「さあ! どんと来いアリシア!」「いくよ! 嵐! えい! やあっ! とおっ!」「この程度で俺が飛び掛ると思うな! もっとスナップを効かせろ!」「わかった! たあっ!」「あのねこじゃらし見ると平和だって思うわね…」第42話「風のいる生活」sideリインフォースⅠ私の名はリインフォース。主はやてから戴いた名前だ。しかし、私はもう主はやての前にはいない。新しい私の妹か弟のような存在がこの名前を受け継いでいくはずだろう。少し寂しい気もするが、自分から主はやてに頼んだことだ。仕方がない。だったら私はなんと名乗ればいいのだろう。そう考えているときだった。「アインスでいいんじゃないのか?」「…アインス?」「リインフォースの名前を捨てたくないんだろう?」「それは…そうだが…」『普段は私たちも君のことをアインスと呼べばいい』「リインフォース・アインスだとかなり長いからな。アインスかアインでいいか?」「…そうだな、私にも呼称がないと困る。これからはアインスと呼んでくれ」「ああ、よろしくアインス」『よろしく頼むよアインス』「改めてよろしくだ。」その日から、私はアインスと名乗っている。何故嵐がこの名前を思いついたのかはわからないが存外にこの名前は気に入っている。そんな風に名前も決まり、皆がのんびりしている時の話だ。~~~嵐「ふむ…なかなかおいしいな」「…俺が摘もうとしてたのを何故平然とアインスが食べている…」「…? 机の上に置いてあったのだが…嵐のだったか?」太陽が美しく輝く夕方。いい匂いがすると思い、その場所を突き止めるとそこには、クッキーといわれるお菓子が3枚置いてあった。最近、おばちゃんと言われる人物のご飯を食べて食に興味を持った私は1枚だけもらおうと思い口にしていたのだが、ついつい2枚も食べてしまった。「なん…だと…」そこにやってきたのが牛乳を片手に持った嵐だった。「夕飯出来るまで我慢しろよ!」「しかし、お前もこれを食べようとしていたんだろう?」「俺は…えと…」「…?」「まあ、1枚残ってるし、別にいいか…」そう言うと嵐は私の隣に座り残ったクッキーを食べ始めた。「そういえば大分馴染んできたな」「なにがだ?」「アインスだよ。」「私がか?」「初めてここに来たときは、お菓子なんて全然興味なさそうだったのに、数日でお菓子に興味出してるじゃん」確かにここに初めてきたときは、全く食や他のことなど興味がなかった。しかし、ここの連中と暮らしていると、何だかいろんなことに興味が出た。魔道書だったとき、主はやてと守護騎士たちが楽しそうにご飯を食べているのが羨ましかった。主はやてと一緒に笑っていられる守護騎士の中に入りたかった。「…そうだな」「そうだろ」普通とは違うかもしれないが、これも一つの家族なんだろう。その温かさが私にこんなにも早く、変化を与えたのかもしれない。消えると思っていた間際に願ったことが叶うなんて思いもしなかったが、まさかかなってしまうとはな。「これからは、いろんな事をやってみるのもいいかもしれないな」「やりすぎはよくないと思うが」「ふふ、そうだな、まずは軽く…だな」「なら今日の夕飯は俺と二人で作ってみるか」「…面白そうだ」何事にも挑戦してみるとしようか。―――その日、キッチンで謎の爆発が起きたが、犯人は捕まっていない。~~~スカリエッティ『フフフ…、今日の研究はどうしようか…』研究室という名の部屋に私はやって来ていた。ここは、薬品の匂いがきつくてあまり好きではないんだが私の体調を調べるのがこの部屋なので仕方ない。「スカリエッティ」『…おや、どうしたんだい?「どうしたもこうしたもないだろう。私の検査は終わったのか」この男は私と同じような存在のはずなんだがこいつと一緒にされると何というか…寒気がするというか…何というか…『検査? それならもう終わったよ』「なら起こしてくれてもいいだろう」『起きないほうがいろいろと都合が…』「今度からはナズナか嵐を同行させてもいいか?」『冗談だよ』食えない奴だ…デバイスのはずなのにどこか人間くさい言動に行動。ある意味生きている人間よりも人間っぽいとこがあるな。