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No.6504の一覧
[0] リリカルギア【完結】(StS×メタルギアソリッド)[にぼ](2010/01/15 18:18)
[1] 第一話「始まり」[にぼ](2009/02/19 18:36)
[2] 第二話「迷子」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[3] 第三話「道」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[4] 第四話「背中」[にぼ](2009/02/19 18:37)
[5] 第五話「進展」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[6] 第六話「生きる意味」[にぼ](2009/02/19 18:38)
[7] 第七話「下痢がもたらす奇跡の出会い」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[8] 第八話「友人」[にぼ](2009/02/19 18:39)
[9] 第九話「青いバラ」[にぼ](2009/02/19 18:41)
[10] 第十話「憧憬」[にぼ](2009/02/19 18:47)
[11] 第十一話「廃都市攻防戦」[にぼ](2009/02/20 18:03)
[12] 第十二話「未来」[にぼ](2009/02/22 21:10)
[13] 第十三話「MGS」[にぼ](2009/02/28 01:11)
[14] 第十四話「決戦へ」[にぼ](2009/02/26 15:22)
[15] 第十五話「突破」[にぼ](2009/02/28 01:13)
[16] 第十六話「希求」[にぼ](2009/03/01 00:08)
[17] 第十七話「人間と、機人と、怪物と」[にぼ](2009/04/01 14:06)
[18] 第十八話「OUTER」[にぼ](2010/01/15 02:41)
[19] 最終話「理想郷」[にぼ](2010/01/15 18:06)
[20] 1+2−3=[にぼ](2010/01/15 18:29)
[21] エピローグ[にぼ](2010/01/15 18:12)
[22] 後書き[にぼ](2010/01/15 18:33)
[23] 番外編「段ボールの中の戦争 ~哀・純情編~」 [にぼ](2009/02/23 20:51)
[24] 番外編「充実していた日々」[にぼ](2010/02/15 19:57)
[25] 番外編「続・充実していた日々」[にぼ](2010/03/12 18:17)
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[6504] 第六話「生きる意味」
Name: にぼ◆6994df4d ID:3a338905 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/19 18:38

瓦礫と鋼鉄が燃えくすぶり、その臭いが鼻をつく。
酷寒の気候に囲まれた基地の中、二十一世紀を導く悪魔の兵器の頭上。
そこに、スネークと一人の男が相対していた。

「残念だったな。……決起とやらは失敗だっ」

体が焼けるような痛みを主張していた。
発散される事の無い熱も持っていた。
それでもスネークは最大限の嘲りを持って目の前の男を睨み付ける。
だが、男の表情に変化は無い。
それは毅然で、そして冷酷なもの。

「……メタルギアを失った程度で俺は戦いを終わらせる気はない」
「戦い? 貴様の本当の狙いは何だ」
「俺達のような戦士が活かされる時を、再び築き上げる事」

噛み締めるように呟かれる野望。
スネークは即座に否定の声を上げた。

「それはビッグボスの『妄想』だ!」
「『意志』だ! 親父のな。冷戦の時、混沌の時。……世の中が俺達を欲した。俺達を評価した。俺達は必要とされた」

男の顔が歪んだ。
恐怖、怒り、憎しみ。
男はドロドロとしたそれ等を一杯に天井の向こう、遠くの空を睨み付ける。

「だが今は違う。偽善と欺瞞が横行し、争いがこの世から消えていく……」

ぎりぎり、と男は歯軋り、拳を握り締める。
ふっ、と男の視線がスネークへ向けられた。
スネークを哀れんでいるかのような、不快になる視線を。

「自分を活かす場が失われる虚しさ。時代から必要とされなくなる恐怖。……お前にはよく分かるだろう?」

その問い掛けに、スネークは答えなかった。
……答えられなかった。

「俺は新型核を利用して当面の運動資金を得る。そして世界的なテロを行い、このふやけた世の中を再び……混沌の世界へと誘う」

ぐにゃり、と男の顔が狂喜に歪んでいく。
出来上がるのは恍惚とした笑み。

「紛争が紛争を呼びっ新たな憎しみを生む。そしてっ……俺達の生態圏は拡大していく!」

スネークは異を唱える。

「人の支配が続く限り、世界中のどこかで紛争は起こっている」
「バランスが問題なんだ。親父の目指したバランスがっ……」
「それだけの理由で?」
「十分な理由だろう?俺や貴様にとっては」

スネークの目の前が真っ赤に染まった。
――怒りだ。
その言葉と、目の前の存在に対する怒りで一杯になっていた。
スネークは立ち上がる。
体はふらつくし疲労も主張しているが、意識だけははっきりとしていた。

