「とうとうここまで来た…」「わん!」「父さんの厳しい修行を終えて、ミッドの安い事務所を、お爺様の遺産で買って…」「わうう…」「そしてとうとう! マセラティ探偵事務所開業!! これから頑張るぞー!」「わう~!」マセラティ魔導師探偵の事件簿 FILE01.人を惑わす魅惑の音「…暇だね…ポアロ」「わうぅ」私は今、自分で買った椅子に座って机に体を倒して暇な一日を過ごしていた。気分最高に開業したのは三週間前。その元気が仕事があれば今も続いていたかもしれない。だけどここ最近で回ってきた仕事は、ペットがいなくなったから探してくださいくらいだった。しかもペットを探してくださいと言うお客さんに常連客まで出来てしまっている始末。せめて浮気調査とか、そういうのだったらまだやる気出るんだけどな~。「お昼でも食べようか」「わう!」重い腰を上げ、のろのろとキッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。最近のお気に入りはカップラーメンの赤いFoX。それに、自分で好きな具を乗せて食べること。これがまたおいしい。別に料理が苦手ってわけじゃないけれど、一日に何回も作るのは疲れるからちょうどいい。私は、冷蔵庫の中から昨日の晩御飯の残りの鳥を取り出して、お湯を沸かした。「仕事がない時は、休むに限る~♪」「わうぅ~♪」鳥を小さく切りながら、歌を口ずさむ。最近の流行の曲や歌なんかはわからないけど。「あなたのペットを探しましょ~♪」「わうわう~♪」やっぱり、仕事が回ってこないのは退屈だ。それにこの状態が続くと最悪ご飯も食えなくなってしまう。そんなことになったら、さすがにバイトもしないといけないかも。バイトか…近くのカフェで働くのも悪くないかもしれない…。あそこのカフェ美味しいし。けれどお爺様は、言っていた。仕事ってのはがめつく奴にはよってこない。慌てず待つことが大事だって。そしてら、仕事は向こうからやってくるものだ。「あの、すみません。ここって探偵しているって聞いたんですけど…」ほらね。「はい。浮気調査からペット探し! 盗人も何でも来いですよ」「あ、こんにちは。わたし、トルネオ・アスコットと言います。13歳です」「私はコーデリア・マセラティと言います」「わん! わん!」本日初のお客様は女の子だった。私よりも幼かった。水色の髪の毛を頭の高いところでお団子にしていて、服は大人しい印象を受ける。あまり活発なことはしないタイプに見えた。あくまで印象だからわからないけれど。もしかしたらこの子も表面はこれだけど、裏の顔は凄いなんてことはよくある話だしね。「それでどんなお悩みですか?」このくらいのお年のお客さんなら、ペット探しの可能性も高いけどもしかしたら好きな男の子のプライベートを探ってくださいとかかもしれない。だったらどうしよう。「その、直接的にわたしのことじゃないんですけど…」「わたしのことじゃない? どういうことですか?」トルネオは、どこかもじもじとして言い難そうにしている。何か言い難いことなんだろうか?「わたし、姉がいるんです」「姉、ですか?」「はい。アコードっていう名前でいつもはアコ姉って呼んでいます」そのアコードという人の悩みなんだろうか? だったら何故この子が私の所に?姉の代わりに来たってことは、姉が来れない状態だったんだろうか?「お姉さんの悩みですか?」「は、はい」「だったらお姉さんを連れてきた方がいいんじゃないですか?」「い、いえ! アコ姉じゃ駄目なんです!」トルネオは、机に手を叩きつけて立ち上がり、私の眼を見つめてくる。その眼には、弱々しい外見とは裏腹に強い力が篭って見える。「とりあえず、話してください。話はそれからです」このままじゃ、何時まで立っても話が進まない。私の腹も空く一方だ。お湯も沸いたし、そろそろご飯の続きもしたい。ポアロも私の服を噛み、急かしている。「あの、コーデリアさんは、セルフィッシュって知ってますか」トルネオは、ようやく落ち着いたのか、ゆっくりと席に座った。「…ごめん。知らない」新種の魚くらいしか、頭に浮かんでこなかったよ。「最近、ミッドで流行っているバンドです」「…ミッドってそんなの流行ってるの?」「わう?」