■31
それは不思議な出会いでした。
私、高町なのは、私立聖祥大学付属小学校に通う、平凡(?)な小学3年生です。
私の家族が住む高町家に置いては三人兄妹の末っ子さん。
家族構成はお父さん、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、そして私。
お父さんとお母さんは喫茶翠屋を経営するマスターとお菓子職人さん。
お兄ちゃんは大学一年生、実はお父さん直伝の剣術家でお姉ちゃんのお師匠さん。
で、お姉ちゃんは高校二年生、お兄ちゃんと同じく剣術家さん。
高町家の両親はいまだ新婚気分バリバリのアツアツ夫婦です。
そして、お兄ちゃんとお姉ちゃんもとっても仲良しで……。
愛されている自覚はとってもありますが、この一家の中では、なのははもしかしたら微妙に浮いている存在なのかもしれません。
友達のアリサ・バニングスちゃんと、月村すずかちゃんとは一年生の頃から同じクラス、今年からは同じ塾にも通っています。
二人ともとっても可愛くて頭も良いし、優しい自慢のお友達です。
しかも二人は将来のビジョンをしっかりと持っていて。
アリサちゃんはいっぱい勉強して、ご両親の会社を継ぐと決めているし。
すずかちゃんは機械系が好きだから、工学系で専門職を目指している。
それに比べて私は自分が本当にやりたいことが良くわからない、ちょっと情けないです。
お母さんたちのお店を継いで、喫茶翠屋の二代目、そういう未来も確かにあるんだけど……。
他になにか、やりたいことが何かあるような気もするんだけど、まだそれが何なのかはっきりしない。
……私は特技も取り得も特にないし、文系苦手だし、運動神経もよくないし。
なんだかそう考えると落ち込んできたの。
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朝、通学バスに乗ってアリサちゃん、すずかちゃんと学校に向かい。
授業を受けて。
友達と一緒にお昼ご飯を食べて。
他愛もないおしゃべりをしたりして。
お家に帰ったらお母さんのお手伝いをして。
家族の皆と一緒にご飯を食べて。
そして今日一日のことをゆっくり思い出しながら眠りにつく。
それは楽しい日常だけど、なんだかちょっと寂しい気もしていた。
そして出会った魔法の力。
平凡な小学3年生だった私、高町なのはに訪れた突然の事態。
言葉を話す不思議なフェレット、ユーノ君との出会い。
襲い掛かってくる見たこともない怪物。
渡されたのは赤い宝石レイジングハート、手にしたのは魔法の力。
それは魔法と日常が平行する日々のスタートでした。
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私たちの世界に散らばった危険な宝石、ジュエルシード。
それを一人で集めようとするユーノ君、でもそれはとっても危ないことで。
私はユーノ君を手伝ってあげようと思ったの。
だって一人ぼっちは寂しいことだし。
もう知り合っちゃったし、話も聞いちゃったもの、ほっとけないよ。
「困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷っちゃいけない」ってお父さんが教えてくれた。
ユーノ君は困っていて、私は魔法の力で彼を助けられる。
ならば私は自分なりに頑張ろうと思ったの。
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それから数日が過ぎて、幾つかのジュエルシードを封印しました。
私は昼間は小学生、夕方や夜は魔法少女として活動し、ようやくそれもさまになってきたかなと思えるようになった頃。
ちょっと疲れてきた私はユーノ君の提案でジュエルシード集めを一時お休みすることになりました。
私はこの時、初めて失敗をしてしまいました。
気づいていたんです、男の子がジュエルシードを持っていたことに。
でも疲れていた私はそれを気のせいだと思ってしまいました。
その結果、町はボロボロになり、酷い惨状を生み出してしまいました。
発生源となった男の子は怪我をし、町には消せない傷跡がのこってしまったの。
私は気づいていたのに、こんなことになる前に止められたかもしれないのに……。
初めての失敗、それから私は自分の意志でジュエルシード集めを決意しました。
……もう、絶対にこんな悲劇を起こさないためにも!
