■33
リンディさんとのお話はほぼ原作どうりだったので要点だけをまとめると。
・ユーノ君となのは様からこれまでの経緯を聞く。
・ユーノ君が責任を感じて自力でジュエルシードを回収しようとするも無理っぽかったのでなのは様と協力したと説明。
・リンディさんとクロノから立派だわ、でも無謀だ、と釘を刺される、ユーノ君落ち込む。
・ロストロギアの危険性についてよく知らないなのは様に昔話をまじえて、世界ぶっ壊れるくらい危ないんだよと説明。
・リンディさんがこれから事件については自分達が責任をもって対応するので、貴女達は普段どおりの生活に戻るようにと話す。
・フェイト嬢のこともあって食い下がるなのは様、クロノが民間人がでしゃばるな m9(^Д^) みたいな事を言う。
・デバイスを破壊されたこともあってクロノの態度にマジギレするなのは様、乱闘が始まる。
・ついアームロックを仕掛けてしまうクロノ、なのは様涙目、それを見て今度はユーノ君がキレた。
・しかしクロノは落ち着いてジェノサイドカッターで迎撃、「君達落ち着くんだ!」とか言いながら、まずお前が落ち着け。
・状況がカオスってきたので僕がクロノに「そいやぁ!はい!竜巻落とし!」と脅威の吸い込み必殺技をくらわせ気絶させる。
・一段落したのを見計らってリンディさんが無理やり話しをまとめ、とりあえず気持ちの整理をするためにも今夜一晩じっくり二人で話し合って、それから改めてお話をしましょうということになる。
・肉体的にも精神的にも落ち込む二人、気絶したクロノにかわり僕が二人を元の場所に送っていくことに(いまここ)。
……あれ? すでに原作どおりじゃなくね? 原作じゃ乱闘とかなかったよね?
■
転送ポートへ二人を案内し、海鳴の臨海公園へと送り届ける。
周囲は既に夕暮れが迫っており、黄金色ともオレンジ色ともとれる空と海のコントラストがなんとも良い感じになっている。
草花に加えて、こういった自然の光景も愛する僕にはたまらない光景だ。
心が癒される景色に自然と笑みが浮かぶ、実際ここはいい所だと思う。
都会というほど自然がないわけじゃなく、田舎というほど何も無いわけじゃない。
程よいバランスで人と自然が共存しているような印象を受ける。
ベルカもいいけど、ここみたいなところでも暮らしてみたかったなぁ……。
ふと気がつけば、なのは様とユーノ君が不安げな表情でこちらを見ていた。
景色に見とれていて先ほどから二人が黙ってこっちを見ていることにも気がつかなかったよ。
まあ、不安そうなのも無理もないのかもしれない、いっぺんにいろいろありすぎたみたいだし。
デバイス壊されたり、クロノと乱闘してボコボコにされたり。
……って、全部クロノじゃん orz
多分管理局に対するイメージとかが最悪になっちゃってるんだろうなぁ。
将来のことを考えたらなのは様を魔法少女にしないようにするにはそっちの方がいいんだろうけど。
どうにも申し訳ない気持ちもある、クロノとも仲良くして欲しいし、ちょっとだけフォローもしておこうか。
「あの……」
「……先ほどのことなんだが」
「は、はいっ!?」
「クロノが乱暴なことをしてしまいすまなかった、私からも謝罪する」
「い、いえ、その、気にしてませんからっ! エンハンストさんは悪くないですし、頭を上げてください!」
「そ、そうですよ、こっちこそ頭に血が上っちゃって、暴れたりしてすみませんでした!」
「……そうか、ありがとう」
あっさりと許してくれた、どうやら二人とも予想以上に精神年齢は高いみたいだ。
原作でも子供らしくないところがあったが、普通の子供だったら喧嘩したら暫くは感情的になってしまうというのに。
こうして自分の非を認めて僕の謝罪を受けてくれるなんて、ずいぶん大人な性格をしてるんだなぁ。
僕は関心しながらもいまだ二人が不安そうな表情をしているのに気がついた。
多分、クロノとの乱闘以上に気になっていることがあるんだろう。
それは―――
「……それと壊れたデバイスのことなんだが」
「っ!!?」
「……心配しなくていい、今後の状況に関わらず修理することは約束する」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、ただしそのためには幾つか条件があるのだが」
「なんでもしますっ! だから、お願いですから、レイジングハートのことを直してあげてください!!」
「な、なのは……」
「……………」
すごい必死だ、まさかここまで必死になってくるとは予想外だった。
隣にいたユーノ君ですらちょっと引くくらいの勢いで僕に縋り付いてきたのだから無理もない。
