「じゃあ行ってくるよ」「本当に大丈夫なのか?」「大丈夫だよ。この人形の性能は君が一番よく知っているだろう?」「…そうだな。じゃあ気をつけて」「ああ」第80話「甘い蜜と欲望の蜜」---サラーブ「……」「シントラ~。どうしたのそんなに真剣そうに」サラーブのリビングにあたる部屋にシントラは一人でこの間の戦闘データの映像を見つめていた。朝食を食い終わってからもそのデータを見続けるシントラが心配になったアリシアがシントラに声をかける。「またそのデータ見てるの? シントラって誰とも戦闘しなかったよね?」前回の戦い、ヴィヴィオとレリックが関わった事件ではシントラは嵐を迎えに行ったくらいの働きしかしていない。そのシントラが何故この戦いのデータを真剣に探るのかはアリシアには全く理解できなかった。「こいつ…」シントラはアリシアの問いに答えはせず、映像に映っている一人の少女を指した。「…? 誰?」「コーデリアだな」「アインス」緑の髪を持った女性にアリシアは見覚えがなく首を傾げたが、その頭にふわりと呆れたようにアインスが降り立つ。「嵐の話しで出てきた魔導師だ。嵐の目的を達成するための一番重要な鍵」「あ、あははー。…忘れてた」誤魔化すかのように頭をかくアリシア。そんなアリシアにアインスは小さく溜息を漏らす。そんな二人のやり取りを黙って眺めていたシントラは視線を再び二人のやり取りからコーデリアに戻してしまった。「…本当にどうしたんだ?」「…こいつが…鍵…か」シントラはこの日の夜、サラーブから一時姿を消した。---機動六課「はい。模擬戦終了。どうだったティアナ?」「コ、コーデリアさんの戦い方はもの凄く参考になりました」一方機動六課ではコーデリアとスバル・ティアナの模擬戦が行われていた。「そうだね。コーデリアさんとティアナのスタイルはよく似ているから。スバルはどうかな?」「コーデリアさんも凄かったけど、ポアロも…」「わん!!」自分の名前が呼ばれたからなのかポアロは元気よく吠える。「あんまり複数戦はやらないんだけど二人くらいの人数ならポアロと二人で抑えられるからね」ポアロの頭を撫でながらニコニコと笑いながらコーデリアはなのはと話している。「じゃあ朝の訓練は終わり! みんな体をよくほぐしてから戻るんだよ」朝の戦闘のデータをまとめるためになのははいち早く戻っていった。そのなのはを見届けた後にティアナがコーデリアに話しかけた。「あ、あの、宜しければお昼ご一緒に…」「うん。別に構わないですよ」笑顔で答えるコーデリアにうれしそうな表情をするティアナ。そんな二人を眺めながらエリオはふと呟いた。「なんだかなのはさんに話しかけるスバルさんみたいですね」そう呟いたエリオだったが呟いた後に自分の失態に気づき口を塞ぐ。「え? なんか言ったエリオ?」「い、いえ…何でも」誰の耳にも入っていないことに安堵の息を吐く。もしもティアナの耳に入っていたら烈火のごとく怒り狂うだろう。主に恥ずかしさが理由で。「それじゃあお昼に」「はい!」---食堂「へえ~、そんな事件があったんですね」「今でもその姉妹とは連絡とかとってるんだ」約束どおり食堂で食事をしている六課のフォワードメンバーとコーデリア。食事をしながらコーデリアの関わった事件の話を聞いていた。「コーデリアさんはどうして魔導師探偵になったんですか?」「…いろいろ理由もあるけど、初めは祖父に憧れたからかな」懐かしむように話すコーデリア。そんなコーデリアにスバルはさらに質問をする。「最初?」「うん。最初。私って魔力量はそんなに多くないでしょ」「え、ええと…」はいと言うのが失礼な気がして口ごもるスバル。そんなスバルを見てコーデリアはニコリと笑う。「いいの。気にしないで。本当のことですから」「すみません…」「だから周りからは祖父と同じ道を歩むのは無理だって言われ続けていた。私もそうかもって諦めかけていたときにその人はいきなり現れたんです」思い出すように目を瞑るコーデリアの太陽の髪留めが光に反射して光る。「その人は強かった。見ず知らずの私に協力してくれて、諦めかけていた私の道を月のような優しい光で明るく照らしてくれた。」コーデリアの強い言葉にティアナは神々しいものを見るように見つめる。スバルたちもそこまでではないが強い視線を向けている。「そこからかな。真剣に取り組んで魔導師探偵になろうって思ったのは。もしあの時あの人に会っていなかったら多分この仕事はしていなかったと思う」「…凄い人がいたんですね」話を聞き終えたスバルたちは呆気に取られた表情でそう呟くしか出来なかった。「ねえティア」ふと思い出したかのようにスバルはティアナに話しかけた。