■07
「管理局特別執務官エンハンスト・フィアットです、もう大丈夫です、皆さんを救出にきました」
とたん周囲の人質達から歓声が上がる。
互いに助けが来たことに対して涙を流しながら喜び合う人々、辛い人質生活もこれまでだと。
だが安心するのはまだ早い、船内にはまだ多くのテロリストがいます。
しかも本隊からの救出隊がくるのは僕がこの船を制圧した後です。
僕は人質がすべてここに集められている事を確認し、彼らにテロリストの持っていた銃を預けて安全が確保できるまでここで待っているよう言いました。
何人かの勇気ある局員さんが僕に同行すると言ってくれましたが、駄目です。
その心遣いは有難いのですが、ぶっちゃけ足手まといです。
AMF状況下で魔法が使えない魔法使いほど無力な存在もいません、テロリストは銃火器で武装してますし。
局員の人々もある程度は格闘戦の訓練は積んでいますが、あくまでアマチュアレベルですし。
到底重火器に対応できる存在じゃあありません。
僕といっしょにホイホイついて来てあっさり死なれたら気分が悪いです、僕が悪いみたいじゃないですか。
あ、僕は大丈夫ですチート性能で白兵戦もほぼ無意識で自動戦闘ですから。
だから僕は同行を断ったのですが、それでもしつこく食い下がってくる根性のある人もいました。
「だが、君のような子供にばかりそんな危険な事をまかせるわけには!」
「……いえ、ですから私だけの方がむしろ安全で」
「そんなわけが――――!」
「いや、多分この子なら大丈夫だ、お前聞いた事ないか『沈黙の管理局員』の噂を……」
「ま、まさかこの子が噂の!?」
「…………?」
いきなり周囲の人々がザワザワ騒ぎ出す、え、何事?
ってか『沈黙の管理局員』ってなによ?
セガールさんのことですか?
「ああ、聞いた事があるぞ、最高評議会の秘蔵っ子、管理局の天才児、最強の管理局員、それが『沈黙の管理局員』」
「渡り歩いた戦場は数知れず、困難な任務をすべて成功させてきた、まさに生きた伝説の英雄だ!」
「その名はエンハンスト、そう、この子が『沈黙の管理局員』だったんだよ!」
「「「「な、なんだってーーー!?」」」」
いや、勝手に盛り上がっているところスミマセンが僕も初耳です。
その噂の出所どこ?
かなり誇張されて表現されているような気がしてならない。
「そういうことなら先ほどのすさまじい戦闘能力も納得がいく、魔法を使わず生身で銃をもつテロリストを鎮圧するなんて並の奴じゃ絶対に無理だ」
「そうだ、『沈黙の管理局員』は魔法を使わなくても不思議な武術で質量兵器も相手にならないと聞く、毒物も平気らしい!」
「お、俺知ってるよ、『沈黙の管理局員』は任務達成率100%のスゴ腕だって、た、助かるぞ!」
「ああ、さすがは『沈黙の管理局員』といったところか、すごいぞ生の伝説をこの目で見れるなんて!」
「お、俺、家族に自慢できるよ!」
なんかもう皆さんの中では決定事項みたいですね、僕の意見は無視ですか、まあ慣れてますけど。
そりゃまあ、ダウンロードされた武術で重火器だって相手できますし。
免疫力がハンパないんで大抵の毒物は解毒もしくは耐性がありますし。
任務達成率に関しては、失敗=最高評議会に不評を買って処刑、なので絶対失敗するわけにはいけないと必死になっているわけでして。
しかし、まぁ、彼らの噂だと僕は化け物じゃないですか、そこまで人間止めてませんよ。
……止めてないよね?
ともかくこの皆様方からの芸能人を見るような生暖かい視線はかなり絶え難い。
一刻も早くここから立ち去りたいです。
幸い今の状況なら僕の言う事を素直に聞いてくれそうなので、さっさと鎮圧に向かってしまいましょう。
僕は適当に彼らを言いくるめ、そそくさと食堂を出て行きました。
先程までとはうって変わってハイハイと大人しく指示に従ってくれるのはありがたいんですが。
……急に素直になられると逆に調子が狂うんだけど、まあいいか。
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なんか妙な事になってきたのでとっとと解決して帰って寝てしまおう。
ちなみにテロリスト鎮圧はこの後わずか15分で終了しました。
実にあっけないものでした、実況するほどでもないので、その様子をダイジェストで流しましょう。
テロリストA 「ば、馬鹿な、なぜこんなガキにぐわぁっ!」
テロリストB 「生身で銃撃をかわしただと、こいつ本当に人間か!?」
テロリストC 「ま、まさかこいつが噂の奴だと言うのか!」
テロリストD 「人生\(^o^)/オワタ」
テロリストE 「ぎゃあああ!! う、うでが折れたー!?」
テロリストF 「こ、こんなガキ一人に俺たち全員が負けるのか!?」
テロリストG 「わ、我々の悲願が……ぐふっ」
とまあこんな感じでサクサクと鎮圧は完了、数分後に突入してきた本隊が無事人質達を保護しました。
僕としては戦闘以外での精神的疲労の方が大きかったのですが、まあ無事解決してよかったです。
ただ一つだけ誤算がありました。
翌日のニュースでこのことが報道されたときに人質となった人達が僕の事をこぞって話していたのです。
やれ、彼はまさに英雄だ、とか、正義の味方だ、とか、ある事ない事好き勝手に言ってたわけですよ。
最後に、テロリストの銃から助けた例の女性が出てきて涙ながらに話すわけですよ。
自分がいかに絶望的な状況で、どうやって僕に助けられたのかを、かなり美化しまくって話してました。
しかも頬を赤面させてウットリした様子で、あの惨劇下でよくそんな感想もてますね。
僕はたしか化粧がぐしょぐしょになった見るに耐えない顔を拭いてあげただけのはずなんですが。
どう解釈したら涙を拭って愛を囁くような星の王子様みたいな行動に変換できるのでしょうか?
女心は理解できそうにありません。
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もし人が恥ずかしさで死ねたなら、僕は少なくとも百回は死んでいるでしょう。
今回の事件、世間的には結構な騒ぎになって世論でいろいろとりあげられているようですが。
僕的にはあんまり大事件にしてほしくないです、目立ちたくないんですよ。
……まぁ、無理な願いなんだろうけどね。
しかも、なんか不自然に今回の犠牲者については言及しないし、むしろ全力で隠蔽?
ホント勘弁してください、こういうことになって喜ぶのは最高評議会の脳みそ×3だけですから。
そういえばあいつら前に『メディアミックス作戦』とかアホなこと話してたけど、アレってマジだったのかー。
道理でわざとらしいくらいに僕のことがニュースとかTVで好意的に紹介されるわけだ。
雑誌とかでも、いつの間にか撮影(この場合盗撮)されていた僕の写真とか表紙になってたし。
……見つけたときは本気で殺意を覚えたけどね!
あれ以来、道行く他人とかにいきなり握手求められたり、サインくださいとか言われたりするようになりました。
僕はアイドルとか芸能人じゃないんですけど?
邪険にして最高評議会の不評を買う訳にもいかないので、できるだけ誠意をもって対応してますけど。
すごい権力の無駄使いです、本当にありがとうございました。
これでまた僕の望む平穏な生活から遠ざかってしまったような気がします。
あ、死にたくなってきた。
ロープどこだったっけ?
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