「よし、今回の仕事の内容を簡単に説明するぜ。俺達はこの第162観測指定世界に存在する二箇所の遺跡で発見されたロストロギアを確保した後、アースラに帰艦して本局まで護送、以上だ。何か質問はあるか?」セットアップを完了させ聖騎士団の制服を模したバリアジャケットを纏うソルが、同様にセットアップを済ませたなのはとフェイトとはやて、それとツヴァイの四人に問う。なのはが小さく挙手をする。「それだけ?」「それだけだ。ま、遺跡に向かう前に定置観測基地に寄って詳しい情報を仕入れることになってるが、やることは基本変わらん」平和な仕事だなー、となのはが小さくぼやいた瞬間ソルの鉄拳が「研修中の癖して生意気言ってんじゃねぇ、仕事舐めんな」と飛んできて彼女は涙眼になり、その光景を横で見つつ続いてフェイトが挙手をした。「他の皆は?」「ユーノとアルフは無限書庫で調べ物、他の連中は二箇所の内の一箇所に先行してる」「つまり、実質このメンバーで遺跡に向かうんは一箇所のみやね」ソルの言葉を受けてはやてが纏めるように言うと、彼は首肯する。「今回は戦闘が目的じゃねぇ。かと言って油断するな、何時も俺が口を酸っぱくして言ってることだが――」「分かってるよ、お兄ちゃん。”常に最悪を想定しろ、現実はその斜め四十五度上をいく”」「”戦場では一瞬の気の緩みが死を招く”」「”戦いに身を投じる以上、殺す覚悟と殺される覚悟をしろ、そして必ず生き延びろ”、やったね」彼の言葉を遮るようになのは、フェイト、はやてが順にソルの教えを口にすると、キリリッと表情を引き締めた。そこには既に中学三年生の少女の姿は無く、戦いを眼の前に控えた魔導師の姿があった。「お仕事頑張るです!!」ツヴァイもやる気満々だ。「フン、分かってんじゃねぇか……行くぜ」苦笑して飛び立ったソルの後姿を四人が追う。高速で飛翔する五つの魔力光が青い空に軌跡を作った。背徳の炎と魔法少女 空白期13 レリック「遠路お疲れ様です、本局管理補佐官、グリフィス・ロウランです」「シャ、シャシャリオ・フィニーノ、通信士、で、です!!」定置観測基地に辿り着くと、一行を迎えたのは二人のまだあどけなさが残る年若い管理局員の敬礼だった。片方は年に反してやけに落ち着いている眼鏡少年。もう片方はやけに緊張している丸眼鏡少女。外見年齢としては三人娘よりも四つも五つも若いのだが、この基準は当てはまらない。何故ならソルの魔力の影響で三人娘の外見年齢は高校生くらいだからだ。「しばらくだな、グリフィス」「お久しぶりです」ソルと気軽に挨拶を交わす少年。そんな二人を目にして三人娘とツヴァイは驚く。「知り合い?」「ん? ああ、お前らは知らねぇのか。レティの息子だ。仕事でよく会うことになるから面覚えとけ」なのはの問いにソルは素っ気無く答えた。ふーん、といった感じに四人がグリフィスを観察するようにジロジロ見て、改めて敬礼をするグリフィス。そんな彼の隣で、ソルに熱烈な視線を向ける少女が一人。通信士と名乗った彼女は眼が輝いていて、まるで憧れのアイドルを眼の前にした熱狂的なファンにも見える。祈るように手を胸の前で組むと、彼女はテンションMAXで喚き始めた。「う、噂に名高い”背徳の炎”、ソル=バッドガイさんとこうして直に会えるなんて! 想像よりも全然ワイルドで背も高くて素敵……声も渋いのに力強くてよく通るセクシーヴォイス……感激です! 私大ファンなんです!! シャーリーって呼んでください!!」「は?」口を半開きにして頭に?を浮かべて、鳩が豆鉄砲食らったような表情になるソルは、彼女のテンションに完璧に置き去りにされていた。「陸海空の様々な難事件や犯罪者を相手に何処からともなく現れて難無く解決、去り際に一言『ただの賞金稼ぎだ』という言葉を残して風のように姿を消す! 管理局に所属していない、賞金稼ぎを名乗るミステリアスな紅蓮の魔導師!!」「……」「彼にトラウマを植えつけられた犯罪者は数知れず、彼に救われた人々は星の数!! 操る炎は悪を焼き――」「……グリフィス、まだ続くのか」居心地悪そうに半眼になったソルが、グリフィスにいい加減にしてくれと言わんばかりに促すと、少年は慌てて相棒の少女を羽交い絞めにする。