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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第八話「友人」
Name: にぼ◆6994df4d ID:54171542 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:39

スカリエッティのアジトは中々広い。
大浴場、訓練スペース、居住空間。
いずれをとっても基地と言っても過言ではないものだ。

「なぁ、チンク」

そんなアジトの食堂に当たる場所。
ぐったりと椅子にもたれていたジョニーが声を上げ、ゆらりと立ち上がった。
食堂にいたチンクという眼帯少女がジョニーの声に視線を向ける。
いや、その背丈を考えれば見上げたと言った方が良いか。
他の戦闘機人達より一足先に自己紹介し合った彼女は、幼くて可愛らしい容姿だ。
しかし、落ち着いた言動と右目の眼帯が老成した雰囲気を醸し出している。
少なくともあのトーレとかいう怖い女性や、何を考えているのか分からないスカリエッティよりは好感が持てるだろう。

「何だ、ササキ?」
「俺の頬を引っ張たいてくれ」
「……ササキはそういう趣味があるのか?」

チンクは顔を少し赤らめて、美しい銀色の長髪を揺らしながら問い掛ける。
その言葉にジョニーの顔も真っ赤に染まった。
慌てて否定の言葉を紡ぐ。

「ち、違う! 俺にそんな性癖は――! と、とにかく思いっきり頼む」
「……まぁ、良いだろう。行くぞ?」

ああ、と答えて、来るべき衝撃に備えて歯を食い縛る。

「へぶぅっ!!」

甲高い、風船が弾けたような音と共に豪快に吹っ飛ぶ。
頬を襲った、予想を遥かに超える痛みにジョニーは悶え苦しんだ。
まるで焼けるように熱くて、痛い。
たちまち頬は赤い模様を作り出した。

「ひい、ひい! 痛い! 痛いぃ!」
「……ササキ、君は下痢に頭をやられたのか?」


容赦無く、と注文した当の本人が痛みに転げ回る様子を見て、チンクも呆れた表情を露にする。
自分から頼んでおいてこのザマだ、誰でもそういう趣味があると誤解してもおかしくは無いだろう。
ヒリヒリと痛む頬を優しく撫でて、ジョニーは立ち上がった。

「痛かった。痛かったぞ!」
「……当たり前だろう」
「つまり……夢じゃ、ない!? ……いや、夢の中なのに一晩ぐっすりと寝れるような夢だ。……こんなんじゃ覚めないか……?」

大げさと言っていい位に驚愕し、そして困惑するジョニー。
ジョニーは悪夢の一種だと信じていたのだ。
では、悪夢からの帰還を果たすにはどうすればいい?
――痛みだ。
予定ではこのまま現実世界へ舞い戻り、そのまま家に直行する筈だったのだが。
そんな甘い考えもチンクによって一瞬で砕け散ってしまったのだ。
絶望に次ぐ絶望に、地面へと崩れ落ちる。
ジョニーの行動に納得したのか、成る程、と呆れながらも頷くチンク。