「――俺はそんなものは望まない!」
「ハッ、嘘をつけ!! では何故貴様は此処にいる? 仲間に裏切られながらも任務を投げ出さずに、何故ここまで来たっ?」

口籠もるスネークに、男は追討ちをかける。

「俺が代わりに言ってやろう。……殺戮を楽しんでいるんだよ貴様はっ!」

何を、とスネークは怒鳴り声を上げる。
しかし、男はそれ以上の声量で、スネークの弁を遮るように怒鳴り返した。

「違うとでもいうのか? 貴様は俺の仲間を大勢殺したじゃないかっ!」
「それはっ――」

――自己防衛。
そう主張するスネークを嬲るように男は嘲笑った。
それは自己正当化に過ぎない、と。

「とどめを刺す時のお前の顔……実に生気に満ちていたぞ」
「違うっ!!」
「自分の内の殺人衝動、それを否定する必要はない。俺達はそのように造られたんだからな」
「造られた……だと?」

そして男は、リキッド・スネークは語り始めた。
自分達の存在の理由、『恐るべき子供達』と呼ばれた計画について。

第六話「生きる意味」

「貴方が、スネークさん、ですね!?」

リニックの町でスネークの前に現れたのは、圧倒される気迫を持つ女性。
彼女が自身を知っている事に驚き、即座に思考を巡らせ原因を探る。
思い当たる事と言えばやはり、昨日の局員との一件が原因なのだろう。
だが、こんなに早く動き出すとは思わなかった。
考えが甘かったか、とスネークは内心で舌打ちをする。
どうやら、これ以上のんびりと休む暇は貰え無さそうだ。
タバコを吸いたくなる。

「どうなんですか!?」
「……だったとして、用件は?」

声を荒げて問い詰めてくる女性に尋ねたものの、それは明白だろう。
質量兵器所持違反だったか、恐らくそれである事は子供でも連想出来る。
勿論、易々と捕まる気も無いが。
続けて、スネークはふと顔を上げた女性を見て、ハッとする。
そこには雑誌で見た顔があったからだ。
栗色の髪、整った顔、スネークが思わず見とれてしまう程の美人。
スネークは驚愕したが、表情には出さずに言い放つ。

「……わお、時空管理局のエースオブエース、高町なのは一等空尉殿がわざわざ出向くなんて、相当暇な組織なんだな?」

十九歳の若さで一等空尉として立派に活躍している女性管理局員。
スネークが精神的にもガキだった十九歳の頃を思い返すと複雑な気分になる。
しかし今の彼女は雑誌のような「凛々しさの中に引き込まれるような温和な表情」というものではない。
鬼気迫る、という言葉が最も的確か。

どうするか、とスネークは思考する。
何の対策も無しにまともに戦っても、勝負にすらならないだろう。
しかしここは町の中心。
相手がこんな場所で砲撃を放つ可能性は低い筈、と予測する。
使うとすれば捕縛魔法だろう。
ならばスタングレネードで逃げるか、とスネークはポケットに手を伸ばしかけるが、なのはの口からは意外な言葉が飛び出る。

「いいえ、貴方には違う用件で来ました。……時空管理局の空戦魔導士ではなく、高町なのはとして」
「……こんな美人からデートのお誘いを貰えるとは光栄だな」

スネークは予想外の返答に戸惑うがそれはおくびにも出さず、軽いジョークを吐く。
高町なのはの瞳をジッと見てみれば、焦り、期待、不安。
様々な感情が混じってそこに存在していた。
成る程、確かに麻酔銃を使った男を捕まえに来た人間の瞳ではない。
なのはは、スネークの軽口にムッとした表情を露骨にする。

「貴方と一緒にいる、ユーノ君の事です!」

その言葉を聞き、スネークの脳内を電撃が駆け巡った。
高町なのはの先程の瞳、必死な表情。
彼女は、質量兵器を使ったスネークを追っていたのではなかった。

――彼女が、ユーノの知り合いか。
管理局員で地球出身の知り合いとはこの女性の事だったのだろう、と納得する。
思えば雑誌で初めて見た時は、確かに日本人らしい名前、顔立ちで疑問に思ったものだ。
そこには第97管理外世界出身とも書いてあったが、恐らくそれが地球なのだろう。
ユーノが何かしらの事情で顔を会わせたくないという相手。
面倒だが、命の恩人への『借り』を返すには良い機会かもしれない。
深く、深く息を吸い込む。

