3/疑念。
「なのはちゃんが」
それは確認だったのか否定だったのか、はやては言葉をそこで切った。
守護騎士たちは主の心情を慮ってその表情を伺うが、案に相違して夜天の王である八神はやての顔にあるのは、困惑でも怒りでもなかった。
――きょとん
なんて擬音の似合いそうな、何処かあっけに取られたような表情だ。
「……はやてちゃん」
「ん――いや、リイン、心配ないよ。あとティアナ、話続けて」
心配そうに囁くリインを止め、ティアナに報告の続きを促す。
「え、あ、はい」
ティアナは改めて居住まいを正し、言葉を続けた。
内心で自分ほどにこの人たちは衝撃を受けてないのだろうかと訝しんだが、それも無理もないと思い直した。到底、信じられることではないのだ。あの人が、あの管理局の空戦を得意とする魔導師の頂点に位置するエース・オブ・エースが、よもや犯罪者と共に行動しているなどとは――
(自分の目で見たって信じられない)
今だって、信じたくはない。
しかし。
◆ ◆ ◆
『――――ッ!』
驚愕のあまりに悲鳴を漏らすなどというミスを彼女はしなかった。
だが、それだけだ。
声は洩れずとも息が出た。あるいは、その気配はこの夜には似つかわしくなかったのかもしれない。
ティアナの手の鏡の中で、二人は確かにこちらを見た。
(バレた)
即座に鏡を懐にいれてその場を跳躍して離脱。足音を消すなどということは考えない。着地点を探すなどという思考ははなっからない。見つかったのだ。見つかってしまったのだ。本物であるのかどうかなどは問題ではない。あの姿をした者に見つかってしまったのだ。脳内でひたすら悲鳴をあげる声と並行にマルチタスクで戦術ロジックを組む。あれが本物だとして、本物の高町なのはだとして、手持ちの自分の戦力で打倒するにはどうすればいいのか。無理。無理無理無理無理無理無理無理無理無理。
『――だからって!』
予想される砲撃魔法の射線から体を外してクロスミラージュを構える。
シュートバレット バレットF。
(逃げ切るだけの距離を稼がないと)
フェイクシルエットも展開させて――
『――――I am the bone of my sword』
ティアナに聞こえたその呪文は、彼女の思考を凍らせる力を持っていた。
理性より遥かに根源的な部分が叫ぶ。
とにかく逃げろ。
足は何よりも早く反応していた。
魔法キャンセル。
足を動かせ。
クロスミラージュはマスターの状況を管理局に報告している。
足を、もっと早く。
もっと早く。
もっと早く。
もっと早く。
呪文が聞こえてから三秒でおよそ50メートルの距離を駆け抜けた。
発動が遅い、とようやく回復した論理思考が再開された瞬間、工場の窓から一筋の閃光が射出された。
(アクセルシューターか何か?)
