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※ちょっとイロイロきっつい描写とかあるんでR-15くらいにしときます、ご注意ください。
※アンチやグロ描写もあるので苦手な方は41話でダイジェストあらすじしますので飛ばしてください。
※ぶっちゃけ見なくてもストーリーに影響はありません、邪悪で腹黒なカガチが好きな人だけ楽しめる仕様になっています。
―Side:カガチ―
「私達は旅立つの、忘れられた都、アルハザードへ!」
目の前で魔女が歓喜の声を上げて両手を振り上げる。
膨大な魔力を放出しながら周囲を旋回するジュエルシードが蒼く光輝く。
「この力で旅立って、取り戻すのよ、全てを!!」
魔女の掛け声とともに輝きがいっそう増し、地響きを上げながら空間そのものが振動する。
次元震だ、ということは私の出番ももうすぐということでしょうか。
早く動き出したい、早くエンハンスト様のお役に立ちたい、早くこのこの魔女を―――
『……もういいぞ、やってくれ、カガチ』
『あぁん、そのお言葉を待ってましたわぁ♪』
待ちに待ったエンハンスト様からもGOサイン。
同時に念話も含めて、アースラとの繋がりが遮断される、これもあらかじめ決めていた手筈通り。
向こうの方々に私の正体を知られるのは少々拙いですし、アースラの観測機器にAMF装置をしかけておいて正解でした。
これで心置きなく動けます。
さあ、ここからが本当の地獄ですわぁ!
変身魔法を解除、ジュエルシードに化けていた自身の体積が急激に変化し元の人間姿に戻る。
すかさず周囲に浮遊するジュエルシードを全て掴み取り強制的に封印。
その際に反動でちょっとだけ手の組織が破壊されてしまいましたが瑣末なこと。
それよりも注目すべきは目の前の魔女、案の定驚いた顔をしていますね。
「なっ……なんなの、いきなり現れてアナタは!!?」
「うふふ、はじめまして魔女プレシア・テスタロッサ様、ジュエルシードはこちらに返して頂きますわぁ♪」
再封印したジュエルシードを全てゴクリと飲み込む、数は多いがコロコロ小さな宝石はあまり喉ごしがよくないですわね。
ネズミや猫のように飲み込むときにある程度暴れてくれると踊り食いとして楽しめるんですが。
まぁいいでしょう、どうせあとでエンハンスト様に返さなければいけませんし、もともと食べ物じゃありませんしね。
「ア、アナタ正気!? ジュエルシードを飲み込むなんて何を考えているのよ!!?」
「どうせもう貴女様には関係のないモノですわぁ、欲しければ私を殺さなければ手に入りませんわよぉ♪」
怒りと驚きで表情を歪ませる魔女、あぁ、とっても素敵なお顔ですわ。
思わず笑みがこぼれる、その調子で私をもっともっと楽しませて欲しい。
「もっとも、先ほど貴女様に返り討ちにあったゴミ屑以下の三下連中と一緒にされても困りますが」
「……アナタも、管理局の犬なのかしら?」
魔女の視線に殺気が漲る、ようやく私が何者かわかってきたご様子ですわね。
心地よい殺気に晒されながら魔女の疑問に答える、できるだけ相手を馬鹿にしたような口調で。
これで私の望むような反応をしてくれるとよいのですが。
「厳密には違いますが、そう考えていただいてもほぼ問題ありませんわぁ、で、どういたしますぅ?」
「もちろん、殺してでも奪い取るわっ!!」
「それはとてもとても良い答えですわぁっ!!」
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エンハンスト様が私に命令した内容は三つあった。
①ジュエルシードに変身してプレシアのアジトへ潜入すること(その際にアジトの座標も知らせる)。
②エンハンスト様の合図でプレシアの持つジュエルシードを確保すること。
③プレシアの説得or処理(私の判断でどちらか決めることができる)。
アジト潜入とジュエルシードの確保は既に達成している。
あらかじめジュエルシードに変身してエンハンスト様のポケットに潜んでた私は、ズボンのポケットをパンパンと叩く合図にあわせてすぐさま本物のジュエルシードと入れ替わりました。
直後に電撃魔法がエンハンスト様にあたりましたが、あの程度の威力ではかすり傷ひとつつくことはないでしょう。
私は安心して作戦通りにアジトへの潜入は果たしました、さすがエンハンスト様がお考えになられた作戦です。
ですが私は忘れません、無傷とはいえ恐れ多くもエンハンスト様に手を出した大罪人の存在を。
