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簡単なあらすじ
何を考えているのか、突然の相棒デバイスAIの暴走、逃亡、そして造反。
敵は乗っ取られた無人戦闘機ガジェットドローン数千体と最新型次元航行艦。
地上を焼き払うアルカンシェル発射まですでに秒読み段階。
ロボット3原則? なにそれ、美味しいの? な超展開の数々。
そしてジェイル兄さんや最高評議会からの無茶振り。
ありえない事態に混乱する暇もなく今度は地上への無人戦闘機の侵攻。
そして僕の命と同じくらいに大切な秘密花壇の危機到来!
■
「邪魔だぁぁぁぁーーー!!」
純粋に魔力で肉体強化しただけの蹴りで敵無人戦闘機を蹴り砕く。
振り向きざまに背後の敵も裏拳で破壊する。
バリアジャケットがないので殴る度に僕の肉体も少しずつ傷ついていくが、構っている暇はない。
今、僕がいるのは秘密花壇のすぐ近くある地上本部前の広場。
なぜこんなところで戦っているのかといえば、運悪く避難してきた局員たちが秘密花壇の方向へ避難しようとしていたからである。
このまま局員たちを無視して秘密花壇の方向へ逃がせば、やがてそこが戦場となるのは明白。
それでなくても局員の避難中に花壇が踏み荒らされることもありえるので、ここで絶対阻止しなければならなかったのだ。
僕はすぐに決断し、ここで敵を迎え撃ち、局員達を守りぬき、彼らをこの場に踏みとどまらせる選択肢を選んだ。
ここなら秘密花壇に被害は出ないだろうし、万が一流れ弾があっても被害を受けるのは見知らぬ局員の方なのでぶっちゃけ問題なし、本当は大問題だが僕的には秘密花壇の存亡と比べればやはり他人の命は軽くなってしまう。
普段ならば倫理的に人命を優先し効率的な作戦行動にでる僕だが、こと秘密花壇に関することでは話しは別だ。
ほかの人間の価値観では、人命 > 植物 となるのが普通だが僕の場合は真逆となる。
家族や友人ならいざ知らず、他人にそこまで配慮する余裕など今の僕には無い、多少の罪悪感はあるが。
冷血漢と罵りたければ言えば良い、僕は本当に大切な存在のためならいくらでも冷酷になれる。
……彼らには悪いが最低限自分の命は自分で守ってもらおう。
カガチと協力して敵戦力の迎撃にあたる、デバイスなしの慣れない戦いとはいえこの程度の相手に遅れはとらない。
殴り、蹴り、押しつぶし、引き千切る、縦横無尽に暴れまわり敵を蹂躙し尽くす。
こういう状況になると自動戦闘で無双できるセガールアクションは心底ありがたい。
相手が人間ではないので関節技などは極められないが、打撃技だけでも十分に脅威の破壊力を発揮してくれている。
すでに倒したガジェットドローンの数は百から先は数えていない。
僕と無人戦闘機の激しい戦闘の余波ですでに地上本部の建物は見るも無残にボロボロだ。
窓ガラスは砕け散り、壁に穴があき、床にはクレーターが穿ち、よく整備されていた立派な外観は見る影も無い。
僕自身にも何度か攻撃がかすり額から血が流れるが痛みは少ない、薄皮一枚が切れた程度で大した傷じゃない。
大切な、本当に大切な秘密花壇を守るためなんだ、この程度の怪我など気にしていられないんだ!
「お前らに、大切な存在を傷つけさせるものかぁぁぁぁーーー!!」
思わず獅子咆哮する、僕自身そうとう興奮しているみたいだ、普段の自分からはとうてい考えられないような大声が出た。
かつて無いほどの気合と闘争心が全身に漲る、大切な存在を守るとき、人は最も力を発揮するというのは本当だったようだ。
後方で一塊になって怯えていた職員達からザワザワとざわめきが起き、僕に視線が集中してきた。
し、しまった、人前で大声をあげるとか恥ずかしすぎるっ!
