舞台の上で黒い人形は踊る。観客を楽しませるために。何があっても踊り続ける。壊れて動けなくなるまで。踊る踊る。黒い人形は踊り続ける。「ああ゛あああ゛ああ゛あ゛ああ゛ああああ゛ああ゛ああ゛あ゛!!!!!」例え、どこかがが壊れても…第55話「欠けたパーツ」「ああ゛ああ゛ああ゛あ!!!」痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!意識が朦朧とする。「があっあ゛ああ゛あ!!!」傷が痛いを通り越して、熱い。死ぬ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。「う゛ぼお゛えぇぇ」自然に口から胃の中のものを吐き出している。痛い。『落ち着いて! 落ち着くんだ!!』誰かの声が聞こえる。熱い。さっきまで聞こえてた声。痛い。何かを言っているけど、全く頭に入ってこない。熱い。何を言っているんだろう。「あ、ああ、うっ、ああ…」何もかもがどうでもいい。痛みから解放されたい。痛い。何故自分がこんなとこにいるのかもわからなくなってきた。何故こんなとこにいるんだろう。『落ち着いて! ゆっくり…』昨日は親父と喧嘩して、それで険悪な空気になって、飯が不味くなったんだっけ? 熱い。そういえば、そろそろお袋の誕生日じゃないか。『ゆっくり、そう、ゆっくりだ』最近、平田に会っていないな。痛い。あいつって普段は何してるんだろう?「あ…あああ…」『もう少し…』…あれ? 何を考えていたんだっけ?親父お袋平田ナズナスカさんプレシアアリシアシントラアインス…熱い。あれ? どっちが現実なんだっけ? あれ?「…ぅあ」『ふう…よかった』意識が徐々に覚醒していく。俺は、確か…「ス、カ…さん」『大丈夫かい?』どうなったんだ? 気絶はしていないはず。あの竜に襲われた後、まだ時間はあまり経っていないと思う。俺が寝ている場所は草原で少なくとも食われて天国にいるような事態にはなっていない。「ここは…」『鎮痛作用が効いてきたみたいだね。よかった』首だけを動かし、周りを見てみると、光の靄に包まれている。さっきの竜も、そう離れていない場所でトカゲの体を貪っている。「ど、う…な、った」『…君の腕が食い千切られた』「マ、ジか…」『運よく腕だけで済んだからよかったね。体だったら終わっていたよ。林に墜落した瞬間に不可視の結界を張り、そこで、君の腕を再構成した』「再…?」再構成? 一体どういうことだ?『すぐに処置したし、使った血液も輸血は完了した。動けるだろう』確かに疲労感はあるが、なんとか体は動く。ゆっくりと体を起こし、左腕を見てみると、真っ赤に染まった左腕があった。スカさんが魔法で構成してくれたのか。だけど全く感覚が感じられない。「…えと」『血で君の傷を塞ぎ、更にブラッティクロウで腕を構成したんだ。しばらくは動かしにくいだろうが、我慢してくれ』雑菌消毒もバッチリだとスカさんは付け足した。確かに左腕が異常に重く感じる。それにしても…「よく、ここに襲い掛かってこなかったな…」あんな近くにいるのに…『あの竜は、肉より血を好むみたいだね。君の左腕を食べているときは、左腕に夢中だったよ』…恐ろしい竜。『しかし、どう逃げるかが問題だね…。この不可視結界は見えなくなるだけで、防御力は皆無だし、時間も10分保たばいい方だしね。匂いは漏れないから、大丈夫だけど』竜はトカゲを食い終わり、キョロキョロしている。おそらく俺を探しているんだろう。「残、り何分く、らい?」『現在で1分46秒だね』それはやばいな。あいつが、しばらくこっちに興味を持たなくすればいいのか。「何と、かして、みる」竜は俺の左腕を食った。俺の血液タップリの左腕を「……」遠隔操作は苦手なんだが、この際文句は言ってられない。