この時点で私にとってプレシア・テスタロッサは完全抹殺対象となりました、もともと助ける気もありませんでしたけれども。
①と②は既に完遂し、あと私がするべき仕事は③のみ、そのうえ説得か処分かの判断は私に委ねられている、ならば私の判断は決まりきっている。
アースラとの通信は途切れ、もう暫くはここで何が起こっても向こうにはわかりません。
誰に遠慮することもなくこれからの私刑(リンチ)を楽しめるというもの、自分の罪をこれでもかというほど思い知らせてさしあげますわ。
……うふふ、これだからエンハンスト様の使い魔は止められませんわぁ。
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「アハハハハッ!! その程度なの? そんな弱い力でこの大魔道士プレシア・テスタロッサに歯向かおうなんておこがましいわよっ!!」
「あんっ、乱暴なお方ですわねぇ♪」
プレシアの放った魔力弾で私の左腕が肩から吹っ飛ばされる。
殺傷設定は勿論、容赦のない苛烈な攻撃は流石はSクラス魔道士と言った所でしょうか。
戦闘が始まってから私は防戦一方だ、ジュエルシードを奪われて激昂したプレシアの攻勢は凄まじかった。
怒りにまかせた攻撃ではあったがそこは熟練した魔道士、感情とは別に的確な責めで私の逃げ道を無くしていた。
人間の魔道士にしてはかなり上位の強さだろう、自ら大魔道士と自称するだけのことはある。
「やせ我慢する必要はないのよ、精々豚のような悲鳴をあげて私を楽しませて頂戴!!」
「ふっ、んっ、あんっ、意外とイタいけど、ちょっとカ・イ・カ・ン♪ 激しい責めはキライじゃありませんわぁ♪」
続けざまに放たれた攻撃魔法、左腕を失ってバランスを崩した私はなすすべもなく当たってしまう。
右腕と左足と脇腹、そして右目、それぞれが血飛沫と肉片を撒き散らしながら吹き飛ぶ。
特に右目の状態が悪い、顔半分が吹き飛んだような姿になってしまった。
脇腹からもピンク色の臓物がこぼれてしまい、はしたない姿を晒してしまう。
「あらあら、こんな姿にされたのは初めてですわぁ、想像以上にお強いのですねぇ♪」
「……フンッ、そんな状態になっても生意気な口調は変わらないのね、つまらないわ」
「そうですかぁ? 私は今とぉっても楽しいですよ、もっともっと虐めてくださいな♪」
「っ!!? もういい、アナタには付き合ってられないわ、これで終わりよ、ジュエルシードはアナタの死体から取り出させてもらうわ」
少し蒼褪めた表情でプレシアが私にトドメの一撃を放とうとする。
いまや両腕のない私に反撃のすべは無いと判断しているのであろう、隙だらけだ。
といっても私もちょっと楽しみなので彼女の魔法発動の邪魔をするような無粋なことはしない。
ニコニコ笑顔でその時を待つ、早くいらしてくださいまし。
「……あ、そういえば楽しすぎて言い忘れていましたが、私大切なことを言ってませんでしたわぁ」
「何? いまさら命乞いかしら?」
「いいぇ、そうではありませんわぁ、私の主様から貴方様の説得をお願いされていまして、お話しを聞いていただけますかぁ?」
「……いいわ、言って御覧なさい、どんな無様な台詞を聞かせてくれるのか楽しみよ」
私の台詞を聞いてプレシアの表情に嗜虐的な笑みが浮かぶ。
あらあら、あれはきっと命乞いだとか思っているんでしょうねぇ、勘違いですのに。
でも今の私の惨状を客観的に見たらそう思うのも無理ないかもしれませんわね。
まぁいいでしょう、私はエンハンスト様のお願い通りにやるだけですわ、一応ね。
「私達には貴女様の娘、アリシア様を生き返らせる技術と用意があります、もしこちらの説得に応じて投降して頂けるのであればそれらをすべて提供しましょう、いかがですかぁ?」
「……面白くもない冗談ね、誰がそんなことを信じると思う? 何よりもアリシア復活のために心血をそそいできた私に対する侮辱よ、もう少しマシな命乞いを期待していたわ」
「それは返答は拒否、ということで宜しいでしょうか?」
「えぇ、そうね、これ以上アナタの無意味な命乞いに付き合う時間も勿体無いし……これでさようならよっ!」
プレシアからトドメの攻撃魔法が放たれる、紫電を纏ったそれは私の胸から上、頭まで上半身を一瞬で吹き飛ばした。
頭が消滅し、視界が無くなり、脳が吹き飛ばされた影響で意識も消える。
私が最後に感じたのは、久しぶりの臨死の恍惚だった。