くそっ、いまさら恥ずかしがってもしょうがない、今は目の前の敵にのみ集中しよう。
それにしても敵の数が多い。
いくら弱いとはいっても、圧倒的多数の敵相手には僕とて少しずつ消耗していく。
ましてこの敵はAMF付き、ただでさえ消耗しがちな魔力は余計に削られていってしまう。
埒があかない、このままではやがて敵に突破されてしまう。
後方で避難している職員達もだが、そのさらに後方にある秘密花壇だけは絶対に守らねば!
僕が決意も新たに敵に殴りかかろうとした時。
「うわぁぁぁぁ! 俺も戦うぜーーー!!」
「ワシもだっ、彼一人にだけ任せておけるものか! ワシだって時空管理局員なんだ!!」
「突き破れ! オレの武装○金!! 」
「私も戦うわ! 貴方は一人じゃない!!」
「俺だって守るんだ、守るんだぁーーー!!」
「熱くなれよぉぉぉぉーーー!!」
後方で怯えていた職員の方々が次々と敵に襲い掛かっていきます。
皆の手にはそこいら辺に落ちていた棒や石、そして今やろくに役に立たないデバイス、それで直接殴ってます。
その姿、さながらマンモスに群がる原始人。
あ、いや、なんか一人だけ突撃槍みたいなのもっていた人がいたけど。
しかも皆ダバダバ涙流しながら突撃していきます、そのうえ僕と顔が合うと何故かサムズアップして二ッ、と漢らしく笑って決意に満ちた表情で神風特攻。
しかもどこからかBGMで『未来への咆哮』が聞こえてくる、誰だこの選曲した奴?というか誰がどうやって流してるんだ?
正直、何もかもわけがわかりませんが、皆の助力はこの状況では非常にありがたいです。
どんなチート補正が働いたのか、皆それぞれいい戦いを繰り広げてますし。
……ていうか、生身で優勢に戦ってね? 何この人たち? 超人類かなにかなのだろうか?
「エンハンスト特別執務官、ここは俺たちに任せて、貴方の大切な存在を守りに行ってください!」
「ここは大丈夫、地上本部は私たちで守りきってみせますよ!」
「その通り、ここは俺たちに任せて執務官は先に行くんだ! 俺たちも後で行く!」
それなんて死亡フラグ? まあ、すごくありがたい提案ですけど。
僕も早く秘密花壇の方に行きたくてしょうがなかったので快く受け取らせてもらいます。
「……わかりました、ご武運を!」
よくわからないけど、皆さん死なない程度に頑張ってくださいね。
たとえ死んでも僕の所為にしないでね?
■
走る、守るべき、僕の大切な秘密花壇へむかって走る。
走りながらも焦燥感ばかりがつのる。
秘密花壇の安否が気になってしょうがない。
視界が開ける、そこには数時間前と変わらない美しい花壇が広がっていた。
僕の秘密花壇だ、何事もなく無事だった。
「……よ、よかった、無事だったか」
「エンハンスト様ぁっ、後ろっ!」
「っ!!?」
カガチの声で振り返る、そこには今まさに僕に攻撃を仕掛けてくる敵の姿がうつった。
つけられていたのか、それとも待ち伏せか、どちらにせよ気が付けなかったのは僕らしくない大失態だ。
秘密花壇に気を取られすぎて周囲への警戒を怠っていたツケかもしれない。
機械製の豪腕マニュピレーターで強く殴りつけられる。
咄嗟に腕を十字にして防御、受けた衝撃で体が数メートル吹っ飛んだ。
「エンハンスト様ぁっ! この木偶人形ごときがぁぁぁぁっ!!」
すぐさまカガチが敵を破壊した、吹き飛ばされながらも視界にその様子をとらえる。
彼女のあんな感情剥き出しで怒るさまを見るのは初めてだ、それほど僕のことを心配してくれていたという事だろうか。
不謹慎ながらもそのことが少し嬉しかった。
でも怒ったカガチの表情は小便ちびりそうなほど恐ろしかった。
……だ、大丈夫、僕は心配ない。
敵の攻撃はしっかり防御したし、ダメージは最小限に押さえた。
吹き飛ばされはしたが、しっかり受身を取れば問題ない。
地面に落ちる直前、片手で地面を叩き衝撃を緩和する。
着地時に多少地面を転がって擦り傷は出来たが、ダメージはほぼ皆無だ。
僕は心配そうに駆け寄るカガチに大事無いことをアピールしようと立ち上がろうとして―――
「エンハンスト様! お怪我はございませんかっ!? ……エ、エンハンスト様ぁ?」