「――知らんな。俺が一緒に行動している男の名はチャーリーだ」
「……とぼけないで下さい」
「ユーノなんて奴とは面識は無い」

知らぬ存ぜぬ。
スネークはそれを押し通すが、高町なのはも依然として食い下がる。

「目撃証言も取れてるんですよ……もう一度言います、とぼけないで下さい」

やはり一筋縄ではいかないか。
ユーノと同じ成人前の女性でも、なかなか頑固そうだ。
とぼけるのが通じる相手ではなさそうである。
正義正義と騒いでいた、ウィリアムとかいう熱血漢の記憶力は良いらしい。
内心で毒を吐く。
スネークは降参、と言わんばかりに両手を上げて返答した。

「……それで? 奴に何の用だ?」
「ユーノ君に、会わせて下さい」
「断る」
「っ! どうしてですか!?」

スネークが即座に拒否の念を伝えると、なのはは納得いかない様子で食って掛かる。
なかなか迫力があるその姿だが、スネークはきっぱりと返答。

「会ってどうするんだ? 何故局を辞めたのか、何故連絡をしないのか、とでも問い詰めるのか?」

それは、と口籠もるなのは。
スネークは口を止めない。

「ユーノは君に会いたくないからこそ、連絡を取らずにいるんじゃないのか? 奴の意志と関係なく会わせるつもりはない」
「そん、なっ……」

ズバズバと遠慮無しに言い放つスネークに、高町なのはの顔は悲痛な面持ちになり。
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるようにも見える。
美女の涙は見ていて辛いものがあるが、我慢して話を続ける。

「そんな状態で無理矢理押し掛けても根本的な解決にならない。違うか?」
「っ……」
「だから、一つ聞こう」
「……ぇ?」

擦れた声で顔を上げるなのは。
これは借りを返す行為だ、慣れなくとも頑張れ、とスネークは自身を鼓舞する。

「君は奴を、ユーノをどう思ってるんだ?」
「……ユーノ君は。ユーノ君は、私の、大切な人です」
「友人として?」

スネークの間髪入れぬ問い掛けによって、なのはの頬に僅かだが赤色が差し込む。
しかし、真剣な表情は崩していない。

「男の人として、です」
「そうか。……ならあいつと話し合って、俺が乗り気になったら説得してやる」

上手くいくかどうかは保障できんが、と付け加えることも忘れない。
スネークの言葉になのはは呆然として、驚愕して、続けて隠しきれない位の歓喜の表情を浮かべた。
器用なものだ、とスネークも頬を緩めた。
スネークはそれを悟られる前にすぐに緩んだ頬を締め、真顔に戻す。

「あ……ありがとうございます! でも、何故……?」
「ここ最近、思い詰めている恩人――友人の悩みを聞く。それだけだ」

スネークもそこまで薄情では無いつもりだ。
基本は静観の姿勢だが、きっかけさえあれば友人の悩みを聞く位は出来る。

「恩人、ですか」
「まぁな。……上手くいったら、待ち合わせだ」
「それ、じゃあ……六時間後。……午後十時に噴水公園で良いですか?」
「噴水公園だな。もし時間になってもユーノが来なかったら……諦めろ、いいな?」
「……いいえ、諦めません。絶対に」

スネークの言葉に、なのははきっぱりと断りの声を上げる。
やはり頑固な女性だ。
にやり、と口の端を吊り上げて。

「はは、そうか。……じゃあな」
「よろしく、お願いします!」

スネークは深々と腰を折るなのはを見て軽く頷き、ユーノが待つテントへと向かうのだった。


そうしてスネークがテントに戻ったのは、日も暮れてきた頃。
赤い夕日に照らされた、都市にありがちな騒音とは無関係の空間。
そういえば、初めてユーノと会話したのもこんな風景だったな、と懐かしむ。
スネークはテントに入り、黙々と荷物を整えているユーノに声をかけた。

「……ユーノ」
「あぁ、スネーク、お帰り。……遅かったね」
「ユーノ。高町なのはに会ったぞ」

スネークの言葉に、やっぱりか、と溜め息をつくユーノ。
しかし、そこまで驚いている様子も無い。

「……まぁ、大体予測はしていたよ。昨日の局員の話が彼女に伝わったんだろうね。ここは……六課と近い」
「彼女はお前に会いたがっていたぞ、会う気は無いのか?」
「僕は。僕は彼女には会えない」
「ほぅ、何故だ」


顔を歪めるユーノに、スネークは尚も切り込む。
押し黙るユーノ。
テントの中は静まり返り、場を沈黙が支配。
経った時間が十分か一時間なのかスネークもわからなくなってきた所で、ユーノがようやく、ぽつりぽつりと話し出した。