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怒り狂ったプレシアとの戦いがはじまってからひたすら嬲られ続けたカガチ。
しかし、やられる側のはずのカガチは始終余裕の態度をとっていた。
腕を吹っ飛ばされ、内臓を貫かれても平然としているカガチ、むしろその飄々とした口調は楽しそうですらあった。
プレシアはその異常な敵に一抹の不安を感じたが、大魔道士としてのプライドがその感情を表情には出させなかった。
大丈夫、圧倒しているのは自分、何も問題はないはずだと、自分に言い聞かせて。
案の定、カガチは最後まで抵抗らしい抵抗もせずプレシアのトドメの一撃を喰らってあっさり死んだ。
胸と頭は跡形も無く吹き飛ばされ脳漿と無数の肉片となって床に散った、そして残った胴体が地面に落ちる。
ドプドプと身体の断面からは鮮血が零れ落ち鉄錆臭い匂いを室内に撒き散らす。
プレシアはそこでフッと息を吐いた、最後までわけのわからない奴だった。
いきなり目の前に現れてジュエルシードを奪ったかと思えば、今度はそれを飲み込んでしまい。
自分を挑発してくる余裕があったのでそれ相応の実力者かと思えば全く攻撃してこようともしない。
四肢を吹き飛ばされ己の危機を悟ったかと思えばふざけているとしか思えない命乞い。
だが、頭を吹き飛ばされる最後の最後までニヤニヤと笑顔を絶やさない狂人じみた相手には寒気すら感じた。
これからそいつの死体を漁って体内からジュエルシードを取り出さなければならないかと思うとゾッとする。
近くにフェイトがいればそれを命じる事もできただろうが、この場にいるのは自分だけ。
自然と気の滅入る作業に溜息もでる、それにさっきの戦闘で余計な魔力も使ってしまった。
ただでさえ病気で弱っている現状、ジュエルシードを回収するために行った次元跳躍魔法の影響も大きい。
ゴホゴホと咳をする度に赤黒い血が吐き出されるのも鬱陶しい。
「……まったく、余計な手間をかけさせてくれたわね、忌々しいっ!!」
焦燥感と怒りでつい口から文句が出る、勿論相手は既に死んでいるので返事は無い。
イライラしながらも自分のやるべきことを果たそうと気持ちを切り替える。
そうだ、こんなことをしている時間すら勿体無い、私にはアリシアを生き返らせるという悲願があるのだ。
デバイスを杖代わりにしながらジュエルシードを回収しようと死体に近寄ると、ついでとばかりにその死体を乱暴に蹴飛ばした。
ゴロリと床を転がる死体、その直後思いもかけないところから返事が返ってきた。
「あらあら、あまり私の身体を乱暴に転がさないでくださいな、目が回ってしまいますわぁ♪」
「っ!!?」
瞬間的に身構える、言葉は先ほど蹴り飛ばしたカガチの死体からだった。
頭もない、肺も無い状態でどこから声をだしているのか、そもそもなぜその状態で生きているのか。
さまざまな疑問が頭を支配して身動きが取れないでいるうちにさらに驚くべきことが起こる。
フワリと、胸から下だけの胴体と右足だけになったカガチの身体が空中に浮かび上がったのだ。
ボタボタと床に零れ落ちる血と肉片、それらを一切気にする様子もない。
「な、なんなのよ……一体なんなのよっ!!?」
プレシアには目の前の光景が信じられなかった、常識として有り得ないことが起きている。
頭脳と心臓を失って生きていられる生物など存在しない、こんなことが存在していいはずが無い。
つい自分の正気すら疑いたくなってしまう、それを確かめるようについ大声で怒鳴ってしまっていた。
「あぁ、こんな姿で顔も見せず話しをするのも失礼でしたね、少々お待ちくださいませ、今外にでますわぁ」
その瞬間、カガチの死体が風船のように大きく膨らんで破裂した。
パンッ、という空気の爆ぜる音とともに周囲へ無数の肉片と血潮、臓物(ハラワタ)をブチ撒けた。
幾つかの肉片はプレシアにも飛び散り、そのバリアジャケットを夥しく汚した。
とっさに顔を両腕で庇ったものの、シールドを張る精神的余裕すら失っていたのだ。
そして爆発した死体のあった空中、そこにはある種異様ともいえる存在が浮いていた。
「じゃじゃ~ん♪ 新生カガチ、幼女モード(設定年齢9歳)で再誕ですわぁ♪ キラッ☆」
腰まで届くような黒髪をはためかせ、目元の泣きホクロが妙に似合った女の子が愉快そうな表情で浮かんでいた、全裸で。
片目を瞑って笑顔のままポーズをとる、プレシアの戦意は打ち砕かれた。
ヤック・デカルチャー!
