「遺跡って、全部こんな感じなのか」『全部ではないけどね。これを見たらスクライア一族は、歓喜するだろう』「どこぞの司書長でも連れてくるか…」『専門家がいた方が楽でいいんだけどね』「スカさんは、発掘より研究って感じだよな」第57話「壊れていくパーツ」エレベーターのような、機械から降りて、少し歩いたら何やらとんでもない場所に辿り着いてしまった。いろんな意味で汗が止まらない。「…マジか」『これは…』さっきまで雨で体中がびちょびちょだったが、これのおかげで乾いた。しかし、今度は自分の汗でびちょびちょになっている。ここにいたらせっかく治った風邪も再発するんじゃないだろうか? いや、再発するな。「マグマ?」『溶岩とも言うね』辿り着いた場所では、いかにも暑そうな色をしているマグマがお出迎えしてくれた。マグマなんて、こんな近くで初めて見たよ。「マグマってこんな場所で出来るもんか?」『それはないと思うけどね…。多分、魔法で維持されてるんだと思う』「魔法ね…。なんのために?」『熱エネルギーのためとかじゃないのかい?』「熱ってレベルじゃねえぞ」触ったら、熱い! …じゃ済まない。溶ける!? …の領域だろう。『こんなとこで話していてもしかたないよ。奥に進もう』「いや、進もうって…」『どうしたんだい!? さあ!!』「いや、ちょっと待て」マグマは、その場所の下にある。そして、そのマグマの上を一つの橋が架けられている。マグマに触れると溶けてしまうためかマグマの部分にまで、橋が作られていない。人一人が渡るのが限界だろう。「え?これ渡るの?」『渡らないと奥に進めないよ』「……え?」これ進むと、もしかしたら崩れるんじゃない? マグマに真っ逆さまじゃない?ていうかスカさん楽しそうじゃない?『さあ!!』「楽しそうでなによりです…」スカさんをこのままマグマに落としたらいいんじゃないだろうかと考えながら崩れる恐れがある石で出来ている橋に一歩踏み出す。石橋叩いて渡るという諺があるが、今、それを試さないで渡るのがどんなに危険かを噛み締めていた。「崩れるなよ~壊れるなよ~…」足に全神経を集中し、ゆっくりと一歩ずつ踏み出していく。気分はまるでバレリーナ。「もう少し…」少しずつ進んで、もう少しでゴール。俺の顔は汗でびっしりだ。だが、そんなことは全く気にならない。「……っしゃあ!!!」最後の一歩をジャンプで華麗に決めて、俺は脚を渡り切った。充実感が俺を包む。「さあ! 先に進もう!」『…そうだね』俺のテンションは上がりっぱなしだが、スカさんのテンションは少し下がった気がする。俺が慌てたりしなかったのが、よっぽどつまらなかったんだろうか?スカさんを見返せたことが、俺にはちょっぴり嬉しかったが、次の瞬間、その気分は脆く崩れた『まあ飛行魔法使えばよかったんだけどね』「なん…だと…」あの後、しばらく何もない道がひたすら続いた。特に変わったことはなかったが、大通りなのか道が広くなっていた。「スカさん。この遺跡に入ってから、何時間ぐらい経つんだ?」『遺跡に入ってからかい? 3時間くらいかな』「3時間か」結構時間経ってたんだな。そんなに時間のことなんて気にしてなかった。というか、これ一体どこに向かってるんだ?転移を邪魔している奴が本当にこの奥にいるのかもあやしくなってきた。「反応はどうなってるんだ?」『邪魔している者のかい? 遺跡の中だけしかわからないから、なんとも言えないね』「せめて、後どれくらい歩けばいいのかわかればいいんだけどな」延々とあのマグマの場所から、歩き続けているが、一向に目立ったものは見つからない。道を曲がったり、下りを降りて行ったりの繰り返しだ。『まあ、遺跡ってのは、広いときはとことん広いからね』「狭い遺跡だったらよかったのにな」『狭い遺跡だと、トラップが怖いね』「トラップは、この遺跡にはなかったな」仕掛けは何個かあったが、トラップに引っ掛かることはなかった。『ここまで来るには、全部、選べれた能力を持っていないとこれないからね』「選ばれた?」『入り口は、君の体内に存在していた鍵が必要だ。次の扉は君の能力を応用して使わなきゃいけなかった。つまり、ここに来れている人物は、血液の変換資質を持った、カル・ラントシュタイナぐらいだよ』「俺もカルさんのクローンだから、ここまで来れたと…」だとしたら、カルさんは、何をここまで厳重にしていたんだ?