「何よ」「今日ってベルツリーさんは誘わなかったの?」「残念だけど今日は朝から休みを取ってどこかに出かけたらしいわ」「そっか~。残念」「ベルツリーさん?」聞いたことのない名前にコーデリアは疑問の声をあげる。「あれ? コーデリアさん、この前一緒に食事しましたよね」「…あ、そう言えば、最初に会ったときから名前聞いてなかったです…」実はコーデリアは、嵐の名前を一度も訪ねたことがなかった。そのため名前を聞いてもピンとこなかったのだ。嵐も嵐でコーデリアとは積極的に話をしようとは考えておらず、適当に会話する程度にしていた。コーデリアが知らないだけで、後ろをこっそりと尾行されていたりもする。犬のポアロも気づいていなかったが。「ベルツリーさんって優しいから凄い話しやすいんですよ」「はい。私もお世話になりました」「キュクル~」ちびっ子コンビに説明を聞いたコーデリアはそんな人だったのかと小さく声に出した。「それじゃあ今度話してみようかな」「それがいいですよ」「あれ? 今日は、お休みできてないんですよね?」「はい、そうですけど」「ふふ、コーデリア探偵の推理ではその人は今日、デートと見たです」「「「「……」」」」ビシッと指を立てたコーデリアの言葉に固まるフォワードメンバー。コーデリアが飲み物を注ぎ足したとき再起動した。「で、デートですか!?」「な、なんか想像できない」「大人です…」「で、デートか…」上からスバル・ティアナ・キャロ・エリオの順番で驚く。スバルは純粋に驚き、エリオとキャロは大人な話に少し顔を赤くしている。ティアナは微妙に悩んだ表情だ。「想像できないって…そういう人なの?」「え? い、いや、なんというか…」コーデリアの言葉に困った顔をしながらコーデリアの視線から目を逸らす。「なんというか?」「…女性に積極的に行動する人に見えなくて」「「「あ~~」」」よく理解しているのかもしれない。「あ! ヴィータ“さん”! 一緒にデザート食べましょうです!」「またお前かよ!? ていうか、なんであたしだけさん付けなんだよ!?」sideout「っっふえっくしょん!!!!」うう、なんか一瞬すごい寒気が…風邪か?「マスター。風邪ですか?」「ん? あ、いや大丈夫」一緒にご飯を食べているナズナに心配されてしまった。今度から気をつけねば。「それにしてもナズナと直接会うのは久しぶりだな」「はい」嬉しそうに微笑むナズナに心が癒される。六課に潜入してからなにかと苦労が耐えなかったからな。目の前のナズナはいつものポニーテイルではなく、髪を下ろしている。おまけに目にはサングラス。これだったらよく見なければなのはに似ているなんてわからないだろう。「今日は暇だったのですか?」「うん。スカさんがスカリエッティと交渉に一人で行くって言ったからね」手に入れたレリックを持ってスカリエッティと交渉しに行くと聞いたときは俺も行くと言ったんだけどスカさんは一人で行きたいと言い出し、それでもついて行きたいと言ったけど結局スカさんに諭されて一人で行かしてしまった。そうなるとスカさんがいないで行動するのも怖いので必然的に仕事は休むことになった。暇つぶしといってもデバイス弄りは飽きたし、この間買ったクロスワードパズルは夜中にスカさんに全部やられたからもうやりたくない。誰かからお誘いの電話でも来ないかなと思ったけど、サラーブからはこっちに通信できないようにしてある。だからこっちからサラーブ連絡してナズナがちょうど暇だと言ってくれたのでお出かけに誘った。連絡をし終わってから、これってデートじゃね? と考えて焦ったのは後の祭りだ。「美味しいですね」「あ、ああ」一人で焦って部屋の中を走り回ったのはいいが実際に会ってみると普通に接してくるナズナに自分一人だけ焦っていたという事実にナズナの大人さを俺の子供っぽさを思い知らされて軽いショックを受けた。「確かに美味い(緊張で味わからん…)」真っ赤なトマトを口に入れても全く味がわからない。普通に接してくれるナズナを見て安心したのも束の間。今度はナズナの淫夢を思い出してしまい、トマトよりも真っ赤な血を噴出しそうになってしまった。「この後はどうします?」「ん、えと、映画でも見るか…」「はい」結局最後まで味はわからなかったが腹は膨れた。お会計を済まして目的の映画館を目指した。そこでふと思い出したが、ナズナってトマトはあんまり好きじゃなかったはず。知らない間に好きになったのか? そうじゃないとしたら何で美味しいなんて言ってきたのだろう。『駄目だ! これ以上近づくな!』映画についてもやっぱりあの淫夢は俺の脳に焼きついたまま剥がれない。ヤバイ。やば過ぎる。