振り向いたティアナの視界の端で、それはかろうじて判別できた。
(あれは)
剣。
と認知した瞬間、閃光はさらに炸裂し、夜を白く染めた。轟風が地上を撫で上げ、執務官の身体を吹き飛ばす。非殺傷設定も何もあったものではない。魔力の塊をただ爆発させただけの単純極まりない、――しかし強力な攻撃だ。
いや。
地面を転がりながらティアナは悟っていた。
両手両足を伸ばして態勢を整えなおした彼女は、逃げるのではなくてさきほどまで自分がいた場所にまで走り、そのまま躊躇なく窓へと飛び込んで二人がいたところまでたどり着く。
誰もいなかった。
『逃げられた……』
◆ ◆ ◆
「――まあ、そこらは仕方ねーな」
話し終えたティアナに対し、ヴィータはむしろ優しく言った。
「得体の知れない相手と接触した場合は、とりあえずはまずは一旦引くというのがセオリーだし、まして相手の一人があのなのはだったりしたらな……執務官としては足止めして援軍の到着まで粘るべきだったんだろうが、この戦力比じゃどうしようもない」
「はい」
そう相槌を打ちながらも、ティアナは内心で忸怩たる思いを抱えていた。すみません、ヴィータさん。庇っていただいて。だけど、違うんです。私は怖かっただけなんです。戦術も戦技も何もなかったんです。口にはしなかったが、それはあるいは顔にでていたのかも知れなかった。
ヴィータは何か難しそうに頭をかいて、はやてへと目配せした。
はやては頷き。
「証拠隠滅はされてたんやね」
「はい――転移魔法を使ったものと思われます。遺留品はほとんどありませんでした。今も鑑識は続けているようですが……とりあえず、残されていた衣服は、判別がついているものは全て行方不明の届けがある者か、届出はなくともやはり職場などから突然に姿を消した人間のものでした」
「そして死体も残っとらんか。やりきれんな……しかし、剣、か」
なんでわざわざ剣を使うんやろう、とはやては呟く。
剣という武器は古くから地球でも使われていた。実際に物理的に武器として考えた場合、エネルギー効率として剣は例えば長柄の槍などに比して劣る。中国において冷兵器の王とされたのは槍であるし、その効果の及ぶ距離においては弓矢には及ばない。日本では古くは剣士ではなく、弓取りが武士の呼称であった。近代ベルカ式は槍術が基本として管理局では指導されるが、実戦を考えるのならば長柄が有利だというのは魔法戦闘においても同様である証左だろう。
それでもなお、洋の東西を問わず剣の技は研鑽されて受け継がれ続けた。はやてに仕える古代ベルカ式の使い手である烈火の将シグナムも、剣の形状のアームドデバイスを使用しているし、ミッド式でありながらも近接の戦いを得手とするフェイト・T・ハラオウンもデバイスを大剣のように展開させる。
改めて何故なのかを突き詰めて考えると、奇妙な話ではあった。
当人たちに詰問しても、明確な答えはでないのではないかとはやては思っている。
人類学や歴史的に考えて、平和時において携帯性を持った武器である刀なり剣なりが戦士の象徴として残され、それがそのまま定着したものと考えられる。そしてそれは魔導師や騎士たちの戦闘にも反映して、剣を使う者が残されるのだろうか。
つまり、剣とは、遍く世界における武勇と権力の象徴なのではないか。
人々の意念が現実での物理的な有効性を超えて存在に影響を与える――これもあるいは『概念武装』なのかもしれなかった。
そういうわけで、剣の状態のデバイスなりアイテムなどというのはそう珍しくはないわけではあるが――
「やけど、聞いた限りでも、なんやあたしらの知っている魔法とは異質やね。概念武装いう言葉を使っていたということも加えて考えると、その『エミヤくん』と言うのはザフィーラがいうところの古魔法の使い手かもしれんな」
そんなんに心当たりはある? と二人の守護騎士は聞かれたが、同時に首を振る。
「生憎と先ほども申しましたが……」
「ごめん、はやて。話に聞いただけで、実際にそういうの使う相手と闘ったことはないんだ」
「そやったなあ」
つまり手がかりとはならない、ということだった。
基本的にベルカ式かミッド式が次元世界の魔法では大半だが、そこから派生したマイナーな魔法体系は意外と多い。そのあたりをいちいちチェックしたり探索するというのは不可能と言ってもよかった。簡単に全ての魔法を把握できるようなら、夜天の書など生み出されるはずもない。古魔法というのはそのような現行の魔法体系とは異なるようだが、なおさらに現在の管理局の体制では見つけ出すのは難しいように思われた。
