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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」
Name: にぼ◆6994df4d ID:78ad8cd3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:39

『子供の頃、憧れていた人はだあれ?』

恐らく大部分の人達がこの質問に、アニメや映画に出てくるヒーロー、スポーツ選手、父親等と答えるだろう。
夢に溢れて結構な事だ。
だが、そんなありふれた子供達とは違っていた男がいる。
その男が憧れていたのは、男の祖父だった。
――冷戦と呼ばれた、アメリカとソ連という超大国同士が睨み合った激動の時代。
男の祖父はソ連の人間で、アメリカ人の妻と子を持っていた。
大国同士の対立関係の中、引き離された家族。
どんなに辛かった事だろうか。
どれだけ寂しい思いをしただろうか。
それでも男の祖父は国を愛し、家族を愛し、冷戦を生き抜いた。
男が少年だった頃、祖父の膝の上で聞かされた体験談はどんなヒーローよりも格好良く感じられたものだ。
男の中で祖父は憧れの的であり、同じ道へと進ませる事を決意させる存在としては十分だったのだ。
そんな偉大な祖父に憧れたまま男は健やかに成長、祖父同様立派な兵士を目指したのだが。

「ぶええっくしょい!」

ニューヨークのセントラル・パーク公園で鼻水を豪快に飛ばすその男の名はジョニー佐々木。
米軍の次世代特殊部隊に所属。
今は誰もが認める立派な無職である。

第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」

ジョニー佐々木。
運動神経抜群・頭脳明晰で、持病の下痢を抱えながらも若くして次世代特殊部隊隊員に選ばれた天才だ。
正に誰もが認めるエリートであり、他界した祖父もジョニーを自慢に思って「いた」に違いない。
そう、もしも祖父が今のジョニーの有様を見たら悲しみに暮れる事は間違いないだろう。

こんな事になってしまった全ての発端は、シャドーモセス事件だ。
テロリストであるフォックスハウンドの隊員は超能力を用いて特殊部隊員を洗脳。
そこにジョニーも含まれていたのだ。
ジョニーの才覚に目が眩んだのだろう。
結果、テロリストとして自らの才能を遺憾なく発揮、大活躍してしまったのだから。
そんな訳で次世代特殊部隊の隊員達は「洗脳されていたのでやむなし」と上層部曰く寛大な処置となった。
起訴され裁判に掛けられるような事はなかったのだからマシなのかもしれない。
だがそれでも殆どが除隊処分されるか、閑職に回されてしまったのだ。
政府はこの事件をそもそも無かった事にしたいらしく、解決に導いた人々も同様に閑職に回したらしい。
つまりはトカゲの尻尾切り。
馬鹿馬鹿しい話だ、とジョニーは思わず悪態をついてしまう。
空はこんなに青いのに、公園の皆が平凡な生活の中笑って生きているのに、自分だけ惨めで泣きたくなる。
ポカポカと陽気が良いのだが、心の中はまだアラスカにいるんじゃないかと錯覚するくらいに吹雪いていた。

「あ"ああぁー……」

春もしばらく過ぎて、すっかり暖かくなったセントラルパーク公園。
疲れたようにベンチへもたれ掛かっていたジョニーはぱたん、と読み終えた本を閉じる。
呻き声が漏れるそこには、苦みを含んだ表情があった。
その手に収まっている本のタイトルは『シャドーモセスの真実』だ。