映画の内容が全く頭に入ってこない。むしろこの暗闇の中でのシチュエーションが頭に…ヤバイ。『どうして? 私たち10年以上も一緒に暮らしてきたでしょ?』ナズナはどうなんだろう? 横目で見る限りは映画に集中しているように見えるのだけどな。だけど映画館って暗いから相手の表情が読み取りににくい。『だ、駄目だ! 確かにお前は忠実な眷属だった。けど今のお前はなんだ!』どさくさに紛れて手とか握るアクシデントは起こらないだろうか? そういえば今見ている映画のジャンルはホラーなのか?『変なこといいますね…あなたが私をこうしたのですよ』…この場面だけではホラーかどうかわかりにくいな。というか途中から見る映画ほどつまらないものはない。『そ、そんな力を与えた覚えはない! 俺に近づくな! 離れてくれ!』映画が終わったらどこに行こうか…。久々にゲームセンターでもいいな。スバルとティアナがアニメで言っていたアイスクリーム屋にも行ってみたい。『クス…愛に不可能はないのです。大好きな人のためなら何だって出来ます。だからこれからは私があなたを…守りマスヨ♪』よし。この映画を見終わったらデザートでも食いに行こうって誘ってみよう。『や、止めろ! 俺は死ねないんだぞ! 死ねないだけで痛いのは痛いのだ! なのにそれを食らったら…食らったら…』あ、手握れた。『ギャアァアアアアァアアアァアア!!!!!!』にぎにぎ「バニラとチョコはやっぱり美味だな」「美味しいです」映画を見終わった後にスバルたちの行っていたアイス屋で一息つく。ベンチに座りながら待ちゆく人々を見ながらアイスを食べる。ただそれだけだがやっぱりナズナといると落ち着く。「マスター」「ん?」アイスを食べていて体がちょっと冷えたなと感じたとき、ナズナから声をかけてきた。「どした?」「少し質問が…」「なんだ? 言ってみてくれ」アイスを食べてご機嫌な俺はナズナの音質がいつもより低いことに気づかなかった。「高町なのはとは何もありませんね?」アイスを食べていた体の温度がさらに下がった気がした。side-----スカリエッティの隠れ家「それでこのレリックが交渉の条件と」『それに私たちの場所には聖王がいることも忘れてもらっては困る』人間のスカリエッティとスカリエッティによく似た顔のつくりの人形が互いに睨みながら話をしていた。しかし、突然スカリエッティが席を立ち上がりゆっくりと歩き始めた。「難しい話はあとにしよう。今日君を呼んだのは用事があったのだよ」ゆっくりと人形のD‐スカリエッティが座っている席の回りをぐるぐると回り始める。『……』「しかしやはり可笑しな感覚なものだね。自分と会話をするというのは」スカリエッティが次に何を話すかがわかっているのか、それとも無視しているだけなのかD‐スカリエッティは黙ったまま席に座り続けている。「普通じゃ絶対に起こりえない。そう考えると私は幸運だ」「同じ能力を持つ二人の天才が同じ世界に現れる確立なんて、天文学的な数字だよ」「もしかしたら神の思し召しとさえ考えるよ」『…用件を言ったらどうだい?』D‐スカリエッティの言葉を待っていたかのようにスカリエッティは振り返り。「君も私と同じ無限の欲望だ。家族などという弱い鎖に縛れるようなものじゃない。内に宿る欲望が疼くだろう?」『……』「我々に協力してくれないか? ドクタースカリエッティ、いや兄弟」sideoutアイスクリーム屋でかなり問い詰められたが何とかなんともないことをわかってくれて落ち着けた。休憩していたはずなのに疲れが増した気がする。アイスは溶けちゃったし。あの後は適当にアクセサリーショップに行ったりゲームセンターで対戦したりと暇がない一日になった。「それじゃあ俺は帰るから」「はい。今日は楽しかったです」ここで別れて帰ろうかと思ったとき何かに引かれる感覚があり前に進めない。「あ…」惹かれる感覚はナズナの手だった。…気づかないうちに自然に握っていたみたいだな。気づかなかった。このまま握っていたら別れられないと思い離そうとしたのだが…「……」「……」離れません。「…えと…ナズナ?」「…しだけ…」「え?」「もう少しだけ…このままで…」ぎゅっと弱弱しい力で俺の手を握るナズナに嫌なんて言えるはずはない。俺とナズナは近くのベンチに腰を下ろし夕日が沈むまでそのまま手を繋いだままでいた。side-----機動六課 ~夜~「月がきれいだね、ポアロ」「わん!」海の煮える場所、なのはとティアナがお互いの意見を交わした場所にコーデリアとポアロはいた。「けど、どうしたのポアロ? いきなり私を呼ぶなんて」「あたしが頼んだんだ」「っ!?」