「それでも、一歩進んだ気はします」
とティアナは言った。
概念武装という言葉が何を意味しているのかも解らなかったときに比べれば……ということらしい。
「いや、それは本末転倒、というか、さっきも言ったけど、無限書庫で調べればすぐ解ることなんだぞ」
「それは解っていますが……」
言葉を濁すかつての自分の部下を、はやては目を細めて凝視する。
「ティアナは、そこにいたのが、本物のなのはちゃんだと思っているんやね?」
「いえ、それは――」
変身魔法というのが次元世界にはある。
文字通りに姿を変える魔法である。
使用には制限があるが、もとより犯罪者であるのならば使うことを躊躇わないだろう。
だから、犯人というかその容疑者が自分の知る人間の姿をしているからと言って、その人当人であるという可能性は考えなくてもいい。むしろ、有名人の姿を好んで借りるというタイプの犯罪魔導師というのもいないでもなかった。目撃者を混乱させるためにそのような姿をしているということも充分にありえる。そのティアナが目撃したなのも、そのような中の一人であると考えれば問題はない。
だが。
「なのはちゃんの姿で犯罪というのは……いっそデメリットが大きいような気がするなあ……」
はやての声は、ぼやくようであった。
高町なのはは有名人であるし、管理局の捜査官を混乱させるために変身して……ということはありえそうに聞こえるが、現実的では実はない。なぜならば、もしも高町なのはの姿を使用して違法行為などをしようものなら、管理局を大いに刺激することだろうからだ。実際にやった犯罪の程度はおいといて、管理局が威信にかけて追い詰めてくるということは容易に想像できることであった。どこの世界でもヤクザだの警察だの国家の類は面子を重視する。時空管理局も例外ではない。いっそもっとひどいかもしれない。一つの国家でも世界でもなく、次元世界という遍く多元世界を管轄している司法組織なのである。舐められたら十倍にして殴り返してくるだろう。
それでも、まったく可能性がないというわけでもないが。
世界に不思議は満ちている。
絶対につかまらない自信があるようなカンチガイやろうな犯罪者なら、あるいは。
はやては溜め息を吐く。
「結局、そこにいたのが本物のなのはちゃんか、ということは解らんかったん?」
「あ、はい――あの、教導隊に連絡しましたが、なのはさんは二ヶ月前から長期休暇中だそうです」
よりもよってか、とヴィータとリインは一様に顔をしかめた。
「なのはちゃんが二ヶ月も? えらい長いね。あと、休暇中いうても連絡はつくと思うんやけどな」
ことによれば、管理局の方に出頭してもらえるだろう。
ティアナは「それが……」と首を振る。
果たしてこれ以上言うべきだろうか、と苦悩している風であった。
しかしここまで言ったのだから、と意を決して。
「妊婦は今が一番大切な時期だからと、場所を教えていただけませんでした」
「ああ、なるほど」
とはやては頷き。
「そうか」
とヴィータは相槌を打って。
「うむ」
とザフィーラは肯定し。
「ですねー」
とリインも顎を上下させた。
それからしばらく……十数秒ほどの奇妙な沈黙が世界を支配した。
はやてはカップを手に取って、口元に寄せた。空っぽだった。
ヴィータは指先を湿らせてお茶請けの皿に載せられていたクッキーの粒を集めていた。
ザフィーラは犬、ではなくて狼の形態になり、キッチンの方へと去っていった。
リインはそのザフィーラの後を追うように飛んでこうとして。
「――誰が?」
はやてがカップを置き、言った。
「妊婦が、ということでしたら、高町なのは教導官が。三ヶ月だそうです」
ティアナは口にしながら、なんて現実感のないことを口にしているのかと自分でも思っていた。
はやては「なるほど」とまた頷き――
「て、なのはちゃんが妊娠ッッ!?」
「あ、相手は誰なんだよ!?」
「初耳ですぅッ!?」
あぁ、やはりこの人たちも聞いていなかったのか、とティアナは改めて思い、自分の中の推測が形を整えつつあることに嫌気がさしてきた。
「全然、聞いてなかったんですか?」
「いや、ほんま全然きいてへん! ちゅーかシャマルはどうしたんや、なのはちゃんの主治医ちゃうんかいな!」