シャドーモセス事件解決における最大の功労者、ソリッド・スネーク。
彼をサポートした無線チームの一人が出版し、政府の陰謀を声高々に叫んで世間を騒がせている暴露本だ。
その本は当然、数か月前に起こったシャドーモセスでの出来事を事細やかに記している。
世間を騒がせているとは言っても、政府は勿論事件の存在自体を否定。
勿論、一般市民も殆どがフィクション小説を読む感覚で購入して騒いでいるに過ぎないだろう。
しかし、ジョニーはこの事件の真相を知っている。
なんせその事件の当事者なのだ、知らない訳が無い。
当然、『アレ』も。
『アレ』――メスゴリラにパンツ一丁になるまで装備を剥ぎ取られ、冷たい床に放置。
仲間に侮蔑の表情で叩き起こされてみれば、辺り一帯に広がる銃痕。
次いでやってきたのは、下痢と風邪による強烈コンボ。
重い体に絶え間なく襲い掛かるくしゃみ、だるさ、眠気、便意。
我ながらよくぞ五体満足でいられたものだ。
今思い出すだけでも恐怖に体が震えるその起因が、あの怪力アマの所為にあるというのだから、憎しみも無尽蔵に溢れ出てくる。
正に身悶えるような黒歴史。
今度会ったらボコボコにしてやる、と憎しみを拳に込めて握り締める。
閑話休題。

ジョニーのボスだったリキッド・スネークと、潜入してきた侵入者のソリッド・スネーク。
この本によれば争い合った二匹の蛇は、あの二十世紀最強の兵士である男のクローンだという。
その男の暗号名はビッグボス。
軍事関係者の間で史上最強の兵士と噂されている神話的な存在。
誰もがその名は知っている。
だが、彼と直接対面した人間は余りに少ない。
本当に実在していたのかどうかさえ不確かな存在だ。
そのクローンが事件を起こし、核が発射される直前まで事態が切迫していたなんて、誰が信じるだろう?
世間は同様に、「羊のドリー誕生よりも何十年も前に、そんな事が出来るなど有り得ない」と端から信じていないだろう。
確かに荒唐無稽な話だ。
だが、ジョニーは彼らをその目で見た。
鏡を置いているんじゃないかと疑ってしまう、瓜二つの姿を。
リキッド達の会話でもそれらしい事を言っていたし、恐らく事実なのだろう。
だが、リキッドの方はシャドーモセスで既に死亡してしまったらしい。
その生まれてから死ぬまで利用され続けた人生がジョニーには哀れに思えた。
結果、フォックスハウンドの中で生き残ったのは拷問マニアのオセロットだけのようだ。
おまけに噂ではオセロットはメタルギアの情報を持ち出して、世界中そこかしこの国に売っているらしい。
「ロシア再建、新しい世界秩序」等と拷問部屋で喚いていたのが牢屋の警備についていたジョニーにも聞こえていたが、そのつもりなのだろうか?
何にせよあんなドS野郎の作った国なんぞすぐに崩壊に陥る事は間違いない。
ジョニーはくく、と苦笑を漏らした。
だが、結局の所他人である彼らををいつまでも心配する余裕は今のジョニーにはない。

「そろそろ、やばいんだよなぁ……」

そう、今のジョニーは貯金を食い潰す金食い虫と変わりは無いのだ。
貯金を貯めなければ減少を辿るのみ、もうすぐ底を尽くだろう。
オセロットのように何か情報を持ち出しておけば良かった、と今更ながらに後悔。
諸外国の傭兵部隊に参加するなど、色々と働き手はあるだろうがエリートジョニーと呼ばれていた自分のちっぽけなプライドがそれを阻害している。
つまりは米軍から除隊処分を受け、何もかもにやる気が出ない無気力状態なのだ。
もういっそ、このままホームレスにでも――

「――うっ!!」

ぐぎゅるるる、とジョニーの腹が不気味な唸り声を上げた。
不味い、これは、不味い。
下痢という名の極悪非道軍団による襲来だ。
外世界への解放を願い、いざ出口へと進軍を開始している軍勢をいつまでも押し止めるのは至難の技。
冷や汗が洪水のように噴き出る。
そんな訳でジョニーは荷物を手に、便意と尋常に戦いながらトイレへと駆け出した。