さっきも思っていたけど、私は音楽については飛び切り疎い。だって、私がいいと思った音楽はいい。悪いと思った音楽は悪い。それでいいと思ってるから。「いえ、道端で週に一回やっているくらいらしいです。けど、凄い熱狂的なファンがいて、それで話題になって面白半分に見に行っている人がいるんです」「ふ~ん」なるほどね。「そのバンドと、あなたのお姉さんと何が関係あるの?」トルネオは、私の言葉にさっきまでの顔色が一気に悪くなり、俯き気味になってしまった。「じ、実は、アコ姉がそのバンドに興味を持ってしまって、それで何回か行っているうちに嵌っちゃって」「嵌るくらいならいいんじゃないかな? 人の趣味は其々だしね」誰にだって、いろんな趣味はある。自慢できることもあれば人様に話せば、笑われること必須のことだってある。ちなみに私の趣味は読書。推理小説をお気に入りのカフェでコーヒーを飲みながら読むのが堪らない。「嵌るだけだったらよかったんですけど、一ヶ月前の路上ライブに行った後に、様子が変になったんです」「変?」もしかして薬か? ミッドはクリーンな町だ。だけど薬とかもないわけではない。「夜中に突然どっかに行っちゃったんです! いきなり外に出て」「外に?」「その後、朝になる前に帰ってきたんですけど次の日どこに行ってたのか聞いてみたんですけど、全く覚えてないどころか、自分は寝てたっていうんです!」夢遊病だろうか? けれど、それなら、子供の頃から症状が出ていてもおかしくないはず。いきなり、この年になって夢遊病になったというのも考えにくい。「けれど、それってバンドが原因っぽいよね? 魔法使ったんじゃない? 管理局に言った方がいいんじゃないかな」来てくれるのは嬉しいけど、管理局に言った方が確実に思える。「…一回、管理局に言った事はあるんです。それで、セルフィッシュのメンバー3人が調べられたんですけど、リンカーコアはもちろんありました。けど、魔力量が明らかに足りないんです。アコ姉が魔法を使われたとすれば、Aランク以上の魔導師じゃないと無理だって」なるほど、もう管理局には通報した後だったのか。「それで、管理局もわたしの嫌がらせだと判断しちゃって、あんまり話を聞いてくれないんです」管理局は、こんな軽い感じの事件については、中々助けに来てくれない。ロストロギアや質量兵器が関わってくる事件だと、すぐに駆けつけてくれるんだけどね。「お姉さんは、どんな調子なの?」「その後は、出ることはありませんでした。けどその後、いろいろ調べてみたら、アコ姉のお金が減っていたんです」お金か…つまり、お金が目的だったのかもしれない。けれど、それなら何故トルネオのお姉さんが狙われたんだろう? 何か理由があるのだろうか?「とりあえず、そのなんとかフィッシュに行ってみよう」「や、やってくれるんですか!?」「うん」「あの、お金、今はこの位しかないんですけど」トルネオは、ポケットからクシャクシャになった5万円を出してきた。「お金は気にしないで。まずは解決出来るかどうかだよ」「わん!!」私は、太陽を象った髪留めをしてなんとかフィッシュを見に行くことにした。「ここでいいの?」「はい。今日の夜6時半から始まるらしいです」あの後、軽く昼ごはんを食べた後にそのバンドが始まる時間までそこら辺をぶらぶらして時間が6時半近くなったのを確認して、路上ライブが行われる公園にやって来た。周りには、ちらほらと人の姿が見えてきている。多分、私たちと同じで、バンドを見に来た人たちだろう。そしてトルネオの腕時計の針が8の場所に移動したとき、空中から、3人の男たちが降りてきた。地面に着地すると、よくわからないごちゃごちゃした楽器みたいな物をセットしていく。ポアロは、つまらないのか林で遊んでいる。「みんな! お待たせ!」「俺たちの曲で、今日も楽しんでいってくれ!」「それじゃあ行くぜ!」私はバンドに詳しくないから、バンドがどんな音楽かはあまり知らないけどその音楽が始まった途端、周りの客は、大きな歓声を上げた。人気なんだなぁ…音楽については、よくわからなかったけど、普通に上手いと思う。よくわからないけど。けど、音楽よりまず目に付いたのは、照明に見える魔力で作ったライトだ。