『…ようやく終点のようだね』「ん…、そうみたいだな」俺の目の前には、巨大な扉がある。こんどは鍵穴はない。まるで、どこかの城みたいに巨大な扉だった。「今度も力尽くでは、開かないタイプっぽいな」前の扉で力尽くは無理だったのに、前より更に強力な扉では絶対に無理だ。だとしたら、さっきと同じように何か仕掛けがあるはず…「周りにそれらしい物はない…か?」『あれはどうだい?』「あれって、扉の前にある台か?」扉の前にある謎の台。怪しいとは思ったが、何も書かれていない。特におかしい点は見当たらないが『…それに触ってごらん』「触って?」スカさんは、何かに気づいたようだ。俺にはさっぱりだが、言うとおりに動く。「こうか?」『左じゃないよ。右手だ』「こう?…おぉっ!?」なくなっている方の手ではなく、自分の手で触れた途端、台が光り始めた。右手がこしょばい感じがする。「何してるんだ?」『君の手から、情報を認識しているんだよ。指紋確認みたいなものだ』指紋認識ね…本当に厳重だな。ここにくるまで3つのプロテクトかよ。台から光の線が地面を伝い、扉に伸びていく。光の線が扉全体に伝い終わると、扉はカチンと音を立てた。「確認完了か?」『そのようだね』扉は、大きな音を立てながら開いた。「終点か?」『そうだと思うよ』扉の先は、ぼんやりと明るい空間だった。今までで一番広い。空気が、さっきまでより、外に近い感じがする。それにほんのりと雨の匂いがした。「外に近いのか?」『上から、外の空気を感じるね』上を見上げると、天井は、遥か遠くだった。「高いな」『高いね』出るときは、飛行魔法であそこから出ようと考えていると、何かが光っているのが眼に入った。「…薔薇?」それは、薔薇だった。暗い空間の中で淡く光っている。「花の部分しかないな…」俺がその薔薇に近づこうとしたとき、天井から轟音とした。「何事!?」その轟音の後、俺の背後に何かが落下して、地面に降り立った音がした。「…な…」ゆっくりと背後を振り返り、音の正体を見たとき、体中に鳥肌が立つ。―――グゥウオォオオオァア!!!!俺の左腕を食い千切った竜がいた。「う、嘘だろ」何故この竜がここにいるのかを、考える間もなく、竜は俺に攻撃したきた。いや、攻撃ではない。俺を喰らおうとしてきた。―――グォオゥ!!「危な!!」前とは違い、竜の姿をしっかりと眼にしながら、竜の攻撃をかわす。竜は、羽がない分、大地での行動速度が速いみたいだ。俺に攻撃が当たらなかったのが気に食わなかったのか、更に唸り声を大きくする竜。機嫌悪…「やるしかないか…」遺跡探索のおかげで体は疲労しているが、動けに程じゃない。気がかりなのが左腕。こちらは右腕と違い、力も入れにくいし動かしにくい。左手でなにかをするのは、自殺行為に等しいだろう。「ドクターソード」相手を倒すためではない。相手の攻撃を受け流すためにドクターソードを左腕は添えるだけにして、右腕だけで握り、竜を見据える。対峙して、食われたときの恐怖が頭に浮かんで足がガクガクと震えるが、ここで負けるわけにはいかない。無理矢理にでも足の震えを止めて自分の心を奮い立たせる。―――ウウ゛ウゥ?竜は、俺がさっきと同じように逃げないことに疑問を抱いているようだ。俺のことを覚えているのか?「俺を狙っていた?」『言っただろう?血を好むと。君の極上の血を求めて、ここまで来たんだろう』「だけど、どうや、って!?」竜の大きな爪をかわす。当たり前だが竜は俺とスカさんの会話を待ってくれない。『君の臭いだろう。そして、初めの門を開けたときに違う場所でも何かが開く反応があった。それが天井だろう』天井も開いていたわけね。そっちからの方が楽だったかもな。―――ガアァアァ!!!「くそっ!」どこかに弱点があるかもしれない。それを見つけて、仕留めてやる。「そらっ!」ギリギリまで引き付けてかわす。ナズナのアクセルシューターや、シントラの攻撃で、速い攻撃には慣れている。「スカさん!」『了解だよ』飛行魔法を発動し、俺の肩に赤い羽根が展開される。「刺されよ!」大きく飛翔し、ドクターソードと共に重力の従うまま竜の背中に急降下する。威力は小さいが、重力の力をプラスし、無理矢理威力を上げる。ドクターソードは、見事に竜の背中に直撃し、肉を切り裂くと思った。が――「やっぱりかよ! チクショー!!」