「……僕が元管理局員だって話はしたよね? 僕、無限書庫の司書長をしていたんだ」
「知ってるさ。……雑誌で名前を見た」

偶々本屋で見つけた雑誌の特集記事に、それは書かれていた。
――部署創設から十年も経っていない、管理局の重要部署である無限書庫。
ありとあらゆる情報が蓄積されているそれを創設する際、最も貢献した少年がいた。
その少年は若くして無限書庫の司書長を務め、筆舌に尽くし難い激務に耐えた。
そして労働環境の悪辣さ、司書長の不在で影響が出てしまう不安定な部署という様々な問題点を改善した後に辞職した、と。
その少年こそが、ユーノ・スクライアだったのだ。

「……僕が無限書庫に入る前。十年前に、一人の少女に出会ったんだ。」
「……その少女というのが」
「そう、高町なのは。僕が当時発掘したロストロギアが、輸送途中に地球にばらまかれてしまってね。それを探している時に協力してもらったんだ」

魔法等とは無縁の地球でもそんな事があったのかとは驚きだ。
この分だと、スネークの地球での知り合いの中に魔法関係者が出てくるかもしれない。
ユーノは懐かしそうに、そして何より楽しそうに語る。

「彼女は魔力量も豊富で、魔導士に向いていた。教えれば教えた分だけ吸収していって驚かされたよ」
「末恐ろしい少女だな」
「あはは、僕も全く同じ事思ったよ」

共に苦笑する。
小さな少女がバカスカ砲撃を撃ち放つシュールな光景は、吹き出してしまう面白さと非現実さがあるだろう。

「そして何よりも……暖かかった。僕は孤児で親はいない。ずっと孤独だった。彼女には、育ててくれたスクライアの一族とは違う暖かさがあったんだ」
「……」
「僕は、彼女の背中を護り続ける為に頑張った。彼女の傍にいたかったから。いつの間にか、彼女の存在が僕の『生きる意味』になっていた」

ふと気付けば、ユーノの言葉には哀しみが宿っていた。
九歳と言えば、まだまだ何も考えずに遊び散らかしている頃だ。
その少年が『生きる意味』と向き合うというのは早すぎるのではないのか。

「……でも、戦いが進んでいく中で、僕は戦闘で必要な存在では無くなってきたんだ。僕の代わりの人が、僕よりも補助に適した人が仲間になったから」

元々対した魔導士でもなかったんだけど、と苦笑いを浮かべるユーノ。

「無力感、焦燥感に潰されそうな時に、無限書庫に出会った。……正直、神様からの贈り物かと思ったよ。ここならなのはの隣には立てなくても、後ろから支援出来るってね」

そうして彼の苦笑いは、何時の間にか自嘲の笑みに変化していた。
その口調は容赦無く自分自身を責め付ける辛辣なもので。

「僕は、僕が無限書庫の運営に必要な存在である事に、『僕自身』がなのは達に必要とされる事に、縋り付いていたんだろうね」
「……ユーノ」
「周りから激務と言われても、充実感はあったよ。それが僕を突き動かしていたんだ、虚しい事にね」

ユーノはそこで言葉を切り、手元の薄汚れた骨董品に手を伸ばした。
そして手中に収まったそれの表面を親指で撫でる。
何度も、何度も。

「でも僕が一度倒れてから、管理局から無限書庫を僕無しでも運営出来るよう改善しろ、と求められてね」

いつの間にか、ユーノの声は震えていた。
それは悲しみによるものか、それとも恐怖なのか。
そこから先の話はスネークも知っていた。
それでもユーノは辛そうに目を伏せ、声を絞り出すかのように続ける。

「目の前が真っ暗になった。やるかどうか、随分と悩んだよ。……当然の命令とはわかっていたけどね」

それでもやりきったんだろう、とスネークは言った。
ユーノは嫌々ね、と無理矢理の笑みを作り出す。

「今度こそ僕は、『僕自身』は必要とされなくなって、逃げ出した。必要無い存在だと面と向かって言われる前に、彼女達から逃げ出したんだ……!」

だから僕はもう彼女には会えない、と言ってようやくユーノは目を擦る。

スネークは何とも言えない気分で、天井を見上げた。
ユーノがあまりにそっくりだったからだ。
ソリッドの兄弟であるリキッド・スネークに。
そして、ソリッド・スネーク自身にも。
自分達のような戦士でもないこんな若い青年が、少年の頃から自分達と同じように悩み続け、そして今も苦しみ続けている。

――なんて哀しい事だろう。

スネークはたまらず、ユーノに語り掛ける。

「ユーノ、よく聞け。……地球にとある兵士の男がいた。その男は少しずつ平和へ向かう世界を、偽善と欺瞞が横行する世界だと憎んだ」

シャドーモセスでの出来事は、目を瞑ればはっきりと思い浮かべる事が出来る。
リキッドが、ギラギラと憎しみの籠もった瞳でスネークを睨み付けてきた事を思い出した。

「兵士は戦いが無ければ生きられない、そう信じて。その男は『自分を活かす場が失われる虚しさ、時代から必要とされなくなる恐怖』に苦しめられていた」
「……君も、かい?」
「ああ、俺も同じだ。戦う目的なんて無かった。唯ひたすら生きる為に銃を握っていた」

