ユーノ視点現場となった繁華街に急行すると、そこは酷い有様だった。巨大な樹。いや、森と言った方がいい。それがアスファルトに根を張り、街を侵食していく。建物に根が這い回り、電信柱は倒れ、道路は罅割れ、進行上に存在する自動車を根が貫き、人々は逃げ惑う。発動したジュエルシード。暴走体の媒体は不明だが、かなり強力な”願い”らしい。飛行魔法を駆使しているなのはの肩に掴まりながら、僕は封時結界を発動させた。緑色の魔力光が広がると、一瞬にして周囲をドーム状の結界が覆う。封時結界によって通常空間から巨木群を切り取り、時間信号をズラしたことによってこれ以上の被害は出ない筈だ。「ユーノくん、どうしたらいいの?」思い詰めたような表情のなのは。「元になってる部分を見つけ出して封印すればいいんだけど、範囲が広すぎて何処が元か分からない」「分かった。元になってる部分を見つければいいんだね」「なのは、出来るの?」「出来る出来ないじゃない、やるんだよ!!」なのははレイジングハートを構えると、呪文を唱える。「探して………災厄の根源を」『Area Search』無数の桜色の光が辺りを飛び交い、駆け巡る。そして―――「見つけた、あそこだよあそこ!!」指差すそこには、一際大きな樹。その幹の中心部だ。「………っ!! やっぱり」息を呑むなのは。「やっぱりって?」「さっき皆がお店から帰る時、一瞬だけジュエルシードの気配を感じたの。あの時は気の所為だと思ったんだけど………」なのはが思い詰めている理由がやっと分かった。きっとその時行動しなかった所為で今の事態を防げなかったことに責任を感じてるんだ。「なのは、これは僕も言われたことなんだけど、起きてしまったことは仕方が無いんだ。それに対処することの方が大切だよ。だから、自分の責任だからと思って焦ってたりしないで」僕はソルに言われたことをなのはに言い聞かせながら、どう動けばいいのか考え始めた。背徳の炎と魔法少女 3話 己の意志で戦う決意 後編「レイジングハート、lancer modeに」<それは賛成しかねます、マスター>「レイジングハート!?」なのははレイジングハートが自分に逆らうとは思っていなかったのだろう。「どうして!?」と大声を上げる。<お言葉ながら、飛行魔法を習得したばかりのマスターの飛行能力と機動力では、ジュエルシードに到達する前に撃墜される可能性が89%を越えます。そんな分の悪い賭けにマスターの命をベットする気はありません>「そうだよなのは、あの森から伸びてくる触手みたいな無数の枝を全部避け切ってジュエルシードまで着くのは無理だよ!!」「じゃあどうすればいいの!?」<遠距離から狙撃しましょう>「狙撃?」<shooting modeに移行します>レイジングハートが音叉のように変形し、準備が整う。<マスター、眼を瞑ってイメージして下さい>「イメージ?」レイジングハートの言葉になのはが疑問を口にする。<要領はゲイボルクの時と同じです。目標を”突き穿つ”イメージを>「突き………穿つ」<意識を集中して、魔力を溜める>「すぅ………はぁ」なのはは一度深呼吸してから言われた通りに眼を閉じると、集中し始めた。<目標は動きません。安心して集中して下さい>「………うん」桜色の魔力光がレイジングハートに集まる。<”突き穿つ”イメージが出来たら、今度は銃の引き金をイメージして下さい>「銃の、引き金」<それが遠距離魔法を使う時のトリガーとなります。覚えると同時にしっかりとイメージして下さい>「わかった」<イメージが出来たら、私を目標に向けて>レイジングハートをジュエルシードに向ける。<しっかり見据えて>なのはの眼に強い意志が宿る。<イメージした銃の引き金を>「引き絞る!!!」ドゥッ、という低い砲撃音。