ドクターソードは、肉を引き裂くまでにも至らなかった。それどころか、刀身に罅まで入っている。「撤退!」ドクターソードを破棄し、背中から飛び降りて竜から距離をとる。―――ゴォオアァアア!!それを好機と見たのか、竜は、俺の体に向かった、鋭い牙を向けてくる。「げ!?」『やばいね』しっかり捉えられていた俺の体は、綺麗に竜の口に収まっていた。このまま竜が口を閉じれば、俺は、キノピオの仲間入りということになる。「さっせるかあぁぁ!!」『ブラッティ・プロテクション』スカさんに少し補助をしてもらい、手と足からブラッティ・プロテクションを発動。足から魔法を発動するなんて、俺くらいじゃないだろうか?「ふんぐぅおぉぉぉ!!!」『キ、キツイね』竜の口が閉じられ、俺の盾と牙がぶつかった。盾の耐久力には、自身があるんだが、竜の顎の力が半端ない。一瞬で、ブラッティ・プロテクションに罅が入り、俺の体が悲鳴を上げる。「死ぬ死ぬ死ぬ……死んでたまるかぁあぁぁ!!!」無我夢中で、自分の魔法を暴走させる。『ほう…』手と足で展開していたブラッティ・プロテクションが爆発を起こし竜の口を吹き飛ばした。しかし、俺の腕や足もダメージを負ってしまった。左腕のブラッティクロウの形が崩れている。『修正。輸血』竜がふらついている間に、左腕と使った血を回復する。「はあ…、はあ…、し、死ぬとこだった」『まだ、竜は倒れていないよ』「わ、わかってる」スカさんの言ったとおり、竜は、体を起こし、俺のことを睨んできたいる。その眼は、まるで宝玉のように綺麗だが、憤怒の炎が燃えているように見える。「こっからが本番か?」『君を“餌”ではなく“敵”と認めたみたいだね』うれしくないな。『来るよ』「わかって、る!?」竜は、予想だにしないスピードで、俺の目の前に現れた。フェイトやナズナには、到底及ばない。だけど、この大型がここまで速度を出せるものかと感心する。「う、そだろ!?」咄嗟にブラッティ・プロテクションを展開。巨体の竜との正面衝突は避けれたが、衝撃は殺せず、派手に吹き飛ばされる。「が、っは!!」空中で体勢を立て直して、竜を見るが、その方向には竜はいなかった。「一体どこに…」『後ろだ!』スカさんの忠告も空しく、俺は後ろから接近していた竜に気づかず、ぶっ飛ばされた。「ぐっ!」薔薇の近くに叩きつけられ、薔薇が俺の血で汚れる。背中から、落下したからか背中が痛い。「こいつ…桁違いだな」下手すると、エースクラスの魔導師が出動しないといけないだろう。「愚痴言ってる場合じゃないか…」動かない体を無理矢理動かし、竜を見る。竜は、俺が起き上がるとわかっていたのか大きく口を開き、何かをしようとしている。『離れるんだ! 今すぐに!』「えっ? なん」言葉は最後まで言えなかった。竜の攻撃によって―――グルゥウオォアアァ!!!竜は口から、電気を纏っている魔力弾のようなものを放ってきた。俺の緊急回避も間に合わず、右足が犠牲になった。「反則だろ…」『足は、飛行魔法で誤魔化せる。だけどあまり激しく動けないよ』俺の足は、真っ黒に焦げている。感覚も疎かになったのか、右足が死んでしまったのかわからないが何も感じない。「こりゃ無理かも…」食い千切られた左腕。真っ黒に焦げている右足。痛む体。希望を失うには充分な材料だろう。微かに光を増した薔薇は、その花を大きく散らし中から、一人の小さな少女が姿を現していた。<あとがき>次回で、強化編は終わりだと思います。嵐は、確かに強化されますが、なのはと火力で争えるようになるなんてことにはなりません。強化も限定的ですし、強化後もそこまで強化はされませんので。戦いやすくなるって感じですね。遺跡の鍵についてですが、鍵はカルさんが作った鍵なので、血液の魔力変換資質には、反応しませんでしたがピッキングや、無理矢理こじ開けようとすると、扉から、マグマが噴出する仕掛けです。それと、嵐の存在が消えてしまうのではという指摘がありましたが、そこらへんは嵐の存在はややこしいんです。並行世界 嵐の魂 +未来 カル・ラントシュタイナの体 ∥未来+並行世界 並行世界の嵐の魂が入った肉体 ↓ 過去へGO!こんな感じになっているので、嵐は、未来世界で新たに生まれた人間って感じです。嵐が瓶を割ってしまったので、未来永劫カル・ラントシュタイナのクローンは生まれないでしょう。