「おい! 早く、出てくれぇ! おい、おい! ……くそぉっ」

ジョニーが公衆トイレ内のドアを叩くが、返ってくるのは虚しい沈黙。
トイレを明け渡すなんて、わざわざ話す迄もなく全力で拒否という事なのか?
ジョニーは内心で毒を吐き、ドアを睨み付けた。
蹴り飛ばしてやろうか。
二つあるドアはどちらも固く閉ざされている。
片方が無理となれば、もう一つの個室の人に早く済ませて頂くしかない。
今度は怒鳴り声が返ってくるかもしれない、と唾を飲み込みもう一方のドアの前に立つ。
そこはまるで天国と地獄を分ける境界線のようなもので、ジョニーからはドア越しの天国がはるか遠くに感じられた。

「すまん! 早く出てく……あれ?」

意を決したジョニーがドアを叩くと、あって然るべき衝撃が拳に返って来ない。
それどころかその古ぼけたドアは耳障りな軋む音を出し、小さな隙間を作った。
天国はこんなにも近かったのだ、ジョニーの顔がぱぁっ、と歓喜に染まる。

「……なんだ、誰もいないのかよ!」

ああ、なんとか間に合った。
最初から開けとけよ、とジョニーは安堵の息を吐いてドアを開けたのだが――

「……あれ?」

――視界に広がるのは暗闇。
勿論目隠しもされていない。
この真っ昼間に暗闇は似合わないし、ジョニーも暗い所は苦手だ。
混乱しつつも振り返ろうとして、視界の端に何かを捕らえる。
それを確認しようとしたジョニーを嘲笑うかのように強烈な光が場を飲み込んだ。
うおっ、と思わず目を閉じるがその光はなかなか収まらない。
平衡感覚を失い、思わず膝を付いてしまう。
地面が揺れている。
体が、揺れている。
自分の周囲に広がる世界が無理矢理書き換えられているかのような、奇妙な感覚。
永遠にも思える時間を耐え、しばらくして光は収まった。

――何だったのだろう。
呆然と、未だに目が眩んでいるジョニーに、怒鳴り声が掛かった。

「貴様、何者だ!」
「ぐっ……なっ、なんだよ、先客がいたなら鍵くらい……あれ?」

苦しげに声を発してから覚えたのは、途方も無い違和感。
怒鳴り声で気付いたのは、狭いトイレにしては、心地良さすら感じる圧迫感が無い事。
そもそも、怒鳴り付けてきたその声は女性の物ではないのか?
そんな疑問を胸にゆっくりと目を開くと、ジョニーを睨み付けてくる、スーツを身に纏い体の線をこれでもかと主張している麗しき女性が――

「お、女が男性用トイレにっ!?」

慌ててズボンに手をやり、ずり下がっていない事を確認。
愚息が晒されていない事に安堵しつつ、改めて彼女へ視線を向ける。
紫色の美しい髪でつり目が印象的な女性を筆頭に、同様のスーツを着ている眼帯の少女もいて、驚愕の視線をジョニーに注いでいた。
少女はともかく、紫髪の女性が色っぽい。
目に毒だ、と雑念を振り払う。
当惑のままに辺りを見回せば、質素なトイレではなく壁から床まで近未来的な空間が広がっていた。
休憩所なのか、机の上のコップから湯気が立ち上っている。

「ここ、どこ?」

あんたらだれ、と指差す。
紫髪の女性がそれに答えるかのように何か呟き、腕から美しい紫の刃が現われた。
それが向けられている先は、困惑しているジョニーな訳で。
ひぃ、と蚊の鳴くような情けない悲鳴が漏れ出る。
どんな芸当かはわからなくとも、突然それを向けられたら誰だって恐怖するに決まっているだろう。
ジョニーの頭の中を、一つの不吉な可能性が過った。