桜色の奔流が莫大な魔力と攻撃性と封印力を孕ませて、ジュエルシード―――巨木の幹の中心に向かって一直線に突き進む。これは捉えた、僕もなのはもそう思った瞬間だった。――――キィィィィィィンッ!「防御魔法!?」ジュエルシードの前に展開された防御魔法。なのはの砲撃と防御の壁は数秒間拮抗した後、砲撃が止んだことでこちらの敗北に終わった。「失敗した!? どうして!?」驚愕するなのは。僕も同様だ。今のは確実に決まったと思っていたからだ。「く、一度や二度失敗したくらいで負けないもん。もう一回………」「なのは、その前にもう一度エリアサーチを」再チャージを始めるなのはを制して言う。「ユーノくん?」「今までの奴だったら今の一撃で確実に終わってる。でもそうじゃないなら、今までとは違うってことだと思うんだ。だから、その原因を見つけたいからもう一度エリアサーチをお願い」僕は以前のソルとの反省会の時の会話を思い出していた。これは今までの”願い”の比じゃない。「………分かったよ、ユーノくん!!」僕の言葉に納得したなのはは、すぐに再びエリアサーチを展開した。「ジュエルシードは強い”願い”に呼応して力を発揮するんだ。その想いが強ければ強い程。なのはの攻撃を凌ぎ切ったってことはそれだけ強い想いなんだと思う」「強い、想い………」「うん」しばらくの間なのはは入念に探し続けた。そして。「分かったよ、強い想いの正体!! やっぱりジュエルシードがある場所、でも」「でも?」言い淀むので先を促す。「人が、二人居るの。男の子と女の子、しかも、ジュエルシードが二つもある!!」「なんだって!?」SIDE OUT『状況はどうだ、ユーノ?』『芳しくないよ、悪い情報が二つ、暴走体の元となったのは人間二人、しかもジュエルシードも二つ』『媒体が二つずつ、しかも暴走体の元は二人の人間、ヘビィだな』単純計算すれば今までの二倍。だが、ジュエルシードが二つあることで相乗効果のようなものがあるらしい。更に、今まで人間が元となった暴走体と戦ったことが無い。ジュエルシードが人間二人を取り込んだことによって引き出される力は未知数だ。『なんとかなりそうか?』『僕となのはだけじゃちょっと無理かな。なのはの砲撃も防がれちゃったし』苦虫を噛み潰したような口調のユーノ。話を聞くと、接近戦は無理だと悟ったレイジングハートが遠距離攻撃を提案。その案の通りに砲撃魔法を使ったが、ジュエルシードが展開した防御魔法に防がれたとのこと。なのはとユーノだけじゃ今回はどうにもならねぇか?しゃねぇな。『ユーノ、全く違う方向から同時に攻撃したら何とかならねぇか?』『やってみないと分からないけど、なのは以外に一体誰が攻撃を?』『俺に決まってんだろ』『でもソル、それは………』『背に腹は代えられねぇし、言ってる場合じゃねぇ』今こうして話している間にも、結界内での話だがどんどん侵食される範囲が増えている。いずれ結界の中を樹が埋め尽くすだろう。『此処らが潮時だ、なのはに俺のことを教える。それでいいな?』『ソルがそれでいいなら、僕は反対しないよ』『俺個人としては、もう少しだけ遠くから成長するなのはを見たかったんだがな』俺は溜息一つ吐くと、なのはに念話を繋げる。『なのは、俺だ、聞こえるか?』『え? この声、もしかしてお兄ちゃん? どうしてお兄ちゃんが此処に居るの!?』吃驚仰天、といった感じのなのは。容易に慌てている姿が想像できる。『詳しい話は後だ。今俺はお前達が居る場所からジュエルシードを挟んだ直線上に居る。そこからタイミングを合わせて同時攻撃を行う。暴走体が怯んだらお前が封印しろ、いいな?』『色々と後で言いたいことがあるけど分かったよ、お兄ちゃん!!』どうして俺が、という疑問はひとまず置いといて元気に答えるなのは。『ちょっと待って!』『どうしたユーノ?』『ユーノくん?』ユーノから待ったが掛かる。