嵐が言うには、生きている人間と一緒にすることがおかしいらしいがな。「お前はここにいるときはいつも楽しそうだな」『ん?』人形を操作して研究しているスカリエッティは試験管を持ったまま、首だけをこっちに向けて回転してきた。「…不気味だから止めろ」『君も同じ事を言うんだね』「同じこと?」『この前アリシアが見ているテレビで言ってたんだよ。人の目を見て話さないと失礼だと』こいつの言うことはいつも突拍子もない。この前も、赤色と血の色、どっちが好きかと聞いてきたことがあった。どちらも一緒じゃないのかと言うと、笑いながら、研究室に入っていった。「それがどうかしたのか」『いやぁ…当たり前のことに気づかされたと思ってね。研究のときはどうしても研究に意識がいって、人の話なんて研究しながら聞くだろう? もちろん顔も研究している方を向いたままだ。だが人形の体なら顔だけでも話している人物のほうを向けるだろう? これを嵐にやったんだが、思いっきり否定されてしまってね』「…当たり前だと思うぞ」―――嵐と二人でスカリエッティの狂いについて盛り上がった。~~~アリシア&プレシア+猫?「ほら!」「甘い!」「とりゃ!」「まだまだ!」「よく飽きないわね…」目の前にはプレシアがソファに座りながら嵐、いや、猫と戯れているアリシアを見ていた。「プレシア、あれは楽しいのか?」どう見ても人間が楽しむ遊びには見えないんだが…「まあ、やっている人は和むわね」「和む…なるほど、嵐はアリシアのためにあの姿に」「せぇいっ!」「何の!」人間が猫になってあれをしても大しておもしろくもないだろう。それなのに嵐が猫に変化してアリシアとあの遊びをしているということはアリシアを退屈させないためだろう。いい兄ということか。「いえ、彼も楽しんでいるわよ」「…え?」プレシアの一言が私の考えをフリーズさせた。目の前の嵐は猫のクセに楽しそうに尻尾を振り続けている。「楽しんで…いるのか…」「私もずっとアリシアと遊んでもらっているのも悪いと思って、猫でも飼おうかと思ったんだけど」「飼わなかったのか?」「彼に思いっきり拒否されたのよ」「……」「彼、「俺のかわりを飼うなんて何てことを言うんだーー!」って叫んできてね」それは、人間としてどうなんでしょう…「それで、あんなものまで作らされて…」アリシアが持っているねこじゃらしは光ったり伸び縮みしたりしている。持つ部分にスイッチらしきものが見える。「じゃらしー君・サイクロン。暗いとこでも光って見えるし伸縮も自在。防水性だし、高い場所から落としても壊れない優れものよ」「それは、また…」才能の無駄遣いなんじゃないだろうか?「まあ、私はアリシアの笑顔が見れればそれでいいわ」プレシアさんは鞄から大きなカメラを出し、アリシアを撮り始めた。「あっ! アインス! 一緒に遊ぼう!」「えっ、私はその」「アインスが嵐の背中に乗って、嵐はいつも通りに動くの」「話を…」アリシアに捕まれ、嵐の背中に乗せられる。「じゃあ始め!」―――じゃらしーコースターは結構酔うことがわかった。~~~シントラ「マスターは…」「いや、そうだけど…」「しかし…」「けど…」晩御飯の片付けが手伝い終わり適当にふらついていたとき、遠くから声が聞こえてきた。「じゃあそれでいこう」「そうですねマスター」声の出所を探してみると、そこにはナズナと嵐が話していた。会話は聞こえなかったが、一段落ついたようだ。二人とも笑っている。「……」「んっ? シントラ、何をしているんだ」「うおっ!? ア、アインスか…ビックリした…」二人から隠れるように壁に隠れている者がいると思ったらそれはシントラだった。私の声にビックリしたのか少し息が荒い。「何をしているんだ?」「う…」私が疑問を口にすると、シントラは困った表情になり口を閉ざしてしまった。…わけありか?「黙っていたらわからない」「うぅ…」スカリエッティに聞いた話では、シントラは夜天の栞から生まれた守護騎士プログラムらしい。よくそんなものを生み出せたものだと素直に感心する。「誰にも言わないでくれるか?」「約束しよう」「…じゃあ聞いてくれ」ここで話すと、ナズナたちに見つかると思い、場所を移動した。