俺は、竜の胃の中にある自分の血液を感じ取る。「弾けろ」途端に竜が叫び声を上げ倒れた。いくら外が硬いと言っても胃の中で爆発はキツイだろう。そう思ったんだが…―――ウゥウゥウウ…竜は、起き上がろうとしていた。『今のうちに逃げるんだ!』「けど、あいつ…」ここで逃げても結局は、同じなんじゃないか?『いいから逃げるんだ。私が言う方向に走ってくれ』「…わかった」ここで話していても竜が起き上がるのを待っているだけになる。俺は、スカさんの指示に従い、スカさんの示す方向に重たく感じる足を走らせた。「はぁ…はぁ…」逃げ込んだ先は、何だか澄んだ空気をしているような感じがする。さっきまで、風前の灯だった自分が少し元気になった気さえしてきた。「こ、ここは?」『カル・ラントシュタイナの墓だよ』「ここが…」スカさんの言うとおり、この澄んだ空気の発生源のような場所に赤い十字架が建ってある。『カル・ラントシュタイナ、ここ眠る』十字架に書いてある字は、俺には読めないがスカさんが翻訳してくれた。「ここは、危険じゃないのか?」『大丈夫。ここには、人間以外の生物が寄り付かないような結界が張られてるんだ。ここは元は村だったんだよ』あんな凶暴な竜なんかがいる世界で平和に暮らしていけるわけがない。だから、寄り付かなくなる結界を作ったんだろう。「そ、うか」その言葉を聞いた途端、体を眠気が襲った。俺は、眠気に耐え切れず、墓にもたれかかり、寝てしまった。『今は、ゆっくり休むといい』sideナズナ「マスター!!!!!!」私は、探していた。晩御飯を持っていくと消えていたマスターを。「ナズナ! 落ち着いてよ」「姉御! そんなとこにはいないよ! ベットの下なんて…」「シントラ! あなたも探しなさい!!」「うぇ!?」初めはお手洗いだと思った。だけど、いつまで経っても帰ってこないマスターが心配になって、みんなで探してみると、どこにもいなかった。そこから、ずっと探し続けているけど、一向に見つからない。「マスターマスターマスター!!」「ナズナ…」「あ、姉御…」あんな状態でうろつくなんて絶対に駄目だ!そんなに遠くにいけない筈なのに、マスターは見つからない。「みんな」「あっ! 母さん」「プレシア! 何かわかったのか!」「ええ、わかったわ」「本当ですか!?」探すのを中断して、プレシアさんに駆け寄る。すると、プレシアさんは困惑した表情をして言った。「嵐とスカリエッティは…サラーブにいないわ」「え…」プレシアさんは、何て言ったんだろう?少し私の耳が悪くなったのかもしれない。もう一回聞いてみよう。「い、今何て…」「ナズナ。よく聞いて。嵐はここにいないの」マスターが…いない…「少なくても、サラーブには絶対にいないわ。多分、違う世界にいるんだと思う」マスターが違う世界に…「…ミーティア」『stand by ready.set up.』「ナズナ! 何をしているの!?」「マスターを探しに行くんです!!」「だけど姉御! どこにいるかもわからないんだぜ!?」「離しなさい! マスターは体調が悪かったのに、どこかわからない場所に飛ばされて…」「落ち着きなさい!!!!」「「「っ!?」」」突然にプレシアさんの一喝で全員の動きが止まった。「ナズナ。嵐が心配なのはわかるけど、あなたが管理局に捕まったりでもしたら、誰が困るのかわかるでしょう」「そ、それは…」「確かに嵐は心配だわ。だけどここで闇雲に探してもどうにかなるわけではないわ」プレシアさんの言うことは正しい。けれど…マスターは…「あなたが嵐を信じてあげないでどうするの」「っ!?」マスターを信じる…「確かに嵐は、体調も悪かったし、戦闘力もここで一番低いわ。けれど、あなたの主でしょ?なら信じてあげなさい。」「…すみませんでした」「…今日は解散しましょう。