であっても、あくまで管理局員ではなく一般人であること。有事の際は魔法使用の申請や許可を不用とし、個人の判断で武力介入することが黙認される。つまりワンマンアーミー扱いだ。個人主義を重んじる組織ではあっても部隊ではないので、魔力保有制限に引っ掛からない。本局のお偉いさんと聖王教会がバックアップしているとユーノさんは説明してくれた。”背徳の炎”を筆頭に次元世界から集まるらしい高ランク魔導師達。ミッドチルダの中央区画の湾岸地区にその本拠地をおっ建てたと言うが、これは明らかに地上本部へ喧嘩を売っている。まずこんな組織自体が前代未聞であり、いくら有事の際とはいえ一般人扱いの賞金稼ぎ達に魔法の使用を許可、おまけに武力介入が黙認されるなど非常識にも程がある。地上本部に「お前ら役立たず」と暗に言っているようなものだから。はっきり言ってもらわせれば、これ以上無い程に問題だらけの組織だ。「人材派遣会社みたいなものだと考えてくれていいよ」と微笑むなのはさんから底知れない何かを感じる。一体何を企んでいるのかしら? ”背徳の炎”――ソル=バッドガイは?隣で「か、カッコイイ……」と浮ついた様子で夢見る表情になっているスバルを横目で見つつ、アタシはとんでもないことになってしまった、と深く溜息を吐いた。SIDE OUT買い物籠片手に、はやてと並んで歩きつつ今日の夕飯の材料を吟味する。「それにしても随分あっさり決断したもんやね。ぶっちゃけ私はもっと駄々こねるかと思っとったのに」「駄々こねるって……ガキか俺は」「意外に子どもっぽいやん、誰よりも我侭やし。もしかして自覚無いんか?」真顔で問われ、俺はノーコメントを貫いた。はやてが言いたいのはスバルとティアナの件だ。それぞれの保護者――クイントとティーダの二人と交わした約束を守らなければいけない、つまり面倒を見なければいけないことについて。「……まあ、約束だしな」「それだけやないやろ?」「ああン?」こちらに背を向けて二つの挽き肉を見比べつつはやては言う。「私達三人がソルくんのお手伝いするようになった年よりもちょい上やったから、約束守ることにしたんちゃう?」「それだけだと思うか?」「ううん。どうせソルくんのことやから、せめて眼の届く範囲に置いて、昔の私達みたいにある程度の強さになるまで戦いとは何たるかを己の手で教えてやる……そんなところやないの?」図星だった。どうやら何もかもお見通しらしい。肩を竦める俺を見て、はやては柔らかく微笑んで右手に持っていた挽き肉のパックを俺が持っている買い物籠に入れる。「何年傍に居ると思ってんねん。十年やで、十年。ソルくんがどないな人かよう知っとるし、私達のことどれだけ大切に育ててくれたのか熟知しとる。それと一緒やろ?」女子どもには甘いからなー、と急に意地悪い眼になって俺のことをからかい出す。「さあな」こういう時は下手にリアクションをしないに限る。短く応じて足を動かすだけに留めた。「ま、今日は駄々こねなかったことだけは褒めとくわ。午前中に仕事しながら愚痴垂れてたのは抜きにして」「何様だテメェ」「奥様や。ご褒美に好きなものなんでも一つ買ってあげるで。ほれ、選び」「ガキか俺は……」やれやれと溜息を吐き、酒のコーナーに向かう。「口ではそんなこと言うとるのに、しっかり酒瓶に手を伸ばすソルくんに激萌えや……」背後でニヘラと頬をだらしなくさせているはやてを無視して、俺は言われた通り酒瓶を一本だけ買い物籠に入れた。一週間後。ミッドチルダ中央区画の湾岸地区。潮の匂いが香るそこに、時空管理局傘下組織賞金稼ぎギルド”Dust Strikers”の運営本部がある。本日発足したばかりであるが故に建物は当然新築で綺麗、簡易の宿泊施設や従業員達用の寮が隣接し、ハイレベルな訓練を行えるように広大なスペースを利用したシュミレーター施設も完備していた。ロビーにたくさんの人が集まり、まだかまだかと発足のセレモニーを待つ中、グリフィスは一人頭を抱えてデバイスルームの前で右往左往している。「ソルさん!! もう全員ロビーに集まっています、早く出てきてください!!」扉に拳を叩き付けて室内の人物に声を掛けるが、一向に出てくる気配が無い。「此処に集まった賞金稼ぎは皆”背徳の炎”の、ソルさんの名の下に集まった人達ばっかりなんですよ!? その貴方が組織発足の挨拶をしないで誰がするんですか!!」