「……っ?」「カーミラ? どうかしたのか?」「…いや、何か嫌な感じがしただけだ。気にしないでくれ」「そうか。じゃあ急ぐぞ」「ああ。…ところで、その狐のお面はなんだ?」「変装だ」「…本当に時々お前が分からなくなる」第75話「人形王との交渉」side--アリシアが女性に稲妻を纏った一撃を食らわせた後、女性は稲妻を一身に受け、衝撃を殺しきれず、その身をビルに突撃させた。アリシアは、女性に攻撃が当たったのを確認すると、すぐにその場から離れ、女性の様子を伺った。さっきの暴走魔法のおかげでアリシアの体にも、多少とは言え、ダメージを負っている。迂闊に相手に近づき、不意打ちの一撃を食らっては堪らないとアリシアは判断した。「はぁ…はぁ…これ、で…決ま、ったか、な…」≪攻撃は完璧に命中しました。後は彼女の耐久力しだいです≫「お願いだから倒れてよ~」手を合わせ、神に祈るかのようにアリシアは願う。その願いが神に届いたのかは分からないが女性は、ビルに突っ込んだまま動く気配を全く見せない。バリアジャケットを着ているため死んでるわけではない。魔力ダメージが大きく気絶しているのだろう。「か、勝ったの?」≪……≫アリシアは十分に警戒しながら女性に近づき、ビルの瓦礫に埋もれている女性を確認する。瓦礫に埋もれ、体全体は見えないが、瓦礫の間から見える上半身はピクリとも動く様子はない。「…ちょんちょん」≪アリシア…あなたは…≫指先でそ~っと女性の体をつついてみたアリシアだが、やはり女性に動く素振りはない。アリシアは、それを確認すると満面の笑みを浮かべ立ち上がり、空に腕を掲げ、ガッツポーズをとった。「しょ、勝利ーーー!!」初めて家族以外の魔導師と戦い、見事勝利をしたアリシアの喜びは最高潮だった。「や、やった~! これで私も一人前! 嵐やナズナ! シントラにアインスとも並んだね!」≪おめでとうございます。アリシア≫「リニスのおかげだよ~!」その場でクルクルと回り、抑えきれない喜びの感情を体で表す。そのせいで、瓦礫に埋もれている女性が微かに動いたことに気づけなかった。女性はゆっくりと体を動かし体に圧し掛かっている瓦礫の山を力尽くで押し退け、立ち上がろうとしていた。「!? ま、まだ動けるの!?」女性が動き出したことに気づいたアリシアはすぐに戦闘態勢に切り替え、女性を攻撃しようと考えるが瓦礫を必死に退けている女性の顔を見てその考えは消えてしまった。「スバ…ギン、ガ…ゲン…」アリシアと戦っているときには、一言も言葉を発さなかった女性が瓦礫を退かしながら言葉を発している。それだけではなかった。瓦礫のせいでほとんど壊れてしまった仮面から見える女性の眼には、意思の光が途切れ途切れだが、宿っている。そんな女性の急激な変化にアリシアは攻撃をしていいのかと躊躇してしまった。だが、それも長く続かなかった。瓦礫を退かし終わり、体が自由に動かせるようになった女性の後ろから病的なほど白い髪を持った男が現れた。現れた男、ジムキオ・ヘムローディが女性に触れた瞬間、糸が切れたかのように女性は倒れてしまった。「だ、誰!?」「僕のとっておきとここまでするなんて、アリシア・テスタロッサ。あなたがフェイト・テスタロッサならどれ程よかったか。…ふむ、電気の攻撃のせいで少し弱まってしまったか? それともダメージのせいか…」ジムキオは芝居がかった動きでショックを受けている表現をしてアリシアを睨んでいる。その動き・言葉にアリシアは言葉では表現できない嫌悪感を抱いた。基本的にアリシアは人を嫌うことなんてない。だが、何故かこの男だけはアリシアはどこか気に入らない印象を受けた。「…そういえば、あなたも前に嵐の邪魔して、更にナズナにちゅうしようとした人だね」「ええ。ナズナの唇を奪えなかったことは、非常に残念でした」「それ以上、私に近づいてこないで」溢れ出る嫌悪感を隠そうともせずにアリシアはジムキオを睨む。「…ふぅ」アリシアの態度が気に入らなかったのか、自分が気に入られていないことにショックを受けたのか、どちらかはわからなかったがジムキオが溜息をつくと同時に魔法陣が展開、可笑しな服を着ている人間が四人現れた。「子供には人形が似合いますね」「もう人形で遊ぶほど子供じゃないよ」四人の人間がアリシアに一斉に飛び掛る。アリシアは、残り少ない魔力を拳に纏い撃墜に備える。