■35
ちょっとこれまでいろいろあったので三行で要点をまとめてみようか。
・なのは様デバイス破壊される(クロノに)、そのうえアームロック(クロノに)。
・高町家へ訪問、いろいろぶっちゃける、リンディさんに嫌われる。
・恭也キレる、なのは様いつのまにか両親公認で僕のお世話をすることに。
うん、かなりカオスな展開だったけど、なんとか予定どおりとも言えなくも無い、のか?
一応、当初の計画通り高町家の人々に魔法の危険性を教え込むことはできたし。
なのは様対策としてお世話をしてもらうことにもなった。
いろいろ不安な点は数多くあれど、なんとか順調だ。
このまま何事も無く計画通りに事が進めば良いんだけれども……。
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あれから10日ほど経過した。
案の定、僕の予想外の問題が発生してしまった。
なのは様にではない、問題はクロノとユーノ君の間に起こった。
この二人、どういうめぐり合わせか10日ほど前からコンビを組んでジュエルシード探しをしている。
なんと既に5個もジュエルシードの確保に成功しているらしい、なかなか優秀だ。
残る6個のジュエルシード、これがなかなか見つからないわけだが。
原作どおりなら多分海の中にあるんだろう、そのうちクロノとかが気がつくと思うので僕は何もしない。
僕はよく知らないが、ユーノ君は単独で管理局への協力を申し込んだそうだ。
なのは様は原作とは異なり、魔法が使えないので参加していないにもかかわらず、だ。
そうなってくると自然とコンビを組む相手はクロノだけになってしまう。
僕は非常時用に艦内待機なので基本的には参加しない。
事務仕事をしながら、レイジングハートの修復作業に没頭していた。
修理中、大切な部品が幾つか欠損していたので一緒に拾われていたバルディッシュも利用した。
もしかしたら二つのAIが混ざったような性格になるかもしれないが、まあ許して欲しい、アースラの在庫だけでは部品が足りないのだ。
後やったことといえば、お世話をしてくれるなのは様を接待スキルをフル活用してとにかく褒めまくったくらい。
いまのところ彼女のご機嫌はすこぶる良い、このままいけば無理なく魔法少女をあきらめてくれるはずだろう。
ちなみに、僕の食事も彼女に作ってもらっている。
本当ならアースラの食堂で食事できるのだが、いろいろ理由をつけて派遣扱いなので食堂では食べにくいとかテキトーな嘘をついた。
なのは様は寛大な心で信じてくれたようだが、純真すぎないかこの娘?
……将来がちょっと心配だ。
それに、時々ぼうっと、赤い顔をしながら僕を見ていることがあるので風邪でも引いたのかもと心配することもある。
まあ、なのは様本人が問題ない、大丈夫と言っていたのでそれほど深刻ではないと思う。
で、問題のこの二人、最初の頃こそ表面上は和解してコンビを組んできたわけであるが。
一緒に行動する時間がたてばたつほど険悪な雰囲気になってきてしまったらしい。
任務中に口論することもあれば、休憩時間中にはまた乱闘騒ぎを起こしてしまう事もあったそうな。
なんとか仲を取り持とうとリンディさんが二人に話を聞こうとするも、互いに理由を語ろうとせず。
悪化した二人の関係は一向に修復の兆しを見せないらしい。
今のところ任務中にまで影響するようなことは無いらしいが、それでも危険なことには変わりない。
困り果てたリンディさんの様子を見ていたエイミィちゃん経由でそのことを相談された僕は兄貴分として何とかしてやろうと僕らしくないことを思い立ち、さっそくクロノから話を聞き出すことにした。
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で、クロノからなんとか聞き出した結果、実にくだらない理由であることが判明した。
そもそものきっかけはリンディさんたちとの顔合わせのとき、乱闘となりクロノがついなのは様にアームロックをしかけて涙目にさせてしまったことが原因らしい。
クロノ曰く、ちゃんと後日謝罪をし、なのは様からもきちんと許してもらったのに、そのことをユーノ君がいつまでもぐちぐち根に持つのはお門違いなんじゃないか、と言うことだ。