「残念だが諦めた方が良い、これは夢ではない。紛れもなく現実だよ、ササキ?」
「理不尽っ……理不尽だっ……くそぉっ!」

悲痛な叫び声がスカリエッティのアジトに響いた。

第八話「友人」

『ここは地球ではない、異世界だよ』

そんな事をいきなり言われても、信じる馬鹿が一体何人いるだろうか?
そんな事を信じるのは、恐らく相当頭のイカれた愚か者に違いない。
ジョニーがそれを言われた時は隠しカメラを探した程だ。
他人の奇妙な言動を見れば誰だって面白いと感じるだろうし、視聴率を気にするテレビ局もそれを狙った番組を作る。
所謂ドッキリ番組だ。
当然ジョニーは自分がそのドッキリの出演者なのだと思っていたが、いつまで経っても司会の人間は出てこなかった。
さらに、スカリエッティとやらがジョニーに見せつけた技術は、確かに地球のそれを頭一つ分抜き出ていた。
ここにいる女性陣――戦闘機人と呼ばれるナンバーズの面々も、スカリエッティの技術で生み出された存在らしい。
そして何よりも頬に残った確かな痛みこそ、ジョニーのいる場所が異世界であるという現実を突き付ける最大の要因だった。
よく出来た脚本だ、と嘲りながら軽く聞き流していた昨日のスカリエッティの話を記憶の棚から引き出す。
スカリエッティはジョニーから粗方の情報を聞き出すと、満足気な表情でこちらの世界について話していたのだ。
魔法技術、数多くに渡る世界の存在、戦闘機人、そして時空管理局という組織。
本人曰く指名手配を受けている違法研究者であり、今のジョニーをのこのこと敵側の管理局の元へ行かせるつもりも無いらしい。
そこで元特殊部隊ジョニーを傭兵として雇う事にした、という訳だ。
と言っても魔力を持った魔導士の世界で、拳銃一丁のジョニーが役立つ機会などほとんどない。
つまり、自分達の事を知られてしまったジョニーを雑用係として監視下に置くという事だ。
命を奪われないだけマシ、そう前向きに考えるしか出来なかったジョニーは再び大きな溜め息を吐いた。

「まぁそう気を落とすな、ササキ。向こう――地球だったか、そっちでは無職だったのだろう?」
「……まぁ、な」
「だったら向こうでだらけた生活を送るより、まだこの状況の方が良いんじゃないかな?」
「……半ば監禁状態で一日雑用やらなんやらさせられて、賃金は寝床と食事だけ。ペットの犬猫だってもう少しマシな生活してるよ」
彼女が励ましてくれている事は分かる。
だが、愚痴らずにはいられない。

「まぁいいじゃないか、ドクターがササキに興味を持たなかったら、今頃死んでるぞ?」
「俺は今そんな穏やかでない場所にいるんだよ!」

滑らかな手つきで紅茶にミルクを注ぐチンクに、ジョニーは悲痛な面持ちで声を上げた。
お気に入りのエイリアスというドラマの放送があるのに、今回どころかしばらくは向こうのテレビはお預けだろう。
悲しみに暮れ、信じてもいない神様に祈るジョニー。
それに呼応したかのように誰かがジョニーの肩を掴んだ。
後方には誰もいない、壁側なのに。

「サッサキィーッ!」
「うぎゃああああぁぁ!!」

思わず叫び声を上げてしまうジョニー。
慌てて振り向くと、快晴の空をそのまま溶かしたような髪で明るい笑顔の少女。
みっともなく叫び声を上げたジョニーを見てけらけらと笑うその少女の名は、セインだ。
自己紹介の際に突如壁から出てきたので印象深く残っている。彼女の能力らしい。
今回もその能力を見せてくれたのだろう、心臓に悪い。

「あはは、驚きすぎ」
「……君か。えーと……セインだったか」
「おぉ、正解! いやぁ、ササキはからかいがいがあって良いなぁ、あはは」
「誰もいない筈の場所から声掛けられたら驚くに決まってるだろっ!」

笑い声を上げるセインに、恥ずかしさと怒りで顔を赤く染めるジョニー。
チンクも僅かに顔をしかめさせて、セインを叱り付ける。

「そうだぞ、ササキはおもちゃじゃないんだ。あまり遊びすぎるな、セイン」
「はーい、チンク姉」

さすがに姉のお叱りには従順だ。
心の中でチンクに喝采を送る。

「それに、ウェンディもな」
「あはは、あー、バレてたみたいッスね」

チンクが声を上げると、盗み聞きしていたのか気まずそうに少女が出てきた。
ウェンディと呼ばれる彼女もまた、セイン同様明るく活発で好印象だ。
彼女達のやりとりは、さすがに姉妹というだけあって、それに相応しい暖かみがある。
それが、ジョニーの中で疑問をふつふつと湧き起こさせた。