『面倒臭ぇからお前やっとけ』インターホン越しに聞こえてる声は、本当に、心底面倒臭そうだった。「僕にどうしろと!?」『情けねぇ声出してんじゃねぇ。グリフィス、お前、此処の最高責任者だろうが』「嫌がる僕を貴方が無理やり着任させたんでしょうが!!」『それだけお前に期待してんだよ』「その手には騙されませんよ!! その台詞に一体何度仕事を押し付けられたことか!!」『ちっ、喚くな喧しい。俺は今アイゼンの改造で忙しいんだ。漸くこのドリルの回転数が毎分千五百回に突破しそうでな……』「ドリルの回転数なんてどうでもいいから早く出てきてくださいこのクソッタレェェェェ!!!」グリフィスの絶叫が廊下に木霊した瞬間。プツッ。インターホンが切れ、デバイスルームは外界との接触が絶たれた密室と化した。(篭城する気だこの人……皆の前に立って一言二言何か言えばいいだけなのに、それすら嫌とかどれだけ面倒臭がりなんだ!!)半ば自暴自棄になったグリフィスは冷たい扉を蹴りまくって中に居るソルを出そうと試みるが、足が痛くなるだけで何一つ効果が無い。「グリフィスくん、どうしたの?」そんな彼の前に勝利の女神が現れた。スーツ姿に白衣を羽織ったシャマルだ。何時まで経ってもロビーに現れないソルの様子を窺いに来たようだ。ソルに近しい人物の言うことなら素直とまではいかないがそれなりに聞いてくれるだろう、グリフィスは一縷の望みを賭けて事情を説明すると、シャマルはあからさまに呆れたような溜息を吐いた後、快く承諾してくれる。「ちょっとそこどいてください……えいっ!!」バカンッ!! という破滅の音が響き渡った。シャマルがヒールを履いたまま扉を蹴破った音だ。あまりの破壊力にグリフィスは顔を青褪めさせ腰を抜かしてその場で尻餅をつく。文字通り蹴破った扉を踏み越え、シャマルはデバイスルームに侵入。「アナタ、いい加減にしなさい」「な!? シャマル!? 何してんだお前!! ドアが――」「ドアなんてどうでもいいでしょ!! 皆が待ってるんだから、早く支度して」「面倒く――」「面倒臭くない!! いい年こいて何時までも子どもみたいなこと言ってるんじゃありません!! 言うこと聞かないとこうですよ!!!」「よせ、やめろバカ……俺が悪かった、そこは弱いから噛むのはやめ、オウアアアアアアアアアアッ!?」ソルの野太い悲鳴と、ドッタンバッタンと何かが暴れるような音と震動が室内から伝わってくる。知り合って五年目に突入したが、これまで彼の悲鳴なんて一度も耳にしたことが無かったグリフィスは、中で一体何が行われているのか気になったが、流石に覗く勇気は持ち合わせていなかった。そして、きっかり二十秒後。首筋や頬に歯形を付けたソルがシャマルに引き摺られて出てきた。(……シャマルさんって実は最強? いや、最凶?)「お騒がせしました」一瞬、『ご馳走様でした』と聞こえてしまった。それにしても何故シャマルが満足気な表情で舌舐めずりしているのか?「……魔性の女め……」酷く疲れた様子のソルが口にした言葉が気掛かりで仕方ないが、気にしたら負けなのだろう、きっと。世の中には知らない方が幸せなこともあるって言うし。そうやって自分を納得させて立ち上がる。「ホラ、早くしてください」「分かってる」シャマルに促されてソルが不承不承歩き出し、彼の隣を彼女が寄り添う。亭主関白っぽいイメージがあるソルには悪いが、完全に尻に敷かれているようにしか見えない。そんな二人の後姿を見送りつつ、グリフィスは疲労と不安と苦悩が入り混じった溜息を吐く。「……今更だけど、大丈夫なんだろうか、この組織……特に人間関係とか、色々と」本当に今更過ぎる一言であった。後書き つーか質問に答えるコーナー皆のバリアジャケットのデザインは? という質問を頂きましたので、答えさせてください。ソル通常時は聖騎士団の制服 ドライン状態で格ゲーverに つまり特に変化無しユーノ流石に十代後半辺りから半袖半ズボンは無い、ということに気付き長袖長ズボンに。ビジュアル的には大きな変化は無いエリオソルとお揃い。つまり聖騎士団の制服。色も赤。他の面子ほぼSTS(アルフとアインとザフィーラの三人はA`s)原作通りだが、マントや腰から足を覆うように広がるヒラヒラした部分は、聖騎士団の制服仕様。色はそれぞれ違う。なのはは青、フェイトは黒、といった感じに本人のバリアジャケットの色に合わせている。