俺もなのはも疑問に思った。何か言いたいことでもあるのだろうか?『そもそもソルはどんな攻撃をするつもり? なのはみたいな砲撃?』なるほど、俺の攻撃方法を聞いた上で、より的確な攻撃にさせて成功率を上げるつもりか。『いや、俺は基本的に近接だからな、さっきのなのはみてーな砲撃は持って無ぇ。手持ちの遠距離攻撃はほとんど広範囲のみだ。しかも絨毯爆撃みてーなのばっかでピンポイント攻撃が出来ねぇ』そういうのはカイの仕事だったからな。『分かった。ピンポイント攻撃が出来ない、だけど広範囲攻撃なら、しかも絨毯爆撃に近いやつなら出来るんだね?』『ああ』『じゃあ、この”森”全体をを覆い尽くすようには?』『出来るぜ。なんだったら全部灰にしてやろうか?』『少しだけ考える時間貰うね』言って、十秒程黙り込むユーノ。『決まった。二人共聞いてくれる?』『もっちろん』『話してみろ』ユーノによって作戦内容が話される。ユーノ視点僕はなのはをビルの屋上に降り立たせ、話し始める。『さっきなのはが砲撃を撃った時に防御魔法で防がれたのは覚えているよね?』『うん』『そう聞いたな』『その時、木の枝一本一本が小さな魔法を展開していたのが見えたんだ』『つまり、どういうこと?』なのはが首を傾げる。『分かったぜ。なのはの砲撃を防いだ防御はでかいのが一つじゃない、その木の枝一本一本の小さな魔法が重なってでかい一つに見えたってことか!』『ソル、正解』『え? どういうこと?』ソルの言ったことをいまいち理解していないなのはに、分かるように説明してあげる。『分かりやすく言うとね、ジュエルシード単体が大きくて強固な一つの防御魔法を展開したんじゃないんだ。実際は木の枝一本一本が小さな防御魔法を展開する、それがたくさん重ることによって大きな一つの防御魔法に見えたってこと。ほら、この世界のことわざでもあるじゃない?”ちりも積もれば山となる”って』『ああ~、そうだったんだ、なるほど』得心がいった様子のなのは。『それで、どうする?』『まず、ソルの広範囲攻撃であの”森”を出来るだけ減らして欲しい。そうすればきっと防御魔法はさっきみたいな威力に耐えられなくなると思うんだ。そこで、ジュエルシードの防御が薄くなったところをなのはが砲撃、封印っていう流れになるんだけど、どうかな?』『上出来だぜ』『うん、それならきっと上手くいくよ』『タイミングはお前に任せる、なのはの準備が出来次第連絡しろ』ソルが一旦念話を切る。「なのは、チャージお願い」「分かったよユーノくん………レイジングハート!!!」眩いばかりの桜色の魔力光がレイジングハートのデバイスコアに集まる。先程と同等、いや、ソルが一緒に戦ってくれることになったからきっと高揚してるんだろう。先程とは段違いの魔力が集束していく。「準備完了!!」『ソル、なのはの準備が整ったよ』『分かった。じゃあ、まずは俺から行くぜ』念話でソルが応えた瞬間、ソルが居るであろう方角から莫大な量の魔力反応がした。なのはも相当魔力が高い類に入ると思っていたけど、それを遥かに越える。はっきり言ってレベルが違う!!そのあまりの強大な魔力に僕となのはは図らずも固まってしまった。『消し炭になれ。―――サーベイジ、ファング!!!』それは天に向かって伸びる炎の壁。いや、壁なんて生易しいものじゃない。あれは、炎で出来た大津波だ!!!炎の津波は触れるものを片っ端から呑み込んで蒸発させながら、全てを食らい尽くさんと突き進む。ジュエルシードの暴走体である”森”や”樹”も例外じゃない。それのみにならず、封時結界内の既存の建築物、車、電柱、ありとあらゆるものを呑み込んでいく。「………凄い」これがソルの使う魔法。法力の”力”。凄いけど、こんな”力”封時結界内以外で使えっこない。もし使ったら間違いなく未曾有の大惨事だ。