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血と肉片と臓物が散乱し、血生臭さが充満する素敵な室内で私は復活を果たした。
古くなった外皮を捨て、新しい肉体を得るのは蛇の得意技。
まあ爬虫類全般にいえることでもありますが。
それに丁度良い時期だったと言うのもある、エンハンスト様の使い魔として誕生してから数年。
ひたすらに力と魔力を蓄積し続けた肉体はほぼ限界に達していて、これ以上の成長が難しくなっていた。
だから一度古い肉体を捨てて新しく生まれ変わる必要があった、もっともっと強くなるためにも。
まぁ、プレシアにわざとズタズタにされたのは、私が一度『死』というものを体験したかっただけの好奇心ですが。
両手をグッグッ、と握り締めて新しい肉体の感覚を確かめる。
悪くない、身体が小さくなったので違和感があるかもしれないと思ったが、それもほとんど感じられない。
身体に漲る魔力も十分だし、これは上々の結果だろう。
胸が著しく縮んだことは悲しいことですが、まあすぐに大きくなるでしょう。
いざとなれば変身魔法で外見年齢など自由自在ですし、一粒で二度美味しいとはこのことですね。
自身の状態を確認したあと、目の前で呆然としているプレシアに向き直る。
身体中がブチ撒けられた血まみれで、驚きと絶望の表情で呆けるその表情はなんとも『美味しそう』。
「お待たせしましたわぁ、そろそろ脱皮をしたいと思っていたので、お手伝い助かりましたぁ♪」
ニコニコ笑顔でお礼を述べましたが返事はありませんでした。
そんなことをする精神的余裕も無いのか、それとも私を無視しているだけなのか。
まあ、どちらでも宜しいですわ、私のやることは変わりませんし。
それに脱皮のお陰でずいぶん身体も軽い、物質的な意味以上に魔力的な方面でも。
脱皮することで行われる私の最適化、肉体は損傷(ダメージ)に対してはより強固に、魔力はより効率的運用ができるように。
これまで私が経験してきた全ての攻撃はもはや通用せず。
魔力に関しては以前よりもさらに出力が増した。
これでよりいっそうエンハンスト様の使い魔として役に立つことができるようになりましたわ。
「感謝のしるしとして、できるだけ苦痛と絶望を味あわせてじっくり嬲り殺してさしあげますわぁ♪」
「ヒッ!?」
ニッコリと笑みを浮かべプレシアへと歩み寄る。
つい気分が高揚して舌先がチロチロと動き回ってしまう。
彼女は得体の知れないモノを見るような目で私を見て、つい何歩か後退してしまった。
「あらあら、そんなに恐れる必要はありませんわぁ、そのうち痛みも快感に変わるでしょうし、お互い愉しみましょう?」
「ふ、ふざけるんじゃないわよっ!! 一体何なのアナタ、何で生き返ってるのよ!!?」
デバイスを突きつけて今更な質問を投げかけてくる。
手が震えている、声にも未知の存在に対する怯えが見え隠れしている。
なんとも可愛らしい反応ですわ、これは虐め甲斐がありそう♪
「脱皮しただけで、もともと死んでませんわぁ」
「だ、脱皮ですって!? それこそ悪い冗談だわ、人間にそんなことできるはずが無い!!」
「私人間じゃありませんわぁ、蛇の使い魔ですの♪」
「つ、使い魔……なるほど、そういうことね」
あら、急に冷静さを取り戻し始めたご様子、なんだかつまらないですわね。
まあいいでしょう、これから存分に嬲ってさしあげれば先ほどのように気持ちの良い可愛い反応をしてくれるでしょうし。
「ご納得いただけたようで良かったですわ、じゃあさっそく殺し合いましょうか」
「ふんっ、カガチとか言ったわね、たかが使い魔風情が偉そうな口を! 今度こそアナタを殺してジュエルシードを返してもらうわよ!!」
