「はあっ! はあっ!」「シントラさん! 大丈夫ですか!?」「な、何とかな…、こいつ…強かったな」「は、はい。まさかこんな生き物がいたなんて…」「わう…」第49話「笑顔の答え」sideシントラ鎖を引っ張り、エッケザックスを手元に戻す。「あ~疲れた」あたしはその場に腰を下ろし、倒れているサイ野郎を見た。「頭から花なんて生やしやがって…」サイに花が咲いているようでなんとなく間抜けに見える。というか間抜けだ。「なんにせよ、中々の強敵だった…」正直、コーデリアがいなければやばかったかもしれない。「コーデリア、ありが…ってあれ?」コーデリアにお礼を言おうとコーデリアのほうを見るとそこにはいなかった。「あれ?」「この花…」コーデリアは倒れているサイ野郎の頭に生えている花をジッと観察していた。そう言えば、花を探しに来たんだったな。戦いのせいで忘れてた。というより、その花よく無事…じゃねえな。花弁の部分がボロボロになっちまってる。悪いことしたか。「ち、違います…」「は? これと違うのか?」あんなに苦労したのに…骨折り損のくたびれもうけかよ…いや、これをもって帰って薬草とかに使えるとは到底思えないけどよ。「よく似てますがこれはドルミーレフロースです」「ドルミーレ? 何か違うのか?」あたしから言わせると、リデナントカもドルナントカも似たようなものだと思うんだけど…「リデレフロースは病気を治してくれますが、これは眠ってしまいます」「食うと眠くなるのか?」「はい。とても強力で、虫でもこの蜜を吸うと眠ってしまうほどです。リデレフロースとよく似た見た目と匂いをしてるので虫もよく間違えるそうですよ」虫が花を間違うね…死活問題じゃねえの?「シントラさんがあんなに頑張ってくれたのに…」「えっ、あっ、別に気にしなくてもいいぜ?」コーデリアはこの世の終わりという表情で地面に手をついてしまう。なんだかあたしが泣かせてしまったみたいだ。「まだあそこに道はあるし、もうちょっと進んでみよう」「わん!」「そ、そうですね! 私も諦めません!」「そう言えばコーデリア、さっきは助かった。…その、あ、ありがと」「えっ、あの…私、あんまりお役に立てなくて」「いや、そんなことない。あたしは凄く助かった」もし助けが入らなかったら、あそこでやられていたかもしれない。「あの時、一体何したんだ?」あの時は、戦いの最中だったからコーデリアが何をしたのかは、いまいちわかってない。「あれですか、まずポアロにこのロープを咥えてもらって」コーデリアは背負っていたバックから、頑丈そうなロープを取り出した。なんでそんな物を持ってきたんだこいつ?「違う岩にグルグルに巻きつけてもらいました」「よく巻けたな…」「はい! ポアロは凄いんです!」「わん!」犬と思っていたけど、普通の犬じゃないっぽいな…使い魔系か?「それで罠を仕掛けました」「罠?」「私の方のの岩にもグルグル巻いて、それに躓いて、転んだんですよ」なるほど…、あの巨体を転ばしたわけか「それだけだと、すぐに起き上がってくると考えたんで、上の大きな岩を攻撃して、踏み潰しちゃおうと思ってんですけど…、計算と違って…」あの時、撃ってたのは場所を教えるためじゃなくて、岩を狙っていたんだな。だけど体に落ちるんじゃなく尾に落ちたってわけか「だから、シントラさんのおかげで助かりました。最後の魔法、凄かったです。やっぱり私じゃ無理で…」「いや、コーデリアは絶対に戦いのセンスを持ってる。あたしが保障するよ」あの追い詰められた状況で、センスのない奴なら、怯えてることしかできないだろう。だけどコーデリアは、敵を倒す策を一瞬で考え、あたしの手助けをしてくれた。「だけど…魔力量も…」「魔力量が全てじゃない。魔力量が少なくたって、さっきみたいに策を成せば勝てる! あたしの知ってる奴も魔力量は全然ないしな」まあ嵐は嵐で特殊だと思うけど「そ、そう言ってもらえるとうれしいです! 私、さっきの戦いでシントラさんを尊敬しました!そんな人から言ってもらえるなんて…」「な、なんか照れるな…」コーデリアは笑顔であたしの手を握り、激しく上下に揺らす。「い、いいから! ほら! 行き止まりが見えてきたぞ」何だか恥ずかしくなってきた、あたしは、行き止まりが見えてきたことに感謝した。「川がありますね…流れが少し速いです」そこは、神秘的だった。川が流れている奥に花の集まっている場所がある。そしてその奥の壁には、絵が書かれている。