そのアリシアの後ろからジムキオではない男の声が聞こえてきた。「そうだな。人形で遊びたいなら、家で人形と遊んでろ」「ふふん! そうだよね!」アリシアの拳が二体の人間を突き飛ばし、男の赤い爪が残りの二体を殴り飛ばした。「…来ましたか」「一番近くにいてくれて助かったよ」男、嵐は、アリシアと背中合わせになりながらも、視線はジムキオに向けていた。医者のようなバリアジャケットに祭りなどで使いそうな似合わない狐のお面をつけながら。そしてその胸ポケットがモゾモゾと動き出し、一人の少女、カーミラが顔を出したかと思うと、ジムキオを見て表情がみるみる変わったいった。「お、お前! 変態人形王! ど、どういうことだ!」「…おやぁ? お久しぶりですねぇ~。カーミラちゃんじゃないですか」「話に聞いたときから似てると思ってたが! まさか本当にお前だったのか!」sideout何だかカーミラとジムキオが場の雰囲気をややこしいことにしてくれていた。というかカーミラは、こいつと知り合いだったのか? それもかなり昔からの関係らしいな。…こいつ自身が話してたあの人形の御話…。その王がこいつだったってことなのか? だったら血塗られた戦士ってのは…「相変わらず頭に血が上りやすい子ですね?」「お前!」「落ち着けカーミラ。…まさかあんたが王様だったとは。想像もつかなかったよ」「自分で考えてみたら面白いと言ってあげたのに」クスクスと余裕のある顔で笑うこいつの顔が気に入らない。スカさんの話を聞いた後、いそいで街に出かけ、たどり着いた街はもう戦いが始まっていた。スカさんの話では人形野朗も動くという話だったから、人形野朗の居場所を探しているとちょうど空にアリシアが見えたから合流しようと思った矢先に、人形野朗を発見した。そこでカーミラの爆弾発言によって、場が混乱してしまったというわけだ。「何でお前が生きてるのかとか、どうなってるとかはどうでもいい。ていうか教える気はないんだろ?」「よくわかりましたね」自分で考えろって言われるのが落ちだからな。俺はドクターソードを展開して、アリシアを庇うように前に立った。「嵐?」「アリシア、リニス。二人はナズナと合流してレリックの確保を。こいつは俺が何とかしてみる」「え!? け、けど嵐! 大丈夫なの!?」「あたしがついてる。こんな変態なんかにやらせはしない」「うぅ…絶対負けちゃ駄目だからね」俺とカーミラの言葉にアリシアは渋々従い、ナズナの魔力が感じられる方向に跳んで行った。やはりあの女性、クイント。何故生きているのか色々気になるが、そのクイントとの戦闘の疲れで足取りが重そうに見えた。そしてクイントは、ジムキオが魔法陣に回収済みであった。アリシアの姿が見えなくなった途端、周りにいた四人の人形が俺に向かってそれぞれの獲物を突き刺してきた。だが、俺に突き刺さることはなかった。何故なら、俺の周りには鉄壁の血の盾が展開されていたから。「ユニゾン、ギリギリセーフ…」≪格好つけて油断してるからだ!≫『全く同感だね』「め、面目ない…」敵の攻撃を防いだ俺は、目の前にいるふざけたセンスの服を着ている男、いや、人形に手に持つドクターソードで切り裂いた。そして、俺の周りを浮遊している小さなメス、ドクターソード(小)が残りの敵も切り裂いていく。この小さなメスを操作しているのは俺ではなくカーミラだ。俺はこのメスの操作を気にせず、自由に動ける。「そらよっ!」盾にした血の形状を針状に変化させ、盾と接していた人形の体を突き刺し、その攻撃によって倒れた人形に覆いかぶさるように血の盾は崩れていった。「やはりこの程度では相手にもなりませんか」≪当たり前だ! あたしを嘗めるな!!≫「段々と戦い方が彼に似てきてますね。彼と同じで実に不愉快だ」「悪いな。不愉快で」「……」俺の言葉に全く反応を示さずに指を鳴らすとジムキオの目の前に魔法陣が展開された。相変わらずどこか汚い印象を受ける魔法陣だ。そして、また人形を出してくるのかと思った俺の考えを裏切るかのように出てきたのは一振りの剣だった。形は特に可笑しなとこはない。よくあるごく普通の剣だ。だけど明らかに普通の剣とは違う部分がある。一目で分かる。「…なんだあれ? なんか…気持ち悪いな」≪あれは…≫『どこかで見たね』刃の部分に何か呪文のような古代語のようなわけのわからないものが書かれている。