「こらシャーリー、失礼だろ!! すいません、シャーリーはミーハーなんです!! だからすいません!! この子の代わりに僕がいくらでも頭下げるから許してください!!」「いや、別に構わねぇ……むしろこっちがお前の涙ぐましい態度に頭が下がる」暴走している少女を泣きそうになりながら押さえつけて謝罪してくる少年に対して、ソルはやれやれと溜息を吐くと苦笑して肩を竦めた。と、背後から視線を感じるので振り返れば、微妙に戸惑った表情の三人娘とツヴァイ。「お兄ちゃんって、もしかしなくても凄い有名?」「……ファンが居るんだ」「なんや、私らが知らないソルくんの一面を見た気がして寂しいなぁ」「ほえー、父様凄いですー」四人は純粋に感心している。「えええ!? 皆さん、魔導師なのにソルさんがどれだけ凄い人か知らないんですか!?」「いい加減にしてくれシャーリー!!」身を乗り出す眼鏡っ子とそれを取り押さえる眼鏡少年。「どうでもいいから話を進めろ……」それらを眺めつつ、呆れたように再び溜息を吐くソルだった。定置観測基地で詳細な情報を手に入れると、グリフィスとシャーリーのナビゲートに従い一行は再び飛行魔法を発動させ、発掘場に向かう。「なんか凄い子だったね」「うん」シャーリーに対するなのはの感想。それにフェイトは首肯する。「何時も管理局の仕事行くとあんな感じなん?」「そうでもねぇよ。あのシャーリーって奴程じゃねぇが似たような態度取る連中は居ることには居るが、どっちかっつーと厄介者扱いが半分だ。俺達がやってることは結果がどうあれ、そこで働く者達の縄張りを荒らすことと同義だからな」はやての問いにソルは何処か達観したように答えた。賞金稼ぎを自称してはいるが、管理局から見れば”背徳の炎”とその仲間達は金さえ払えば戦闘能力を貸し出す何でも屋、という認識が色濃い。もっと突き詰めた言い方をすれば一回こっきりの傭兵だ。それぞれの契約者達を介して、戦力不足で悩んでいる部署へ、一時的に高ランク魔導師を必要としている時に、もしくは緊急時に、その他諸々の様々なシチュエーションで発生した要請を受けて”戦力”として借り出されることが常だ。これまで失敗らしい失敗はしていない。むしろ得た評価は高く、培ってきた信用は確かなものだ。先程のシャーリーのように、あっちこっちで活躍する様子を見せる高ランク魔導師というのは、特に若い管理局員からは憧れと羨望の眼を向けられることが多い。しかし、管理局員でもない人間が一時的とはいえ派遣された先の部署の仕事を掻っ攫っているのは事実である。やっかむ者や、出来過ぎる仕事ぶりに嫉妬する者は後を絶たない。おまけに、タイプや適性が異なるもののメンバー全員が高ランク魔導師。これで賞賛の声だけしか無かったら逆に不気味だ。管理局全体で見ると、”背徳の炎”は賛否両論。管理局に所属していない、管理外世界に住むフリーの高ランク魔導師。他を圧倒する戦闘能力を保持し、自分の好き勝手に動き回り(別にそういうつもりは一切無い)、派遣先の人間の仕事を奪い(結果的にそうなってしまう)、その上で報酬をふんだくる(ように映るらしい)ゴロツキ。リーダー格であるソルのことをよく知らない人間が彼を一見すると、眼つきの悪い無口なチンピラにしか見えないのもそう思われてしまう要因の一つ。また一方で、犯罪者を捕らえ被害者を救い、無辜の民に平和をもたらす賞金稼ぎは凄腕の魔導師集団として映る。どう捉えられるかによって大きく評価が変わる。それが今の”背徳の炎”であった。先頭を飛ぶソルの隣にフェイトが寄り添うように肩を並べると、彼女は横からソルの顔を覗き込んだ。「でも私、シャーリーがソルに憧れる気持ち、なんとなく分かるよ。ソルはただ仕事をこなしたとか、自分が勝手にやったことだって思ってるだろうけど、ソルに助けられた人達は凄く感謝してると思うんだ。それにソルってやること成すこと人に強烈なイメージを刻み付けるから尚更」「そうか?」「そうだよ。エリオだってそうだし、私だってそうなんだよ?」言われて、フェイトと初めて会った時のことを思い出す。