「そ、そうかっお前等ギャングなのか! なんてこった、公衆トイレがギャングのアジトに繋がってるなんて!」
「……公衆トイレ?」

たじろいでいるジョニーに、何を言っているのか分からないという表情を浮かべる眼帯少女だが、やはり警戒心を露にしている。
こんなにもツイてないとは、とジョニーは嘆息する。
ハリウッド映画も唸らせられる事間違い無し、出来過ぎな不幸さだ。
しかし、ジョニーとて厳しい訓練を耐えてきた元軍人だ。
少女まで構成員にしているギャングにそう易々とやられてたまるか。
懐のGSRを抜いて構える。
工場生産品なのだが、高威力・信頼性の高さでジョニーはこのハンドガンを愛用している。
使い慣れたアサルトライフルのFAMASでないのが残念だが、構える腕にずっしりとくるその重さがなんとも頼もしい。
相手の女性達も、銃を構えるジョニーを見て驚いているようだ。
もしくは、ジョニーの溢れる闘気に圧倒されているのか。
いやはや俺の実力も罪なものだ、と誇らしげにニヤける。

「……ほぅ、実弾か」
「ふはは、当たり前だ! 子供が使うおもちゃじゃないぞ!」

四十五口径だ、と脅しをかける。
まさか彼女達も元特殊部隊隊員が迷い込むとは思っていなかっただろう。
残念だったな、とジョニーは呟いて自分自身の格好良さにほれぼれする。
しかし、騒ぎを聞き付けたのかどこからともなく男が登場した。
刃を向けてくる女性と同じ色の髪をしていて、どこか不気味な雰囲気を惜しげなく放っている。
――こいつがリーダー格か。

「一体何の騒ぎだい、トーレ、チンク?」
「ドクター、侵入者です」
「……ほぅ」

敬語を使っているところを見ると、やはり彼の方が格上のようだ。
ならばチャンス。
そう、ジョニーの天才的な交渉術を見せ付ける時がやってきたのだ。

「おい、俺はシャドーモセスでテロリストだった特殊部隊の元隊員だ! 大人しくしてれば黙って帰ってやっても――」
「そのまま帰してやるとでも?」

トーレと呼ばれた女性がジョニーを冷徹な瞳で射抜き、画期的な提案を一蹴した。
うわこの女こええ、と思わず気押されてしまう。
さすが、ギャングと言ったところか。
まさかの交渉決裂にジョニーはくそったれ、と唇を噛み締める。
男も面白そうに笑って見ているだけだ。
ならば、多数相手でもやるしかないだろう。
女性を無闇やたらと撃つつもりはないので、威嚇射撃を続けながら脱出する事にする。
やれる、いける、頑張れジョニー。

ジョニーの決意を込めた表情に、一斉に殺気を放つトーレ達。
辺りは一気に緊迫した空気に包まれた。

――んぎゅうううぅ。

が、その空気は、獣の唸り声のようなもので一瞬にして霧散してしまった。
トーレ達も何の音だ、と怪訝そうな表情を浮かべる。
対して、顔を見る見る青ざめさせていくジョニー。
そう、ジョニーはすっかり忘れていたのだ。
彼の腹の中で、入り口をこじ開けようと暴れ回っている軍勢の存在を。
臨界点まであと少し。

「は、腹が……」
「……何?」
「はらが……やば、も、もう、漏れるぅ……!」
「なっ!?」

ジョニーの擦れた言葉に、身構えている女性達も絶句、後ずさる。
たまらず尻を押さえるジョニーに、ついにドクターと呼ばれたボスらしき男が笑い声を上げた。

「ははははっ! なかなか、面白そうだ、フフ、フフフ。彼をトイレまで連れていってやってくれ」
「なっ、ドクター!? っ……分かりました。ほら、来い糞男! 漏らしたら斬るぞ!
「トーレ、あまり脅してやるな。本当に漏らしたらどうする」
「ふ、おお、おおぉ……」