「なぁ、君達は、その……スカリエッティに作られたんだろ? それで、奴の言う事を聞いて戦ってる」

命令、という言い方はしない。
少女達は小さく頷いた。
続けて、何を言ってるんだ、と訝しむウェンディにセイン。

「君達はそれで良いのか?」

思い返せばリキッドも、自分を作った存在と戦いを繰り広げていた。
奴の憎しみに溢れたその瞳は、一生忘れる事は無いだろう。
それなのに、こんなに可愛らしい少女達は駒として動いている。
何の疑問も持たず、生活の一部を軽くこなすかのように。
ジョニーにはそれが大きな違和感だったのだ。
セインがジョニーの疑問に返答する。

「そんな事を言われても私達は特に目的とか希望とかある訳じゃないから、生みの親の言う事を聞いてるんだけどねぇ」
「確かに、そうかもしれない。けど――!」
「――ササキ」

チンクの声で沈黙が広がった。
その声は重く、先程までの柔和な表情も消え去っていた。

「君は、何故軍人になったんだ?」

その声でたったそれだけ問われただけなのに、ジョニーの体は動かなくなっていた。
まるで、金縛りに掛かったように。
ジョニーは視線を逸らさず、その小さな躯に相対した。

「……俺の爺さんに、憧れたからだ」
「君の戦っていた理由は、銃を握って人を撃っていたのは、君の祖父に憧れていたからかい?」

それは、と口籠もるジョニー。

「所詮戦う理由なんて誰も大した事じゃ無い。私達も、君もな。……ほら、ササキ、料理を作らないと」
「あ、ああ……そう、だな……」
気付けば先程までの空気はすっかり消え去っていた。
そしてそこには、丸め込まれてしまった惨めな男。
肩を落とすジョニーとは対照的に、セインとウェンディは目を輝かせた。

「ササキ、何を作るの?」
「……俺の母親直伝の日本式唐揚げだ」
「おぉ、期待ッス!」

何も言い返せない自分が少しだけ腹立たしくて。
それでも、席を立ち上がるしかないジョニーだった。



いつもならあって当たり前の、土の匂いが無かった。
おまけに、ふかふかした感触が体を優しく包んでいる。
――此処は、何処だ。
その謎に突き動かされるまま、スネークはゆっくりと目を開いた。
朧気な視界にはいつものような茶色でない、真っ白な天井。
体を起こして辺りを見回すと、塵一つ無い清潔な空間。
頭を振りつつベッドから降り立つ。
そう、ここは機動六課の寮だ。
武器は殆どが管理局が預かる、と没収されてしまい、非常に歯痒い思いをしている。
手元にあるのは直接的な殺傷力の無さから護身用としていち早く返されたM9だけで、これが今のスネークの身を守る唯一の武器。
どうせなら、確実に無害だと分かっている装備品位は返してもらいたい。
特に、段ボールは手荒い扱いを受けていないか不安だ。
見慣れた骨董品が無くてなんだか落ち着かないのは、綺麗にまとまった寮よりも小汚いテントに慣れてしまったからだろう。
オタライアに毒され過ぎたか、と一人ごちる。
窓から差し込んでくる朝日を横目に、スネークはシャワーを浴びるべく立ち上がった。

昨日機動六課隊舎の部隊長室で行われた、事情聴取とは程遠い和やかな情報交換会の後。
スネークは案内担当のリインフォースに連れられるがまま、六課を見て回った。
若い隊員が多いせいか部隊も明るく、アットホームな雰囲気が印象的だったな、と思い返す。
自身のかつての職場とは雲泥の差だ。
スネークはこういう雰囲気には慣れていない所為か、やはりどこか違和感を感じる。
長い間一人でいる事を選び、他人の介入を拒み続けた報いなのかもしれない。
それを思うと遣るせなくもなる。
ともあれ、その施設案内が済んでしまうと、とうとうスネークはやる事が無くなってしまった。
邪魔さえしなければ適当にブラブラしても良い、なんて言われたものの、目的意識もなく生活するのはさすがに苦痛を感じる。
朝の散歩、そして食堂での朝食。