スネークも現実から目を背けてアラスカの僻地に閉じ籠もり、苦しみ続けた。
それで答えが出る訳も無いのに。
リキッドの指摘に反論出来ず口籠もる情けない自分がいた。

「だが、人には様々な可能性がある。辛い事に苦しみながらも周りの世界を見て、新たな道を見つける事が出来る」

それは、タルタスで美人が掛けてくれた言葉。
リキッドはそれに気付かないまま死んでしまったし、スネーク自身もつい最近まで気付けなかった。
ユーノは辛そうに頭を振る。

「……君は他の生きる意味があるかもしれない。でもっ僕には他の生きる意味は――!」
「ユーノ。……彼女はお前に会えなくて涙を流していた。お前の為に、だ」

息を呑み沈黙するユーノに、スネークは話し続ける。
こんなに活発に口を動かすのは何時以来だろう、とどこか意識の冷静な部分が疑問を訴えていた。

「……お前は確かに非力かもしれない。それでもお前は、なのはを守る事が出来る。……分かるか?」

ユーノの顔には、心底意外そうな表情。

「彼女の心を、支えてやれる。彼女はお前の能力でもなんでもない、『お前自身』を必要としているからだ」
「っ……!」
「若さを大事にしろ、お前も俺もまだまだやり直せる」

人生は短いようで、長いものだ。
いくらだって、本人次第でやり直せる。
本当に、それを望むのならば。

「『生きる意味』を曲解して受け止めるな。それを成し遂げる事が出来るのは自分自身しかないんだからな」
「……僕、は……僕はっ! う、うぐうぅ……」

拳を握り俯いて嗚咽を漏らすユーノをチラリと見て、天井を仰ぐ。
――ああ、疲れた。
男が泣くシーン等感動出来やしないし、見ていて気持ちの良いものではない。
しかしスネークは、ユーノを少しだけ羨ましく思った。


ユーノの嗚咽が止まる頃、既に手元の時計は九時を回っていた。
十時の約束を守るのならば、そろそろ準備して出発しないといけないだろう。
涙か、もしくはみっともなく泣いてしまった事への恥ずかしさの所為なのか、ともかく顔を赤くしているユーノ。
スネークは彼にタオルを投げ渡し、大事な事を伝える。

「十時にリニック公園、噴水前で高町なのはが待ってる。……どうする?」
「……ああ、僕ももう逃げやしない。スネーク……ありがとう」
「ユーノ。……『貸し』一つだぞ」

借りは昼間、既に返したのだ。
スネークはぽかんとしているユーノへ不適な笑みを向ける。
もう十分大きな『貸し』になっているだろう、と笑いかけた。
ユーノも成る程、と呟いて微笑み返した。

「ああ。いつか返すよ、絶対に。……そうだ、一つ聞いても良いかい?」
「何だ?」
「……君は僕と一緒にいて、君自身の『生きる意味』を見出だせた?」
「……いや。だが、お前と旅を続けて分かった事もある」

ユーノはすかさず、それは、と問い直してくる。

「『寿命、即ち人生とは、最適の遺伝子を後世に伝える為の猶予期間にすぎない』……という言葉がある」

お堅い哲学的な言葉だが、どこかで聞いた時は、ある意味真実だとも思った。
いや、そう思い込んでいた。
だがスネークがユーノと遺跡の発掘に向かう度、例外無く『それ』は厳然と存在していた。
まるで、そんな意見を打ち砕く為にあるかのように。

「お前と回った遺跡にはどこにも必ずお前の言う通り、『人の意志』が残されていた」

怒り、哀しみ、喜び。
そして、未来への想い。
スネークは彼と共に、それらを目にしてきた。

「人は『遺伝子』だけではない、別の物を未来に伝える事が出来る」

『遺伝子』という名の呪いや運命。
リキッドも、そしてスネーク自身も、それに束縛されていた。
だからこそ何を未来に伝えるのか見つけた時、それがきっとスネークの『生きる意味』になるのだろう。

「俺はこれから何を信じるか、何を未来に伝えるかを探す」

それを探すのが当面の目標である。
たくさんの時間があるのだ。
ゆっくりと、じっくりと模索していこう、とスネークは決意する。
ユーノはスネークの話を聞き、フッと微笑んだ。