照明のかわりをしている魔法で、メンバーたちをテンポよく照らしていく。それが一番気になった。3曲くらい弾き終わるとメンバーたちは、全員、汗でびっしょりだった。テカテカと光って見える頭。「今日はここまでだ! みんなありがとう!」終わったのか楽器を片付けだしている。観客たちも、ぞろぞろと帰っていく。その中で前の方にいた女性を見たとき、腕に高そうな腕時計をしているのが眼に入った。あんな高そうな腕時計を買うなんて、ミッドには、お金持ちが多いんだな。いいな。その女性は、メンバーに呼ばれて近づいていき、何かを話すとまた離れてしまった。「特に変なとこなかったけど」「はい。残念です…」もしかしたら私たちは勘違いしていたのかもしれない。このバンドグループは、事件に全く関係はなくて、黒幕は別にいるのかもしれないしもしかしたら本当にトルネオのお姉さんが夢遊病に目覚めたのかもしれない。「次は、お姉さんに会ってみたいな」バンドが原因じゃないなら、お姉さんに原因があるのかもしれない「アコ姉ですか? じゃあわたしの友達ってことで紹介します」私、これでも15歳だからまだ友達でも全然OKだよね?「ポアロ! 行くよ」「アコ姉、ただいま」トルネオの家は公園を出て、10分くらい歩いてすぐだった。マンションの23号室。犬は駄目らしいので、ポアロは外で待っといてもらうことにした。「あ、トルネオ。おかえり。遅いよ」玄関を開けて迎えてくれたのは、トルネオよりちょっと大人の雰囲気を出すアコードだった。二人で並ぶと背しか見分けはつかない。「うん。ちょっと用事が長引いて。そういえばアコ姉。今日は見に行ってないんだね」「今日は、どうしても友達の手伝いしなきゃいけなかったの。行きたかったな~」やっぱり自分が夜で歩いているって記憶はないみたい。一体誰がこんな魔法を…いや、魔法と決め付けるのは、まだ早い。「あれ? トルネオ、その人は?」「あ、此方コーデリアさん。私の友達」「こんばんは。コーデリア・マセラティです」一応、礼儀正しくお辞儀をしておく。人様の家では行儀正しくね。「こんばんは。だけど、どうしたの? こんな時間に友達なんて」「久々に会ったら、何だか話が弾んじゃって。それでもっと話したいなって思って」「そうなの? じゃあ、晩御飯は、あたしが作るから部屋でゆっくりしときなさい」アコードは、トルネオと大して年は違わないらしい。私より年が下なのにこんなにもしっかりしてるなんて立派だと思った。「お姉さん。優しそうだね」「はい。家は母さんと父さんが小さい頃に亡くなってしまって、二人が残してくれたお金で生きてきたんです。アコ姉は、わたしを学校に行かすために、寝る間も惜しんで仕事をして、わたしの為にがんばってくれてたんです。中学生になってからは、わたしもバイトをして、家の生活費の手助けをしています。そんなアコ姉からお金を奪うなんて、そんな奴ら許せないんです」トルネオは、アコードの話をすると、熱が入ったかのように話し出す。それだけお姉さんが大好きなんだろう。「ここが、お部屋?」「はい。アコ姉と二人で使ってます」部屋は、ベットが一つと机が二つ。後は本棚があるだけのシンプルな部屋だった。「ベットは一つしかないので、布団を敷いて寝るのと交代交代です」「へえ」部屋を見渡してみても、特に手掛かりになりそうな物は見当たらない。「ん?」けど、机の上に、綺麗に輝くものを見つけた。「これ、高そうだね」「それ、母の形見なんです」大きな、宝石がついているネックレス。軽く100万は超えそうだ。赤いFoXが何個買えるだろう? そして、これ一つで、私は何日仕事をしないで過ごせるだろう?「アコ姉は、これを身につけて外出するのが好きでいつも外に出るときはつけています。盗まれるかもしれないから危ないよって言ってるんですけど…」苦笑いをしながら、この宝石について教えてくれた。確かにこんな宝石をつけて歩いていたなら、盗人なら喉から手が出るくらい欲しいだろう。思わずロックオンしてしまう。「晩御飯だよ~」「あ、はーい。コーデリアさん、良ければ食べていってください」「じゃあご馳走になります」あまり食べたことはなかったけどたこ焼きは、美味しかった。