「フフフ! 鮮血の姫君ふっかーつ! 誰だ、こんな場所で暴れているのは…」―――グルゥウゥウウ…「…あ、争いはよくないぞ。うん」「…誰だ、あいつ」『さあ?』事態は更に混乱を極めていく。第58話「合体!? 自称 吸血鬼のデバイス?」半分諦めかけていた時、突然薔薇から光が漏れ出し、中から出てきたのは人間だが、明らかにサイズが小さい。アインスくらいか? 浮いてるし…「あ、あたしに手を出してただで済むと思うな!」―――ウゥウウゥ…誰なんだ、あの小人? この世界の原住民だろうか?血の色を思わせる肩を超えるくらいの髪にこれまた真っ赤な眼。服はボロボロの布を纏っているだけ。「スカさん、この世界の住人はあんなに小さいものなのか?」『いや、私たちの世界と変わらない体格だったと記録されているけどね』じゃあ誰なんだ? あんな大きな声を出したせいで、竜にも目をつけられている。少しでも動いたら食われるだろう。だけど、小人はそんなことを気にしてないかのように竜を指差し、高々に宣言する。「あたしは、誇り高い吸血鬼…だといいな…。カーミラだ! そのあたしに手を出そうなんて、浅はかだぞ!」結論で言うと、あの小人は馬鹿だった。そんな理屈竜に通じるはずがない。その印に竜は、一層小人への視線を強くした。視線で焼ききれそうだ。口から攻撃出せるんだし、眼からも攻撃出せるかもな。竜だし、ドラゴン・アイ! みたいに。「ててて、手を出してみろ! お前の血を死ぬまで吸い尽くして…」―――グルゥウオォオオ!!「き、来たー!?」竜は我慢の限界だったのか、俺をおいて、一目散に小人に向かっていった。小人は小人で自分の方に来たことに、ビックリしている。あれだけ挑発すればくるだろう…「今のうちに…」『怪我の手当てをしておこう』ボロボロの体を修復する作業に移る。体は切れて血が出ている箇所が何個かある。確認できた場所を自分の血で固め、止血する。真っ黒に焼かれてしまった右足は、さすがに血でどうにかできるもんじゃなかった。痛みがないのが唯一の救いなんだが、悪い兆候なのかはわからない。「修復箇所は、このくらいか?」『ああ、左腕の破損箇所も修復完了だよ』「まだ、戦えるな」あの小人は、以外に俊敏な速度で、竜から逃げ回っている。速さはなかなかみたいだな。というか、あいつ何で薔薇の中になんか閉じこもっていたんだ?「あ、あたしを狙うなんていい度胸だ! す、少しお灸を据えてやらなくてはいけ、ない、な」竜に追われながらもそこまで悪態が吐けるのは凄いな。「し、しんど、い…」が、それも限界のようだ。段々と速度が落ちてきている。このままだと竜の爪の餌食になるのも時間の問題だろう。「見殺しにするのも、気が引けるな」俺は、小人に振り下ろされる爪と小人の間に割って入り、爪をドクターソードで受け止めた。「おい! 大丈夫か」「…カ、カル?」小人は、俺の顔を見て、一瞬、呆けた顔になったが、すぐにシャキっとした顔に戻りその小さな口を開いた。「お、お前! あたしをこんな所に封じ込めてどうする気だったんだ! あの変態人形王との戦いはどうなったんだ! それに、その変なデバイスは何だ! 前のデバイスは捨てたのか! それより、お前なんか縮んでないか?」マシンガントークだった。しかも、わけのわからないことが殆どだったけど。竜の爪を逸らし、小人を抱えて、走る。「訂正入れるけど、俺はそのカルさんじゃないから」「カ、カルじゃないだと!? だけどその顔は…」『説明が難しいね』それに今は説明している暇もなさそうだしな。「見てわかる通り説明している暇はない。何かこの状況を打開できる策はないか?」飛行魔法を展開して、空を飛びながら攻撃を回避する。出来れば、上空に上がって逃げたいところだが、俺の飛行速度では、天井に辿り着く前に竜に喰いつかれてしまうだろう。『この状況を打開するのはかなり至難の業だよ』「やばいよな…」竜は、攻撃を休ませる気はなく、更に激しさを増している。「と、とりあえず離せ! あたしは抱っこされるのは、嫌いなんだ」「おい! っ危ない!?」小人が、俺の手から離れようとした瞬間、竜の爪が、小人に振り下ろされていた。小人が攻撃されると思った途端、体が動いて小人を庇っていた。「ぐあっ」幸い、背中に緊急用のブラッティプロテクションを展開したおかげで、肉が裂かれるまではいかない。