「この絵は…」コーデリアが川を飛んで超えて、絵の方へゆっくりと歩いていく。あたしも絵を見ていたが、コーデリアは絵に目を奪われていて、周りが見えてない。「コーデリア!」「はい!?」「下見てみろ」「えっ?」壁に書かれている絵の手前にはポッカリと穴が開いていた。この暗い洞窟では、少し見えにくいが。「ひぇええぇええ!!」「なるほど…見たら死ぬか…」正確に言うと、目を奪われすぎると、転落して死んじまうってとこか「にしても変な絵だな」ちょっと古い感じがする描き方だが、多分、下の方に描かれているのは人間だろう。何かを祈るようなポーズをしているように見える。そして、上の方に描かれているのは、紫色の流れ星か?なら、人間が流れ星に願いをしている絵なんだろうか?よくわからないけど、こういうのはスカ山が好きそうだ。「まあ、いいか。こんな絵より花だ」「…そうですね!」コーデリアは、花の咲いている場所に行き、花を調べている。あたしにはわからないけど、今回は正解なんだろうか?「こ、今度こそこれです! リデレフロースです!」「わんわん!」どうやら今回は正解だったようだ!ポアロとコーデリアは跳ね回り喜んでいる。「危ねえぞ」「やりました! やり、ってうわ!?」案の定、足が絡まり、こけた。「痛た…」「あんまりはしゃぎすぎんなよ。ほら」コーデリアに手を貸して起き上がらせる。「すみません…つい嬉しくて」「だったら、早くこれを親父さんに届けてやらないとな」「はい!」「わん!」コーデリアが花を何輪か摘んだので、この洞窟から出ることにした。「や、やっと出れました…」「あ~、太陽が眩しい」帰りは特に危ない目には遭わなかったがリデレフロースに寄ってきた虫たちがうっとおしかった。「叩き切ってやりてえけど、エッケザックスがドロドロになっちまう」「そ、それは嫌ですね…」ひたすら走って逃げるしか出来なかったから、余計にストレスが溜まった。エッケザックスにはすまねえけど、やっぱり叩き切ればよかった。「父の家は、村とは少し離れていますので、ついてきてください」「こうなったら、最後まで行かしてもらうよ」「父上! 大丈夫ですか!?」「お、おお、コーデリア…無事だったか」しばらく歩くと木で出来た家が見えてきた、中に入ると、少し厳ついおっさんが布団で寝ていた。病気だから仕方ないけど、かなり顔色が悪くて、さらに厳つく見える。「これ! 採ってきました!」「こ、コーデリア…行ってはいけないと言っていただろう…」「ご、ごめんなさい…けど、じっとしてられなくて」「全く…そういう所は親父にそっくりだな」「お、お爺様と…」「ああ、ありがとうコーデリア」コーデリアの親父さんは、ニッコリと笑ってコーデリアの頭を撫でた。その撫でられた途端、コーデリアは笑顔を浮かべた。「んっ? (…この笑顔は)」二人の笑顔を見ていて、どこかで見たことのある笑顔だということに気づいた。ごく最近どこかで見たような気がする…「じゃあ早速、おかゆに混ぜて持ってきます! 少し待っていてください!」コーデリアは、台所だと思われる場所に走っていった。「…君がコーデリアについていってくれたんだね。まずはあの子を守ってくれてありがとう」「べ、別に守ってなんかねーよ! あ、あいつはあたしなんかいなくても…」「いや、それだけじゃない。何だか前見たときよりもコーデリアは立派になったように見える。…自信…かな? そんなものがついたように見えるよ。これもおそらく君のおかげだろう?」「うぅ…」「本当にありがとう」…思い出した。この笑顔がどこで見たことがあるかを「あ、ああ、別に礼言われることじゃねえ」プレシアがアリシアに向ける笑顔と同じなんだ。コーデリアの親父さんとコーデリア。プレシアとアリシアどっちも“家族”に向けて笑っている。「そっか…」プレシアの答えがわかった。「もう帰っちゃうんですか!?」「くぅ…」「ああ、エッケザックスが家までの場所を特定したから」コーデリアの親父さんが花入りのおかゆを食べ終わり眠ったので、家から出て、サラーブの座標を特定したんだが、案外あっさり見つかった。「そうですか…」「まあな…、そう言えばお前、首飾りなくなってるぞ?」「えっ? …ああ!? 本当だ!!」洞窟を出たときから気づいていたんだけどコーデリアは気づいてなかったみたいだ。てっきり気づいてるのかと思っていた。「こけた時に落としちゃったのかな~。苦労して見つけたのに…うぅ~…」「あのさ…」「はい?」