「そう、だね……僕も、僕も何を未来に伝えられるかを探してみるよ。時間は僕にも君にも、たくさんあるから。……じゃあ行ってくるね」

スネークはテントから駆け出していくユーノを見送り、茶を啜る。
話をしただけなのに、完全に疲れてしまった。
他人の為に行動するなんて、スネークには慣れない事だ。
だが、悪くない気分でもある。
懐からタバコを取り出して、一服。

「――美味い」

スネークはそう呟いて、深く、深く息を吐いた。



ユーノはリニックの噴水公園から少し離れた場所にいた。
時間にはまだ余裕がある。
しかしなのはの性格を考えれば、彼女は既に待っているだろう、と容易に想像できる。
それでも今更になってユーノは緊張してきてしまい、出て行けないでいた。

「……情けないな、僕は」

手足が緊張して震える。
心のどこかで未だ、もうやめよう、逃げよう、と騒ぎ立てる弱さが残っていた。
その逃避は許されない。
もう逃げない、とスネークに言ったばかりなのにこんな有様では、やはり自己嫌悪もぶり返してくるものだ。
スネークがいつか話していた、張り詰めた気を和らげる時の秘訣を思い出して、ユーノは試みる。
目を閉じて何度か深呼吸を繰り返す。
人間は皮肉な事にどんな辛い事があっても、それだけでいくらかは平常心を取り戻す事が出来るのだ。
自分は何から何までスネーク頼りだな、と苦笑する。
思い返せば、今までスネークのような頼れる年上という立場で、ユーノに助言を与えてきた人間は少なかった。
むしろ、ユーノが周りを支えるために助言をし、励ます立場だったのだ。
本当にスネークと出会えて良かった、とユーノは心から思った。
スネークの励ましを無駄にしない為にも頑張らなければならない。
ユーノは意を決して、公園へと歩み出した。
もう、後悔はしたくない。

暗闇を照らす街灯の明かりは公園中央の噴水へと続いていて、どこか幻想的だった。
しかしユーノにはそんな風景を楽しむ余裕は無かった。
想いをよせる女性と久しぶりに会うのだ、歩いているだけで再び心臓が活発に活動しだす。
踏み出す一歩に掛ける体力と精神力は尋常ではない。
それでもユーノは、決して立ち止まらない。
一歩一歩確実に噴水へと進んでいくと、そこに彼女はいた。
――高町なのは。
管理局の制服ではなく、白を基調としたロングスカートに長袖の上着で、それは彼女のバリアジャケットを彷彿とさせる。
見慣れた筈のサイドポニーテールが懐かしい。
ユーノの接近を察知したのか振り返ったなのはは、穏やかな笑みを浮かべていた。
歩を進めて、互いの顔が良く見える位置まで近付く。
泣いてしまった事が気付かれないか、ユーノは少し不安を感じた。

「……なのは」
「……久しぶりだね、ユーノ君」
「うん。久しぶり」

それだけ言ってお互いに沈黙する。
噴水の音が辺り一帯に響いている。
その音がとても心地よくて、ユーノは何を言おうとしていたのか考えていたのに、その思考が奪われてしまう。
何を、考えていたんだっけ。
何を、悩んでいたんだっけ。
意識がふわふわとして定まらない。
そんな中、先に口を開いたのは、なのはの方だった。

「あはは、おかしいな。……話したい事たくさんあったのに、ユーノ君といざ会ったら全部吹っ飛んじゃった」

俯きながら語るなのはに、ユーノは何も言えなかった。

「寂し、かったよ」

ぽつり、と呟くなのはの声は震えていた。
ユーノは、なのはの様子に胸が締め付けられる思いをしながらそれを聞き続ける。
いや、聞き続けなければならない。
もう、彼女から目を背けてはいけないのだ。