――さて、午前と午後をどう過ごしたものか。

この苦悩がまだ何日も続くのかと思うと、気分も一層憂鬱になってしまう。
早く手続きとやらが終わる事をスネークは切実に願った。

「スネークさん!」

海を見渡せる隊舎の周りを散歩しているスネークに、女性特有の柔らかな声が掛かる。
振り返れば、誰しもが魅了されるであろう長い金髪を揺らし、柔らかな微笑みを浮かべながら美人が歩いてくる。
機動六課で会うよりも前にタルタスで出会っていた彼女の名は、フェイト・T・ハラオウン。
六課の制服ではなく、動きやすいラフな格好をしている。

「君は……フェイトだったな」
「はい。おはようございます、スネークさん」
「ふむ。……タルタスで会った時の制服も良いが、そういう格好も悪くないな」

フェイトはスネークの言葉に驚き、嬉しさを滲ませた表情に変わっていく。
素晴らしい美人だな、とスネークは改めて思った。
機動六課の隊長陣は美人揃いで、高町なのはも遺跡オタクには勿体ない位だ。
地球へ帰る前に一人ずつディナーのお誘いをしてみるかな、等と考える。

「覚えてたんですか? そんな素振り全然無かったから、忘れてるのかと思ってました」
「一度会った女は忘れない。美人なら尚更な」
「ふふ、お上手」

少しばかり顔を赤く染めて返答するフェイトに、本音さ、と微笑みながら告げる。
さすがにこんなタイミングではムードも無く、冗談や世辞に聞こえてしまうか。
フェイトはスネークの横に立って微笑んだ。

「これからフォワードの訓練なんです。スネークさんは何を?」
「暇を持て余していた所だ」
「……だったら、スネークさんも訓練を見ていきませんか?」

フェイトの思わぬ提案にスネークは、ふむ、と思考を巡らせた。
スネークは今まで、攻撃型の魔法は直接見た事がない。
戦闘空間を、まるで空を飛ぶ蛇ではないかと錯覚させるように乱れ飛ぶ翡翠の鎖が、一番付き合いの長い魔法だ。
他人の訓練なんてそこまで興味は持たないが、やはり『魔導士の訓練』という言葉には、スネークも僅かに興味を持った。

「……折角の美人の申し出だ、是非行かせてもらおう」
「はい、分かりました。すぐそこですよ、行きましょう?」

スネークは歩み出すフェイトの後を追った。
フェイトは歩みを止めずに振り返り、少し攻める口調でスネークに声を掛ける。
顔には、僅かだが非難の色。

「……一つ聞きたいんですけど、貴方はいつもそんな風に手当たり次第に女性を口説いているんですか?」
「とんでもない。心の底から褒めたくなる程の美人相手の時だけだ。君みたいな、な」
「そうですか、成る程。ふむ、成る程。……悪くない気分です」

笑顔がより濃くなったフェイトへ、それは何より、と笑い掛ける。
そのまま僅か数分歩いた所で、フェイトが立ち止まった。
スネークが連れてこられたのは隊舎屋外の端、海がよく見える場所。
そこにはなのは率いるスターズ分隊に、ライトニング分隊の少年少女達が待機していた。
なのはがいち早くスネークに気付いて声を上げる。

「フェイト隊長……と、スネークさん? どうしたんですか?」
「訓練見学のお誘いを受けたものでな。……だが、ここで訓練するのか?」

スネークは辺りを見渡してみるが、訓練に適した場所とはとても思えなかった。
穏やかな海面を見て気分を落ち着けてから訓練を、なんて事も無いだろう。
スターズ分隊の青髪の活発そうな隊員のスバルが、スネークの疑問を浮かべた表情を見て、得意気な表情を作った。