精々、背中に裂かれたような痛みが走る程度だ。「痛…」「す、すまない」「き、気にすん、な…」背中の痛みで、さっきまで保っていた意識が、更に朦朧とする。終わりが近いかもしれない。「黙って死ぬつもりはないけどな…」正直、もう寝たい。だけど眠るとゲームオーバーだ。「おい。さっきの能力…お前は、カルと血縁関係があるのか?」『ないとも言えないね』血縁関係というより、ある意味ご本人ですからね。「茶化すな!」「まあ、かなりあると言えばあるけど、それが何かあるのか?」竜が俺の方に狙いをつけ、突っ込んでこようとしている。「…よし! お前、名前は」「…? 鈴木嵐だ」「鈴木嵐? 珍しい名前だな。まあ、いい、あたしはカーミラ。緊急事態だからお前に協力しよう。貸しはすぐに返す方なんだ」「何を…!?」言葉は続かなかった。小人…いや、カーミラは体が発光しだし、赤い球体に変化した。「まさか…」『ユニゾン…デバイス…』カーミラは、ゆっくりと俺の体に触れ、俺の体に変化を起こした。バリアジャケットに変化は少ないが、白衣に蝙蝠のマークが浮かび上がる。―――オォオオォオ!!竜が、何かに気づいて俺たちに突っ込んでくるが、少々遅かった。俺とカーミラの融合は、既に完了していた。「ブラッティ・シールド、三重!」普段の俺なら、展開するだけで、一苦労だが俺とスカさん、そしてカーミラの3人でカバーし合い展開するので、苦はない。三重の盾で牙を受け止める。「お前…ユニゾンデバイスだったのか」≪一体なんだと思っていたんだ?≫「小人かと…」≪お前…馬鹿にしているのか≫馬鹿にしている気はないが、まさか、融合騎がこんな世界にあるとは思わなかった。『何にしてもこれで、チャンス到来だね』「そうだな。死なないで済むかもな」俺は、3重の盾の内、2枚を、そのまま竜の口の中に押し込み爆散させた。―――グルゥ!??竜は大きく体を仰け反らせた。俺は残りの一つのシールドを盾から剣へと変化させる。「スカさん、残りのカードリッジは?」『残り二発。君の魔力もそろそろ空だ』「えっ? カーミラが融合したのに、大して変わってなくないか?」≪う、うるさいぞ! あたしが融合したからといって、そんなに増えるわけないだろ!≫『増えると思ったんだけどね、1から1.5ぐらいだよ』「微妙だ…。カーミラ、融合して何が出来るんだ?」≪え、と…サポートかな? ほ、ほら! ソニックムーブとか、そういう補助魔法とかで手助けできる≫「微妙な…」ソニックムーブは嬉しいけど、なんか本当に微妙な手助けしか出来なさそうだな。『だけどやるしかないよ』≪来たぞ!≫竜の攻撃は、さっきと同じ速度だが、俺の速度はさっきに比べると月とすっぽんだ。今更、竜の攻撃にむざむざ当たるような間抜けな真似はしない。「このままだと、こっちが燃料切れで負ける。何か手は!?」≪あたしは、他人の血を採取してお前の魔法をサポートすることも出来るが…≫「それ便利じゃん! それ使おう!」≪加減が難しくて、人に使ったことがない。カルもこの魔法は嫌いだったからな。それにあの鱗を切り裂いて、奴の体内の血を採取するなんて、不可能だ≫対人戦でも、下手すると相手を殺してしまい、今この状況でも使用不可と…「つ、使えない」≪それと言い忘れていたが、融合を解除するとしばらく魔法が使えなくなるぞ≫なんで、今になってそんな最悪な情報ばっか湧いて来るんだ!負けフラグ立ちまくりじゃねえか!「のわっ!?」作戦を立てている時も、竜は待ってくれない。容赦なく攻撃を加えてくる。「あの硬い鱗がどうにかならないと…」『しかし、君の攻撃では歯が立たないよ。唯一通じる口の中への攻撃も、何回もしたせいで、警戒心を持ってしまっている。』何か…何かないか…竜を倒さなくてもいい。生き残るだけでいい。その方法は…≪おい! 右から尾が来ている!≫「了、っ解!」右足を使えないせいで、飛びながらの戦いが続いているが本来俺は、空での戦闘が、あまり得意じゃない。能力的に見ても、地上の方が向いている。「くそ! 空なんて嫌いだ!」≪左!≫「補助してくれ!」≪わかった。ソニックムーブ、発動≫さっきまでの速度とは段違いの速度を出し、竜の攻撃をかわしたまでは、よかったが「おぶう!?」そのまま壁に直撃した。『速すぎて、君には操作が難しい。