「…………」
「あの、エンハンスト様ぁ、何かご様子がおかしいのですが……どこかお怪我でも?」
「……いや……怪我は……ない」
「そ、それでしたら、如何なされたのですか?」
「…………」
「……その、すごぉく怒ってらっしゃるご様子なのですが?」
僕は無言で立ち上がる、パラパラと舞い散る土埃。
そして、無残に押しつぶされた花壇の草花たち。
なるほど道理だ、人が花壇に吹っ飛ばされれば着地先の草花は押しつぶされる。
そのうえ、僕は着地時に受身をしっかりとった、トドメである。
しかもその後地面を転がった所為で、まるでミキサーにでもかけられたかのように花壇はグチャグチャになってしまっている。
「…………っ」
これが雑草ならまだ命は助かるかも知れない、植物の生命力は伊達ではないのだ。
だがこの花壇の美しい花は美しいゆえに儚く脆い、もはや助からない。
「……あ、あぁ……っ!!」
震える手で僕が殺してしまった花の蕾を拾い上げる。
もう少しで咲き乱れるはずだったのに!
無残に押しつぶされ、ようやく色付きはじめた花弁が蕾から破れ飛び出してしまっている。
なんて、なんてことだろうかっ!
こんな幼い、尊い命を、僕は助けることが出来なかった!!
「……こ、こんな、酷すぎるっ!!」
腹の底から煮えたぎるマグマのように怒りの感情が湧き出てくる。
赦せない、絶対に許すわけにはいかないっ!
よりにもよって……よくも、よくもこの僕に殺させたなぁっ!!
この原因を作った奴を皆殺しにしてやる、生きてきたことを死ぬほど後悔させてやる!!
血が滲むほど強く拳を握りこみ目の前に掲げる、そして今や最大の怨敵のいる空に向かって宣言する。
「ゆ、許さん……絶対に許さんぞ虫けらども! じわじわと嬲り殺しにしてくれるっ!! 」
「あぁっ! 素敵です、素敵すぎます! それでこそ私のご主人様ぁ!!」
……カガチは無視しとこう。
使い魔の奇行のおかげでちょっとだけ冷静になれました。
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僕がかつてない怒りに打ち震えていると、いきなりジェイル兄さんから通信が届いてきた。
「やあ、エンハンスト、なんだか大変な事になってしまったね、そっちはどんな様子だい?」
「……酷い、有様です」
「そうか……ところで話は変わるんだが、実はエンハンストに贈り物があるんだ!」
「……贈り物?」
「ああ、君のデバイスは今回の事件のせいでもう使えないからね、こんなこともあろうかと、こんなこともあろうかとっ!! かねてよりコツコツ作っていた新デバイスを急遽完成させたんだよ!」
「…………」
ジェイル兄さん謹製の新デバイス……正直、不安でなりません。
だって、前回が前回ですから。
またネタ路線にはしったのか、それともよりカオスな方面に逝ったのか。
どうせ兄さんのことだ、まともなデバイスであるはずがない。
つーか、さっきの台詞を言いたかっただけなんじゃ、凄くいきいきとした表情で喋ってたし。
「今そっちに転送するから、僕が丹精込めて作った新デバイスを使って頑張って事件を解決してくれたまえ!」
僕の返事も聞かないうちに勝手に話を進めていく兄さん、相変わらずですね。
ブンッ、という音と共に目の前に転送用の魔方陣が形成される。
目の前に送られてきた新デバイスが出現する。
形状はこれまた一般的な棒状型、ただ棒の先端装飾がロボ的な犬っぽい形状をしていた。
なんと言うか、デザイン的にはカッコ良いね、孫悟空の如意棒みたいだ。
変態趣味に定評のあるジェイル兄さんらしからぬ美的センスを感じる。
多分、ウーノとか妹達に手伝ってもらったんじゃなかろうか。
まあ、たしかにこの状況では四の五言ってられないか、デバイスが手に入るだけでもありがたいと考えなければ。
「……ジェイル兄さん、ありがとう」
「ああっ! 大切な弟のためだ、こんなこと苦労ではないよ! ちなみにそのデバイスの名前は『ADA(エイダ)』というんだ、可愛がってくれたま(ブツンッ)」
唐突に兄さんとの通信が切れる、魔力阻害、AMFだ!