「フフフ……スネークさん、六課の技術力を見せて上げましょう! ……さぁなのはさん、お願いします!」
「……バカスバル。あんたも初めて見た時は驚いてたでしょ」

スバルがおどけて、オレンジ色の髪のティアナがそれに突っ込みを入れる。
なのははそんなやりとりを微笑ましい表情で見て、手元のパネルを操作。
それと共に、海面上に緑一杯の森林で埋まっている島が出現した。

「なっ……」

目を丸くするスネークを少年少女達は楽しそうに見ていたが、やがてスターズ副隊長のヴィータがぶっきらぼうに説明する。

「なのは隊長完全監修の空間シミュレーターだ」
「……VR訓練の発展型みたいなものか」

シャドーモセスに潜入する前に、勘を取り戻す為に行ったVR訓練をスネークは思い出す。
しかし技術的にはやはり、こちらの世界が圧倒していた。
あくまで仮想空間に人間が意識を潜り込ませるVR訓練に対して、こちらは『現実』にそれを引っ張ってきている。
この分だと飛行機に乗らずに海外旅行が楽しめそうだ。
この世界にオタコンを連れてきたら、感動の余りに再び失禁してしまうかもしれないな、と苦笑を漏らした。
VR訓練、という言葉になのはが意外そうな反応を示す。

「地球にも、こういう技術が?」
「……軍の最新技術に似たものがある。俺は余り好きじゃないがな」

それには痛みもある。
現実感もある。
そして、現実世界では起こっていない。
その奇妙な矛盾は実践での恐怖を抑制させ、正に新兵の訓練にうってつけなのだ。
しかし、画期的、革新的だと軍内部で称賛を浴びたその技術は、精神的な障害を身体に残す。

VR訓練に染まったその新兵が、生と死の隣り合わせである領域に踏み出した時。
その新兵は最初、老兵並の戦果を残すだろう。
まるで、ゲームを淡々とこなすように、確実に、正確に。
しかしVR訓練に無い、戦場にありがちなハプニングと何度も遭遇する内、その新兵は狼狽を極める。

これは空想なのか、現実なのか、と。

現実感の欠如だ。
そして、その答えを与えてくれる人がいない時、新兵は戦場から強制的に排除されるのだ。
スネークは、その一連の流れ全てが気に入らなかった。
軍の考えも、訓練の在り方も、その新兵の末路も。
ともあれ、地球も進歩してるんだなぁ、とどこか懐かしそうに呟くなのはにスネークは奇妙な違和感を感じた。
アフリカの原住民が先進国で携帯電話を弄ったりして文明的な暮らしを満喫している、という風景を見た時のそれと似ている。
だが、それは口には出さない。

「そう、地球は日々進化しているんだ。君がユーノとイチャイチャしてる最中でさえな」
「も、もぅ、からかわないで下さいスネークさん! ……ごほん。じゃあ皆、今日から個別訓練だけど張り切っていこうね!」

わざとらしい咳払いの後に、顔を赤くしたままのなのはが訓練前の挨拶をする。
はい、という新人達の威勢の良い返事。
若者達は、なのはの後をついて訓練場へと向かって行き、スネークもその後を追って行った。



「魔法世界での訓練を見た感想はどうだ、スネーク?」

一通り新人達の個別訓練を見終えたスネークに声が掛かった。
濃いピンク色の長髪をなびかせているのと、きりっとした目付きが特徴的な美人。
数少ない大人の女性であり、ヴォルケンリッターの将、剣の騎士の二つ名を持つシグナムだ。
本当にこの部隊は、スネークの古巣、ムサい男達が集っていた部隊とは大違いだと実感させられる。
美人が多くて、純粋そうな少年少女達がいて、どこか優しい雰囲気を放っている。

「シグナム、で良かったか? ……さすがに鉄槌を振り回したり、それを真っ向から受け止める少女は地球にはいなかったよ」

スネークは先程見た光景を思い出しながら、顎髭を撫で返答する。
シグナムも笑みを浮かべた。

「ヴィータとスバルか。確かに、初めて見たら驚くだろうな」
「……君は訓練には?」
「私は人に物を教えるのは得意としていないんだ」
「成る程。それで? 俺に何の用があるんだ」