「あの時、私を助けてくれたソルの後姿が忘れられない。初めて見たタイランレイブの輝きが眼に焼き付いて離れない……今思うと、ソルが私の心に火を点けたのはあの時なんだよね」ほんのりと赤く染めた頬を両手で挟み、熱の込もった上目遣いでとソルの表情を窺うフェイト。自然な動きでフェイトの顔を一瞥したからソルは眼を瞑り、視線を元に戻す。(別に可愛いだなんて……思ってない)自分の気持ちを思いっ切り誤魔化すと、取り繕うように咳払いを一つする。「……とにかく、この仕事やってると相手が犯罪者だろうがそうでなかろうが、人間の汚ぇ部分を見ることになるから覚悟しとけ」「「「はーい」」」「汚物は消毒しなきゃダメですぅ!!」ツヴァイだけが微妙にズレた返事をしたことにソルは一人頭痛を堪えると、グリフィスから通信が入る。『ソルさん。発掘地点と通信が繋がりません』「ああ? トラブルか?」『断言出来ませんが、恐らく』視線の先を鋭く睨み、思考を戦闘に切り替えソルは不敵に口元を歪めた。「……いや、どうやら合ってるみてぇだぜ」遺跡の発掘場である目的地には、ざっと数えて二十は下らない数の機械らしきものが浮遊している。外見は青い俵型の機械を縦にしたようで、カメラアイなのか何なのか知らないが中央にレンズのような球体がいくつも填め込まれている。<広域スキャン完了。民間人と思われる生体反応が二つ。機械兵器らしきアンノウンを多数確認。アンノウンは二つの生体反応を襲っていると考えられます>すかさずクイーンの報告が入った。報告通り二人の男女がアンノウンから後退りして逃げようとしているのを肉眼で確認すると、ソルは飛行速度を一気に上げて間に割って入り後ろに二人の男女を庇う。次の瞬間、アンノウンに填め込まれた球体から一直線にレーザーのようなものが発射されソルに襲い掛かるが――<フォルトレス>発生した緑色の円形状のバリアがその行く手を阻み、容易く防ぐ。「無事か?」「は、はい」首だけ巡らし問う。「あれは何だ?」「分かりません。これを運び出していたら急に現れて……」女の方が箱を抱えながら答えた。それは十中八九、今回の仕事の目的のブツ。ロストロギアであろう。中身は一体何か知らないが。(ロストロギアを求める機械兵器? まさか……)あることが脳裏を過ぎり、意識を思考に埋没させようとした瞬間、上空からはやての大声が響いた。「なんかよく分からんけど、とりあえず敵っぽいから先手必勝や!! 行くでツヴァイ!!」「はい、マスターはやてちゃん!!」「「ユニゾン・イン!!」」白銀の光を放ちながらはやてとツヴァイをユニゾンし、いきなり呪文を詠唱し始める。「くたばりやッ!!!」声と共に杖を振り下ろす。同時に二階建ての一軒家並の大きさを誇る氷塊が機械兵器の群れに雹のように降り注ぎ、グシャッ、と音を立てて見る見る内にペシャンコにしていく。あっという間に五本の指でも数えられる程度にまで減ってしまった機械兵器は、急に転進して逃亡を図る。「逃がさない」それを見て、なのはがレイジングハートの先端を向けて魔法を放つ。「シュートッ!!」桜色の魔力弾が幾筋もの光の帯を引いて追撃を掛けるが、機械兵器が突如として自身を覆うように淡い光を放つ。それがフィールドを形成し、着弾した魔力弾を溶かすように打ち消してしまう。「無効化フィールド!?」なのはがちょっと驚いたように声を出す。(あれはAMF……やはり)AMFを保有し、ロストロギアを求める機械兵器。ソルが次元世界で賞金稼ぎをすることになった切欠でもある物。かつてのアレと眼の前のコレは形が全くの別物だが、特性は似通っていた。「ちっ、やっぱりあれAMFだ。鬱陶しい真似してくれちゃって」「機械兵器の癖に、うざったいね」口汚く舌打ちするなのは、ぺっと吐き捨てるような口調のフェイト。「だったら、AMFの処理能力を超える威力を叩き込んであげる……ディバイン、バスター!!」「AMFだけで”発生した効果”まで打ち消せるものならやってみればいい……サンダーフォール!!」舐めんな!! と言わんばかりに、なのはは極太の砲撃を、フェイトは金の落雷を機械兵器にお見舞いし、一体残らず跡形も無く消し飛ばすどころから地形すら変えるくらいに大きなクレーターを作ってくれた。