「……なのは」
「ユーノ君が、黙っていなくなっちゃって。嫌われ、ちゃったの、かな、って……」

その声には次第に嗚咽も混じってくる。

「探しても、探しても見つから、なくてっ……もう会えないかと思って……そう考えたら、怖くて、怖く、てっ……!」
「なのは!」

ユーノはなのはを思い切り抱き寄せる。
なのはも嗚咽を漏らしながらも、ギュッと抱き返してきた。
こんなに小さい体を、なのはを泣かせてしまった自分を殴り飛ばしたい。

「なのは、ごめん。ごめんっ……」
「私は、貴方が、ユーノ君がいないと、ダメなんだよ」
「……僕は……僕には自信がなかった。君達の側にいる事が怖かったんだ」

ユーノの科白になのはは笑って、ユーノの頭をコツンと小突く。

「もぅ、バカ。……ユーノ君がいたから、私は安心して、空にいれたんだよ?」

勝手に思い込んで、勝手に逃げ出して。
本当に愚かだとユーノは自分でもそう思った。

「ああ、僕が馬鹿だったよ。……なのは」

抱きついていたなのはを一旦剥がし、彼女の肩に手を置く。
ユーノは目を閉じて、深呼吸した。
目を開き、しっかりとなのはを見据える。

「なのは……好きだ。誰よりも、君を愛している」

――言えた。
抱えていた想いをついに言えた。
勿論、なのはから目を逸らさない。
恐らく今の自分を鏡で見たら、ケチャップだって逃げ出す位真っ赤だろう。
だが、拍手喝采を送ってやりたい。
よく言えたぞ、と。
後は、答えを聞くだけだ。
ユーノはなのはの口が開くのをひたすら待つが、なのはは口を動かす前に、再びユーノに抱きついた。

「私も、貴方の事を誰よりも愛しています。……だから。だから、もういなくならないで。一人にしないで……!」
「わかった。……もう、離れないよ。僕が君を護り続けてみせる」

精一杯の告白に、なのはは優しく微笑んだ。
綺麗だ、と無意識に呟く。

「私は、お互いに護り合って、支え合うのが良いと思うよ?」
「……そう、だね。その通りだ」

確かにユーノが彼女の横で戦うには荷が重いかもしれない。
それでも彼女を支え続ける。彼女の笑顔は護ってみせる。
そう胸に固く決意する。
なのはが顔を上げ、ユーノと視線を合わせた。
上気した顔が愛しく思える。
なのははゆっくりと目を閉じていく。
――これは即ち、そういう事なのだろう。
いけ、もう一踏張り頑張るんだ、と自分自信を奮い立たせる。
そして、ユーノの顔はゆっくりとなのはの顔に近づいていき――

――新しい、ユーノ・スクライアの人生が始まった。



おまけ

リニックの噴水公園は中々の広さを持つ。
例えば、恋人の逢引きをこっそり隠れて伺う位には。
そう、ユーノとなのはが口付け合ったちょうどその時、その場にいたのは彼等二人だけではなかったのだ。
茂みからこっそりと様子を伺っていた野次馬達。
それが、ライトニングの隊長陣と部隊長、そしてシャマルとリインフォースだ。
彼等は皆ユーノと数年来の付き合いという事もあって、忙しさの中なんとか時間を作り、ここにいるという訳なのだが。

「……今回何の役にも立てんかったなぁ」

なのはとユーノのやり取りを見終えて、部隊長であるはやてが嘆息。

「なのはちゃんの精神的なフォローも皆に頼りっきりやったし、申し訳ないわぁ」

いつもの様な元気を失っていたはやてを、フェイトが慌ててフォローする。

「そんな事無いよ、はやてだって忙しいのに色々動き回ってくれたでしょ?」
「その通りですよ。あまり気を落とさないで下さい、主」

シグナムもはやてを小声で励ましたが、それは列記とした事実である。
皆、本当になのはやユーノを心配していたのだ。
それに、フェイトも夕方に慌てて飛び出していったなのはを追い掛けたものの、追い付いた時には情けない事に話は終わっていた。
自分も叱責してやりたい気分だ。

――そういえば、スネークと呼ばれたあの男はどこにいるのだろうか?
フェイトがそんな疑問を解決しようとする間も無く、はやてが声を上げた。

「まぁ、そういって貰えるとありがたいんやけどね。……にしても」
「にしても?」
「なのはちゃんに先、越されてもうたなぁ」
「……それ、結構前から予測出来てたでしょ?」

大げさな溜め息を吐くはやてに、フェイトは苦笑する。
なのはとユーノが互いに、友情を越えた感情を持っていたのは学生時代から自明だった。
「相手のいない私達は寂しい独り身」と冗談を言い合っていた学生時代が懐かしい。

「それでもっ! これでウチ等は行き遅れ確定や!」
「ちょ、はやて声大きいよ、なのは達に気付かれちゃうよ!」
「大丈夫や。なのはちゃんもユーノ君も二人だけの世界作っとるし、噴水もあるから気付かれん!」

うむむ、とフェイトが唸りながらも二人の様子を伺えば噴水のベンチで仲睦まじく話している。
はやての元気が戻ったのは良いことだが、同時に、また何か企んでいるのではないかと戦々恐々する。

「そう、今の私らが出来ること。それは妬む事しかないんや!」
「ね、妬むって……」

随分と縁の無い言葉が飛び出してきた。
拳をぐぐぐ、と握り締めるはやてを見て、フェイトは呆れてしまう。
嫉妬は見苦しいものだ。
冗談半分なのだろうが、これ以上余計な事に巻き込まれるのはフェイトとしても勘弁して頂きたい。
はやては意地の悪そうな笑みを浮かべて、フェイトの目の前にデジタルカメラをちらつかせた。