気配を探ると、僕達が走ってきた方向から無数の敵が迫ってきている。
どうやら一部の連中が広場で戦っている職員の人たちを突破してきたらしい。
その姿はどれもボロボロで腕が欠けた奴や、ボディに皹がはいった奴など満身創痍な姿ばかりだ。
だが連中まっすぐ僕らの方向迫ってくる、やる気は十分なようだ。
だが今の僕には奴等が単なる虫けらにしか見えない、哀れで軟弱でとるにたらない虫けらだ。
目の前の新デバイスを掴み取る、ほのかに魔力の温かさを感じる、まるでこのデバイス自体が生きているようだ。
グリップを強く握りこみ、その名を呼び覚ます。
「……ADA、セットアップ!!」
『おはようございます、戦闘行動を開始します』
デバイス起動と同時に爆発的な魔力の奔流が巻き起こる、以前より遥かに出力が増している。
暴れまわる魔力を制御してバリアジャケットを形成、想像するのは相変わらずの白い外套(シルバースキン)。
ただ過剰魔力の影響か、以前よりもより頑丈になり、形状もより金属部分が増加した。
手袋や靴の先端が鋼で覆われ、帽子にも幾つか金属で補強されている部分が存在するようになった。
全体的な印象でよりメタリックに、どこぞの変身ヒーローっぽくなっちゃった。
……ま、おいおい変えていけばいいか、今は身なりにかまっている暇はない。
デバイスを手元でブンブン回転させ構え直す、想像以上にしっくりくる。
どうやら僕は棒術にも適正があるらしい、まあ、あれだけチート性能ならおかしくはないのだが。
だが今は幸運と言える、目の前の虫けらどもを容赦なく打ち滅ぼすことができるのだから。
デバイスに魔力を注ぎ込み、意識を前方に集中する。
撃ち出すは非常にシンプルな射撃魔法、込めた魔力を前方に射出する『バーストショット』
「吹き飛べーーー!!」
気合一線、叫び声と同時にデバイスを目の前に突き出す。
大砲のように射出された直径3メートルはある巨大な魔力弾が直線状の敵すべてをなぎ払う。
直線状の地面と大気をガリガリ抉り削りながらAMFなど関係ないとばかりに敵を蹂躙していく様は爽快ですらある。
たった一撃で敵戦力のほぼすべてを殲滅した、申し分ない結果だ。
「……よしっ!」
『敵機撃破を確認』
ADAから機械的で無感動な報告が来る、だがそれがいい。
僕のデバイスに余計な個性などいらない、そんなモノは前回の奴で散々こりたからだ。
そういう意味ではこのADAは理想的といえる、完璧なストレージデバイスならもっと良かったんだけどね。
果たして今回のデバイスこそは当たりなんだろうか。
……まあ、今は余計なことを考えるのはよそう。
「……このまま宇宙へあがる、いけるかADA?」
『問題ありません、ただし現魔力から最大戦闘可能時間は30分と計算されます』
「それで十分だ、カガチ、お前にはここの花壇を守っていて欲しい、これ以上の被害を出さないでくれ」
「はぁい、了解しましたエンハンスト様ぁ、いってらっしゃいませ♪」
「……いくぞっ!」
待っていろRed comet、今お前をぶっ壊しに行ってやるぞ。
この僕の怒りを買ったことを後悔させてやる!
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