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すずかちゃんのお家でジュエルシードが発動した時、出会った悲しそうな目をした女の子、フェイトちゃん。
私以外の魔法使いとの初めての戦い、ほとんど手も出せずに一方的な敗北。
大きな怪我はなかったけど。
ユーノ君の話ではあの子もジュエルシードを集めているらしいの。
ジュエルシード集めをしていると、多分またぶつかり合うことになるのかな。
不思議なほどに怖くはなくて、だけどなんだか悲しいような、そんな複雑な気持ちになりました。
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そうしてフェイトちゃんとの二度目のぶつかり合い。
場所は家族友人と一緒に出かけた温泉旅行での出来事。
なんとかお話を聞いてもらおうと頑張ったけど、結局は負けちゃった。
レイジングハートの機転で怪我はなかったけど。
せっかく集めたジュエルシードは取られちゃった。
ユーノ君は気にしないでと言ってくれたけど、ちょっとだけ自己嫌悪なの。
それから数日、私はここ最近の出来事でよく思い悩むようになった。
どうすればいいのか、単純な力不足ゆえに解決策も出せず、ひたすらぼうっとする時間だけが増えた。
しかも、そんな私の態度で気を悪くさせてしまったアリサちゃんと喧嘩になってしまったの。
……気分は最悪、今にも泣いてしまいそうな酷く嫌な心境だった。
そんあ状況でおこったフェイトちゃんとの三度目のぶつかり合い。
ジュエルシードを封印しながら昔の出来事を思い出した。
いじめっこのアリサちゃん、よく泣かされていたすずかちゃん。
はじめはアリサちゃんともすずかちゃんとも友達じゃなかった。
……話をできなかったから、わかり合えなかったから、思っていることを言えなかったから。
でも、ぶつかり合って、互いの本当を言い合って、わかり合って。
今では一番大切な友達になっているの!!
知りたかった、どうしてフェイトちゃんがそんなに寂しい目をしているのか。
私は彼女に何ができるのか、それが知りたかったから!
話し合うだけじゃ、言葉だけじゃ何も変わらないってフェイトちゃんは言ってたけど。
だけど、話さないと、言葉にしないと伝わらないこともきっとある。
ぶつかり合って、競い合うことになるのは、仕方のないことかもしれないけれど。
だけど、何もわからないままぶつかり合うのは、私は嫌なの!
そうして必死になって話そうとしたけど、結局はアルフさんに「甘ったれのガキンチョ」と言われてお話はできなかった。
もうちょっとでフェイトちゃんが何かを話してくれそうだったのに。
……アルフさん、空気読んでほしいの。
あとでアルフさんともじっくりOHANASHIするの……。
結局最後は私とフェイトちゃんのデバイスがぶつかり合って、間にはさまれたジュエルシードが暴走してしまい。
フェイトちゃんが傷つきながらもそれを封印して去っていった。
ぶつかり合いで破損してしまったレイジングハート、私を守ってボロボロになちゃったの。
……ごめんね、レイジングハート。
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翌日、珍しく早く起きた私はお姉ちゃんの毎朝の剣術練習を見ながら考えた。
フェイトちゃんのこと、すごく強くて、冷たい感じもするのに。
だけど、綺麗で優しい目をしてて、なのに、なんだかすごく悲しそうなの。
きっと理由があると思うんだ。
だから私あの子と話がしたい、そのためにも―――
その日、ジュエルシードの反応があった現場に駆けつけると再びフェイトちゃんと再開した。
でも今はまず暴走体を封印するのを優先すべき。
それに今回のは手強い、バリアーを張って私の攻撃を無力化してしまう。
集中しないと危ない相手だと思った。
フェイトちゃんも同じように考えたらしく、私にかまうことなく暴走体に攻撃を仕掛けていた。
私とフェイトちゃんの同時攻撃でなんとか撃退するも、残されたジュエルシードを間に私とフェイトちゃんが相対した。
四度目のぶつかり合い、多分避けられない戦いなんだと思う。
私はフェイトちゃんとお話がしたいだけなんだけど……。
でも私が勝ったら、ただの甘えた子供じゃないってわかってもらえたなら、お話を聞いてくれると思う。
―――だからっ! 今は戦うのっ!!
そして私とフェイトちゃんがデバイスを振り上げてぶつかり合う直前、乱入者は突然現れた。
私たちよりも少し年上っぽい男の子。
見たことのないようなデザインの服を着て、右手にはデバイスを握っている。
彼は開口一番に私たちに戦闘停止を呼びかけていたが。
勢い良く飛び出していた私とフェイトちゃんはいまさら振り上げたデバイスを止めることなんてできなかったの。
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「ストップだ! ここでの戦闘は危険すg うわっこのっやめろっ『竜巻旋風脚』!!」
私は攻撃を止めきれず、男の子に向かって思いっきり振り下ろしてしまった。
幸いあたりはしなかったけど、男の子の顔スレスレを通り過ぎていったレイジングハート。
私が一安心する間もなく、次の瞬間にはレイジングハートが砕け散った。
早すぎてよく見えなかったけど、やったのは多分目の前の男の子が放った蹴りなんだと思う。
「……え?」
私の手元に残ったのはレイジングハートの柄のみ、先端部分は粉々になって海に落ちていった。
「……え? え?」
ボチャボチャと砕けた赤い宝石が海に沈んでいく。
私は今の一瞬で何が起きたのか良く理解できなかった。
ただ、大切な存在が壊れてしまったことだけは理解できて。
「レイジングハートッ!!?」
その名を呼ぶことしかできなかった。
その直後、急速に意識が遠のいて、私も海に落ちていった。
最後に霞んでいく視界に映ったのは。
落ちていく私に手を伸ばす銀白の服を着た見知らぬ誰かでした。
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