どこかうずうずしているシグナム。
その瞳からは何かに期待している色が伺えた。
教官擬いの事を苦手としている人間が、わざわざこんな所にスネークを尋ねてきたのだから、大体の予測はつく。
溜め息をつくスネークの鼻先に木剣が突き付けられた。

「スネーク、お前の実力が知りたい」
「……魔力も無い男の実力を知った所で、後悔するだけだぞ」
「どうかな。スクライア曰く、『身体能力、危険感知能力、判断力。どれを取っても唯の傭兵とは思えない』そうだが?」

ニヤリ、と木剣を突き付けたままスネークに笑い掛けるシグナム。
随分と楽しそうだ。
余計な事を、とスネークは内心でユーノに悪態をつく。

「武器もロクに持たない男をいたぶるつもりか。良い趣味だな?」
「私を倒せと言ってるんじゃない、実力が知りたいだけだ。加減もするし、バリアジャケットも付けないでやろう」
「結構な心遣いだな、断る。高評価を得る事に興味は無い」

彼女の好奇心を満たす為に戦うつもりもない。
スネークがはっきりと断ると、シグナムが表情を一変させた。
笑みである事には違いない。
だが、木剣を下ろして腕を組んだ彼女の顔には、ニヤニヤとした陰湿な笑み。

「ふむ、さすが軍事大国の元軍人。絶対に適わない、手も足も出ない相手とは戦わない訳か。懸命な判断だ」
「……大した自信じゃないか」

明らかな挑発だ。
やすやすと乗ってやるつもりもないが、やはり不快にはなる。
シグナムはスネークに軽い足取りで近寄り、耳元に口を近付ける。
柔らかい香りが仄かに漂う。
まるで盗聴を警戒するかのように、そっと囁いた。

「もう一つ、良い事を教えてやろう、スネーク。お前の武器装備は既に本局から戻って、六課が握っている。あの、『段ボール箱』もな。……分かるか?」
「何だとっ……まさかっ!?」

絶望的な未来がスネークの脳裏をよぎる。
豪快に泥水を掛けられて、ふにゃふにゃにふやけ汚れきった段ボール。
かつては壮健たる佇まいだったそれの末路を想像して、シグナムの不適な笑みに怒りを募らせる。
卑劣な、とスネークは歯軋り。
懐のM9に手を伸ばす。
シグナムはスネークの反応を予測していたのか、一歩後退し、ますます機嫌良さそうに微笑む。

「さぁスネーク、どうする?」

シグナムはスネークの答えを楽しそうに待っている。
――馬鹿にされたものだ。
どうするもこうするもない、目の前にある選択肢はたったの一つだけなのだから。
スネークは距離を取ってM9を突き付ける。

「……手出しはさせんっ!」
「フッ、ようやく乗り気になったか? ……いくぞっ!」

スネークが戦闘態勢に入ったのを確認したシグナムは、木剣を構えて勢い良く突進してきた。

――一閃。

振り下ろされる木剣を回避する。
ブォン、と空気を切り裂くその音が、その速さが、威力の大きさを物語っていた。
木剣と言えど、当たったら只ではすまないだろう。
後方に跳躍、初撃を外した彼女へと引き金を引こうとして、スネークは戦慄する。
シグナムがそのまま、すぐ目の前まで距離を詰めていたのだ。
尋常ではないスピード。

(――躱せっ!)