「カメラ? なんで……ってまさか」
「ふっふっふっ……」

わざとらしい笑い方をするはやてはカメラを操作すると、画面をフェイトに突き出す。
そこに移っていたのは、フェイトの想像通りのものだった。
なのはとユーノが抱きついている物、二人が見つめ合ってる物とそして、キスをしているシーン。
改めて目にすると、やはり見ているこちらが少し恥ずかしくなってしまう。

「いつの間にこんな物……」
「そう、これであの二人をからかうんや。それが寂しい私らに与えられた唯一の特権!」

はやては自信満々にそういうと、楽しそうに二人のやりとりを見ていたシャマルに声を掛けた。

「ここには私達以外おらんやろ? つまりあれを見たのは私らだけ。からかいがいもあるってもんや」
「ええっと、この周囲の反応は……はい。なのはちゃんとユーノ君を除いて、きっかり六つです。……あれ、六つ?」

シャマルが訝しむ。
ここには、はやてやフェイト、そしてヴィータとザフィーラを除いたヴォルケンリッター達の合わせて五人しかいないのだから明らかに一人多い。
勿論、リインフォースも頭数に含める。
シャマルの情報だから信用できるが、フェイトが見渡した限り人影は無い。

「あはは、まさかオバケとか言うんか?」
「は、はやてちゃん! 変な事言わな……きゃああああぁ!!」

突如叫ぶリインフォースに、一同皆振り返った。
しかし、怪しい人影は無い。
少なくともフェイトには、どこにも異常は感じられなかった。
リインは怯えた表情を露にして、はやての胸元に飛び込む。

「リイン、どうしたんや?」
「はやてちゃんっ、は、箱が、箱が喋ったです!!」

はこ。
……箱?
リインの言葉にはやてもフェイトも首を傾げた。
喋る箱など存在するのだろうか、と。

「リイン、箱が喋るなんてありえへ……ひゃあああ! は、箱が歩いとる!?」

はやての視線の先を追っていくと、確かに箱が歩いて、というよりは走っている。
フェイトは確信した。
あれは喋る箱のオバケ等ではない。
間違いなく――

「――唯の変質者だよっ! 捕まえて!」
「任せろ、テスタロッサ!」
「いや。その必要は無いよ、シグナムさん」
「……何?」

フェイトの後ろから声が掛かる。
振り向いてみれば、にこやかな表情を無理矢理貼りつけたような顔の、なのはとユーノ。

「ゆ、ユーノ。久しぶり」
「スクライアか、久しいな」
「うん、フェイトもシグナムさんも久しぶり。……それで、スネーク。君は、何をしているのかな?」

怖い表情で微笑んでいるユーノの言葉に、箱からもぞもぞと男が出てくる。
それはやはり、タルタスでフェイトが出会った男だった。
その男、スネークはばつの悪そうな表情を浮かべていた。

「……偵察任務中だ」
「そうかい、だけど残念ながら任務は失敗だよ。さぁ、趣味の悪い覗きをしていた捕虜を尋問しなきゃね」
「……拒否権は?」
「無いよ」

スネークと呼ばれた男が肩をすくめる。
ユーノがスネークが逃げないように拘束する。
それと同時に、顔を青くしたはやてがフェイトの脇腹をつつく。
フェイトがハッとすれば、ユーノと同様に、いやもっと恐ろしい笑顔のなのは。

「フェイトちゃんも、はやてちゃんも、皆揃って何をしていたのかな? まさか、あのスネークさんみたいに覗いてたりしてたのかな?」
「なのはちゃん、ちゃうねん! 私らなのはちゃんとユーノ君が心配で心配で! だから、あんな段ボール被った変質者と一緒にせんで――」
「段ボールを馬鹿にするとは、良い度胸をしてるじゃないか」

まさかのタイミングでまさかの突っ込みを入れるスネークを、はやてがギロリと睨み付けた。

「……いくらユーノ君の友達ゆうても、変質者には変わりないと思いますけど?」
「ほほぅ、君には段ボールの魅力が分からないようだな、度し難い」
「スネークさんは黙ってて下さい。……それで、はやてちゃんは、私達が心配で、こんなものを、撮ってたの?」

はやてがにこやかに微笑むなのはの手に収まったカメラを見て、しまった、と呟いたが既に遅し。
みしみし、と音を立てているのは気のせいなのだろう、きっと。
フェイトは言い訳する気も失せていた。
ヴォルケンリッター達やスネークも降参しているようで、諦めの表情を浮かべている。

「皆ちょっと、反省しないとね?」

カメラのデータを全て消すなのは。
これから一時間に渡って説教という名の拘束を受けるフェイト達だった。



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