■30
航行は順調に進んだ、あくまでも僕視点であるが。
ちょっと前に小規模な次元震が観測された、多分なのは様とフェイト嬢の戦いがあったのだろう。
いまだ誰も注目していないが、別の次元でロストロギア護送中になぞの襲撃に合った事件も起きている。
事件そのものについては別の艦が担当しているらしく、このアースラでは誰も気にしていない。
現時点で小規模次元震との関わりがあるなど、未来でも知らない限り予想できるはずがないのだから。
これまでの一連の流れはいまのところ原作通りと言える。
まず対策会議が開かれリンディ艦長はさっそく現地へ向かう指示をだした。
特に反論はなかった、それが管理局員としては当然の対応だったから。
方針としては、次元震の原因となった事象の調査と解決、また危険物があれば回収し本局へ護送する、犯罪者が関わっていれば武装局員とクロノ執務官で逮捕する。
僕はあくまで非常事態に備えて艦橋待機となった、とはいえほとんど観客状態なので気楽なものである。
その後、僕は特にすることもなかったので会議が終了したあともしばらく艦橋にいて観測されたデータを見ていた。
モニターに記されるデータには二人の『捜索者』の存在が映し出されている。
原作キャラ、それも主人公様である
早く会いたいような、ずっと会いたくないような、ちょっと複雑な心境。
僕が妙な黄昏かたをしていると、リンディさんが艦橋に入ってきた。
僕を一瞥し、室内にいる他のスタッフを一通り見回した後に気軽そうに話し掛けてきた。
モニター近くでパネル操作をしている茶髪メガネ(名前は知らない)が報告も兼ねて答えた。
「どう、今回の旅は順調かしら?」
「ハイ、現在第三船速にて航行中です、前回の小規模次元震以来、特に目立った動きはありません、ですが二人の捜索者が再度衝突する可能性は非常に高いですね」
「……そう」
リンディさんが少し疲れたように椅子に腰掛ける、艦長用だけあって豪華だ、ちなみに僕の椅子はない。
いわゆる『お客様』である僕にはそういった専用席はないのだ、ちなみにお情けでパイプ椅子は用意してもらっている。
……二・三時間も座っていると尻が痛くなってくるが。
一応、僕は時空管理局でもお偉いさんだし、ベルカでは神様扱いなんだけどな。
どういうことなの……いじめ?
「小規模とはいえ、次元震の発生はちょっと厄介だものねぇ」
チラチラと僕を見てくる。
「危なくなったら、急いで現場に行ってもらわないと……ね?」
やっぱりチラチラと僕を見てくる。
……なんですかその意味ありげな視線は?
まさか僕に現場へ行けといっているのですか?
そりゃあクロノの仕事でしょうが、息子の仕事を僕に押し付けないでくださいよ!
別に何が何でも行きたくないわけじゃないけど、弟子の仕事を横取りするのは正直気が引ける。
僕ができるだけリンディさんと目を合わせないようにしていると、いきなり艦橋に駆け込んでくる人影。
戦闘中でもないのに四六時中バリアジャケットをまとっている我が弟子クロノだった。
いや、僕も人前で顔晒すの苦手だからほぼいつもシルバースキン着てるけどさ。
「だ、大丈夫! わかってますよ艦長、僕はそのためにいるんですからっ!」
走ってきたのだろう荒い息、ゼイゼイ息を切らしながら必死な様子で早口に台詞を言い終える。
顔は耳まで紅潮し、何故かバリアジャケットの一部がはだけていた、具体的には首から胸元にかけて。
しかも微妙に見える首もとには赤い痕(キスマーク)らしきものまで見える。
……そういえば、会議終わった後にエイミィにどこかに連れていかれてたみたいだけど、一体何があったんだクロノ?
く、詳しく聞かせてくれっ!!
「……チッ……もう少しだったのに…………そうね、クロノ、頼りにしているわ」
今リンディさん舌打ちしたよね? 絶対したよね?
しかも「もう少しだったのに……」とか呟いてるし、まさかエイミィと共謀してんのかこの人。
そういえば最近エイミィとリンディさんが休憩時間に二人でブライダル雑誌見ながらコソコソ相談してるのをよく見かけたけど。
その時に無駄に発達した聴力で「既成事実」とか「責任」とか「安全日」とか聞こえてきたけど、その時は何のことやらわからなかったが。
今となってはなんとなく予想できる、あれは……獲物を狙う肉食獣の目だった!
哀れクロノ、実の母親にまで罠に嵌められているとは。
ここはクロノの師匠として……係わり合いになりたくないから傍観者に徹するしかっ!
触らぬ神にたたりなし。
見ているぶんにはすごくオモロイしね(外道)。
■
さてさて、暫くしてようやっと目標地点に到着しました。
現在艦橋の大画面モニターに映っているのは戦う『魔法少女』のお二人、うむっ、パンツ見えまくり。
なのは様はピンクぱんつ、フェイト嬢は……その、なんというか丸見えの黒レオタード。
これは酷い、初対面の感動台無し。
空中をあの服装で飛びまくっているもんだから、チラリズムってレベルじゃねーぞ!