毎回毎回そのことで口論となり、結果的には喧嘩にまで発展したのはやりすぎだったかもしれないと一応反省していたので、あとはユーノ君を何とか説得すれば良いわけだ。
ユーノ君からそのことを追求してこなくなればきちんと協力しあうと約束させて、僕は今度はユーノ君の所へ向かうことにした。
彼のいる待機部屋まで行く途中、たまたま洗濯物を運んでいたなのは様と遭遇した。
どうしたのかと尋ねられ、僕は隠す理由もなかったのでこれから最近問題を起こしているユーノ君の説得にいくと説明した。
彼女は友達が問題を起こしていると言う事実に驚き、僕にユーノ君のことをお願いしますとあたまを下げた。
もちろん僕もユーノ君のことは気に入っているので(癒し的存在な意味で)二つ返事でそれを了解し、友達思いなんだねとなのは様を褒めて機嫌をとっておくのも忘れなかった。
さらになのは様とユーノ君のラブラブカップル化を望む僕としてはここで一つ気を利かせ、僕との話が終わったあとで良いからなのは様もユーノ君と二人でお話をしてあげてね、と言っておいた。
これをきっかけに二人の仲のさらなる発展を期待したのである。
まあ、所詮は小学3年生、あまり期待はしてないけど、将来的に何かしらのフラグが立ってくれれば御の字だ。
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「……というわけで、クロノも深く反省している、もう許してあげて欲しい」
「それは……わかっています、わかっているんですけど、彼の顔を見るとどうしても腹が立ってきて……」
ユーノ君の部屋に来て事情説明、その後クロノにしたような話をしながら説得。
話をしている間は始終俯いていたユーノ君だったが、僕の話には肯いてくれていたので脈はあると判断した。
慣れない誰かと話すのは苦手だが、今回は僕が骨を折るしかない。
リンディさんで駄目だったのだから、消去法で二人の関係者というと僕だけになってしまうのだ。
それにこれ以上妙なトラブルが起きても困る、原作介入のためにもこれ以上のごたごたはゴメンだった。
一通り話しを終えて、締めくくりになんとか和解を約束させようとしたがユーノ君は額に皺を寄せて渋った。
ギュウ、と拳を強く握って独白を続ける。
「クロノがなのはに謝罪したのも知ってますし、なのは本人もそれを受け入れたことも知っています、多分、僕がいつまでも拘り続けているだけというのも理解できているんです!」
「……………」
「別に僕はクロノにぶっ飛ばされたことを恨んでるわけじゃありません、そりゃあなのはを泣かせた事はいまでも腹立ちますけど、それはなのはとクロノの問題で僕が口出すべき問題じゃないのを知ってますし」
「……………」
「でも、僕が何より腹立っているのはクロノが本当の意味でなのはの悲しみを知らないことなんです! エンハンストさんも見たでしょう、レイジングハートを壊されてあんなに取り乱したなのはの姿を! なのはの涙を!!」
「……………」
「僕は絶対に許せない、謝って済む問題じゃない、あんな奴、あんな奴大っ嫌いだっ!!」
「……………」
腹の底に溜まった鬱憤を吐き出すように怒鳴りつづけるユーノ君。
ゴメン、唾とんでくるからちょっと抑えてね。
それにしても相当ムカついていたみたいだ。
でもそれも無理ないのかもしれない、好きな女の子が他所の男に泣かされたんだ、理屈では納得できても感情では納得できんよな。
女の子みたいな可愛い見た目をしててもしっかり男の子してるねユーノ君、見直した。
よし、この際だからその不満を全部出し切ってスッキリするといいよ、僕が聞き届けてあげよう。
「はぁ、はぁ……っ!」
「……言いたいことは、全部言えたか?」
「っ!!?」
キッ、とこちらを睨んでくるユーノ君、いやいや、お門違いだから、僕関係ないよね、なんで睨まれるの?
せっかく善意で言ってあげたのにこのままじゃ余計に話がこじれそうだ、なんとか恨みのベクトルをよそに逸らさないと。
……さて、なんと言って説得したものか。
まてよ、これはむしろチャンスなんじゃないのか、ユーノ君が怒っている根本的な理由はクロノがなのは様を悲しませたこと。
で、その怒りがクロノに向かって大喧嘩になったと。
じゃあ逆にそれらの感情ベクトルが全部なのは様への恋心に変わったら?
……見事ラブラブカップルの成立じゃん!
こ、これを利用しない手はない!