「ん~」「わうわう~」晩御飯をご馳走になって、そのまま泊まっていくように言われたけどさすがにそこまでお世話になるわけには行かない。用事があると言って、トルネオと携帯の番号を交換して帰路についている。ポアロはお腹が減ったのか早く帰りたそうだ。今回の事件は、未だに解決の目処が立たない。というか、事件なのかも怪しくなってきた。盗まれたお金は精々2万。給料日前だったのが幸いしたらしい。「…あれ? あの人…」路上ライブがあった公園の前を通っていると、あの時に見た、高そうな腕時計をしている女性が眼に入った。さっきとの違いは、紫のスカーフを巻きつけている。時間は、もう夜遅い。私が言うのもなんだけど、女性が一人でウロウロするのはよくない。いつもなら放っておくんだけど、その日は、どこかその女性が気になり、話しかけてみた。「こんばんは」「…?」いきなり話しかけたせいか、かなり不審な目で見られた。「あ、私もあの時のライブにいたんです。今日のライブもよかったですね」愛想笑いを浮かべながら、女性に近づく。女性は最初は怪訝な顔をしていたけどライブの話が出た途端、眼を輝かして私に話しかけてきた。「ええ、今日も素晴らしかったわ。それに、今日は私、メンバーの子達にお食事にまで、誘われたのよ」女性は、この事を自慢したくて仕方ない様子で私に次々と話し続ける。「あなたも、頑張ればメンバーに誘われるんじゃないかしら? それじゃあ私は帰るわ」女性は、優越感に浸りながらゆっくりとした足取りで公園を出て行ってしまった。私は別になんとかフィッシュに興味はないから、別に構わないけどね。だけど、女性が言った食事に誘われたという言葉が頭に引っかかった。もしかしたらアコードも、お金がなくなる前に誘われたりしてなかっただろうか?「…聞いてみよう」私がここで考えていても仕方がない。聞いてみる方が早いと思って携帯を取り出し、トルネオの番号を押す。数回のコール音の後にトルネオが出た。『どうしたんですかコーデリアさん』「うん、ちょっと気になることがあったの」『気になることですか?』「お姉さんさ、あのバンドのメンバーと食事とか行ったことあるんじゃないかな?」『食事ですか? ちょっと待ってください。確認してみます』トルネオが、電話から離れた、アコードに確認を取っている声が聞こえる。『コーデリアさん。何でわかったんですか? アコ姉は、確かに食事をしたことがあるって言ってます』「わかった。ありがとう」そのまま電話を切り、星が見える夜空を見上げる。バンドのメンバーは、黒。その日からは、特に目立った行動が出来ない。だってバンドが活動するのは、また一週間後だ。とりあえず私は、いつも通りにペットの行方を探しながらも、事件の謎について考えていた。そして今日は、最近行っているカフェで考えていた。このカフェってペットOKだから、ポアロも入っていいんだよね。「…何で、アコードが狙われたのかな~」「わう~」温かいコーヒーを飲みながら。ボーっと考えていた。けれど、一向に答えは浮かんでこない。出口がない迷路みたいだ。「もしかして、知り合いだったとか…いや、それだとトルネオが知っているはずだ」トルネオは、知り合いだったのなら、そのことは私に教えてくれるはずだ。それに、知り合いなら私にわざわざ依頼なんかしないで直接いくだろう。「見た目で判断した…これも可能性としては低いな~」見た目だけなら、前にライブに行った時にアコードにそっくりなトルネオが声を掛けられえてもおかしくないはずだ。だけど、掛けられていない。見てなかっただけかもしれないけれど。だけど、昨日のお客さんは、多くて見ても精々20人くらい。少しくらいなら眼に入るはず…「だったら、特別な理由があるのか?」何か特殊な能力があるとか…、いや、あの二人に魔力資質は、ほとんどないと昨日、携帯で確認済みだ。「ポアロはわかる?」「わう?」ポアロは、のんびりと床に寝転がりながら、大きく欠伸をかいた。「わかるはずないか」ポアロは、普段は普通の犬と変わらない。私の言葉を理解は出来ているけど喋りはしない。「う~。何かヒントは…」「ごめ~ん! 待った?」「ん?」カフェのウェイトレスさんが、仕事を終えて、外に待っている彼氏に合流しているのが見える。「ちょっと長引いちゃって」「いや、全然待ってないよ」「それじゃあ、行こっか?」