ソルがジュエルシードの回収を影から見守ることに徹したのはこれが理由なのかな?”森”は全体の九割以上がソルの宣言通りに消し炭となった。「………はっ! ぼうっとしてる場合じゃない、なのは、今だ!!」「う、うん」僕に言われて、はっとなるなのは。すぐさま砲撃を開始する。ジュエルシードとその周りの樹が防御魔法で抵抗するが、一瞬でそれらを突き破る。<sealing>レイジングハートが二つのジュエルシードを封印するのを確認して、僕は封時結界を解除した。なのは視点夕暮れの中、ジュエルシードが暴走した爪痕は痛々しいものでした。繁華街は時間が経った今でも大混乱、道路も、車も、建物もほとんどが滅茶苦茶で、ジュエルシードの本体があった所は特に酷いです。怪我人は何人も出たらしく救急車が現場近くまで来ていましたが、怪我人が居る所まで道路が走れる状態ではないので、救急隊員の人達は必死になって搬送作業を行っています。死者が出ていないだけ、まだ不幸中の幸いと言えるのかもしれません。それでも私が、あの時ちゃんとしてればこんなことにはならなかったのに。「なのは」何時の間に後ろにお兄ちゃんが立っていました。「今まで黙ってて悪かったな」ううん、と首を振ります。「ユーノくんに聞いたの、お兄ちゃんが私に魔法を使えること黙ってた理由。全部、私の為なんだよね?」「ああ」「うん、なら許してあげる」そう言って笑顔を見せます。でも、上手く笑えているか分かりません。そんな私を見てお兄ちゃんは「やれやれだぜ」と溜息一つ吐いて、「あ」私のことを抱き締めてくれました。「お、お兄ちゃん?」「俺達は神じゃねぇ」「え?」唐突に、何を?「俺達人間がやる行為には限界が存在する、必ずだ。ある一定以上の結果は望めねぇ。常にベストの選択と行動を取っても全てが救える訳じゃ無ぇ」「でも………」「ましてや時間を巻き戻してやり直しが出来る訳じゃ無ぇ、起きちまったことは仕方無ぇ。それにどう対処するかが重要なのは分かってんだろ?」お兄ちゃんの手が優しく頭を撫でてくれます。「納得しろとは言わねぇ、ただ覚えておけ。俺達は万能じゃねぇ。だが、無能でもねぇ。俺達には俺達にしか出来ない、俺達がしなければならないことがある筈だ。それを成し遂げようぜ?」これはユーノにも言ったことなんだがな、と笑うお兄ちゃん。どうしてお兄ちゃんはこう、いつも落ち込んでる私を元気付けるのが上手いんだろう。「お兄ちゃん、私決めたの!!」「うお! いきなり元気になったな、一体どうした?」「私、今まで状況に流されたり、遊び半分でジュエルシードを集めてたけど、これからは違うの!!」「どう違うんだ?」私は爪痕残る街を一度見下ろしてから、自分が今決意したことを宣言します。「これからは真面目にジュエルシードを集める。魔法の勉強もしっかりやる。槍の稽古ももっと真剣にやる。それで、もう絶対に今日みたいなことにはならないように頑張るの!!」「………そうか」何処か遠い目をするお兄ちゃん。私は構わず続けます。「だから、お兄ちゃんに協力して欲しいの」「ああ、たりめーだ」「お兄ちゃんだけじゃなくて、今まで通りユーノくんも」「勿論だよ」二人は快く応えてくれます。「よぉぉぉぉぉし、高町なのは、全力全開で頑張ります!!!」私はその日、お兄ちゃんとユーノくん、そして何より自分自身に誓いました。気まぐれ後書き今回はちょっとシリアス。ソルとユーノ二人の友情となのはの決意です。今回のソルの原作技、実はイスカに登場するボスソル仕様の『サーベイジフレイム』を出そうと思ってたんですけど、明らかにEXソルの『サーベイジファング』の方が名前格好良いのでこっちにしました。デバイスのセリフのカッコを<>に変更。『』にしたままだと念話とかぶるので今回からはデバイスのセリフは全部<>で。次回からついにフェイト登場。やっと書ける(泣)では、また。