彼女にとってはそれほどレイジングハートを大切にしていたということだろうか。
それならばすごく良い関係だと思う。
コレだけの短期間でデバイスとの信頼関係を築けるというのはかなり難しい。
……正直、羨ましいかぎりだ。
特に僕はこういった才能が皆無っぽいので羨望の思いすら湧く。
経歴だけで言えば僕のこれまでのデバイスとの関係はあまりに酷いものだからだ。
まず初代のRed comet、こいつは最悪。
なにせ僕を裏切って反逆したばかりか、次元航行艦をハッキングしてテロリスト化してしまった奴だからだ。
ミッド中にガジェットを放ち暴れまわらせた挙句僕の花壇を破壊し。
あげく元主人である僕に対してアルカンシェルを撃って、僕の死亡フラグ確立のきっかけを作った奴でもある。
最後は僕自身の手で消滅させてやったが、思い出すと今でもムカムカしてくる。
で、二代目のADA、可も無く不可も無く。
本当にインテリジェントデバイスなのかと疑うほど機械的な性格をしているが、その点でいえば僕は気に入っている。
無駄な会話や余計な気遣いが必要ないからだ。
コミュニケーションが苦手な僕には嬉しい性格と言っていい。
ただしその分ADAには人間特有の情動みたいなものがほとんど無く、事実のみをズバズバ言うから時々容赦なく僕の心を抉ってくる。
例えば死亡フラグが決まった時なんかも絶対に助からないという事実のみを言ってきて慰めの一言もない。
……落ち込んだよ、この上なく。
それ以来ADAとは最低限の会話しかしてないし、する必要も無いと思うようになった。
こういった経緯で、デバイスとこれほどまでに思い合える良い関係を築けるなのは様を尊敬するのも無理なかった。
■
頭を下げるなのは様の姿をみていたユーノ君の目つきが突然凛々しくなる。
決意に満ちた目で僕に向き直ると、なのは様の隣に並んでビシッと頭を下げた。
「あのエンハンストさm……さん、僕からもお願いします、レイジングハートを直してあげてください、僕もなんでもしますから!」
「ユーノ君……」
「なのは……」
「「どうか、お願いします!!」」
微笑む二人が見詰め合って仲良く一緒に頭を下げる。
仲良いよね君達、さすが原作カップル(?)、すでにこの時点でフラグは立っていると言うことかな。
まあ、それはいいとして小学生にそろって頭を下げられる二十歳前後の男という図は非常に気まずい。
幸い周囲に人目は無いけどぜったいリンディさんとか見てるよね、こっちのこと。
……は、はやく何とかしないとエライ事になりそうだ!
「……大丈夫、任せて欲しい、条件だってそれほど厳しいものじゃない」
「「そ、そうなんですか……」」
「よかったね、なのは!」
「うん、ありがとうユーノ君!」
互いに手を取り合って喜ぶ二人、その無邪気な姿に心が癒される。
ああ、眩しいなぁ、この二人には早くくっついてラブラブになって欲しいものだ。
……見てるとなんだか癒されるし。
この二人のためにもなのは様には是非魔法少女にならないようにせねば。
「……もう暗くなるし、危ないから家まで送ろう、詳しい話は君達を家に送りながらする」
「あ、はい、わかりました!」
■
高町家への帰り道、デバイスを直す条件を二人に説明しながら歩き続けた。
条件といっても、それほど特別なことをしてもらうわけじゃない。
デバイスを修理するためにはけっこうな時間が必要で、僕にはちゃんとした仕事もありそれ以外の時間も少ない(嘘、すごい暇)。
だいたい食事をしたり、身の回りの事をこなして終わってしまう(嘘、ほとんどカガチにまかせている)。
修理する時間を取るためにも少ない自分の時間を削る必要があるが、そのために仕事の時間を削るわけにもいかない。
自然と自分のことをする時間を削ることとなり、自分の身の回りの事が疎かになってしまう。
だからデバイスの修理が終わるまでなのは様にはそういう雑事を代わって欲しいという事を説明した。
……いや、なのは様に家事させようとか恐れ多いにもほどがあるんですが、ちゃんと理由があるんですよ。
原作知識を見る限りこの時期のなのは様はまだそれほど魔法にのめりこんでいるわけじゃなくて、あくまでフェイト嬢とかはやて嬢とかを助けるために魔法少女をしていた側面が強いように感じていた。
Stsではどうか知らないが、無印やAsではそんな感じだったはずだ。
どこかで魔法に生きがいを見出したと思うんだが、原作ではそこいら辺の心理描写がすくなかったのでよくわからない。
だが少なくとも今の時期で「私は絶対に魔法使いになるの!」とか考えているわけじゃないと思う。