「守秘義務がありますから、言わなかったのでしょう」
人間形態で戻ってきたザフィーラは、手にクッキーの入った皿を持っていた。
「しかし、高町も水臭い。我らにはともかくとして、主には一言二言あってもよかっだろうに――相手などは解らないか」
そういいながらテーブルに置く。
「そうだよ! だから誰が相手なんだよ!」
ヴィータはティアナの襟首を掴んでいた。
「です! なのはさんのお相手は誰なんですか!?」
リインも詰め寄る。
「それは、秘密というか、教導隊の方でも聞いてないそうでして――」
そもそもが高町なのはが妊娠、というのは管理局を震撼させないほどの大事件である。それが知らされた時の教導隊の恐慌ぶりはティアナにだって想像できることだった。
ランクSクラス以上の魔導師は、当人の意思がどうであれ、もはや一個の兵器と呼んでも差し支えはない。かつてランクAAA以上の魔導師は管理局でも五パーセントほどしかいないといわれていたが、その中でもSクラスとなるとさらにその中の一握りである。勿論、ランクの高さは戦闘能力を直接意味していないが、所属が各部隊のエースの集まりである教導隊で、なおその中でのエースともなれば誰もがその力を認めるべき存在だ。ましてなのはは実際に若くして多くの実績を積んでいた。教導官としても、前線の局員としても。
九歳にしてAAAランクで、一年にも満たない間に二つの重大な次元犯罪を解決し、なおその容貌は抜きんでいた。そして性格も温厚篤実であり――
賛辞の言葉はどこまでも尽きない、そんな人物だ。
彼女に憧れて管理局に就職を希望するものも多い。
高町なのはという人物は、もはや一人の管理局員というにとどまらない。優秀な魔導師である以上に管理局のアイドルですらあるのだ。
もしもだが、もしもその人が未婚のままに妊娠した、などということが明るみになればどうなるのか。
(とんでもないスキャンダルだわ)
マリアージュ事件もあったばかりである。
管理局はただでさえ、JS事件からこっち、様々な非難にされされていたのだ。そこにあんな事件があり、そしてエースオブエース、高町なのはの妊娠。
イエロージャーナリズムは過熱報道するのが目に見えている。
あるいは、有名人にはプライバシーなどないとばかりにレポーターが殺到するという事態も十分にありえた。
管理局は彼女の妊娠を隠すだろう。
ティアナはさらに考える。
(もしかしたら、大々的に婚約発表をした方が管理局のイメージアップに繋がるかもしれないけど)
本質的に大衆というのは飽きやすい。そして表層的な事象に気を取られて流される。
マリアージュ事件のことを吹き飛ばすために、管理局のアイドルが結婚ということで大々的に報道をするという手段をとることも考えられることではあった。
どちらにしても、その効果をだすためにもしばらく事態は秘密にされるだろうが。
しかし。
「私は執務官ということで、特別に――ということでしたが」
休暇して、何処にいるのかまでは教えてくれなかったが。
執務官は管理局でも特別な存在である。だから特別に教えた、といわれると説得力はあった。辻褄も合う。ちなみに休暇時に隊員が何処にいるのかということは秘匿されるのが通常である。特になのはのような重要な役目を持った隊員ならば。休養をとっているところに犯罪者が強襲を仕掛けてくるということは当然ありえることであった。妊娠がどうこうは関係ない。今回は妊娠ということで特に厳重に情報は封鎖されているようだったが。
はやてはティアナの表情の動きを眺めながら。
「ふむ……ティアナは納得していないんやな」
「はい」
はやてとティアナのそのやりとりに、周りの者も落ち着き直し、顔を見合わせる。
「つまり、なのはちゃんの妊娠はカモフラージュで」
「現在は特殊任務についているか、あるいは――」
全員が沈黙した。
その静寂がどれほど続いたのか、最初にそれを破ったのは、この家の主である八神はやてである。
ザフィーラが新たに持ってきたお茶請けに手を伸ばし、クッキーを十枚ばかり鷲掴みにして、まず二枚口に放り込む。
しゃりしゃりと咀嚼する音がリビングに響く。
守護騎士とデバイスと執務官は、その様子をあっけに取られたように見ていた。
食べ終えると、次は三枚、また咀嚼――
その次は四枚――で。
「なあ」