帰れたら練習あるのみだね』「今、物凄くナズナやフェイトのことを尊敬したよ」≪ボーっとしている場合か! また来たぞ!!≫竜もいい加減、俺の相手に飽き飽きしてきている。攻撃が一撃一撃必殺の威力を持っている。「…必殺?」考えてみたら、俺は竜を倒すことだけで、殺すことは考えてなかった。強大な力を持っている相手に勝つイメージが浮かばないというのも一つの理由だが「……」殺す…。なら、来る途中に見つけた“あれ”を利用すれば…「スカさん! カーミラ! 引く!」竜の背中に飛び乗り、走りぬけ、背後を取る。≪引く!? この状況でか!?≫『何か考えたのかい』「俺が自力で倒すのは、無理なんだ。だったら、勝てる方法を探す」問題は、あの竜に追いつかれすぎるのは、不味い。≪逃げるならあたしに任せろ≫『……ほう、面白い補助魔法だ。嵐、手を上に』「こうか?」途端に俺の手から、白い煙が発生した。煙は、何かヒンヤリしていて気持ちが悪い。≪ヴァンパイアミストだ!≫ただの霧を出す魔法じゃない? という言葉は口に出る前に飲み込んだ。「よし! 引くぞ!」竜は、霧で覆われた部屋の中で俺を探しているが、見当たらないのかずっとキョロキョロしている。その竜の目に入らないようにこっそりと入ってきた扉を抜けた。『このまま逃げるのかい?』「まさか」扉を抜けて通った道を逆走していると後ろのほうで何かが崩れる音が響いた。―――ゴオォォオオ!!!「気づいたみたいだな」『少しペースを上げるよ』≪一体何をするつもりなんだ?≫カーミラの質問に答えないで、俺は、更に速度を上げて引き返した。今度は、俺が竜を黒焦げにしてやる番だ。俺は、真っ赤な絨毯が敷かれたような空間で地面に手を置いていた。そして目の前の通路から轟音を上げながら壁に体が当たるのも気にせず竜が走ってきている。俺が、ここで待っていたのに驚いたのか竜は、顔を傾げる動きをしたように見えた。だが、竜は俺が動く気配がないとわかると、足に力を込めてその空間に足を踏み入れた。それが間違い。―――ウオォオオォオ!!??「かかったな!?」『成功だ』赤い絨毯が敷かれたような空間。それは絨毯なんかじゃない。俺の血だ。極限まで薄く延ばした血。それをこの空間に敷いた。俺のいる部分はしっかりと作ってある。だが、他の部分は、竜が乗っても人間が乗っても崩れるようになっている。カートリッジも全部使ったまさに出血大サービスだ。そして、この下は…「焼け死ね」―――オ゛オ゛オ゛ォオ゛!!!何もかもを焼き尽くす灼熱の業火。硬い鱗を持っていても耐え難いマグマ。竜は、もがき苦しんでいる。その場にいては、巻き添えを食ってしまう。俺は、少し離れた。「俺の場所まで崩れてきているな…」『飛行魔法を展開するのも、ギリギリの魔力だね』「もう鼻血もでねえよ」ゆっくりと飛行魔法で安全地帯に着地する。「何とか…なったな」≪お前、カルみたいな戦法を考えるんだな≫『君にしては上出来だと思うよ。ナズナも鼻が高いだろう』竜は、もう声を上げてこない。多分、絶命したんだろう。目の前が霞んできている。頭がふらふらする。「スカさん。後よろしく…」『…お疲れ』血を大量に使い、体の隅々までボロボロの俺が意識を保っていられてのは奇跡に近い。ナズナの首飾りを強く握り、俺は意識を失った。『プレ…ア、マーディ…グイ……の準備…』「わ…ったわ」何か冷たい水滴が当たり、意識がゆっくりと覚めていく。スカさんとプレシアさんの声。ということは帰って来れたということか…「ら、嵐、ひくっ…し、死んじゃ、駄目だ、よ! うぅ…」「大丈夫だってアリシア! スカ山は命に別状はないって言ってただろ!? だから大丈夫だ!」「し、シントラ、だ、って、ひくっ、さっき、まで、泣いてたく、っせに」「シントラ、アリシア。大丈夫だから、もう泣くな」“家族”の声が、聞こえる。俺を心配してくれている声が。その声を聞くだけで、元気が出てくる。それより俺は、さっきから何に頭を乗せているんだ? 柔らかい感じがする…それに、上から水滴が落ちてきて少し冷たい。「アリ、…ア。シン、ト…」「「っ!?」」「よ、う…」「嵐! 起きたの!」「し、心配させやがって! べ、別に泣いてねーからな!」「マス、ター…」そこでようやく気づいた。俺の今の状況を。俺は、ナズナに膝枕をされている。