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厳しい受験戦争を切り抜けた先には更なる地獄が待っていました、ほんとミッドチルダは地獄だぜフゥハハー。
こんにちは、5歳にして大学試験レベルの難関試験に受かってしまったエンハンストです。
自分自身に驚きです、マジさすがチート頭脳凄いですね、格がちがった。
ちなみに受験に際して最高評議会から戸籍を用意してもらいました、正式名称は『エンハンスト・フィアット』になりました。
ジェイル兄さんの言うとおり、僕は最高評議会の奴等に管理局強制入局させられました。
そのうえ最初に聞かされていた上級キャリア試験や執務官試験以外にも、デバイスマスターとかヘリパイロット資格まで受験させられました。
もちろん年齢制限とかそういった諸々は当然無視されました、権力者って恐ろしいですね。
しかも知らされたのは試験前日、マジでキレそうになりましたよ。
だけど僕には怒るよりも勉強する時間のほうが切実で、急遽一夜漬けで四つの試験を乗り切りました。
なにせ失敗すれば役立たずと処分されてしまう可能性がある以上、こっちは命がかかっているのですから。
文字通り血反吐撒き散らす勢いで猛勉強しましたよ、おかげでなんとか合格できましたが。
向こうの世界でもここまでマジになって勉強したのは初めてでした。
しかし、今考えると相当無茶なことだとわかります、たかが5歳児にやらせる内容じゃないよね、コレ?
もしもこの身体がチート性能じゃなかったら絶対無理です、脳みそもチートで助かったよ。
最初からこれだけ無茶苦茶させてくる最高評議会の脳みそ×3が僕にかける期待の大きさが伺えますが、むしろ重荷なので勘弁願いたいものです。
とまあ、そんな感じでなんとか管理局入りを果たした僕ですが、当然のごとく地獄はそれだけでは終わりませんでした。
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『未来の統治者として生まれたお前の存在を人々に知らしめる必要がある』
『我らの希望の子エンハンストよ、お前の類まれなる力を最前線で存分に発揮し、その力と存在を世に知らしめるのだ』
『その他のことは心配しなくてよい、我々が全力でお前を支援するので出世は早いぞ、すぐに要職につけるようにしてやろう』
……いや、そんなこと望んでないから。
ってかあんたら五歳児にどんだけ期待してんだよ、いきなり最前線逝きとか無茶しすぎ。
いきなり戦場送りとか、普通に死ねるから。
ドラゴンボールZのサイヤ人じゃないんだから、いくら僕がチート主人公でもさすがに死ぬだろ……常考。
でも拒否権など初めから有りはしないの、悲しいけどこれ強制命令なのよね。
逆らえば問答無用の廃棄処分、人権? なにそれ、おいしいの?
ちくしょう、憎しみで人が殺せたらっ!
「……わかりました」
『とりあえず特別執務官という役職を与えるので、各地の現場に協力という形で参加しなさい』
『我らの理想の体現者となってくれることを願うぞ』
『うむ、お前の働きに期待している、次元世界の将来はお前の肩にかかっているぞエンハンスト』
「……………(無言で頭を下げる)」
ホント好き勝手に言ってくれるよ、でも逆らえない悲しき立場の僕。
ホント、悲しいけどコレ、強制命令なのよね。
大切なコトなので二回言いました。
逆らえばまちがいなく抹殺処分されちゃいます、そうならないように馬車馬のごとく働くしか道はありません。
いっそ、僕のオリ主パワーで反逆してみる? ムリムリ、数で圧倒されて踏み潰されちゃうよ。
所詮、僕は人間レベルの範囲でチートってだけで、統率された戦闘集団には勝てませんて。
こうなればせめて自分の命を守るためにできることを尽くすべきでしょう。
こんな無茶苦茶な命令で死ぬなんてまっぴら御免です。
僕には夢がある、花屋を営みながら平穏無事に過ごすという夢が!!
そのためにも、こんなくだらない奴等の願望に付き合って死ぬなんて絶対嫌だ。
とはいえ、一体どうするべきだろうか?
僕自身には将来的にどうすれば現状から脱することが出来るのかどうかと言った明確なヴィジョンがありません。
下手に原作の展開に介入して、今後の話の流れが分からなくなるのも恐ろしいし。
かといって何もしなければ未来で原作キャラ達にフルボッコされることになります。
ともかく最前線行きは既に決定事項なのでこれは覆せないし、とりあえずジェイル兄さんに相談してみようかな。
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『さっそく最前線行きだって? そりゃあ大変だね、わかった私に任せてくれたまえ、君に相応しい至高にして究極のデバイスを作ってあげるよ!』
「……………」
『そうだね、まずは出力を君に合わせて通常の三倍まで引き上げて、角も付けて、カラーリングは勿論赤で統一して、追加武装とかも――――』
「……………」
ジェイル兄さんに相談した僕が馬鹿だった。
いままで忘れていたが、この人は基本的にはマッドサイエンティストで超が付く危険人物なのだ。
通信機ごしにもわかるほど嬉々として危険なデバイスの構想を組み立てていく兄さん。
研究者として物作りに喜びを見出す姿は尊敬できるが、今回の話は別だ。
僕が相談したかったのはそんなことじゃないのに。
確かに強力な武装があれば死ぬ確立も少なくなるだろうが、そもそも僕の相談したいこととベクトルが違う。
僕は戦いたくないのだ、人を傷つけるのも傷つけられるのも嫌だ、原作キャラの誰とも関わりあいたくない。
身体はチート性能でも、中身は花好きのヘタレ一般人。
争いとは無縁の日本で生まれ育った僕の精神は、戦いになど到底むいているとはいえない。
だからこそ、そのことを兄さんに相談して何とかしてもらおうと思ったのだが、とんだ薮蛇だったらしい。
というか、あのジェイル兄さんを頼った僕が馬鹿だったと、今更ながらに気付いた。
だからといって兄さんの好意を無駄にするわけにもいかない、僕はそこまで恩知らずじゃない。
「……ジェイル兄さん、ありがとう」
『ああ、かまわないとも! 可愛い弟のためにデバイスを作ってあげるのも私の、いや、兄の役目さ! 期待しててくれたまえよエンハンスト!!』
数日後、兄から例の僕専用デバイスが届きました。
外見はごく一般的な杖型といたってシンプル、でも中身はオーバーテクノロジーの結晶。
塗装は全部赤で統一、さらに何故か杖の先端には角が付いてます、コレは酷い。
普段はカード状態になって待機モードになっています、なぜかカードも真っ赤ですけどね。
その名も素敵『Red comet』。
そうです、名前の意味は日本語で『赤い彗星』。
兄さん、それはネタですか? すごいネーミングセンスですね。
遠まわしに僕に脳みそ×3を殺せと言ってるのでしょうか?
まあいいです、深く考えたら負けかなと思います。
とりあえずこれから最前線の紛争地帯に突貫してきますね、ではさようなら~。
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