月の照らす中、自分とポアロしかいないと思っていたコーデリアは突如聞こえた声にデバイスを構え備える。聞こえた声の人物は影に重なっているせいで姿は見えない。「警戒すんな…って言っても無理な話か」影から出て月明かりに照らされた姿を見てコーデリアの警戒の表情が驚きの表情に変わった。「し、しし、シントラさん!!??」「ば、馬鹿!! でけぇ声出すな!」驚きのあまり大声をあげてしまったコーデリアをシントラが抑える。「お、お久しぶりです! どうしてここに!? ポアロで呼んだって…私に用事ですか!? 魔力反応がないのは何故!? ヴィータさんと似ていますね! 昔と変わらないのはどうして!?」「あ~…もう…」月と太陽の夜は長くなりそうだった。「そ、そうだったんですか…」「あたしの正体なんてどうでもいいんだ。それよりコーデリア、お前…じいさんの…持ってるだろ」あの後シントラは包み隠さず全て話した。家族のことや回帰組のことは話してはいないが。自分のこと、何故ここに自分が来たか、魔力反応が何故しないのかは話した。「…はい」「……渡してもらえないか」「いいですよ」「そっか…力尽くは嫌だったけど…えっ?」デバイスを握り締めたシントラはコーデリアの言葉に思わずデバイスを落としそうになった。「い、いいのか!?」「はい。だってシントラさん、悪いことには使わないんですよね?」「そ、それはそうだけど」「それにシントラさんの目、シントラさんと初めて会ったときの私を見ているみたいです」初めて会ったときと言うとコーデリアが父のために薬草を取ろうと躍起になっていた頃だ。確かに今のシントラとは状況が違うがお互い家族のために躍起になって行動している。そしてまさかここまで簡単にいくとは思っていなかったシントラは少し反応が鈍かった。「じゃあ」「けど!」「くれ」と続けようとしたシントラの言葉はコーデリアに遮られた。「私に勝ったらです」「…は?」挑戦的な目つきでシントラを睨むコーデリアの目は嘘をついている目ではないことをシントラは見抜いた。その目を見て自分たちが最後に別れたときの瞬間を思い出していた。---いつか…またいつか会ったときは、あたしと勝負しようぜ!---しょ、勝負ですか!? が、頑張ります!---それまでしっかり鍛えとけよ! あたしも4倍強くなってるかも知れねえからな!---はい!「…っく! いいな、コーデリア! お前いいよ!」コーデリアの挑戦的な顔とは違いシントラはサラーブでも見せないような笑みを浮かべる。その場にアリシアが入ればシントラを見てこう言うだろう。“何だか悪そうな笑顔”と。「わかった。だったらその鍵はあたしが勝ってもらいうける」「簡単にいくとは思わないでください。こっちにはポアロもいるんですからね」「わん!」かかって来いとでも言っているのかポアロはシントラに向かって強く吠える。「今日はもう遅い。都合がついたらあたしに連絡してくれ」そう言うとシントラはエッケザックスのプライベート通信のナンバーが書かれた紙を渡した。「一応犯罪者だからな。内緒にしてくれよ」「大丈夫です。私が受けた依頼はスカリエッティの逮捕協力ですから」「そりゃ安心だな」実は自分たちの陣営にもスカリエッティはいることに気づいたらどうなってしまうのだろうとシントラは頭の隅で考えた。「じゃあな」「はい。また」「いてっ!?」コーデリアと別れたシントラはサラーブに直通しているマーキングポイントに向かっている途中曲がり角からいきなり現れた人物とぶつかってしまった。「いてて。ごめ…ってスカ山かよ」知らない人にぶつかってしまったと思ったシントラはすぐに謝ろうとするが目の前にいるのは見たことのある人間、というより人形だったのですぐに態度を改めた。『…そういう君はどうかしたのかい。こんな時間に』「あっ! それがよ--」シントラは何とかコーデリアとの交渉がうまくいって最後の鍵、コメテスアメテュスが手に入ることを伝えた。『…そうか。だったらもうこの六課にいる意味はないね』「そうだろ? だから嵐にも伝えといてくれよ」姉御の機嫌もよくなるからな、と話し終えたシントラはマーキングポイントの場所に帰ってしまった。『フフ…すまないね…』おまけ嵐とナズナが見ていた映画『Vampire and attendant's love?』内容少し頭のゆるい吸血鬼と忠誠心とか抜きにしてご主人ラブな眷属の恋愛話。ヤンデレな眷属の過激な愛にヤンデレエンドの主人公の死が出来ない哀れな吸血鬼の恋物語?<あとがき>これで最後の平穏。次回から襲撃・聖王の器編ですね。とりあえずスカさあぁああぁあん!!! と叫びたくなる内容ですがスカさんは一体!?では!また次回!!