やばい。かなり恥ずかしい。穴があったら入りたい。けど、体が動かない。「か、帰ってきて、くれて、ほん、とうに、ひっ…よか、った、です…」水滴の正体はナズナの涙だった。今も止まることなく流れている。「マ、マスター、私のせいで、す、すみ、ません。わ、たしが、ついて、いれば」「嵐! 待ってて! すぐに母さんたちを連れてくるから!」「あたしたちも行くぞ、アインス!」アリシアとシントラがどこかに走っていく。この状態で二人きりにしないで欲しい。「ナ、ズナ」「…ごめんな、さい…ご、めんな、さい」気にしないで欲しい。あれは、本当に仕方がなかった。転移した理由は謎だしいくらナズナが万能とは言え、不測の事態には対応できない。「わた、しのせいで、っひく、こ、こんな、こと、ふぇ?」俺は、動かすだけで一苦労だが、そんなこと無視してナズナの頬を撫でる。「気に、すん、な」「けど」「それ…ほ、ら」ナズナの手は、俺の赤い首飾りを握っていた。強く握りすぎて血が滲んでいる。「そ、んなに心配して、いてくれたん、だろ?」俺は、その気持ちだけで十分うれしい。「マス、ター」「それ、に、俺もこの、首飾りのおかげで、挫けないで、済んだ」あの世界にいた時、度々、この首飾りを握り締めていた。そうすると、ナズナが守ってくれそうな気がしたから。…そろそろ喋るのがつらい。「だか、ら、な。泣かな、いでくれよ」「…はい」俺の言葉に返事をしてくれてたけど、まだ涙は流れている。まあ、きっと泣き止んでくれるだろう。「悪い。少し、ね、むい…。寝る…わ」腕を少し動かしただけで、これだ。俺は再び意識を失った。次に見たナズナの顔が笑っていますように。sideナズナマスターが、帰ってきた時の姿を見たときは、私の世界が崩壊する音が聞こえた。腕は、千切れてしまっていた。足は、真っ黒に焼かれていた。マスターの能力が特殊だから生きていられたかもしれないが、常人なら死んでも不思議じゃない傷だった。ドクターとプレシアさんが今、時間魔法の準備をしてくれている。それまで様子を見ているように頼まれた。マスターが眼を覚ました時、嬉しいのが半分と、恐怖が半分だった。マスターは、私が傍にいなかったから、怪我を負った。そのことを、責められても仕方がないと考えていた。だけど、マスターは私に文句を一つも言ってこなかった。それどころか、私が慰められてしまった。マスターが一番つらい筈なのに。「マスター…」マスターは、無理して体を動かしていたためか、またすぐに眠ってしまった。「……」私に名前をくれた人。私の生きる目的。大事な家族。そして、愛おしい人。あなたを邪魔する者がいるなら、私が倒しましょう。あなたの道がないなら、私が切り開きましょう。だから今は、ゆっくりと寝てください。次に目が覚めたときは、いつもの私でいます。きっとマスターは、私の思いには気づいていない。今はそれでいい。だけど、これくらいは、許してください。黒き従者は、血の主にゆっくりと唇を重ねた。深く、長く。おまけ――扉の前『…誰か入ってくれないか』「…これは、きついわね…」「あ、あたしは、何も見ていない! 何も見ていない!!」「うわ~! うわ~!」「アリシア、落ち着け。シントラ、お前もだ」『もう少し、待つかい?』「けど、治療は、早くした方がいいんじゃないかしら」『時間魔法だからね。死んでも大丈夫だよ』「それもどうかど思うわ」「見ていない! 見ていないぃぃ!!」「まあ、あと少し待とう。それと落ち着けシントラ」「いいなぁ…ナズナ…」「「「『っ!?』」」」<あとがき>強化編が終わりました。次回は、補足ですね。カーミラののこととかをもうちょっと細かく。…そろそろstsか。かなり終わりに近づいてきたな…では!!また次回!!おまけ2魔法生物紹介ストマックドラゴングラナトゥムに数少なく生息する、凶暴な肉食竜。主な主食はトカゲウス。実も食べることもあるが、それは緊急手段。竜種には、珍しく、羽が生えていない。グラナトゥムには、空を飛ぶ生物が少ないためかと思われる。体内に電気を発生させる器官を持っており、それを魔力に纏わせ攻撃する。鱗は、並みの魔導師では、傷一つつけられないほど頑丈。体内への攻撃が唯一の弱点。肉より血を好み、同じトカゲウスでも、血が美味い方を食べる。臭いで確認していると思われる。