ソルが何か指示を出す前に勝手に殲滅してくれるとは、良いんだか悪いんだか……『ソルさん!! 凄い魔力反応がありましたけど一体何が!?』『アンノウンの消滅を確認!! 早い、流石はチーム”背徳の炎”です!!』「……」通信の向こうで狼狽しているグリフィスとやたら興奮しまくっているシャーリーの言葉に、ソルはリアクションに困ってしまう。あの機械兵器。許可も無く勝手に全機破壊してしまったが、一機くらいは今後の為に回収用として残しておいた方が良かったんじゃないのか? 後でクロノに文句言われるかもしれないのは俺なんだよなぁ、と。そして、今更既に手遅れなのだが三人娘の言葉使いが戦闘中の自分に似てきていることに、どうしたもんかな、と溜息をこっそり吐くのであった。「何だこりゃー?」眼下の巨大なクレーター――目的地である発掘場”だった”場所――を見下ろして、ヴィータが疑問の声を上げる。完全な焼け野原。かなり広い範囲まで吹っ飛ばされていたことが、その威力を物語っていた。発掘現場は跡形も無く、何かの爆発によって大地が深く広く抉られた傷痕が痛々しい。「今回のロストロギアって限定核か何かだったのか?」「ヴィータは漫画の読み過ぎだ、と言い切れないから怖いな。汚染物質は検出されない典型的な魔力爆発だったようだが、それに似た可能性も十分にある」肩にアイゼンを担ぐヴィータに狼形態のザフィーラが苦笑する。「う~ん。今日のお仕事は三人の研修っていうから比較的安全な内容だった筈なのに、何時の間にかキナ臭くなってきたわねぇ」シャマルが頬に手を添えて、はあ、と溜息を吐く。「目的地に辿り着いたはいいが、目的の物は謎の爆発を起こして消えてしまったらしい。ソル達の方ではロストロギアを狙うアンノウンが出現したと聞く」現状を確認するように呟いてから、アインはサブリーダーであるシグナムに、どうする? と視線で問い掛けた。シグナムは暫しの間顎に手を当て黙考し、やがて口を開く。「その前にもう一度情報を整理して現状を確認しよう、グリフィス」『はい』すぐさま応答が返ってくる。「状況の報告を」『はい、現在ソルさん率いる護送隊はアンノウンを撃破。ロストロギア”レリック”を無事確保した後、チェックポイントの軌道転送ポートに向かっている最中です』「アンノウンは?」『反応多数、護送隊の進行方向に向かっているようです! 狙いはやはりロストロギアなのではないでしょうか? ソルさんが先程からそう仰っています』「恐らくその言う通りだろうな」シグナムは「よし」と一つ気合を入れる。「これより我ら五人は護送隊の邪魔をしようとするアンノウンを叩く。運んでいる物がものだ。護送隊は戦闘を回避する方向で」「異議無し。アタシとしては戦闘になったらソルが爆発させそうで怖いからシグナムの意見に賛成、一」サブリーダーの決定にヴィータがコクコク頷く。「それは言い過ぎな気がするが、あり得ないとは絶対に言えないからタチが悪い。ソルの場合、『こんなもんは人類に不要だ』などと言って自ら爆発させそうだ」アインも反対しない。「あいつはやると言ったら冗談でもなんでもなく本当にやるからな。以前もそれで遺跡を一つ丸々消し炭にしている」数年前の海底火山のことを思い出し、ザフィーラが眼を細める。「まあ、それがソルくんだから」手で口を覆い隠し、シャマルがクスクス笑う。「決まりだ。行くぞ!!」「「「「了解!!」」」」観測基地から誘導を受け高速で数分飛び続けると、俵型の機械兵器が群れを成し低空飛行しながら移動しているのを発見する。追いついた。『余計な心配かもしれませんが、対航空戦能力は未確認の上、AMFを有しています。お気を付けて!』「ああ」皆が気を引き締める中、シャーリーの注意を促す声が響き、シグナムが素っ気無く返す。「大したことないとソルから聞いてはいるが、思ったよりも数が多いな」「うじゃうじゃうじゃうじゃ、面倒臭ぇーなー」よくぞ此処まで数を揃えたと感心するザフィーラと、数の多さに辟易したようなヴィータ。「文句言わないの、二人共」そんな二人をシャマルが嗜める。「ふむ。