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こんにちは、最近秘密の花壇を作り出してちょっとだけ元気が出てきたエンハンストです。
さて、今回の闇の書事件における犠牲者遺族の合同葬儀にやってきました。
実際来てみて吃驚、会場にはかなりの人数がやって来ていました。
今回の事件では相当な人数が直接的にしろ間接的にしろ、亡くなられたようです。
でもおかしいですね、ちょっと妙な違和感を感じます。
たしか原作ではヴォルケンリッターの騎士達は積極的に人殺しをするような性格じゃなかったはずですが。
それとも主人の気質によって守護騎士達の性格も変わるのでしょうか?
約十年後、次の主となるはずの八神はやて本人は穏やかな性格をしているようでしたが、今回の主は誰だったんでしょうかね?
しかしまあ、これだけの事をしでかしておいて、よく原作では管理局任務への奉公従事だけで許してもらえましたね。
家族を殺された恨みとかで闇討ちされてもおかしくないレベルの犠牲者数ですよ、コレ。
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今僕の目の前だけでも十数人の遺族が悲しみに泣き喚いています。
遺体がある方はまだ良いです、家族の遺体の入った棺に縋り付いてしっかりと泣いて悲しめますから。
暴走に巻き込まれた挙句、アルカンシェルで消滅させられた人の棺は空っぽです。
家族の死に顔もなく、それ故に死んだという実感もなく、どうしたらよいか困惑して呆然としている人も結構います。
こういう人は哀れです、悲しみの寄せどころが無いので泣くに泣けません。
そして今、僕の目の前にもそんな哀れな親子がいます。
「おかあさん、おとうさんは?」
「……お父さんは、もういないのよ……クロノ……」
「ねぇ、どうして?」
「……っ、それは」
「おかあさん? どうしてないてるの? どこかイタいの!?」
「クロノ、よく聞いて、お父さんはね、死んでしまったのよ」
「え?」
「だからもうお父さんとは会えないのっ……ずっと……」
「なんで? そんなの……いやだよ、そんなのいやだぁ!!」
「……っ、クロノ!」
泣き喚く息子を抱きしめる母親、傍目から見てもかなりキツイ光景です。
3歳か4歳程度のクロノ君はまだ活発で無邪気な少年そのものといった感じを受けますが、この事件をきっかけにあのクソ真面目で融通の利かない頑固な性格に変わってしまうのでしょう。
まあこんな風に父親を失ってしまえば性格が変わらずをえないトラウマとなったことは間違いありません。
かなり気軽に彼らの顔を見にきた僕としては非常に声をかけづらい状況です、正直気まずいデス。
僕が戸惑っている間に、いつの間にか近くにやって来ていたグレアム提督がいました。
ナイスミドルなイギリス紳士の登場です、ウホッ、いい紳士。
ロマンスグレーといった風貌のマジカッコ良い中年男ですね。
しかし彼は今回の事件においてはかなり複雑な立場です。
闇の書の暴走によって亡くなった人たちを最終的にアルカンシェルで消し飛ばしたのは彼なのですから。
任務上仕方が無い措置だったので彼自身に罪は無いとはいえ、被害者側からすればトドメを刺した極悪人も同然なのでしょう。
ここに来るまでに少なくない遺族から罵倒され非難され、時には殴られたに違いありません。
彼の頬には殴られたらしき青痣ができており、口端からは血が滲んでいます、相当手酷くやられたようです。
彼自身も大切な部下を自分の手で殺して相当落ち込んでいるはず。
それでもグレアム提督は遺族への謝罪をして回っているところを見ると、かなり責任感の強い人物のようです。
「……リンディ君」
「……グレアム提督」
「すまなかった、今回の顛末、すべての責任は私にある」
「いいえ、違います提督、あのような事態は誰も予想できませんでした……」
「しかし、私は君の夫を……クライド君をこの手で!」
「提督、夫は……夫は最後まで自分の中の正義に殉じたのだと思います、提督に責はありません」
「……………」
「夫も、提督を一切責めていないと思います、あの人はそういう人でしたから……」
「クライド君……」
二人とも涙を流しながら亡きクライド氏を偲んでいるようです。
話を聞く限りかなり正義の人だったみたいですね。
惜しい人を亡くしました、世の中そういう良い人から真っ先に死んでいきます。
一方で最高評議会の脳みそ×3とかの悪党はなぜか生き残ってしまいます、まさに皮肉ですね。
あ、でも一応最高評議会も目的は世界平和なんだっけ、やり方が外道すぎて忘れがちだけど。
二人が一通り話し終えた頃、リンディさんに抱かれたままのクロノ君が泣きつかれて眠ってしまいました。
リンディさんは悲しみとも慈愛ともとれる複雑な表情で抱きしめた息子を見つめています。
「……この子も、今はまだ難しいでしょうけどきっとわかってくれます、自分の父親がどんなに立派な人だったかを、きっと誇ってくれると思います」
「そう、か……そうだな、彼は、クライド君は素晴らしい青年だった」
「ええ、なんていったって私の夫なんですから」
「いつかクロノ君もクライド君に負けない素晴らしい青年になるはずだ、彼の息子なのだから当然そうなるに違いない」
「そうなってくれると嬉しいです……いいえ、そうなるように育てて見せます」
「将来の楽しみができたな、リンディ君なにか困った事があったら私に相談して欲しい、クライド君の代わりにはならないが私にできることがあるなら協力させて欲しい」
「……提督、ありがとうございます」
泣き笑いの表情でリンディさんが感謝のお礼を述べる。
そうか、こうやって後のクロノ君がグレアム提督のもとでリーゼロッテ・リーゼアリアに師事するフラグが立った訳か。
将来のスーパーエリート管理局員、クロノ・ハラオウンの原点がここってわけですか。
僕はいま原作歴史の小さな出来事を見たわけですね、ちょっと感動。
ん?
んんっ!?
今なんかスッゴイこと思いついたんですけど!!
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