「ノン、ノン、カ・ガ・チ ですわぁ、もっと愛をこめて♪」
怒声とともにプレシアの魔法攻撃が放たれ、それが私の身体に直撃する。
よける必要などない、先ほどあれだけ喰らった攻撃だ、すでに私の身体はそれを克服している。
大きな爆発が発生し、爆風が周囲を薙ぎ払う。
「やはり所詮この程度ね!」
煙の向こう、プレシアの勝ち誇った声が聞こえた、楽しみだ、視界を遮るこの煙が晴れた後にどんな反応をしてくれるのだろうか。
つい待ちきれずに魔力放出で周囲の煙を吹き飛ばしてしまう。
晴れた視界の向こうにプレシアの驚愕する表情が見える、あぁ、とてもいい顔ですわ。
「貴女様の攻撃はもう通じませんわ、攻守交替です、これからは私が一方的に嬲ってさしあげますわぁ♪」
「……ば、化け物めっ!?」
「あら、それは嬉しい褒め言葉ですわぁ♪」
あ、そうですわ、せっかく脱皮して魔力効率が上がったのだからこれまで使ってこなかった武装を使ってみましょう。
以前の身体では強力すぎ、かつ燃費も悪く、制御が難しかったのであまり使いませんでしたが。
しかし、今の私なら使いこなせるはずですわ。
「プレシア様、貴女様への感謝の証として私も全力の武装でお相手いたしますわぁ」
ドスリ、と片手を腹に突き刺す、表皮を破り、脂肪組織を掻き分けて内臓へと到達、そこに収まっている小さな石を取りだす。
ヌプリ、と湿った音を立てて引き抜かれた腹の傷はすぐに閉じて完治した、これも私の特性。
脱皮とあわせて爬虫類、特に蜥蜴系などが得意とする再生能力だ。
簡単な傷は勿論のこと、手足が吹き飛ばされてもすぐに再生できる程度の力はある。
取り出した石は私の専用デバイス、あまりにも強力なためエンハンスト様にも内緒でジェイル・スカリエッティ博士に作ってもらった秘密兵器。
結局これまで使い勝手の悪さゆえ腹の中に封印してきましたが、今こそ出番ですわ。
ポタポタと血が滴るそれを摘みながら、その名を呼びさます。
「お目覚めなさい『サブタレイニアンサン(地獄の人口太陽)』!!」
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デバイスの名を呼んだ瞬間、カガチの身体を包むように爆炎が立ち上り、周囲にすさまじい熱を振り撒いた。
爆炎はすぐに消えたがその跡地には火傷ひとつ負っていないカガチの姿が残っていた。
しかもカガチの姿は先ほどとは大きく異なっていた。
全裸だった身体は少女らしい服装に包まれ、白のブラウスに、緑のフレアースカート、黒いハイソックス、頭には翠色のリボンを飾ってある。
胸の中心には巨大な赤い目がギョロリと浮き上がり、背中には鴉のような漆黒の翼が生えている。
その翼を覆うように白いマントが被さり、その内側には星空または宇宙のような模様が広がっていた。
右足には溶岩状の固形物のような岩が靴のように張り付き、右手には六角形の棒(制御棒)がすっぽりと嵌っていた。
一目でわかるほど異様な姿である。
ただしその身から発せられる魔力と威圧感はただごとではなく、爆炎の余熱もあわせて周囲にはまるで地獄にでも突き落とされたかのような雰囲気が漂う。
見た目だけなら、ふざけた格好をしたコスプレ少女がニコニコしながら立っているだけだ。
だがそれと正面から生身で相対しているプレシアにはヘビに睨まれたカエルのように本能からくる恐怖心で身動きが取れなくなっていた。
そんな彼女の姿を見ながらカガチは満足そうに肯くと、残酷な笑みを浮かべて一言だけこう告げた。
「今度はこちらの番ですわ、簡単に壊れないでくださいねぇ♪」
その姿はまるでラスボスのようだった。
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