だからつけこむのは今しかない、将来のビジョンが決まりきっていない今の時期に別の将来への道を提示するのだ。
具体的には翠屋二代目という将来を、いや、最終的に別の選択肢になることもありえるが。
あくまで決めるのはなのは様なので、僕がするのはこういう道もあるんだよと示すとこまで。
だが魔法少女にだけはしない、これだけは譲れない僕の自己満足のためにも。
というわけで、具体的にどうするのかというと、なのは様にレイジングハート修理の交換条件として家事等をやってもらい、その際に料理とか魔法に関係ない事柄について賞賛しまくるのだ。
なんだそれだけかと落胆するのは早い、僕には特殊なスキルがあるのを忘れてもらっては困る。
それは『接待スキル』! ホストクラブも真っ青な口先の魔術、リップサービスとか女性のもてなし方とかそんなん。
言い方は悪いが「豚もおだてりゃ木に登る」という諺もあるくらいだ、その効果の強力さが窺い知れる。
人間にとって「誉められる」という行為はこの上ない快楽であり、そのモチベーションを限りなく高める効果がある。
そしてまた誉められようとさらなる研鑚を自主的に積むこととなるのだ、よく子供の教育においては「短く叱って、長く誉めて育てる」という理念があるがこれもその効果を利用している。
容姿を誉められれば、見た目に気を使い、ファッションも気にするようになる。
勉強を誉められれば、より良い成績を出そうと自主勉するようになる。
スポーツを誉められれば、より活躍しようと練習に精を出すようになる。
世の中で子供の教育がヘタクソと言われる人は説教ばかり長く、人を誉めるのが苦手な性格の人が多い。
こういった事実から証明されているほど「誉める」という行動は有効的なのだ。
そして僕の原作介入計画ではこうなる。
・なのは様、料理について誉められまくって上機嫌。
・もっと頑張ろう、お母さんに教えてもらおうかな。
・お母さんと一緒に料理を勉強、多分優しく教えてくれると思う。
・お料理って楽しいね! 私将来お母さんの跡を継ぐの!
と、こうなればいいなぁ的な希望的観測だが、少なくとも魔法少女を目指さなくなってくれればいい。
そのためには他にもいろいろ暗躍しなければならないことも多いが。
フェイト嬢とかはやて嬢についてもなんとかすれば、そうそう悪い方向にはいかないはずだと思う。
急遽考えついた穴だらけの計画だが、今のところ僕にはこれ以上の上策がなかった。
まあ、説明し終わった後でなのは様がすごい勢いで肯いてくれたのでいまさら引き返せないわけだが。
とりあえず、本人の説得は終わったので、次はその関係者かな。
僕はこれからたどり着くであろうなのは様の実家を思い浮かべ、ちょっと緊張に身体を強張らせる。
高町家、そこは戦闘民族の巣窟―――。
■
いよいよ高町家に到着する直前、その出来事は突然におこった。
「恭也~♪」
「…………?」
女性の大声、振り返れば長い髪をした女の人がこっちへ駆け寄って来ていた。
夕日が沈み、暗くてよく見えないが外見では僕と同じくらい、多分20歳前後だと思う。
顔いっぱいに満面の笑みを浮かべて何故か僕の方へと走ってくる、そして―――
「恋人ほったらかしてどこいってたのよ、もうっ、チュ~♪」
「……っ!!??」
いきなり僕に抱きついてきて熱烈キスをしてきたのだ、こう、効果音的にはズッギュゥゥゥンッ!!みたいな感じで。
これにはさすがの僕もビックリしすぎてなにも反応できなかった。
……は、初めてだったのに!
(※エンハンスト本人は知らないがカガチに既に奪われまくっている)
いや、ちょっぴり嬉しかったけどさ。
僕と同じように吃驚して固まっていたなのは様とユーノ君が目を見開いてこっちを見ている。
み、みないでー、超恥ずかしいからみないでー。
「し、忍さん!?」
「え!? あ、な、なのはちゃんいたのね……恭也の影になっててわからなかったわ、ってそこの見知らぬ子も一緒だったの?」
「いえ、あの、その人、お兄ちゃんじゃ」
「あ、恭也髪染めたの!? 私と同じ色じゃない? うわぁ、嬉しいな、これって愛じゃない!? なんだか盛り上がってきちゃった!!」
「……………」
「あの、忍さん、お願いだからなのはの話を」
「ごめんねなのはちゃん、これから恭也との愛を確かめ合うためにちょっと出かけるから、大丈夫よ、明日の朝には帰ってくるとおもうから!!」
「……………」
「いえ、ですから、その人は」
なんだこのテンション高い女性は?
いきなり抱きついてキスしてきたかと思ったら今度は有無を言わさず僕をどこかへ連れて行こうとしている。
どこかで見たことがあるような気がしないでもないけど、こんな人原作にいたっけ?