「……君が彼女をどれほど好いているかわかった、じゃあやることは一つなんじゃないか?」
「そ、それはっ!?」
「……クロノに怒りを抱くよりも、傷心の彼女を慰めること、それが君のすべきこと、ちがうかい?」
「で、でも僕は、なのはを好きになる資格なんか! 彼女を戦いに巻き込んでしまったのは僕だし―――」
「……人を好きになることに資格なんかいらない、勇気を出すんだ!」
「エ、エンハンストさん!!」
「……もうすぐ彼女がここに来るだろう、ここに来る前に君と話すようにお願いしておいた、頑張れ!」
「あ、ありがとうございますっ!!」
ユーノ君に向けてビッ、と親指を上げて気合を入れて頑張るようにアピールしておく。
彼は背を向けて部屋を出ていく僕に向けて大声で礼を言ってきた。
いいってことよボーイ、君たち癒し系カップルがくっ付いてくれれば僕も嬉しい。
いい気分で部屋を出る、アレ? なんだか床が不自然に濡れているが、雨漏り?
まさかね、いまは次元空間を移動中だし、雨漏りとかありえんし。
多分床掃除した後なんだろう、ほっとけば乾く、気にすることのほどでもないか。
それにしてもユーノ君が元気を出してくれたようでよかった。
このままなのは様といい感じになってくれればクロノとの不和も自然と解決していくだろうし。
うん、万事解決、珍しく良い事した後は気持ちがいいなぁっ!!
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―Side:高町なのは―
エンハンストさんたちとの出会いから十日が経ちました。
最初こそいろいろあったけど今はけっこう落ち着いた日々です。
ユーノ君と出会い、レイジングハートを受け取って、フェイトちゃんと戦って。
魔法使いになって、そしてレイジングハートが壊れて……。
すごく悲しくて、我を忘れて大泣きしちゃった。
その後にリンディさんといろいろお話して、クロノ君と喧嘩しちゃって、逆に返り討ちになって。
エンハンストさんがクロノ君を気絶させたときは気分がスッキリしたけど、これはナイショなの。
もう事件に関わっちゃいけないと告げられた帰り道、送ってくれたエンハンストさんがレイジングハートを治せるかもしれないと言ってくれた時は本当に嬉しかった。
その直後に忍さんにキスされて、お兄ちゃんと喧嘩になったときはどうしようかと思ったけど。
よくわからないうちに二人とも縛られてお家に連れていかれてたの。
縛られたエンハンストさんが家族にいろいろ魔法のこととか、次元世界のこととか本当は話しちゃいけないようなことを話して。
そのうえ、話した理由がなのはの事を心配してるからと告げられたときはなんだか胸がポカポカして、よくわからなかったけどすごく嬉しかったの!
その後またお兄ちゃんとエンハンストさんが喧嘩していたけど、なのははその間にお母さんを一生懸命説得してレイジングハートが治るまでエンハンストさんのお手伝いをすることを許してもらったの。
お母さんは始め反対していたけど、私の所為で壊れてしまった大切なRHを直すためと、エンハンストさんへの恩返しのためだと説明すると渋々ながらも納得してくれた。
話している途中でRHのことを思い出してちょっと泣いちゃったけど、それを気にしている余裕はなかった。
ただし条件としてお母さんと『危ないことは絶対にしない』ことと『学校をサボらず、毎日家に帰ってくる』ことを約束してしまったから、あまり長い時間はお手伝いできないけれど、その分一生懸命全力全開で頑張るの!
お父さんは最後まで反対していたけど、お母さんに耳元で何かヒソヒソ言われたらすぐに納得してくれた。
お母さん何ていったんだろう? 声が小さくて「今夜」、「サービス」の二つしか聞き取れなかったけど、きっと翠屋のことなのかな?
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そんなわけでエンハンストさんのお手伝いをするようになったわけだけど、始めはそれこそ何をしたら良いか全然わからなかったの。
エンハンストさんは「自分にできることを一生懸命してくれればいいよ」と優しいことを言ってくれたけど。
任された以上はしっかりやりたい、お世話になりっぱなしじゃ申し訳ないの。
困った私はお母さんに相談しました。
お母さんはお料理もできるし、掃除、洗濯、なんでもできるすごい人、なのはの尊敬するお母さんなの。
……美由希お姉ちゃんは、お料理以外では尊敬できるの。
あまり時間もなかったけど、お母さんは必要なことをしっかり教えてくれた。
これまでお母さんの家事をお手伝いしていたこともその手助けになった、美由希お姉ちゃんはサボってたけど。
基本的なお料理の仕方とか、掃除の手順なんかも教えてくれたし、とっても丁寧で優しかった。
初めて真剣に取り組んだこともあって、時間も忘れて熱中したの、気がついた頃には0時をすぎて翌日になっていた。
お母さんはニコニコしながらなのはのことを褒めてくれた、なんだかとっても嬉しかったの。
なぜかその様子を見ていたユーノ君がいきなり「ぼ、僕も頑張るよ!!」といってアースラでクロノ君たちのお手伝いをすることになっていたけど、どうしたんだろう?