二人は仲良く手を握り、歩いていこうとしていた。「うん。それと、その指輪似合ってるよ」「そう? うれしいな。これ結構高かったんだ。人気だから、これつけてると金持ちと勘違いされちゃうよ」「はは、いいじゃないか」金持ちと勘違い? へえ、人気の商品で、それが高かったりするとそんなこともあるんだ。…高い? そういえばアコードは、出かけるときに…「それだ!!!」「わうっ!?」その言葉にピーンときた。もう思いっきり立って、膝を机の角にぶつける位。お食事に誘われた理由。高そうな腕時計。形見のネックレス。私は、急いでペット探しの常連に電話した。「コーデリアさん。今日もあのライブを見に行くんですか?」「うん」「わん!」あのライブから一週間経った日に、私とトルネオは、また同じ場所にいた。「これつけて。あとこれも」私は、ペット探しの常連のポルシェさんに電話して、貸してもらった物があった。ポルシェさんの家は、お金持ちで、私に依頼しに来るときは、いつも高そうな車に乗ってくる。ポルシェさんの家で飼っている、ペルシャ猫のドル君は、いつも家を脱走するらしい。その度に、自分の部下に探させるのは悪いと思っていたらしく、そこで私みたいな便利屋に頼んだのが始まりだった。何度か頼まれているうちに仲良くなって、電話番号の交換までしていた。それで今日は、ポルシェさんに頼んで、かなり高そうな装飾品を5品くらい貸してもらえないか頼んだところ快く貸してくれた。「な、何だか凄く高そうですね」トルネオは、キラキラと光って眩しい宝石の指輪やネックレスをつけて、緊張している。私だってこんな高級品なんてつけたことない。壊したら弁償出来るかな…「お姉さんは?」「アコ姉は、今日も先週の友達に頼んで、手伝いをしてもらってます」アコードが、ここに来ない理由は、トルネオは手を回していたんだ。中々手が早いね。「じゃあ、行くよ」「は、はい」公園に辿り着くと、先週よりも多く感じるくらいの人数がいた。その中で、前に公園であった、女性が紫のスカーフをして、来ているのを見つけた。女性も気づいたのか、こっちを見るとニコリと笑って近づいてきた。ちょっとムカついた。「あら、また来てたんですか?」「うん。でもあなたには関係ないでしょ?」「そうね」会話はそれだけだった。彼女はまた、私たちから離れて定位置に戻った。私は気づかれないように、彼女にある仕掛けをした。ライブは、先週と同じように始まり、先週とは違う曲を3個演奏し終わると楽器を片付けだす「コーデリアさん。終わっちゃいましたよ」「うん。私の考えが合ってれば、多分、何か起こると思う」今日のお客さんの中で、目立った高そうな物をつけている人は私たち以外は見当たらなかった。「あ…」紫のスカーフを巻いていた女性は、今日は何か予定があるのかあっさりと帰っていった。その女性を見つめていたとき、後ろから肩に手を置かれた。振り向くと、いたのは、バンドのメンバーたちだった。「何ですか?」「君たち、かわいいね。良ければ、今日の打ち上げを一緒にしない?」獲物はかかった。メンバーの打ち上げは、焼肉屋で行われた。酒が入って、テンションが上がってきている。ポアロには度々、悪いけど、外で待ってもらっている。痩せ型で頭を金に染めている男がデ・ト。ジムにでも行っているのか、筋肉質でこれまた金髪の男が、サリン。そして、その中でリーダー格に位置している、銀髪の男がモーガン。全員二十代。どいつも本名ではない。雑誌とかで紹介されるイケメンに部類するのはモーガンだけかな?「いやぁ、こんな可愛い子と、食事できるなんてついてるな!」「そうだね。嬉しいな」「私も楽しいですよ~」デ・トとサリンだけがはしゃいでいる。私も酔ったフリをしながら、様子を探る。トルネオは、早々にリタイアしている。未成年にこのお酒だらけの臭いは耐え切れなかったみたい。私も未成年だけど、父さんの訓練のおかげで、酔いにくい体質になっている。「モーガンさんは、飲まないんですか~」「ああ、俺はいいから、楽しんでくれ」唯一飲んでいないのがモーガンだった。モーガンは寝ているトルネオのネックレスに釘付けになっている。ちょっと探りを入れてみることにした。