■05
こんにちわ、未来のヴィジョンが見えないエンハンストです。
あーホント、最高評議会の脳みそども死んでくんないかなぁ。
こう、地震とかで揺れて倒れて脳味噌ケースのガラスがパリーンとか、ないかなぁ。
ないよなぁ……。
おっと、現実逃避もここまでのようです、今日もすごーく、すごーく嫌ですがお仕事です。
今現在僕は超高高度飛行機の中にいます、半分宇宙空間みたいな高さの場所を飛んでいます。
勿論僕たった一人、寂しいものです。
え、なぜかって?
当然任務のためですよ。
これまでのあらましをわかりやすく順を追って話すとこうです。
①約半日前にXV級大型次元航行船がテロリストによって占拠されました。
②クルー全員が人質にとられすでに13人の死者がでています。
③犯人の要求は現金数十億と、現在逮捕拘留されている彼らのリーダーの解放。
④これまで二回救出隊が結成され突入しましたがすべて失敗。
⑤船内はどこからか入手したらしいAMF(Anti Magilink-Field)によって魔法が無効化されてしまう。
⑥しかもテロリストは物理兵器の銃火器で武装している。
⑦犯人の告げたタイムリミットまで後一時間、それをすぎると人質を殺害し、地上にアルカンシェルをぶっ放す。
あ、ちなみにAMFっていうのはフィールド系の上位魔法で、魔力結合・魔力効果発生を競合的に阻害し、フィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害されるという凶悪ぶり。
ロストロギアにはこれを発生させる装置が時々あって、魔導師にとっては天敵ともいえる存在だ。
そして今回の僕のお仕事はテロリストの殲滅と人質救出、あと次元航行船を取り返す事です。
当然単身任務、お空からの垂直降下で突入します、毎回の事ですがかなり無茶を言ってくれます。
あのね、ここ空気薄いんですよ、っていうかほとんど宇宙なんですよ。
そこから垂直降下しろとか、僕の事人間扱いしてないでしょう?
僕はガンダニウム合金とかでできてるわけじゃないんですよ?
考えれば考えるほどだんだん鬱になってきました、死のうかな。
『エンハンスト特別執務官、目標直上に到達しました、降下してください』
パイロット席からの通信が入る、あー……嫌だけどお仕事しなきゃね。
こんな陰鬱な気分じゃいつまでももたないよ、この仕事終わったら何か癒しを探してみようかな。
とはいえ、僕に趣味らしい趣味なんて無いしなぁ。
生まれ変わる前の楽しみは花を育てることだし、あとはオタ系くらいだしね。
そうだ、秘密の花壇を作ろう、小さくてもいいからもう一度僕の手で花を育てるんだ。
名付けて『えんはんすとランド』、いやっほぉー!
うん、良い考えだ、どうして今まで思いつかなかったんだろう。
幾分か気分が晴れた、よし、そうなればこんな面倒くさい仕事はさっさと終わらせてしまおう。
「Red comet、起きろ」
『It started. The glory of victory to you. (タスク起動、勝利の栄光を君に)』
「バリアジャケット展開」
『It consented. (了解した)』
戦闘時じゃなけりゃ、大人しい良いデバイスなんだよねコイツ。
戦闘時じゃなけりゃね……。
デバイスが起動し、僕の身体の周囲を魔力で構成されたバリアジャケットが覆い包む。
もちろんどこぞの魔法少女みたいに全裸になったりなどしない、できないこともないがそんな趣味はありません。
誰も男の裸なぞ見たくもない、もしも見たいなんて言うガチホモな御方がいたら絶対に友達になりたくない。
アホなことを考えているうちに顔まで覆う白の防護服(ジャケットコート)が現れる。
テンガロンハット風の帽子・長手袋・襟の長いコート・スラックス・ブーツ。
そう、キャプテンブラボーの武装錬金『シルバースキン』みたいなやつです。
ぶっちゃけ、痛い思いしたくなかったので、自分の中で一番頑丈な服を考えていたらこれを思い出しただけである。
だからこの造詣に深い意味は無いが、妙な安心感とフィット感があるので今では結構気に入っている。
ブラボーが私服としても愛用していた気分がちょっとだけ理解できた。
ハッチが開く、気圧の関係ですさまじい気流が巻き起こるが、バリアジャケットで守られた僕には大して影響はない。
空気すらなくても平気な便利仕様だ、ある意味宇宙服レベル。
さて、そろそろ行きますかね。
「エンハンスト・フィアット、出る!」
僕は漆黒の空に飛び出しました。
■
同時刻、次元航行船内部。
食堂に集められた怯える人質たちの前でテロリストたちが言い争っていた。
バンダナをした茶髪の男が怒りを露に怒声を発し、それを長髪の男が諌める。
「クソッタレ、いったいいつまで時間がかかるんだ!」
「落ち着け、まだ指定時間まで一時間ある、焦れば奴等の思う壺だ」
「ふざけんな! あいつら二回も突入してきやがって、こっちだって何人も死んでんだぞ!!」
「報復として人質を殺してやった、もうビビってもう突入はしないはずだ」
「そんなことわかんねぇだろうが! 現に二回目があっただろうが!!」
「とにかく今は頭を冷やせ、俺は警備状況を確認してくる、ここは任せたぞ、いいな?」
「ちっ、わかったよ!」
長髪の男が食堂を出て行き、残されたバンダナの男は苛立たしげに机を蹴り飛ばした。
机上に飾ってあった花瓶が落ちて割れる、水と花が床にぶちまけられ思いのほか大きな音が響き、人質たちが怯えて小さく悲鳴を漏らす。
その声を聞いてバンダナの男はより一層腹立たしげに人質たちを睨んだ。
「うっせぇんだよ、豚どもがぁっ! ピーピー喚くな!!」
「ひぃ!?」
男の怒声に気の弱い女性局員が思わず泣き出してしまう、あまりの恐怖に自分でも嗚咽が止められなかった。
男がその様子にキレた様子で周囲の局員を殴り飛ばしながら彼女の前にやってくる。
彼女は目の前の自分を見下ろす男の視線に確かな殺意を感じて、歯がカチカチと震えるのが止まらない。
カチャリ、と額に銃口が押し付けられる、非殺傷設定などありえない物理兵器の銃だ。
引き金さえ引けば、子供でも人の頭を軽く吹き飛ばすことができる旧時代の象徴たる凶器。
恐怖から涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃに汚しながら女性局員はただ震えていた。
命乞いをしようにも声がでない、助けてくれる人もいない、確実な死だけが目の前に突きつけられていた。
「死ね、喧しいメス豚がっ」
ガァンッ、と一際大きな音が室内に響き渡った。
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