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お手伝いが始まって、忙しくも充実した日々がやってきた。
基本的になのはのお手伝いをする時間は学校が終わってから、お家で夕飯になる時間帯までの5時間くらい。
お家に帰ってからはお母さんに家事を習って、しばらくしたらお休みなさい。
お手伝いする時間自体はそれほど長くないけど、とってもやりがいがあるお仕事なの。
それにエンハンストさんはとっても優しくて、なのはの拙い料理も「おいしい、おいしい」と言って全部残さず食べてくれるし。
お掃除をしていても「なのはちゃんはエプロンがすごくよく似合っていて、とっても可愛いよ」とか「これなら将来良いお嫁さんになれるね、相手になる男は世界一の幸せ者だ」とかいっぱい褒めてくれる。
ちょっと恥ずかしいけど、すごく嬉しい、こんなに人から褒められるのは生まれて初めてなの。
ちょうどこの時はアリサちゃんと喧嘩状態になっていて、すずかちゃんともギクシャクしちゃって気まずかったから余計にエンハンストさんと過ごす時間が楽しくて嬉しかった。
最近はジュエルシード探しで忙しいユーノ君ともお話してないし、ユーノ君はアースラで寝泊りしているからほとんど顔を会わせる機会がなかったし。
お母さんとの特訓もあって日を追うごとに家事スキルは上達していったと思う。
そしてエンハンストさんは毎回そのことをたくさん褒めてくれるし、なのはを必要としてくれた。
「なのはちゃんが来てくれて本当に助かっているよ、君が来てくれなかったら私はゴミに埋もれながら飢え死にしていたかもしれない」と頭をなでながら言ってくれた時は涙が出るほど嬉しかったの
なのはは小さい頃から一人でいることが多かったけど、家族が愛してくれているのは知っていた。
だからできるだけ皆に嫌われないように、良い子でいようと心がけてきたの。
それは、嫌われたくないから、一人になりたくないから、必要とされたいから。
家族は皆自分だけで十分やっていける人たちばかりだった。
友達も皆優秀でなのはの手助けなんか必要としていなかった。
ユーノ君は最初はなのはの事を必要としてくれたけど、今は自分一人で全部やっている。
でも、エンハンストさんだけは私を、高町なのはを必要としてくれた。
あの人はああ見えて結構ズボラなところがある、ゴミは投げっぱなしだし、物の整理も苦手なの。
お手伝いをしはじめて知ったエンハンストさんの駄目なところ、結構いっぱいあるの♪
そしてなのはがそれらを片付けているといつも笑顔で「ありがとう」と言ってくれる。
とても嬉しいの、その顔を見ると、その声を聞くと、ドキドキしてとっても胸が熱くなってくるの。
これが前に忍さんが言っていた『ヘブン状態』という気持ちなのかな、いっそずっとこのままでいたい。
……生まれて初めて自分のやりたいことを見つけた気がしたの。
エンハンストさんはなのはがいないと駄目駄目さんなの、だから―――
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それはたまたまだった、お洗濯した服を運んでいたら通路の反対側からエンハンストさんがやってきた。
ちょっと思い悩んだような顔をしていたので心配になり、これからどこへ行くのかと尋ねるとユーノ君に話があるらしい。
さらに詳しい事情を聞いてビックリした、なんとクロノ君とユーノ君が喧嘩をしたらしい。
あの大人しくて、優しいユーノ君が喧嘩、ちょっと信じられない内容だった。
たしかにクロノ君と初めて話したときになのはと一緒に喧嘩騒ぎになったことはあったけど、あれは後できちんと仲直りしたはず。
レイジングハートを壊されたのは悔しいけれど、原因はなのはにもあることだし、そのことに関しては今更なの。
そうなるとクロノ君と喧嘩する理由がわからない、きっとなにか重大な原因あるんだとは思うけど。
せっかくできたお友達と喧嘩するのは悲しいことなの、仲良くしたほうが絶対良いと思う。
だから、これからユーノ君とお話にいくというエンハンストさんにはどうにかしてユーノ君とクロノ君を仲直りさせてあげて欲しい。