それを見た途端、言いようのない気持ち悪さが俺の体を駆け巡った。あれは、気持ち悪い。近づいてはいけない。「フフ…」剣を見ている俺の表情が可笑しかったのか、ジムキオは俺に向けてニッコリと笑った。そして笑ったかと思うといきなり俺に向けて跳躍し、その手に持つ気持ち悪い剣で切りかかってきた。「させるか!!」気持ちの悪さは消えないがこのままジッとしていても切られるだけだと判断した俺はドクターソードで防ごうと思い――≪っ!!! 駄目だ! 今の状態でその剣は!!≫打ち合った俺のドクターソードとジムキオの奇妙な剣。俺のドクターソードは打ち合った瞬間に罅が入り粉々に粉砕され、赤い結晶が俺の眼前に散った。そしてその呆気なく砕け散ったドクターソードに目を取られた俺はジムキオの拳を顔面に受けて空から地面に叩き落された。side--高町なのはとナズナが争った場所は幾つかナズナたちの攻撃で崩れてしまったビルがあった。そしてその荒れたビルの空。なのはの攻撃を食らったナズナの周りに爆煙が立ち込めていた。しかしナズナは墜ちてくる気配はない。なのははさっきの攻撃は確かに命中したはずだが、万が一に備えて立ち込める爆煙を睨んでいた。「……」そんな沈黙を破ったのはやはりナズナだった。『Sonic Move』「っ!?」声が聞こえると共に気配のする方向にプロテクションを展開する。「っ嘘!?」しかしプロテクションを展開した方向にあったものは黒い魔力の塊。明らかに攻撃が目的じゃない。獲物をおびき寄せるおとり。すぐにプロテクションの展開を中断して攻撃に備えるように急いだが、ナズナの攻撃の方が些か速かった。「う、…っが」なのはの腹から黒い魔力刃が生えた。後ろからナズナが突き刺しただけ。ただそれだけだ。殺傷設定ならばなのははこの瞬間に命が絶たれただろう。薄れる意識の中、なのはが見たナズナは自分の攻撃で傷ついている気配はなかった。それに眼が行ったせいで首飾りの十字架が淡く光っているのに気づけなかった。「…っふ!」魔力刃を振り回し、手ごろな場所になのはを叩き降ろしたナズナはミーティアの構えを解かなかった。魔力刃を消してブレードフォームからバスターモードに切り替える。ナズナはなのはに容赦する気は微塵もなかった。魔力が集束されていくのを眺めながらなのはもニヤリとやはりいつもの彼女とは思えない笑みを浮かべる。ここでナズナが手加減すればなのはは怒っただろう。自分は全力でやった。それなのにナズナが最後の最後で自分に情けを与えるなんて許せない。だからこそなのはは笑った。「っちぇ、また、か…けど今、度こそ…」「ディバインバスター」なのはの意識を黒い魔力が飲み込んだ。「はっ…はっ…」『Is it safe? Master (大丈夫ですかマスター?)』「だ、大丈夫です。それよりありがとう」『It doesn't worry. I am arms of master. (お気になさらず。私はマスターの武器ですから)』ナズナがなのはの最後の攻撃を防げたのは半分はミーティアのおかげだった。ナズナが気づけなかったなのはの攻撃を瞬時に察知したミーティアは即座にプロテクションを展開したが少々間に合わず、少しだけ攻撃が通るはずだった。だが、攻撃が当たると思われた瞬間にナズナのつけている首飾りが突然光を発してナズナの周りに結界を展開させてナズナを守ったのだ。「はっ、マスターに、感謝…です、ね」黒い十字架を胸に抱いて、今はいない主に感謝するナズナ。そして十字架に傷がついていないことにホッとした。「はぁ…はぁ…」『Master. Is it really safe? (マスター。本当に大丈夫ですか?)』戦闘が終わったナズナはミーティアを支えにして立ち、息を整えているが一向に整え終わる気配がない。「おか、しいですね…体か、ら力、が、抜ける感、覚が…」「それは私が近くにいるからでしょうね」「っ!?」声のする方向にいたのは以前ナズナを捕らえた灰色の髪を持った女だった。「どういう、ことだ」「…ふぅ」女がナズナに見せるかのように手を掲げるとそこから黒の魔力弾と桃色の魔力弾が浮かびあがった。「…っ!?」本来魔導師が持っている魔力光は一人一つ。だからこそナズナは女のしたことに驚きを示した。「私にはちょっとした特技があるの。