憮然とした表情を浮かべつつも腕の刃を引っ込めてジョニーへ怒鳴り付けるトーレに、それをなだめる眼帯少女。
ドクターと呼ばれた男はトーレに連れ出されて行くジョニーを一瞥。
無言でジョニーの荷物から零れ落ちた、タイトルに「シャドーモセスの真実」と書かれている本を手に取った。


数十分以上に渡った極悪軍団との死闘を無事終え、すっきりとトイレから出たジョニーは再び鋭い視線に貫かれた。
その視線はやはりトーレと呼ばれた女性の物。
チンクと呼ばれた眼帯の少女は見当たらなくて、刺々しい雰囲気が恐ろしい。
だがそれすらも気にならない爽快感と満足感があるので、ジョニーの立ち振る舞いも堂々としたものだ。

「……貴様、いつまでトイレに籠もってれば気が済むんだ」
「そんな事は俺の腹に言ってくれ」

ジョニーは腹を撫でる。
自分がトイレにいる時間が人生の何%を占めているのか、純粋に気になるものだ。
それでも、大事な体の一部である事に違いはない。
不機嫌そうな表情のトーレに、出すものを出して晴れやかな表情のジョニー。
中々不釣り合いな二人がそこにいた。
トーレは溜め息を吐くと、ジョニーの顔を見据える。

「まぁいい、ドクターから話があるそうだ。ついてこい」
「え、おい」

ジョニーの困惑した表情などどうでもいいのか、ツカツカと歩み出すトーレ。
ジョニーはこのまま逃げ出したかったが、出口がどこなのか分からない。
念の為に懐にGSRを――

「――あれ。……な、ぃ」

体をまさぐり始めるジョニーに気付いたのか、トーレがそれを嘲笑った。

「お前に腕が三本あったなら、尻を押さえながら拳銃を持っていられたのだろうがな」

ジョニーは顔を真っ赤に染める。
落とした事にすら気付かないとは、情けなさも百倍に膨れ上がる。
そんな訳でジョニーは、トーレについていく選択しか選べなかった。

しばらくの間歩くとトーレが立ち止まり、ジョニーの方へ振り返った。
恐らく無表情の彼女の後ろにある扉の向こうで、先程の男が待っているのだろう。
促されるままに緊張しながら部屋に入れば、ドクターと呼ばれた男と、秘書官らしき美人。
ここのギャングはやけに美人が多いな、と少しだけ男を羨ましく思う。
男はジョニーを見ると満面に笑みを浮かべて、空いている椅子へと誘う。

「やぁ、待っていたよ。……まず、君の名前を聞いてもいいかな?」
「名前を聞く前に自分から名乗ったらどうだ?」
「フフ、これは失礼。私の名は、ジェイル・スカリエッティだよ」
「……ジョニー佐々木」

スカリエッティは不審そうに見つめているジョニーに気付いているのかいないのか、笑みを絶やさずに話を続ける。
不気味、変態、変質者。
そんな言葉ばかりが脳裏に過る。
あまり関わりたくない相手だ。

「ジョニー君、君はシャドーモセスにいたのだろう?」
「……そう言った筈だが。それがどうした」
「この本に関して君が知っている事を聞きたい」

シャドーモセスの真実をかざすスカリエッティ。
狂気が見え隠れするスカリエッティのの笑みに感じるのは、底冷えするような恐怖。
もしかしたら自分は今とんでもない事に巻き込まれているのではないのか、と危惧。
――ああ、早く家に帰りたい。
心の中で嘆くジョニーだった。



「じゃあ改めて、変質し……ごほん、ソリッド・スネークさん?」
「……おい」
「あはは、気にせんといて下さい。……貴方の事は大体ユーノ君から聞きましたけど、もう一度『こっち』に来た時の話をお願い出来ますか?」