とティアナへとはやては向き直った。
「ユーノくんやヴィヴィオのラインから、自分が調べているということがなのはちゃんに知れるとまずい――そう思ったのは、解らんでもないわ」
「はい」
「あのなのはちゃんが犯罪に関わっているのか、それともただのそっくりさんか、変身魔法を使っている相手か解らんけど、用心に用心は越したことはない。まあ知り合いのことですらそこまで神経をとがらせられるってのは、執務官としては立派なことやと思うよ」
「はい」
「それでもな、改めて聞くよ」
はやての声に、重みが生じた。
それはかつての部隊長の時代のそれとも違う、とティアナは思った。
何処かの王様のようだった。
「なんで、うちに来るんかな、ティアナ・ランスター執務官は」
それはどういう意味なのか――
八神はやては、底知れぬ微笑を浮かべていた。
「つまりな、そこまで気を使ってものを考えているティアナ・ランスター執務官殿が、わたしもなのはちゃんに協力している人間だったら、という可能性を考えずにきたのか」
「考えませんでした」
ティアナの答えは、本当に間もおかずに返った。そこには寸毫の迷いも感じられない。
さすがにはやても驚いたように目を見開き、守護騎士たちは訝るように目を細める。
「なんでですか?」
とリインが聞いた。
「マイスターはやては、繋がりでいうのならば司書長にも聖王陛下にも劣らないもののはず、です」
「本物かどうかはわかりませんが、あのなのはさんは、言ってました。『最悪にならないための、そうならないための犠牲は払うべきだ』って」
正直、なのはの言葉とは思えなかった。
会話の内容を吟味すると、管理局にことの真相が露見すると『ひどいことになる』ということだが、それはどういうことなのだろうか。ティアナには想像もつかない。すでに確認できるだけで二十人もの死者?が出ている。何が起きているのかはよく解らないが、それでも組織の力で解決するのが最良の、合理的な判断のはずである。少なくともティアナならそうするし、管理局に幼くして所属していたなのはなら、管理局の力を借りるのも吝かではないはずだ。管理局に報告もなしに非合法な活動をしているという理由はまるで思いつかない。どう考えても、あの人はなのはだとは思えなかった。高町なのはだとしたら、そもそも『犠牲』を許容しない。
それでも、考える。
もしもあの人が、本物の高町なのはだとしたら。もしももしも、高町なのはという人が何かを成す為に犠牲にできるものが、あるのなら、もしももしももしも、あの人が本物の高町なのはだとして、非合法行為に巻き込んでもいいと思える犠牲があるのなら、あるとするのなら――
そこには、八神はやてはいない。
それが結論だった。
「意外な答えやね」
はやては、むしろ面白いことを聞いたかのように、揶揄するかのように言う。
「なのはちゃんが、ユーノくんやヴィヴィオよりも、私のことを大切にしているってことかいな、それは」
「あの人がもっとも大切にしているのは、法と秩序です」
どうしてか眼差しを逸らし、ティアナは断定する。
目を向けなかったのは、そこに混じった感情を読み取られたくなかったかもしれない。
「もしかしたら、土壇場では感情を優先するかもしれませんけど、だけど判断力が伴っている状態であるとするのなら、万が一にも非合法な活動をする場合、はやてさんを巻き込むことはありえません」
何故ならば――
「ユーノ司書長の代わりも、聖王でないヴィヴィオの代わりも、います。恐らく、多分、フェイトさんの代わりの執務官も。次世代の人たちを待てばすむだけの話です。いなくなったとしても、管理局の未来においてどうしても必要な人材というわけではありません。なのはさんは一人でできないとしたら、ぎりぎりまで頑張ってもできないとしたら、そのために力を借りる人たちがいるとしたら、犠牲にしても問題ないと考える人たちがいるとしたら、そのあたりまでです」
「―――――」
「はやてさんだけなんです。はやてさんとその家族だけなんです。管理局の未来を担うために出世コースを進んでいる人たちは」
ティアナは立ち上がっていた。
「そして、あのなのはさんたちに対抗できる、管理局で唯一にして最大の【戦力】の持ち主も」
「……それを私に望むんやね、ティアナは」
「はい」
はやては立ち上がらなかった。
眼差しは、何処か遠くを見ていた。
つづく