ユーノ君のお友達の一人として、なのはからもお願いするの。
なのはが頭を下げてエンハンストさんにお願いすると、彼はとてもやさしい笑顔で了解してくれた。
「友達思いなんだね、なのはちゃんは優しいな」と頭を撫でてくれた。
エンハンストさんが髪の毛を梳かすように優しく撫でて、手のひらの体温が伝わってきて心地良い。
……ユーノ君のこと頼んで、得したの。
別れ際、エンハンストさんに自分の話が終わってからでいいからなのはもユーノ君とお話してあげて欲しいと頼まれた。
勿論おーけーなの、なのはもユーノ君のことは友達として心配だし、久しぶりにお話もしたい。
きっとエンハンストさんと話した後なら楽しくお話できるはず、この時はそう思っていたの……。
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洗濯物を運び終わって一通り家事が終わった後、すぐにユーノ君の部屋へと向かった。
できるだけ早くユーノ君と話したかったし、上手くすればエンハンストさんも一緒にお話できるかもしれないと考えたから。
部屋の前につくとまだエンハンストさんは中にいる様子だった。
通路に人が会話する声が途切れ途切れに聞こえてくる。
まだお話の最中らしく、邪魔しちゃ悪いかなとおもって少し待つことにしたの。
ここで、ちょっとだけ魔がさした、二人がどんなことを話しているのか気になってしまったの。
ちょっとした悪戯心、そっと扉に耳を当てて、中の会話を盗み聞きしてしまった。
ほんの小さな好奇心、でも後にこの行動を激しく深く後悔することになった。
途切れ途切れに聞こえてくる単語、多分ユーノ君の声。
ずいぶん大声みたい、ううん、これって……怒鳴ってるんだ。
そこで止めておけばよかった、ユーノ君が怒鳴るなんてただ事じゃない、このままじゃ、悪戯じゃ済まないと。
『……なのは……腹立つ……レイジングハートを壊されて……絶対に許せない……謝って済む問題じゃない……あんな奴、大っ嫌いだっ!!』
バッと壁から離れる、心臓がバクバクうるさいくらいに鳴りっぱなし。
よく見ると身体が震えていた、ちがう、それだけじゃない、呼吸もおかしい。
ゼヒ、ゼヒ、と上手く息ができない、苦しい。
勝手に涙が流れた、とまらない、歯がカチカチうるさい、駄目、このままじゃ。
離れなきゃ、ここから、早く、一刻も。
震える足を酷使して、なんとか女子トイレの個室に駆け込んだ。
涙が止まらない、息ができない、震えがとまらない、気持ち悪い。
「うっ……ぉぇ……!!?」
もどした、何もでない、でも何度ももどした。
「ぅぇ……ぁ……」
苦しい、なんでこんなに気持ち悪いの?
『あんな奴、大っ嫌いだっ!!』というユーノ君の言葉が脳裏に浮かんだ。
とたんに酷い嘔吐感が襲い掛かってきた。
そうだ、さっきのユーノ君の怒鳴り声、あれは……なのはに対しての怒りだった。
思い出す、十日ほど前の出来事を。
レイジングハートが壊れた時、なのはは自分が悲しいことでいっぱいでユーノ君のことをまるで考えてなかった。
もともとレイジングハートはユーノ君の大切な相棒だった、それをなのはに貸してくれていただけ。
そしてレイジングハートを壊した原因を作ったのはなのは、未熟な不注意でその原因を招いてしまった。
……ユーノ君の怒りは当たり前だったのだ、それに気がつかなかったなのはが馬鹿なだけ。
なんてことだろう、こんなにまで嫌われて初めてそのことに気がつくなんて。
これじゃあアリサちゃんやすずかちゃんに嫌われても仕方が無いのかもしれない、なのはがお馬鹿さんだったの。
いまさら謝っても遅いのかもしれない、もうユーノ君とはお友達には戻れないのかもしれない。
悲しいよ、こんなに悲しくて寂しい気持ちは初めてなの。
でも、全部なのはの自業自得。
……もう、なのはにはエンハンストさんしか、必要としてくれる人はいないのかも。
……ハ、ハハ、アハハ……それでも、いっか……。
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