機動六課の部隊長室。
ユーノとなのはの一件の翌日、スネークはそこにいた。
L字型のソファに座っているのだが、部隊長の机と、それを縮小コピーしたような人格型デバイスだか何だかの机が印象的だ。
その人格型デバイスというのはリインフォースとかいうデバイスで、はやてが自ら製作したらしい。
スネークも段ボールの隙間からその小柄というより人形としか思えない彼女を見た時は、驚きの余り叫び声を上げてしまったものだ。
――人工的に作られた存在、なんて聞いてしまうとやはり、何とも言い難い複雑な心境になる。

だが、彼女が浮かべる笑みに憂いは存在していない。
優しい人間に囲まれながら楽しんで生きているだろう。
それならば、それでも良いのかもしれない。

周りには六課の隊長陣とユーノが揃っていて、スネークとはやての会話を見守っていた。
昨夜のような騒がしい若者でなく、漂う軍人としての風格にはさすがと言ったところか。
隊長陣の一人、タルタスの美人のフェイト・T・ハラオウン執務官がまさかユーノの幼なじみだったとは、世界は実に狭いのだと実感させられる。
向こうも驚いているに違いない。
スネークははやてに、ユーノに話したのと同様にシャドーモセスでの出来事を伝えた。
あくまでリキッドと自分の関係や、メタルギアの事は伝えずに。
なんとなくだが、気がひけるのだ。
話を聞き終えたはやては、疑問を露にする。

「やっぱり……よくわかりませんね。近くに魔導士がいたとか、次元転移装置の一種があったとか?」
「……さあな」
「それに地図に無い島、シャドーモセス島で起こったテロ事件。……私も地球の新聞はちょくちょく見てますけど、初耳です」

はやてはなのはとフェイトに視線をやり、彼女等もやはり首を振る。
スネークは一瞥して、フンと鼻を鳴らした。
悩むまでも無い、予想していた事だからだ。

「どうせ、政府が事件自体無かった事にしてるんだろう」

まさか自国の特殊部隊が反乱を起こして、後一歩で核が撃たれるところだったなんて言える訳がない。
空前絶後の大騒動になる事は間違いないだろうし、政府もそんな事態にはさせない筈だ。
そこで、ユーノが身を乗り出して不適に笑う。

「僕も十分予想が付く判断だと思うよ。外部には何の被害も出さずに事件を解決させたヒーローがいたんだからね、スネーク?」
「……茶化すな」

ニヤニヤしながら口を挟んでくる青年を軽く睨む。
この男、想い人と結ばれて調子に乗っているのだ。
全く良い身分だな、と悪態を付いた。

「……それにしても、凄い話ですね」
「うん。たった一人で潜入って……何ていうか、非常識」
「非常識ですぅ!」

なのははフェイトは俄かには信じられない、という声を上げ、リインフォースがそれに賛同する。
スネークは反応に困り、肩をすくめた。

「……人形にまでそんな事を言われるとはな」
「なっ!? 私は人形じゃなくて、立派なユニゾンデバイスですっ!」
「ふむ、お喋り機能付きか。子供に大人気だろうな」
「むううぅっ……」

甲高い声でスネークに反論するが適当にあしらわれ、不貞腐れてしまうリインフォース。
それを楽しそうに見ているなのははユーノの隣をしっかりキープしていて、離れないようにしているのがスネークにもよく分かる。
まだ昨日の熱が冷めないのか、熱々だ。
ユーノが女性陣に苦笑を返す。

「僕も最初はそう思ったよ。……でも、スネークは非常識も平気でやっちゃう男だからね。……うん、非常識だ。実に非常識だ」
「おいユーノ。……お前、貶してないか?」
「褒めてるんだよ、この非常識人間!」

爽やかな笑顔と言われても、嬉しくなんてない。
スネークは言いたい放題に言われてげんなりとしてしまう。
はやても苦笑を漏らすとぱちん、と手の平を打ち合わせて話の軌道を修正した。