思い切り上体を逸らして、切り上げられる木剣をすんでのところで回避。
態勢を崩しつつも、せめて一発、と回し蹴りを放った。
が、受け止められる。
スネークは地面に落ちた衝撃を無視して即座に立ち上がり、距離を取った。
ニィ、と笑みを深めるシグナム。

「やるなっ!」

高まる緊張と彼女の喜悦に染まった声色が、スネークのとある記憶に働き掛ける。

 ――さぁ、俺を感じさせてくれ! 俺に生きる実感をくれ!――

そう、あの男だ。
スネークが廃人になるまで追いやり、二十一世紀仕様のサイボーグ忍者として再度立ち塞がった友人、グレイ・フォックス。
彼から溢れていた、全てを飲み込み消し去ってしまうような殺気や狂気は無いものの、速さに関してはフォックスと良い勝負だろう。
シグナムが再度距離を詰めてくる。
彼女の胴体を狙ってM9の引き金を引くが、スネークの予想通り木剣によって弾かれてしまう。
何事も無かったかのように木剣を振るってくるシグナム。
まるでハリケーンだ。
スネークは避けるたびに精神をすり減らす。
スライドを引いてもう一発シグナムに向かって発砲するが、やはり綺麗な一閃の元、跳ね返される。
一発当たれば即ノックダウンするだろう一撃をなんとか避け続けながら、スネークは苦笑した。
参ったな、あの時とそっくりの展開だ。
騎士と忍者には何か通じるものがあるのかもしれない。
一発ごとにスライドを引く作業をもどかしく感じ始めると同時に、シグナムが声を上げた。

「どうした、スネーク? 闇雲に撃ってても私は倒せんぞ!」

そんな事はわかってるさ、と内心でぼやく。
無駄口を叩く余裕なんて無かった。
もう何発か避けた所で息をついて、シグナムを見据える。
となれば、別の戦法でいくしかない。
どうするか?

――分かりきっている答えだ。

スネークは変わらず、M9を構え続ける。
戦いの基本は格闘。
武器や装備だけに頼っていてはいけない。
友人の言葉を思い出しながら、ゆっくりと近付き。
空気が張り詰めた。
先程まで回避に撤していたスネークの様子が変わった事に、シグナムも警戒している。
鼓動の音が煩わしい。
シグナムの剣の間合いまでもう少し、という所でスネークは立ち止まった。
何をするのだろうか、とシグナムはワクワクしているようにも見える。
スネークは深呼吸をし、意を決して――

――M9をその手から放した。

緑の草地に吸い込まれていく銃に、シグナムも戸惑った表情。
彼女は、ほんの一瞬。
ほんの一瞬だけなのだが、それに意識を取られた。

その瞬間スネークは、可能な限り全速力でシグナムとの距離を詰めた。

「っ!」

スネークは左パンチで木剣を払い退けて態勢を崩させる。
そして渾身の右パンチを思い切り叩き込むが、シグナムは頭を捻って回避。
右の拳が虚しく空を切る。

――まだだ。
まだ、終わってない。

シグナムは既に態勢を持ちなおして剣を振りかぶっている。
スネークは思い切り体を捻らせ、跳躍。

「はああぁぁ!」
「うおおぉっ!」

遠心力で加速した足はグングンとシグナムに吸い込まれていく。
そして確かな手応えを確認する直前。
側頭部に受けた衝撃でスネークはあっさりと意識を手放した。



「う、ぐぅ……」
「あ、起きました?」

酷く、身体が重かった。
スネークが重たい目蓋をなんとか持ち上げると、再び真っ白な天井が広がっている。
側頭部がじんじんと鈍い痛みを主張している。
どうやら気絶していたらしく、窓の外の景色は既に燃えるような赤色に染まっていた。
柔らかい声でスネークを気遣う医務官のシャマルの横には、頬にガーゼを付けたシグナム。
瞬時に、意識を手放す直前までの記憶を掘り起こす。

「……やぁ、シグナム、おはよう。その頬はどうしたんだ?」
「ああ。お前が気絶した直後、滑って転んだ時にな。……まさか、銃を捨てるとは思わなかったよ」

ニヤり、と笑い合う。
どうやらスネークの最後の攻撃はちゃんと当たったようだ。
サイボーグ忍者や宿敵リキッドとの戦いでも大活躍したコンボの信頼性も中々。
パンチ、パンチの後の回し蹴りもなかなか良いかもしれない。