アリシア、私は嵐の行方を探るから今日はナズナと寝なさい」「うん! わかった」皆が解散していく中知らず知らずのうちに、赤い首飾りを握り締めていた。「マスター…どうかご無事で…」sideout「んっ…」目が覚めたとき、最初に感じたのは体中が濡れている感覚だった。どうやら雨を浴びながら眠っていたようだ。「ああ…やっぱ夢じゃなかったか…」自分の真っ赤な左腕を見て確信する。腕が食われたのは夢ではなく紛れもなく現実だということを。「…ラッキーだったのかな」腕が食い千切られて、一瞬意識が飛ぶだけで済んだんだ。下手すれば、腕がちぎれた瞬間にショック死してもおかしくなかっただろう。「ははは…」思わず笑いが込み上げてくる。漫画なんかで、腕が千切れるキャラクターがいたけど、まさか自分が体験するとは思わなかった。まあ、あっちの世界の日本では普通に暮らしている限りは起こらないことだろう。「……」問題なく動かせる右腕で、ナズナの黒い首飾りを握り締める。そうしようと思ったわけじゃない。ただ、自然に体が動いていた。「…スカさん」『…なんだい』「昨日、スカさんが食われなくてよかったな」『笑えないね』いつも通りの会話をスカさんと交じわす。本当にいつも通りの会話を。「実際危なかっただろ」『右腕だったらアウトだったね』「…はあ」だけど、そんなに会話は続けられなかった。普段の状態なら未だしも、左腕がない状態で、そこまでスカさんと会話する気分にはなれない。それにいつまでも現実逃避しているわけにはいかない。「スカさん。転移が出来ないのが何でかわかった?」『私の転移魔法を邪魔している存在がどこにいるかわかった。そいつを何とかすればいいだろう』「邪魔?」邪魔という事は、もしかしたら、俺をここに呼んだのもそいつなんじゃないか?実際、手がかりはそれしかないみたいだし。「そこに案内頼める?」『わかった。案内をするよ』俺は墓から起き上がり、墓を前へ見据えた。そして、一応、合唱しておいた。ここが日本ではないので多分通じないとは思うが、気持ちの問題だ。「じゃあ、行くか」『ちょっと待ってくれ』気分を入れ替え、転移を邪魔している奴の場所に行こうとしたとき、スカさんが止めた。「なんだスカさん」正直、もうさっさと帰りたいんだけど。今、正気を保っているのも奇跡だと思うんだよね、俺。下手したら発狂するよ。『墓の根元を調べてくれるかい』「根元?」俺の寝ていた、カル・ラントシュタイナの墓を調べてみるとそこから、赤い瓶が出てきた。「何だこれ?」『さっき説明しただろ?カル・ラントシュタイナの血液だ。特殊な加工技術で出来た瓶で、中の血液を全く変化させなかったんだよ』「へえ…え? 血液?」『血液だよ? どうかしたのかい』スカさんは血液と言っているが、この感じは明らかに液体じゃない。「石? かなんかが入ってんだけど…」蓋のほうが小さく、中の石が取り出せない。しかたなく、割って中身を取り出した。「これは…」『おかしいね。昨日は、ちゃんと液体だったんだが…』それは、俺の持っている石と同じような石だった。<あとがき>強化編もいよいよ終盤に差し掛かっていきます。それと最近、インフルエンザとか、いろいろ怖いですね。気をつけてください。感想で指摘された化石ですが、すみません。知識不足でしたね。トカゲたちについては化石ではなく骨ということにしといてください。では!また次回!!おまけ魔法生物紹介トカゲウスグラナトゥムに多く生息する、太古の地球に存在していた恐竜と似た生物。雑食で、木になっている実を食べたりもする。群を成して行動することが多く、狩りも群で行う。鋭利な爪と牙が武器。獲物を切り裂き肉を喰らう。群の中にはリーダーが存在し、リーダーが倒されると、途端に統率力を失う。昔のグラナトゥムの人々は、小さい頃から飼い慣らし、戦争で騎乗して出撃する者もいた。