「まぁテロの事は、海鳴に出張任務で戻った時にでも皆に聞くとして。スネークさん、これからどないするつもりですか?」
「……ユーノは管理局に戻るのか?」
「僕はまた無限書庫に戻るつもりだよ。まぁ、一から出直しさ。……スネークは?」

数日前まで呑気に発掘の旅をしていたのが急に地球への帰還という選択肢が出てきて、正に休む暇も無い。
それでも、よそ者の自分が異世界での旅を満喫するには十分な時間だった。

「そうだな、俺も地球に帰るか」
「そう、かい。……寂しくなるな」
「何、お前の方は会おうと思えば会いに来れるんだ。そう落ち込むな」

そうだね、と寂しそうに呟くユーノにスネークは笑いかけた。
出会いに別れは付き物だ。
別れに恐怖していたら何も始まらない。
思い出すのは、初陣の時の戦友。
その戦友は、死への恐怖で引きつった顔のまま胸に風穴を開けられて、スネークとあっけない別れを遂げた。
とどのつまり、笑って別れられるのは幸福なのだ。
数か月の間寝食を共にした友人との別れはやはり寂寥を感じるが、スネークはその事を忘れないようにしている。
とりあえず地球に帰ったらオタコンに顔を見せてやる事にしよう。
はやてもユーノを励ますかのように明るい声を上げた。

「まぁスネークさんが帰れるのは、色々手続きがあるからしばらく後になると思います」
「そうなのか?」
「ええ。事情があったとはいえ、あれだけの質量兵器を許可無く所持してた訳ですしね」

まぁ、逮捕されないだけマシという事か。
スネークは素直に反省の意志を表明する。

「手間を掛けさせて申し訳無い気持ちで一杯だよ。……で、それまで俺はどうなる?」
「六課の宿舎におって大丈夫ですよ。なんというてもユーノ君が信頼するくらいの人やから安心です」

ニヤリと不適な笑いを浮かべるはやてに、ユーノも気恥ずかしさが混じった微笑みを返す。
だが、スネークにとっては有り難い話だ。

「臭い骨董品に囲まれていない所で寝れる……素晴らしいな、有り難い」
「スネーク、君は何も分かってな――!」
「冗談だ」

ジトリ、と睨み付けてくるユーノへとそれを口にする。
女性陣は、今や定番になりつつあるユーノとスネークのやりとりを楽しそうに眺めている。
ユーノはそれも不満なのか、むすくれた。

「そうムキになるな、新しい生活を始めるのだろう? 最初からつまづくぞ」
「そうそう、ユーノ君にはまたレリック事件も手伝ってもらわなあかんからね。頑張ってもらわんと」
「……はぁ。そうだね、僕も出来る限り協力するよ」
「レリック、事件?」

聞き慣れない単語を耳にして、スネークははやてに問い掛けた。
ユーノが僅かに寂しさを残した表情で、はやての代わりに返答する。

「レリックっていうロストロギアがあるんだ。見た目は唯の宝石でも凄いエネルギーを秘めた結晶体。それを集めている連中がいる」
「少なくとも、その超エネルギー結晶体を善意で集めてる訳ではないやろうし。だから私達、機動六課がその対策として設立されたって訳です」
「……それを敵の手に渡したら大変な事になる、か。フン、どこかで聞いたような話だな……まぁ頑張ってくれ」

スネークの言葉に、はやてが自信を浮かべた表情で頷いた。
そういう面倒事に自分がいなければならない理由は、今回は無い。
そもそもスネークが協力したとしても、魔力も無いので足を引っ張る可能性も充分にありうる。
友人の戦いを見届けたいところだが、ズルズルと居座り続けるのも悪いだろう。
まぁしばらくの間はこの機動六課に滞在という事で、まだまだオタコンの顔を見るのは後になりそうだ。
のんびりと焦らずに今後の事を考えて行こう。
スネークはざらつく髭を撫でて、真っ白な天井を仰いだ。




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