「この子って、いつもこんな感じに無防備なんですよ~。私もこの子利用して、結構いい生活させてもらってるんで、良いカモなんですよ~」その言葉を聞いた途端、モーガンは、ビックリした顔で私を見た。「…この子の家は金持ちなのかい?」「どこかの会社の社長の娘らしいですよ~。一緒に甘い蜜吸いますか~」全部嘘だけどね。密かに、ポケットに入っている、カード状の待機状態のデバイス、フラッシング・ブレインに録音を開始させる。「…君も、僕たちの計画に協力してくれないか?」「協力ですか~」「ああ、いい金儲けなんだけど、最近外れも多くてね。君が協力してくれれば、此方も助かる」これだけで、十分なんだけど、もう少し粘る。「ん~、どんな金儲けなんですか~」「簡単だ。俺とサリンとデ・トで協力して、頭の悪い連中から金を巻き上げるだけだ。ライブを聞きに来ている奴で、金を持ってそうな奴を、こんな感じに食事に誘って、その時に、このスカーフを渡すんだ。次のライブでそれを目印にして俺たちの魔法で洗脳して、金を巻き上げる。簡単だろ?」モーガンは、私が興味を持ったと思ったのか、急に饒舌になった。魔法を使うという言葉に何かの引っかかりを感じる。…魔力光は…「…あ」「どうかしたか?」「いえいえ! 何も!」ここで、もう一つの気になっていたことが解けた。あの不思議に光る魔法のライト。あれは、演奏を派手に魅せるためじゃない。魔力光を隠すための魔法だったんだ。「でも、魔法ってどんな魔法なんですか?」「管理局に一回、探られたこともあったんだけどな。あいつらも気づかないほどレアな魔法だ。俺たち3人がいないと発動しない魔法、インヴィテーションサウンドだ」「インヴィテーションサウンド?」「俺たち、3人の魔法を連結させて、発動するんだ。十分くらいで発動する。魔力量が少ない俺たちが、互いを補って発動する魔法なんだ。管理局の連中が実に来ているときは、普通に演奏するだけだけどな」そんな魔法を考えるくらいなら、自分で、働いて金を集めれば良いのに。「じゃあ、失敗ってのは?」「金持ちっぽいってだけで判断しているからね。実際は金持ちじゃなかったりもするんだ。この前、凄い宝石のネックレスをつけた女もいたんだけど、全然金は持ってなくてさ。損した気分だよ。ネックレスを取ってやろうかと思ったけど、それだとさすがに次の日すぐ気づく。だから、君が協力してくれたら、この子みたいな子をライブに連れてきたくれたらいいよ。もちろん報酬も払う」トルネオとそっくりだったのに、トルネオを見ていても気づかない。こいつらは、金か、高そうな物しか見ていなかったわけか。間抜けなバンド「う~ん、すみません。返事は、来週で良いですか?」「ああ、いい返事を期待している。それと、このことは他言無用だ」「わかりました。それと、あのライトの魔法。少し教えてもらっても良いですか?」「ああ。メモ渡すよ」その後、お開きになり、トルネオにスカーフを渡しておいてくれと、私に言って解散となった。その日は、トルネオを連れて、家に帰り、アコードに連絡して、トルネオを家に泊めた。そして、夜の深夜に、あの紫のスカーフをつけていた彼女。セルフィッシュの次の獲物も動き始めたので、映像と音声を録音しておいた。「あの、コーデリアさん…」あの食事会から一週間。トルネオは、一応、スカーフをしている。私は、この一週間、モーガンから貰った魔力光を隠す魔法の練習をしていた。案外簡単で、すぐに使用できるけど、そんなに戦闘に使える魔法じゃなかった。そして、今日のライブには、二人と一匹じゃなくて、三人と一匹になっている。アコードも連れてきた。「久々だから、楽しみだな~」アコードは、久々にバンドが見れるのが嬉しいのかテンションが高い。こんなに夢中になってくれる人がいるんだから、しっかりとバンドで食えるように頑張ればいいと思う。「いいんですか? アコ姉を連れてきても…」「うん。多分、これで終わりだから」そう言うと、トルネオは、驚いたように私を見た。「えっ!? 解決したんですか!?」「まだだけど、これで奴らは、お終い」自分たちで自分たちへの鎮魂歌を歌ってね。ライブが始まって、客のテンションが上がり始める3曲目に入ろうとしたときだった。