「それで? 段ボールは返して貰えるんだろうな?」
「ああ、勿論だ」
「……段ボール? まさか貴方達、そんな下らない事で……」

呆れた表情をするシャマルに、下らなくなんてないさ、とスネークは頭を振ってみせる。
何だかんだ言って、良い退屈しのぎにもなったのも事実だ。
シグナムが思い出したかのように声を上げた。

「だが、スクライアの言った通りだな」
「……奴は何て?」
「『スネークに武器装備を整えさせたら、並の連中なら敵じゃない』、と。後は……」
「後は?」
「『ああ見えて負けず嫌いな一面があるから、ちょっと焚き付ければ意外に乗り気になる』だそうだ。フ、事実だったな?」
「……酔っ払いたくなってきた」

訓練場でのシグナムの言動を思い出してげんなりする。
ユーノが大事にしている骨董品の数々に、スティンガーをぶちこんでやりたい気分だ。
シグナムがスネークの言葉に反応した。

「酒なら付き合ってやるぞ。ここは飲める連中が少ないからな」
「あ、それなら私も!」
「そうだな、ザフィーラやヴァイスも誘ってやるか」
「スネークさんが帰っちゃう前にやらなきゃね、だったら明日にでも――」

シャマルも乗り気なようだ。
既に飲み会を開く事は決定事項らしい。

「……美人は酒の最高のつまみだ、楽しみにしているよ」

こんな空間にいる事にスネークはやはり違和感を感じる。
それでも、悪くない気分だ。
少しだけ、地球に帰る事に未練を覚えるスネークだった。


おまけ

「おぉ、ササキの唐揚げ美味しいッス!」

ジョニーが料理に奮闘している中、ウェンディが顔を綻ばせた。
どうやら、日本人の母がジョニーに仕込んだ料理の腕は好評のようだ。

「おい、摘むのは一つだけだぞ」
「あいよー」

セインも唐揚げを一つ摘むと、それに赤い何かを――

「――ケチャップゥ!?」
「あたしは唐揚げにはケチャップ派だけど……どうしたの?」
「ケチャップなんて邪道っ糞だっ……糞っ……! 見たくもないっ!」
「何を騒いでいるんだ?」

ジョニーの魂の叫びを聞き付けたチンクが様子を見にやってくる。
セインとウェンディが首をかしげているのを見て、疑問の眼差しをジョニーに向けた。

「ササキがケチャップに異常な敵意を燃やしてるんだけど……。ササキ、どうかしたの?」
「あれは忘れもしないシャドーモセスでの出来事っ! 牢屋の警備に付いていた俺は一人の男を監視していたっ……そう、ソリッド・スネークだっ……!」
「……なんか、一人で話し始めたッスよ」

怒りに燃えるジョニーにたじろぐ女性陣。
ジョニーは構わずに話し続ける。
「奴は卑怯にもケチャップで死んだ振りをっ……! 卑劣っ……! 下劣っ……! ……ぐぐ、とにかくそれ以来、俺はケチャップは大嫌いなんだ!」

ジョニーの言葉に、呆れたように頭を振るチンク。
セインとウェンディも苦笑を漏らしている。

「そんな安直な手に掛かる方も……」
「大体、荷物は没収しなかったッスか?」
「いや、ちゃんと身ぐるみ剥がした。隠す場所なんて……」

ジョニーはハッとする。
一つだけ、思い当たる場所があった。

「ま、まさかあいつ、ケツのあ――うぐぉっ」

奇怪な悲鳴を上げて倒れるジョニー。
後ろには顔を赤くしたチンクが立っていた。

「下品だぞ、ササキ」
「……ごめん」

頭を擦りながら立ち上がるジョニー。
セインが頬を掻きながら、言い放つ。

「でも、そこしか考えられないよね」
「変態ッス」
「……セインもウェンディも、くだらない事をいつまでも考えるものじゃないぞ」

一応は二人を嗜めるが、チンクの中でスネークは変質者というポジションに落ち着いたのだった。



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