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クロノ君達を見ていて、すっごいこと思いつきました。
さて、思い返して欲しい、クロノ君って原作でもかなり優秀な人材だよね?
原作では主人公(兼、魔王)たる高町なのは様に存在感を奪われてるけどさ。
たしかStrikerS(三期)では提督とか、かなりの地位にまで若くして上り詰めて、そのうえ英雄とか呼ばれてた筈だ。
しかも、真面目で努力家、正義感に溢れ、父を理不尽に死なれているという悲しい過去を背負っている、そのうえ結構なイケメンだ。
こりゃもう完璧主人公属性でしょ、もうずっとスーパーリリカル☆クロノタイムでいいよ!
というか、たしかクロノ君ってエロゲ版のほうのリリカルなのはだと主人公級の扱いだったよね。
クロノ君の分際で最強ヒロインたるなのは様とくっつくとか、ユーノ君涙目。
ほっといても彼は数年後には勝手に修行を始めるだろうし、勝手に手柄を立てて昇進していくだろう。
持ち前の正義感とたゆまぬ努力で、心身ともに質実剛健なスーパー管理局員となっていくわけだ。
そう、彼なら『時空管理局の指導者(リーダー)』になれるんじゃないだろうか?
ほっといても自力でのし上がる彼を僕が密かに応援したら、もっと早く、もっと上に昇進できるんじゃないだろうか?
そしてゆくゆくは僕をも超えるスーパーエリート管理局員として成長して。
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『オイ、なんかエンハンスト以上に優秀な人材がいるってよ!』
『マジか? じゃあそいつに管理局任せたほうがよくね?』
『エンハンストも良く頑張ってるけどしょうがねえべ、そいつで決定な』
『『『じゃあ時空管理局はクロノ君に任せるから、エンハンストは好き(自由)にしていいよ』』』
と、さすがにここまで都合良くはいかないだろうが、こういった展開もありえるのではないだろうか?
おお、我ながらなかなか良い考えだ、この計画なら誰も苦しまないし悲しまないぞ。
最高評議会は念願の理想的人材を手に入れられるし。
僕は晴れて自由になれる。
クロノ君は時空管理局を率いて思う存分に正義の味方ができる。
名付けて『クロノ君育成計画』。
わぁお、この考え採用、マジ名案だわこれ。
となれば今のうちから何かしらネタを仕込んでおいたほうがいいよね!
な、なにはともあれ、まずはご挨拶せねばっ!
「……すいません、ちょっといいですか」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「私はこういう者ですが、少しお話がしたくて」
「……!? と、特別執務官エンハンスト・フィアット!!?」
「ほぉ、そんな有名人が何用かね?」
「失礼ながら、先ほどからお二人の話を聞かさせていただきました、私もクライド氏のような優秀な人を失った事はまことに残念でなりません」
「あ、ありがとうございます」
僕の言葉に幾ばくか怪訝そうに謝礼を述べるリンディさん、まあ当然の対応だろうな。
いきなりこんなガキに話しかけられて、しかもそいつが特別執務官とかいう妙に高い役職だし。
グレアム提督まで僕を警戒するように視線を厳しくする。
ちょっと、まずいかな、焦って先走りすぎたか?
こんな時は無表情な自分の不器用さが恨めしい、笑顔の一つでも浮かべられればちょっとは違うんだろうが。
「実はお二人の話からそこにいるクロノ君に少し興味がわきまして、是非彼の力になりたいと思いました」
「……クロノにですか?」
「ええ、彼はまだ幼いですが故クライド氏のように優秀な人材の息子ならば彼自身もまた優秀な人材に育つ可能性が高いです」
「君はクロノ君を管理局に入れようというのかね?」
「いえ、そこまでは考えていません、ただ彼のような人材の将来の成長の力になれればと思いました、僕自身が彼と似たような境遇なので……」
「……そうか」
真っ赤な嘘っぱちである、公式では僕の両親は5年前に死亡した事になっているが、もともとそんな親などいない。
この世界の僕の体はジェイル兄さんによって、古今東西の偉人・奇人・超人たちのDNAをミックスして作られたものだしね。
ただ。この場ではそう言っておいた方が効果的なのは明白。
同じような境遇だと思えば警戒心は緩むものですし。
この程度の過去擬装なら特別執務官特権で中央データベースアクセス権があるので余裕で出来ます。
あとで調べられてもぜんぜん問題ないのですよ。
ダテに時空管理局が支配する集権型社会のエリートやってませんよ、うはははは。
……あれ、なんか今の僕ものすごく悪人なんじゃね?
ま、まあ、いいです、将来の平穏な暮らしのためならこの程度の悪行は神様だって見逃してくれます。
「彼自身が僕の協力を望んだ時は是非連絡をください、これが僕の連絡先です」
「あ、ありがとうございます、エンハンスト執務官」
「……では、失礼します」
なーんか、いろいろ後ろめたいけどこれでネタの仕込みは十分だよね。
将来クロノ君が強くなろうと思ったら僕みたいな高位魔道士の協力者はのどから手が出るほど欲しいはず。
必ず連絡をくれる筈だ。
あとは優しく丁寧に英才教育を施してあげれば良いだけさ。
なんか急激に運が向いてきたような気がするな、ついに僕にも幸運の女神が微笑み始めたのだろうか?
いやいや、油断はできないぞ、僕はなにかしら理不尽な目にあうのがデフォルトだからな。
ここで変に期待して、あとでガッカリなんてことになったら立ち直れないかも。
……と、ともかく、まだまだ時間はかかるだろうが少しは将来に希望は見えてきた。
いつか自由になるその日まで僕は諦めずに頑張るぞ!
このとき僕は有頂天で、まさか数年後に自分の招いたこの一連の行動が原因で大問題に直面することになるとはまったく予想できていなかったのです。
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