紫色の髪、ロングヘアー、色白な肌、まごうことなき美人だと思うけど……。
それとなのは様の知り合い、そういえばさっき「忍さん」とか呼ばれてたっけ。
……あ、そういえばいたね、そんな人。
確か高町恭也の恋人で、なのは様の友達のすずかの姉。
「……月村、忍?」
「もう、愛を込めていつもどおり忍って呼んでよ、内縁の妻にたいしてその言い方は酷いぞ?」
でも、こんなテンション高い人だったけ?
原作(アニメ版)見てたけどここまではっちゃけた性格じゃなかったような……。
もっとこうおしとやかで、清楚で、王道派ヒロイン然とした感じの。
って、まさか……原作(エロゲ版)の方の性格なのか!?
メカ好きで、マッドで、発情期持ちで、いろいろはっちゃけている方の月村忍か!?
こんなところで原作との相違点なんか知りたく無かったよ、ってさっきから抱きつかれっぱなしだけどなんとか放してもらわないと恥ずかしくてたまらん。
それにできるだけ穏便に誤解を解いておかねば後々どんな不幸が訪れるかわかったものじゃない。
なにせ月村忍はあの高町恭也の彼女、下手したら殺されかねない!
「……あの、実は」
「すまん忍、待たせ……なっ!? 忍っ!!? それに俺だと!!?」
「え? 恭也が二人? え? 夢?」
「……………」
いきなり高町家から飛び出してきた長男、高町恭也その人だった。
なんというタイミングの悪さ、なにせ僕はいまだに忍さんに抱きつかれっぱなし。
言い訳無用の状況である、王大人「死亡フラグ確認!」
「貴様っ、何者だ、忍から離れろっ!!」
「……………」
ちょ、このお方いきなり抜刀しやがった、どこに隠し持っていたのか素で日本刀持ってるとか犯罪者すぎる。
ってか、さっきから超展開すぎてついていけない、この状況でどんな言い訳ができるだろうか、僕にはわからない。
いまだ抱きついたまま放してくれない忍さんにも責任はあるはずなんだけど、そんなことこの修羅場じゃいまさらだし。
ゆえに無言、だがそれが相手をよけいに逆上させてしまうのもまた事実。
その結果は明白なわけで。
「……返答はなし、か……ならば力ずくで排除するのみ!!」
「……………っ!!?」
襲い掛かってくる高町恭也、その手には二本の小太刀。
御神流の達人が本気で襲い掛かってくる、その恐怖に身が竦む。
まさかこんなマヌケな状況で死亡フラグが立つなんて、不幸すぎるぞ!?
「ふ、二人の恭也が私を巡って争うなんて、あぁ、なんて素敵すぎる夢なの!!」
……そして黙ろうな月村忍、温厚な僕でも限界ってものがあるんですよ?
って、考えている場合じゃない、なんとか凌いで生き残らないと!
いそいで迎撃体制をとる、相手は刀を持っている、そして僕は無手、デバイスを発動している暇は無い。
ならば防御魔法で防ぐ!
前方に手をかざし淡い水色の魔方陣が出現、恭也の斬撃を防ぎきる。
だがなぜか魔方陣を出していた腕に痺れるような衝撃が走る。
攻撃は完璧に防いだはずなのに、ダメージが浸透してくる、これが御神流なのか!?
「なっ!? コレは一体、貴様HGSか!?」
驚いたのは向こうも同様だったようで一端お互いに距離を取る、相手の出方を伺いつつデバイス起動。
身の丈ほどもある棒状のデバイスが顕現し僕の手に握られる。
その様子を見ても恭也に動揺はない、この程度では驚かないということか。
彼にとっては魔法という未知は、僕にとってあまりアドバンテージにならないのかもしれない。
恭也が構える、気配が違う、今度は本気だ、間違いなく必殺技でくる。
僕のチートな身体がその気配に反応して勝手に臨戦体制をとる、こういった状況ではありがたい反応だ。
ジリジリと互いの距離を詰めつついつでも動き出せるように瞬きすらせず相手を凝視する。
冷や汗が流れ、筋肉が軋む、ちょっとでもきっかけがあれば決壊しそうな距離感、既に互いの必殺圏内にはいっている。
そして、その緊迫した空気はすぐに終わることになった。
他ならぬ高町なのはの一声によって。
「ちょ、二人とも落ちつ」
きっかけはそれだけ、だが極限まで張り詰めていた互いの緊張感を刺激するには十分な一言だった。
ほぼ同時に地面を蹴って飛び出す、そして。
「奥義の六・薙旋っ!!!」
「無双三段っ!!!」
大人気なく本気ぶつかり合う二人、こうして高町家前が人外の戦場になりました。
■