まあ、たかだか小学3年生に興奮するほど人間止めていないからそれほど気にならないけど。
あとで指摘してあげよう、あのまま成長していったらStsの時期には無意味にお色気を振りまくことになりかねん。
……それはそれで見てみたかったような気がするけど。
とかなんとか僕が場違いな思考に耽っている間に、茶髪メガネ(名前は知らない)が的確な報告を告げていく。
「現地ではすでに二者による戦闘が開始されている模様です、中心となっているロストロギアのクラスはA+、動作不安定ですが、無差別攻撃の特性を見せています」
「……次元干渉型の禁忌物品、回収を急がないといけないわね、クロノ・ハラオウン執務官出られる?」
「転移座標の特定はできています、命令があればいつでも!」
「それじゃあクロノ、これより現地での戦闘行動の停止とロストロギアの回収、両名からの事情聴取を」
「了解です!」
「エンハンスト・フィアット執務官には非常時の対応をお願いします、よろしいですか?」
「……了解した」
まあ、そのための存在が僕だしね、非常事態なんてめったに起きないけど。
クロノが原作よりも強化されているおかげか、僕の知る限り失態らしい失態をしたこともないし。
力が有り余っているせいか、ときどきやりすぎることもあるけど、まあ大丈夫でしょう。
気楽なものさー。
「気をつけてね~」
リンディさんが気の抜ける声でクロノを送り出す、なぜハンカチを振るのか、僕には理解できそうにない。
さっきまでシリアス風味な感じだったのに、張り詰めた空気が台無しだよ!
気を取り直したクロノが張り切った様子で転送ポートへと進んでいく。
せっかくだから僕も何か声をかけておくか。
「……クロノ、しっかりな」
「ハイッ、行ってきます!」
転送が始まりクロノの姿が消えていった。
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改めて巨大モニターに向き直る、なんか気持ち悪い木の化け物となのは様とフェイト嬢が戦っている。
はじめは個別に戦っていたが、そのうち協力し合うようになり化け物を圧倒し始める。
「見事なものねぇ、あの若さで武装局員以上に戦っているわ、それにあの魔力、恐るべき才能ね! 素晴らしいわ!」
「……………」
リンディさんが驚いたような声で嬉しそうに言う。
多分、チャンスがあればあの二人を管理局に誘う気満々なんだろうな。
でも、それは僕の目指す将来像とは反する道だ。
何も戦うだけが人生じゃないと思う、戦いを強制された人生を歩んできた僕だからこそ切実にそう実感している。
そして僕の目指す原作改変は彼女たちを『魔法少女にしない』ことだ。
戦う以外の道だってあるはずなのだ、むしろそれこそが尊い人生だと僕は断言する。
平和が一番、ラブアンドピース、暴力反対。
僕の人生とは最も程遠い、縁の無い事柄のオンパレードである。
……ちくしょう。
しかし、いまさら偉そうに説教するとか絶対嫌だし、ちょっとだけ注意を促すようにする程度に留めておこうかな。
遠まわしなやり方だけど、聡明なリンディさんならきっと気がついてくれると思うし。
「……艦長、一つ提案しても良いだろうか?」
「どうぞ?」
「あの二人を管理局に勧誘できないだろうか、あの才能ならいきなり最前線に投入しても大丈夫そうだし、上手く育てば強力な『駒』になる、途中で潰れればそれまでだが、所詮は管理外世界の蛮人、どのみち時空管理局には損にならないでしょう」
「なっ!? あ、あなた、それ、本気で言っているのかしら?」
「……勿論、冗談ですよ」
「そういう冗談は、好きじゃないわよ」
「……そうですか、てっきり先ほどの艦長の嬉しそうな表情が僕には冗談そのものに見えましたけどね」
「えっ!!?」
リンディさんの表情が一変する、先ほどまでの僕を非難するような顔から一転して蒼褪めた表情へ。
先ほどまで自分が何を考えていたか思い出したんだろう。
程度の差こそあれ、先ほどの僕の暴言と似たようなことを考えていたのだ。
一応人格者のリンディさんからしたら罪悪感を抱かせるには十分な内容だったのかも。
ともかくこれで少しはフラグが折れたのかな、しばらくはリンディさんも自重するだろうし。
まあ、簡単には安心できないか、なのは様自体がちょっとしたバトルジャンキーっぽいし。
原作とかでも、OHANASHI=ガチバトル、だもんなぁ…… orz
まんま少年漫画なノリだよね、とりあえず戦って友情を育むみたいな。
これも戦闘民族高町家の血筋ゆえか、でも運動神経切れてるっていうし。
そこんところどうなんだろ?
まあ、いまからいろいろ考えてもしょうがないか、地道に確実に原作を変えていきましょうかね。
これから死んでいく僕自身の自己満足のためにも。
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リンディさんとのやり取りを終える頃にはすでに木の化け物は倒され、剥き出しのジュエルシードのみが残されていた。
中心にジュエルシードをはさんで、二人の魔法少女が睨み合う。
幾つか言葉をかわした後、互いにデバイスを構えて突進し、振り上げたデバイスを相手に叩きつけんとして―――
「ストップだ! ここでの戦闘は危険すg うわっこのっやめろっ『竜巻旋風脚』!!」
いきなり真ん中に現れた間抜けなクロノが二人から左右同時攻撃を受けて。
焦った結果、とっさに出した『必殺技』で
「レイジングハート!!?」
「バルディッシュ!!?」
二人のデバイスを粉々に蹴り砕いた。
……ちょっ、クロノの大馬鹿野郎、出会い頭に二人のデバイスを蹴り砕きやがった!!?
まさかこれで『魔法少女リリカルなのは・完』、ですかぁ!?
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