「それで、どうした? 何故ナズナたちから隠れてたんだ」「それは…」シントラは顔を伏せて話し出した。「あたしさ、姉御のことが好きなんだよ。姉御が笑ってくれてると嬉しい」「ああ」「姉御はあたしと一緒にいるときでも笑ってくれてるけど、…嵐の傍にいるとすっげー綺麗なんだ」「そうだな…」「あたしなんかと一緒にいるときより凄く綺麗でさ…、さっきも遠くから見てたけどやっぱり綺麗だった」搾り出すようにシントラは声を出す。「嵐のことは嫌いじゃない…ナズナと一緒にいる嵐の笑顔も…その…綺麗だった」確かにあの二人は一緒にいるときは笑っているときが多い。訓練していても、それが終われば二人は顔を見合わせて笑う。「姉御と嵐が一緒に笑ってるのを見ると嬉しい、けどなんか悲しい。よくわかんないけど」…難しい問題だな「すまない…的確な答えは出せそうにない」「いいよ。話してだけでも満足したから。ありがとな」「すまないな。だが、お前はまだ若い。少しずつ前に進んでいけばいい」―――その日は二人で一緒の布団で眠った。~~~ナズナ「この大きさだと、本を読むのも一苦労だな」太陽の日差しが心地よい朝そんな朝早くに私は本を読んでいた。「スカリエッティに頼んでみるか?」体が小さくなってしまった私には本を読むだけで重労働だ。毎回魔法を使うわけにもいかないので、さすがに対策を考えないといけない。「だが、スカリエッティに頼むととんでもない物が作られそうで怖いな…」「…? アインスですか?」声がしたほうを振り向いてみるとキッチンにナズナがいた。「ナズナか、こんな朝早くにどうした」「今日は私が当番なので朝ごはんの準備を」この家のご飯はナズナとプレシアが交互に作っている。夕飯はおばちゃんが作ってくれるときが多いが、朝は大体交代制だ。「そうか」「アインスは一体何を?」「ちょっと本を読もうと思ってな」「そうですか」「「……」」…何故だ? 会話が続かない。それに何だか空気が淀んでいるように感じる。「少し聞きたいことがあります」「…何だ?」とりあえず包丁は置いてくれ野菜を刻もうとしているのはわかっているが少々恐怖を感じる。「アインスは、マスターと昨日夕飯を作りましたね」「ああ、かなり失敗しまったが」「仲がいいんですね」「…それなりにはいいと思うが」空気が重い。重力が重くなる魔法を食らったようだ。「アインスはマスターのことをどう思ってるんですか」「いい友、家族と思っている」「“友達・家族”ですか」「ああ」そう答えるとナズナはぶつぶつと何かを呟き始めた。友達なら~、とか家族はちょっと危ない~、とか聞こえてくる。家族は危ないのか?「考えていても仕方ありませんね。朝ごはん一緒に作りましょう」「そ、そうだな」昨日よりもキッチンに入るのが緊張した。―――その日は、キッチンは爆発しなかった。今思い出すと濃い毎日を送っているな…「アインスー! 遊ぼー!」「アリシア。今日はコースターは勘弁してくれないか」さてと、今日は何をしてみようかおまけ~~~おばちゃん「zzz…」「サラちゃん…って誰もいないのかい?無用心だねぇ…」「zz…」「おや? これ、サラちゃんの新しい人形? へぇ~最近のはよくできてるねぇ…本当に生きてるみたいだね」「z……」「せっかく来たんだし、ちょっとだけ…」「ただいま~、あれ?おばちゃん?」「あら、サラちゃん。この部屋開けっ放しだったわよ。気をつけるようにセリアさんに言っといてくれるかい」「うん! ありがとうおばちゃん!」「いいんだよ、気にしないで。それじゃ、あたしはお暇しますかね」「ばいば~い」「zzz…」「あれ? アインス? 何でこんな場所に…って!?」「zzz…」「かわいい!! 前にテレビで見た和服ってお洋服だ!」「…ぅん…」「嵐たちに見せてあげよ!」―――この騒動あと、アインスの服はおばちゃんに頼み大量に作ってもらった。<あとがき>アインスさんと回帰組の日常風景でした。しかし書いてみるとアインスさんが回帰組で一番大人な感じになりますね。まだ染まってないだけかもしれませんが…では!また次回!!