ならば此処は私一人で任せてもらおう」シグナムの隣を並走するように飛んでいたアインがそう言うと、ギアの”力”を解放し、背中から一対の漆黒の翼を、腰から一本の尻尾を顕現させ、一気に速度を上げる。四人が呆気に取られている間に、機械兵器の群れに突っ込むように急降下。何事かと機械兵器達が動きを止めるど真ん中で、アインは右手で手刀を作り、それに蒼い雷を纏わせる。そして左足で一歩大きく踏み込み、爪先から足腰、肩、肘、手首、全身のバネと遠心力を最大限活かすように横一文字に一閃。「ミカエルブレード」振り抜いた手の動きに合わせて眩い蒼い光が放たれ、一瞬にして地面と平行に走った刹那、光が触れたもの全てを空間ごと削り取った。斬り裂くというレベルの生易しい話ではない。まるで初めから存在していなかったかのように、文字通り光に触れた部分が”無くなっている”。残ったのは、体積の八割以上を失って力無く崩れ落ちる機械兵器達の残骸。しんっ、と静まり返った周囲を見渡して、アインは「こんなものか」と独りごち、髪をかき上げた。彼女がギアになってもう五年。気を抜くと出力過多になりがちで加減が難しいこの”力”と肉体にも大分慣れてきていた。間違いなくこれまでの日々の訓練の賜物だ。私はギアとしてもう一人前なのでは? という考えに至り、ギアの一人前とは何だ? と自分で自分に突っ込みを入れ苦笑する。初めて己の意志で”力”を使ってみた時は大変だった、と当時のことを思い出す。結界の中とはいえ加減を間違って周囲を吹っ飛ばしたこともあった。その度にソルに封炎剣の柄で散々小突かれ厳しい指摘をされた。小突かれたり怒られたり拳骨食らったりを繰り返す”力”の制御訓練ではあったが、上手く制御が出来ると普通に褒められたので、訓練自体は嫌ではなかった。むしろ今でも好きである。何よりソルが自分の為に付き合ってくれるのが嬉しかったから。とは言え、最近では、具体的には賞金稼ぎとして働き始めたくらいからは訓練自体が無くなってしまったことが少し寂しかったりする。ソルが忙しいというのもあるが、制御が上手く出来るようになったのでもう必要無いというのが最大の理由である。それでもやっぱりソルに構って欲しいアインだった。仕方が無い。今度の休みに、以前のようにツヴァイと一緒に遊園地にでも連れてってもらおう、と心の中で画策しながら定置観測所に通信を繋ぐ。「グリフィス、アンノウンの反応は?」『え、ええと、アンノウンの反応、ロストしました……』「一機残らず?」『……はい。でも、一体どうやって? 三十機を超えるアンノウンを一瞬で――』「何、大したことはしていない。少し本気を出しただけだ」続いてアインはソルに報告を上げる為に繋いだ。「こちらアイン。アンノウンを全機撃破した」此処には居ないソルに向かってアインは胸を張る。どうだ? 褒めろ、と言わんばかりだ。『全機? 随分仕事が早ぇな』「この程度、造作も無い」『一機も残らずか?』「ああ。一機残らず粉微塵だ」『……そうか、一機残らず粉微塵か……』「どうした?」通信越しの彼の口調が若干歯切れが悪いことに訝しむ。まさか自分は何か致命的なミスでもしてしまったのであろうか? もしそうだとしたら、とてつもなく凹む。だが、アインの心配は杞憂に終わった。『いや、なんでもねぇから気にするな。よくやってくれた、これで仕事の半分は終わりだ、お疲れ。合流地点に集合しろ』労いの言葉を残して通信が切れる。「……久々にソルに褒められた気がする」一言でもいいから何か言って欲しいなあ、と淡い期待をしていたら本当に褒められた。仕事中は無表情なアインではあるが、その感情を表すように黒い尻尾が振り子のように左右に大きく振られる。まるで飼い主に愛撫してもらっている子犬のように、それはもう激しくブンブン振っていた。そんな彼女の背後で、拗ねている者が一名。「あのくらい、私にだって出来るぞ……」シグナムだ。出番を独り占めされて悔しいのか、ソルに褒められたことが羨ましいのか、もしくは両方か。更にその後ろで「アタシ今日なんもしてねー、給料泥棒だー」とぼやくヴィータに同意するシャマルとザフィーラが居た。