人の魔力を拝借して自分の力として使うことがね。まあ、相手に触れるか攻撃されたりしないとうまく盗れないけど」実際に力が抜けると言ってもごく僅かでしょ? と言いナズナの顔を見て微笑む。「…なるほど、あの時攻撃が吸収されたのはそういう絡繰ですか…」敵の動きに細心の注意を払いながらナズナはミーティアを構える。「落ち着きなさい。今回は交渉に来ただけ」「交渉…?」「これを」女が空に展開したモニターに映っていたのは愛すべき主だった。sideout「く、っは」直で背中から地面に叩きつけられたせいで背骨が軋む。痛い、超痛い。剣と剣との衝突のときに切られた指先から血が止まらない。おかしい。魔法で止血できない。≪あれは吸血剣。血の呪いの剣だ。カル…もお前も弱点の剣だ≫『なるほど。確かどこかの世界のロストロギアだったね。消失したと聞いていたが、まさか彼が所持しているとは…』「く、最悪…」あの剣で攻撃されたら俺の魔法は全部豆腐のように切り裂かれてしまうってことなのか? だとしたら勝率が一気に下がる。それに怪我も治せないんじゃ本当に勝つ要素ゼロに近い。「怪我は…」≪それは自然治癒でどうにかなる≫致命傷を負ったらアウトってことね。「ああ、よかった。まだ生きていましたか」「おかげさまでー」こいつヘラヘラと…「交渉相手が死んでしまったら交渉になりませんからね」「…なんつもりだ」ニコニコと笑いながら地に剣を刺して無手になるジムキオ。交渉をしたい? 俺とか?ジムキオは剣を指した場所からゆっくりと俺の倒れている場所に近づいてきている。「交渉をしたいんですよ」交渉をしたいと言いながらも全く俺の意見なんて言わせてくれない。会話の一方通行。「あなたは何か目的があって管理局に敵対している、違いますか?」「…それが何だ」「簡単な話ですよ。条件を飲んでくれるなら僕も協力しますよ」痛む体を起こしてジムキオの近くに歩いていく。「…確かに悪くない話かもな。で? 条件は」「それこそもっと簡単!」砕け散ったドクターソードをもう一度だけ展開準備。「ナズナをください」「死ね」ジムキオの目掛けてドクターソードを振るうが、ステップを踏むようにジムキオは一歩下がり剣の場所にたどり着く。笑顔は絶やしていない。俺が断ったというのに顔は笑ったまま。怒りの感情とか湧かないんだろうか?「どうしてですか? ナズナを捧げれば全て上手くいきます」「金や権力、力や他の物ならいくらでもやった。けどな、人は違うだろ。そもそもナズナだけじゃない。アリシアだってプレシアさんだってシントラだって他の誰だって俺は断る。それが家族ってもんだと思うから」「何故? 血の繋がりもない家族でしょう?」「っは!! 血の繋がりが必要なら手を繋いで円になった中心に俺がいれば万事解決だろうが!!!」自分で言っていることの意味がわからない。確かに俺は血の能力を持っててある意味血人間だけど…けど、考える前に自然に口から言葉が出ていた。こいつにだけは、やらないと。展開したドクターソードでもう一度ジムキオに切りかかる。ジムキオは地から剣を抜いて俺とまた打ち合うことになる。俺はまた呆気なく砕け散ると思ったが—「ほう…」「え?」俺の意思を示すかのようにドクターソードは砕けなかった。≪コーティング完了! この剣は砕けない!≫『カーミラの魔力でドクターソードを覆っている。この剣は砕けさせないよ』頼もしい二人の声に力が湧いた。<あとがき>次回でヴィヴィオ救出編は終わりかな?感想の指摘ですが文才なくてすみません。ちょっとづつ修正していきたいと思います。なのはがナズナを嫌う理由は同属嫌悪みたいな感じですね。なのははナズナのことを嫌いなんじゃなくて気に入らない。同じだけど方向全く逆向いてますからね。ある意味ちょっとナズナに嫉妬していると言ってもいいかもしれません。知らない誰かのために頑張れる自分と大事な人のために頑張れるナズナと比べて。なのはって心から大事な人っていませんからね。ヴィヴィオがくるまでは。おまけロストロギア紹介吸血剣血を好む剣として代々伝わってきた剣。ジムキオがいる時代から存在していた古代のロストロギア。血を吸うのではなく血を切り裂く能力があり、血を体内に持つ人間を容易く切り裂く。傷つけられた傷は嵐の魔法では治癒不可能。常人にすれば切れ味が鋭い剣というだけの剣だが、嵐にすれば魔法も切り裂く剣。