突然、バンドのメンバーを照らしている魔法のライトが、メンバーたちを囲むように照らした。まあ、私がやったんだけどね。さすがにメンバーたちも、馬鹿ではないみたいで、すぐに魔法をキャンセルして、魔力光を消した。「おい! デ・ト! 何かトラブルか!?」「いや、トラブルはないよ! 誰かが操作したみたいだ」「何!? 誰が…」私はゆっくりとステージに上がった。「ゲームオーバーだね」「手前! 何したかわかってんのか!?」サリンが私に掴みかかろうとするが、私は手で制した。「あまりそのライトの上を通らない方が良いよ。そのライトのおかげで見えないけど触れた瞬間に死なない程度に痛めつける罠が張ってあるんだ」その言葉を聞いて途端、サリンは顔を真っ青にしてライトから離れた。「いい子だ」私は、バインドで三人を縛り上げた。なす術もなく縛り上げられる。観客たちは、何が起こったのかわかっておらず、呆然と私たちのやり取りを眺めていた。とりあえず、大音量で、昨日の焼肉屋のやり取りと昨日、女性に仕掛けていた盗聴器で、女性とのやり取りも流す。女性とのやり取りは会話が少ないからちょっとわかりにくかったけど、十分に証拠になる。「あんた、確かコーデリアとか言ったな。なんでこんな事した」大音量で自分の声が流れている中、リーダー格のモーガンが、諦めた表情で、私を見つめる。「あ、そういえば、本業を話してませんでしたね」モーガンは、私を見続けている。「私は、魔導師探偵のコーデリア・マセラティです」「ご協力に感謝します」「いえいえ~」あの後、管理局に連絡して、すぐに3人を確保しに来てもらった。と言っても、もう確保し終わっている状態だったので、連行するだけだったけどね。それに、今の彼らは、傷だらけになっている。イケメンだったモーガンなんて、酷い有様だ。あの後、アコード率いる、女性ファン全員で袋にされてしまっていた。「あの! コーデリアさん!」「あれ? トルネオ? お姉さんはいいの?」結構ショックを受けたはずだ。自分が騙されていたのを知ったんだから。「アコ姉は、大丈夫です! 寧ろ、あんな奴らのファンだったなんてムカつくー、とか言って、仕事仲間と自棄食いしてくるらしいです」どうやら心配なかったみたい。「今回は、本当にありがとうございます!」「気にしないでよ。仕事をこなしただけだからね」少し興奮した様子で、私に話しかける。「それにしてもコーデリアさんって凄い魔導師だったんですね! あんな罠が張れるなんて…」「罠? 何の話?」「えっ? あいつらを捕まえたときに罠を張ったって…」ああ、それか。「それ嘘だから」「…ええぇえぇええ!!!」夜中に大きな声が響き渡る。「で、でも! あんなに自身たっぷりに…」「そうだね」ハッタリは、ビビった方が負けってね。これは後日談なんだけどあの後、トルネオは、報酬を払いに来た。別にそこまで払わなくてもいいと言ったんだけどお礼の気持ちと言うことで、結局5万円を頂いてしまった。金は、持っている奴から貰う!ってお爺様は言ってたんだけどな…アコードは、今度は、違うバンドに嵌っているらしい。今回は、メジャーで有名だから大丈夫だと言っていた。そのバンド名を教えてもらったけど、やっぱり私は、知らなかった。バンドメンバーの事件のことは私の手のひらより小さく、新聞に載ったんだけど、私の名前は載っていない。…民間協力者ってなんだ…<あとがき>外伝…じゃなく。同じ世界で頑張っているコーデリアちゃんでした。いつもより長めになっています。スペシャル的な。コーデリア事件簿は、実は、初期では、これを投稿しようとしていましたが、これだとなのはssじゃなくて、魔法が使える世界の探偵なんですよね。しかもネタが少ないし…ちなみにこれは、59話から1年後くらいの時間軸です。コーデリアもstsから関わってくるキャラになってきますんで。では!また次回!!おまけ魔法紹介インヴィテーションサウンド(Invitation Sound)使用者:セルフィッシュ一人では発動しない、三人で発動する特殊な魔法。発動するまでに時間がかかるので戦闘には、全く向かない。対象の行動を自由に操作できるが、魔力資質がない者に限るのが弱点。唯一、認められる点と言えば、音で対象に魔法をかけるので回避しにくいところぐらい。