「か、代わりってわけじゃねえけど…これ…」あたしは、ポケットに入っていた、髪留めの一つをコーデリアに手渡した。「うわ~、綺麗ですね…いいんですか? こんな物を…?」「もう一つあるからな」ポケットから、もう一つの月を象った髪留めを出した。「お、お揃いですか! うれしいです」「まあ形は違うけどな。じゃああたしは帰るからな」エッケザックスのカードリッジを使い、転移魔法を発動する。「シントラさん! ありがとうございました!」「こっちもお前のおかげでわかったことがあるから、お互い様だ! お前、爺さんに憧れるのはいいけど、いつかは、爺さんを越えるくらいの心構えにしろよ!」「はい!」段々とコーデリアの声が聞こえなくなってくる。「いつか…またいつか会ったときは、あたしと勝負しようぜ!」「しょ、勝負ですか!? が、頑張ります!」「それまでしっかり鍛えとけよ! あたしも4倍強くなってるかも知れねえからな!」「はい!!」その言葉が最後となり、あたしはサラーブへと転移した。sideout昨日、いきなり俺の上から、シントラが転移してきた。シントラが帰ってきた途端、ナズナがシントラを引きずり、訓練室に連れて行ったので話は出来なかったが、一体どこへ行ってたんだろう? シントラは名前は覚えてないらしいし…ていうか…「何で、俺の隣に座ってるんだ?」「別にいいだろ。あたしの勝手だ」いつもなら、俺の隣なんて座らずにナズナの手伝いをしにいくんだが今日は何故か俺の隣に座ってのんびりしている。「まあ別にいいけどな…そう言えばちゃんとしてくれてるんだな。髪留め」「ん…、ああ」シントラは俺のプレゼントをして、俺の前に来るなんて想像してなかった。つけてくれるのかも怪しいと思っていたのに「悩みは解決したのか?」「…まあな」失踪する前に何かに悩んでいた様子だったので心配していたがどうやら、悩みは解消したようだ。「よかったな」「……あのさ」「んっ?」シントラは急に真面目な声を出し俺の方を向いてきた。「あたしさ、初めは嵐が大嫌いだったんだ」「いきなり何を言う」いきなりの大嫌い発言。お父さんはお前をそんな子に育てた覚えはありませんよ!「今も、好き…ではないけどさ」「何が言いたいんだ?」「嵐が傷つくと姉御はすげえ悲しむし、あたしも何か心配するからさ」シントラは俺の眼を見て「嵐に困ったことが遭ったら、あたしが助けてやるよ」笑った。それは、今までの意地悪そうな笑いではなく、とても綺麗な笑顔だった。正直、少し見惚れた。「ん、あ~、ああ、よろしく」本当に、何があったんだか…――ステルラウィークスの離れ「父上!」「どうしたコーデリア」「私を魔導師として鍛えてください!」「…どうしてだい?」「また…また会ったときは対等にありたいからです!」「…そうか」「駄目…ですか…」「いや…お前が鍛えて欲しいというなら、喜んで鍛えよう。ただし、生半可な気持ちでは務まらんぞ」「はい! じゃあ一緒に頑張ろうね! ポアロ!」「わん!!」――川ここはシントラが怪我をしたときにコーデリアが水をくみに来た川。そこに不思議な色をしている一つの石を魚が見つけた。紫色をしている石なんて珍しく、さらに何か字まで彫られている。魚は気になり、字を見てみたが人間の文字はわからない。一体なんて書いてあるのか。―――C・M コーデリア・マセラティ魚にはわからない。<あとがき>はい!シントラ成長編終了!なんか予想以上に長くなってしまった…では!また次回!!おまけ魔法紹介MeteoritSpeer(メテオスピア)使用者:シントラエッケザックスをスピアフォルムにして直接投げつける荒業。直撃すると強力な暴風を起こす。シュツルムフォルケンと同じく結界・バリア破壊効果を持つ。シントラの強力な力で投げられ、バーニアにより更に加速し、対象を攻撃する。バーニアと直撃したとき風を起こすために、投げる前にカートリッジを一つ消費しなければならない。魔法生物紹介サイマジロンエブルに生息する地球にいるサイによく似た魔法生物。普段は頭だけ出し地中の中で過ごし、花に寄ってきた虫を食べて生活している。本来、外敵は存在しないので、角は戦いに使うのではなく、地面を掘るのに使っている。サイマジロン同士で争うときは尾で威嚇するか、角をぶつけ合ったりして、縄張りを守る。強靭な脚力を持っているが、意外に足に対する攻撃には弱い。角は折れても一日経てばすぐに生えてくる。